Coolier - 新生・東方創想話

魔理沙と分解の魔法

2026/04/02 08:53:26
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 霧雨魔理沙はある日、家の壁が無性に気になった。
 木を加工して木の板を作る。木の板を釘で重ね繋げていって、壁を作り、床を作り、天井を作り、そして家が出来上がる。
 この当たり前のことが実に気になったのだ。
 しばらくして彼女はハッと気づく。それは『思考の分解』であった。家を分解すれば床、天井、壁、柱、梁などなどになるだろうか。バラバラの存在だ。だがそれらをさらに分解すると全て同じ『木』になるのだ。これは大変面白いことだ。
 幻想郷という帰属先に対して、私たち人間も妖怪もバラバラだ。だが、さらに分解して考えていくと同じく『細胞』でできている、はず。じゃなくても、『命』は同じはずだ。
 魔理沙は、一段階細かく考えるとバラバラに、二段階細かく考えると全て一緒になる、この発想を魔法でも活かそうとした。よくよく考えれば穴のある理屈だろうし、当てはまる例の方が少ないのだろう。
 しかし、霧雨魔理沙にとって、魔法使いにとって、想像のフレームは大切だ。確信さえすれば、それは実現に足る。魔理沙は分解の理論を極めた。
 結果誕生したのは最悪の魔法だった。魔理沙は魔法の森を歩く。そして木の下に生えている怪しいキノコをもぎ取り、何もない平地へと向かった。
 キノコにとある魔法をかける。すると、何もなかったはずの平地一面に森が出来上がった。魔法の森と植生も似ていた。
 魔法の森は普通には暮らせない瘴気があるため、魔理沙は急いで分解の魔法をかける。森は森の一要素、キノコに戻った。
「何をしたの」
 後ろから声が聞こえてきて振り向くと、八雲紫がいた。スキマが開かれている。こいつは嗅ぎつけるのがいつも早い、と魔理沙は感心していた。
「分解の魔法の逆をやったんだ」
「一段階大まかにしたということね」
「話が早い」
 魔法の森にあるキノコは、魔法の森の構成要素だ。つまり、魔法の森に分解の魔法をかけたらいくつかの物に分かれ、そのうちの一つがキノコとなる。なので、逆にキノコに『大まかにする魔法』をかければ、魔法の森になるというわけだ。
「これさ、すごい魔法だと思わないか?」
「ええ。本当にすごいと思うわ」
「何がすごいか分かるか? 私は世界を変えたいんじゃない、世界を知りたいんだ。そんな私にとってこれは大発明だ」
「分かってるわよ。要するに、答えが予測できないものに使えるんでしょ」
「そういうこと!」
 分解の魔法自体はある程度予測できる。だって魔法の森が、木やキノコや瘴気やらで構成されてるのは考えなくても分かるからだ。一方、キノコだけで魔法の森全体が分かるか? さっきのように、キノコに魔法をかけた先に魔法の森が出ちまった。これは簡単に予測ができるか?
「たとえばこれを妖怪にかけたらどうなるんだろうな。幻想郷そのものになるのか? それとも、何かしらの概念になったりして。人間にかけたら? まあ、同じくここの住人なら、幻想郷になるだろうな。それで、幻想郷は世界の一部だから幻想郷にかけたら、今度は世界になるのか? 世界に魔法をかければ宇宙になるし宇宙にかければ銀河に? じゃあ銀河にかけたらどうなるんだ? そしてそれを私は手元で観察できるのか? 観察できるとしたら、それは神の所業だな。まあ神はそこら中にいるんだが。そうだ、神にこの魔法をかけたらどうなる? 神は何の構成要素なんだ? いや、分解と同じ理論なら、二段階大まかにしたら全て一緒になるのか? それなら、世界が妥当だろう。神も世界の一部だしな」
「話しすぎよ」
「ああ、悪い。つい盛り上がっちゃってな」
 その瞬間だった。私は、手先から消失していた。まるで萃香のように細かい見えない粒子になって、確実に『死』を、いや『消滅』を実感した。
「な、なんで」
「話しすぎ、かつ、考えすぎね。そんな危険なもの、使わせるわけにはいかないわ」
「くっ」
 いつも冗談だか本気だか分からない微笑みを見せる紫ではあるが、その目は明らかな殺意を帯びていた。もう後先考える余裕もない、といったところだ。私は本気で紫を敵に回してしまったと気づく。もう口まで、消滅は迫っていた。
「さよなら霧雨魔理沙」
 だから私は、自分にその魔法を使った。人間霧雨魔理沙は、『幻想郷』になった。
 意識が朦朧としている中、必死に結界で抑え込んでいる紫の姿が見えた。当然だ。幻想郷の中に幻想郷が存在し始めたのだ。このまま膨張を許せば、博麗大結界との板挟みで潰されてしまう。
 しかし、紫にとっての誤算はそれだけでなかった。幻想郷が発生したということは。
「なあ紫」
「その声は魔理沙なの?」
「そうだな。元魔理沙だ」
「余計なことをしてくれたわねっ‼︎」
「抑え込めると思ってるだろ」
「そうしないとおしまいだからね」
「残念だが、私は幻想郷の大きな意志として、それを食い止めなければいけない。しかし戦いは公平にだ。犠牲は少なく。しばらく膨張は抑えてやるから、ちゃんと自分と戦うんだな」
「は?」
 紫が素っ頓狂な声を出したすぐ後、目の前にスキマが現れ、電車が紫の方へ突っ込んできた。遥か遠くに吹っ飛ばされた。
 そのスキマから、扇を持って妖艶に笑う、私の知っている顔が現れる。もう一人の、もうひとつの幻想郷の『八雲紫』だ。
「私⁉︎」
「……悪いわね、私。私たちの幻想郷を守るため、あなたの幻想郷を滅ぼす」
「無茶苦茶言ってるんじゃないわよ⁉︎」
「幻想郷が言う。私に勝ちなさいと」
 そして八雲紫同士の戦闘が始まった。元魔理沙はそれを何もせずただ眺める。あんなに恐れていた、あんなに最強に感じていた、八雲紫の苦しむ姿に対して、本来なら強者の奢りや傲慢、優越感などを感じてもおかしくないのだが、魔理沙は今は幻想郷だ。ただ、ただ、自分の幻想郷を守るために黙々と作業しており、そこに感情を持つことはあまりなかった。
 また、幻想郷にはもっと最強のやつらもたくさんいるし、賢者も紫だけではない。それなのに紫同士の戦いに何も介入がないのは、私が脅しているからだ。もしも、この一対一、代理戦争を邪魔すれば、あなたたちも同じくこちらの幻想郷から呼び出すことが可能なんですよと伝えてある。
 本当に、この八雲紫の戦いで全てが決まるのだ。
「くっ」
「隙があるわよ」
 能力は同じはずだが、こちらに僅かながら利がありそうだ。いったい何が違うのか。それは焦りと心の乱れだ。こちらの八雲紫は幻想郷の意志である私が直接指示をしており、迷いがない。それに対し、あちらの八雲紫は、突然の霧雨魔理沙の幻想郷化、突然の崩壊の危機、想定外が一斉に発生し、完璧な思考が取れないのだ。そんな僅かな差が、勝敗を決する。
 こちらの八雲紫が手加減なしの弾幕を放ち、全て命中した。受けた八雲紫は空中でフラフラと揺れると、下に落っこち、地面に倒れた。
 その瞬間、幻想郷のこの状況を把握してるもの全てが絶望したに違いない。
「悪いな紫。だが、お前がわるいんだ」
「……」
「命は取らないでやる。どうせ、短い命だ」
 私は膨張を始める。ここは何もない平地だがすぐにでも新たな幻想郷が各地に侵攻する。あっという間に、かつての住人たちは潰されてしまうだろう。もう、罪悪感さえない。人の心は完全に無くなってしまった。
「そうかしら」
 声が聞こえる。
 この声は、霊夢だ。
 霊夢の声がする。
「あるんじゃない、一つくらい人間っぽい感情」
「罪悪感とかか?」
「違う違う。もっと汚くてどうしようもないものよ」
「なんだよ」
「あなた、優越感あるでしょ」
 優越感? そんなもの、今の私に……。そう思った時、自分のどこかで湧き上がる感情があることに気づいた。きっと、種類としては喜びに分類される何かの感情が、ある。
「当然よね。この幻想郷同士の戦い。紫の焦りはあったかもしれないけど、大きな違いがもう一つあったんだから」
「条件は同じはずだが」
「違う。たった一人だけ、私たちにはいなくて、あんたたちにはいた。それは」
 霊夢の声は近くにいる。でもどこか分からない。どこだ、どこだと探してるところ、灯台下暗しであったことに気づいた。霊夢は『私の幻想郷』に侵入している。
「霧雨魔理沙がそっちの世界には二人いて、こっちの世界からはいなくなってしまった。世界にとっては些細なことかもしれない。ただ、事実、その非対称がある上で、私たちは代理戦争に負けた。つまり、霧雨魔理沙がいたからあんたは勝ち、いなかったからこっちは負けた。そう思うことだってできるはず。そんな優越感をあんたは持ってるのよ!」
 急いで私は私の八雲紫に指示をする。霊夢が私の幻想郷に。
「そしてそれがあんたの敗因になる。要するにこっちに霧雨魔理沙を一人引き入れればフェアなんだから。ね、魔理沙」
「ああ、そうだな、霊夢。悪いな、そっちの私が暴走して」
「謝ることないわ。紫が悪いんだもの」
「私はちゃんと責任は取る派なんだ。じゃあやるぞ」
「迷い、ないのね」
「ああ、ない」
 幻想郷全員が霊夢と魔理沙を襲う。こちらの世界の霊夢だけは見当たらなかった。干渉せず、と決めたのだ。しかし、霧雨魔理沙はずるかった。みんなに説明している間に、もう魔法は発動していたのだ。
「分解の魔法」
 幻想郷は分解され、その魔理沙含め、新しい幻想郷の住人はみな消える。そして元幻想郷だった霧雨魔理沙が霊夢の隣に戻ってきた。
「……あのな、霊夢」
「分解の魔法は?」
「……ほらよ」
「……なにこれ、数式? 一足す一は二?」
「分解の魔法の理論に分解の魔法をかけたら、それになっちまった。自分の頭の中からも消失。再現することもできない」
「ふーん」
 霊夢はヒラヒラと紙のメモを凪かせながら、最後に私に聞いた。
「どう、幻想郷になった気分は」
「性に合わないぜ」
「ふふ、でしょうね」
 二人は地面に座って笑い合った。
また、機会があれば書いていきたいと思います。
読んでいただきありがとうございました。
Ryu
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コメント



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1.100名前が無い程度の能力削除
発想とすさまじいテンポで二転三転する展開に度肝を抜かれました
3.100東ノ目削除
何を食ったらこんなの思いつくんですかというぶっとんだ発想から最終的には王道たるレイマリに着地するところに美しさを感じました