「寒いぜ寒いぜ寒くて死ぬぜ」
魔理沙は寒さに凍えながら、博麗神社に向かってホウキを飛ばしていた。
研究に夢中になりすぎて暖房用燃料の買い置きを忘れ、そのうえ備蓄を使い切ってしまったのだ。
新しく買うよりも神社に行く方が早い、しかも安い。魔理沙の決断は早かった。
真冬でも神社は暖かい。正確には居住部、霊夢の寝室兼居間兼食堂兼客間が暖かい。
神社の地下に住むクラウンピースが常に火を絶やさないためだ。
ちなみに、「夏には追い出してチルノを迎え入れる」と霊夢は宣言している。
神社に着いた魔理沙は挨拶もそこそこにコタツに入り込む。
外世界製の守矢コタツと違って、博麗コタツには発熱機能はない。ないが、床から温かいので自然と熱はたまる。それで充分なのだ。
「ふぃー、コタツはいいなぁ。熱いお茶があればもっといい」
言いながら、魔理沙は帽子からミカンを数個取り出した。
ふむ、と頷いた霊夢はそそくさと茶を用意する。
ミカン、お茶、コタツ。冬の三種神器がそろったことになる。
さらに魔理沙はキノコを始めとする食材をいくつか取り出した。鍋にピッタリの食材である。
夜までいるぜ、夕食も食っていくぜ。との無言の主張に、霊夢は再び頷く。
「今夜は鍋ね。ちょうどいいわ。昨日、藍が持ってきたお酒もあるの」
「藍が? ああ、紫は冬眠中か」
「橙も寒くてあんまし動かなくなってるから、屋敷で暇なんだって」
「いや、動けよ、橙。雪が降ったら猫は喜び庭駆け回るんだろ?」
「それは犬」
いつものような馬鹿話をしながら支度し、二人で鍋を囲み、杯を重ねる。
帰るのが面倒くさくなった魔理沙は泊まると宣言するが、いつものことなので霊夢もやはりいつものように、いいけど朝食はアンタが作りなさいと返す。
夕食を終え、順番にお風呂に入り、コタツを脇に寄せて布団を二つ敷こうとして、霊夢の動きが止まる。
「ごめん。忘れてた」
「何を?」
「藍が来た理由」
「ふむん?」
「布団の打ち直しお願いしたのよ。代わりの布団を持ってくるのが明日だから、今日は一組しかないわ」
「……藍に?」
「あいつ、凄腕なのよ。紫の布団の世話してるから腕が上がったって」
霊夢が普段使用する寝具にはどうしても霊力が染みついてしまうため、普通の店に打ち直しは頼めない。霊力目当ての魑魅魍魎が現れるためだ。
そのため、古着の始末や寝具の打ち直しなどは全て、藍や紫に頼むことになるのだ。
「早苗の所は御両神がいるから外に出すことはないでしょうけど、ウチは私しかいないから」
魔理沙にとっては初耳だったが、別にいらない情報ではある。
それよりもつまり、今の博麗神社に布団はない。正確には、予備の布団一組しかない。
「ま、いいか。魔理沙だし」
「久しぶりだな、同じ布団で寝るの」
昔はよく一緒に寝ていたものだ。クラウンピース床暖房がなかったころの冬とか。
「じゃあ、おやすみなさい」
「おう、おやすみ」
深夜、霊夢はふと目を覚ました。
自分の霊力の込められたお札が常夜灯替わりに壁でぼんやりと光を放っている。
魔理沙と二人、仰向けになって寝ていたはずなのに、いつの間にか向かい合うように顔を合わせている。
まじまじと、魔理沙の顔を見てしまう。
本人には絶対にそんなことを言わないが、魔理沙の顔は綺麗だと霊夢は常々思っている。
例えばアリス。彼女も魔理沙と同系統の綺麗さがあり、どちらがより綺麗かと問われればほとんどの者がアリスと答える。しかし、霊夢は魔理沙だと答える。
魔理沙のほうがアリスより綺麗だと、霊夢は胸を張って答えるだろう。
どこが、と問われても、霊夢は自分がそう思うだけで充分だと答えるだろう。他の人がアリスのほうが綺麗だというのなら、それはそれで別にかまわない。ただ、自分は魔理沙のが綺麗だと思う。それだけのことだ。
目を閉じた魔理沙の顔をじっと見ていると、霊夢は自分が何か悪いことをしているような気になってくる。
なにか、魔理沙が隠しているモノを覗き見しているような気分になってくる。
このまま見ていたいという気持ちと、見続けるのは失礼かもという気持ち。
くるりんとカールした金髪。息をするたびにサワサワと動くまつげ。かすかに聞こえる吐息。
見ていて飽きない。
いや、でも。
霊夢は自分の中におかしなモノがあることに気付いた。それは、魔理沙を見ているとより意識されるモノ。
お腹……違う、お腹の少し下がなんだかむずむずする。なんだろう、これ。
魔理沙と関係あるような気がする。
なんとなく、お腹をさすってみた。
むずむずが大きくなったような気がした。
怖い。
なんだか怖くなってきた霊夢は手を止める。
そして、ぎゅっと目をつぶった。眠ろう。眠らなきゃ駄目な気がする。
おやすみ、魔理沙。
深夜、魔理沙はふと目を覚ました。
霊夢の霊力の込められたお札が常夜灯替わりに壁でぼんやりと光を放っている。
霊夢と二人、仰向けになって寝ていたはずなのに、いつの間にか向かい合うように顔を合わせている。
まじまじと、霊夢の顔を見てしまう。
本人には絶対にそんなことを言わないが、霊夢の顔は綺麗だと魔理沙は常々思っている。
例えば紫。彼女とどちらがより綺麗かと問われればほとんどの者が紫と答える。しかし、魔理沙は霊夢だと答える。
霊夢は紫より綺麗だと、魔理沙は自信を持って答える。
どこが、と問われても、魔理沙は自分がそう思うんだから仕方ないと答える。他の人が紫のほうが綺麗だというのなら、それはそれで別にかまわない。ただ、自分は霊夢のほうが綺麗だと思う。それは絶対に譲れない。
目を閉じた霊夢の顔をじっと見ていると、魔理沙は自分が何か悪いことをしているような気になってくる。
なにか、霊夢が隠しているモノを覗き見しているような気分になってくる。
このまま見ていたいという気持ちと、見続けるのは失礼かもという気持ち。
さらさらとした艶のある黒髪。息をするたびにピクピクと動く小鼻。かすかに聞こえる吐息。
見ていて飽きない。
いや、でも。
魔理沙は自分の中におかしなモノがあることに気付いた。それは、霊夢を見ているとより意識されるモノ。
足……違う、足の付け根の辺りがなんだかむずむずする。なんだろう、これ。
霊夢と関係あるような気がする。
なんとなく、太股をさすってみた。
むずむずが大きくなったような気がした。
怖い。
なんだか怖くなってきた魔理沙は手を止める。
そして、ぎゅっと目をつぶった。眠ろう。眠らなきゃ駄目な気がする。
おやすみ、霊夢。
翌朝、どちらからともなく「なんか夜おかしくなかった?」と相手に尋ねる二人。
こんなことは初めてだと二人。
布団の前で向き合って、じっと互いを見る。
思いついて、ぎゅっと抱き合ってみた。
「あ」
二人同時に声が出た。
少し違うけどこんな感じだと。
魔理沙が首を傾げる。
「こんなの今までなかったよな……」
「あうんや針妙丸と一緒に寝ても、こんなことはなかったわ」
「成美やルーミアが泊まっていったときも、こんなことはなかったぜ」
「私と魔理沙のときだけ……」
「もしかして、霊夢の霊力と私の魔力が反応してる?」
「……そっか、ありえるかも」
「ちょっとパチュリーの所で調べてみる、今日は三魔女会議の予定なんだ」
「こっちは昼頃に藍が布団を持ってくるはずだから、尋ねてみるわ」
それじゃあ腹ごしらえだ、と魔理沙はいつもより少しだけ豪華な朝食を作り、それを平らげた二人はそれぞれの調査へと乗り出した。
「……あ、ああ、そういう、ね。うん」
「あー、はいはい、わかる、わかるわ」
予定通り行われた三魔女会議、予定の議題を全て終えたところで魔理沙が持ち出した相談に、アリスとパチュリーは曖昧に頷いた。
「で、霊夢の霊力と私の魔力の相互作用をだな……」
「ちょっと待って、魔理沙」
「なんだよ、アリス」
がたん、と珍しいことにやや乱暴に椅子から立ち上がるパチュリー。
「魔理沙、貴方の症例に心当たりはあるわ。それについてアリスと今後の対策を別室で相談してくるから、少し待ってなさい。お茶とお菓子を小悪魔が持ってくるからそれでも食べてて。時間はそんなに掛からないわ」
「……そんなに酷いのか?」
「心配しなくていいわ。対処法はあるから。ただ、処置をするのが私になるかアリスになるか、と言うことよ」
「二人一緒じゃ駄目なのか」
「ダメ!」
「駄目!」
二人は何故か互いを牽制するような眼差しで憤然と図書室を後にした。
唖然と見送る魔理沙に、笑いを噛み殺しているような表情の小悪魔がお茶とお菓子を持ってくる。
「なんだ、あれ」
「別に私でもいいんですけど。一応専門家ですし。でも、抜け駆けすると二人に殺されそうな気がしますねぇ」
「マジで何やる気だ」
「それは私の口からは。あ、お菓子どうぞ。アリスさんお持たせのブラウニーです」
小一時間ほどすると、息も絶え絶えのアリスが帰ってきた。
まるで、激しい戦闘をこなした後のような姿だった。
「……何やってんだだよ。パチュリーは?」
「中庭できぜ……寝てるわ。小悪魔、行ってあげて。ついでに介抱も」
「はーい」
「……だから何やってんだよ」
「そんなことより、魔理沙、今から私の家に来なさい。貴方を治療するから」
「治療なのか」
「ええ、まずは家に来て、話はそれからよ」
一方、霊夢は……
「……あ、ああ、そうか。うん、わかるぞ、霊夢」
話を聞いた藍は、腕を組んでうつむいた。
なにやらぶつぶつ言いながら考えているようだ。
「……役得……いや……さすがに紫様が激怒するか……しかし……巫女……新鮮な巫女……久しぶりに……あ、いや……それは拙い、拙いぞ、藍……」
「あの……藍?」
「……ん?」
「もしかして私、そんなに重病なの?」
「あ、いや……うん、そうだな。重病というより緊急事態か」
何かを吹っ切ったようにテキパキと藍は言う。
「紫様が冬眠していても起こすべきだとされている緊急事態がいくつかある。これはその一つ、丁種緊急事態に分類されるものだ」
「丁種緊急事態!?」
「うむ。今から紫様を起こしてくるが、その間に霊夢は処置を受ける準備をしていてくれ」
「わかった。なにをすればいいの?」
「風呂に入って身体を清めて、新品の下着を着けておいてくれ」
「はい?」
「大事なことだ、くれぐれも怠らぬように」
藍の、霊夢も初めて見る類の真剣な顔だった。
「紫様は、処置の準備ができ次第スキマからお呼びになると思う。身を清めて着替えたらこの部屋で待っているように」
「なんだかわかんないけど、わかったわ」
三日後。
アリスと人里へ出かけた魔理沙は、通りの反対側から歩いてくるカップルを見つけた。 紫と霊夢である。
人里で普通に歩いている紫は珍しいが、その手に抱きつくようにして歩いている霊夢も珍しい。
いや、アリスにしなだれかかるようにして歩いている自分が言える義理ではないのだけれど。
霊夢と目が合い、互いに赤面して目を背ける。
そして、ああ、と魔理沙は納得した。
人間とは、妖怪に食われる運命なのだ。
色んな意味で。
ありがとうごさいました。