Coolier - 新生・東方創想話

霊夢のお姉

2026/09/25 21:56:41
最終更新
サイズ
4.21KB
ページ数
1
閲覧数
48
評価数
0/0
POINT
0
Rate
5.00

分類タグ


 火焔猫燐は博麗霊夢のことが好きだ。
 さとり様と霊夢なら当然さとり様を選ぶ。
 こいし様と霊夢なら当然こいし様を選ぶ。
 お空と霊夢なら当然お空を選ぶ。
 その程度ではあるが、お燐は霊夢のことが大好きだった。
 霊夢もお燐のことが嫌いではないようだ。とはいえ、こちらは「猫形態」という但し書きが必要だが。
 それでもまぁ、お燐は別に気にしない。どちらも自分だ。
 霊夢は人型より猫型が好き、それだけのことだから。

 ある日、昼寝をしている霊夢の枕元でお燐は猫化してくるりと丸まった。そのまま一緒に昼寝をしようと思ったのだが、目を閉じたところで尻尾に何かが触れた。
 霊夢の手だ。
 寝ぼけているのかと思ったが、それにしても触り方が優しい。多少は許すが、乱暴に触られたらいかに霊夢相手とは言え怒って逃げ出すところだ。
 猫好きだけあって、猫の触り方に慣れているのだとお燐は納得する。
「ん、んん……」
 霊夢はやはり優しくお燐の尻尾を握ると、口元へと持っていく。
(おねぃさん、やっぱり寝ぼけてる)
 一瞬、お燐はどうするべきか迷った。さすがに尻尾を食べられるとは思わない。いくら腹ぺこでもそこまではしまい。多分。おそらく。いや、あるいは。もしかして。
 囓られたら猫車で轢く。そう決意して構えていると、霊夢はお燐の尻尾を吸った。
(にゃあ!?)
 まるで、赤ん坊が母親の乳を吸うように。違うところは、噛まないところ。赤ん坊なら母親の乳首を噛んで乳の出を促すが、霊夢はただ吸っているだけだ。
(お乳と間違えたわけじゃないみたいだねぇ)
 人間には赤ん坊返りというものがあるらしい。とお燐は知っている。
 中年男にもあるが、アレはちょっと意味合いが違う。多分、依神女苑辺りが詳しい。
「いや、そういうことしちゃったら一応神としてはちょっとアレでしょ。それにね、フィジカルな依存は所詮プラトニックな依存には勝てないのよ」
 脳内に現れたイマジナリー女苑の反論にお燐は謝罪した。
「ごめんニャさい」
「わかればいいのよ」
 それにしても、最近の霊夢は昼寝が多い。
 巫女だった頃から昼寝は好きだったようだが、それどころではない。
 やはり人間というのは歳を取るとこうなる、とのさとり様の言葉は正しかったのだ。
 霊夢が巫女の座を退いてから数十年が経っていた。
 今では、里の地主として小作人を雇って畑を耕させている。巫女の力の名残か豊穣神の覚えがめでたいのか作物の出来は非常に良く、地霊殿や紅魔館にそれなりの値段で卸されているのだ。一部は博麗神社の当代巫女と霧雨魔法店の当代店主に届けられている。
(歳を取ると、人間は赤ん坊に返るときがあるって、さとり様も言ってたねぇ……)
 年齢的には、今の霊夢だってお燐にとっては若造だ。そう考えると、赤ん坊返りした霊夢が可愛く思える。しわくちゃな見た目だって、妖怪目線では別にどうと言うことはない。「ん……」
 突然、霊夢が嫌々をするように首を振ると尻尾を手放した。
 おや、とお燐は首を傾げる。これは、気に入らないという仕草だ。
(あたいの尻尾がお気に召さないとは贅沢な)
 いつもは可愛がってくれるのに、とお燐は尻尾を逆立てた。
「……お姉ち……ん」
 今何と言った?
 霊夢が「お姉ちゃん」と言った。
 はて。霊夢に姉妹はいない。
 母を呼んだのなら理屈はわかる。人間である限り、母は絶対に存在しているのだから。
 だけど、霊夢が呼んだのは姉だ。
 もしかして、霊夢が幼い頃には姉がいたのだろうか。
 まだ霊夢が巫女だった頃の宴会で、八雲紫がまだ赤ん坊の霊夢をどこからか連れてきたのだと聞いたことがある。姉はいないはずだ。
 にゃあ
 鳴いてみると、再び霊夢は尻尾を掴む。
 そしてまた、口にした直後に離してしまう。
(ああ)
 わかってしまった。
 考えてみれば答は一つだ。
 霊夢は八雲紫が育てたようなものだ。実働は八雲藍らしいが。
 ならば幼い霊夢が、そして今の霊夢がお姉ちゃんと呼ぶ猫など一匹しかいないではないか。
(むぅ……あたいの尻尾はアイツの尻尾に負けるのかい)
 なんとなく、ムカついた。
 お燐はすっくと四つ足で立ち上がると、ポンと畳を蹴った。
 軽やかに走り出す先は里外れの猫集会所。
 マヨヒガへの道は知らないが、地上猫なら知っているはずだ。
 数年前から八雲橙を名乗るようになった化け猫の居所を。
(なんだか、悔しいなぁ)
 その悔しさの理由は、尻尾が負けたこととはほんの少し違っていた。



 霊夢の隣にしゃがみこんでいるのは猫化した橙。
 その尻尾を霊夢は咥えるように吸っていた。
「懐かしいなぁ……霊夢がまだ小さい頃、私の尻尾をこうやって吸ってたんだ……変わらないね」
 お燐の姿はない。
 橙の尻尾を咥えた霊夢の表情を確かめた瞬間、無言で走り去ってしまったのだ。
「お姉ちゃんだよ」
「……お姉ちぇん……」
 橙は優しく笑う。
「その呼び方も、随分ひさしぶりだね。本当に変わらないなぁ、霊夢は」
 紫様と藍様もすぐに来るからね。
 魔理沙と咲夜が待ってるよ。
 霊夢の気が済むまでいつまでも尻尾を吸わせよう。橙はそう思った。



 某所
「さとり様」
「あら、お帰り、お燐」
「尻尾吸ってください」
「は?」






 某所
「橙の尻尾吸いだと……調子乗ってんじゃねえぞ……」
「藍、ステイ」
のくた
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.簡易評価なし
0. コメントなし