おまえが好きだ。
そうやって言えたのなら良かったのかもしれない。
おまえとひょんなことから出会って、腐れ縁のようにずっと一緒にいて。私は恥ずかしくて言えなかった。簡単なことだった、ただおまえに好きだと早く言えばよかったんだ。
ただそれだけだったのだ。
~*~
昔、お母さまと博麗神社に一緒に行ったことがある。
「魔理沙、あなたはお転婆なのだから、博麗神社に着いたらご迷惑かけないでね」
「はーい、お母さま」
二人で手を繋いで、博麗神社までゆっくりと歩いて。着いたのは夕方頃だったと思う。
お参りをして、霊夢の前の巫女に声を掛けられて、気がついたら神社にお泊まりして、わくわくした気がする。
お泊まりした時にはじめて出会ったのが霊夢で。同じくらいの子がいるなって思って見ていたけれど、巫女さんがあいさつしなさいとその子に言うから、私はお母さまの足元から出てきて、声をかけた。
「私、魔理沙。あなたの名前は?」
握手の手を出しながらそう言った。その子は少し恥ずかしそうに答えた。
「霊夢……博麗霊夢。よ、よろしく……」
「よろしく!」
握手も忘れて霊夢の顔をまじまじと見てしまう。
「……な、なに?」
まじまじと見られた霊夢は訝しむ様に話していた。
「ううん。かわいいなって」
かぁと少し霊夢の顔が赤くなった。
「な、何言うのよ……」
「えへへ、よろしくね」
そう、一目惚れだった。漆黒のような光に当たると輝く黒髪、その髪に映える赤いリボン。特に可愛いと思えたのは、髪と同じ色をした目。私を吸い込むように見つめる瞳だった。なーんて、今なら恥ずかしくて言えないけれど、好きになったのだ。黒が好きなんて、魔法使いだろ?って誤魔化しているけど、それは霊夢、おまえの瞳だから好きだなんてな。こんなこと言えるはずがない。今の私の沽券に関わるので。
そうして博麗神社にお泊まりして、夜が明ける前にお母さまに起こされる。
巫女さんと霊夢とお母さまと私で見た朝日は忘れられない。
薄暗い空から日が登り始める。山の中から一筋の光が零れ出る。それが眩しくて私は目を細めた。
どこか神聖な時間。今考えると先の短いお母さまはこれを見たかったのかもしれないと勝手に思っている。お母さまはそれに関しては何も言わなかったから。
私たちは博麗神社で朝ごはんをいただいてから、里へと帰った。お母さまは確信的なことは何も言わなかったけれど、二人で行けたのは良かったね、なんて事言っていたと思う。あまりにも悲しそうなお母さまの顔を見たことが私の奥底でずっと燻っているのだと思う。もうお母さまは死んでしまって、二度と聞けなくなってしまったけれど。
これが私と霊夢の出会いだ。一目惚れなんてするとは思っていなかったけれど。この腐れ縁がずっと続くだなんて思ってもいなかったけれど。この恋心は燻り続けている。恋は盲目なんて言うけれど、それにはストップをかけている。壊れた蓄音機にはなりたくないからな。でもいつか言えたのなら。なんて夢を見ている。ああ、本当に馬鹿だなあ。言えるはずのないことを夢見るなんてね……
~*~
「霊夢、今日こそおまえに勝つ!」
「何よ、昼寝してたのにぃ……」
日向ぼっこがしやすくなってきた春の日。三日続きで弾幕ごっこに負けて、悔しくてムキになっていた。
「もう、そんなに勝ちたいものなの?」
「その発言は強者の台詞だろ!負けてたら勝ちたいものなんだよ!」
霊夢は呆れたようにいいながらスペルカードの札を出す。私も札を出しながらほうきに跨って告げる。
「勝負だ!」
「はいはい……」
勝負の結果、ボッコボコにされた。
何しても被弾して、何しても当たらなくて。悔しくて悔しくて。
神社の境内でぶっ倒れている。ここまで負けると自信を無くすな……私が悪いのかと思ってしまう。
「酷い有様ね。ほら、魔理沙起きられる?」
逆光になって顔の見えない霊夢に手を差し伸べられる。被弾しまくって痛む体を手に引かれて上半身を起こす。
「いてて……」
「大丈夫?怪我酷いなら永遠亭に行く?」
しゃがんで私の瞳を覗き込んでくる霊夢。
「いや、大丈夫だ。少し痛いけど我慢できるし……」
パンパンと服に付いた砂埃を払っていると霊夢は怪訝そうな顔をした。
「本当にそうかしら……」
心配そうな声色で言うものだから、私は大丈夫と体を動かす。
「ほらだいじょ……いてて」
「もう、言わんこっちゃない。永遠亭に行かなくても手当てはするから。ほら縁側行こう」
霊夢はすっと立ち上がってそう言った。
「わかったよ……私も行くから先行ってて」
「救急箱取ってくるわね」
そう言って霊夢は先に社務所に向かっていった。
……はあ。なんなんだろうな、これは。
私は訳の分からない感情に支配されていた。分からないと言ったけれど原因も明らかだけれど、解決出来ない感情だった。畜生、考えすぎでもやもやしすぎだな。そろそろこの感情を処理しないと訳分からなくなりそうで。
恋心、厄介なものだ。片思いでいいのに、ふと思ってしまったんだ。
ああ、愛されたいな、なんて。
なんて酷い感情なんだろうか。私だって愛したい……いや愛してる。でも、愛されたい。そんな傲慢な感情が芽を出す。
この弾幕勝負に勝ったら告白してみようなんて思うけどそういう時こそ焦るのか負けまくる。当分、何も言わないことにしよう。そうまた決める。
「魔理沙ー?遅いわよ、早く来なさいよー」
「ああ、今行く!」
痛む体を引きずりながら立ち上がり、社務所に向かった。
***
ミーンミーンミーン……
夏の暑い日差しが降り注ぐ。この白黒の服には堪える季節がやってきた。
涼しい薄手の服は着ているけれど、黒地が日差しを吸ってしょうがない。暑い……このまま空を飛んでいたら干からびてしまうので、一旦、守矢神社でも行って休憩しようかなと思ってそちらの方向へと飛んでいく。
少しすると守矢神社が見えてきて、境内で掃除をしている早苗が見えた。
そのまま空を飛んで守矢神社の境内に入る。
「あら、魔理沙さん。珍しいですね?」
箒の手を止めた早苗は聞いてくる。
「ちょっと暑すぎるから休憩させてくれ」
そのまま本殿の方へと歩いていく。
「待ってくだいね、お茶くらいなら出せますけど……」
「日影で休憩させてもらったらいいから……」
はあはあと、持っていた水筒を出してごくごくと水を飲み干す。あら、無くなってしまったか。
「私も暑いので休憩しますか。良かったらお茶、飲んでいってくださいな。麦茶がありますよ」
「おお!それはいいな。ご相伴にあずかろうかな」
「いいですよ、少しくらいお話聞かせてくださいな。こんな機会あまりないわけですし」
「そうかぁ?」
「魔理沙さんと一体一で話す機会なんてあまりないわけですよ」
「お、おう……なんでそんな笑顔なのか分からないけれど、面白い話できるかは不明だぞ」
早苗はいい笑顔で告げる。
「魔理沙さんの個人的なお話を聞けたら嬉しいです!」
……なんか嫌な予感する。
確かに嫌な予感は的中した。
早苗は私のことを根掘り葉掘り聞いてくる。例えば家族構成とか。あんまり思い出したくないんだよな……あのクソ親父のことは特に。お母さまは大丈夫だけれど。
私は里の中では珍しく一人っ子だから色んな人に可愛がって貰った記憶がある。そう言うと早苗はそうですよね、と言うものだから驚いた。
「早苗、おまえ一人っ子なのか?」
「ええ。そうですよ。幻想郷に来る前に親戚の人に良くしてもらいました。それも思い出ですよ」
「なんかお姉さんみたいだから妹か弟かいるのかと思ってた」
「あはは……親戚に下の子がいたんです。その子と良く遊んだのでそう思うのかもしれませんね。元気にしてるかな……」
あ、遠い目をしている。その人の大事にしている過去を慈しむ目をしている。神奈子と諏訪子にも大事にされたんだろう、それでもそれと同じくらい親戚に大事にされた記憶もあるんだろう。少し羨ましいと思った。私も家族仲は悪くはかったけれども、お母さまがいなくなって、死の物狂いで魔法を習得してからクソ親父と仲が悪くなって、勘当されて。
時々生きているのかとか見に行くけど、絶対顔出しなんてしないし。
「まあ、私の家族はいいんですよ。神奈子様と諏訪子様が家族ですし。で、恋の話ですよ、魔理沙さん、好きな人いますよね」
飲みかけた麦茶を吹きそうになった。
「……!ゲッホゲホ……お前なあ!人の恋路に突っ込むなんて馬に蹴られて死んじまえよ……」
「叶ってないなら、恋路じゃないですよね?」
……酷くないかそれ。というか馬に蹴られて死んじまえと言った時点で認めてしまったのか。くそ、嵌められた。
「おまえな……傷口に塩を塗りたくらないでくれるか……」
「私は魔理沙さんの恋の話を聞いてみたいです」
この口ぶり。好きな人の目星はついている感じだろうが……
「やだね。恋の話なんて無闇矢鱈に話す物じゃないだろう」
「えー外の世界は恋バナとかあるんですよ。誰々が好きとか話すんですよ!少しくらい良いじゃないですか」
ブーブーと文句を言う早苗。それは外の世界のルールであって幻想郷のルールじゃない。なら言う必要もない。
「言わん。この気持ちは秘めるって決めたんだ」
「そうですかあ。なら博麗神社に行きましょうか」
「……いきなり博麗神社とは何だよ」
「巫女同士で恋バナしますもん!魔理沙さん抜きで!」
「そりゃ好きにしてくれ……私には関係ないだろ?」
関係ないと言ったが嘘だ。霊夢の恋バナ……?は気になる。でもそんなこと聞いてしまったら立ち直れないような気もするけれども。
「そんな怖い顔しないでくださいよ。ほら鏡」
いつの間にか手鏡を出す早苗。鏡に映っていたのは険しい顔をした私だった。……顔に出すぎだな、私。これは鈍感なやつで分かってしまう。本当に馬鹿なやつだな。
「そんな顔するなら告白すればいいのに」
「馬鹿野郎、そんなこと出来たらこんな顔をしてないさ」
「……それもそうですね」
なんか勝手に納得している早苗。少し腹が立つがどうにもならない。
「話はそれだけか?私は帰る。麦茶ありがとうな」
「ええ、どういたしまして。私は魔理沙さんの恋を勝手ながら応援していますよ」
「そりゃあどうも」
そう言って逃げるように私は箒に跨って空を駆けた。
「不器用な人……」
早苗は飛び去る魔理沙を見てそう呟いた。
***
山々が色付き始めたこの秋、私はバテていた。
夏に魔法の森で研究をずっとしていたせいでバテてしまった。魔法の森は涼しい方だが体力を使いすぎたのがいけなかったんだろう。少し動いただけでも疲れてしまって私は家から出られないでいた。ご飯食べて、水分摂って、寝ての繰り返し。……博麗神社、行きたいな。そんなことをふと思う。霊夢と馬鹿やりたいな、なんてことを考えながら動かない体を恨めしく思う。
「はあ……もう少し養生かな……」
そんなとボヤきながら寝室から降りて一階で水を飲んでいた時だった。玄関がコンコンと叩かれる音がする。
……?誰だろうか。来る人にあてもなく首を傾げる。
「はーい、誰です……かって、霊夢?どうしたんだ私の家に来て」
そこに立っていたのは霊夢だった。なんか大きめの籠を持って、玄関前に立っている。
「あんたの調子悪いって風の噂で聞いたから……差し入れ。早く元気になりなさいよ」
ずいっと籠を渡される。思わずそれを受け取るとずっしりした重みがあった。
「えっと、ありがとう……早く治してまた博麗神社に行くぜ」
風邪ではないけど早めに治したい。そう思わせてくれた。
「渡したから帰るわね。お大事にしなさいよ」
そう言って霊夢は空を駆けていった。
なんだったんだろうか。でも差し入れは素直に嬉しいので貰っておく。籠の中を見るとりんごだったり、この時期には珍しいみかんだったりが入っていた。ありがたい話だ。
貰ったりんごを丸かじりして食べた。切るのは面倒だったので。霊夢に言ったら怒られそうだなんて思いながら。結構あいつはマメだからな。私がする面倒くさがりを結構怒る。
怒った姿を思い出して、ふふと笑えた。
よし、研究もあと少しだ、バテてないで治して終わらせよう。
一段と気合いが入ったのだった。
***
しんしんと降り積もる雪が私たちの思考を奪っていくように思える。
魔法の森も真っ白に積もった雪を見ながら、最悪だなとボヤく。今年は特に酷い。幻想郷しか知らないけれどこれは降りすぎだろというレベル。何メートル積もったかなんて、私が埋まりそうに見えるからそのくらいあるんだろう。
玄関は埋まってしまったので二階の窓から飛び立つ。あとから雪かきという名の火を使う魔法で溶かそうと思い、空を駆ける。火を使ったら結局雪かきとは言わないと思うけれどまあいいか。
そうして体に雪をどっさりのせながら博麗神社にやってきた。
社務所の玄関に入る前に雪を落とす。そうして玄関を開けた。
「霊夢、おはよう!寒いな!」
奥から霊夢がばたばたと出てきた。
「おはよう……って濡れてるじゃない!タオル持ってくる!」
そう言ってまた奥に走っていった。雪は落としたけれどやっぱりコートが少し濡れて寒いや。コートを脱いで帽子を持って大人しく待つことにする。
また走ってきた霊夢がバスタオルを持ってきてくれて頭にボフッと被せる。
「ほら乾かしなさいよ。風邪引いちゃ駄目よ」
「ありがとう……くしゅ!」
「もー、言わんこっちゃない」
頭のバスタオルを使って髪の毛を拭いていく。寒いけど拭いてからじゃないと上がれない。
拭き終わったので、靴を脱いで中に上がる。軽く濡れたタオルを持って居間の方に行った。
霊夢はコタツに入って暖を取っていた。そさくさと私はコタツに潜り込む。
「はあ、暖かい……」
「魔理沙、こんな雪の日にどうしたのよ」
みかんを剥きながら霊夢は私に聞いてくる。
「いやあ、来たくなって。だから来た」
「……そう。みかんいる?」
剥ききったみかんを半分に割って霊夢は渡してくる。ありがたくそれを受け取って口に運ぶ。あ、美味しい。
「ありがとな」
「食べ終わってから話しなさいよ」
もごもごとお礼を言ったら怒られた。少し細かい。まあいいか。
シーンと静かになりながらも、心地の良いような空気が流れる。外の雪を見るとみるみると積もっている。
「……今年、雪が酷いな」
「そうね。雪かきしなきゃ……あーあ、嫌になるわね」
霊夢が雪かきのことでぼやく。
「なあ霊夢、明日、晴れたら見てほしいものがあるんだ」
「んー?雪かきしてからならいいわよ。来たからには手伝ってくれるんでしょう?」
「ああ、手伝う。なら雪かき終わってからな」
そうしてみかんをまた口の中に放り込んだ。
***
ドサッと大きな音がして私は目が覚めた。……屋根から雪が落ちた音だろうか。隣の布団に眠る霊夢はまだ起きそうになくて。まだ暗くて日は登っていなかった。
やけに目が冴えてしょうがないのでもう起きることにする。服を着替えて、バケツに溜めた水で顔を洗う。キンキンに冷えて冷たい。目がさらに冴えた。
朝ごはん、作るか……と思いまた動き始める。昨日炊いたご飯があって、味噌汁をかまどに火をつけて温め直す。
ぱちぱちと燃える火にあたりながら、ゆらゆらと揺れる火に見とれる。
私はやっぱり霊夢のことが好きだ。その気持ちに変わりはない。だから今日告げようと、思っている。でも怖くてしょうがない。逃げたくなる。片思いで終わらせたい。夏に呆れられた早苗の顔を思い出す。他の人にはバレバレなのだろうか……まあその辺は怖いけど私にとってもどうしようもないと思うのだ。
ガタッと後ろの方で音がする。
振り向くと霊夢が寝巻きからいつもの巫女服に着替えて立っていた。
「おう、おはよう霊夢」
「おはよう魔理沙……」
目を擦って眠そうにしている霊夢。
「味噌汁はもう出来たぞ。ご飯は適当によそってくれよ」
「ありがとう……」
お盆を持ってきて自分の分のご飯と2人分の味噌汁を持っていく。
「霊夢、ほら食べなよ、ご飯もよそってきて」
「はあい……」
裾を引きずるみたいに背中を丸めてご飯を取りに行った。危ないな。
そうして二人でいただきます、と食べ始める。
「ねえ魔理沙」
「どした?」
霊夢はご飯を半分ほど食べてから問いかけてくる。
「あんた、なんか隠してない?」
ふっと食べている手が止まる。分かりやすくて嫌になる。また動かして食べ始める。一口食べて飲み込んで話す。
「なんでそう思ったんだ?」
質問に質問返しはあまり良くないけれど。そう返さないと思いを漏らしてしまいそうで。
「そうねえ……感、かしら。最近怪しかったもの」
「いや怪しいって……」
いや怪しかったか。夏からずっと研究していたから。
「私には言えないこと?」
「いや、ちょっと……ちょっと待ってくれ」
言うべきか?でもこの気持ち伝えてしまったら怖くて。なんで怖いのか。拒否されるのが。白い目で見られるのが。
私は一般の目線でしか見ていないのか……でも、でも!
でも私は告げるべきなんだ。怖い、それでも伝えるべきなんだって。拒否されても、私だけの思いは変わらないはずだから。
「なあ霊夢、はじめて出会った日のこと、覚えてるか?」
「どうしてその話?」
「まあいいから……どうなんだ?」
霊夢は困惑した顔で話す。
「いや、なんか分からないやつが来たなって……でも遊んでくれたのが楽しかったわよ」
そう言って笑う霊夢。
「そうだったんだな。私は霊夢、お前のこと一目惚れだったんだよ……」
「…………え」
「そっからずっと好きだ。おまえの黒い髪が好きだ。おまえのその瞳が好きだ。些細なことが好きだ…………好きなんだよ……」
ああ、言ってしまった。耐えられなかった、でもどこか気が楽になってしまった自分もいた。
俯いてしまって、まともに霊夢の顔が見れない。
「…………勝手に納得しないでよ。人の気持ちも知らないで」
バッと私は霊夢の顔を見る。瞳に涙をためてこぼれ落ちそうになっている。
「まだ好きとか分からない。でも、私はあんたのこと、好ましいとは思ってる。だから、勝手に決め付けないでよ!」
霊夢の涙は零れ落ちた。ああ、綺麗だなんて関係の無いことを思ってしまった。
「急にごめん……でもありがとう」
「ほんとに!とりあえず朝ごはん食べてしまおうよ」
冷たくなった味噌汁を啜りながら私たちは泣き笑いながら朝ごはんを食べきった。
これでよかったのだろうか。霊夢は好きだとは分からないとは言っていた。でも私の事は好ましいと思うのは嬉しい。本当に嬉しいのだ……早く好きだって言えばよかったのかな。正解かどうか分からないけれど私にとってはこれで良かったのだと思わされた。好きだって、一目惚れだって言えたのは良かった。私の溜め込んだ思いは昇華されたのだと思う。
~*~
おまえが好きだ。
そうやって言えたのなら良かったのかもしれない。
おまえとひょんなことから出会って、腐れ縁のようにずっと一緒にいて。私は恥ずかしくて言えなかった。簡単なことだった、ただおまえに好きだと早く言えばよかったんだ!
ただそれだけだったのだ!
「ねえ魔理沙、あんた、ちゃんと私のこと好きなの?」
「ああ、霊夢。私はお前のことが大好きだぜ!」
そうやって言えたのなら良かったのかもしれない。
おまえとひょんなことから出会って、腐れ縁のようにずっと一緒にいて。私は恥ずかしくて言えなかった。簡単なことだった、ただおまえに好きだと早く言えばよかったんだ。
ただそれだけだったのだ。
~*~
昔、お母さまと博麗神社に一緒に行ったことがある。
「魔理沙、あなたはお転婆なのだから、博麗神社に着いたらご迷惑かけないでね」
「はーい、お母さま」
二人で手を繋いで、博麗神社までゆっくりと歩いて。着いたのは夕方頃だったと思う。
お参りをして、霊夢の前の巫女に声を掛けられて、気がついたら神社にお泊まりして、わくわくした気がする。
お泊まりした時にはじめて出会ったのが霊夢で。同じくらいの子がいるなって思って見ていたけれど、巫女さんがあいさつしなさいとその子に言うから、私はお母さまの足元から出てきて、声をかけた。
「私、魔理沙。あなたの名前は?」
握手の手を出しながらそう言った。その子は少し恥ずかしそうに答えた。
「霊夢……博麗霊夢。よ、よろしく……」
「よろしく!」
握手も忘れて霊夢の顔をまじまじと見てしまう。
「……な、なに?」
まじまじと見られた霊夢は訝しむ様に話していた。
「ううん。かわいいなって」
かぁと少し霊夢の顔が赤くなった。
「な、何言うのよ……」
「えへへ、よろしくね」
そう、一目惚れだった。漆黒のような光に当たると輝く黒髪、その髪に映える赤いリボン。特に可愛いと思えたのは、髪と同じ色をした目。私を吸い込むように見つめる瞳だった。なーんて、今なら恥ずかしくて言えないけれど、好きになったのだ。黒が好きなんて、魔法使いだろ?って誤魔化しているけど、それは霊夢、おまえの瞳だから好きだなんてな。こんなこと言えるはずがない。今の私の沽券に関わるので。
そうして博麗神社にお泊まりして、夜が明ける前にお母さまに起こされる。
巫女さんと霊夢とお母さまと私で見た朝日は忘れられない。
薄暗い空から日が登り始める。山の中から一筋の光が零れ出る。それが眩しくて私は目を細めた。
どこか神聖な時間。今考えると先の短いお母さまはこれを見たかったのかもしれないと勝手に思っている。お母さまはそれに関しては何も言わなかったから。
私たちは博麗神社で朝ごはんをいただいてから、里へと帰った。お母さまは確信的なことは何も言わなかったけれど、二人で行けたのは良かったね、なんて事言っていたと思う。あまりにも悲しそうなお母さまの顔を見たことが私の奥底でずっと燻っているのだと思う。もうお母さまは死んでしまって、二度と聞けなくなってしまったけれど。
これが私と霊夢の出会いだ。一目惚れなんてするとは思っていなかったけれど。この腐れ縁がずっと続くだなんて思ってもいなかったけれど。この恋心は燻り続けている。恋は盲目なんて言うけれど、それにはストップをかけている。壊れた蓄音機にはなりたくないからな。でもいつか言えたのなら。なんて夢を見ている。ああ、本当に馬鹿だなあ。言えるはずのないことを夢見るなんてね……
~*~
「霊夢、今日こそおまえに勝つ!」
「何よ、昼寝してたのにぃ……」
日向ぼっこがしやすくなってきた春の日。三日続きで弾幕ごっこに負けて、悔しくてムキになっていた。
「もう、そんなに勝ちたいものなの?」
「その発言は強者の台詞だろ!負けてたら勝ちたいものなんだよ!」
霊夢は呆れたようにいいながらスペルカードの札を出す。私も札を出しながらほうきに跨って告げる。
「勝負だ!」
「はいはい……」
勝負の結果、ボッコボコにされた。
何しても被弾して、何しても当たらなくて。悔しくて悔しくて。
神社の境内でぶっ倒れている。ここまで負けると自信を無くすな……私が悪いのかと思ってしまう。
「酷い有様ね。ほら、魔理沙起きられる?」
逆光になって顔の見えない霊夢に手を差し伸べられる。被弾しまくって痛む体を手に引かれて上半身を起こす。
「いてて……」
「大丈夫?怪我酷いなら永遠亭に行く?」
しゃがんで私の瞳を覗き込んでくる霊夢。
「いや、大丈夫だ。少し痛いけど我慢できるし……」
パンパンと服に付いた砂埃を払っていると霊夢は怪訝そうな顔をした。
「本当にそうかしら……」
心配そうな声色で言うものだから、私は大丈夫と体を動かす。
「ほらだいじょ……いてて」
「もう、言わんこっちゃない。永遠亭に行かなくても手当てはするから。ほら縁側行こう」
霊夢はすっと立ち上がってそう言った。
「わかったよ……私も行くから先行ってて」
「救急箱取ってくるわね」
そう言って霊夢は先に社務所に向かっていった。
……はあ。なんなんだろうな、これは。
私は訳の分からない感情に支配されていた。分からないと言ったけれど原因も明らかだけれど、解決出来ない感情だった。畜生、考えすぎでもやもやしすぎだな。そろそろこの感情を処理しないと訳分からなくなりそうで。
恋心、厄介なものだ。片思いでいいのに、ふと思ってしまったんだ。
ああ、愛されたいな、なんて。
なんて酷い感情なんだろうか。私だって愛したい……いや愛してる。でも、愛されたい。そんな傲慢な感情が芽を出す。
この弾幕勝負に勝ったら告白してみようなんて思うけどそういう時こそ焦るのか負けまくる。当分、何も言わないことにしよう。そうまた決める。
「魔理沙ー?遅いわよ、早く来なさいよー」
「ああ、今行く!」
痛む体を引きずりながら立ち上がり、社務所に向かった。
***
ミーンミーンミーン……
夏の暑い日差しが降り注ぐ。この白黒の服には堪える季節がやってきた。
涼しい薄手の服は着ているけれど、黒地が日差しを吸ってしょうがない。暑い……このまま空を飛んでいたら干からびてしまうので、一旦、守矢神社でも行って休憩しようかなと思ってそちらの方向へと飛んでいく。
少しすると守矢神社が見えてきて、境内で掃除をしている早苗が見えた。
そのまま空を飛んで守矢神社の境内に入る。
「あら、魔理沙さん。珍しいですね?」
箒の手を止めた早苗は聞いてくる。
「ちょっと暑すぎるから休憩させてくれ」
そのまま本殿の方へと歩いていく。
「待ってくだいね、お茶くらいなら出せますけど……」
「日影で休憩させてもらったらいいから……」
はあはあと、持っていた水筒を出してごくごくと水を飲み干す。あら、無くなってしまったか。
「私も暑いので休憩しますか。良かったらお茶、飲んでいってくださいな。麦茶がありますよ」
「おお!それはいいな。ご相伴にあずかろうかな」
「いいですよ、少しくらいお話聞かせてくださいな。こんな機会あまりないわけですし」
「そうかぁ?」
「魔理沙さんと一体一で話す機会なんてあまりないわけですよ」
「お、おう……なんでそんな笑顔なのか分からないけれど、面白い話できるかは不明だぞ」
早苗はいい笑顔で告げる。
「魔理沙さんの個人的なお話を聞けたら嬉しいです!」
……なんか嫌な予感する。
確かに嫌な予感は的中した。
早苗は私のことを根掘り葉掘り聞いてくる。例えば家族構成とか。あんまり思い出したくないんだよな……あのクソ親父のことは特に。お母さまは大丈夫だけれど。
私は里の中では珍しく一人っ子だから色んな人に可愛がって貰った記憶がある。そう言うと早苗はそうですよね、と言うものだから驚いた。
「早苗、おまえ一人っ子なのか?」
「ええ。そうですよ。幻想郷に来る前に親戚の人に良くしてもらいました。それも思い出ですよ」
「なんかお姉さんみたいだから妹か弟かいるのかと思ってた」
「あはは……親戚に下の子がいたんです。その子と良く遊んだのでそう思うのかもしれませんね。元気にしてるかな……」
あ、遠い目をしている。その人の大事にしている過去を慈しむ目をしている。神奈子と諏訪子にも大事にされたんだろう、それでもそれと同じくらい親戚に大事にされた記憶もあるんだろう。少し羨ましいと思った。私も家族仲は悪くはかったけれども、お母さまがいなくなって、死の物狂いで魔法を習得してからクソ親父と仲が悪くなって、勘当されて。
時々生きているのかとか見に行くけど、絶対顔出しなんてしないし。
「まあ、私の家族はいいんですよ。神奈子様と諏訪子様が家族ですし。で、恋の話ですよ、魔理沙さん、好きな人いますよね」
飲みかけた麦茶を吹きそうになった。
「……!ゲッホゲホ……お前なあ!人の恋路に突っ込むなんて馬に蹴られて死んじまえよ……」
「叶ってないなら、恋路じゃないですよね?」
……酷くないかそれ。というか馬に蹴られて死んじまえと言った時点で認めてしまったのか。くそ、嵌められた。
「おまえな……傷口に塩を塗りたくらないでくれるか……」
「私は魔理沙さんの恋の話を聞いてみたいです」
この口ぶり。好きな人の目星はついている感じだろうが……
「やだね。恋の話なんて無闇矢鱈に話す物じゃないだろう」
「えー外の世界は恋バナとかあるんですよ。誰々が好きとか話すんですよ!少しくらい良いじゃないですか」
ブーブーと文句を言う早苗。それは外の世界のルールであって幻想郷のルールじゃない。なら言う必要もない。
「言わん。この気持ちは秘めるって決めたんだ」
「そうですかあ。なら博麗神社に行きましょうか」
「……いきなり博麗神社とは何だよ」
「巫女同士で恋バナしますもん!魔理沙さん抜きで!」
「そりゃ好きにしてくれ……私には関係ないだろ?」
関係ないと言ったが嘘だ。霊夢の恋バナ……?は気になる。でもそんなこと聞いてしまったら立ち直れないような気もするけれども。
「そんな怖い顔しないでくださいよ。ほら鏡」
いつの間にか手鏡を出す早苗。鏡に映っていたのは険しい顔をした私だった。……顔に出すぎだな、私。これは鈍感なやつで分かってしまう。本当に馬鹿なやつだな。
「そんな顔するなら告白すればいいのに」
「馬鹿野郎、そんなこと出来たらこんな顔をしてないさ」
「……それもそうですね」
なんか勝手に納得している早苗。少し腹が立つがどうにもならない。
「話はそれだけか?私は帰る。麦茶ありがとうな」
「ええ、どういたしまして。私は魔理沙さんの恋を勝手ながら応援していますよ」
「そりゃあどうも」
そう言って逃げるように私は箒に跨って空を駆けた。
「不器用な人……」
早苗は飛び去る魔理沙を見てそう呟いた。
***
山々が色付き始めたこの秋、私はバテていた。
夏に魔法の森で研究をずっとしていたせいでバテてしまった。魔法の森は涼しい方だが体力を使いすぎたのがいけなかったんだろう。少し動いただけでも疲れてしまって私は家から出られないでいた。ご飯食べて、水分摂って、寝ての繰り返し。……博麗神社、行きたいな。そんなことをふと思う。霊夢と馬鹿やりたいな、なんてことを考えながら動かない体を恨めしく思う。
「はあ……もう少し養生かな……」
そんなとボヤきながら寝室から降りて一階で水を飲んでいた時だった。玄関がコンコンと叩かれる音がする。
……?誰だろうか。来る人にあてもなく首を傾げる。
「はーい、誰です……かって、霊夢?どうしたんだ私の家に来て」
そこに立っていたのは霊夢だった。なんか大きめの籠を持って、玄関前に立っている。
「あんたの調子悪いって風の噂で聞いたから……差し入れ。早く元気になりなさいよ」
ずいっと籠を渡される。思わずそれを受け取るとずっしりした重みがあった。
「えっと、ありがとう……早く治してまた博麗神社に行くぜ」
風邪ではないけど早めに治したい。そう思わせてくれた。
「渡したから帰るわね。お大事にしなさいよ」
そう言って霊夢は空を駆けていった。
なんだったんだろうか。でも差し入れは素直に嬉しいので貰っておく。籠の中を見るとりんごだったり、この時期には珍しいみかんだったりが入っていた。ありがたい話だ。
貰ったりんごを丸かじりして食べた。切るのは面倒だったので。霊夢に言ったら怒られそうだなんて思いながら。結構あいつはマメだからな。私がする面倒くさがりを結構怒る。
怒った姿を思い出して、ふふと笑えた。
よし、研究もあと少しだ、バテてないで治して終わらせよう。
一段と気合いが入ったのだった。
***
しんしんと降り積もる雪が私たちの思考を奪っていくように思える。
魔法の森も真っ白に積もった雪を見ながら、最悪だなとボヤく。今年は特に酷い。幻想郷しか知らないけれどこれは降りすぎだろというレベル。何メートル積もったかなんて、私が埋まりそうに見えるからそのくらいあるんだろう。
玄関は埋まってしまったので二階の窓から飛び立つ。あとから雪かきという名の火を使う魔法で溶かそうと思い、空を駆ける。火を使ったら結局雪かきとは言わないと思うけれどまあいいか。
そうして体に雪をどっさりのせながら博麗神社にやってきた。
社務所の玄関に入る前に雪を落とす。そうして玄関を開けた。
「霊夢、おはよう!寒いな!」
奥から霊夢がばたばたと出てきた。
「おはよう……って濡れてるじゃない!タオル持ってくる!」
そう言ってまた奥に走っていった。雪は落としたけれどやっぱりコートが少し濡れて寒いや。コートを脱いで帽子を持って大人しく待つことにする。
また走ってきた霊夢がバスタオルを持ってきてくれて頭にボフッと被せる。
「ほら乾かしなさいよ。風邪引いちゃ駄目よ」
「ありがとう……くしゅ!」
「もー、言わんこっちゃない」
頭のバスタオルを使って髪の毛を拭いていく。寒いけど拭いてからじゃないと上がれない。
拭き終わったので、靴を脱いで中に上がる。軽く濡れたタオルを持って居間の方に行った。
霊夢はコタツに入って暖を取っていた。そさくさと私はコタツに潜り込む。
「はあ、暖かい……」
「魔理沙、こんな雪の日にどうしたのよ」
みかんを剥きながら霊夢は私に聞いてくる。
「いやあ、来たくなって。だから来た」
「……そう。みかんいる?」
剥ききったみかんを半分に割って霊夢は渡してくる。ありがたくそれを受け取って口に運ぶ。あ、美味しい。
「ありがとな」
「食べ終わってから話しなさいよ」
もごもごとお礼を言ったら怒られた。少し細かい。まあいいか。
シーンと静かになりながらも、心地の良いような空気が流れる。外の雪を見るとみるみると積もっている。
「……今年、雪が酷いな」
「そうね。雪かきしなきゃ……あーあ、嫌になるわね」
霊夢が雪かきのことでぼやく。
「なあ霊夢、明日、晴れたら見てほしいものがあるんだ」
「んー?雪かきしてからならいいわよ。来たからには手伝ってくれるんでしょう?」
「ああ、手伝う。なら雪かき終わってからな」
そうしてみかんをまた口の中に放り込んだ。
***
ドサッと大きな音がして私は目が覚めた。……屋根から雪が落ちた音だろうか。隣の布団に眠る霊夢はまだ起きそうになくて。まだ暗くて日は登っていなかった。
やけに目が冴えてしょうがないのでもう起きることにする。服を着替えて、バケツに溜めた水で顔を洗う。キンキンに冷えて冷たい。目がさらに冴えた。
朝ごはん、作るか……と思いまた動き始める。昨日炊いたご飯があって、味噌汁をかまどに火をつけて温め直す。
ぱちぱちと燃える火にあたりながら、ゆらゆらと揺れる火に見とれる。
私はやっぱり霊夢のことが好きだ。その気持ちに変わりはない。だから今日告げようと、思っている。でも怖くてしょうがない。逃げたくなる。片思いで終わらせたい。夏に呆れられた早苗の顔を思い出す。他の人にはバレバレなのだろうか……まあその辺は怖いけど私にとってもどうしようもないと思うのだ。
ガタッと後ろの方で音がする。
振り向くと霊夢が寝巻きからいつもの巫女服に着替えて立っていた。
「おう、おはよう霊夢」
「おはよう魔理沙……」
目を擦って眠そうにしている霊夢。
「味噌汁はもう出来たぞ。ご飯は適当によそってくれよ」
「ありがとう……」
お盆を持ってきて自分の分のご飯と2人分の味噌汁を持っていく。
「霊夢、ほら食べなよ、ご飯もよそってきて」
「はあい……」
裾を引きずるみたいに背中を丸めてご飯を取りに行った。危ないな。
そうして二人でいただきます、と食べ始める。
「ねえ魔理沙」
「どした?」
霊夢はご飯を半分ほど食べてから問いかけてくる。
「あんた、なんか隠してない?」
ふっと食べている手が止まる。分かりやすくて嫌になる。また動かして食べ始める。一口食べて飲み込んで話す。
「なんでそう思ったんだ?」
質問に質問返しはあまり良くないけれど。そう返さないと思いを漏らしてしまいそうで。
「そうねえ……感、かしら。最近怪しかったもの」
「いや怪しいって……」
いや怪しかったか。夏からずっと研究していたから。
「私には言えないこと?」
「いや、ちょっと……ちょっと待ってくれ」
言うべきか?でもこの気持ち伝えてしまったら怖くて。なんで怖いのか。拒否されるのが。白い目で見られるのが。
私は一般の目線でしか見ていないのか……でも、でも!
でも私は告げるべきなんだ。怖い、それでも伝えるべきなんだって。拒否されても、私だけの思いは変わらないはずだから。
「なあ霊夢、はじめて出会った日のこと、覚えてるか?」
「どうしてその話?」
「まあいいから……どうなんだ?」
霊夢は困惑した顔で話す。
「いや、なんか分からないやつが来たなって……でも遊んでくれたのが楽しかったわよ」
そう言って笑う霊夢。
「そうだったんだな。私は霊夢、お前のこと一目惚れだったんだよ……」
「…………え」
「そっからずっと好きだ。おまえの黒い髪が好きだ。おまえのその瞳が好きだ。些細なことが好きだ…………好きなんだよ……」
ああ、言ってしまった。耐えられなかった、でもどこか気が楽になってしまった自分もいた。
俯いてしまって、まともに霊夢の顔が見れない。
「…………勝手に納得しないでよ。人の気持ちも知らないで」
バッと私は霊夢の顔を見る。瞳に涙をためてこぼれ落ちそうになっている。
「まだ好きとか分からない。でも、私はあんたのこと、好ましいとは思ってる。だから、勝手に決め付けないでよ!」
霊夢の涙は零れ落ちた。ああ、綺麗だなんて関係の無いことを思ってしまった。
「急にごめん……でもありがとう」
「ほんとに!とりあえず朝ごはん食べてしまおうよ」
冷たくなった味噌汁を啜りながら私たちは泣き笑いながら朝ごはんを食べきった。
これでよかったのだろうか。霊夢は好きだとは分からないとは言っていた。でも私の事は好ましいと思うのは嬉しい。本当に嬉しいのだ……早く好きだって言えばよかったのかな。正解かどうか分からないけれど私にとってはこれで良かったのだと思わされた。好きだって、一目惚れだって言えたのは良かった。私の溜め込んだ思いは昇華されたのだと思う。
~*~
おまえが好きだ。
そうやって言えたのなら良かったのかもしれない。
おまえとひょんなことから出会って、腐れ縁のようにずっと一緒にいて。私は恥ずかしくて言えなかった。簡単なことだった、ただおまえに好きだと早く言えばよかったんだ!
ただそれだけだったのだ!
「ねえ魔理沙、あんた、ちゃんと私のこと好きなの?」
「ああ、霊夢。私はお前のことが大好きだぜ!」