「やりぃ~! どうだ! この魔理沙も負けっぱなしじゃないぜ!」
私がこうも声を大にするのにはもちろん理由がある。
「あ~今日は負けたわね。これで私は五敗目?」
「いーや七敗目」
目の前には手を地につけて座る少女が一人、それを見下ろす形で私が立っている。そう、あの行くところ敵無しの霊夢に弾幕ごっこで久しぶりに勝った。嬉しさで威勢もよくなるってもんだ。
「よく覚えてるわね気持ち悪い」
おい、気持ち悪いとはなんだ気持ち悪いとは。
「そりゃ私が勝つなんて珍しいからな。片手で数えられるくらいだったら全然覚えられるぜ」
家に帰って対霊夢反省ノートを見ればこの七という数字がどれだけ小さいか分かる。総対戦数で割ったらゼロになるんじゃないか?
「……片手?」
「二進数」
人類が採用しているのは十進法だけでないのをお忘れのようだ。
「ふぅん……にしても私がこんなに傷を負うなんて、当たったときの威力はその辺の妖怪よりよっぽどね」
言外に「当たればね」という嫌味が。へん! 今日限りは負け犬の遠吠えと見なせるんだからな!
「弾幕はパワーだからな。『痛いのとんでけ』でもしてやろうか?」
秘儀、嫌味返しだ。「あんまり子供扱いしてるとどつくわよ」とでも言われるかと思ったが、返って来たのは意外にも間の抜けた声だった。
「何それ」
少しの間、何を訊かれているのか分からなかった。いくらかしてやっと「痛いのとんでけ」の意味を訊かれているのだと理解したが、それを霊夢が知らないという事を認識するのにはさらに時間が掛かった。
「え? 何って、痛いの痛いの飛んでけ~って」
「知らない。何? 痛みが飛んでいくの? どこに?」
「いやいやいや、本当に飛んでったら永琳もびっくりだぜ。……本当に知らないのか?」
「さっきからそう言ってるじゃない」
「じゃあえんがちょは?」
「それくらいは知ってるわよ」
「くわばらは?」
「雷の時に唱えるやつね」
「……痛いの痛いのとんでけ~は?」
「だから知らないって言ってるじゃない。アンタおちょくってるの?」
怒った霊夢がお祓い棒を構えたのを見て、ようやく私は「霊夢は痛いのとんでけを知らない」という事を認識した。というかまだそんなに余力が残ってたのかよ。
「あ、ちょ、悪かったって! 悪かったからそのお祓い棒をしまってくれ!」
せっかく弾幕ごっこで勝ったのに別件でぶっ飛ばされちゃあとんだ笑い種だ。
「はぁ……とりあえずおまじないの一つだってことは分かったわ。その辺は民間信仰がらみじゃないと私には伝わらないと思いなさい」
何で霊夢は偉そうにしているんだ? まぁ良い、ぶっ飛ばされずに済んだしな。しかしそうするとこれも伝わらない可能性があるな。
「じゃあ人の字を書いて呑むとかも?」
「知らない。何それ」
まぁ想定内だ。
「手の平に人って字を書いて呑みこむジェスチャーをするんだ。そしたら緊張がほぐれるんだと」
「唱えないやつもあるのね」
「そりゃあるだろ。逆に信仰関係で無いのか? 唱えないやつ」
「そうねー……」
えらく難しい顔してるな。そんなに無いのか?
「……二拝二拍手一拝?」
やっと出たのがそれかい。
「それ参拝な。それにまじないにしちゃ長いだろ」
「じゃあ二拍手」
「省きすぎだろ」
言い方が適当に答えるときのそれだ。そこまで省かれるともはや元が何だったのか分からないだろ。
「っさいわね。拝は神様への敬意なんだから、おまじない程度なら二拍手で十分よ」
トンデモ理論にもほどがある。あーでも現役巫女が言ってるのならそうなのか?
「だとして何の効果があるんだ?」
またしても考え込む霊夢。そこは巫女としてパッと答えようぜ?
「んー、じゃあ魔理沙、アンタ人を集めるときに拍手したりしない?」
質問を質問で返すんじゃない! まぁ答えるけどさ。
「するな。拍手しながら『はいはい静かに―』って」
「……それ私の真似?」
お、鋭い。
「いいや」
霊夢の真似だってバレたら宇宙旅行への片道切符確定だからな。意地でも隠し通すぞ。
「……まぁいいわ。拍手したら場が改まるじゃない。それと同じよ」
……何が同じなんだ。拍手で自分が改まるって事か?
「まぁ分かったよ。ところでその二拍手は歴史あるおまじないなのか?」
「今考えた」
「だろうね」
訊いた私がバカだったみたいだ。少しして霊夢が悪戯っぽい笑顔で言った。
「ふふ、良いじゃない。二人だけのおまじないみたいで」
二人だけの。不意に発せられたこの言葉がやたら頭の中でエコーを繰り返している。
「……そうだな」
私は今どんな顔をしているだろう。もしかしたら今こそ「二拍手」をすべき時なのかもしれない。
奇しくもラッキーナンバーである七回目の勝利は、今までと違う理由で深く記憶に刻まれることになりそうだ。
私がこうも声を大にするのにはもちろん理由がある。
「あ~今日は負けたわね。これで私は五敗目?」
「いーや七敗目」
目の前には手を地につけて座る少女が一人、それを見下ろす形で私が立っている。そう、あの行くところ敵無しの霊夢に弾幕ごっこで久しぶりに勝った。嬉しさで威勢もよくなるってもんだ。
「よく覚えてるわね気持ち悪い」
おい、気持ち悪いとはなんだ気持ち悪いとは。
「そりゃ私が勝つなんて珍しいからな。片手で数えられるくらいだったら全然覚えられるぜ」
家に帰って対霊夢反省ノートを見ればこの七という数字がどれだけ小さいか分かる。総対戦数で割ったらゼロになるんじゃないか?
「……片手?」
「二進数」
人類が採用しているのは十進法だけでないのをお忘れのようだ。
「ふぅん……にしても私がこんなに傷を負うなんて、当たったときの威力はその辺の妖怪よりよっぽどね」
言外に「当たればね」という嫌味が。へん! 今日限りは負け犬の遠吠えと見なせるんだからな!
「弾幕はパワーだからな。『痛いのとんでけ』でもしてやろうか?」
秘儀、嫌味返しだ。「あんまり子供扱いしてるとどつくわよ」とでも言われるかと思ったが、返って来たのは意外にも間の抜けた声だった。
「何それ」
少しの間、何を訊かれているのか分からなかった。いくらかしてやっと「痛いのとんでけ」の意味を訊かれているのだと理解したが、それを霊夢が知らないという事を認識するのにはさらに時間が掛かった。
「え? 何って、痛いの痛いの飛んでけ~って」
「知らない。何? 痛みが飛んでいくの? どこに?」
「いやいやいや、本当に飛んでったら永琳もびっくりだぜ。……本当に知らないのか?」
「さっきからそう言ってるじゃない」
「じゃあえんがちょは?」
「それくらいは知ってるわよ」
「くわばらは?」
「雷の時に唱えるやつね」
「……痛いの痛いのとんでけ~は?」
「だから知らないって言ってるじゃない。アンタおちょくってるの?」
怒った霊夢がお祓い棒を構えたのを見て、ようやく私は「霊夢は痛いのとんでけを知らない」という事を認識した。というかまだそんなに余力が残ってたのかよ。
「あ、ちょ、悪かったって! 悪かったからそのお祓い棒をしまってくれ!」
せっかく弾幕ごっこで勝ったのに別件でぶっ飛ばされちゃあとんだ笑い種だ。
「はぁ……とりあえずおまじないの一つだってことは分かったわ。その辺は民間信仰がらみじゃないと私には伝わらないと思いなさい」
何で霊夢は偉そうにしているんだ? まぁ良い、ぶっ飛ばされずに済んだしな。しかしそうするとこれも伝わらない可能性があるな。
「じゃあ人の字を書いて呑むとかも?」
「知らない。何それ」
まぁ想定内だ。
「手の平に人って字を書いて呑みこむジェスチャーをするんだ。そしたら緊張がほぐれるんだと」
「唱えないやつもあるのね」
「そりゃあるだろ。逆に信仰関係で無いのか? 唱えないやつ」
「そうねー……」
えらく難しい顔してるな。そんなに無いのか?
「……二拝二拍手一拝?」
やっと出たのがそれかい。
「それ参拝な。それにまじないにしちゃ長いだろ」
「じゃあ二拍手」
「省きすぎだろ」
言い方が適当に答えるときのそれだ。そこまで省かれるともはや元が何だったのか分からないだろ。
「っさいわね。拝は神様への敬意なんだから、おまじない程度なら二拍手で十分よ」
トンデモ理論にもほどがある。あーでも現役巫女が言ってるのならそうなのか?
「だとして何の効果があるんだ?」
またしても考え込む霊夢。そこは巫女としてパッと答えようぜ?
「んー、じゃあ魔理沙、アンタ人を集めるときに拍手したりしない?」
質問を質問で返すんじゃない! まぁ答えるけどさ。
「するな。拍手しながら『はいはい静かに―』って」
「……それ私の真似?」
お、鋭い。
「いいや」
霊夢の真似だってバレたら宇宙旅行への片道切符確定だからな。意地でも隠し通すぞ。
「……まぁいいわ。拍手したら場が改まるじゃない。それと同じよ」
……何が同じなんだ。拍手で自分が改まるって事か?
「まぁ分かったよ。ところでその二拍手は歴史あるおまじないなのか?」
「今考えた」
「だろうね」
訊いた私がバカだったみたいだ。少しして霊夢が悪戯っぽい笑顔で言った。
「ふふ、良いじゃない。二人だけのおまじないみたいで」
二人だけの。不意に発せられたこの言葉がやたら頭の中でエコーを繰り返している。
「……そうだな」
私は今どんな顔をしているだろう。もしかしたら今こそ「二拍手」をすべき時なのかもしれない。
奇しくもラッキーナンバーである七回目の勝利は、今までと違う理由で深く記憶に刻まれることになりそうだ。