皆さんは人形が意識を持っていると考えたことがおありでしょうか?
目の前にある椅子やテーブル、そしてその上に上がっているティーセット…案外そんなものにだって意識があって、あなたのことを観察しているのかもしれませんよ?
そして、この物語はとある人形遣いの少女と、彼女の人形達のある一日のお話です。
ことことこと…お湯が沸いている音がします、アリスが紅茶を淹れようとしているんでしょうね。
ああ、申し遅れました、私は七色の魔法莫迦…もとい人形遣いことアリス・マーガトロイドに創られた人形『上海人形』と申します。
一朝事あらば常に最前線に投入され、平時には主人の寂しさを紛らわす労働基準法完全無視の24時間労働をさせられています。まったくもう、ひどい話ですね。
あ、話がそれました。さて、いつもいつもアリスからの魔力で操られているように見える私たち人形、だけど実はアリスの一挙手一投足は私たちがしっかりと確認しているのです。そんなわけで今日は皆さんにアリスと…そして私たちの日常をお話しましょう。
「はぁ…今日で65日目か」
アリスのため息が聞こえてきます。カレンダーの数字に×をつけながら一人呟くアリス、今日で来訪者なしは65日目、まぁ66日前に来た新聞勧誘の方は果たして来訪者と言ってもよいものかどうかわかりませんが。
まぁ少なくともアリスの家を知りうるとは情報収集能力は一級品のようでしたが…だってアリスは友達いないですからね。なかなか家の位置はつきとめられません。
しかもさびしんぼうのくせに変に意地張ってるもんだからますます…
「…?」
はっ!? 気がつくと疑わしげにアリスがこっちを見ています。私は慌てて思考を停止しました。
「気のせいかしら?何か不愉快な視線を感じたのだけど…ここ人形しかいないからなぁ…はぁ」
危ない危ない、案外勘がさえてるんですよね、アリスって。他人の気持ちを察したりするのは苦手なくせ…
ぶんぶん!
わっ!?ちょっと莫迦!何するんですかっ!?いたいけな人形を振り回すなんて…腕…腕がとれちゃうっ!
「…やっぱり不愉快な視線を感じるわ、上海から」
はぁはぁ…無法にも私の腕をつかんでぶん回したアリスが呟きます。もう、私はアリスと違ってデリケートに出来てるんだからこういう扱いはやめて欲しいです。
「…(じー)」
っ!?危ない危ない、また気付かれる所でした。
「…(じじー)」
う…まずい、まじまじと見つめられ…
シュー
ですが、私がそんな乙女の危機的状況にあった時、やかんが音をたてはじめました。アリスは慌てて立ち上がります。
「あっ!そういえばお湯を沸かしていたんだったわね。とりに行かないと…」
そう言うとアリスは立ち上がり、台所へと去っていきました。
これぞ天佑、日頃の行いがよかったのですね。私は、足早に去っていくアリスを見ながら、自分の行いのよさに感心していました。
と…
「何を考えているのかは見当がつきますが、おそらくその思考に論理的正当性はありませんな」
そんな私に皮肉っぽく言葉をぶつけてきたのは倫敦人形さんです。失礼な…倫敦人形さんはいつもいつも物事を皮肉っぽくみすぎな気がします。
「そういう貴方こそ仮定を元に相手を非難するとは非論理的な気がするのですがね」
あ、そんな倫敦人形さんに同じく皮肉をぶつけているのは仏蘭西人形さんですね、いつもいつもこの二人は口喧嘩してばっかりです。だけどなぜか気が合っているような気がするのは気のせいでしょうか?
「貴方は揚げ足とりしか出来ないようですな、実に非合理的だ。そんなだからあんな派手で中身の伴わないものばかり造っているのでしょう」
「やれやれ、文化的価値がわからないとは実に悲しい。あんなまずい食事ばかり摂っているからこんなひねくれ者になるのでしょう。やはり仏蘭西料理とは偉大だ」
「だからいつもいつもゲルマンにいいようにやられるのですな、大方電撃戦の時昼寝でもしていたのでしょう。起きてみたらフランスパンが黒パンになっていてワインはビールになっていた、と、なるほど、仏蘭西料理とは実に偉大ですな、一夜にして別なものに進化するのですから」
ああ…いつもの事ながら皮肉合戦、はたから見ていると何か楽しそうに見えないでもないのですが…参加したくはありませんね。
そして…私放置ですか?
「「っ!?」」
と、二人の動きが突然止まります。頭上を見ると…
「ひっく…ケンカなぞする暇があるのならウォットカでも飲んでいればいいじゃないか。ウォットカがなければ弾幕も張れない」
…そう言ってお二人の頭上からウォットカをかけているのは露西亜人形さんですね、いいんでしょうか?いや、頭は冷えるでしょうけど…
露西亜人形さんはアリスが見ていない所ではいつもウォットカを飲む…のは無理なので匂いをかいでばかりいます。おかげで露西亜人形さんはいつもお酒くさいです。
ちなみに、ウォットカの入手経路は不明です。
酔ってさえいなければいい人なんですけど、酔っていない時がほとんどないのであまり意味がありませんね。
「なんてことをしてくれるのだ、この服はアリス殿が作ってくれた傑作だぞ。マドモアゼルのご好意を無駄にするとはなんて野蛮な」
「全くだ、酒に酔って乱暴を働くなど実に非文明的だ」
あ…さっきまでの口論はどこへやら、仏蘭西人形さんと倫敦人形さんが二人揃って露西亜人形さんを責め立てています。
まぁ気持ちはわからないでもないのですが…
「まぁまぁ、もうすぐご主人様が戻ってこられる。お互いここは抑えて元の位置に戻られよ」
そんな三人を見かねたのか、冷静に喧嘩を止めに入ったのは西蔵人形さんです。いつもいつもトラブルがあると止めに入ってくれるのです。精神年齢が高いんですね。
「全くだ、見つかるような事があれば切腹して責任をとらなければならない」
続いて言ったのは蓬莱人形さんです。蓬莱人形さんは何かあるとすぐに『切腹』と言い出します。何でそう死にたがるのかは分からないのですが…独特の美学があるみたいです。
「ま…まぁ仕方がない」
「なるほど…もっともですな。それに切腹は避けたいですし」
「ひっく」
そんな西蔵人形さんと蓬莱人形さんの説得に、三人は納得…いえ、露西亜人形さんは微妙ですが…して元の位置へと戻っていきます。
直後、ドアが開き、アリスが入ってきました。危機一髪という奴ですね。
「…何かお酒臭いわね?」
入るなり呟くアリス、そりゃそうでしょうね。さっきまであんな事やっていたんですから…
「あれ?何でこんな所にウォットカが?お酒なんて買った覚えないんだけど…一人で飲んでも虚しいだけだし…はぁ」
アリスはそう言うなり勝手に落ち込みます、だったら誰かの家にでも遊びに行けばいいと思うのですが…それができないのがアリスなんですよね。
トントン
「え!?」
と、その時扉を叩く音がしました、アリスは過敏に反応します。我が家に来訪なんて…空耳でしょうか?いえ、確かに聞こえました。
トントン
「アリスさーん、いますー?」
「!?」
間違いありません、今度は声まで聞こえてきました。確かあれは永遠亭の兎詐欺師さんですね、たまーにやってきてくれるのは(アリスは)とても嬉しいのですが、大体が詐欺目的なのはなんとも言えないです。
ちなみに、アリスは毎回毎回それに騙されて、しかも当人は騙されているなんて気がついていません。むしろとっても幸せそうなのです。
まぁ被害者(アリス)が幸せなら、詐欺をされてもいいような気はしないでもないのですが…
と、それはさておき、私がそんなことを考えている間にアリスは影も形もみえなくなっています。
兎詐欺師さんの声が聞こえるやいなや、椅子を跳ね上げ、テーブルを蹴って玄関に駆けだしていたのです。
ちなみに、跳ね上げられた紅茶が和蘭人形さんの側に落下して和蘭人形さんが大慌てになっています、和蘭人形さんはよくとばっちりで酷い目に遭っている気がします。そして、側にいる京人形さんが我関せずと定位置から動かないのがなんともいえないですね。
しばらくしてアリスが兎詐欺師さんを連れて戻ってきました、ところで兎詐欺師さん、手に持っているその『奉納』と書かれた箱は何ですか?怪しげな匂いがぷんぷんしているのですが…
「あ、てゐちゃん、そこに座ってね。あ…紅茶がいい?ジュースがいい?お菓子は何にする?」
でも、そんな事など気にもせず、至れり尽くせりの接待をするアリスはとても幸せそうです。
ああ…なんでしょうこの態度の違い、私たちにもこの十分の一でいいので親切にして欲しいものです。
「あ、うんありがとージュースでいいよ、お菓子は…ケーキがいいなー」
「ええ、ちょっと待っててね、すぐに用意するから。チーズケーキとショートケーキどっちがいい?」
「ショートケーキ!」
「ああ、てゐちゃんもショートケーキが好きなのね。奇遇だわ、私もなのよ」
兎詐欺師さんの要望に完全に応えるアリス、それにしても嘘ばっかり、ショートケーキは甘すぎて嫌いって言っていたのに。
「仲良しだねー」
「仲良し!?え…ええ、本当、友達同士って似るのよね」
「そうだねー」
ああ、アリスの顔がとろけきっています、恐るべしは兎詐欺師の話術ですね。それにしてもアリス…完全に手玉にとられていますよ?
「じゃ…じゃあとってくるわ」
嬉しそうに駆け出すアリス、ちなみに、何故彼女が嫌いなはずのショートケーキが常備されているのか…その理由は、以前兎詐欺師さんが来たときに「ショートケーキが好きなんだー」と言っていたからです…本当、素直じゃありませんね。
ちなみに、ショートケーキの大半はその役目を果たすことなく生ゴミと化していきます。哀れですね…まぁそう考えると、本来の役目を果たす事になった今日のショートケーキは幸運です。
「あのね、それでお賽銭に協力して欲しいのだけど…」
さて、お茶会が始まってしばらくたった時、兎詐欺師さんはそう言って例の箱を差し出します。あ…なんか嫌な予感が…
「お賽銭…って?」
不思議そうに首を傾げるアリスに、兎詐欺師さんが言いました。
「あのね、この箱にお金を入れると幸せになるのー。アリスさんもしてくれると嬉しいな」
うわ…間違いなく詐欺ですよ、この兎、思いっきりアリスを兎詐欺ろうとしています。にっこり笑って誤魔化してるけど、この腹黒兎の目的はみえみえです。
まぁさすがにアリスといえどもこんな詐欺にはひっかからな…
「そう、それじゃあ入れようかしら。ちょっと待っててね」
って思いっきりひっかかってますよこの人!?ああ…何で私はこんな莫迦な主人に従う事になってしまったのでしょう。私は運命を呪いました。
「ん~お金って言ってもあまりないのよね」
さて、アリスはそう言いながらごそごそと棚をあさります。はぁ、あんな怪しげなのに遣うお金があるのなら私たちにまわしてくれればいいのに…と思ってしまいます。
それなのにアリスときたらもう入れる気満々で…
「あ、そう言えば上海の服を作りかえようと思ってとっておいたお金があったわね。丁度いいわ、それを遣いましょう」
ってちょっと待てやこら!?あんた莫迦か!?いや莫迦だろ!!
…っと危ない危ない、つい素が出てしまいました。素敵で優しい上海人形のイメージを崩しかねない言動は慎まないと、え、そんなの元からない?ふざけた事言ってると魔彩光撃ちますよ魔彩光。
と、まぁそれはさておき、本当に何考えてるんでしょうかこのお莫迦は!私に遣われるべきお金があんなのに…ああ、こんなお莫迦な主人を持った私は最高に不幸せです。
「あ、てゐちゃんお待たせ、これくらいでいいかしら?」
「あ、十分だよー。これでアリスさん幸せになれるね」
「そうね、てゐちゃんが言うなら間違いないわよね」
「うん」
畜生!全部入れやがりましたよあの七色魔法莫迦!そりゃあんたは幸せかもしれないけどたまにはこっちの事も…こほん、こちらの事も考えて欲しいものです。
「じゃあねアリスさん、今日はごちそうさま」
「あ…ええ、喜んでもらえてよかったわ。まぁ私は忙しい身だけど、たまにだったらまた遊んであげるわよ」
そろそろ日が傾きかけたころ、引き際をうかがっていたらしい兎詐欺師さんが立ち上がりました。
アリスは言葉と裏腹にずいぶん寂しそうですね。まぁ兎詐欺師さんもあの後午後一杯付き合って下さったわけですし、アリスにとってはそうマイナスではなかったのでしょうね。ええ、アリスにとっては。こっちはマイナス通り越して絶対零度位でしたけどね!!
と、まぁそれはさておき、なんだかんだいって立ち上がったアリスが、玄関へと見送りに行きます。寂しげな背中が哀愁を漂わせていますね。
「はぁ、行っちゃったなぁてゐちゃん…」
兎詐欺師さんを見送った後、アリスは窓辺に佇みながら呟きます。なんか恋人を見送る純情少女といった感じでしょうか、こういう所は絵になりますね。
まぁ恋人どころか友人知人がほとんどいないわけですが、アリスは…
「っ!?」
わっ!アリスが急にこっちを見てきました!ばれたんでしょうか!?
「みんな!行くわよ!!」
アリスはそう言うと私たちを連れて駆け出します。まさかとうとう寂しさに耐えかねて兎詐欺師さんを誘拐する気ですか!?
自業自得な兎詐欺師さんに同情はしませんが、でも幼女誘拐犯が持ち主なんてまっぴら御免です。アリス、寂しいのは分かりますが犯罪行為に手を染めないで下さい!!
だけど、そんな私の気持ちに応えることなく、アリスはてゐさんの後を追いかけます。
と、前方に爆煙が?
「よくも騙してくれたわねっ!?」
「わっ!騙してない騙してない!!幸せは『いつか』来るわー」
「バカにしてんのあんたっ!!」
あ、兎詐欺師さんが…なんかバカっぽい妖精さんに攻撃されています。大方詐欺がばれたんでしょうね、自業自得です。
ああ…でも、アリスの事だから…
「魔彩光の上海人形!!」
やっぱりこうなるんですね!何で私の服代をだまし取った兎を助けないと駄目なんでしょうか?ちょっとあの兎は痛い目を見た方がいいと思うのですよ。
などと言えるわけもなく…私が放った光線が妖精さんを直撃し、その動きを停止させました。
「てゐちゃん、大丈夫?」
「あ、アリスさん?…あ、ありがとう」
戸惑っている兎詐欺師さんに、アリスが近寄ります。そりゃあ戸惑いますよ、だってほとんど見えないような距離から救援に駆けつけたんですから。
まぁアリスの意地っ張りぶりもたまには役に立ったっていうことですね。
と、その時、すっかり忘れ去られていた妖精さんが立ち上がって叫びました。
「とっ突然なにすんのよー!!」
ああ、気持ちはよくわかります。そりゃあ彼女にしてみれば、突然こんな変なのから弾幕ぶっ放されたわけですし…
それにしても叫び方がバカっぽいですね。これからバカ対莫迦の決戦が行われるのでしょうか?迷惑なので私は巻き込まないで欲しいんですけど…
そして、私の隣で『死に場所…やっと死に場所が得られる…』とか呟いている蓬莱人形さんが気になります。そんなに死に急がなくてもと思うのですが…
「…てゐちゃん下がって」
さて、そんな妖精さんを見てアリスが言いました。
「え…?アリスさん?」
「大丈夫、ここは私がなんとかするから…」
「で…でも…」
「いいからいいから、ね」
戸惑う兎詐欺師さんを押しやるアリス、なんか感動的な光景です。
でも…
「友達を守って自ら犠牲になるなんて…素敵だわ」
とか当人が言っていると台無しだと思うのですよ、完璧に『友情』というものに舞い上がっています。
まぁ見たところあの妖精さんになら負けることはないとは思いますが…
「あ…ありがとう」
そんなアリスに、兎詐欺師さんはお礼を言うと駆け出しました。最後の戸惑いは嘘じゃないみたいですね、そうじゃなきゃさすがにアリスも浮かばれません。
「あ~!!っこの莫迦なにすんのよっ!!」
そんな光景を見て、妖精さんがバカっぽく怒ります。
「あら?ずいぶんと感情的ですね、これだから田舎者は困ります」
対するにしれっと返すアリス。こういう時にも怒りを見せないあたりはさすがですね、ん?と、妖精さんが何か気付いて…
「あ、あんたそういえば友達なしの七色魔法莫迦じゃない!数少ない友達助けに来たのかどうか知らないけどあたいの邪魔しないでよ」
バ…バカはあんただー!!私は思わず叫びそうになりました。勿論アリスとは比較にならない自制心で制御したわけですが。
それにしても、よりにもよってアリスにそんな事を言うなんて…自殺行為です。
私に送られているアリスの魔法力が急激に増加しています。
しかも、そんな事に気がつかない妖精さんはさらに続けます。
「まったく、こんなんだから友達少ないのよ。私みたいに人の心を察して行動しないと嫌われるわよ?」
そう言って胸をそらす妖精さん、ああ…人の心を察していないのはあなたですよ?
「まったく、私はこの後大ちゃんや大ガマ、それにレティと遊ぶ約束してるのに…無駄な時間使っちゃったじゃない!」
アリスが沈黙しているのをいいことに、好き放題に言いまくる妖精さん。ああ、もう彼女の運命が読めました。
「ふ…ふふふ」
「ん?」
不気味なアリスの笑い声に…ちなみに、不気味なアリスと読んでも不気味な笑い声と読んでもオッケーです…妖精さんが固まります。次の瞬間…
「だ…誰が友達ゼロの嫌われ者よっ!!何であんたみたいなのに友達がいるのよー!!!!」
ああ、前言撤回です。思いっきり感情をあらわにしたアリスが泣きながら怒っています。しかも、前半は勝手に頭の中でネガティブ合成and変換、後者はもう言いがかりです。
「えっちょ…そこまで言ってな…」
慌てる妖精さん、でももう手遅れでした。
「春の京人形魔彩光の上海人形もう一つおまけに首吊り蓬莱人形!!!」
「ちょ…ふぎゃー!!!!」
妖精さんの周囲に私を含む多数の人形を展開したアリスの弾幕は、哀れで、そして自業自得な妖精さんを直撃、一撃で沈黙させました。南無…
帰路
「はぁ…」
歩くアリスはちょっと落ち込んでいます。冷静さを失った事を反省しているのでしょうか?
「やっぱり私って嫌われてるのかなぁ…」
いえ、違いました。こっちでした。
まったくもう、そうやって落ち込むくらいならもうちょっと積極的になればいいと思うのですが…
「アリスさん…」
「え?あ、よかった、てゐちゃん無事だったのね」
その時、アリスの側にあの兎詐欺師さんがやってきました。逃げたんじゃなかったんでしょうか?アリスがほっとしているのが伝わってきました。
「あ…あのね、ありがとう。これ…安物だけどお礼…」
そう言って、目をそらしながら何か小さなものをアリスに押し付ける兎詐欺師さん。
「え、ちょっと、てゐちゃん!?」
「じゃあ『また』ねっ!さよならー!!」
兎詐欺師さんは、慌てるアリスから逃げるかのように足早に走り去っていきました。
「これ…首飾り?」
しばらくして、アリスが兎詐欺師さんが押しつけてきた物を見て呟きます。アリスに似合いそうなその首飾り…多分アリスからだまし取ったお金位じゃ買えませんね。
どうしてこう素直じゃない人が多いんでしょうか。
呆然と立ちつくすアリスを見ながら、私は、今夜はいい気持ちで眠れそうだなぁと思っていたのでした。
~夜~
「友達…友達からお礼…贈り物♪」
はぁ、アリスは帰ってからずっとあの首飾りを持って踊っています。目の前には出所不明のウォットカが何本か転がっています。もの凄いお酒臭いです。一人で飲んでも虚しいんじゃなかったんですか?
「またねっ…だって、また来てくれるんだてゐちゃん!あ~もうっ上海どうしよう!!」
そう言って私を抱いてくるアリス。いや、どうしてもいいので酒臭い体で抱きしめないで欲しいんですけど…
「あ~もうっ!幸せっ!!!」
く…苦しい…放せ莫迦~!!
ちなみに、私の背後では…
「ウォットカだ~ウォットカ~」
「露西亜人形よ!やめろ、気付かれるぞ!!」
「む…やむをえない、ここは拙者が刺しちがえる覚悟で…」
「いや待て蓬莱人形!何をする気だ!!」
「止めるな倫敦人形、死に場所を失った武士の気持ち、お主達にはわかるまい」
「これがジャポネのサムライか!」
「仏蘭西人形!はしゃいでないで止めろ!!」
「ウォットカだウォットカ~」
「頼む!死なせてくれ~!!」
「待て、落ち着け!!」
とかやっています。はぁ、もう何ていうか…言いたいことは沢山あるのですが、ひとまず一言。
今夜はいい気持ちで眠るのは無理っぽいです。
『おしまい』
よかったねアリス
>名前が無い程度の能力様
小さな幸せに大喜びするアリスが大好きなのです。
>はむすた様
>健気なアリスが大好きだ。
同感です、心から。これからもアリスには健気に頑張ってもらおうと(え?)
>二人目の名前が無い程度の能力様
>各人形があんまり見た事のない性格付けされてて面白かったです。
各国に対する誤った(?)イメージを拡大させてみました。仏蘭西とオルレアンは被るので省略、今度書くことがあれば、後者はジャンヌダルクのイメージにしてみようかと考えたり…
ちなみに、蓬莱=日本です。上海人形は…普通なキャラになるはずが書いている内になぜかこんなのに…orz
>三人目の名前が無い程度の能力様
強がっている純情少女アリスと、悪者になりきれない兎詐欺師、このコンビが大好きなのです。
あと
>畜生!全部入れやがりましたよあの七色魔法莫迦!
体内を噴出するほど笑いましたw
首吊りの名は伊達じゃありませんね。
>SETH様
喜んで頂けて何よりです。あのセリフで決定的に(私の中の)上海人形が道を踏み外しました(笑)
>四人目の名前が無い程度の能力様
そう言っていただけると幸いです。蓬莱人形は、当初『サムライ』のイメージでいこうと思ったのですが、あの首吊り~で自殺癖が追加されたのです。哀れ…
>五人目の名前が無い程度の能力様
>へ、へたれすぎる…
同感ですww
>翼様
>あーもう、なんだろ。この思いっきり頭をなでなでしてやりたい気持ち。
それがアリスの魅力です♪
>六人目の名前が無い程度の能力様
ハラキリズムとはなんと恐ろしい…西洋から見ると、そういうのはやっぱり『不思議の国ニッポン』なんでしょうね。
>大抵その首飾りもどこかから盗んできたものであるのだが、そうしなかったところに読後感の爽やかさがあるのだと思う。いやいや良かった。
それは考えていなかったです…そしてお言葉の通り、てゐはちゃんと対価を支払い、あの首飾りを手に入れています。私の中では、てゐはあまり腹黒イメージがないのですよww
もう蓬莱さんの虜です。
人形の性格に各国の特徴が出ているのが面白いです、特にイギリスとフランスのやりとりなんて。そういうところありますよね。