Coolier - 新生・東方創想話

幽香とちいさな向日葵

2008/01/19 07:07:42
最終更新
サイズ
9.37KB
ページ数
1
閲覧数
2886
評価数
44/182
POINT
10480
Rate
11.48

分類タグ


退屈だ。

退屈は人を殺す、とはよく言ったものである。

幻想郷でもっとも強力な力を持つであろう、この私を殺すものが居るとしたら、

ひょっとしたらこの退屈なんじゃないだろうか。

私はそんなことを考えながらふわふわと宙を漂う。

なにか見つけられなかったら、本当に死んでしまいそう。

祈るように、地上を見下ろす。

もうここらの妖怪や妖精たちには顔を覚えられてしまい、

私の周辺に寄ってくることはない。

少し調子に乗っていじめすぎただろうか。

趣味なんだから仕方がない。

仕方がないとはいえ、そのお陰で死にそうなのはどうにも・・・。

・・・・・・おやっ。

私は森の中を進むちいさな影を見つけた。

今の私は、きっと底抜けに意地の悪い笑みを浮かべているに違いない。

ターゲットを見つけた私は、嬉々としてその影に近づいていった。



その影は少女だった。

人間の、年端もいかない女の子。

森の中に開けたちいさな道を、そのちいさな体で進んでいく。

なんだ、人間か。

私は少々がっかりした。

人間は弱い。

人間の誰しもが、博麗 霊夢や霧雨 魔理沙のように戦う術を持ち合わせているわけではない。

そういった人間はごく少数だ。

だから、人間相手に妖怪たちと同じように遊んでやることはできないのだ。

まあ、遊ぶといっても一方的な弾幕戦だけど・・・。

そういうわけで、私はこの少女に早くも興味を失いつつあった。

暇潰しに使えないのなら、人間の少女などに用はない。

そう思って私が去りかけたとき、

―どてっ

少女が転んだ。

それはもう、100点をあげたくなるような綺麗な転び方。

わざとでは絶対に出来ないような顔面着地である。

あの角度だと、鼻血が出たかもしれない。

私が驚いて目を丸くしていると、少女はよろよろと立ち上がった。

ぱんぱんっ、と軽く着物をはたき、

そして再び歩き出す。

どうやら鼻血は出ていないようだったが、

物凄く痛そうに顔を押さえながら歩いている。

よくもまあ、こんななにもない道で、

―どてっ

そう何度も転べるものだ。

私は呆れるを通り越して感心した。

しかも、猛烈に痛そうな転び方をする。

私だってあんな転び方をしたらきっと半泣きだ。

・・・そもそも私は転ぶような無様な真似はしないけど。

またその、地面に倒れこんだまましばらく動かない姿が哀愁を誘う。

しかし、その少女はまた立ち上がった。

再び服をぱんぱんっ、とはたいて歩き出す。

うぅ、と呻いているところから、きっと半泣きなのだろう。

だが自業自得だ。

こんななにもない道で、何を見て歩けばそんなに転べるのか。

私は少女に悟られないように前に回りこんだ。

そして木の後ろから観察する。

そこで理解した。

なるほど。何も見ていなかったのか。

少女は目を閉じたまま、顔を押さえて歩き続けている。

この少女は盲目なのだ。

目が見えないから、こんな何もない道で何度も転ぶ。

少女が盲目だと気付いて私の中であるものが、くくっと鎌首をもたげた。

同情心? 冗談だろう。

イタズラ心に決まっている。

少女が目が見えないのなら、

私は気が向いたときに好きなだけ、少女に足をかけて転ばせることができるのだ。

さらに、転んだところに毒草でも生やしてやれば・・・。

もう考えただけで笑いが止まらない。

私は高笑いしたくなる気持ちを必死に抑えながら、

少女の隣を並んで歩き出した。



はてさて、この少女は何処にいくつもりなのだろう。

まあこのまま隣を歩き続ければ、いずれはわかることだろうけど。

―どてっ

もう何回目だろうか。

いや、何十回目?

少女は足をかけるまでもなく転ぶ。

ひたすら転ぶ。

最初の内は笑いをこらえるので精一杯だったが、

流石にこれだけ無様な姿を見せられると興ざめだ。

いい加減、この少女の這いつくばる姿を見るのも飽きてくる。

それくらい少女は転び続ける。

それでも少女は立ち上がり、そして再び歩き出す。

この姿を見て、人は偉いとでも思うのだろうか。

私はこう思う。

無様。

私だったらこんな無様な姿を曝し続けるのなんか耐えられない。

さっさと歩くのをやめてしまえばいいのに。



もう少女の転ぶ姿も見飽きたので、

今度はこの少女の向かう先を想像してみる。

こんなにまでして、この少女が向かう先。

それほどの価値がある場所。

なんだろう。

この少女の転んだ回数から計算するに、

そろそろ極楽浄土にでも着かなければ釣り合わないのでは?

もちろん、この道の先にあるのはそんな大層なものではなく。

この先にあるのは、そうだ。花畑だ。

確かに、花畑はある。

ほかには・・・、なにもない。

じゃあ、まさか・・・。

まさか、ただの花畑に向かうためだけにこの少女は歩いているのか?

目だって見えないのに?

冗談だろう?

ここから人里までどれくらいの距離があると思っている。

信じられない。

あるのはただの花畑だ。

そこにしか咲かない花があるとか、

年に一度しか開かない花があるとか、

そんな珍しいことなど一切ない。

ただの一面の花畑だ。

こんなに苦労して、その向かう先が、

ただの花畑・・・?

とたんに全てが馬鹿らしくなるのを感じた。

私はこんなくだらないことのために期待を寄せていたのか。

本当、馬鹿らしい。

私がその気になれば、砂しかない荒野すら花畑に変えられるというのに。

ほら、こんな風に。

私が片手をかざして能力を使うと、

辺りが一瞬で花であふれかえった。

どうだ。

これがご希望の花畑だろう。

私にとってはこの程度のこと、造作もないこと。

少女はぴたりと歩みを止めると、

きょろきょろと辺りを見回した。

・・・いや、見回しているわけではないだろう。

多分、周囲の香りを感じ取っているのだ。

なるほど。

視覚が効かない代わりに、嗅覚は人より敏感になっているわけだ。

そうやって視覚が欠けているのを補おうとしているのか。

・・・まあ、実際補えているとは到底思えないけど。

少女は適当な、ごくありふれた花を2本見繕うと、

満足したのか立ち上がった。

くるりときびすを返して、花畑を後にする。

そんな少しでいいのか。

ここまでこれだけ苦労してやってきたのだ。

両手一杯抱えたって誰も文句は言わないだろうに。

まったく、理解できない。



この少女の隣を歩き続けて、私のイライラは募るばかりだ。

―どてっ

懲りろ。

学習しろ。

そう怒鳴りつけたくなる衝動を辛うじて押さえ込む。

こいつ、ホントは目が見えるんじゃないのか。

そう疑いたくなるほどに、この少女は地面のでっぱりを100発100中で踏みつけるのである。

しかも、たちが悪いのがその後だ。

手に持っていた2本の花を道にぶちまけてしまうのである。

地面に倒れ伏してしばらく硬直した後、

顔を押さえながら立ち上がって、

ベソをかきながら手探りで落ちた花を探すのだ。

ひどい。

ひどすぎる。

この少女は地面に抱きついて頬ずりしたくなるほどこの世界を愛してるのか。

そう疑いたくなるほどのひどさ。

もう最悪だ。

いちいち転ぶたびに、タイムロスが半端ではない。

こんな調子じゃきっと人里に着くのは明後日くらいだ。

本当に、どうやってここまで来たのだろうか。

・・・ああ、まだ探してる。

なんて無様。

ああ、もう! イライラする!!

私は持っていた日傘の先端で、地面に落ちた花を弾いた。

都合よく少女の前に飛ばされた花は、ようやく少女の手の中に戻る。

少女はほっと一息ついて、再び歩き出―――

だから転ぶっつーの!!

慌てて、少女の足元にのたくる蔦を引き剥がした。



いかにして少女を転ばせずに長距離を歩かせるか。

私は新たな遊びの発見に熱中していた。

これがなかなか難易度が高い。

私が見逃していた地面のでっぱりを、少女はよくわからないセンサーでサーチして踏むのだ。

もうそうとしか思えない。

発見率120%。

あるはずのないでっぱりまで生成してるんじゃなかろうか。

最長距離は20メートルくらい。

もうギネスブックに申請してもいいんじゃないか。

それくらい自信を持って宣言できる記録だ。

おっ、もう少しで最高記録か?

私がより一層集中しようとしたとき、

妙なノイズが私の脳裏に走った。

妖気だ。

ひどく脆弱な妖気。

だがこれは、きっとあの闇を操る人食いの妖怪の妖気だ。

この少女を狙っているのか?

私が一瞬気をそらした隙に、少女がコケやがった。

私の不機嫌が一気に膨れ上がる。

あのチビガキ、私の楽しみを邪魔しやがって。

私が軽く本気を出して妖気を放散すると、

あの宵闇の妖怪の気配が一瞬にして消え去った。

驚いて慌てて退散したか、

もしくはその場で失神しただろう。

いい気味だ。

今度あったらみっちりいじめてやる。



さて、そろそろ人間の集落に着く頃だろう。

私の努力の甲斐あって、

日暮れまでには到着することができた。

まったく、冗談じゃない。

この少女はホントに片道にこんなに時間をかけて―――

あわわわわっ、藪に突っ込もうとしてる!!

能力を使って藪を避けさせる。

あんなところで転んだら、それはもう大変なことに。

要領の悪い少女のことだ。

きっと一生かかっても藪の中に転がり込んだ花を見つけ出すことはできまい。

少女が藪を抜けると、そこはもう人間の集落だった。

やれやれ、ようやくゴールにたどり着いたか。

私の胸は妙な達成感で一杯になった。

それと同時に、妙な疲労感。

ほんと、妙な一日・・・。

少女もひどく疲れたように、ほっと一息ついた。

そりゃそうだ。

あれだけ体力を無駄に浪費していれば誰だって疲れる。

ほら、ここがあんたの集落なんでしょう。

さっさと行きなさいよ。

ところが、少女は集落のほうへは向わず、

逆にくるりとこちらを振り返った。

私は一瞬どきりとしたが、

別に私のほうを振り返ったわけではあるまい。

ただ、後ろを振り返っただけだ。

そう、別に私のことを見ているわけでは・・・。

しかし、そう考える私を裏切って、少女は私の元へ歩み寄ってくる。

いや、そんな・・・。

見えてるはずはないのに・・・。

少女は手に持ったちいさな花の2本のうちの1本を私に差し出して、

「ありがとう、おねえちゃん。おにいちゃんかもしれないけど。」

そういって、まるで日に向かう向日葵のように微笑むのだった。

ま、まさか最初から見えて・・・!?

いや、違う。

目が見えない分、ほかの感覚が鋭敏になっている少女。

そりゃあ、隣を歩いていれば足音で気付くはずだ。

つまり、私が少女の足元のでっぱりを取り払ってやったり、

あるいは、少女がぶちまけた花を見つけやすいところに放ったり、

もしかしたら、少女のために花畑を生み出したところも。

全部、少女に筒抜けだったかもしれないのだ。

私は少女の手からその花をふんだくると、一目散に上空へ逃げ出した。

きっとそのときの私の顔は、鳳仙花のように真っ赤だったに違いない。



そう、あらゆる花を操る最も強い妖怪であるはずのこの私は、

この日、こんなちいさな向日葵に敗北を喫したのである。






文「こいつぁ特ダネだァ!!(光速でシャッター連写」

投稿14発目。
すっきりさっぱり。
あとがきもすっきりさっぱり。
いつも特盛りで濃ゆい味付けばかりなので、たまにはこんなお茶漬けみたいなのも。
ささーっといただいちゃってください。
暇人KZ
http://www.geocities.jp/kz_yamakazu/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.6380簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
こいつは永谷園だァ!!(力士に負けない食べっぷり

とても微笑ましいお話でした。読後感が最高です。
単なる暇つぶしが思わぬ出来事に、ゆうかりんもさぞかし驚いたことでしょうね。
もしこのことが新聞に載ったら、ゆうかりんのイメージはがらりと一変、怖い妖怪から優しいお姉さんになっちゃいますねwいいなあ。
2.100司馬貴海削除
幽香は厳密には「自称」最強なんだが……まあ幽香視点での脳内思考だから大丈夫か。
もうこれは「幽香」ではなく「ゆうかりん」の話である。サイコー!!

あとがきはファンタCMネタですかwww
3.100名前が無い程度の能力削除
ああ、もう最高だ。
あやちゃんにげてええええええええええええ
4.100名前が無い程度の能力削除
微笑ましすぎる!
6.80名前が無い程度の能力削除
後書きで台無しwwwww
10.80名前が無い程度の能力削除
うん、良い作品だ
・・・とか思ったら後書きwwwwww
12.80名前が無い程度の能力削除
あやちゃん自重してあやちゃんwww
18.90名前が無い程度の能力削除
後書きwwwwww
19.100名前が無い程度の能力削除
その後、射命丸文の姿を見たものは誰も居なかった……
22.100削除
何たる微笑ましさ。完璧です。そして文、君は立派に報道に殉じた……。
23.100名前が無い程度の能力削除
メイドさんを右へ というゲームを思い出した。
24.100名前が無い程度の能力削除
終始ニヤニヤさせてもらいましたw
26.80名前が無い程度の能力削除
よく行きが無事(?)だったもんだ
帰りは、幽香がいなかったら時間や怪我どころか喰われてたしね
27.90名前が削除
なんというニヤニヤ。そして後書きが・・・。
28.80削除
結局誰だったのか…目的はなんだったのかが知りたかったですが…
文はいじめられるだけで済んだだろうか…
33.90名前が無い程度の能力削除
射命丸さん空気を読んで下さいww
35.無評価ノットマン削除
ええわぁw
KYブン屋は、ゆうかりんの照れ隠しの攻撃を喰らう事必死やなw
36.100ノットマン削除
ニヤけすぎててうっかり点数入れ忘れ…orz
37.100名前が無い程度の能力削除
なんとゆうニヤニヤ物語…
39.70名前が無い程度の能力削除
いいですねえ、微笑ましいお話でした
42.90名前が無い程度の能力削除
いい話だったのにあとがきで吹いたww
44.80脳汁削除
垂れた
48.無評価暇人KZ削除
3000オーヴァー!?Σ゚(゚Д )
こんなに高評価をいただけるとは思いだにしませんでした。
そしてぶんぶんの人気ぶりに嫉妬ww

少女が気になる人がいるらしいので後付け設定。
この後、少女は無事慧音先生にお花を届けることができたのですが、
慧音先生に花を妖気を勘づかれてしまい、
結局、KYを介さずとも噂になってしまいましたとさ。
なお、あやややはこの後ゆうかりんが美味しくいただきました。
50.100三文字削除
ゆうかりんは実は優しいんです!実はツンデレなんです!
なんて馬鹿なことを考える今日このごろ。
それはそうと、良い幽香でした。
そしてあやや哀れ
56.100SAM削除
直接手を貸すことができない幽香もう微笑ましくてたまりません
58.90名前が無い程度の能力削除
おねえちゃん…^^
65.100名前が無い程度の能力削除
小さな向日葵の笑顔に100点満点を。
66.100名前が無い程度の能力削除
知られてないと思ってたのは本人だけww
どう考えても羞恥プレイです、本当にありが(略)

ぶんぶん自重ww
68.100J削除
読ませてもらいました。
すっきりしていて読みやすく、よかったです。
ちいさな向日葵の笑顔に100点。
73.100名前が無い程度の能力削除
最後の幽香にニヤニヤしてたまらないw
74.100名前が無い程度の能力削除
これはとてもいいゆうかりんでした
惚れるぜ
76.70名前が無い程度の能力削除
良い落ちでした。
更に、あとがきの落ちに吹きました。
80.80名前が無い程度の能力削除
かわいいよ ゆうかりん かわいいよ
87.100コイクチ削除
ゆうかろ サイコー!
100.90名前が無い程度の能力削除
幽香には向日葵が似合いますな~(2828)
103.80名前が無い程度の能力削除
こいつぁ特ダネだぜぇ!
108.100名前が無い程度の能力削除
文々。新聞に掲載されて羞恥心に悶えた後
怒りに任せて文を追いかけるも
全く追いつけずに悔しさのあまり地団太を踏む幽香
まで妄想した。
誰か続き頼む
120.100名前が無い程度の能力削除
ゆうかりんに惚れた。

ゆうかりんには羞恥プレイが有効そうだな。勝手に自爆しそうだ。
121.100名前が無い程度の能力削除
後書き含め読了感が半端じゃないっす!最高!
124.100名前が無い程度の能力削除
ゆうかりんは本当に優しいお方…!
129.100名前が無い程度の能力削除
後書きがwwww
130.100名前が無い程度の能力削除
あやwww
145.100名前が無い程度の能力削除
こいつぁ特ダネだァ!!www
149.90名前が無い程度の能力削除
この文は命がいくつあっても足りなさそうだ
156.100なーなな削除
この優しい幽香は花映塚のzun絵とイメージが一致する。
しかしなんというかいい話だな。かるく涙腺が緩むんだが。
160.100名前が無い程度の能力削除
2回読み返しました。
これは読む暖房ですねw
184.無評価名前が無い程度の能力削除
全く無意識に親切にしてあげてるゆうかりんはカワイイ!、それでお礼言われて赤面して全力疾走するゆうかりんカワイイ!!