ある日お茶の時間にパチェが言った。
「紅魔館の猫度が足りない」
魔女である彼女は、どうも猫にこだわるのである。
「クッキー美味しい」
「ラングドシャでございます」
「むしゃむしゃ」
そんなことどうでもいい私は、目の前にある咲夜の焼いた美味しいクッキーにこだわるのである。
「足りないのよ。魔女なのに猫が足りないなんて、力が三割引」
「いい言葉ですわ、三割引」
「家計に優しそうで何よりじゃないか。三割引」
「貴族度三割引」
「大体人ならともかく紅魔館の猫度って何よ。測れるの?」
「たった30しかない。96点満点」
「測れるのね」
私はよそを向いて、クッキーを頬張った。
何か厄介ごとの匂いがする。バニラとバターと狐色に焦げたお砂糖の匂いだ。
クッキーの香りか。
「猫度を増やしたい」
「はあ、ならば猫を飼いますか」
「普通の猫は毛が落ちる」
「獣ですから」
「喘息が出る」
「毛の無い猫を探せばよいのですね」
「毛の無い猫のどこが可愛いの」
「それはまあ」
「猫を飼わずに猫度を増やすしかない」
「しかしこの紅魔館全体の猫度といわれますと……」
「とりあえず私以外みんな猫に変化させようかとも、真剣に検討してみたのだけど」
そんなマッドなこと、真剣に検討するなと。
「貴方達を全部猫に変化させたら紅魔館が成り立たなくなることが判明した」
「私は一秒でわかりましたが」
「貴方にとってその言葉がどれほど無意味であるかは一秒で分かったわ」
「それはそれとして。正直既に猫の手も借りたい状況で。そんなことにならないで助かりました」
「それよ、それなのよ咲夜」
「はい?」
「猫とは概念なのよ。そこにあってそこにないもの、それが猫と言う存在」
「哲学的ですわ。そんなに変な存在でしたっけ、猫」
哲学は難しい。それとも難しいから哲学なのか。
そんな一ヶ月に一回来るかわからない私の哲学的思考の機会も次に口に含んだクッキーによってかき消された。
「レミィ」
「もしょもしょ」
「いい加減にクッキーを頬に詰め込むの止めなさい」
「んむんむ」
「実験用の鼠みたいよ」
「んぐう」
数十年来の親友を鼠に例えるか。この魔女。
「貴方は鼠度が高すぎる。咲夜は犬度が高すぎる。両方とも猫度が大きく相殺されている。由々しき事態」
「鼠じゃないわよ。それと咲夜、もっと欲しいわ。土砂降りっぽいのおかわり」
「はいはい、お口の周りが汚れていますよ、お嬢様。それとラングドシャです」
「子供ね」
「ふっ私の五分の一程度しか生きていない奴が何を」
「精神年齢って知ってるかしら?」
「ほう、この誇り高き紅魔卿ことレミリアスカーレットの魂を幼稚と申すか」
顔を少し俯かせ、影を作って不適に笑む。
こうするとちょっと大物っぽくて格好良いかもと最近鏡の前であれこれ試して気がついたのだ。
「あら、上目遣いなんて私に色仕掛けでもする気? それともおねだり?」
「カリスマあふれるポーズよ」
「カリスマ絶賛流失中」
「この威厳が分からないやつは仕方ない。でも私が見た目だけじゃなく心まで幼いと言うのなら、貴方の感性を哀れむしかないわね」
「どうかしら? 貴方の幼さなんて簡単にQEDよ」
「証明できないという証明完了かしら?」
「後四秒でできる」
「三」
「二」
「一」
「零」
パチェが言い終え、私は勝ったと頬の筋肉を持ち上げた。
「お嬢様、おかわりが焼きあがりましたよ」「わーい!」
諸手を上げた瞬間、パチェが蔑むような歪んだ表情をつくった。
「……プッ」
「わ、哂ったわね! あ、クッキーの味が違う」
「ココアを混ぜてみました」
「うーん、美味よ。流石」
「光栄ですわ」
「もぐもぐ」
「あ」
「んぐんぐ……?」
「閃いたわ、レミィ」
「むしゃむしゃ」
「鼠よ」
「ぐふう……! 貴方、また私をあんなドブに住む下等種に例えたわね!」
「貴方も生物的にはあんまり鼠と変わらないでしょうに」
「あーら、パチェにはこの翼が目に入らないのかしら?」
「……翼がどうかしたの?」
ピンと翼を伸ばしパタパタやってみる。
これで分からないなんて存外に鈍い奴ね。
「翼があるなら鳥でしょ? ふふん、あんな地を這い蹲る生物ごときと同じだなんて」
「はいはい、蝙蝠は哺乳類ね」
「え?」
「哺乳類よ」
「な、何を馬鹿なこと……咲夜、鳥よね?」
「哺乳類ですわ」
「そんな……ありえない! これは陰謀だ! 皆で私をいじめようとしてるのね!? 明日から私の席は無いって言うんでしょ!」
「ああ……貴方のこれまでの人生を自伝として書いたら、辞書のように分厚い自由帳ができるのかしらね」
「500年間の空白ですか。名前はかっこいいですね、お嬢様」
「白紙じゃないわよ! いろいろあったから! いろいろ!」
「出版したら、全幻想郷が泣くわ。感動とは程遠い感情で」
「家計簿に是非とも一冊」
「パチェも咲夜もー!!」
パチェは頭を抑えて溜息をついてから、近くにあった動物図鑑らしき本を手に取った。
「蝙蝠とは、脊椎動物亜門哺乳綱コウモリ目に属する動物のこと。別名天鼠、或いは飛鼠」
「てんそとひそ……?」
「天の鼠。飛ぶ鼠と書く」
「な、な、な……なんだってー!?」
「そう、貴方は私の望む猫に相対する鼠だったのよ……レミィ」
「嘘だ嘘だ嘘だッ!!!」
「鼠の名を持つ貴方がこの紅魔館の主であるから、この屋敷は猫度が足りなかった! 間違いないわ!」
「がーん!」
私は絶望しながらクッキーのお代わりを頼んだ。
何か銃乱射っぽい名前のクッキーがまた四個ほど並ぶ。
「ま、正確に言うと鼠には齧歯目というちゃんとした区分があるのだけど」
「あはは、冗談がきついわよパチェ。むぐむぐ」
「でも貴方には猫度を相殺する鼠が宿っているのよ。少なくともあなた自身の存在という要素が」
「……存在って、私を追い出す気かしら? そんでもって紅魔館を紫魔館とでもするつもり?」
「興味ないわ」
「だと思った」
「でも猫度は何とかしたいところ」
「どうする?」
「駆除するしかない」
「猫を?」
「鼠を」
「そりゃそうよね」
「猫に対するものは鼠。これによって紅魔館の猫度は圧迫されている。つまり、鼠度を下げることで今まで相殺されていた猫度を取り戻せる」
「なるほど。頭良いわねパチェ。もしょもしょ」
「鼠を駆除するのは住人の猫度を上げさせるよりよっぽど楽だしね。と言うわけで明日は一斉駆除よ」
「猫いらずかしら?」
「レミィがそれで良いなら」
「何で私に許可を取るのよ……私と貴方の仲でしょ」
「本当に、いいの?」
確かめるようにパチェは短く区切って話した。
鼠は害獣であり、それが減るのは私にとって寧ろ好ましいことだ。そんなに真剣に言う理由が分からない。
「いいってば、それくらい。というか必要必要とか言ってくるわりにあまり使った事ないわね」
「咲夜、明日までに大量の猫いらずを用意して」
「はい」
「むにゅむにゅ」
クッキーに手を伸ばす。
さくっとかじりつくと、舌の上でとろけた。甘美な芳香が立つ。
一時の恍惚である。
「レミィ」
「何よ」
「クッキー食べすぎ。どこぞのモンスターかと」
「天然のモンスターよ」
「貴方には咲夜の心遣いがわかってないのねえ。咲夜がなぜココアを混ぜて作ってきたと思う?」
「ん? 美味しいからでしょ?」
「黒と白のクッキーを作るためよ」
「黒白は鼠?」
「ローカルな話をしない。黒猫と白猫」
「ふーん?」
「このクッキーの名前は?」
「あー何だっけ。乱舞武者みたいな」
「何その一騎当千っぽい名前」
「強いのよ。三国一のつわもの」
「ラングドシャ」
「ラングドシャ……そうそう、それ。今頭の中で西洋甲冑着せといたわ。で、それが何か?」
「仏蘭西語で猫の舌と言う意味なの」
「ほお」
「調理場から古いレシピが出てきまして」
「あ、わかった。もしかしてパチェが急に猫猫言い出したのって、このクッキーが原因?」
「まあ」
咲夜をじろりと睨んだ。明後日の方向を向いていた。
仕方ないから今回の厄介ごとの呼び水となったラングドシャとやらを穴が開きそうなほどにらみつけた。
穴が開かないから口の中に放り込んだ。
「猫の舌と言う知識を元に、感慨にふけりながら食べる。こういった行為が猫度を上げる機会にもなる」
「普通知らないってば、そんな雑学」
「無知は罪なり」
「鞭……まあ、打ちようによっちゃ罪かもね。咲夜は上手でしょ?」
「お嬢様が私をどんな目で見ているかよくわかりました」
「ともかく、そう言ったことを考えず無闇に食べちゃ折角の猫度も上がらない。貴方はバクバクと……本当に鼠みたいね」
「いいじゃん。美味しいんだから」
くっとパチェは珈琲を流し込んだ。
私も紅茶をごくりと飲む。
「……何で猫の舌って言うのでしょう?」
「それはですね、薄く平べったくてざらっとしているところが猫の舌に似ているからなのですよ」
咲夜が答えてパチェは何だか不満そうに唇を尖らせた。私に答えて欲しかったのだろうか、私が分からないとわかってるくせに。
だから咲夜は自分への問いではないと分かっていながら答えたのだ。
彼女はあくまで私の従者だから、そろそろ見かねたのだろう。若干遅すぎる気もするが。
「知ってたわ」
「知ってましたか」
「もぐもぐ」
「レミィ、猫とは概念なのよ」
「さっきもその話を聞いたわ。むにゅむにゅ」
「想像してみなさい」
「さくさく」
パチェの瞳が深淵を覗き込んだかのように闇を帯びた。
何を想像しろと言うのかしら。どうせえげつない事なんだろうなあ。
私は最後のクッキーを齧った。
「貴方の小さなお口が……今、何匹もの猫の舌によって蹂躙されている様を」
「ぶほっ!」
むせた。
「そう、そして貴方は口腔を濃厚に愛撫されるその感覚に抗えず、自ら口を開いて新しい猫の舌を受け入れる……」
「ええい! クッキー食べるだけでどうしてそんな想像しなきゃいけないの! 咲夜、お代わり!」
「もう逃れられない。貴方の体は禁断の快楽を覚えてしまった。まだ足りない、もっと欲しいと、貴方はどこまでも堕ちていく……」
「た、食べる気なくすでしょうが!」
パチェはこちらに向けてきた禍々しい視線を逸らし、優雅な感じで珈琲を飲んだ。
「いいじゃない、もう何皿目と思ってるの。太るわよ? レミィ」
「そこらへんは気合で何とかなるの」
「貴方も珈琲のめば? 巷では食後の珈琲は痩せるとか」
「そんな苦いだけの液体のめないってば」
「やっぱり子供ね」
「むきゅー」
「私の台詞」
「しかしパチュリーさまの言うことも尤もです。とってもお砂糖を使うものですし、お砂糖と同じ量だけバターも使いますから」
「貴方を太らせたくないという友人の配慮よ。こうしてもらえるうちが華ね、華」
「……わかったわよ。あと五枚だけ持ってきなさい、咲夜。それだけで良いわ」
「このラングドシャ、一枚あたり30から40キロカロリーと見た」
「い、一枚で良いわ」
「……二枚舌?」
「どうしろっていうのよ」
結局一枚だけ貰った。
色々言われたせいであんまり美味しくなかった。
「そういえばパチュリー様」
「何?」
「只今倉庫を調べたのですが」
「ふむ」
「生憎紅魔館全体に使えそうなほどの量がありませんでした」
「そう。想像してたけど困ったわ」
「里の道具屋に発注します。恐らく数日かかりますが」
「明日は無理、というわけね。まあ無いのならば仕方の無いことでしょう」
「仕方の無いことね」
クッキーの甘い余韻を惜しみながら私は紅茶を啜った。
ふと腹の中に消えた両手では数え切れないほどのクッキーが怖くなり、パチェの珈琲をもらおうかと思ったがやっぱりやめた。
あれは苦すぎる。以前に酔狂で飲んで泣きそうになったことがあるのだ。
お砂糖たっぷり入れて、ミルクに注げばカフェオレとなる。これは私も好きなのだけど。
「まあ、屋敷の生物としての鼠度の高さは時間の問題と言うことかしら」
「じゃあ解決。おめでとうパチェ」
「いいえ。これははっきり言って小手先。元から減っていた分が戻っただけだからね」
「やっぱり私?」
「紅魔館の主が猫っぽくならないと真の意味で猫度はプラスにならないわ」
「そういうものかしら」
「鼠のレミィに猫度をあげてもらう必要が出てきたわね。紅魔館全体の猫度強化を図るには」
「蝙蝠だって。まあ、親友の貴方のためなら努力してやるわよ」
パチェは気だるげに頬杖をつき、目だけこちらに向けて言った。
「ならば猫修行よ」
「猫修行?」
「頑張って猫度を上げるのよ。ありとあらゆる猫の概念を身につけてね」
「猫の概念ねえ」
「私は何とか黒白の泥棒鼠の侵入を阻む努力をしてみるから」
「面白いかしら、修行なんて」
「面白いんじゃない? 今、幻想郷で修行はブームみたいだし」
「んじゃ、やってみようか?」
「それでこそ私の親友」
机をバンと叩き、椅子を跳ね飛ばすように私は立ち上がった。
暇潰しになりそうだし、パチェの頼みだ。色々と燃えてきた。お腹の中にあるクッキーのカロリーとか。
燃えてしまえ。
「……よし、決めた! 私今から猫修行に行くわ! 猫いらずが届くまでに猫っぽくなってみせる!」
「え、今から?」
「善は急げよ! 行ってくるわ!」
と言うわけで私は勢いに任せて紅魔館を飛び出した。
「わあ、朝焼けがきれ……い……」
「お嬢様! 傘をお忘れです!」
「フッ……最高に灰ってやつだわ…………あぁれぇぇぇぇ……」
「お嬢様ー!」
不覚である。
危うく千の風になって幻想郷を優しく包みそうになってしまった。
朝の香霖堂。なぜか紅い吸血鬼が一人でやって来た。
商品を買いに来たのならば喜んで対応するのだがどうもそういう風では無い。残念である。
話を聞くと此処で猫修行をすることにしたという、実に分かりにくい論理を展開させてきた。
詳しく聞いていくと、どうも館の猫度を上げるには主の猫度を上げる必要が出てきたとか何とか……。
やっぱり意味が分からない。
「自分の家でやったらどうかな、修行は。どう考えてもここでする意味は無い」
「猫修行に行くって言って出てきちゃったら、戻りにくくなったの。悪い?」
なんという我侭。
「居座られると困るのだけど。香霖堂じゃなくても神社とか色々あるだろう?」
「やーよ。この前、夜に蝙蝠単体で行ったら鍋にされたわ。しかも煮汁舐めただけで、不味いって丸ごと捨てられた。トラウマ」
何故夜に蝙蝠単体で行ったかは問うまい。
「霊夢には拾い食いをしないよう言っておく」
「食べ物は大切だとも言ってやって」
「ああ」
「そんな感じで他に行く場所も無かったので此処で猫修行をすることにした」
「だから困るんだって……閉店時間になったら出て行ってくれよ」
「ふん、わかったわよ。時間がきたら別のあてを探すわ、そんなの言われてると私も気分が悪いし。不親切な奴ねえ」
いきなりやってきて居座って修行させろとか言う奴に不親切も何もあるか。
まあ営業時間中だけなら今日だけマスコットが居るとでも思えば良い。
僕は本に目を落とした。
「しかし猫の概念を身に着けるとは……」
猫は太古から人と交わってきた動物である。
愛玩動物として多く飼われ、それだけに猫を用いられた諺や慣用句も多い。
こういった言の葉における猫の概念、それを身に着けることが猫度とかいうものの上昇に繋がるらしい。
しばらく本を読んでから吸血鬼のほうを見るとこっくりこっくりと舟をこぎ始めていた。
「眠いのかい?」
「ふわ……だって、本当なら吸血鬼はもう寝る時間なのよ……」
「棺桶は無いけど」
「前言ったじゃない。吸血鬼は棺桶で寝るものじゃないって。はふ……」
「そういえばそうだったか」
大人しく眠っていてもらえれば、邪魔にならずにすんでよい。
彼女はしばらくうつらうつらした後、座っていた箱の上にこてんと倒れて、そのまま寝入ってしまった。
「ってそんな硬い物の上で寝ると体が痛くなるよ」
「くー」
「ちょっと……」
「すー」
「……まったくお子様は仕方が無い」
来客用の布団を敷いて、そこに寝かせてやった。
何だか昔の魔理沙を思い出す。可愛らしい寝顔だ。
店内に戻ると結局マスコットも何も無い、いつもの香霖堂の風景である。
一体何をしにきたのやら……。
――カランカラン
「おや?」
「こんにちは」
紅魔館のメイド長、十六夜咲夜が上品な笑みを湛えて戸口に立っていた。
「やあ、いらっしゃい。引き取りに来たのかい? お嬢様を」
「いいえ。でもやっぱりお嬢様は此処にきていたのね。パチュリー様の予想は当たったみたい」
「奥の部屋で寝ているよ」
「そう。寝かせてくれたことは感謝するわ」
「連れて行かないのかい?」
「お嬢様の意思に反することはできませんから」
「ならば何かお求めのものでも?」
「パチュリー様からお嬢様に渡しておきたいものがあったとのことで」
「ほう」
鈴のついた赤い首輪のような物を渡された。
何か文字盤みたいなものもついている。
「猫度メーター……用途は猫度を測る、と」
「説明の必要はなかったわね」
「首につけるのかい?」
「そう。首につけるとその人の猫度がその盤に出るそうで。試してみたらどうかしら?」
つけてみた。
鈴がりぃんと鳴って、カシャリと文字盤に数字が出た。
「30」
「あらあら。96点満点で30なら低いわね」
「高くても何の意味も無いけどね、僕には」
「まあ、好事家を除けばただの自己満足ですから」
「ところで君はどうだったんだい? どうせ試したんだろう?」
「27でした」
「僕より低いじゃないか」
「猫度を減らす要素に犬度と鼠度があるのだけど、私は前者が高いらしく。お嬢様は後者ね」
まあ、なんとなくわかる。
「あのお嬢様につければいいわけだね」
「ええ、70を越えると十分な猫度とパチュリー様が。あとできれば寝ているうちにつけてくれれば良いと」
「わかったよ。ところで最近入荷した商品があるんだけどね……」
「これはお礼のクッキーです。それではまた」
言葉も言い終わらぬうちに消えてしまった。今回は客ではなかったか。
とはいえ、クッキーの入ったバスケットが目の前にある分どこぞの二人よりは割が良い。
ありがたくご馳走になろう。
「くかー」
こういうのを猫の首に鈴をつけるというのだろうか。
相手は寝ているが以前幻想郷に突然現れて暴れまくったことのある妖怪である。今は大人しいものの正直な話少し怖い。
僕は寝ているレミリアの枕元にそっと近づいて首輪をとりだした。鈴がチリチリ五月蝿い。
「くかー…………すかー…………すかー……れっと」
自己顕示も甚だしい。
「よし……っと」
首輪をつけると鈴がりぃんと鳴った。
「40……」
なんだ、結構普通にあるんじゃないか。
「お、おお」
「む?」
寝言だろうか。
「お魚キライ……お肉……好き」
35に変わった。別に猫は肉も食べるけれど。
「……たまねぎ、だめ、だめ……」
36。猫は玉ねぎを食べられないからだろうか。
「ふふ…………巴里一番の……おいしいレストラン……」
なぜかまた減った。今度は理由不明である。しかし何の夢を見ているのだろうか。
「ふむ」
「すぴー」
なるほど、簡単に変動してしまうわけだ。
よく考えると今の「猫の首に鈴をつける」行為が猫度を上げていたのかもしれない。
だから寝ているうちにつけろといってきたのか。いやはや奥が深い。
しかし寝ている彼女を弄るわけにもいかないし、そろそろ店に戻るとしよう。
本の続きも気になるし、クッキーの味も気になるのだ。
夕方過ぎ、私は起きた。
暖かくて柔らかいと思ったら布団に寝かされていたようだ。
ついでに首に鈴つきの首輪があった。
何だこれ、35とか書いてある。
「あの店主……ククク、私を寝かしつけてから首輪をだなんて……マニアックな趣味を霊夢の腋どころか私にまで発揮するとは良い度胸ね!」
この誇り高き私に首輪をつけた奴などついぞ居ない。その蛮勇だけは褒めてやろう。
だけど私はあんたの猫じゃないのよ。
こんな鈴つきの首輪、ちぎり捨ててくれるわ!
私は首輪に指を絡ませ、渾身の力でぐいっと引っ張った。
「はきゅうっ!?」
ばったりと倒れて、咳き込んだ。
何だこれ。切れないじゃないの。しかも外れない。
首が絞まって此処百年で五本の指に入りそうなほどみっともない声を出してしまったじゃないか。
店主が現れた。
「おやおや、お目覚めかい? 急に変な声なんか出して驚いたじゃないか、いったい何が波及したのかと」
「ゲホッ、ゲホッ! ちょっと貴方! 私に首輪をつけるなんてどういうつもり!? しかも外せないじゃない!」
「ああ、いや、それはね……って外せないのかい?」
「外せないわよ! 紐のつなぎ目もないし、この私の力で切れないとか何でできてるのよ!」
「それは君のメイドが届けに来たものでね。猫度を測る用途があるみたいだ。紅魔館の魔女がつくったものらしい」
「パチェが?」
私は35と書いてある盤に目をやった。
……ん? 裏に何か書いてあるようだ。
「なになに……レミィがこれをつけた場合、猫度が一時的にでも70に達しない限り外れません。悪しからず……ですってえ!?」
「二倍か。大変だね」
「パ、パチェー!! あんたって奴はー!!」
紅魔館。
「はあ、お嬢様がつけた場合は外れなくなるのですね」
「そうよ。修行にもツヤとハリが出るでしょう? 要らぬお節介というやつよ」
「ツヤは分かりませんが、お節介なのは自分でわかっていらっしゃるのですね……あら、何だか今頃お嬢様が嘆いている気がします」
「奇遇ね、私もよ」
「しかし万一ずっと外れないなんてことになると」
「大丈夫よ」
「大丈夫ですか」
「どうしても外れなかったら蝙蝠化してバラバラになれば良い」
「なるほど。でも、それならばお嬢様も気付くのでは?」
「本当に気付くと思う?」
「全く」
「そういうこと。さて、ティータイムにしようかしら」
「珈琲でよろしいですか?」
「紅茶にして。あと、クッキーまだ余ってるのでしょう?」
「すいません。香霖堂に残り全部渡してしまいました」
「……むきゅー」
「パチュリーさまも食べたかったのですね」
「レミィががっつくせいで私の食べる分が無かったじゃない」
「また焼きましょう」
「お願いするわ。多めに焼いて構わないわよ、美味しそうだったし」
「あら、太りますよ?」
「知的作業には大量の糖分を要するから平気なの」
「はいはい、そういうことにしておきますわ」
「……でも珈琲にして」
「御意」
三回引っ張って三回とも駄目だったから、私は諦めることにした。
何とかして猫度を70まで上げれば良い。気合でどうにかなる。多分。
そうだ、猫なで声を作って、猫の鳴きまねをしてみよう。これでダブルだ。きっと二倍どころか二乗とかいうやつだ。
よし、ちょっと恥ずかしいけどがんばれ。
「ゴホン……ん、んー……にゃんにゃんにゃーん」
いきなり気でも狂ったかという目つきで、こちらを見てきた奴がいたが無視する。
猫度はどうだろうか。
「40か、大分上がるのね」
「熱でもでたのかい? 40度だと場合によってはおかしな行動を取るようになっても仕方ないかな」
「違うわよ! 猫度よ!」
「それより、とっくに日も暮れた」
「うにゃ?」
あ、また1ポイント上がった。
「閉店時間だよ、別のあてを探してくれ。僕は夜行性じゃ無いからしばらくしたら寝ないといけないし」
「ふん……分かったわよ、こんな辛気臭いところにいても猫修行になりゃしない。出て行くわ」
「帰ったら、メイド長にクッキーは大変美味しかったと伝えてくれ」
そう言うと彼は皿に置いてあったクッキーに手を伸ばした。
今朝私が食べていたクッキーだ。残りを持ってきたのだろう。
「帰らないわよ、一度出てきちゃったんだから意地でも帰るもんですか!」
「そうかい、帰るのが一番賢明だと思うけどね……」
気に入らない。その飄々とした態度が無性に気に入らない。
そうだ、ひとつ鼻をあかしてやりましょう。
「ねえ、貴方」
「ん?」
「貴方の食べたクッキーの名前、ラングドシャって言うのよ」
「ほう、良く知っているね」
「ラングドシャってどういう意味か分かる?」
私は目を細めてニヤニヤと笑った。
答えられなかったら、こんな常識知らないの、とでも言って盛大に嘲ってやろう。
そう、ラングドシャとは猫の舌の意であるなんて一般常識なのだから。此の世の全ての知識は私が知った瞬間に常識となるのである。
傲慢とか言うな。
「猫の舌だろう? 仏蘭西語か伊太利亜語か独逸語か……いや、仏蘭西語だね。それがどうかしたかな?」
「……チッ」
「最近それを使った御菓子が大量に流入してね。何だったかな、紅い恋人だったか黒い恋人だったか。美味しいから買っていくといい」
「貴族は自分で財布なんか持たないのよ!」
「何だ、お客じゃないのかい。次は是非お財布を持って来てくれたまえ」
面白くない奴だ。何か腹が立ってきた。
床を踏み割りそうなほど足音を立てて出入り口まで向かう。鈴がチリチリ鳴って鬱陶しい。
「あ、傘を」
「夜だから要らないわよ! 御免あそばせ!!」
渡された日傘をバシンと弾いて、私は香霖堂を飛び出した。
「……雨が振るって新聞には書いてあったのだけど、まあいいか」
どうせ困ったら紅魔館に帰ってくれるだろう。僕は楽観視することにして、再び本に目をやった。
傘は咲夜がきたときにでも渡しておけばいい。よく見たら折れてしまったようだし、いまさら使い物になるとは思えないけど。
渋い緑茶をひと啜り、甘いクッキーをひと齧り、本に落ちたクッキーの欠片を払って再び緑茶。
至福である。
数時間たっただろうか。
清かな風のざわめきに、ぽつぽつと水滴のはねる音が混じり始めた。
急速に僕の聴覚は水音に支配されていく。
「……寝るかな」
恋人達が数年来の再会を果たしたシーンを読み終え、僕は栞をつけて小説を机に置いた。
クッキーが二枚ほどまだ手付かずのまま残っていた。お茶は無い。
淹れてこよう。この御菓子は甘すぎて、お茶や珈琲がないとその真価を味わえないのである。
甘味の余韻を渋みや苦味をもって自ら消す事により、最後に残ったほんの幽かな香りが消えていくのを味わう。侘び寂びの世界だ。
待てよ、緑茶より紅茶にしようかな、と僕は思った。
折角棚には紅茶があるし、寝る前に心を落ち着かせてくれるだろう。何より西洋の御菓子はやはり西洋のお茶が似合う。
紅茶にしよう。
最後に淹れたのは何ヶ月前か忘れたが、まだ茶葉は使えるはずだ。
外には雨音が充満している。
今日は少し冷えるな。
火をつけてしばし、湯がぐらついて来た。沸騰寸前というところで火から離す。
茶葉を入れたポットに静々と注ぎ、香りが散ってしまわぬようにすぐ蓋を閉めた。
店内に戻ってしばし待つ。4分くらいだろうか、その時間が絶好のタイミングだ。
ちゃぷちゃぷと軽く中の液体を波立たせてから、ゆっくりと椅子に腰掛けた。
本の続きを読もうか、いやそうすると4分を越えてしまうかもしれない……やめておこう。
「ぐしゅ……ぐしゅ……」
「ん?」
「…………ぐすん」
まさか、と思い僕は窓からそっと外の様子を窺った。
鈴がちりんと鳴った。
そう、この首輪が悪いのだ、全て。
とりあえず私は里に向かってみようとした。紅魔館に帰る選択肢なんて無いからね。
適当に何処かの人間でも脅せば一晩くらいは泊めてくれるでしょう、なんて考えて。
そしたら……!
紅魔館。
「まあ、ちょっとくらい補助機能はつけてもいいかなと思って」
「いきなり何の話ですか、パチュリー様」
「首輪」
「外れない以外にも何か?」
「放っておいて猫度70を越えるなんてレミィには無理そうと思ったから、補助機能を付けたの」
「一体どのような?」
「時間経過で勝手に猫に近づく」
「勝手に猫に?」
「装着後数時間で猫耳がはえる、これで猫度+10補正がかかるの」
「その言い方ではまだありそうですね」
「一日経過で猫の尻尾がはえるわ。猫度+5。この後も微弱ながら変化は出る」
「まあ」
「猫っぽい行動では猫度が高くなるほど伸びにくくなるけど、これは本当に猫のものだから固定して猫度を上げられる。お得」
「お得です」
「ちなみに」
「はい」
「体を変形させるエネルギーはレミィの他者への精神的圧迫力……威圧感を用いている」
「そんなに十分有りましたっけ、カリスマ」
「無いなら搾り取れば良い、カリスマ」
「何故そんなことを?」
「猫の概念を身に着けるにはその概念の成立を認める他者の存在が有効となる。それにできれば飼い主が欲しいわ」
「そうですね」
「猫はね、飼われるまでは可愛らしく振る舞い、飼い主の庇護欲をそそるよう演じるの。そして飼われたと同時に我侭一杯に振舞うのよ」
「猫を被ると」
「でもレミィにそんな高等技術できるわけないから」
「猫未満ですか」
「強制的に猫を被らせる。威圧感を削って、自ら下手に出ないと困る羽目にする。これが猫度アップに繋がると踏んだ」
「まあ、そうでもしないとお嬢様は絶対に人を脅かして居座るでしょうね。手は出さないでしょうけど」
「お泊り保育じゃないのよ、修行は」
「しかし時間経過で猫っぽくなっていっては一週間後にはお嬢様がお魚くわえてそこらへんを走り回っていないか心配ですわ」
「その時点で猫度74だから安心しなさい。勿論演技じゃなくて本気でやってる場合だけど。それに首輪が外れれば術は解ける」
「そうですか、残念」
「え?」
「珈琲のお代わりは」
「頂戴。お茶菓子も欲しいわね」
「もう四皿目ですよ」
「……あら、そんなに食べてたのかしら。本を読んでたから気づかなかったわ」
「口当たりの良い御菓子ですから。卵黄を使わないので重くなく、舌で溶けるのでつい食べ過ぎてしまいがちなのですよ」
「以後、私の目の前に出すことを禁ずるわ。これは禁断の御菓子、魔性の食べ物よ。ラングドシャって響きも、レミィより悪魔っぽいわね」
「そうですか、それでは少し残ってますが下げますね」
「……あっ」
「何か?」
「いえ、あの、その」
「はい?」
「……もってかないで」
「……はい」
ええい! 忌々しい!
里に行ったら小童に可愛い猫がいるーとか親に報告された!
小娘にあれ飼いたいとか言われた!
咲夜くらいの年頃の娘に頭を撫でられて和まれた! ちょっと私も和んでしまったのは内緒だ!
店主くらいの年頃の男達に『猫耳っ娘……』とかボソッと呟かれた! このロリコンどもめ!
誇り高き吸血鬼の威厳は一体! 一体どこへ行ってしまったのだッ!!
憤怒に燃えながら天を仰いだらぴちょんと鼻先に雫が落ちた。
「はうはうはう……」
しおれた。何で吸血鬼は雨なんかに弱いのだろう。理不尽だ。
なんか頭が痒いなと思ってたら、猫耳がはえてるなんて、更に理不尽の極みだ。
何よこれ。引っ張ったら痛いわよ。何これ。
帽子から片方はみ出るほど大きいし、妙に感度がよくてくすぐったい。
パチェか、パチェなのか。あの子は余計なお世話と知ってあえて余計なお世話をするんだから……もう。
結局普通の人間の家に行くのはプライドが許さなくなったから、会ったことがある人間の家に行ってみたんだ。
稗田阿求の屋敷。此処なら我侭もきくだろうと。そしたら……
『わあ、レミリアさん可愛いですね可愛すぎますね私の猫になりたいんですかなりたいんですねなるしかないですよねえ? にゅふふふっ……!』
ぞわあっと悪寒が奔った。今なら鳥肌で大根がおろせそうだ。
悪夢なんて再現するもんじゃない。
そうだ。あの屋敷は猫屋敷で、主は猫狂い、猫マニア、猫フリーク、猫パラノイアだったのだ。
あいつはまるで私を自らにはべらした畜生どもを見るような目で見てきやがった。この私にもできるか怪しいほどの邪な笑みを浮かべて。
しかも猫になるって何よ。私は吸血鬼だっての。
此処にいては危険が危ないと本能的に悟った私は、息を荒げて狩の時の肉食獣の眼光で迫ってくる阿求を背に飛び出した。
で、飛び出したはいいが今度こそ当てもなくなり、しかも雨が降り始めた。
そして今、私は香霖堂の軒下に居る。結構目は紅い。
ここも出て行くと言った以上戻ることは避けたかったけど、もう此処しか望みがなくなってしまった。
仮に別のあてができても、雨がやまないから動くこともできない。
外は寒い。たまに雨が当たって痛い。中は暖かそうだ。入りたい。
だけど自分から折れて泊まらせてくださいなんて……言えるもんか。この私が誰かに頭を下げるなど。
窓ガラスから覗く。咲夜のクッキーをたまに齧りながら、ずっと本を見ている。
気付いてくれる望みは薄い。だからと言ってアピールする気にもなれない。
この首輪がいけないんだ。これさえなければどこぞの一般人に暖かい食事やお茶を用意させてゆっくり猫修行できたというのに。
何とかして外すしかない。猫度を70まで上げるのだ。
幸か不幸か猫耳の発生によって私の猫度は54まで上がっていた。
「にゃんにゃん……」
声を殺して鳴きまねをする。しかし上がらない。
私にも少しずつわかってきた。鳴きまねでも猫度は上がるが、やればやるだけ上がるわけでは無い。
猫度が増すにしたがって極端にポイントが上がりにくくなるのだ。或いは鳴き声だけでは限界があるのかもしれない。
どちらにしろ更なる猫要素をつけねば、70は到底無理なのである。
ああ、さっさと70にして紅魔館に帰りたいわ。それまで帰ることはやっぱりできない。
何か無いかしら、こういうときの猫っぽい行動。
まるで捨て猫じゃないか、今の私。没落貴族じゃあるまいしこんなの耐えられない。
……捨て猫?
閃いた私は店の外にまでごちゃごちゃはみ出た品物かゴミか分からないような山に目を向けた。
ダンボールか何か箱みたいな物は……あった!
「ふふふ、これで大幅猫度アップよ」
私は湿ったそれを組み立てて、中にちょこんと座った。
雨の中、飼い主がまた迎えに来てくれることを期待しながら待ち続ける捨て猫のポーズである。想像して哀しくなってきた。
よし、猫度は……。
「……55ってあれ? 1ポイント?」
焼け石に水じゃないか。何か足りないのかしら。
「あっ」
私は爪でガジガジと箱に文字を書いた。
拾ってください、と。
そしてもう一度箱の中に座りなおし「にゃーん」と鳴いた。元から良い感じに目は潤んでいる。
「おお……猫度が上がるわ!」
数値が少しずつ変化していっている。
いけ! このまま70までまっしぐらよ! 猫まっしぐらよ!
……とまあ、うまく行くわけも無く。
「60でストップ、か」
軽い絶望に酔いながら、私は雨天を見上げた。
ああ、捨て猫ってこんな気持ちなのかもね。
誰にも視線すら貰えず、野垂れ死ぬ運命を知りながらも何か希望を持ちたくなるの。私は別にこのまま死んだりはしないけど……さ。
私は夜の女王のくせに、大敵の雨を目の前にしてダンボール箱の中に縮こまって座りながら鬱鬱と一夜を明かすのね。
カシャリと文字盤の数が61になった。
そうか、お前は私の気持ちを分かってくれるのね。急に愛おしくなってきたじゃない。
雨が酷くなってきた。ザラザラと私を嘲笑しているようだ。
雫が頬にへばりついて、痛みのほかに色んな惨めな感情が湧き出てきて、顔をぎゅうっとしかめた。
「寒い……」
安穏と暮らしていてボケていたのかもしれない。
孤独は恐ろしいのだ。妖怪よりも幽霊よりも宇宙人よりも神よりも巫女よりも。
妹の顔がふっと浮かび、ちょっと涙ぐんだ。今度一緒に遊んでやろう。
風が吹き荒び、私に大量の散弾を浴びせてきた。
「……ッ! ……ッ!」
必死に直撃を受ける頭を腕で庇いながら、できるだけ猫っぽい声で「にゃん」と言ってみた。
猫度が62に上がって、3秒と持たず61に戻った。頬が濡れた。雨の仕業だ。痛いから間違いない。
「痛い……にゃ」
61。
「ぐしゅ……ぐしゅ……」
パチェ、咲夜、えっと……そう美鈴、或いは妖精メイドの誰でもいい。
首輪を外せとは言わないから、誰か傍に居てほしい。暖かい部屋に入れて欲しい。凍えるように寂しいのだ。
憎き雨にぴとぴと舐められながら、私は肩を抑えてぶるぶる震え始めた。
ふん、意地を張るのをやめれば今すぐにでもすぐ後ろの家に入れるというのに……私ってば面倒な奴よ。
「……ぐすん」
私は泣いてない。
この孤高で残酷で強大で最強な悪魔が、人恋しさに泣くもんか。
泣いてないもん。
風がまたびゅうと吹いた。
水滴の散弾銃はいくら私でも避けられない。あの鬼神の如き紅白の巫女ですら、雨が降ればずぶ濡れになるしかないのだ。
私はまた頭を抱え、痛みに備えて丸く小さく段ボール箱に収まった。
「……?」
雨が来ない。
「濡れ鼠と言う言葉がある」
「!」
朱の和傘が私の天を覆っていた。
「なんで、傘」
「君の傘、はたかれた時に壊れてしまったみたいだから。自前の傘を使ってもいいだろう」
「そういう意味じゃなくて……何しにきたのよ、惨めな私を嘲りに来たのかしら? いい趣味ねえ」
彼は眉間に皺を寄せた。
何言ってるのよ私。折角中に入れそうな機会がやってきたというのに。
「濡れ鼠と言う言葉がある」
「さっき聞いたわ」
「鼠度が上がると猫度が下がるらしい」
「知ってる」
「本当に猫度を上げたいなら、店に入るんだ」
「私の為のつもり? 偽善も大概にしなさい」
「まあ、確かに偽善だよ。泣き声が気になって仕方ないという僕の都合だからね、それにこのままじゃ寝覚めが悪そうだ」
「……ほっといてよ。それに泣いてない」
「捨てる神あれば拾う神ありさ。ここは『香』霖堂だからね」
「意味が分からないわ」
「捨て猫のつもりなら大人しく拾われるものだよ。拾ってくださいと書いてあるじゃないか。それとも自分で書いたことを曲げるのかい」
「むう……」
私が言葉に詰まったのを勝手に肯定と受け取ったのか、彼は小首に傘を挟んで、私を箱ごと持ち上げた。
「あっ」
「このままだと犬のメイド長に怒られてしまう。数少ないお得意様を減らしたくないんだよ」
「フン……もう、勝手になさいな……」
念願かなって中に入れて貰えるみたいだ。
歓喜で沸きかえる心。だけど私は尊大な態度を崩さない。
だって別に私から頼んだわけでは無いし、私を拾えるという光栄を授けてやったのだから。
「丁度温かい紅茶が淹れたところなんだ、飲むといい。外は冷えただろう?」
「貴方に咲夜並みの紅茶が淹れられるものですか」
「猫には十分さ。少なくとも体はあったまる」
嘘だ。何が丁度淹れたところだっての。
彼は紅茶なんか殆ど飲まないのを私は知っている。
幻想郷において紅茶をよく飲むのは紅魔館の面子とあの記憶娘と人形遣いと妖精どもと……要は緑茶に比べマイノリティーなのである。
今日の、しかも今に限って紅茶を淹れるなんて、私のために淹れてくれたに違いない。
あったかい紅茶を私のために……。
私はぐしぐしと彼の胸の辺りに顔を擦り付けた。
「雨漏りよ……雨が顔に落ちてきたじゃない。もっと良い傘を用意しなさい」
何も言われてないのに勝手に弁明して、頬をぬらす雨粒を拭い去る。
あったかい。
服を掴む力を強くして顔を深くうずめると、帽子から片方はみ出た猫耳がピコピコ動いてから垂れた。
頭の上のほうで呼び鈴の音と、溜息の音がした。
さわさわ
「む……」
こしょこしょ
彼女を拾ってから三日後、日が没した頃、僕は本を読んでいた。
先ほどからくすぐったくて仕方ない。
「ちょっと」
「あ?」
「尻尾で触ってくるの、止めてくれないか」
レミリアはぴょこんと片方だけ飛び出た耳を垂らし、不満げな目つきでこちらを見てきた。
それ以上何とも言えず、再び本に目を落とす。
僕の右手の傍には、ちょっかいを出したくて仕方ないといわんばかりに波打つ猫の尻尾があった。
猫度と言う物は非常に繊細なものみたいだ。
一時的に猫っぽい行動をしていてもそれをやめて少し経てば増えた猫度は元に戻ってしまう。
先日捨て猫状態を拾った時、結構猫度が増えていたらしいが紅茶を飲んで一息ついたらまた下がってしまった。
持続も蓄積もされない。しかも演技か本気か、上手か下手かでこれまた大きな差が出る。
まさに本人の常日頃の猫っぽさが如実に現れるものなのだ。
拾った次の日、更に猫の尻尾がはえた。
猫の耳と猫の尻尾、これは猫度の底上げをしてくれているようだ。
少し八重歯が出たり、瞳が猫っぽく変形したり、丸まって寝るようになったり、すぐ猫背になったりと他に若干の変化も出てきた。
全体として20くらい上がったのだろうか。彼女の猫度は常に60前半をキープしていた。
60後半はまだ殆ど行かないのだけど。やはりある程度の傾斜があるのだ。
僕はお茶を飲もうと湯飲みに手を伸ばした。
待ってましたと、空中で波打っていた猫の尻尾がしゅるしゅると腕に巻きついた。
無闇に外すこともできず、僕は湯飲みを宙に浮かせた状態での静止を余儀なくされた。
彼女の頭髪とと同じ色をした柔らかい毛が少し気持ち良くはあるが全体としては大変ありがたくない。
このまま湯飲みを持ちっぱなしだと火傷してしまいそうなのだ。
本人はツンと天井を見上げているのに、まるで尻尾だけ別の生き物のようである。
あれからずっと香霖堂に居座られている。
出て行ったらどうかと仄めかすたびに、拾ったくせに私を捨てるのかといわんばかりの鋭い目つきをしてくるから困る。
この格好のままじゃ恥ずかしくて、外に出られなくなったと彼女は言う。知ったことでは無い。
彼女の一日は朝から昼はずっと寝ていて、夕方辺りに起きてからずっと店内でぼーっと過ごしているようだ。
僕が寝室に行ってからはニャアニャア鳴き声を出して地道に猫度を上げているらしい。
そうそう、鳴き声も首輪のせいか大変上手になった。猫度の上がり方も大きくなったようだ。
しかし寝室まで響いてくるのは何とかならないものか。
尻尾がようやくほどかれた。
僕はいったん湯飲みを机に戻し、ひりひりと無駄に敏感になった手の平を掻いた。
尻尾は僕のわき腹を先っぽでくすぐってから背中をさすり始めた。気になるが、これならまだ黙認できるレベルか。
本人は相変わらず猫背で、獲物を狙うように遠くの商品を見ている。
借りてきた猫、その概念を今身に着けようとしているらしい。
起きてくると僕の横にちょこんと座って、ずっと黙りながら大人しくしている。会話も少ない。
大人しいのはありがたいが寡黙な彼女は彼女らしくない感じがして、どうも変な気分だ。
相変わらず尻尾だけは活発且つ執拗に僕に絡んでくるから、もう少しバランスを取れば良いのにと思う。
僕は本をちょっと見てから頁を開いたまま机に伏せ、立ち上がった。
大きな猫の瞳が僕を見上げ、じっと見つめてきた。はみ出た猫耳と蝙蝠の羽がパタパタと動く。
獣の部分は正直なのだ、これは『期待』である。
時間も食事時だし、僕が猫飯を作ってやるために立ち上がったと彼女は考えたのだ。実際その通りなのだけど。
足に絡んではほどくを繰り返す尻尾を軽く避け、僕は台所に向かった。
獣の部分が正直なら、しつこく引っ付いてくるこれもまた正直なのかとちょっと考え、ナンセンスだと思いなおす。
「にゃう」と向こうから聞こえてきた。
何も知らない人間が聞いたら猫と間違ってもおかしくない。なるほど、猫化は進んでいるようだ。
――カランカラン
「む? お客かな、こんな時間に……」
鍋に水を張ったところで、僕はいったん店に戻った。
「こんばんは」
「やあ、君か」
「咲夜じゃない、何しにきたの?」
紅魔館のメイド長が相変わらず上品な立ち振る舞いで居た。
「お嬢様を連れ帰りに来ました。無事件の品の発注が終わりまして、そろそろ帰ってきても良いんじゃないかと」
「そうかい、じゃあ頼むよ」
「ちょっと待ちなさい、咲夜」
「はい? それにしてもお嬢様猫になりましたね」
吸血鬼は尻尾をピンと立たせて僅かに膨らませ、しかめ面をした。何だか穏やかそうな感じでは無い。
「まだなのよ、まだ私は首輪が外れていない」
「……それが何か?」
「私の猫修行は終わってないわ、いま64だからもう少しなの。こんな惜しいところで修行を投げ出すなんて癪よ」
「もういいじゃありませんか64なら十分過ぎですよ。それに帰ればすぐに外せます」
「ただ外したいんじゃない、物の分からないやつねえ。自分の力でやらないと結局のところ紅魔館の猫度が上がることにならないわ」
「パチュリー様ももう熱が醒めておられるようですし、何も言ってこないかと」
「これはプライドの問題よ。修行はやり遂げるって決めたの、ならばやり終えるまで仕方なく此処にいてやるつもり」
「そんなに修行をしたいならば紅魔館でもできますが」
「あそこは広すぎる。猫の額くらいの大きさのこの店だからこそ私の猫修行に相応しい」
仕方なくとか、猫の額とか、散々なことを言う。
「しかしいつまでも主が不在ですと紅魔館の体裁も」
「主が旅行に行ったとでも思いなさい。70になって立派に猫っぽくなったら帰ってやるわよ」
「……何故そんなに帰りたくないのでしょうか?」
「今までの話を思い出してよく考えなさい。それが答えよ、咲夜はもう帰って」
レミリアは咲夜に向かってしっしっと手をはためかせた。
表情が曇るメイド長。なぜか僕を見て目を細め、咳払いした。
「これは余り申し上げたくなかったのですが」
「私も何度も帰れって言いたくないのだけど」
「パチュリー様がお話の相手が居なくて寂しがっていらっしゃいます」
「……パチェが?」
「はい」
「呆れるわね、まだ片手で足りるほどの日数しか経っていないのよ」
「今日だけで両手で足りないほどお嬢様の帰りはまだかと言っておられました」
口をつぐんだ吸血鬼。
友人と修行すると言い張った意地を秤にかけて迷っているのだろうか。
ならば助け舟を出したほうが良いな。
「友人は大切にした方がいいと思うよ。意地を張ってここに居残るよりずっと有意義だ」
「私も美鈴も他のメイドたちもお嬢様の帰りをお待ちしております」
「……フン」
僕は腕を組んで、遠くを見つめながら言った。
「大切な人がいるならあまり離れてちゃいけない。帰って安心させてあげるのが一番さ」
「お嬢様」
「……っ!」
レミリアは毛を立たせてフーッと唸った。猫っぽい。
「わかったわよ」
彼女はゆらりと出入り口に近づき、バンと壊れそうなほど扉を乱暴に開いた。
呼び鈴がカランカランと激しく鳴ってからぽとりと落ちた。
思わず顔をしかめる。もう少し丁寧に扱って欲しいものだ。
「……そんなに帰って欲しいなら帰ってやるわよ! さよなら!!」
弾丸のように夜闇に飛び込んで、彼女の姿は消えてしまった。
さて、残されたのは僕と従者。
軽く溜息をついたら、彼女のそれとタイミングがあって苦笑した。
お互い苦労人どうしである。なんだか波長が合うのだ。
「お嬢様が大分お世話になったみたいね」
「本当にお世話をしたよ、色々と。毎日やってる君には頭が下がる」
「お礼に何か買っていこうと思うのだけど」
「この前売り損ねたんだが、外の御菓子を大量に拾ってね……これだ、白い恋人と言うらしい」
僕は皿にいくつか置いておいたそれを見せた。
「あらクッキー。しかもラングドシャ」
「僕もいくらか食べてみたが非常に美味だった。猫にチョコレートはだめだから彼女には無理だけどね」
「ああ……でもちょっと今は紅魔館に置く事はできないわね」
「何か?」
「猫の舌の呪いにかかった者が一名ばかりいて」
「今出て行った?」
「もう一人」
「ほう」
「置けないのです」
「じゃあ、適当に他の品でも見て行ってくれたまえ」
彼女は伏目がちになり、わずかに頬を高潮させた。
「……でも、やっぱり私が食べたいから一箱貰うわ」
「ならばそうしてくれ。まだ在庫が多いから格安で売ろう」
「おいくらかしら?」
お嬢様を預けていた借りもあるのか、僕の提示金額の三割り増しで購入してくれた。
ありがたい。
「そういえばこんなこと知ってます?」
「何かな」
「猫は別荘を持つ」
「ああ、そういうこともあるね」
猫は極めて狡猾な生き物である。猫と言う言葉自体に我侭で狡賢い女という隠喩があるほどだ。
猫は人と一緒に居た方が暮らしやすいのを知っている、だから進んで飼われる。
しかし同時に放浪癖も持っている。閉ざされた暮らしと言うのは嫌いなのだ。
無理も無い、飼われた時点で猫は飼い主に飼われてやったという立場に自分がある思うのだから。
犬と違い、忠誠心を植えつけるには相当の苦労を要する。
さて、では流浪の愉しみと住みよい家の両方をもつにはどうすればいいのかと言うと、別荘なのである。
時々家を飛び出して、野良になってみたり、他の家で餌をもらったり住み着いたりする。
そしてまたころあいを見て自分の家に戻るのだ。
知ってか知らずかこれは自分の我侭な感情を満たすだけではなくもっと大きな利益ももたらしている。
飼い主に一時の喪失感を味わわせることにより、より自分に目を向けさせようとするのだ。
馬鹿正直に忠義を尽くして飼い主の視線を得ようとする犬とは大違いである。
「で、別荘が此処、香霖堂と言うわけかい?」
「なんだか今のをみてるとね。猫の首輪のせいかしら?」
「財布を持たせてやってくれ。そうすれば僕も大歓迎だ」
「あら、もうこんな時間。商品を取りに行かないと」
「話を聞いてくれよ……まあいいけれど。ところで商品って?」
「お嬢様から聞かなかった? 紅魔館の猫度を上げるため鼠の一斉駆除をすることにしたの。それに使う猫いらず」
何だと?
「猫いらずを使うのかい?」
「ええ」
「……あー、うん……」
「何か?」
「明日の夜、香霖堂の鍵は開けておくよと言っておいてくれ」
「はい?」
小首を傾げる彼女に外の世界のお菓子を渡し、僕はその後姿を見送ってから閉店の看板を出した。
落ちてしまった呼び鈴を付け直した。
「猫いらず、か」
鼠がいなくなることにより、鼠捕り名人の猫がいらなくなる。ゆえに猫いらず。
これを使うのは猫の存在を否定することによって猫度が下がってしまうのでは無いか。
子子子子子子という有名な言葉がある。読み方は『猫の子、子猫』或いは『獅子の子、子獅子』である。
子を十二支の『ね』と呼ぶことができるからだ。
さて、此処における『ね』の子は元の十二支に戻ると鼠をあらわす。
つまり猫を『子子』と書くことは『鼠鼠』と書くのに等しいのだ。
これより導き出される答えは簡単である。
猫1匹に対し、鼠2匹が等価なのだ。
更に言えば猫度1に対するのは鼠度2。更に正負逆転で、猫度に換算すれば鼠度1は猫度マイナス0.5に相当する。
猫いらずと言うもの自体が猫1匹を減らすと考える。そこで猫いらずで鼠を1匹殺すという状態になるとどうなるか。
そう、鼠を猫いらずで殺すと猫度が0.5上がってから1減ってしまうのだ。
全体として0.5の減少に繋がってしまう。
しかし僕のその懸念は無用に思えた。
西洋の館だからこういう東洋の知識は干渉しないのかも知れない。
猫度の変動は持続しないことを考えれば、猫いらずによる猫度の減少も一時的と考えるのが妥当だ。
最終的に残るのは鼠の数の減少のみ。全体で見れば猫度は増すのか。
大体猫度はそんな単純なものでは無いのだろう、作ったのは僕では無いし向こうには向こうの考えがあると見える。
ただ、もう一つの懸念がある。こちらは前者と比べ物にならないほど深刻だ。
実は蝙蝠は別名として飛鼠、天鼠と言う言葉がある。
そして猫いらず。間違いなく原料にはアレ。
止めとばかりに……彼女は吸血鬼なのだ。
やれやれ、明日もまた猫飯を作ってやることになりそうだ。
私は紅魔館に辿り着いて、真っ先に図書館に向かった。
「パチェ」
「あらおかえり、いつの間に帰ってきたの?」
「パチェ……」
本に目をやったまま話す彼女の背中に、私はぴとりと張り付いた。
「はいはい、猫の首輪を外して欲しいのね」
「パチェェェェ……!」
「パチェパチェ五月蝿いわ。外すにはまずそこに立って頂戴。ロイヤルフレア食らわすからそのときに……」
「……ぐす」
「レミィ」
「……何よ」
「何故泣いてるかはよく知らないけど、私の背中は高いわよ」
「何故泣いてるかはよく分からないけど、私の涙はもっと高いわよ」
「最近甘いものばかりで塩分が足りなかったから丁度良いわ」
ぎゅっと手に力を込めると、何だか前より柔らかくなってる感じがした。
「ぐしゅん……あれ、なんか貴方……ちょっと……ぽっちゃりした?」
パチェはびくりと背を震わせてから、頬杖をついた。
「ふん……一人だとおしゃべりできないから口寂しくてね。ほら、さっさと泣くだけ泣いて離れなさい」
パチェはもう何も言わないで背中を貸してくれた。
私は何が哀しいのかよくわからなかったけど、とりあえず溢れてくる涙を拭い続けた。
猫の尻尾はだらりと下がったまま。たまに自分の足に絡みついた。
「お嬢様、香霖堂の店主から伝言が」
「もう知らないわ、あんな奴」
久々のベッドで顔を突っ込みながらもふもふしていると、突然咲夜に呼ばれた。
多分紅いであろう目は見せたくなかったのでそのままの姿勢で答えた。
「明日の夜、香霖堂は鍵を開けておくとのことです」
「何それ、やっぱり私が居なくて寂しいから戻ってこいとか? あれだけ暗に出ていけと言われて、戻ってやるもんですか」
「さあ、ちょっとよくわかりません。それと、無事発注が住んだので早速明日の日中に駆除にうつります」
「一匹たりとも残さないように念入りにね。折角の私の猫度を食いやがる奴らなんか全部ブチ殺しちゃえばいいのよ」
「過激ですわ」
「そういう気分もある」
「まだ首輪は外されないのですか」
「……70までは頑張ろうかと思ったけど、何かもうどうでも良くなってきた。これから暇つぶしになるなら外さないけど飽きたら外す」
「外す方法は教えてもらったのですね」
「聞かないでおいたわ。保険をかけてちゃ面白くない」
猫度は55まで下がっていた。
今晩は鳴き声の練習で猫度を上げるのも面倒な気分だ。
「そろそろお食事の頃ですが、何か食べたい物は」
「ねこまんま……」
「猫飯ですか、質素ですね」
「……いいや、やっぱり普通のご馳走を持っておいで。大して旨くもない猫飯ばかり食わされて飽きが来ていたところよ」
「わかりました、ご馳走ですね」
ズラッと目の前に豪華絢爛な料理が並んだ。どれも非常に美味しそうだ。
なのに私の耳はへたれたまま。これは嬉しい時とか気分がいいときは立っている筈なのに。
私はおかしい。
「いかがですか」
「美味しいわよ。美味しくないわけがない」
美味。美味なんだ、これは。
私はコンソメスープに手を伸ばした。色は透き通っていて、どこぞの野暮ったい味噌汁と雲泥の差だ。
そう、昨日もあいつは私に猫飯を食わせてきたっけ。
実は関西風と関東風で中身は大きく違い、前者は味噌汁にご飯、後者は鰹節にご飯なんだとかいう薀蓄のおまけつきで。
私はそれを聞き流しながら、熱々の味噌汁に口をつけて、火傷してしまった。喉の奥まで熱い豆腐が落ちて、悶え苦しんだ。
「スープに何か?」
「あ、いや、何も」
リゾットをスプーンですくって、一塊スープに落してしまいたい衝動に駆られながら私は頬張った。
濃厚なチーズの味、繊細な出汁の旨み、心地よい歯ごたえの茸。最高だ。
昨日のあれは何だ。そこで拾いましたみたいな土臭い茸と、安売りの豆腐がごった煮になったような奴。それにご飯。
同じ汁にご飯でも、同列に並べるのすら腹立たしい。
……そういえば昨日の猫飯、前日までは大丈夫だったのに舌に火傷して。
首輪のせいで猫舌になってしまったのだろうか。
彼は仕方ないと言って、ふうふう吹いて冷ましながら、少しずつ私の口に運んでくれた。私はボソボソズルズル食べた。
安っぽい庶民の感覚が身についてきたのか、情けないことに美味しいと賛辞の言葉を呟いてしまった。
彼は面食らった顔をしてから、有難うと言って頭を撫でてくれた。急に恥ずかしくなって顔をあげられなくなった。
今日はお魚の味噌汁の予定だった。食べたかった。お魚は好きになった。
今夜もまた火傷してまた食べさせてもらおうかという淡い願望と、それに似た言葉にできない何かを抱いていた。
今もまだ、よく分からない。
「もういい、もう食べられない……美味しかったけどもうお腹が一杯よ」
私がいつの間にかそう言っていた。歪む視界の向こうで咲夜が少し眉を吊り上げた。
既に料理は消えていた。気がつけば咲夜も消えていた。
私一人。
テラスに向かう。銀色の半分の月が昇っていた。
しゃがみ込んだ。尻尾を波立たせ、月を凝視しながら「にゃおん」と鳴いた。
頬に月の雫が落ちた。耳をぺたんと倒し、のっぺらぼうの床を見つめながら「にゃあ」と泣いた。
それから広いベッドに飛び込んで、猫のように丸く縮こまって寝た。
次の夕方。
「うにゃあああぁぁあああぁっ!!」
私の絶叫が紅魔館を覆った。
さて、彼女が出て行った次の夜。
案の定僕の目の前には、と言うか胸の中にはぐすぐす泣く彼女が居た。
話を聞くとこういうことらしい。
起きようとしたが何故か体がうまく動かなかった。それでも何とか起きた。ベッドの下に崩れ落ちた。
目の前に猫いらず入りっぽい団子が落ちていた。絶叫、気絶。起きたら此処。
先ほどぐったりした彼女が咲夜に運ばれてきた時から確信していたが、僕の予想は当たったようだ。
「少し離れてくれ。君が倒れた原因を教えてあげよう」
「う、うう……うにゃ……?」
猫化が進んでいるなあと思いながら、僕は棚から本を持ってきた。
化学についての書物だ。
「君が駆除された原因は十中八九、猫いらずだ」
「駆除されて無いわよ! 私は鼠じゃなくて吸血鬼だって……!」
「そう、君は吸血鬼だからこそ倒れたんだ」
「にゃ?」
僕はPと書いてあるページをめくり、彼女に見せた。
「これが君を倒した物質の名だよ」
「えーっと……こうりん?」
魔理沙から僕への呼称じゃあるまいし。
「おうりんだよ。黄燐」
「黄燐?」
「リンと言う物質がある。この物質はいろいろと違った形態をとるんだが、その中に黄燐、またの名を白燐と呼ぶものがあるんだ」
「それが?」
「これは猫いらずの殺鼠成分なんだよ。極めて危険な物質さ。空気中で自然発火するし、猛毒だ」
「別に食べてないわよ」
「そうだろうね、食べてたら救いようも無い。ひと齧りで彼の世行きなんだから」
「お、おっそろしいもん作るわね、人間」
「それで……ここを見てごらん」
僕は左側の頁の一文をさした。レミリアはたどたどしくそれを読み上げた。
「……黄燐は毒性が強く猫いらずに用いられる。黄燐には特有のニンニク臭があるため、死んだ鼠がニンニク臭を発することもある」
「と言うわけなんだよ」
「ああ! 確かに倒れるちょっと前にあの忌々しい匂いをかいだ気がするわ!」
蝙蝠が鼠の異名を持つと言うことと今回の猫いらずが関係したかは謎である。しかし彼女は吸血鬼であった。
吸血鬼がニンニクに弱いことは常識である。そして黄燐の特異臭はニンニクに似た匂いだった。
彼女は吸血鬼だったからこそ駆除されてしまったのだ。
「そうそう、メイド長が言っていたが紅魔館中に妖精メイドたち総出で撒いてしまったせいで回収が困難になったらしい」
「な、何ですってー!?」
「ほら、妖精だから。自分がどこに何をおいたかも忘れてしまったみたいだ」
「ああ……あいつら……! ほんとに使えない……!」
また泣きそうになってきた。
「そうでなくとも、紅魔館には匂いが充満してしまったらしいよ。三日で何とかするとか言ってたけど」
「三日もなんて、その間どうすればいいのよ!」
「もうしばらくお嬢様を預かってくれませんか、だとさ。君もここが気に入ってるとか……彼女が言うにはね」
ちょっと驚くような顔をして、彼女は自分の尻尾をさすり始めた。
「……ば、馬鹿咲夜……!」
「いやいや、彼女は中々聡明だと思う。時々常識が無いだけで」
「もしかして貴方が鍵をあけておくって言ったのは、このためなのかしら?」
「そりゃ猫いらずと言われた時から予想がついていたからね。どうせここにくるだろうと思ったし……そう言った方が抵抗が無いだろう?」
「うん……」
「昨日作る予定だった魚の味噌汁の猫飯が作ってある。今よそってくるから待っていてくれ」
「お魚……?」
「昨日あんなに楽しみそうにしていたじゃないか」
「ええ、まあ」
「三日なら引き取ってもいい。お得意様へのサービスだ」
僕はほかほかの猫飯を持ってきた。
先日やらかしたばかりだから注意をうながそうと、「熱いから一気に食べたりしちゃ駄目だよ」と言おうとした瞬間。
ばくっと彼女の小さな口に湯気の立つ大きなご飯の塊が入った。
じわりと涙目になりながら水を求めてきた。
何だこの娘は。学習能力が無いのか記憶力が悪いのか間抜けなのか。呆れるばかりだ。
結局一昨日のように僕が吹き冷ましてから食べさせてやると言う構図になってしまった。
明日からは火傷しないように、鰹節を混ぜた関東風にしてやろう。
「ところで極めて大事な話があるんだ」
「な、何よ突然」
七割ほど食べ終えたところで、僕は懸念事項を切り出した。
慌てているのか、視線の定まらない彼女。
僕は眼鏡をくいとやってから、真剣な目つきで、問うた。
「今度こそ、お財布を持ってきてくれたかい? ずっとそればかり心配していたんだよ……」
一瞬の沈黙。
「フーッ!」
瞳がギラギラ光って、体中の毛が逆立った。僕には冷や汗が浮かんだ。
「え……? ちょ……うわっ!! 猫飯持ってるんだって! 危ない!」
「フカーッ!!」
ガリッ
「痛っ!!」
引っかかれた。肩布と極少量の血肉を持っていかれた。酷い奴だ。僕が怒られる筋合いは無い。
猫の逆恨みだろうか。猫は恩を嫌がり、かえって恩人に仇を返すと言われるのだ。
やっぱり預からなかったほうがよかったのかもしれない。財布も無いようだし……。
「ふうむ」
今朝文々。新聞を拾った。
気になる記事があった。香霖堂についての記事だ。
『夜な夜な響く鳴き声 発生源は香霖堂か』
「香霖の奴、猫でも飼ったのかな?」
記事はまとめると大体こんな感じだった。
ここ数日魔法の森近辺より謎の鳴き声が聞こえてくるとの投稿があり、早速記者である私が調べてみた。
声をたどっていくとどうやら発生源は香霖堂のようだ。
普通なら店主も寝入るはずの真夜中になってから、猫の声が夜な夜な聞こえてくるのである。
一度私もお店が開いている日中に中を覗いてみたのだが、猫らしきものは居なかった。
夜はカーテンが閉められ中の様子を窺えなかったが、その夜もまた猫の声が発せられていた。怪奇である。
猫の専門家である式神の橙さんはこれを猫幽霊の仕業では無いかと分析した。
猫を殺すと七代祟ると言われるうほど、猫の恨みは執拗なものなのである。
もしかするとその猫の霊が夜な夜な鳴いて店主の安眠を妨げているのでは無いか。
ここで香霖堂店主が恨みを買うほど猫を虐待してから殺害したのでは無いかという疑いが浮かび上がってきた。
半分動物である私としては許せない犯罪行為である。
しかし疑惑がある。猫の鳴き声のように聞こえるのだが、正確には鳴きまねでは無いのかと言うことだ。
それは時々鳴き声が中断し、咳き込むような音や独り言のような声が聞こえてくるためである。
無論猫のそれでは無い。また鳴き声自体も私が聴いてみたところやや不自然な感を覚えた。鳴き声の種類も一貫しない。
初めは店主が何か気でも違って鳴いているのかと危ぶまれたが、声質は明らかに若い女或いは本物の獣のものと思われた。
何故夜なのか、何故猫の鳴き声なのか。追ってこの謎を調査していきたいと思う。
なお余談ではあるが、外のマスコミの言葉に「にゃんにゃんする」というものがあるらしい。
私はよく意味を知らない。知らないってば。
くしゃりと新聞を丸めた。放り投げてから魔法で灰にした。
何だかむかつく。無性にむかつく。あいつ、絶対最後のあたりを書きたかっただけだろうな。
「ふー……女に手を出す色気なんか無いんだぜ、香霖には」
そういえばここ数日行ってなかった、香霖堂。研究が思いのほかうまく進んで。
もし猫がいたら撫でさせてもらおうか。もし猫幽霊がいたら瓶詰めにして持って帰ろうか。
もし女が居たら……。
「ありえない、ありえない」
必要以上に強くミニ八卦炉を握り締めてからスカートの中に入れ、私は出かける準備をし始めた。
もう秋だし茸狩りに誘ってみるのも悪くないかもしれない。でもあいつは絶対外に出たがらないだろう。
桜の時みたいに茸でも頭に載せてみるか?
おや魔理沙、頭でも腐らせたのかい?
頭の中で香霖が真顔で尋ねてきた。却下だ。しかし生憎手元には帽子につめるほどの茸もないし、食用ですらない。
そうだ、秋が表せるなら茸でなくてもいい。丁度葉の色づきが始まった頃で、紅葉や銀杏の葉が綺麗になってきている。
いくらか千切って、季節感の無いあいつの元に秋を届けてやろう。
去年より少しだけ高くなった私の帽子に載せて。
――カランカラン
「よお、香霖! 遊びに来たぜ!」
「何だ魔理沙か……って店が汚れるからゴミを頭に載せて来ないでくれ。外で払ってきなさい」
「ゴミじゃないんだぜ……」
紅葉を何だか打ちひしがれながら捨てた。せっかく綺麗な奴だけ選んできたのに……。
お茶を淹れてくれたから機嫌は直したが。
「さあ、客じゃなくて遊びに来たのならそこらへんで座っているんだ。大人しくね」
「まだ冬眠の季節じゃないぜ」
「冬眠って紫じゃあるまいし。寝るなら自分の家に戻ったらどうだい」
「なあ、香霖。それより私に言いたいことがあるんじゃないのか」
「いっぱいあるよ。そろそろツケを払っても良いんじゃないかとか、そろそろその言葉遣いも考えものだとか」
「そんな些細なことはどうでもいい」
「至極重大だ」
「ああ鈍い奴だなあ。ほれ、見ろ」
新聞を香霖に向かって放り投げた。
香霖堂のポストにささりっぱなしだったから、香霖はこの記事を読んでいないのだろう。
しかしこんな新聞を購読するとは酔狂な奴だ。
「また犯行現場でも撮られたか?」
「片隅にお前の記事がのってるだろ」
「おや」
香霖は眼鏡を少し弄ってから、じっくり記事を読んだ。
「分かっただろ、香霖。私にも見せろ」
「ん? はい、どうぞ」
差し出された新聞を叩き落とした。
「新聞じゃなくて猫だ! 私も猫が見たいんだよ!」
「あー……見たいのかい? 今寝てるのだけど」
「寝てるってことは本当に居るんだな? 私も撫でたいぜ、もふもふしたいぜ、お持ち帰りだぜ」
「よし、そこまで言うなら見せてやろうか。ついておいで」
「何だよ。私の最後の台詞に突っ込むところだろ」
「いや構わないよ、お持ち帰り。あれは商品じゃないから。持ち帰らせてくれるかは分からないけどね……」
何だか疲れたような表情で香霖は言った。
魔女にはやっぱり猫がつきものだからちょっと欲しかったところだ。
でも既に一匹大飯ぐらいのペットが居るからなあ……思う存分可愛がった後アリスかパチュリーにでも押し付けようか。
「なあなあ、可愛いのか? 猫」
「可愛い……うーん……まあ……外観は可愛いかな」
「そっか、可愛いのか。えへへ、楽しみだぜ」
「記事にも書いてあったけど、夜に布団へ入ってからからにゃんにゃん五月蝿くてね」
「んむ」
「どうした?」
「何でもない」
夜に布団に入ってからなんて、変な妄想をしてしまったじゃないか。
香霖が夜に布団に入ってから猫が鳴いて五月蝿いという意味に決まってる。あの記事に毒されたか。
「猫はどこに居るんだ?」
「すぐそこだ。寝室。寝てるって言っただろ」
「ほう、寝室まで行って寝るなんて躾のしっかりした猫だなあ」
「まあわざわざそこらへんを調教しなくても済んだのは僥倖というべきか……」
「ちょ、調教とか言うなよ」
「何故?」
「あ、いや……気にするな」
ああ、何かまた変なことを考えてしまった。人間の性だろうか。
そりゃあ私だって若い人間の女だし、悶々することだってあるけどさ、いろいろアレな知識だってあるけどさ。
考えてもみろ、香霖にそんなことできるわけがない。
こんな奴にそれだけ付き合ってやれる面倒見の良い奴なんてそう何人も居るまい。
カラリと寝室の引き戸が開いた。
こんもりと真ん中が盛り上がった布団。香霖め、布団をきちんと畳まず丸めておいてあるのだろうか。
私は畳の床をくまなく見渡した。
「猫が見当たらないが?」
「目の前で布団敷いて寝ているじゃないか」
香霖は布団を指差した。こめかみがすうっと冷えてきた。
どう見ても大きすぎる。人間の子供くらいの大きさだ。
「まてまて、猫がこんなに大きいわけない。大熊猫ならともかく」
「ちょっと異端なんだよ」
「大体布団を敷いて寝る猫なんて居るか!」
「寝てるんだから大声を出すな。昨夜は疲れたようだし、色々な理由で起こしたくないんだ」
しーっと私に静粛を促しながら香霖は押し殺すように言った。
歯がカチカチ鳴ったからむぐっと手で自分の口を押さえて、しばらくしてから離した。
「な、なあ……正直に答えてくれ、香霖」
「答えられる範囲なら」
「これは、猫なんだよな? それ以外の何物でもないんらよな?」
口が戦慄いて、呂律が回らないような変な発音になった。
「僕は一度も猫とは言っていない」
「わ、わかったぞ。猫又かなんかだろ。猫の妖怪なんだろ? そういうわけで、妙にでかい猫なんだ。そうなんだよな?」
「近いかもしれない」
「はっきりしろよ!」
「しーっ!」
布団の中の『猫』が身をよじった。
二本の細い足のような形に布団が盛り上がった。「うにゃ」と女っぽい声が聞こえた。
ぴょこんと尻尾がはみ出て、横に立った香霖のくるぶしを探り当て、くすぐり始めた。再び寝たのかすぐに止まった。
やりきれない思いが口から溢れそうになったのを、何とか手で押さえてとめた。
一体何がどうなってるんだよ香霖。
これじゃまるで……。
「魔理沙、これは話すと少々長くなるんだけどね」
「どこの……女だよ」
「君の知り合いさ」
私の知り合い?
誰だ。一体誰だ。
私は壊れたように舌をかみそうなほど早口で人名を並べ立てた。
「霊夢か? アリスか? パチュリーか? 咲夜か? 妖夢か? 永遠亭の兎共か? それとも三馬鹿妖精か?」
「残念、どれも違う」
「だよな、誰もこんな尻尾持ってないぜ……」
「正解はね」
香霖はゆっくりと布団を半分めくった。
すやすやと眠る、レミリアが居た。
「な……!」
レミリアの目が半分開いた。
寝ぼけたような顔で布団を持つ香霖の手に頬ずりをした。
香霖はすぐさま手を避けたけど、私は目の前が真っ暗になってきた。足が震えた。
「実はレミリアがこの前突然やってきて……」
「やめろ……言うな……もう、わかった…………わかっちゃった」
「魔理沙?」
「うぐっ……ぐす……! 聞きたくないっ!!」
耳を両手で押さえ、回れ右をして、唇を噛み締めながら香霖堂を飛び出した。
耳よりも目に手をやっておけばよかったと、後になってから思った。
「なによ……五月蝿いわね」
「何かは僕が訊きたいくらいなんだが……」
「今の魔理沙?」
「ああ」
「早すぎて見えなかったわ」
「魔理沙も腕を上げたのかね。それはそうともうしばらく寝てるといい」
「そうするわ。ふにゅあ……」
体を伸ばすように欠伸をしてから、体を丸めて再び寝た。
寝ていてもらえると面倒が減ってありがたい。
その夕方、レミリアは僕に辞書がないかとせびってきた。当然ながらあった。
猫度を上げるのにはやっぱり諺や慣用句の猫の概念をもっと知るべきだとようやく気がついたのだろうか。
僕はせがまれてあれこれと解説をすることになった。
「猫にもなれば虎にもなる」
「まさに君だね」
「猫またぎ」
「猫さえまたぐほどの不味い魚と言う意味だが、昔はトロを指して言ったこともある。魚をさす言葉だから猫度を上げるのは難しそうだ」
「ねこそぎ」
「それは字が違う」
「猫の目」
「猫の瞳のように移り変わりの激しい女心を言う。既に持っているから安心したまえ」
「猫の恋」
「猫の発情期、すなわち春をさす言葉だ。今は秋だからねえ」
「お、お下品よ!」
「そういう言葉もあるというだけだよ」
「……猫に九生あり」
「猫には九つの命があるといわれる。それだけ死ににくく悪運が強いと言うことだ。君はもっとあるから参考にならない」
「猫は三年の恩を三日で忘れる」
「字の如くだ。まあ、そうなんだろうね。猫ってのは恩知らずなものだよ」
「……ねこばば」
「ばばとは糞のこと。猫は糞をした後砂をかけて隠すことが悪事をそ知らぬ顔で隠すことに繋がったわけだ。魔理沙なんかが参考になる」
顔を真っ赤にさせて、彼女は本を置いた机をバンバン叩いた。
「何よこんなのばっか! ろくな言葉がないじゃない!! 他にも猫に小判とか、猫に鰹節とか、窮鼠猫をかむとか!!」
「そんなこと言われても」
「猫を讃える言葉はー!!」
「猫とは元々悪役の生物とされたところがあるからね。猫を一匹殺せば七堂伽藍を建立したるより功徳ありと言う言葉もあるくらいだ」
「しちどうがらん……?」
「寺院に必要な七種の建物のこと。功徳とは仏のご利益のこと。執念深く魔性を持つ猫は、殺せば仏も莫大なご利益をくれるという言葉だ」
「何よそれー!」
僕はいきり立つ彼女をなだめようと何か猫の肯定的な言葉がないか辺りを見回した。
「あ、そうだ。マオニャオと言う言葉があった」
「何語よ」
「門番が良く知ってるんじゃないかな」
「チャイニーズか」
「ちなみに『猫尿』。猫の尿と書く」
「こ、この、ヘンタイ!」
「いやいや、勿論そのままの意味としても使えるがこれは『お酒』と言う意味も表すんだ。日本でもお酒の別名で般若湯と言ったりするだろう?」
「お酒ですって? うわあ、美鈴ったら、毎晩猫のおしっこなんか飲んでたのね」
「……それは多分違うと思う」
何だか第三者の名誉を傷つけただけのようだ。
まあいいか。
ひとしきり怒ったり恐れたりした後、彼女は再び本に目をやった。
一分ほどたってからシャキンと尻尾と耳といつの間にか生えてた左右あわせて6本の長い髭が立った。
何か良いものでも見つけたのだろうか。
「これよ! あと一息の猫度を上げるにはこれしかないわ!」
「ん……?」
猫可愛がり
そこにはそんな言葉が鎮座していた。
「まあ、ほかのものより効果は望めそうかな?」
ひたすら可愛がればいいだけだ。しかもこの場合可愛がられる対象は猫と同位置にあるため猫度上昇はかなり期待できる。
ただ問題は……。
「僕が可愛がれというのかい?」
「見て、今65なの。貴方の助けが必要だわ」
「どうやって?」
くいと指を動かし、僕に『立て』と命令してきた。逆らったら怖いので立つ。
「そこの長椅子に座りなさい。あ、端っこにね」
猫に形容される悪女っぷりまで身についてきたのだろうか。余りありがたくない。
僕は外で霊夢たちとお酒を飲むときに使ったりしている長椅子に腰掛けた。
「で、僕に何をする気だ?」
「こうするのよ」
レミリアは僕の横に座ってから、横に、即ち僕の膝の上にポスンと頭を乗せてきた。
「さあ、思いっきり可愛がりなさい」
僕は天を仰いだ。
ああ、何かまた面倒なことに首を突っ込んだ気がするぞ。
でも早く猫度を70まで上げて解放してもらう方が後々楽かなと思えてきた。
この調子で放っておくわけにもいかないし。何よりさっさと首輪を外さないと付きまとわれてしまいそうな気がする。
「早く」
「分かったよ」
何度か躊躇してから、頭をわしゃわしゃ強めに撫でてやった。
「んにゃあああぁぁぁっ!」
「!」
変な猫撫で声が出たから、思わずびくりと手を引いてしまった。
「ふう、ふう……耳……」
「耳がどうした?」
「そこ……弱いから駄目……」
「わかった」
「もっと優しくしなさいよ……」
「注文が多いな」
耳に触らず丹念に撫でてやると、そのうちゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
まるで本当に猫を飼ったみたいだ。
――カランカラン
そんな時、客がやってきた。
魔理沙が顔をぐしゃぐしゃにして神社に飛び込んできた。
「れぇいぃむぅ~!!」
「汚いわね、引っ付かないでよ」
「お前まで私を裏切るのか~!」
「裏切るって言葉は約束を前提とするの。私があんたといつ約束なんかした。というか魔理沙と約束する馬鹿なんか居ないでしょうが」
「うおおおお!? そこまで言うかー!?」
「は~な~れ~ろ!」
玉串で何発かひっぱたくと魔理沙は離れて床に伏した。
「お茶飲む? 飲むなら自分で淹れてね、私の分も」
「痛いぜ、痛いぜ、痛くて死ぬぜ……」
「それは極めて自然な流れ」
「ぐすん」
「あー……もう、仕方ないわね。話くらいなら聞いてやるから神社の畳を汚さないうちに起き上がって話せば」
「うう……聞いてくれよ霊夢……」
「はいはい」
まあ、暇つぶしにはなりそうかしら。
「ウソ」
「本当だぜ……この目で、見た」
そこで聞いたのは、確かに衝撃的な内容だった。
あの霖之助さんが女と同棲していた。
しかも毎晩、いかがわしいことをやっているらしい。
更にあろうことか相手はレミリアで、霖之助さんはそれに鈴付きの首輪をつけた上、猫の耳や尻尾を生やして愉しんでいたとか何とか。
……まずい、想像できない。私の想像力も、さすがにそこまで無駄に豊かじゃないんだ。
魔理沙は何か幻でも見たのではないか。
「あのね魔理沙……竹林に腕のいい医者がいるから。多分精神とかも何とかしてくれるわ」
「私は幻を見たんじゃない!」
「ご飯何食べた? 茸食べたのね? 幻覚作用のありそうな奴」
「食べてない!」
「朝食抜きは体に悪いって霖之助さんが言ってた」
「話がずれてるだろ!」
「ふーん。でも、そこまで話せるってことは、寝ぼけてるわけでは無いのね」
「はは……夢にしたいくらいだぜ」
「夢想封印してみる?」
「んにゃ、これ以上悪夢はいらん」
魔理沙に淹れてもらったお茶を飲んでから羊羹を口に含んだ。
甘くほぐれ、少し土っぽい香りが心を落ち着ける。
また一啜りお茶。
「うーん。極楽ねえ」
「ふん、極楽なら誰かさんに蜘蛛の糸でもたらしてくれよ」
「蜘蛛の糸って何よ。縁側の下のアレじゃないんでしょう?」
「それは……その」
「あんたは私に何を言いたいのかしら?」
「何を言えばいいのかわからん……」
「じゃあ何が目的で神社に来たの?」
「……さあ」
湯飲みに半分残ってたお茶を飲み干してから、私は立ち上がった。
魔理沙が何か言いたげに潤んだ目で見上げてきて、唇を震わせて、だけど何も言わなかった。
「自分の家に帰りなさい」
「おう……」
「ちょっと霖之助さんと話をしてくるから」
「ありがとな」
「ありがたくない知らせでも恨まないでよ?」
「うん」
「あ、お賽銭をいれて頂戴ね。タダなんて甘いわ。羊羹より甘い」
魔理沙は渋い顔をしてから十円玉を放って飛んでいった。
十円は遠縁といわれてよくないのだけどまあ良いか。どうせ香霖堂に行く予定だったんだ。
そんな気になること言われたら動かないわけにはいかないじゃない。
霖之助さんが女と同棲なんて、もはや異変と言っても差し支えないでしょう?
ま、ありえないけどね。
で、香霖堂の前まで来たわけだけど。
「んにゃあああぁぁぁっ!」
扉に手をかけてこんな声がした物だから、固まってしまった。
「え、何? 今の何?」
今の声、確かにレミリアよね。この前も聞いたから間違ってないはず。
しかしちょっと、と言うかかなり艶っぽい感じで。まさしく嬌声と言うにふさわしくて。
中で一体何が起こってるのよ。魔理沙がまさか正しいことなんていってるわけが無いはず。
でも。
呆然としながら、扉に手をかけたままの状態で居ると声が聞こえてきた。
霖之助さんとレミリアの声だ。よく聞こえなかったので耳を押し当てる。
「そこ……弱いから駄目……」
「わかった」
「もっと優しくしなさいよ……」
笑えない。
何が一体どうなったらこんな状況になるのよ。
そもそもレミリアって霖之助さんに気があったっけ?
と言うか霖之助さんがそういうことできる人だったっけ?
引きつったままの頬が疲れてきた。じっとりと背に冷や汗がわいてきた。
夕日が消えたのも気がつかないほど、私は思考が全力で空転していた。
この扉の先はなにか魔界の扉でも有るのでは無いか。
それともすべて私を嵌めるための悪戯ではないのか?
「よし、入るわよ」
そうだ、入らなきゃ始まらない。もともと話をするために来たんだ。
私は確かめるように言った。
万一霖之助さんとレミリアがその、ごにょにょしてても関係ない。
人に見られちゃいけない行為をするときに閉店の看板を出しておかない奴が悪いんだ。
よし。
――カランカラン
「お邪魔するわ!」
威勢よく入った。怖くて目は瞑ってしまった。
「やあ、霊夢」
「にゃにしに……じゃなかった何しにきたのよ、紅白」
恐る恐る右目だけ瞼を開いた。
「……膝枕?」
「まあ、そんなところか」
うつ伏せのレミリアが霖之助さんに膝枕っぽいことをしてもらっている。
霖之助さんは両手でレミリアの頭から首、肩、背中辺りまでを優しく撫で回している。
レミリアは気持ちよさそうに喉を鳴らしている。時々妙に艶かしい声を出す。
魔理沙の話通りに猫の耳と尻尾が生えていて、尻尾は私をしっしっと払うようにうねっていた。
何よこれ、何なの。
そういう行為には及んでないけど、えらく親密になってるじゃない、ふたり。
最近は魔理沙でさえ腕を組んだら露骨に嫌がってくる霖之助さんがこんなことするなんて。
あ、でも魔理沙が小さい頃は魔理沙がもっとべたべたひっついても何も言わなかったし……。
「どうしたんだ霊夢、頭を抑えたりして」
「霖之助さんは……幼女趣味でもあったのかしら」
「は?」
「ってそんなことはどうでもいいわ。それよりなんでレミリアなんか飼ってるか説明しなさいよ!」
「ああ、それはね……」
説明された。
「猫度を上げるため、と」
「一応明後日まで飼うことになってるんだ。今撫でて68まで来ているから、あと少しなんだけどね」
「さっきから私を飼うとか言ってるだけど、飼わせてやってるのよ。間違えないで。あと手がお留守になってるわ」
「しかしそろそろ手が疲れてきたし、膝は重いし、動けないしで……そうだ、霊夢にやってもらったらどうだい」
「はあ? 何で私がレミリアを?」
「君もねこじゃないか」
「私にそんな耳も尻尾も生えてないわよ」
「霊夢は猫と言うより神の狗よ」
「いやいや、猫も杓子もと言うだろう?」
また何か雑学の類でもとびだしそうな空気だ。
別に嫌いでは無いけれど。それより何だかむかつくのはさっきからこちらを威嚇しているレミリアだ。
「いいかい霊夢、この猫も杓子もと言う言葉の猫と杓子は当て字なんだ。正確には『ねこもしゃくしも』と書く」
「言葉でじゃわからないわよ」
霖之助さんは左手でレミリアを撫で回しながら、紙に右手で『禰子も釈子も』と書いた。
「この字を使った禰宜(ねぎ)と言う言葉を知ってるかな」
「食べ物の葱の方がありがたいわ」
「禰宜とは神道の役職の一つで、祝(はふり)と神主の間にある位だ。また、全ての神職をさす言葉としても使われる」
「巫女と神主だけでいいのよ」
「君も巫女なんだし神社のことにもう少し詳しくなったらどうかな。まあ、これで禰子の意味は分かったろう」
「神道を信仰する人間ってことかしら」
「勘がいいな、その通り。そして釈迦と言う言葉がある通り、釈子とは仏教徒を指し示す。そしてこの言葉が生まれたのは日本だ」
「仏教と神道?」
「うむ、日本人は殆ど仏教か神道を信仰していたためこれで今の『誰も彼も』と言う意味ができたんだ」
「基督教や回教はどうするのかしら」
「この言葉ができた頃は広まってなかったから仕方ない。それよりこれで霊夢もまた禰子と言うことが分かっただろう」
「ま、それはわかったけど」
「じゃあ代わってくれないかい?」
「猫を撫でるのは飼い主。猫は猫を撫でない」
「私だってこいつに撫でられるのなんか嫌よ!」
霖之助さんは口をつぐんで、「むう」とうなってから疲れたような溜息をついた。
「私の方が一利あるでしょ?」
「わかったわかった、今回は僕が浅はかだった。一本とられたよ、もういい」
私もこれまでのことが分かって、ホッと安堵の溜息をついた。
レミリアはフーッと相変わらず威嚇していた。霖之助さんがわしわしやったら止まったけど。
「ああ、よかった。これで魔理沙にまとも知らせができるわ。また泣きつかれたら面倒で仕方ないと思ってたもの」
「そういえば魔理沙が昼に来てね」
「そのことで来たのよ。てっきり霖之助さんがレミリアと懇ろになったと勘違いしたらしいわ」
「わ、私がこいつと懇ろとか言うな! 暇だし猫修行のために仕方なく居るだけよ!」
「なるほど、今思えば確かに勘違いされる格好だったかもしれないね。しかし、それでなんで魔理沙は逃げ出すんだい?」
この朴念仁……。
「じゃあ私もう帰る。早く魔理沙に知らせてあげないと」
「そういえば言い忘れてた、霊夢、拾い食いはやめるんだよ。あと食べ物は大切にするんだ」
「は? 分かったけど霖之助さんもほどほどにしときなさいよ、レミリアとベタベタするの。悪い虫がついてるかもしれない」
「私は綺麗なお屋敷育ちの血統種よ!!」
魔理沙の家。香霖堂から歩いてそう遠くない。
私はここには余り来ることが無いから何か新鮮だ。
「魔理沙ー?」
ノックしても返事が無い、鍵は空いてるみたいだから勝手に入る。
ベッドの上で体を縮こまらせて、炯々と獣のように瞳を光らせながら、魔理沙が座っていた。
「霊夢……か」
「明かりくらいつけなさいよ。うっかり躓きそうになったらどうするの、香霖堂より汚いこの床」
「お前は『うっかり躓きそう』になっても『うっかり躓く』ことは無いだろうが」
「まあね」
「……」
「……」
「香霖堂、行ってきたのか?」
「うん」
「レミリアは」
「居た」
「……」
「……」
ごくりと唾を飲む音が聞こえた。
「二人は、その、何してた?」
「霖之助さんが猫のレミリアを愛撫してたわ」
目を裂けそうなほど大きく開いて、魔理沙は歪んだ笑みを作った。
「う、うふっ、うふっ、うふふふふ…………うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……!」
あら、言い方が悪かったかしら。
わざとだけど。
五月蝿い。
怒号が、絶叫が、悲鳴が、笑声が私の鼓膜を敲く。
五月蝿い。
「黒白鼠は念入りに駆除しなさい」
私の紅茶を淹れていた咲夜にそう告げたはずだ。
にも拘らず。
「なんだなんだ、今日に限っていつもより神社の賽銭一年分ほど警備が強いぜ? パチュリーよ」
「また鼠の侵入を許すのね……全くうちの猫いらずどもは」
あれほど鼠を通すなと言っておいたのに。
「鼠無きを似て捕らざるの猫を養う可からず……」
「あー?」
「平和だからって平和ボケの部下を雇うとろくなことにならないってことよ!」
不意に放った高速の火球を魔理沙は慌てて避けた。
「新しい魔法の相手になってもらうしかなさそうね。溝鼠から火鼠に格上げさせてやるわ」
「皮衣とな? 生憎、私は霧雨なんで濡れ鼠だぜ」
「折角上がった紅魔館の猫度を貴方などに下げられるわけにはいかない。今日は調子も良いしとっておきの……」
「おっと、待て! 今日は弾幕したくて来たんじゃあ無いんだぜ?」
「問答は無用」
「ふふん、これを見てもその台詞は吐けるかな?」
魔理沙は大き目の本を取り出した。
十字に縛ってあって真ん中には鍵穴のついた……。
「それって…………まさか!」
アリスの家。
「どこ!? どこよ、私のグリモワール!」
神綺様から貰った、究極の魔法が書いてある、大切な大切な私だけのグリモワール。
いつも手放すことなく持ち歩いているグリモワール。
現在、行方不明なり。
『アリスちゃん。私は魔界から出られないから、せめてこの本を私と思って貴方の傍に置かせてくれないかしら……?』
必要以上に美化された思い出が走馬灯のように蘇る。
涙目になってきた。
「ぐすっ……ううう……どこなのぉー!?」
そんな時、蓬莱と一緒に捜索に当たっていた上海が帰ってきた。
「見つかった!?」
手紙を渡してきた。
本棚に差し込まれていたらしい。
開く。
『ちょっとお前のグリモワール借りるぜ。死ぬまで』
閉じる。
ふっと息を吐く。
ああ、青空が綺麗ね。上は無機質な天井だけど。幻視だ、幻視。
何か凄く不吉な文章が見えた気がしたけど、きっとこれもまた幻視だ。
心を清流のように穏やかにして、もう一度開く。さあ、きっと今度は素敵な文章が私を迎えて……
『追伸 できれば鍵の開け方も教えてくれるとありがたい。ま、時間の問題だが』
「魔ぁぁぁ理ぃぃぃ沙ぁぁぁぁ!!?」
その日、私は人形遣いから死の魔女へと返り咲いた。
「お前、前から見たがってたよな? アリスのグリモワール」
確かにそうだ。あのグリモワールには途轍もない魔力の奔流が封じ込められていると踏んでいる。
この図書館中を探したって、あれに並ぶような物はせいぜい有ってひとつかふたつ。
非常に興味がある。喉から手が出るほど欲しい。
アリスは決して誰にもその本を見せようとしないのだから。
仮に私がアリスに見つかっても、盗んだのはまぎれもなく魔理沙であり、私はそれを押し付けられたとでも言い訳はできる。
自ら荒事でアリスから奪うのは気がひける私からすればまさに千載一遇の機会。魔理沙はそこまでわかって話を持ちかけているのだ。
「貴方……彼女から本当に大変な物を盗んできたわね」
「見たいか?」
「条件を言いなさい」
「話が早いぜ。私はお前から欲しいものがある、それを渡せばこれをやろう」
「何が欲しい?」
魔理沙はなぜか言いづらそうに少し言葉を濁してから言った。
「レミリアが香霖堂に居る」
「知ってるわ」
「あいつが猫化しているのはあの鈴のついた首輪のせいと聞いた。作ったのはお前だともな」
「間違いない」
真剣な目で、彼女はとんでもないことを言いはなった。
「私にも同じ物をよこせ」
私は何か聞き間違いをしたのかと思い問い直した。
答えは同じだった。
「正気? あれは殆ど呪いのアイテムよ。猫度が70になるまで際限なく猫化が進んでいく」
「わかってるぜ。それと注文が少しだけある」
「何よ」
「できればつけてすぐに猫耳と尻尾が生えるようにして欲しい。丸一日なんて待ってられないからな。後はそのままでいいや」
「作れないことは無いけど何故そんな物を。誰につける気?」
「交渉しているのは私だ、そこまで教える必要は無い。これが見たいか否か。それだけ答えろ」
これでいて猫のように狡猾なところがある。
「……見たいわよ」
「ならば交渉成立だぜ」
「仕方ないわね、作ってあげましょう。夕方過ぎには出来上がるわ」
「おう、じゃあ暇つぶしで久しぶりにフランドールの顔でも見てきてやるか」
「ええ。喜ぶわよ、あの子も……」
……あら?
「魔理沙、八卦炉には空気清浄作用がついたとか言ってたわね?」
「ああ。香霖がつけてくれたんだぜ、へへ」
「直ちに妹様の部屋に行って使ってきなさい」
「あ?」
「早く!」
「わ、わかったよ。なんだいきなり……」
魔理沙が飛んで行ってから、私は高い天上を仰いで呟いた。
「私としたことが」
まだかすかに残る猫いらずのにおい。
「この屋敷にはもう一人吸血鬼が居たんだった……」
案の定、猫いらずにやられてぐったりしているフランが発見された。
夕暮れの赤色に包まれる香霖堂。落ち葉のざわめきが妙に物悲しい。
明日の朝、レミリアは帰るようだ。しかし本人としてはまだ猫度の最高値が68なのが不服なようで。
「やっぱり首輪が外れるまで出て行かない」
こんなことを言い出すのだ。
「勘弁してくれよ、僕の身にもなってくれ」
「サービスしなさいよ、仮にもお得意様なわけだし」
「まあ、それはそうなのだけど」
参ったな。
一応昼のうちに出かけて猫度上昇の助けになりそうな物を買って来たけれど、正直余り使いたくない。
とりあえず今日も猫可愛がりしてみるのだが、全く不毛だ。
「顔が痒くなったりしないかい……?」
何だか色々と飽きてきて、僕は暇を吐き出すようにレミリアに尋ねた。
「別に蚤なんか居ないわよ」
「ああ、そうじゃなくてね。招き猫というものがある」
「にゃんにゃん……」
眠そうな彼女は腕だけ招き猫のポーズで、普通の声でそう言った。まあ、客は来ないけど。
少しだけ力を込めて撫でてやった。
可愛いな、と呟くと彼女は顔を赤くして、僕に丸っこい後頭部を向けた。
「何故、招き猫が手を頭の横につけるようなポーズをしているかわかるかい?」
「そりゃあ、服やら金やらを招くという意味でしょう。来い来いって」
「そう見えないことも無い。実際その意味も少なからずあるだろう。しかしこれには猫の習性にかかわるもっと大きな意味があるんだ」
「ふーん」
「中国に酉陽雑俎(ゆうようざっそ)という仙仏人鬼動植物にかかわる怪事異聞や生態をまとめた書物がある。千年以上昔のね」
「美鈴なら見たことあるかもね」
「そのなかに『猫が面を洗い耳を過ぎれば、則ち客至る』と言う言葉がある」
「へえ」
「これは猫の習性を的確に捉えているんだ。猫と言う生き物は本心では殆ど人を信頼していない、特に他人……この場合は客だね」
「まあ、確かにあんまり来客は気持ちいいもんじゃないわね。昨日の霊夢とか」
確かに大分威嚇していたな。
「猫にとって他人が来るのは気に入らないことでストレスがたまる。そういうとき猫は本能的に顔を手でくしくし洗うといわれる」
「そうなの」
「猫は感覚が鋭いから客が来る少し前にはもう来客の気配を察知している。だから猫が顔を洗って耳を過ぎる頃に来客がある、と言う言葉だ」
「ふむ、猫が顔を洗って、耳を過ぎる頃……」
彼女は自分でやってみて「あっ」と声を漏らした。
「来客のある頃の格好が招き猫のポーズそっくりだろう? つまり来客の『見立て』なんだよ」
「ふーん……じゃあ本当は客を嫌がるポーズなのか、招き猫。目的と意思が正反対なんて報われない道具ねえ」
「そう、可笑しな話だろう? 道具はどんなものにも深い物語があってね。だから面白いんだよ」
「……この店の招き猫になってあげようか?」
「気持ちだけで十分だ」
「あっそ……」
頭の重みが増した気がした。
それからいくらか話したりしたりしながらぼーっと過ごして……。
こうしている分はこの吸血鬼を飼っているのも悪くないのだけど。
爽やかな秋晴れの日に膝に乗せながら外で日向ぼっこでもできれば最高だ、なんて考えて猫が蒸発してしまうことに気がついた。
難しい、色々と。本当に難しい。
「さっきから匂うわ」
夜も深まってきた頃、そうポツリとこぼした。
「何だか僕が臭いみたいに聞こえる」
「臭いのよ。水臭い」
「胡散臭いとはたまに言われるけどね」
「ふんふん……水は水でもこれはお酒ね……それに加えて熟れた果実のあまーい香りがするわ。あの箱の裏側から」
猫ゆえに鼻もきくのだろうか。元からそうなのかもしれないが。
「ちょっと降りてくれ」
「んにゃ」
僕は箱の裏から一本の瓶を取り出した。
本当は飲ませようか迷っていたが、そこまで見透かされてるなら仕方あるまい。
「昼に買って来たんだ。もしかしたら猫度が上がるかもしれないとね」
僕は『マタタビ酒』と書いてあるラベルを彼女に見せた。
「だけどこれは諸刃の剣だ。猫にマタタビと言うと大好物のたとえ。マタタビの香りは猫にとても強い恍惚作用をもたらし……」
「飲みたい」
「待て待て、猫度が上がる可能性はある。しかし、君の体は猫化が進んでるし本当に恍惚状態になったら収拾がつかなく……」
「は、早く飲ませなさいよ! 早く! 喉からなんかいろいろ出るわよ!」
何てホラーだ。
「……一杯だからな? 体も心配だし、これは高かったんだから」
「いっぱい! いっぱい!!」
「いっぱい違いに聞こえる」
尻尾をうねうね、耳をぴょこぴょこ、ついでに翼をぱたぱたやりだした。目は最早獣そのものだ。
明らかな興奮状態である。やっぱり迂闊に持ってきたのは失敗だったかな
実際、失敗だった。
「この一杯だけだからね」
「わかってる、わかってるから早く!」
「じゃあ……はい、一杯だけ」
ぐびりと一気に琥珀色の液体は消えていった。
「うにゃ~」
レミリアはお酒一杯を一気に飲み干した途端、蕩けるような笑顔を浮かべて。
「ふにゃあっ!」
パリン!
「あっ!!」
前触れなく猫パンチを繰り出して僕の持っていた瓶を粉々に割ってしまった。
「にゃうぅぅぅぅ……ふーっ」
「や、やめるんだ! 落ち着け!」
まずい。非常にまずい。
相手は思いっきり獣返りしている吸血鬼。笑みを浮かべているが、今にも襲わんとする肉食獣の狂気に溢れている。
耳も尻尾も翼も髭もピンと立って、薄平べったくて少しざらつきそうな舌がぺろぺろ唇を舐めている。
視線の先には僕。正確にはマタタビ酒をたっぷり染み込んでしまった僕の服。そしてびっしょり顔から腰まで濡れた体。
僕にも今だけなら運命が見えそうだ。
僕は数秒後に襲われているであろうという悪夢が。
返り討ちにする? 無謀だ。腕力じゃ僕が何十人いても勝てない。
逃げる? 無理だ。絶対匂いを辿ってくる。大体向こうのほうが足が速い。
じゃあ服を脱げば? 駄目だ。それだけは自尊心が許さない。
都合よく誰かが……哀しいかな、この店にこの時間じゃ来るわけが無い。
ならば残るは。
「……捕食、か」
絶望に浸って呟いた瞬間、狂喜を含んだ無邪気な笑顔の猫が、僕を叩き付けるように押し倒した。
「できたわ、魔理沙」
私は引っつかむように紅い首輪を手に取った。鈴がりんりん鳴る。
先ほどから空気浄化カプセルに入って療養中のフランが物珍しそうに見てきた。
「おお、これか……よし早速つけてみるぜ!」
「え? 誰かにつけるんじゃなくて、自分につけるつもり?」
「決まってるじゃないか」
「今回のは誰でも一回つけたら外れなくなるわよ?」
「いいんだよ。70まで行けば外れるんだろ?」
「魔理沙ー、何なのそれー?」
「ああ、これはな、猫になるアイテムだぜ。フラン」
「魔理沙ネコになるの?」
「おう、猫になるんだぜ。ちょっとした諸事情って奴だ」
約束どおりアリスのグリモワールを渡したが、相変わらずパチュリーは訝しげな表情だ。
「ねー、魔理沙ー」
「ああ? 今度は何だ?」
「魔理沙がネコなんだよね」
「まだ猫じゃないが、いずれな」
「攻めるのは誰かな?」
「攻める……?」
「あ、あのね、それはね、ちょっと意味が違うのよ」
なぜかパチュリーが慌てだした。フランはそれを見てニヤニヤ笑っている。
私が首をひねっていると、フランは「し・か・え・し」と小さく呟いた。
さっとパチュリーのただでさえ白い顔が青ざめた。すぐに赤くなった。
「仕返し? ああ、何日も放置されてたことかい……」
「ちょっといい? よく聞きなさいよ? 別に貴方のことを忘れてたわけじゃないわ。レミィのことでその、ごたごたしててね?」
「別にいいけど~。それよりネコは」
「ああ、違う。それは違うんだってば」
「何か楽しそうだな、お前ら。私も混ぜて欲しいんだぜ」
「え~? パチェ教えてくれたじゃない。ネコは受けだって。嘘だったのかなあ?」
「それは、一応、嘘じゃないけど……」
「話を聞けよ。よくわからんが属性の話かなんかか? パチュリー」
「まあ……ええ……属性といえば、その」
「何か難しいこと教えてるんだな。私の記憶では確か鼠の属性は水だったからそれに対するものと考えると猫は……」
「……ゴホンゴホン、ここは知識で一杯だから」
「いろんな本があるもんね。いろんな。魔理沙も今度パチェ教わったら?」
「それもいいかもな。知識はいくらあっても損じゃないんだぜ。それに知識と努力があれば最強だよな!」
「最強よね。とりあえずネコについては教えてあげようか?」
「おう、知りたいぜ」
「ちょっとまちなさい! そこまでよ! 魔理沙は口が軽いんだからそんなの絶対駄目!」
「あれれえ? パチェなんで嫌がるの?」
「酷いんだぜ」
「駄目なものは駄目なの! 調べたかったら自分で何とかしなさい! それとグリモワール調べるから出て行って!」
「やれやれ仕方ない、追い出されるとするか。このままじゃフランにおいてかれるかもなあ。そんじゃ頂いてくぜー!」
「魔理沙、ばいば~い。今度教えてあげるね~」
小悪魔っぽい笑みを浮かべるフランと何か落ち着かないパチュリーを尻目に、意気揚々と私は紅魔館を飛び出した。
「ふー……ふー……」
とろんとした表情で僕の上に押しかかるレミリア。
やっぱり猫化が進んでいたのか、マタタビ酒は必要以上に効いたらしい。
「あの、降りてくれないかい?」
「ね……ねえ……?」
ちゅうと服の酒を吸い、彼女はやけに艶っぽくささやいた。
「私、催してきちゃった……」
「トイレかい? そうか、あの角を左に曲がったところにあるから、すぐ行くと良い。すぐに」
「もうずっとしてなかったから……」
「それは大変だね。病院にいきたまえ。ずっと向こうの竹林に良い医者が居る。急患扱いしてもらうとなお良い」
「ふー……ふー……貴方のせいなんだからね?」
ザラリと猫の舌が僕の首筋を舐めた。
全身に鳥肌が立った。もがいてみたが、四肢を押さえつけられた。
「……いただきまーす」
容赦なく唇が僕の体に吸い付いた。
夜の猫は全て灰猫であると語ったのは誰だったか。黒白から宵闇の灰に塗りつぶされた私はふと思った。
向こうには灰色の香霖堂が見えてきた。
「よし、ここいらでつけてみるか」
首輪をつけると勝手にりぃんと鈴が鳴った。
瞬間、お尻と頭の辺りがもぞもぞしてきて、ぴょこんと尻尾と耳が生えた。
「ほお、私は垂れ耳なのか」
個人差と言うものが有るのだろうか。少なくとも色は個人の髪の色に依存しているみたいだ。
私は興味津々に帽子からはみ出した、夜色に染まりながらも金色を残す耳をつまんでみた。
ふに ふにふに
「……にゃうっ!?」
体に電撃のようなものが走って、私は戦慄く体を抑えるようにその場にうずくまった。
何か変な声が出てしまって、今更口をおさえてみたりしたが後の祭りである。香霖堂まで聞こえてないと良いけど……。
あー……心臓に悪い。
「猫度は……と」
66になっていた。
霊夢の話だとレミリアはもっと低かったらしい。私は元々猫度が高かったのかもしれないな。猫っ毛だし。魔法使いだし。
この分じゃ外れるのも早いだろう。
……尻尾がスカートをめくり上げているのが気になる。後ろからはドロワーズが丸見えじゃないか。
まあ、今のところ誰も居ないし後で何とかすればいい。
「妙に騒がしいなあ……?」
香霖堂の前。
興奮した感じの猫の声に混じって何だか暴れるような音がする。心なしか香霖の荒げた声も……まさかそれは違うよな。
いつもこんなものなのだろうか。私は夜に猫の声が、としか知らないし……。
ちらりと手の平サイズの紙を見る。
全て言葉は決めてきた。この後のやり取りの計画も、昨日の夜、念入りに練った。
まず入る。レミリアは居るだろうが無視だ。
私は耳と尻尾を見せてパチュリーのところに行ったらうっかり呪いをかけられたという。
私も猫度を上げないとこのままだ。それじゃ困ると泣きつく。
どうせ香霖はろくに断れない奴だ。レミリアにできて私には猫修行させてくれないのかといえば追い出すことはできない。
後はなし崩し。レミリアはどうせ明日帰る。つまり明日からは私と二人きりだ。
今はレミリアの居る香霖の膝の上も、元々は私の場所なんだ。もう昔の話だが……。
兎も角これで明日からは再び私のものにできる。
「ふふふふふ……」
……そして、私もなでなでしてもらうんだ!
意を決して呼び鈴を鳴らした。
耳を隠す帽子を引っ掴んで飛び込んだ。
困った表情を作ってから、叫んだ。
「香霖助けてくれ! 私も猫の呪いをかけられて……!」
そこには。
かぷりと僕の首筋に何かが食い込む音がした。
「はー……久しぶりだわ……」
ちゅ、ちゅ、と滴り始めた血を舐めとっていく彼女。
僕は今、吸血されているのだ。
……なんて状況分析してる場合ではない。
「やめろ! 僕は吸血鬼になる気は無い!」
「うん……やっぱり血は絞りたてが一番……」
「くっ……」
「半妖の血……凄いわ。極上よ……カフェオレよ」
なんてありがたくないハーフだ。
深くてゆっくりとした呼吸が皮膚に焼きつく。僕の話を聞く気は全くなさそうだ。
こうなっているのも猫ゆえにマタタビ酒が効いたせいであろう。そのせいで思考が曖昧になっているのだ。
ということは猫化を解けば彼女も正気に戻るのは自明。
しかし、彼女の猫度は69まで来ていて止まっていた。
まだあと少し足りない。
もう近くに猫度を上げそうなアイテムは……無い。
「……くそっ!」
僕が破れかぶれで取った行動は再び『猫可愛がり』だった。
もうそれしか思いつかなかった。
密着してくるレミリアの背をひたすらごしごしとなでる。
そういえば猫の気持ちよく感じる場所は首の後ろらしい。彼女もまたそこを撫でると落ち着くのだ。
僕は撫でる場所を首の後ろに変えて、やや強めに素肌を撫で回した。
藁をもすがる思いだ。
……あと1ポイント上がってくれ! 頼む!
「よーしよしよしよし、可愛いなあ、可愛いから早く猫度を痛ッ!」
牙が余計に深く食い込んだ。
「よしよしよしよし……!」
喰いちぎられる痛みに苦悶の表情を浮べながら僕は再びなで続けた。
先ほどより表情がとろんとしてきたように見えたが、隙を狙ってもがいてみても結果は同じだった。
「誰か……誰か……!」
「にゃあ~」
まずい、本格的に危なくなってきた。
こんなぼんやりした状態で頚動脈でも喰いちぎられたら、大変なことになる。
半妖は人よりちょっと体が強いくらいで、妖怪みたいに四肢が千切れても大丈夫と言うわけにはいかないのだ。
仮に大量出血でもしたら……助けてくれる者がやってくるとは考えにくい。レミリアが助けてくれる可能性もゼロだ。
もしかすると死ぬかもしれない。吸血鬼化する可能性も無視できない。
もう、仕方ない。
「……許せ!」
目の前の猫耳を、力の限りギュッと掴んだ。
気持ちよさそうな半目がカッと開き、レミリアはビクビクと思いっきり体を反らせた。
「にゃああああぁぁぁん!!」
――カランカラン
「香霖助けてくれ! 私も猫の呪いをかけられて……!」
メイド長はいないはずなのに、時間が止まった気がした。
「や、やあ……魔理沙」
「……」
「ふにゃあ」と言ってレミリアは僕にまたがった状態から横に倒れ、床に落ちたマタタビ酒に酔った。
僕はようやく自由になった。
助かった……か?
「おま……お前……やっぱり……レミリアと、レミリアと……!!」
助かってない。
「よし、落ち着いてそこにでも座ってくれ。誤解を解こう」
「にゃあ」
レミリアが僕の手についたお酒をぺろぺろ舐めてきたのを見て、魔理沙はぶわっと涙を浮べた。
気持ち悪いほどの無表情で笑い始めた。
「はは、ははははははは……」
「魔理沙、実はこれはマタタビ酒のせいで」
「わかんない、あーわかんない、あははは」
「あの、話を」
「香霖……私は駄目で、レミリアは良くて、私は駄目で……なんでなのか分からないんだぜ……?」
しばしの沈黙。
ちょいちょいと袖が引かれた。
そちらを向くと僕の血をうっとりと眺める吸血鬼が。
「もっと欲しい……」
そう呟くや否や、再び僕は押し倒された。
「ま、魔理沙! 助けてくれ! このままじゃ僕は……!!」
「なんだ、おまえら、わたしに、なかのいいとこ、みせて、たのしいか?」
「魔理沙ー!!」
「あれ? あれれ? わたし、せっかく、せっかく、ねこに、なったのに? だめ? なんで? どうして?」
「もう、どうすればいいんだ……」
ボロボロと魔理沙の涙の雫が落ちては跳ねた。
レミリアは再び僕の首に吸い付いた。
僕の喚きは誰ひとり聴いちゃいない。
そんな中、紅い悪魔が火に油を注いだ。
「そこの……黒いの」
「あ……?」
「不吉な黒猫は……さっさと消えなさいな」
「っ……!」
「首を突っ込みすぎると……クスクス……好奇心は猫を殺すとね?」
自らの紅い爪をチロチロ舐めながら憂鬱混じりの不敵な笑みを魔理沙に向ける彼女。焦点の合わない紅い猫の瞳が妙に怖い。
マタタビとお酒の酔いが変に良い具合に回ってきたのか、性格まで猫の例えの悪女っぽくなってきた。
居るんだよ、魔理沙とかみたいに。酒に酔って意識が朦朧としてくるとかえって饒舌になって普段は言わないようなことを言うタイプ。
しかしレミリアもこの狡猾な感じが平常時に欠片でもあれば……なんて馬鹿なことを考えてる場合では無いか。
なんにせよ、僕にとっては非常にありがたくない状況だ。
「ふふ……」
僕の首に腕を絡め、熱っぽい息を吹きかけながら彼女は頬ずりしてきた。
ただ一言。
助けて。
「わからない? これはもう、私のものよ」
「そんな」
「パチェが言ってた。黒猫はね、孤独であればあるほど黒くて綺麗になるの、闇と区別がつかないほど真っ黒に。誰にも見えないほど真っ暗に」
「何を言いたい!」
「貴方には孤独がよく似合うわって言ったのよ! ハハッ!」
ほら、今度は火にニトロを注いだ。
もう嫌だ。
「ううう……うぐ……ヒック……うええええ……」
泣きじゃくりながら、魔理沙はくるりと背を向けた。
待てと言うのに聞かない。僕のほうが泣きたくなってきた。
金色でフサフサの尻尾が毛を逆立ててマフラーのように膨らんでいた。
君は黒猫じゃないだろ、と言ったが話を聞いてくれない。
どうか帰らないでくれ。帰られたら僕は複数の意味で明日の朝日を拝めなくなる!
「魔理沙! 行くな! 助けてくれ!」
「ぐすっ……香霖……?」
「疫病神は帰りなさいよ!」
「うあ、うあ、うああああぁぁぁぁ……!」
「魔理沙! 魔理沙ー!!」
「ぐすっ……! レミリアの泥棒猫ぉ~!!!」
――カランカラン
絶叫しながら脱兎のごとく魔理沙は夜の森に駆け出して行った。
パサリと置き去りにされた帽子が地面と接吻した。
「終わった……か」
魔理沙、せめて君にもあの白い恋人とか言う御菓子、食べさせてあげたかったよ……。
ああ、ついでに霊夢にも。
僕は何だか妙に穏やかな気分になって、体の力を抜いた。
首の辺りがぬるぬると生暖かい。意識も何もかも溶けてしまいそうだ。
僕がもし変に死に損ねて吸血鬼になったらあの二人はどう言って来るのだろう。
まあ、中途半端な半妖よりも純粋な妖怪のほうが将来的には良いかもしれないな。
「もう、好きにしてくれ」
僕は目を瞑った。
りぃん
「ん?」
「あら?」
目を開く。
僕の腹の上には文字盤に70と書いてある首輪が落ちていた。
猫の耳諸々は完全に消えていた。
「泥棒『猫』……」
「なるほど……」
波乱の猫修行の日々はあっけなく幕を閉じた。
余談であるが、飛び出した魔理沙猫を捜索したところ友人のアリスに捕獲されていたので、安心して任せておいた。
首根っこつかまれた魔理沙が僕を必死に呼んでいたのは何故だろうか。「助けてくれ」って。
「あのね? 魔理沙はちょっと気が動転しちゃってるの。大変ねえ? でも私に任せて。すぐどうにかしちゃうから。すぐに。クスクスクス……!」
アリスはそう言って自宅の方へ魔理沙を引きずっていった。怖かった。
妙に禍々しい目つきをしていたが、まあ魔法使い同士なら何とかしてくれるだろう。解決は彼女に任せるのが一番だ。
別にあれほど僕が助けてと言っても、助けてくれなかった魔理沙への腹いせではない。
そういえば何で魔理沙は猫になっていたんだ……?
翌日、嬉しそうに、しかしちょっとだけ寂しそうにレミリアは帰っていった。
「また来るわ」と言ってくれたので、これから少し収入源が増えると思えばこれまでの苦労も癒されると言うもの。
きちんと次はお財布を頼むよ。
レミリア。
この館の名前は紅魔館。
英語に直すとThe scarlet devil mansionとなるのであろう。
私はもうここでメイドを何年もやっている。時を止めている時間を含めたら……怖いから考えるのはやめた。
さてさて、日本語とは面白いもので、英訳したものが全く別の意を持つことがある。
館は英語でmansion。しかしマンションと言うと、借家の方が一般的なのだ。
私はマンションに住んでいます。I live in a mansion。これは英語圏の人間にしたら大きな違いが出る。
で、何を言いたいのかと言うと、やはりここはマンションだったのではないかと言うことだ。
無論日本語の意味である。
「こら! 起きなさい!」
「ふわ……ひゃー!」
妖精駄メイド共のマンションなのではないか、と。
「仕事中に廊下のど真ん中で眠りこける奴があるもんですか」
一目散に箒を持って逃げていった妖精メイドを見送りながら私は呟いた。彼女はこれで前科45犯。哀しいかな、平均よりずっと良い。
自分の身の回りで精一杯の彼女たちをこんなに雇ってやってるなんて、お嬢様は慈善がそんなにお好きなのか。
家賃無料、衣食つきなんて好条件、恐らく外の世界にも数えるほどしかあるまい。
「昔の方が楽だったわ……」
所詮妖精。メイドを雇って楽になるかと思いきや、私がほかのメイドを叱る手間が増えただけのような気がする。
これは予想していたことだ。妖精とはそんなものであると散々知っていたから。
もともと私と美鈴と元からいたメイドで何とかなっていたのだから、更に雇う必要性は無きに等しかった。
だから私は、お嬢様が妖精を雇おうと言い出したとき強く反対した。
『そこまで新たにメイドを雇いたいなんて私に何かが足りないのでしょうか。そうならば言ってください。死ぬ気で直しますから』
私は少なからずお嬢様にいただいた完璧で瀟洒という二つ名が傷つくのを感じながら食い下がった。
だけどお嬢様は言っていた。『貴方は完璧すぎる。完璧なものは美しいし素晴らしいけどそれだけでは飽きてしまう』と。
私はもうそれで言葉も出ず、メイドたちの雇用を認めた。
何か行動するたびに時間をとめてこれからすることを吟味して……なんて完璧になろうと努力してきた私は、もう不完全にはなれなかった。
傍目に見て間抜けなことをすることはできても、それは演技だ。お嬢様はそれを嫌うだろう。
完璧で間抜けなひとつの存在というのは矛盾でしかない。
天才奇術師は最早、道化になれないのだ。それは自分以外の誰にも許されないことだから。
お嬢様はああいう不完全なメイドの間抜けなところや、私が冷静さを崩して怒ってしまう光景を楽しんでいらっしゃるのだ。
確かに彼女たちの行動はのらくらしてて腹立たしいところもあるが、かわいらしいところもある。微笑ましさがある。
ああ、しかし気のせいだろうか、彼女たちに釣られて私までもが最近いろいろと天然ボケが入ってきている気がする。
……なんて言ったら「今更そう思うことこそが天然ボケじゃないかい?」と、どこぞの店主に呆れた顔で茶化された。
いや、実際全くその通りで。私は苦笑するしかなかった。
あれで客のことをちゃんと観察しているのだろうか。
先日、もう全身毛も生えて完全に猫になってしまっただろうかと心配しながらお嬢様を引き取りに行ったときの事である。
彼女たちの存在は極論、観葉植物とか愛玩動物とかとあまり大差ない。
食事代を犬に請求する飼い主なんていないもの。そりゃあ好条件になるわよね。
つまるところ慈善だ。やっぱりお嬢様は慈善家だ。住人があんなのばかりでもやめさせず住まわせてやっているのだから。
まさにスカーレットデビルマンション。カタカナで想像すると安っぽさが5割増しになった。
空き部屋あります、なんてね。想像したら哀しくなってきた。
兎も角、あのメイドにはお仕置き決定。
「今日は私のナイフを千本とがせてやろうかしら」
「千本針の山」
「あらお嬢様、全然関係ないですけど、お早うございます」
「変に言葉を挿入しない」
「天然ボケてみました」
「天然ツッコミってあるのかしら」
「さあ、今度探してみますわ」
「紅茶に入れないでね」
「左様ですか」
いい色が出そうな気がしたのだけど。
「出かけるから」
「はい、傘を」
「うん」
「雨は降りませんが日差しが強いので注意してくださいね。あと夕食はいつも通りの時間ですので」
「はいはい、それまでには帰ってくるわよ」
「それでは、いってらっしゃいませ」
「行って来る」
満足げに笑みをこぼしてからお嬢様は悠々と門の方角に歩いていかれた。
「さてさて、どこへ行かれるのでしょうか……?」
私は、お嬢様を一人で行かせた。
いつもと違って、お嬢様が張り切っておめかししていた姿を知っているから。
いつもと違って、普通は起きている夜に眠っておいたことも知っているから。
それなのにいつも通り、私もついていきますと言えるわけがないでしょう。私は瀟洒なのだから。
私の疑問は、既に疑問ではなかった。
どこへ行くかって? そんなの決まってるじゃないの。
でもその答えを頭に浮かべてしまってはいささか無粋と思ったので、私は思考を切り離すことにした。
向こうで寝転んでいた今日の駄メイド二号に怒声を浴びせることで。
何故か私は微笑んでいた。
お気に入りの服を着た。
なれないお化粧もやってみた。
咲夜の使ってる香水も拝借して使ってみた。
今の私はまさしく完璧だろう。完全な淑女だ。もう子供だなんて言わすまい。
あいつに言われるとどういうわけか無性にむかつくのだ。
よし、と小さく呟いてから私はその『あいつ』のいる店の扉を開いた。
――カランカラン
「やあ、いらっしゃい」
「レミリア……か」
「レミリアじゃないの」
紅白と黒白の先客がいた。二人とも変だった。
魔理沙は蒼白な顔色で目が死んでる上にガクガク震えているし、霊夢は何故かあの首輪をつけて猫耳と猫しっぽを生やしていたりした。
おまけに両方とも私になんだか敵意のこもった視線を向けてきている。
「何よ、二人とも私のことじろじろ見て。何か言いたい事があるのかしら?」
「別に……何も無いぜ」
「無いってば」
「ところで霊夢は何で猫になってるの」
「別にいいでしょ。暇だったしね。あ、猫だと来客が気に食わなくなるって感情はよーく理解できたわ、霖之助さんが言ってたの」
「こら、霊夢も魔理沙も、彼女は大切なお客様なんだから喧嘩を売るようなことをするんじゃない」
ばつが悪そうに霊夢は尻尾をたらした。魔理沙はぼうっと宙を眺めながら意味不明な呟きをはじめた。ちょっと怖い。
私は叱られてしょげた二人をかわるがわる見た後、幽かに笑んで、彼の座る椅子の方向へ悠然と歩みを進めた。
二人は一旦やめたあの視線を再び私に投げ打った。
だけど私はそれが不快には思えなかった。
むしろ快感といったほうが正しいのかもしれない。嫉妬か羨望か、そんなもの、私の優越感をそそるだけ。
それは悪魔にとって最高のデザートでしかない。
私は彼の目の前でとまって、じっと見上げた。
彼は少し首をひねってから、「ああ、お茶が欲しいのかい」と尋ねてきた。
私は首を横に振った。唇を震わせる魔理沙と機嫌の悪そうな霊夢の姿が視界に少し入ったけど気にしないことにした。
「お財布は持ってきた」
「ありがたい。ぜひ品物をじっくり見てくれ」
「私はお客ね?」
「そうだね。大切かつ貴重なお客様だ」
「なのにそのお客様へのサービスがなってなくてよ?」
「サービス?」
「私にも座るものが欲しいわ。ふかふかの椅子をね。この前の硬い長椅子みたいのは駄目よ、私はもう猫じゃなくて貴族様なんだから」
「椅子か。すまない、魔理沙や霊夢は勝手に箱やら樽やら品物やらに座るから失念していたよ、今用意する」
「いいわ、既に用意されてるから」
「ん? どういうことだい?」
私は彼の読んでいた本を跳ね飛ばした。
そしてできた彼の膝の上の空白にポフンと座った。
「こういうこと」
私の行動に言葉を失ったのか、彼は何も言ってこなかった。
霊夢と魔理沙が表情を硬くするのがわかった。
「いいでしょ? 私はお客様なんだから」
「……ま、確かにお客様だからね。ふかふかかはわからないが僕の膝でよかったらお好きなように……」
「よろしい。それじゃ、私に何か面白い話のひとつでもしなさい。サービスで」
疲れたようなため息がひとつ後頭部のほうから聞いた。
私はもう何度目かのぎらつく視線を送ってくる二人に、全世界を食ってしまいそうな、ひたすら傲慢な笑みを向けた。
あのクッキーよりも更に甘美な時間。
「君は、やっぱり悪魔だよ」
私はクスリと笑い「当然でしょ?」と嘯いた。
れみりあかわいいーーー!!
こうりんころすーーー!!!
魔理沙はアリスに何されたのかが気になる。
まぁ、蝙蝠の羽生やした猫がいてもいいんじゃないでしょうか。
……あくまだけど。
とりあえず香霖殺ってきますので誰かビームライフルをください
猫っぽいレミリアがかわゆくてたまんない…!
これはもう、最高としか言えない。
しかし自分には猫耳属性なんてなかったはずなんだけど・・・
レミリア、おそろしい子!
レミィかわいい
フランちゃんかわいそうでも仕返しワロタ
素敵なお話でした
あと黒白自重ww
ネコレミ可愛かった~~。
あっ、私に「ハイメガバズーカー」貸してくれる人いませんか?
香霖堂で使いたいので・・・
あ、ちなみにおかわりは受付中です
かなりの量でしたが楽しく読めました。次は魔理沙に幸せを・・・w
あと香霖のポジションはこ ろ し て で も う ば い と る。
なんとコメントしたら良いんだ……。
テラエロスこーりんコロス
とまとめておくか。
ああ、猫お嬢様、かわいらしすぎて死んだ。⑨回死んだ。
あと、誰か自分にファンネルの使用許可をください
ついでに自分がいかに物を知らないかも痛感しました。
森近店長、馬鹿な自分にぴったりな雑学の本を入荷してください。
あと、小悪魔なフランちゃんも良い。
いいぞ、もっとやれ
いいぞ!もっとやれッ!
一気に読んでしまった。ご馳走様でした。
アリス怖いよアリスw
第十二使徒・こうもり猫の猫度が気になるところです
ちょいちょい出てくる薀蓄も面白いし、最後まで通してニヤけっぱなしで読みました。
次があるなら超期待。
とりあえずてめぇら、こーりん殺りにいくぞついてこい。
しかもネコ☆れみっすか?最高です!
魔理沙には貧乏クジだけど修羅場はラブコメに大事なエッセンスですよねw
長いSSでしたが、随所にクスリと笑えるところがあって飽きずに楽しめました。
よろしければ、またの投稿お待ちしてます。
レミリアもものすごい可愛いwww
それにしても香霖とレミリアがこんなに相性の良いものだったとは・・・ッ!
猫レミリア可愛すぎるよ猫レミリア。
次回作も期待して待ってます。
ほんとに面白かった。
レミリアかわいすぎだろ……カリスマは残念だが。
そして魔理沙……ご愁傷様。
とりあえずレミィと魔理沙の好感度500%UP
死ぬかと思った。萌で。
心が面白いぐらい色んな意味で洗われました……主に桃色の何かで。
豆知識が増えてちょっと嬉しい作品でしたw
読んでいて何度も悶絶しましたww
もうほんとごちそう様でした。
ちりばめられてる雑学が素敵。
白い恋人…この夏、買った直後に例の事件。
俺が返品した奴も幻想郷に行ったのかな。
猫のパーツは髪の色になるというが、霊夢は三毛だと思う!
レミリアが可愛いとか、魔理沙(笑)とか、そういえばパチェと妹様はその後どうなったんだ? アレか? ん? とか、
言いたいことは山ほどあるわけですが、何が一番スゴイって、香霖がちゃんと香霖っぽいことだと思います。
あと黒猫は僕が引き取っておきますね。
香霖とあわせるとまじでやばい!最高でした!
しっかしこの首輪色んなキャラにつけてみたいな。
起きてる内はそれほど擦り寄ってきたりはしないのに、寝ていると胸や腹の上に乗って
丸くなる、実にツンデレな実家のネコが恋しくなってきました。
フランちゃんのネコに吹いた
あとこーりん殺す
つまり何が言いたいかというと猫レミリアのカリスマは神クラスだということだ
しかし香霖は愚痴を言いつつ誰かの面倒を見るのがやたら似合うなw
最後に一言
( ゚∀゚)o彡゜レミ霖!レミ霖!作者は神!
魔理沙と咲夜はちょっと不憐
っと、霊夢お前もその気がw
素敵なお話でした~ありがとう~
あとこーりんはころす
あとこーりんころす
…悪い。中盤ダルくなって魔理沙登場まで飛ばした。
俺にはどうも長すぎたようだ。冷静な霖之助はGood。
すばらしい作品有難う御座いました。
猫レミリア、猫魔理沙、猫霊夢みんな手ごわそうですが、
結局一番懐きそうにない猫は霖之助だと思うんだ。
久々にその感覚を味わいました
あんたは最高だ!(100点)
各キャラの情景が目に浮かぶようです!
他のキャラ話も読んで見たいと思う筆者さんだと思いました。
次回も楽しみにしていますっ!!
思わず計算が間違ってないか感想の点数を足してしまった
この死屍累々の半分以上は間違いなく霖之助
ちなみに私の名前は「猫又」ではなく「猫叉」です
にゃあ
贅沢な作品ですね。
次回作も楽しみにしてます。
こーりん変われ!
魔理沙、霊夢、アリスは出さない方が話が締まったんじゃないかとも思いますが、禰宜や泥棒猫のくだりは良かったです。
個人的にはカフェオレ(ブレンド)の件がよかったです。
呪いの所為で懐かないといけなかったけど、もしレミリアが猫だったら、絶対
「触らせてくれない気難しい猫」
になりそうw
うん。まあ要するに何が言いたいのかというと…………猫萌え
うーん、あなたにかんぱいwww!!!!
薀蓄たれまくっている霖之助も最高でした
俺の魔理沙が不遇な以外は全くケチの付け所が見当たらない作品。
これからも期待してます。お見事でした。
アリスも猫度高そうだなぁ……
レミ霖最高!!
キャラが実にいきいきしていて、読んでて思わずニヤけましたw
節々からかなりの筆力を匂わせつつも、余計な描写等を省いた無駄のないスタイル。WEBにおいてはこういう書き方もアリだなぁと感心致しました。
言葉のチョイスが非常に洗練されているからこそ可能であり、中々真似できそうにないですが。
いやもう本当にご馳走さまでしたw
ギャルゲの世界まんまだったのは楽しめなかった。
とっても面白かったです。
とりあえず香霖が千の風にならなくて良かった・・・
大爆笑。
お見事でした
ハァハァハァハァノ\ァノ\ァ
ぬこぉぉぉぉぉぉ!!!!
こうりんころす
もちろん私の理性が
猫で始まりから猫で終わる心地よいほどの流れ、
長いながらも読み手を飽きさせない様々な手法、展開
どれもが最高峰だと思います。
これにキャラ萌え要素満載なんだから正に強靭☆無敵☆最強
まあまず猫談義ありきな作品なのかも知れないけど。
そして香霖×レミリアという新境地を見た!
嗚呼もう香霖が羨ましくてうぎぎ
とても面白かったです! そして・・・
萌え死なせていただきましたッ!
こーりんころす!!
最後の一幕をみる限り、お嬢様の猫度は確実に上昇したっぽいな
あとこー(ry
そっけない態度のくせに霖之助が見える場所にいたりする(作中最後)。
なんかネコネコ霊夢もいいんじゃないかって思えてきたZE☆
やっべ!レミ霖最高!!!www
キャラ同士のテンポの良い会話で飽きずにどんどん読んでいけた。
そしてレミリアでニヤニヤできて非常に乙だったw
ところで、フランの“ネコ”話はアリスのお仕置きのフリだったりするのでしょうかね
魔理沙はアリスのお仕置きで“ネコ”度があがって首輪が外れたとか
そしてねこ霊夢を頂きたいのだが、よろしいでしょうか?
あと、レールガンの準備は万端だ。諸君、ついてこい
「れ み に ゃ 萌 え」
次回作が出来たら是非とも拝見したいところです
最後に、この作品と出逢わせてくれた作者様に盛大な感謝を
魔理沙…w霊夢…w
よし、こーりんころす。
「猫も杓子も」は「女子も弱子も」が語源だと思ってる。
そんな私はみなぎりゃー。
ああ! いいなぁ! ねこかわいいなねこ!
あとこーりんころす
ここまで遊び心満載の作品は新鮮でしたが、しっかり完成型で驚くほど読了感が良かったです。
もう最高としか言いようがありません。
参りました。レミリア様カリスマ爆発でした。すばらしい。
香霖堂マジ羨ましいってレベルじゃねぇぞ!
欲を言えば、前半と後半で話の主軸が変わりすぎたのに違和感を覚えたくらいでしょうか。
なんにせよニヤニヤがとまりません。
1000点上げたいぐらい
色々な雑学が非常に面白かったです。特に猫も杓子も、のくだり。
それに、クッキー食べながらの会話のあたり、まるで本家そのもののようでした。
さて、こーりんもお嬢様とお揃いのネコ……根の子にしてあげましょうか。
KARASAWAプラズマライフル準備オッケーっと……。
ネコれみりゃ萌え。
霖之助さん萌え萌えでした。
雑学が豊富で読み応えもあり、楽しませていただきました。
最後の締めまで堪能させていただきました.GooD job!!
と言う
猫大好きスカーレット姉妹大好きな私は100回は萌え死んだ
れみにゃ可愛いよれみにゃ可愛いよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
百点どころか一万点くらい入れたいよ、いやマジで
文句なく100点!
ここからの魔理沙の逆転を期待した俺完全アウェーで涙目wwww
それにしても最後のシーンのこーりんはハーレムに見えるが、結局三人を女性としては見てないっぽいな。なんという朴念仁
ざっと挙げるだけでも
「魔理沙のペット」「変な色の紅茶」「霊夢の修行」「新聞購読」といった
「香霖堂」「三月精」「儚月抄」などの
非常に多くの原作小ネタが散りばめられている事に感銘を受けました。
霖之助はロクに本編も読まれずに書かれる事が多いキャラクターなので特に顕著ですね。
この再現率はお見事です。
皆台詞がらしくて秀逸。
猫耳お嬢様とか反則でしょwww
あとこーりん、その役おれによこせ
こーりんも原作っぼいし(変態こーりんは嫌いです)
とっても面白かったです。
必死な魔理沙はかわいいなぁー
GJ!
レミ霖…うぎぎwww
そしてさりげなく伏線を回収しているところも素晴らしか
あとこーりんころす
ここまで嫌悪感無く最後まで読めたのは初めて。
それはそうとやっぱりこーりんその役目代わってw
ひゃっほう。
ハラショー。
ブラヴォウ。
ただアリっちゃんのグリモワールがどうなったかがすんごく気になるのです。
そうかこれはアリパチュフr(ry
特に霖之助の薀蓄具合。
総合的に見ると文句のつけようは皆無ですが・・・魔理沙が不憫でしょうがない
次回では是非魔理沙に幸を
結構読んだつもりでいたのに、スクロールバーを見たら四分の一も消化してなかった…
それほど長い話なのに、むしろ「嘘みたいだろ・・・こんな面白い話がまだまだ続くんだぜ・・・」
てな具合で楽しく読めました。
公開出来る日はくるだろうか・・・
その前に作者の許可が必要か
あと、こういうこと本当はダメだけど聞きたい。上の二方、本当ですか?そうだったら俺歓喜w
いい作品です
そっちかw
だが、レミリアと代わってもらうのは俺の方だ。
おのさんやチェさんらの霖の字同盟を介して発見、そして大満足の時間を堪能しました。
やっぱ甘くてラブラブなのが好き!!霖ちゃん好き!!猫レミ好き!!みんな大好き!!!
作者偉大です!!!!
レミリアが「猫」というきっかけで、ここまで変われるとはwww
やっぱ霖之助は保護者がしっくりきてるし、魔理沙の嫉妬が可愛く見えてきて、
こんな異変なら毎日来てもらいたい(笑)
「猫になれば、霖之助に優しくしてもらえる。」という考えが浸透し→パチュリーの猫化の首輪の需要が高くなり→猫娘が増える=幻想郷猫王国が成立!!………なんて考える私はもう末期だ…www
最後に、素敵な小説をありがとう^^
レミリアも魔理沙も霊夢もフランもパチュリーも可愛すぎるwwwww
猫霊夢の話も読みたいなあ・・・
本当に面白いレミ霖でした!
霖之助さんの性格もバッチリでいうことなしです!
香霖は・・・泣いてなんかない、目から
水がでてきただけだ。
だが香霖は惨殺します^^
今更噂の猫談義を見つけ、いいじゃないかこの二人!!
やられたぜ…
もうすぐ霖之助の時代が…来るっ!!!!
>441 手伝います^^
ねこかわいいよねっ
実に夢のような数時間(読書時間)…甘甘なレミ霖を堪能させてもらいました!!
なんか魔理沙が可哀想な気もしないでもないけど、猫れみりゃがかわいかったので良しとしよう(マテ
長い文章なのに、それを感じさせないテンポの良さが見事です。どこかおバカなレミリアと
冷めているようでお人好しな霖之助のやりとりが実に微笑ましい。あと、女性キャラ達がレズ
じゃないところもgood(笑 東方=百合みたいな流れにウンザリしていたので。
ともかく、素晴らしい作品をありがとうございます!
あと、ちょっとこーりん殺したいので誰か俺にN.E.Pを貸してくれ
これは秀逸なレミ霖w ニヤニヤが止まらないww
ページを誤クリックして良かった
後悔はしていない!なぜなら!
これ以来一度もレミリアで萌えなかったことはないから!
今まで見たレミ霖の中で一番面白いですbbbbbbbbb
100点じゃ足りない!超GJ!!!!!
香霖も良いキャラしてたし文句なく満点。
流石はレミ霖の聖典と名高いだけはある。魔理紗と霊夢は気の毒だが仕方ないw
にゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃ~~~ん!!
がっつり最初から読んでしまったら日付が変わっていた。
教えてくれ……俺は後何度萌え死ねばいい、レミィは何も答えてくれない……
レミ霖ハラショー
みそ汁のくだり辺りのレミリアの心情が最高です。
そんなレミリアが火傷しないように鰹節を混ぜた関東風にしてやるという霖之助もひどくはないがひどいw これは笑ってしまったw
え?レミリアと霖之助たちの話はって?
聞くまでもないでしょう、頬が緩みっぱなしですw
キャラが立っててとてもいい東方二次でした
蘊蓄も面白かったです
レ!ミ!霖ンンンンンンンンンンンンンンンンン!!!最高。
お嬢様にも悶えまくったよ。
うん、猫飯でもなんでも食うよ!
従者の容赦ない主人評価にも
魔理沙はまぁ自業自得か、むしろ被害者のアリスがあわれ
しっかりと仕返しはしたようですがw
実にいいレミ霖でした、百合要素がなかったのもGood!
レミリア・・・俺とかわってくださいおねがいしまする。
容量の大きさを感じさせないテンポの良い文章、巧みな言葉遊び
そしてなによりレミリアが可愛い!
大変素晴らしい作品を読ませていただき感謝です。
ありがとうございます
ああ猫談義最高!! 後やっぱりレミリア俺と代われ
霖之助のキャラがちゃんとそれっぽくなってる。今となってはずいぶん前の作品なのに。
やっぱり聖典と呼ばれるだけある。
レミリア、俺の分も残しといてくれ・・・。
ちりばめられた“猫談義”と、レミリアたちに悶えました。
面白かったです。
これはイイ東方至高クラスの読み物!レミにゃあもさることながらツンデ霊夢にゃんこが良かった
(普段ならこんな面倒な事しないであろう霊夢が、霖さん事になると自分から首輪を着けてしまう霊夢が可愛かった)
俺は地霊殿Verが見てみたいと思った
69からなかなか上がらないさとりんや、猫なのに数値が低いお燐とかおもしろそうかも?
逆に70超えて限度96になっても外れなくて、猫化したのを治すって話とか……俺に執筆できる程度の能力があれヴぁ~
兎にも角にも4年近く前の作品なのに、今読んでも一線級のクオリティ
レミ霖愛くるしくてもの凄く良かったです作者さんありがとうございました
レミ霖もっと流行れ!!
「長い×笑える×萌える×勉強になる=霖之助ssの魅力」という個人的な考えを満たしていて、パーフェクトです。
冗談はともかく楽しかったですb
レミ霖と言えばで真っ先に名前が挙がる作品だわ。
そしてコメントを読んでくと嫉妬厨に萎えるw
あとやっぱり魔理沙と霊夢は霖之助と絡むときが
一番可愛いと再認識した
読み直して気付くことも多いものです、レミーの・・・なるほど、鼠度が上がっていたわけですね
・コメントを見てて気付いたこと。
1:え、猫叉さんの他の作品とかあったの、なにそれ読みたかった
2:4年以上前の作品なのに自分含めていまだに新たなコメントが
3:コメントの推移を見ると「こーりん変われ」とか「こーりんころす」とかだったのが年月が進むと「レミリア変われ」とか「レミ霖GJ」とかの比率が多くなってて時代の流れを感じた。あと呼び方が地味に「こーりん」が減って「霖之助」が増えてたり。
だがレミリアがやっぱり可愛い
ていうか猫叉さんの作品の中で猫談義が群を抜いて文中でキャラが生き生きしてるというか
読み手の中で登場人物の動いてる姿が想像しやすい気がする
魔理沙も霊夢も嫉妬可愛いし最高じゃまいか。
っていうかリンク先を見て「これを書いたのあなただったのか」と思ってしまった。
後日談か他の霖カプSSを心待ちにしております。
後日談か他の霖カプSSを心待ちにしております。
これこそ、香霖の正しい絡み方
そして、香霖もまんざらでもなさそうね
レミリア可愛いし、セリフ回しも東方って感じだしおぜう可愛いし紅魔館の主可愛いし
2013年現在でも全力であざといレミリアは貴重でございます
猫レミリアが可愛くて可愛くて。
面白かったです!
面白かったです。ごちそうさま。
面白かったです。ごちそうさま。
そして魔理沙!正気に戻れぇ!!!
萌え死ぬううううううううううう!
レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖! レミ霖!
現在のテンポを維持しつつあざといほどの可愛さを演出する技量に完敗でした。
願わくば個人サイトなどの形ででも猫叉さんの他作品を拝読してみたいです。
そう思った。
あんたのこのレミ霖は本当に最高や!
あんたのこのレミ霖は本当に最高や!
あんたのこのレミ霖は本当に最高や!
あんたのこのレミ霖は本当に最高や!
レミイ可愛いし霖之助さんはイケメン…
フラパチュ気になりますww
最後まで読んで良かった
レミリア様可愛い