「ふぅ……思ったよりてこずるなぁ」
妖怪の山某所に存在する河童の集落、その一角の小屋の中。
ドライバーやペンチ、はたまた外の世界の物と思われるラジオやらテレビが無造作に散乱した室内で、
超妖怪弾頭こと河城にとりが両手を上げて背伸びをする。
目の前には机に置かれたバラバラに分解された人工物らしき物が散乱してた。
「形は写真機に似てるから別に問題無いと思ってたのに、中身は私が知ってるのとは全然違うじゃん」
分解された物体の一部は掌サイズの物で、黒くてムカデみたいに沢山の脚が付いた四角形の板、
見た目では用途不明な物が溶接されている緑色の板等が見て取れる。
つまりにとりが頭を捻っている物体の正体は外の世界のデジタルカメラで、
今朝散歩をしていた時に道端に落ちていたのを偶然発見し持ち帰ったのだ。
にとりは根っからのエンジニア、人工物を見つけたら有無を言わさず解体しては組み直すを繰り返している。
そして解体して構造を把握しては見よう見まねで複製したりして河童の集落の文化に貢献していた。
しかし今回の獲物であるデジタルカメラは今まで見た事の無い構造や部品で形成されていて、流石のにとりも頭を悩ましていた。
デジタルカメラを見つけて回収後、帰ってから早速解体作業に取り掛かりすでに丑の刻を過ぎている。
その間一度も休まずに目の前の解体したカメラと睨み合いをしていたのだ。
だが長い事集中していた為にとりにも大分疲れが溜まって限界が近いらしい。
体に安定感が無く微かに体が上下左右に揺れ、目蓋は半分閉じかけているし先程から大きな欠伸が絶えないでいる。
「あーもう、ここで引き下がったらエンジニアの名が廃るっての、絶対解明してやるんだから」
力を振り絞り投げ出していたドライバーを再び手に持ち、デジタルカメラの構造解明を目指して作業を再開始める。
だが眠い時に一度集中力が切れると再び集中するのは難しく、にとりも例外ではなかった。
片手にカメラの部品を持ってドライバーで弄くろうとするが頭は舟を漕ぎ、
虚ろな目は目標を捉える事が出来ずドライバーは何も無い空を突くだけ。
「駄目、だって……ここで、眠る……わ、け……すぅ……」
やがて頭の揺れは大きさを増し、無理矢理開いていようとしていた目蓋は睡魔に負けて完全に瞳を覆い、
遂に体を支える事も出来ずそのまま机につっぷくするとにとりの意識は本人の意思とは関係無く深い闇の中へと沈んでいった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「んー……あれ」
ふとにとりは意識を取り戻し、まだ重たい目蓋を半分の状態ながら開く。
「私眠っちゃってたんだ……眠ってる場合じゃないんだ、早く続くをしないと……あれ?」
目蓋を擦ろうと腕を動かそうとするがどういう訳か腕が上がらない、それどころかそこから動かす事も出来ない事に気付く。
どうしたのかと思って眠そうな眼で腕を見遣ると、腕には見慣れない物が括り付けられているのが目視することが出来た。
それは黒くて艶が無くひやりとした冷たさを肌で感じる鉄製の様だ。
最初は訳が分からず寝惚けた意識で再び腕を動かそうとするが、
動かそうとした所でその鉄製の何かが金属がぶつかり合う鈍い音を立てて腕の動きを遮った。
「――え? な、何さこれ」
不可解な出来事に寝惚けていたにとりの意識は瞬く間に覚醒して、現状を確認し始める。
腕が動かないのは腕と肘掛が手錠の様な金具で厳重に固定されていて指を動かすの精一杯だった。
更に言うと固定されているのは腕だけではない。
胴体には革製の厚いベルトが回され、それが背もたれの部分に括り付けられていた。
脚も腕と同じ様に金具で椅子の脚に固定されていて、気が付けば全身の自由が効かず、
辛うじて首が動く程度の拘束状態だった。
一旦顔を上げて辺りを見回すが、先程までにとりが居た自室ではない事は一目で理解する。
目の前に机も解体したデジタルカメラも無ければ拾い集めたラジオやテレビも何処にも転がっていない、
辺り一面は狭いのか広いのか室内なのか室外なのかも分からない闇が支配していた。
「これは一体どういう事さ、誰かの悪戯か? おーい誰か応えろー!」
「そんなに慌てないでよ」
「うわっ」
「ごめんね、私はこんなやり方は反対してたんだけどねぇ」
にとりの叫びに応える声と共に正面に一つの光が頭上から照らし出され、
緑の大陸風衣装と龍の文字が刻まれた星型のバッジをあしらった帽子を被った紅い長髪をした一人の少女が姿を現す。
少女はにとりの様子に苦笑いをしながら人差し指で軽く頬を掻きながら謝罪の言葉を述べている。
突然現れた気の抜けた様子の少女ににとりは呆気に取られてぽかんと口を開けてしまう。
「でも目が覚めてから暴れそうになったのは事実、これは正しい判断だったわよ」
緑の少女とはまた別人の声がすると今度はその右側に光が照らされ、もう一人別の少女が姿を現した。
青と白で統一された洋服を纏った金髪のショートヘアーをした少女が緑の少女をジトリと睨みつける。
「話も聞かずに逃げ出されたら元も子もないじゃない」
「まぁそれもそうだけど、いくらなんでもやり方ってものが……」
「二人とも新たな同士の前で見苦しいぞ、本題に移れないではないか」
討論を始めようとする二人を制止声とともに緑の少女から左側に光が降り注ぎ、
やれやれと言った顔で腕を組んでいる独特の衣服と帽子を纏い銀の長髪に青いメッシュが入った少女を映し出す。
「それもそうだった、今はここで言い争ってる場合じゃなかったわ。新メンバーにしっかりと挨拶しないといけないとねぇ」
「新入りにこの状況を冷静に受け止められるならそれでも良いかしらね」
「なにはともあれ待たせてしまったな、同士にとりよ」
「あ、あんた達勝手に話を進めないでよ!
さっきからなんなのよ同士だとか新入りだとか新メンバーだとか話が全然見えないわよ、って言うよりあんた達は何者なのさ!」
一人置いてきぼりにされていたにとりはようやく我に返ると拘束されながらもガタガタと椅子を揺らして必死に抵抗する。
「あぁ、私達の紹介がまだだったわね……それじゃぁ皆、アレやるわよ」
「分かったわ、アレね」
「承知した」
緑の少女の合図で三人の少女が素早く移動してにとりの正面に横一列に整列する。
並びの順はにとりから見て左から、緑・青白・銀髪の順だ。
そして三人が一旦間を空けると、緑の少女が口を使って大きく息を吸う。
「紅魔郷代表! 『華人小娘 紅美鈴』!」
「妖々夢代表! 『七色の人形使い アリス・マーガトロイド』!」
「永夜抄代表! 『歴史喰い 上白沢慧音』!」
「「「我ら、三ボス同盟!」」」
緑の少女美鈴の叫びに続いて、アリス、慧音と高々と名乗りを上げ、
それぞれ思い思いの決めポーズをすると三人の背後に青や赤など色とりどりの爆発が起きる。
それが合図となり、明かりもなく真っ暗だった世界は一瞬にして晴れてその世界の全貌が明らかとなった。
だが全貌と言ってもそこにはなにも無い、真っ白な世界。
実質、真っ暗だった世界とあまり変わらない。
違いを挙げるならば、ポーズを決める三人の背後に「おいでませ河城にとり様」と書かれたドデカい横断幕が立てられている事。
あとは一つの黒板があるぐらいだろう。
「あは、やったね! 久しぶりで心配だったけど上手くできたわ」
「ま、七色の魔法使いたる私の手に掛かればこんなものよ」
「いつも欠かさずに行ってきた個人練習の賜物だな」
三人はそれぞれ成功の喜びを分かち合いワイワイと盛り上がっている。
しかしよそ目から見れば理解不能の言動であり、部外者であるにとりは訳も分からず只あんぐりと口を開く事しかできなかった。
「っと言う訳でこれからよろしくね、にとりちゃん」
「『っと言う訳で』じゃないわ、勝手に話進めるなって! なによその三ボス同盟ってのは!」
「あぁごめん、そっちの説明がまだだったね」
美鈴は申し訳なさげに苦笑いして謝ると、緩んでいた顔を引き締め一つ咳払いをする。
「幻想郷三ボス普及同盟……略して三ボス同盟。
この幻想郷に起きた異変の中で三ボスを任された人達が集い、三ボスを皆に普及させる事が目的の同盟なんだ」
「変な同盟。ってよりも三ボスってなにさ」
「それは私が話そう」
説明されても聞かされた分だけ理解に苦しむにとりに代行して話すと名乗り出たのはメッシュの少女、慧音だった。
慧音は頭の上に乗ったバランス良く乗っているのを不思議に思わせる奇妙な形をした帽子を取ると、それを軽く上下に振る。
すると帽子の中から大量の巻物が飛び出し、慧音の周辺はあっと言う間に巻物で一杯になってしまう。
「ええっと、どこにいったかな……」
「あんた帽子の面積と出てきた巻物の物量とが全然合ってないわよ!」
「その辺りは気にするなここはギャグ世界だ。物質世界の法則が多少狂っても問題無い」
「ギャグ世界ってなにさ! 世界の法則狂ったらやばいでしょ、って聞いちゃいないし!」
にとりの常識的つっこみをスルーして床に広がった巻物を漁る慧音はやがて一つの巻物を掴み上げそれを広げる。
「三ボス……それはあらゆる物事においての中間的存在。
体験版ではラスボスの位置付けで、製品版ラスボスにも引けを取らないカリスマを有する存在。
そして製品版になるとネタの対象として扱われる儚い存在でもある。
三ボス同盟はそんな三ボス達がお互いに助け合い、守り合い、プレイヤーの方々に愛される為の努力に励み続ける同盟なのだ」
「答えてるようでまったく答えになってないじゃない。それどころか疑問が増えた、なんだプレイヤーって」
「現在は私を含めて美鈴殿、アリス殿の三人しか居ない。昔はもっと居たのだが多くは歴史の闇へと姿を眩ました……寂しい事だ」
「だから無視するな!」
「とりあえずここで我々の紹介をしておこうか。まずは紅魔郷代表の美鈴殿からだ」
にとりのつっこみを笑顔でスルーした慧音は一歩下がると、替わって美鈴が赤い長髪を揺らしながらにとりの前に歩み出た。
「私は紅美鈴、紅魔郷の三ボスよ。華やかな弾幕と音楽で魅了して良く面倒見のお姉さんって設定をされるわね。
そしてギャグだと名前で呼ばれないとか、いつも丸コゲにされたり上司から酷い仕打ちを受けたりしてるんだ」
「音楽? 設定?」
「私の紹介はこんな感じかな、次はアリスがお願いね」
聞きなれない単語にますます頭に疑問符を浮かべるにとりを気にする事無く、
自己紹介を終えた美鈴が一歩下がり、呼ばれたアリスが前に出た。
「アリス・マーガトロイド、妖々夢三ボスよ。事実上私がこの同盟の中で一番の古参って事になるのかしら。
今まではツンデレ属性が定着してたけど、最近はデレ属性の設定も増えてきたわ。
ギャグだと人形以外に友達が居ないとか、鬱で引き篭もりだとかってのが多いわね。こんなところね、次は慧音よろしく」
「ああ、分かった」
あっさりとした自己紹介を終えたアリスが一歩下がり、再び慧音がにとりの前に立つ。
「紹介に預かった上白沢慧音だ、永夜抄で三ボスを担っている。
里の守護者にして子供達に学問を学ばせる先生、或いは委員長役を良く任される。
ギャグではもこタンラヴだったりする。
後はハクタク形態できもけーねと呼ばれたりハクタク形態の角で相手の尻をcavedしたりブシャァァァァァァア!!」
「ひぃぃ!?」
「ハァァァフゥゥゥ……まあ……大体こんな感じだ」
自己紹介中に満月の夜でもないのに突然変身ケモけーね。
その頭から突き出したバッ○ァローマン顔負けのロングホーンとギラギラした目線に怯えるにとり。
それこそ口にした通りお尻を狙って突撃しそうだったがギリギリのところで理性で止め、冷静さを取り戻した。
「この紹介で言ってきた通り、我々は二次設定ではシリアスとギャグの二極の面を併せ持つ。
それ故にプレイヤー達から高い人気を得ている。
そして君もそれを持ち合わさねばならない。
製品版風神録が世に出回った今、犬とあややややの天狗、
青巫女、オンバシラ、ケロちゃんにも負けないキャラを作らなければ君は光学迷彩の如く影が薄くなってしまうだろう。
今回は新たな同士にとりの歓迎会、さらにこの二極を形作る討議会でもあるのだ」
「だから私はそんな妖しげな同盟には入らないって言ってるでしょ!」
「では早速始めよう、最初はシリアス面から討議しようか」
「むーしーすーるーなー!」
怒りの感情をむき出し椅子を揺らすも所詮は手足を縛られた河童。
人間程の筋力しかないにとりにはそれ以上の抵抗はできなかった。
そしてそれを知ってか知らずかにとりの叫びを無視して三ボス同盟討議会が決行されるのだった。
○ プログラムその1:にとりのシリアス面を考えよう ○
「さて、稗田家からパク……預かってきたこの幻想郷縁起によるとだ……
河童は我々には無い高度な技術を持っており、人間に出会うと逃げ出すそうだ」
「河童は照れ屋さんが多いんだねぇ」
「その中でにとりは人間が好きだけど凄い人見知りだってテキストに書いてあったわ」
「となるとなると極度の照れ屋という事になるのか」
「照れ屋で人見知り……でもちょっと典型的過ぎるじゃないかなぁ。もうちょっと重い感情を盛り込んで深みを持たせてみようよ」
「美鈴にはなにか良い案でもあるの?」
「一応あるにはあるよ。例えばにとりちゃんは人間が大好きだけど、
一部の心無い人間がにとりちゃん自身、或いは親しい人を傷つけてしまう。
その人間のせいで少なからず恐怖心を植えつけられちゃうの。
それで人間と仲良くしたいけど人間を見るとその恐怖心がぶり返してきてつい逃げてしまう、なんていうのはどうかな?」
「「おおー」」
美鈴の案に二人は感心の声を上げ敬意の拍手を送る。
拍手され、感心されたのが嬉しかった美鈴は少しだけ頬を赤らめて照れ臭そうに笑いながら頬を掻き喜びを表現する。
「人間への想いが好意と嫌悪の間で揺れ動く不安定な心の持ち主か。なるほど、なかなか面白い」
「私も賛成、面白そうだからそれでいっちゃいましょ」
「本当? あまり自信なかったんだけど安心したよぉ」
「よし、これでシリアスの面では全員賛成で決定だな。おめでとうにとり殿、人間好きな君に実に良さそうな設定ができたぞ」
「今日この時間にあんたら人間が嫌いになりそうだよ。それより私に拒否権ってものはないの?」
「私は妖怪。そして拒否権は無いよぉ」
「正確には半妖だ。あと拒否権は無い」
「人間じゃなくて魔法使い。それと拒否権は存在しないわ」
「ああ……もうなんなんだこいつらぁ……」
にとりの問いに三人は「青春まっしぐら」って言葉が似合いそうな爽やかな笑顔で全面拒否。
無視され続けたかと思えば笑顔で拒否される扱いに、にとりは暴れてつっこむだけの力を失い泣き寝入りする他なかった。
「さてシリアス面が決まった事だし、次はギャグ面だねぇ」
「もう勝手にやってくれ、私も聞く耳持たないから……」
○ プログラムその2:にとりのギャグ面を考えよう ○
「それにしても河童となるとシリアスよりどっちかと言うとギャグのネタの方が多そうよね」
「伝承で多く知られている河童は印象的な生態が多いからな」
「たしか片方の腕を縮めてもう片方の腕を伸ばす事ができるとか肛門が三つあってオナラで空を飛ぶとか……色々あるよね」
「それでいて使うスペルも印象的なのばかりだわ。
特に「おばけキューカンバー」と「のびーるアーム」は初めて聞いた時は我が耳を疑ったものよ」
「ではスペルカードのネタを絡めて、「夜のキューカンバーも絶好調!」とか「のびる腕で隅々まで……」とか言わせてみるか?」
「うーん……あまり激しいシモは逆に引かれちゃうから全面に押し出さない方が良いんじゃないかなぁ」
「ぬ、そっ、そうだな。いや別に本気で言った訳ではないのだ、気にしないでくれ」
苦笑いしつつ軽く手を振って冗談だと告げるケモけーね。
その後気付かれない様にこっそり溜息をしてガッカリ顔を見せる満月でも無いのに変身ケモけーね。
口では冗談と言っても結構本気だったらしい。
「幻想郷縁起によると河童の服は水はけが良くて水中でも動きの邪魔にならないらしいわね。
あんな服じゃ水の抵抗がありそうにも見えるんだけど……実はその下に水着でも着てるっていうのはどう?」
「水着となるとやっぱりスク水かな。うちのお嬢様も水着ネタやってるからきっと似合ってるよぉ」
「いえそこは女の子よ、もっとオシャレをしてる雰囲気を持たせる為にAラインの入ったワンピースにすべきだわ」
「……ふ、ふふふふ。スク水? ワンピース? はは、はははははは」
水着討論をしていた二人の話が耳に入った慧音はぴくりと反応し不敵な笑い声を上げ始める。
その不敵さに討議していた二人は会話を止め、不敵に笑い続ける慧音を疑問に思い首をかしげた。
「甘いぞ二人とも、甘い甘い、マックスコーヒー缶より甘い!」
「甘いですって?じゃあなにかしら、慧音には私達より凄い案でもあるって言うの?」
「スク水にワンピース……どちらも少女の魅力を際立たせる素敵な水着、それは認めよう。
だが、それらの案はにとりに胸が無いという前提でしか考えていないのだろうが私は違う!
それらを凌ぐ凄まじい破壊力のものを私は提案しよう」
「それは一体!?」
「実はにとり殿は着痩せする体質で脱ぐと中々に膨よかな胸をしている。そして……
その下にはチューブトップビキニとローレグボトム姿をしているんだよ!」
「「なっ、なんだってー!!」」
慧音の絶叫に二人の背中に稲妻の様な衝撃が駆け抜け絶叫で返す。
それは胸が小さいとしか考えていなかった二人にとっては充分すぎる発言だった。
「そ、そんな……実は着痩せでその奥にはたわわに実った二つの果実が……」
「そしてそこにローレグによる見えそうで見えないギリギリライン!
さらにチューブトップにより強調される鎖骨・うなじ!
極め付けはビキニから見える谷間……ウプっ」
美鈴はにとりの細そうな外見から考えられない膨よかさを想像して顔が赤く染まる。
アリスにいたってはローレグチューブトップの水着姿を想像してしまい手で垂れてきた鼻血を押さえる始末。
慧音の発言によって二人の頭の中には幼い体をしたにとりはすでに存在しない、
誰もが一目見たら「おっぱい!おっぱい!」と腕を振って賛美しそうなナイスボデーなにとりのみ存在していた。
「こ、この私に鼻血を出させるなんてたいした提案だわ」
「おっぱい大きい委員長キャラを二次に持っている慧音だからこそできる発想だわ」
「ふふん、そうだろう」
二人の反応に満足して慧音は鼻高々に笑う。
そしてこの状況は水着に関する討論はこれ以上無用である事を表していた。
美鈴は左右に頭を振って想像をかき消し、アリスは鼻にティッシュを詰めて止血をして慧音を見遣る。
その顔は完膚無きまで圧倒されたというのに目が覚めたように清々しい笑顔に満ちていた。
「凄いよ慧音、これはもう私からは文句の付けようが無いよ」
「同感、これはもう貴方に譲るしかないわね」
「分かった、これで服の下は水着というギャグ設定は完了だな。良かったなにとり殿」
「へいへーい、さよざんすかー」
つっこむのにも疲れ果てたにとりは相変わらず前のめりでかつ視線を横に流して力の無い返事で返す。
にとり本人としてはその姿勢は好き勝手やっている三人に対して無関心だと表現しているつもりだった。
しかしその姿勢によって前に突き出された頭が好き勝手にやる三人にさらなる議題を生み出す結果となってしまう。
「そういえば、河童の頭にはお皿が乗っているって話があったわよね……」
「たしかに、河童のお皿は有名だねぇ。それでにとりちゃんは河童な訳で……」
「だが私達はその帽子に隠された中身の真相を確かめてない訳だ……」
「ひっ!?」
頭を伏せては三人の姿は見えなかったにとりだったが、背中に寒気を感じ慌てて体を起こし前方を確認する。
そして目の前の三人の顔を見て恐怖に飛び出ん程に目を丸くした。
目の前には獲物を狙う猛禽類の如き目をギラギラと輝かせ、
口元は下心が見え隠れする笑みに歪み、
手を艶かしくワキワキさせながら前方に構えている三人の姿がそこにあったのだ。
「ここは同士として知っておかねばなるまいな」
「今後の河童の人形作る時の大事な資料になるし」
「大丈夫だよにとりちゃーん。痛くしないよ、ちょっとだけ帽子を取るだけだからねぇ」
「あ、ぁぁぁあ、あっ」
にとりは恐怖に声も出ず、壊れた玩具の様に振るえて涙が滲み始めた視界で伸びてくる六つの腕を見ている事しかできない。
それはまさに蛇に睨まれた蛙。
相手の怪しい視線に射抜かれたにとりは抗う事も忘れ、六つの腕にそれぞれ頭を、肩を、そして帽子の鍔を掴まれてしまう。
「「「さぁー、ご開帳ー」」」
「っっいぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ようやく実行に移す事ができたのは空気を裂く金きり声が精一杯だった。
ここから音声のみ
「あぁぁぁいやぁぁ! 止めて、その帽子だけは止めてぇぇぇ!」
「もう遅いよぉ、帽子、取っちゃった」
「はっ、あぁぁあぁ……こんな……こんなってぇ……」
「ほほう、帽子の中はこの様に……いやはやこれはまた」
「駄目、駄目駄目駄目ぇ! 見ないで! 帽子の中見ないでぇ!」
「そんな事言ってもとっくにまる見えだもの、今さら見ちゃ駄目だって言われても無理ね」
「う、ううぅぅ、ぐずっ……えっぐ」
「泣く事ないじゃないと思うのになぁ、こんなに可愛いのに。えい、触っちゃえ」
「ひっ!? 触っちゃ駄目! それ触っちゃ駄目ぇぇ!」
「うっわぁ……これ気持ちいー」
「本当か? 私にも触らせてくれ」
「ひぐぅっ!?」
「おお……この気持ち良さ、まさに、んっ、絶品だな」
「ぐぅぅっ!? 駄目ぇ! そんなに激しくしないでぇ!」
「わ、私もやって良いかしら」
「ええ、思う存分やっちゃいなよぉ」
「そ、それじゃぁ」
「らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ここまでが音声のみ
○ プログラムその3:閉会 ○
「いやぁ凄かったねぇ」
「これ程まで気持ち良いものも久しぶりだった」
「まるで絹のような触り心地、たまらなかったわー」
「うぅ、酷い……ずっと隠してたのに……」
満足そうに笑みを浮かべて各自の感想を述べる美鈴、アリス、慧音。
そしてその後ろには再び前かがみで泣きじゃくるにとり。
頭に被さっていた帽子は床へと落ちていて、今まで隠されていた秘境には、
一本のたくましいアホ毛が生えていた。
「にとりちゃんもこんなの気にする事ないのにねぇ。アホ毛も一つのステータスだよ?」
「それでいて美しくもしなやかで滑らかな触り心地も素晴らしい、癖になりそうだ」
「私もつい昔の事を思い出しちゃったわ。ねぇ、もう一回触って良い?」
「そうやって触りたがる奴が出てきて付きまとってくるから隠してたんだぁ! 触るなバカー!」
手を伸ばして要求するアリスに、にとりは勢い良く顔を上げて手で拭う事もできずボロボロ涙を落としながら絶叫して却下。
それを見たアリスは残念そうに手を引き、その代わりににとりの前に苦笑した慧音が歩みだした。
「分かった分かった、そこまで嫌がるとは思わなかった、私達は少し悪ふざけが過ぎてしまったようだ。
すまない、この事はこの場の四人だけの秘密という事にしよう。
私達は同士、だからこの件は水に流してこれからも仲良くしていこうじゃないかにとり殿」
「だからあんた達変態同盟に入る気なんてミジンコの一匹、霞の一粒分だってないんだから! 解けー!」
「ちょっと落ち着いてにとりちゃん」
「うるさーい! 今すぐこの拘束を解かないなら私の最終兵器『キューカン爆弾』であんた達まとめて吹っ飛ばしてやるー!」
今まで様々な出来事で途中から麻痺していた感情が今になって爆発したにとりは顔をくしゃくしゃにしながらも、
椅子をガタガタ揺らして同盟には入らないと言い放ち脅迫してくる。
完全に怒りに飲まれて錯乱したにとりを見た三人はそれぞれガッカリと肩を落とす。
「やっぱり一回だけじゃ同盟に入ってくれないかぁ」
「ま、私達もそうだったしね、そう簡単にいかないわよ」
「では仕方がないな、一旦にとり殿には外に帰ってもらおう。アリス殿、美鈴殿、アレを使うぞ」
慧音が床に転がりっぱなしだった巻物を一つ掴み挙げて宣言するとアリスは頷き、懐から一本の黒光りした金槌を取り出す。
「わら人形釘うちハンマー!」
アリスは恥ずかしげもなく高々と声を上げ、黒光りする金槌を天にかざす。
さらに慧音は持っていた巻物の紐を解きながら金槌に向かって投げると、伸びた巻物が金槌に撒きつき、
掌サイズだった金槌は瞬く間に全長五メートル程の巨大金槌へと変貌した。
「金槌に巨大化する歴史を作った。美鈴殿、にとり殿の気の流れを見てどこを叩けば良いか教えてくれ」
「分かった……見えた! あのたくましいアホ毛の付け根だよ!」
「そこね! 三ボス同盟合体奥義、記憶消去ごっすんハンマー!」
「プモラっ!?」
アリスは美鈴に指定された位置、アホ毛の付け根へと腕を振り下ろされ指定され見事にピンポイントで直撃。
にとりは奇妙な叫び声を上げてしまう。
巨大化した金槌はその重量も相まって猛烈な加速が加わり、にとりの脳天を激しく揺らした。
それによって意識は朦朧となったにとりは頭がフラフラと揺れ始める。
「うっわぁ、これは痛そー」
「三人揃うと流石に凄い威力ねこのハンマー」
「私の時はアリス殿と美鈴殿の二人だけのを食らったのだが、それでも相当の威力だったからな」
「まぁこれで今日ここでの記憶は消えたかな」
「そうでないと次に会った時にイキナリ警戒されでもしたら困るからね」
「ゆっくり説得していこうではないか、時間はある」
「これは盟友の証としてあげる。改めてこれからも宜しくね」
「今は分からない単語ばかりだっただろうけど、今後じっくり教えてあげる」
「ああ、新しい同志が増える……実に楽しみだ」
「「「フフフフフフフフ」」」
朦朧とする意識を保とうとするにとりが捉えたのは、自分の体に何かを取り付ける美鈴の姿と三人の楽しそうに笑い声。
それを最後に限界を向かえ、にとりは保ち続けていた意識を手放した。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「んん……あれ、ここは?」
目を覚ましたにとりはぼやけた意識ながら辺りを見渡す。
ガラクタだらけの小ぢんまりした室内、寄りかかっているのは質素な机。
そして机にはバラバラにされたデジタルカメラ。
そこは毎日の様に篭っている小屋の中だとにとりはぼやけた意識でも分かる事ができた。
「そうか、私眠気に耐え切れず寝ちゃったんだっけ……あいたた、でもなんでこんなに頭が痛いんだろう」
奇妙な頭の痛みに帽子の乗った頭を押さえる。
居眠りしてしまっただけなのになぜっと疑問に思うにとりの頭痛は意識が鮮明になるにつれてしだいに強さを増してくる。
「あううなんなのこれ、まるでトンカチで思いっきり頭叩かれたみたい。
もしかして寝ぼけて頭でもぶつけたかなぁ、コブでもできてないと良いんだけど」
ついに頭痛に耐えかねたにとりはその場から立ち上がり、背後の壁に掛けてあった鏡へと振り向く。
そして被っていた帽子を取り、誰にも見せない帽子の中を露にして頭を摩る。
「うーん、コブにはなってないようだね……ん?」
コブなどの外傷がない事を確認してひとまず安心したにとりだったが、コブとは別にまた別の変化がある事に気付く。
「私ってこんなのしてたっけ?」
不思議そうな顔をするにとりの頭の天辺、ひょっこり生えた一本のアホ毛には緑色のリボンが結われていて、
「三ボス」と書かれた刺繍が施されているのだった。
にとり可愛いよ可愛い。
彼女達が集まる作品をやっと見つけたぞ
……まさか二トリがアホ毛とは…GJ
それにしても、個性派揃いの風神録でにとりが目立つ可能性がががが
これまでの3ボス達と同じく弄られキャラになりそうな悪寒
にとりをネタキャラ化しようとしてるとしか思えないんだが…
>にとり可愛いよ可愛い。
にとり可愛いよ!
>ああ、五面のボス達が友好を深める物はあったけど
>彼女達が集まる作品をやっと見つけたぞ
>……まさか二トリがアホ毛とは…GJ
今回の件で三人はにとりとの親睦を深める事ができたでしょう、一方的に。
アホ毛に関しては天からのたくましい誰からのお告げです。
>アホ毛の河童とは・・・魔界神と属性が被るぞ!
中央のアホ毛、そしてサイドのツインポニー
アホ毛だけでは魔界神と被るだけだが両側にポニーテールを配置することにより、ポニーパワーとアホ毛パワーが共鳴してカリスマを数倍に強化することができる。
つまり、にとりはアホ毛のニュージェネレーションなのだ……っとてゐが言ってた。
>つまり今までの三面ボスが新たな三面ボスをネタキャラに堕とそうという同盟?
三ボスの魅力はギャグとシリアスのギャップにある。
最初は思いっきりボケておいて後になってからシリアスでビシっと決めるとかっこよさが際立ち、それが凄まじい魅力を生む。
ゆえに最初はネタキャラ作りから始めるのだ……ってけーねが言ってた。
にとりん!可愛いよっ!!!にとりぃぃん!!!!!
簡易で点入れてしまったかもなので申し訳ないのですがフリーレス!
気持ち的には百点を乱打したくて堪らない!ああ堪らない!
三ボスって良いよねとか言いながら勇儀姐さんとにとりんにしか投票してなかったよごめんね!