暗くて深い不気味な森を、アリスは歩きます。こういっちゃなんですがお似合いですね、アリスって不気味で暗いですし。
「?」
おっと危ない危ない、アリスが訝しむようにこちらを向きました。変なところで勘がさえているっていうのも嫌ですね、こんなだから友達がなかなかできな…
ぶんぶん
ってこら!何か弱い人形をぶんすかぶんすか振り回してくれやがるんですかっ!!
そんな乱暴だから誰もかまってくれな…わかった、わかりましたからストップ!降伏!!白旗!!!
「…なんか上海から腹立たしい視線があったような気がしたんだけど、気のせいね。人形からそんな視線が来るなんて…うん、考えすぎだったわ」
はぁ…はぁ…あの莫迦ようやく手を放しやがりましたね。危うくいろいろもげちゃうところでしたよ、手とか足とか首とか色々。
私は可憐な美少女が優しく扱うべき、同じく可憐な美少女人形なのです。暗くて不気味で乱暴な根暗少女に振り回される恐怖のホラー人形ではないのですよ。
「…?」
おっと、またしてもあのお莫迦がこっちを向いておりますね。ここはやはり人形のように…いえ人形ですが…黙っているのが上策とみました。
…
……
………
「…気のせいだったみたいね」
長い沈黙の後、アリスはそう言って反転しました。長いですよもう、粘性のある性格ですね、こんなだからいつまで経ってもひとりぼっちのさびしんぼうなんですよ。
と、申し遅れましたね。はじめての方には初めまして、そうでない方にはこんにちわ。私そこの七色魔法莫迦の持ち物とされております上海人形です。
え、なんで人形が意志を持っているのかって?いえいえ、それはあなた方が気づいていないだけで、私みたいな精巧美麗な人形は大体意志を持っていますよ?
世の中、他に不条理なのことはいくらでもありますよ、具体的に言うと、私のような素敵で可愛らしい人形が、あんなのの持ち物であまつさえ作られただなんていうのは、ありうべかざる珍事です。もう信じがたい、我が身の不遇を嘆いてしまいます。
…話がそれてしまったのですが、なにはともあれ、私達は現在魔法の森をきのこを探して徘徊中です。
徘徊…嫌な言葉ですね、変えましょう。徘徊しているアリスを護衛するべく、私達は空中を警戒中です。うん、これで適切ですね、徘徊するのはアリスだけで十分です。
大体きのこなんていう陰湿で不気味で毒がありそうな、まるでアリスみたいな物体を探しに行くのに、なんでわざわざ私達優美な人形がつきあわないとだめなんでしょう。そういうのは一人で勝手に行ってもらいたいと思うのですよ。
あああ~また話がそれてしまいました。みんなアリスが悪いんです、話がそれるのも、魔法の森が暗いのも、倫敦人形さんが皮肉屋なのも、仏蘭西人形さんがすぐはしゃぐのも、露西亜人形さんがアル中なのも、蓬莱人形さんがカミカゼライナーなのも、みんなアリスが悪いんです。
アリスのせいじゃないのは、博麗神社の賽銭箱に閑古鳥が鳴いていること位です。アレは某兎詐欺師のせいですね、幸運の賽銭箱なんていうわかりやすい嘘にひっかかるのはアリスばかりだと思っていたら、結構ひっかかっていたみたいですね。
なんで幻想郷はこんなん馬っ鹿なんでしょう?これもきっとアリスのせいですね、アリスの伝染性莫迦が流行したに違いありません。莫迦の感染能力は高いと思われますし。
あれ、結局全部アリスのせいになってしまいました。これが理論的必然というやつでしょうか?
なんだかんだ言って、きれいに話がまとまりました。きっと私の思考回路が極めて優秀だからですね、トンビが鷹を生んだというヤツです。
「次はあの辺りね」
アリスは言って森へと入っていきます。どうしてこうも陰気な所へずんずかずんずか入っていけるんでしょうか?絶対都会派魔法遣いっていうのは嘘ですね。きっと森で狼かなんかに育てられたに違いありませ…
「…?」
………
「気のせい…ね」
危ない危ない、また勘づかれるところでした。油断は禁物です。
きっと野生の勘かなんかなんでしょうが、真の都会派たる私の完全な演技にはそんなの無意味です。へーん莫迦莫迦、友達なしの七色魔法莫…
ぶんぶん
ってなにやらかしてくれるんですかっ!この都会派人形に対して…あ、こら腕飛んだっ!!木に引っかかって…ストップ!降参!!
「…やっぱり気のせいじゃない気がするのよね、さっきから不愉快な視線があるわ、上海から」
アリスはそう言って動きを止め、こちらをのぞき込みます。濁りのない、単純…もとい素直な瞳が間近に迫りました。
「…やっぱり気のせいかしら」
永遠に感じられるかのような一瞬の沈黙、その時をおいて、アリスは手を放します。ようやく私は解放されました。
はぁはぁ…危うく可憐な都会派人形から、おどろおどろしい不気味ちゃん人形になるところでした。髪が乱れちゃったじゃないですか、もう。
っていうか腕…取って下さい、お願い。
「あら…腕もげちゃった」
そんな私の視線が届いたのでしょうか、いやもげちゃったとかはいいですから早く取って下さい、大体もいだのあんたじゃないですか、そこの乱暴娘。
ほら頭上にありますから、その空っぽの頭の上の枝に…
「…取るのやめた方がいい気がしてきたわ」
ごめんなさい、取って下さい素敵で可憐で優しいご主人様。
「蓬莱、取ってきて」
あ、気づいたみたいですね。よかったよかった、これで腕ができるまで片腕人形になるのは避けられました。
あとは蓬莱人形さんがカミカゼ癖を出して、木の枝にサムライドールカミカゼをかまさない限りは大丈夫です。
発作的にカミカゼしたりハラキリしたりするのでちょっと不安ですが…あ、戻ってきた戻ってきた。私のきれいな腕がようやく戻ってきました。
アリスが私の腕をはめ込みます。丁寧にやって下さいね、あなたと違ってデリケートなんで…あ、ちょっと角度が変…って折れちゃう折れちゃう!そんな無理矢理押し込まないで下さいっ!!明らかに方向違うじゃないですかっ!!
「こんなんでいいわね」
うう…ヒビが入ってそうで怖いです…こんな粗暴な主人を持った私は不幸せですね。実に不幸せです。
ちなみに、悲運の美少女人形である私をよそに、アリスは陰気な木の根本をあさっています。なんて薄情なんでしょうか、もう、私を大切に扱ってくれるような主人にもらってほしいものです。
「…ないわね、また移動しましょうか」
さて、しばらく木陰にかがみ込んでいたアリスが立ち上がりました。お目当てのものが発見できなかったみたいですね。
へーんだ、ざまーみろ、いたいけな人形を乱暴に扱うからです。これが世に聞く天誅というやつですね。
できればこの後木の枝かなんかが脳天直撃、あえない最後を遂げてくれると私としては非常に嬉しいです。念動力で落ちませんかね、えいっ!えいっ!!
…
ぴくりともしませんね、やはり藁人形じゃない私の魔力には限界があるのでしょうか?残念無念であります。
あ、かといって藁人形になるのなんて御免ですし、五寸釘なんかをこの美しい躰に突き刺されるのなんて絶対嫌ですけど。
「やれやれ、貴女も相当陰湿だと思うのですがね、上海人形」
「倫敦人形にそれを言われてはおしまいですよ」
「ごもっとも、あなたにそんなことを言われればおしまいですな仏蘭西人形」
その時、大変失礼な声が聞こえてきました。この皮肉っぽい声は倫敦人形ですね、でたらめを言うのはやめて欲しいと思うのですよ、あと、話しかけた直後に皮肉大戦争起こさなくてもと思います、私放置して。大体何で私の思考読んでいるんですか?
そして仏蘭西人形さん、半分だけ同意します、私はおしまいじゃなく、まだまだ春秋を楽しむうらわかき人形ですよ?
「いえ、小声でさっきからぶつぶつと聞こえておりますがね」
…それは迂闊でした。まぁアリスに聞こえていないだけよしとしましょう。
こんなこと聞かれたら、あのアリスのことです。それこそ爆弾と一緒に吹き飛ばして、木の枝に引っかかった所へ弾幕一斉射、落ちたところを荷車でガタガタいいながら轢いた挙げ句、最後にもう一回弾幕で吹き飛ばして「これでやっと成仏できたわね」とか言いかねません。文句を言おうにも口がない状況になりそうです。
「…聞かれていたら確かにそうされそうですな」
「ごもっとも」
あら、二人とも話がわかるじゃないですか。
「ひっく…荷車にウォットカが一杯…ひっく」
露西亜人形さんは無理っぽいですけど、話通じてないです。何かお酒くさいですね…いつもお酒くさい気がするのは気のせいでしょうか?
いえ、たぶんアリスがいない内に、浴びるようにお酒を飲んで…違った、飲むようにお酒を浴びているのが原因でしょう。飲めないのに…
アリスが、以前、首を傾げながら「何でこんなにお酒くさいのかしら?洗っても洗ってもとれないわ…」とかぼやいていましたし…もう染みついちゃってるんですね、きっと。
あと、ふらふらしながらあっちにぶつかりこっちにぶつかりしているので傷だらけです。その内いなくなりそうで怖いですね。
ちなみに、蓬莱人形さんは黙々と飛んでいます。『発作』を起こさない限りは、この中では私の次にまともだとは思うんですけどね、でも、たまに発作的にハラキリしたりカミカゼしたりするので結構危険です。
今日はまとめ役の西蔵人形さんや、被害担当の熱血人形、和蘭人形さん、あと、色々と涼しい京人形さんが留守を守っているので、困ったことに問題児ズが勢揃いで被害担当がどこにもいません。あ、私は違いますよ?
「仏蘭西人形、やはり腹黒なのは…」
「ふむ、それについては異論を挟み得ませんな、倫敦人形」
む、聞こえていますよ?こっちを向いてひそひそ話をしないで欲しいものです、しかも内容あからさまに悪口だし。腹立たしいので、後で二人の棚に画鋲でも置いておきましょう。
こんなに優しく素直な私を、そんな風に思っている罰ですよ。月のない夜には気をつけてもらいたいものです。
「あら…あれは?」
あ、アリスが何か発見したんでしょうか?アリス並みに毒々しいきのこですかね、さすがにそんなのは植物学的にあり得ませんけど。
「…魔理沙?」
アリスが呟きます、視線の先には少女っぽい帽子をかぶったきのこ…違った、きのこっぽい帽子を…めんどいのでどっちでもいいですね、大して変わりませんし。要は黒いきのこが歩いてきています。
やっぱり目的はアリスと一緒なんでしょうか?
「…蓬莱」
あ…アリスの表情が変わりました。いきなり先制攻撃ですかっ!?宣戦布告はして下さい!!
「あいつの気をこっちに引きつけて、偶然のように…よ」
アリスの真剣なまなざしに、蓬莱人形がこくりと頷きます。
おっと、どうやら、正面きって激突するつもりみたいですね、無策なお莫迦です。これが俗に言う宋襄の仁というやつでしょうか?
でも、こっちのアリスは本当にお莫迦なだけですからね、徳なんてありません。死後地元の方に慕われることはないでしょう、そもそもこっちの莫迦なんて覚えてもらっているかすら疑問ですし。
豊富な実験材料がある、魔法の森資源地帯をめぐる激闘…やるなら一人でやってもらいたいものです。
傷つくのは嫌ですし、ただでさえ私には不釣り合いなほどみすぼらしいこの服が、戦闘なんかしたらもうぼろきれみたくなってしまうじゃないですか。
これも、アリスがあの兎詐欺師なんかにひっかかって有り金全部巻き上げられたからです。しかも本人、騙されたことに未だ気づいてないですし。
ホント、お莫迦な主人を持った人形というのは不幸ですね。人形は持ち主を選べないんですよ、実に哀れだと思いませんか?
「…頼むわよ蓬莱、気づかれないように魔理沙…あのてっぺん折れてるとんがり帽子…の意識を引き寄せるのよ。別に話したい訳じゃないけど…ええ、ちょっと情報交換をした方が早くきのこが見つかりそうだし…」
ほ・ん・と・に哀れだと思いませんか?
なんなんですかこのド莫迦は!
話したいんだったら自分から行けばいいんですよ、なんでいちいち私たち人形を使うんですか、そもそも何一人でぶつぶつ言い訳してるんだか、誰もてめーに聞いてなんかねーよこの莫…あ。
おっと、今のは嘘です、フィクションです、演技です。私は都会的で見目麗しい乙女人形なわけでして、粗暴な言葉は使いません。
唐突に演技をしたくなりまして、ええ、どうでしたでしょうかみなさん?完全に騙されたでしょう?
天は二物を与えずとはよく聞く言葉ですが、私には三つも四つも下さっている訳なのですよ。これも私の心が素直だからですね。
「演技だそうですが」
「やれやれ、とんだ大根役者ですな」
「ごもっとも、嘘がいたいたしい」
はいそこの英仏人形、顔寄せ合ってひそひそ言わない、聞こえているから…あと演技は後半じゃなくて前半、勘違いしない。
おっと、失礼いたしました。あの二つの人形は少々性格がひんまがっておりまして、腹黒なんですよ、いつもいつもいじめられる私はそれでも泣きません、だって大人なのですから、精神的に。
「…だそうですが、倫敦人形」
「それは大変だ」
「ほう、と、いいますと?」
「上海人形が大人なら、我々はもうとっくに老衰で死んでおりますよ」
「なるほど、まったくもってその通りですな」
…訂正します。少々ではなく、どうしようもないぐらいぐねぐねうねうねとねじくれまくっているみたいです。ああはなりたくないものですね。
あ、そして、それに比べれば大したことじゃないんですが、あのきのこに接近する蓬莱人形が「先陣は武人の誉れ、天地神明に誓って、見事きゃつを仕留めてくれん!」とかぶつぶつ言って、戦闘態勢に入っていますね、あーあ、大変どうしましょうかっこ棒読みかっことじ。
「主君に仇なすとんがり帽子、覚悟!!」
あ、蓬莱人形さん出陣です。もう人のいるところでは言葉を発しないという暗黙の了解をぶっちぎっていますが、アリスは完全に自分の世界に閉じこもっているので大丈夫です。個人的には、ずっとそのまま自分の世界にいてほしいものです。
「いかんっ!?」
「サムライが見られるのか!」
「ウオットカがなくては弾幕も張れない…ひっく」
三者三様の反応が見えましたが、色々と遅いですね、もう蓬莱人形さんときのことは指呼の距離、何人たりとも止められません。
「一番槍っ!!」
「うわわっ何だ!?」
森の中に、絶叫と悲鳴がこだまします。
槍をしごいて突進した蓬莱人形さんは、きのこの帽子を突き刺し、奪い取りました。
「我こそはアリス・マーガトロイドが家臣、蓬莱人形!主君の命により、てっぺん折れてるとんがり帽子を討ち取ったり~」
誇らしげに言う蓬莱人形さんなのですが、はっきり言ってどこからつっこめばいいのかわかりません、っていうかもうつっこみたくありません。
それにしても、堂々と他人の前で声を出すのは暗黙のルールで禁止されているはずなのですが…鉄をも溶かすヤマトダマシイとかいうので超越しちゃったんでしょうか、ジーザスサムライ。
ちなみに、この緊急事態にアリスは何をしているかというと…
「最初は久しぶりね…かしら。いえ、友人らしくこんにちわでもいいかもしれないわね、あ、待って、一度はペアを組んで生死を共にした仲だし…」
待たねーよ…おっと失礼しました。ついつい都会派演技人形の癖が出てしまいまして、ほほ…
こほん、なにはともあれ、完全にあらぬ世界へと旅立っています。誰を相手に会話しているのでしょうか?少なくとも人知を超えた存在であることには間違いありませんね。
さっき危うく私は不気味ちゃん人形になるところでしたが、不気味ちゃん人間はすぐ側にいました。制作されていたみたいです、っていうか天然モノ?
なんか友達とかペアとか言ってますけど、絶対あのきのこそんなこと覚えていませんよ?かけてもいいです、そうですね、じゃあ仏蘭西人形さんかけちゃいます。あ、あと倫敦人形さんもつけちゃいましょう、おまけで露西亜も…いらない?そうですか、今ならウォットカがセットでお得なのですが…しぼればじわっと出てきますよ、たぶん。
「…そうね、ここはやっぱり偶然を装ってっていうのが上策。よし、それでいきましょう」
あ、結論が出たみたいですね、小さくガッツポーズをして、髪を整えています。どうでもいいですけど。それに結果は同じですからね、やっぱりどうでもいいですけど。
そして、アリスは涼しげな顔を作って歩き出します。でも、足がスキップですよ…あ、こけた。
でも、めげずに歩いていきます。その根性には若干の敬意を払いますが、頭に葉っぱを乗せているのはどうかと思います。
「あら、偶然じゃない。あんまりこの不気味な森に馴染んでるから気がつかなかったわ」
うっわ、やっぱり莫迦ですねこの人、これじゃあ嫌われるに決まっていますよ。これが俗に言うツンドラというやつでしょうか?なんでも、外の世界の縛り屋なる生き物に由来すると某寺子屋の方が仰っていました。どんな職業なんでしょう?少なくとも、アリスが例えられる位なのでろくなものではなさそうですね。
最近は温暖化なるもので中身がでれでれしてきたとか聞きます、暖かくなると中身が溶けるなんて不気味な生物ですね。まぁ、アリスの場合、脳が既にとろけているようなものなのでそこまでそっくりです。
ちなみに、どれくらいとろけているかといいますと、きのこが「生きて虜囚の辱めを受けずっ!殺せっ捕虜にはならんっ!!」とかわめいている蓬莱人形さんをがっしと握って青筋たてているのに、上のような発言を行っていることで立証できます。
ちなみに、私には殉死の趣味はありませんのでとっとと脱出しますね。殉死が希望でしたら、我が家の地下にいる兵馬俑さんに頼むが吉です。基本的に寝てますけど。
「突然襲いかかってきやがって…何が偶然だ、受けて立つぜ」
「え…襲いかかったって何が…え?」
下では、既に戦闘態勢に突入しているきのこと、混乱のままに破局を迎えるであろうアリスの姿が見えます。
倫敦人形さんは真っ青になりながらもアリスの前に展開しています。
「可憐な乙女を守るのが紳士の務め…ジョン・ブル魂を見せてご覧に入れよう」
とか偉そうに言っていますけど、あんなにがちがちじゃどうしようもないですね、足震えてます。
ちなみに、仏蘭西人形さんはというと…
「今こそ敢闘精神を発揮しなければなりませんな、マドモアゼルには指一本触れさせません」
うっわ自信満々ですよ、でも、倫敦人形さんと違って彼我の実力差を全くわかっていませんね、こりゃだめです。倫敦人形さんが、ぼそっと「やれやれ、時代錯誤ですな」とか言っていますけど、たぶんあなたにだけは言われたくないと思いますよ?
露西亜人形さんは…あれ?いませ…あ、何故か地面でコサックダンスを踊っています。結構上手いですけど何の意味もありません、ただの酔っぱらいですね。
やはり素早く退避した私が一番賢明だったのでしょう。まさしく頭脳明晰かつ美しい、才色兼備なパーフェクトドールです。
これから名前を完全で瀟洒な上海人形に改めましょうか?
「マスタースパーク!」
「え…え…ええっ!?」
きのこ発砲!無警告射撃とはさすが傍若無人なきのこです、まぁ突然あらぬ人形に襲われた挙げ句、帽子に穴を空けられたのだから仕方がありませんね、むしろもっとやれ、どんどんやれ。七色魔法莫迦を原子に戻せというやつです。
倫敦仏蘭西七色魔法莫迦、どこに当ててもヒットです、やれ!やれ!!やれ!!!
おっと、つい熱がこもってしまいまして…まぁ応援には少々熱が入らないといけませんしね、え?応援する相手が違わないかって?
何を仰いますか、私は、ちゃんと自分の利益を考慮に入れて、応援すべき相手を応援しましたよ?
さて、私の応援が効いたのでしょうか?真っ白い光に、倫敦人形さんと仏蘭西人形さん、そしてアリスはたちまち呑み込まれ吹き飛ばされます。
見事なまでに直撃です、俗に言うヴァルハラ逝きの特別急行というやつですね、往復切符は発行しておりません。
よくやってくださいましたきのこさん。あなたにはキングオブきのこの称号を差し上げます。このじめじめ湿った魔法の森で、未来永劫きのこの王として君臨して下さい。
「せいせいしたぜ!」
さて、森に一直線の道を作り、そしてすがすがしい表情で汗をぬぐうきのこは素敵です。これでアリスとかは片づきましたし、これからは実に平和に暮らせそうです。
あの粗暴なアリスなんかに使われることもなくなりますし、皮肉屋コンビも、もはや皮肉が言えない場所に逝ったことでしょう。
これで私も落ち着いて生活できま…
「つまみ…ホッカイチンミ…ひっく」
「ってうわっ!?何だこの人形っ!」
ってなにやら早速騒動が起きていますよ?まったく、騒がしい人ばかりで困ったものです、せっかく静かな生活を楽しめると思っていたのに、これじゃあ台無しじゃないですか。
ちなみに、何かと思えば露西亜人形さんがきのこにかじりついています。ホッカイチンミとは何のことか知りませんが、きっときのこを主材料にしたお酒のつまみでしょう。
キングオブきのこを材料にした素敵なつまみを食べるつもりなのかもしれません、でも毒には気をつけて下さいね?
「くそっ、何なんだまった…」
「今こそ好機っ!この雪辱、かならず晴らしてくれようぞ!!」
「…ひっく」
「げ」
あ、しかも、これ幸いとばかりに蓬莱人形さんが脱出しました。どこに隠していたのか、サムライサーベルをしっかと握り、一撃必殺の構えですね、きのこの串刺しを作るつもりみたいですが、そんなのに使われたらその刀が泣きますよ?
さて、品のない声を出したきのこは、しかし速やかに露西亜人形さんを振り払うと、蓬莱人形さんに向き直ります。
「くっそ、今日はなにかとよくわかんない奴に絡まれるぜ。あのマウスとかいう変なのといい…」
そう言ってきのこが地面を蹴り、いくつかのきのこが空を舞いました…きのこの同士討ちです。
きっと、彼女がキングオブきのこへ即位するにあたり、反抗的な態度をとった一般きのこ達を粛清したのでしょう。政権交代には血…この場合胞子でしょうか…が不可欠なのかもしれません。
そして、これから、この魔法の森では恐怖のきのこ独裁政権が樹立され、秘密警察が反抗的なきのこを『適切に処理』するのでしょう。
やがて、キングオブきのこに従うきのこ以外はその存在を抹消され、選ばれた種類のきのこのみが森を支配するという単一きのこ国家が完成するに違いありません。
…まぁそんなことはありえませんけどね、言ってみただけです。
私はアリスじゃないんですから、そんな変な事が本当にあるなんて思いませんよ。
あと、アリス、やっぱり友人どころか名前すら覚えられていませんよ?
いえ、一度は共に戦った仲間を忘れているあのきのこもどうかと思うんですが、所詮これがアリスの運命なのでしょう。
孤独に生まれ、孤独に生き、そして孤独に逝く…まさしく永遠の孤独、逝った後も誰からも思い出してもらえないのでしょう。
哀れですね、その点、純情可憐な一輪の花と言えるような私は、あんな粗暴な主人ではなく、きっと優しく素敵な主人に拾われ、心も躰も幻想郷一美しい人形として名を知られるはずです。
ええ、あんなのの下にいたんじゃ、全然芽が出ませんよ。いかに高い素質を持った者でも、くだらない主人の下ではその能力を発揮するに至らないのです。
まぁあのきのこが邪魔者を処理してくれたおかげで、私にもやっと洋々たる前途が拓けたというものです。
いえホントせいせいしましたよ、私みたいな優秀美麗な人形が、あんなさびしんぼうな見栄っ張りの下にいるなんて、人形にとっての…いえ、全人妖その他にとっての損失です。
まぁ、これで私も新しい主人をがしっ探しに行けると思い…がし?
…
……
………
「こんにちわ上海人形」
「…はろーご主人様」
おっと、思わず声を出してしまいました。まぁアリスのことだから気がついてはいな…痛い痛いっ!?
「気づいているわよ。いつの間にか自律人形を完成させていたみたいね、とんでもなく性格ひんまがってるけど」
いえいえ、それは倫敦人形さんや仏蘭西人形さんやアリスのことを言うのであって、私は素直で優しいお人形さんですよ?
ちなみに、その倫敦人形さんは、アリスの足元でよろよろとしながらも二本の足で立っています。まさしく不屈のジョン・ブル。
一方、仏蘭西人形さんは精神力不足かあっけなく倒れています。張り子の虎ですね。
まぁ本当の虎はあんな大火力砲の直撃を喰らっても、しっかり健在なアリスですけどね、化け物です。まぁ頑丈なだけがとりえの七色体力莫迦ってやつでしょうか?私みたいな文化的な人形には理解不可能な存在ですね。
…な~んて口には出しませんけどね、私はアリスみたいな考えなしと違って、TPOをちゃんと考え…く…苦しい!?
「口に出してるわよ、よ~く聞かせてもらったわ。あなたが私の事をどう思っているか?」
…えっと色々とまずい気がしてきました。
魔法の森の合い言葉、捕虜はとるな捕虜にはなるな、しかも、こんな性格悪いのに捕虜にされたら、私は玩ばれた挙げ句にばらばらにされそうな気がします。具体的に言うと手足と首が引っこ抜かれそうです、うっわ不気味。
人形は大切にしましょう!幻想郷人(形)権宣言の採択を私は訴えます!恵まれない人形に愛の手を!!
「うるさい」
…えっと、これは本気でまずくないですか私?なんでこんなに心清らかで品行方正な私がこんな目に遭わないと駄目なんでしょう?美人薄命というやつでしょうか?
いえ、諦めてはいけません。こんな悲運の人形には、きっと白馬に乗った王子さまが助けに…
「あ~無事だったのか、火力不足だぜ」
来たっ!来ました!!きのこの解放者です!!
その傲岸不遜な態度、まさしくアリスを撃破するに足る王子様。キングオブきのこならぬプリンスオブきのこです。
さぁお願いです、この七色さびしんぼう莫迦を吹っ飛ばしちゃってくだ…ん?
「ちょっと…いくらあんたが礼儀知らずの野良魔法使いとはいえ、いくらなんでも久しぶりに会った友人への挨拶があれっていうのはないんじゃない?」
でも、私がこの莫迦に握りしめられているということは一蓮托生じゃないですか!?放せ~放して~放せばわかるっ!!
「あ~?」
私はアリスと違って、有為の人(形)材なのです!こんな所で身を散らすような安っぽい人形ではないのですよ!!
「だからほら、永夜事件の時にコンビを組んで、生死を共にした私に対して!!」
そんなのいいからとっとと放せ莫迦~!!
「あ~アイス」
「食べ物じゃないっ!」
「リアス?」
「順番違う!!」
「アウグスティヌス?」
「全然違うじゃないっ!!何で遠ざかってんのよ!!」
あ~かまってもらえないのはそれはそれで悲しいですね、張り合いがありません。あと、かまってくれないんだったら放して下さい、とっとと。
ちなみに、アリスもう半泣きです。
「…誰だっけ?」
「アリスよ!アリスマーガトロイド!!いつも心は貴女の側に!友達いつでも募集中っ!!」
あ~もう自分で何を言ってるかすらわかってないですね。一方きのこは素で忘れてるっぽいです、所詮は菌類ですね。アリス大泣きです。
「ストーカー?」
「違うっ!!」
なんか、まるで結婚詐欺に遭ったみたいですね。首を傾げるきのこに対し、アリスは必死になって記憶を呼び起こそうとしているみたいです。
まぁ、アリスの場合結婚詐欺はともかく、友達詐欺になら簡単にひっかかりそうですが。
「ん~?」
「私とのことは遊びだったの!!」
アリスがそう言って詰め寄ります、もはやこの場面だけ聞かれたら完全に修羅場ですね。
「遊ぶもなにも…」
きのこが頭をかきながら言います。なんか嫌な予感がしてきました。
「お前みたいな七色魔法莫迦なんて知らないぜ」
その瞬間、空気が凍りました。まさしく絶対零度、所詮きのこはきのこです、場の空気を読むなんて高度な技術を持たなかったのでしょう。
春も近い幻想郷ですが、ここだけ冬に逆戻りです。しかも、冬将軍は元帥に昇進していたみたいです、なんかパワーアップしています。寒いって空気!
「ふ…ふふ…」
そんな中、森を震わす不気味な笑い声。暗くて深い不気味な森に、陰気な狂女の笑い声がこだまします。これは危険です、具体的に言うと私の身が危険です。ひとまず手の力を緩めて下さい!腕折れますっていうか潰れる!助けて!!
「ストロードールカミカゼ!!」
と、私が危機的状況に陥っている最中に出ましたアリスの特技逆ギレ!普段クールを装っている人ほど、実は感情に身を任せやすいと思うのです。
具体的に言うとアリスとか七色魔法莫迦とかさびしんぼうの人形遣いとかですね。
ちなみに、そう言った瞬間にアリスが一歩を踏み出し、真下にいた倫敦人形が踏んづけられました。
足元でしばらくじたばたしている手が見えていましたが、まもなくその動きもなくなります。ジョン・ブル魂も、アリスの逆ギレにはかなわなかったみたいです。
そして、その間も続くカミカゼ人形による飽和攻撃、しかしきのこは屈しません。
「よくわからんが売られたケンカは買うまでだぜ!」
穴あき帽子をかぶり直し、再度スペルカード発動を狙います。ちょっと、巻き添えになるのはこっちなのでやめて下さい!!
「ファイナルマすわあああ!?」
「ウォットカ…ひっく」
「うわっ酒くさっ!?」
あ、そんな所に突入したのはどこにいたのか露西亜人形、突然きのこにしがみつきます。慌てるきのこに暴走アリス、もはや戦場は混沌です。誰か私をこの混沌から脱出させて下さい!
「よくやった露西亜人形!貴殿の必死尽忠の志、拙者が受け取った!!」
と、その時元祖カミカゼ蓬莱人形さんがきのこの背後に現れました。目が据わってますっていうか澄み切っています嫌な位。あれはもう覚悟を決めた目ですね。
でも露西亜人形は別にそんな志持ってないと思いますよ?
「奸賊!覚悟!!」
「え…なぁっ!?」
どこからか取り出したのかわからないのですが、爆弾を抱えた蓬莱人形さんがきのこに突入自爆を図ります。
残念ながら、露西亜人形さんに気をとられ、反応が遅れたきのこには回避の術がありません。
「アリスマーガトロイド漫才!!」
「来るなっ!?クレージードールっ!!」
二つの絶叫が交錯し、直後、爆発音。
弾幕にかまわず突進した蓬莱人形さんは、何かを間違えつつも、きのこへ激突しその使命を全うしました。
いえ、自爆し慣れているので、しばらくすれば復活するとは思うのですが…
何はともあれ、きのこはただでさえ黒いその身体をますますすすけさせ、地面へと倒れ伏しています。しばらく起きあがることはないでしょう。
かくて、全魔法の森を支配下におかんと企んだきのこの野望は、蓬莱人形さんによる文字通り粉骨砕身の努力により阻止されました。
幻想郷史に燦然と輝くその偉業、しかし、その影には涙があることを忘れてはなりません。
倫敦人形、仏蘭西人形、露西亜人形…そして蓬莱人形、魔法の森の…そして幻想郷の平和を守る為に戦ったあなた方の勇気と犠牲、私たちは決して忘れません。
さらば散っていった勇者達よ!!
…それじゃあ帰りましょうかアリス。
「うるさい黙れ」
その後、天高く放り投げられた上海人形は、数多の人妖の手を巡り、結局はアリスの元へと戻ってくることになる。
森で出会った二人は、ぼろぼろの身体でがっしと抱き合い、お互いに謝り、抱きしめ合った。
そこに至るまでの壮絶な過程を書いた『ごめんなさい上海人形』は、数多の読者を感動の涙で溺れさせ、増刷を重ねたが、上海人形以外の登場人物が仮名とされたため、アリスの知名度が上がることはなかった、しかし、それらはまた別な物語である。
『つづいたら大変』
というか、復活ってどうやるんだろう……。
元からこれを狙っていたのか蓬莱人形・・・!!
腹筋イタイヨーwww
あと蓬莱がいい味ですね
何故だかよく判りませんが、自分の横に置いてあるノー○ッドのぬいぐるみ見たら無性に殴りたくなって…(黒笑)
>猫の転がる頃に様
>>復活
きっと精神力で残骸が集まってきてじわじわと…ホラーですなorz
>名前が無い程度の能力様
きっと毒を吐ききってすっきりとした気持ちになったのでしょうww
>二人目の名前が無い程度の能力様
いえいえ、そんなことは…あるかもorz
>SETH様
色々とww
>スカーレットな迷彩様
たまには毒を吐き出さないとお腹にたまりますものでww
>蝦蟇口咬平様
実は正解だったり♪仲がいいほど…ですよww
ちなみに、蓬莱はお気に入りです。
>ドライブ様
ある意味ってww
笑って頂きましたのなら幸いです。
>思想の狼様
黒いっ!?思想の狼さんが黒くなってるww
上海の伝染性腹黒は、感染能力が高いので注意が必要です(何)。治療薬は永『琳』亭までどうぞです。
それでも、自分から謝っちゃうのねアリス…(泣笑)
そんなアリスが大好きですww
なんという確信犯w
ご感想ありがとうございます。
それに気付かないアリスもアリスかな…と(笑)
でも漫才ってw
露西亜人形がスキ。