『I love you.』
なんて簡単な言葉だろう。日本語では愛してるって言うのに、英語になるとなんて簡単に聞こえてしまうんだろう。陳腐なものだから?いや違う、愛することはつまらないものじゃない。でも私はただ愛するなんてきっと出来ないから。
言語が変わったって、愛する気持ちは変わらないはずなのに。伝わらない思いをどこか飛ばすように紙に書き殴る。
乱雑に物が置かれた机の上に置かれたままの紙にはこう書かれていた。
『あいらぶゆー』
愛してる、なんて言うことできないだろうな。そんな気がする。そんなこと言ったらあいつは困りそうだから。笑って、困ってしまいそうだから……
いつか言える時が来るなら、私は喜んで伝えられるだろうか。
分からないや。それでもはっきりと言えることがある。
私はあいつを愛している。
それだけを。
***
夕方。
「魔理沙、まりさー?」
紅白の服を着た巫女が霧雨魔法店の玄関をコンコンと叩く。
音が止むとシンとした静寂が訪れる。
久しぶりに魔理沙の家に来たら家主がいないと来た。ドアノブに手をかけてドアを開ける。
キィィ……とドアの蝶番が静かな森の中に響く。あら、冗談半分で開けたら、開いてしまった……まあいいかと思って私は家の中に入った。
今日は久しぶりに散歩をしようと思って空を飛んでいたら、魔理沙の家の方面まで来ていたので寄ろうと思ってドアを叩いたんだけれど……生憎、魔理沙は居なかった。
「相変わらず片付いてない部屋ね……」
一階は基本的に魔法薬などを作る部屋なのか、玄関入ってすぐに大きい鉄鍋が置かれていたり、私には乱雑に置かれているように見える完成したと思われる魔法薬の瓶などがあったり……
色々あるけどとりあえずその辺に落ちている物を踏まないように歩いて二階へ向かう。
魔理沙の寝室に入って、特に用もなかったのでベッドの上に腰掛けた。二階の天窓があるのだけれど私は前にお泊まりをした時にそこから星が見えたことが少しだけ興味を引かれた。
隣で寝転んでいる魔理沙に私が星のことを言うと、とても嬉しそうに星の物語を語ってくれた。
それはいつの話だっただろうか。お泊まりをしたのも昔だったから。それでも嬉しそうに話す魔理沙のことを私は覚えている。
魔理沙が居ないなら帰ろうかしら。でも眠たくなってきた……ベッド借りて少しだけ寝たら、帰ろうかしら。
そう思って私は魔理沙のベッドに潜り込んで、意識が暗くなっていった。
*
「……ただいまぁ……」
夜の帳が降り始めた時間だ。私はへとへとになって家の中に入る。なんだ今日は。博麗神社行ったら霊夢は居ないし、光の三妖精に追いかけ回されていたずらされるしで散々だった。はあ、なんか嫌になったらとりあえず寝るか……なんて思う。乗ってきた箒を玄関横に置いて私は二階へと上がっていく。
ガチャリとドアを開くと、ベッドが不自然に盛り上がっていた。
…………? なんで誰か寝てるんだ?頭が追いつかなくてはてなマークが浮かぶ。
そーっと私は掛け布団をめくる。そこには紅白が眠っていた。
「……霊夢? いやなんでこんなところで寝てるんだ??」
布団の中の霊夢がもぞもぞと動いた。
「ううん……誰……」
「いや誰って家主の私しか居ないけどな……」
私のベッドで寝てることに驚き、誰と言われて驚き。
「おい、霊夢起きろ……」
ゆさゆさと霊夢を揺する。うううんと言いながら霊夢は目を開けた。
「……おはよう?」
「おう、おはよう」
眠そうな顔でベッドの中で体を起こす霊夢。そのまま座っている。
「霊夢どうしたんだ?私のベッドで寝て……」
「久しぶりに来たら魔理沙いなかったから、寝てもいいかなって」
どういう繋がり? 来てそのまま寝るってどういうことだ……まあいいか、霊夢の中でなにかあるみたいだし。
「隣座るぞ」
そう言って私もベッドの上に座る。
「懐かしいわね」
「どうした?」
霊夢は天窓を見ているらしい。薄暗くなった空を見ながら話を続ける。
「ここにお泊まりして、星の話をした時のこと。魔理沙嬉しそうに星の話するから私も嬉しくて」
私もあの時は熱くなってしまったように思う。星の光の話、星座の話、それに基づく神話の話……たくさんの話をしたように思う。
気がついたら霊夢はすやすや寝ていて。私は苦笑しながら一緒に隣で寝た覚えがある。
「……そうだな。薄暗くなってきたらランプ付けるぞ」
そう言ってベッドの隣に置かれた机の上のランプを付ける。ぽわと机の上が明るくなる。
「明るいわね」
「霊夢は寝るの早いもんな」
あまりランプとか付けずに暗くなったら寝る生活みたいなものだしな。基本的に博麗神社に泊まるとなればそうなるし。
「……ん?」
霊夢はなにかに気がついたのか、立ち上がって机の上に手を伸ばす。
『あいらぶゆー』と書かれた紙に……って、それは!
「何見てるんだ!?」
思わず奪い取りそうになって霊夢はひょいと避ける。
「なんであいらぶゆー? 英語じゃないの?」
「いや確かに英語だけど……って違う!」
恥ずかしくなって私は顔を伏せる。
「なんであいらぶゆーってだけで伏せるのよ?」
不思議そうな声を出す霊夢。
「いや。なんでもない」
なんでもないんだ……きっと。あいらぶゆーって連呼する霊夢に耐えきれなくなったとかそういう訳じゃない。
「というより霊夢……あいらぶゆーって意味分かってるのか?」
「さあ? 英語ってことはわかるけど意味は知らないわね」
ホッと私は心の中で安堵する。こんなの分かる人にはわかるんだから書き殴らなければ良かった。生憎伝わって欲しい人には伝わらないんだから皮肉な話だ。
何思ってるんだ私。
「なーに、百面相してるのよ」
「あいた!」
ピン!とデコピンされる。地味に痛くしたのかヒリヒリと少し痛む。
「ふふ、魔理沙面白いわね。あんたの百面相面白いわ」
「勝手にそんなこと言わないでくれよ。人の百面相見て笑うのはお前だけだぞ」
「あら、魔理沙も人の事言えないじゃない、私がタンスの角に足ぶつけた時も笑ってたくせに」
「そんな前の事を掘り返さなくてもいいじゃないか!」
一週間前に、霊夢がタンスの角に足をぶつけて大笑いした記憶が蘇る。そんなに前でもなかったな。まあいいや。
「笑ったから帰るね」
「笑ったからって……」
そう言って霊夢は手に持った紙を机の上に置いて、部屋のドアの前に立つ。
「ああ、そうそう。魔理沙、『I love you.』よ、フフッ」
そう言ってバタンとドアが閉まった。
………………は?
「お、おい!ちょっと待てよ霊夢!?」
私は慌てて霊夢の後を追う。玄関を飛び出すと、霊夢は満月の空の下で笑っていた。
「ほら、追いついてみなさいよ!」
「言ったな!? 今言ったこと吐かせてやる!」
「ははは! 魔理沙、顔真っ赤! 可愛いわね!」
そうして私たちの追いかけっこが始まった。
「くそっ、霊夢、愛してる!あいらぶゆー!」
「はは、聞こえない、もっとはっきり言って!」
私は恥ずかしかったけど吹っ切れて愛を伝える。霊夢はそれを笑って逃げている。
はぁはぁと言って博麗神社まで来たけれど、霊夢は中に入って行った。私もそれを追いかけていて入る。待ち構えていた霊夢に捕まって私は正面から抱きしめられる。
「魔理沙、私も愛してる」
「くそっ、意味を知ってたなら早く言ってくれよ! 恥ずかしいじゃないか!」
「ふふ、魔理沙反応可愛かったよ。赤くなる顔が愛おしかった」
もう恥ずかしくて私の顔をさらに赤くなる。中に浮いていた腕を霊夢の体に預ける。
「……私も愛してる……」
「ふふ、やっと言ってくれた」
そう言って笑う霊夢。うう恥ずかしい……
***
『I love you.』
なんて簡単な言葉だったんだろうか。
私は後になってそう思うのだ。
愛してる、はきちんと伝えるべきだということを。
なんて簡単な言葉だろう。日本語では愛してるって言うのに、英語になるとなんて簡単に聞こえてしまうんだろう。陳腐なものだから?いや違う、愛することはつまらないものじゃない。でも私はただ愛するなんてきっと出来ないから。
言語が変わったって、愛する気持ちは変わらないはずなのに。伝わらない思いをどこか飛ばすように紙に書き殴る。
乱雑に物が置かれた机の上に置かれたままの紙にはこう書かれていた。
『あいらぶゆー』
愛してる、なんて言うことできないだろうな。そんな気がする。そんなこと言ったらあいつは困りそうだから。笑って、困ってしまいそうだから……
いつか言える時が来るなら、私は喜んで伝えられるだろうか。
分からないや。それでもはっきりと言えることがある。
私はあいつを愛している。
それだけを。
***
夕方。
「魔理沙、まりさー?」
紅白の服を着た巫女が霧雨魔法店の玄関をコンコンと叩く。
音が止むとシンとした静寂が訪れる。
久しぶりに魔理沙の家に来たら家主がいないと来た。ドアノブに手をかけてドアを開ける。
キィィ……とドアの蝶番が静かな森の中に響く。あら、冗談半分で開けたら、開いてしまった……まあいいかと思って私は家の中に入った。
今日は久しぶりに散歩をしようと思って空を飛んでいたら、魔理沙の家の方面まで来ていたので寄ろうと思ってドアを叩いたんだけれど……生憎、魔理沙は居なかった。
「相変わらず片付いてない部屋ね……」
一階は基本的に魔法薬などを作る部屋なのか、玄関入ってすぐに大きい鉄鍋が置かれていたり、私には乱雑に置かれているように見える完成したと思われる魔法薬の瓶などがあったり……
色々あるけどとりあえずその辺に落ちている物を踏まないように歩いて二階へ向かう。
魔理沙の寝室に入って、特に用もなかったのでベッドの上に腰掛けた。二階の天窓があるのだけれど私は前にお泊まりをした時にそこから星が見えたことが少しだけ興味を引かれた。
隣で寝転んでいる魔理沙に私が星のことを言うと、とても嬉しそうに星の物語を語ってくれた。
それはいつの話だっただろうか。お泊まりをしたのも昔だったから。それでも嬉しそうに話す魔理沙のことを私は覚えている。
魔理沙が居ないなら帰ろうかしら。でも眠たくなってきた……ベッド借りて少しだけ寝たら、帰ろうかしら。
そう思って私は魔理沙のベッドに潜り込んで、意識が暗くなっていった。
*
「……ただいまぁ……」
夜の帳が降り始めた時間だ。私はへとへとになって家の中に入る。なんだ今日は。博麗神社行ったら霊夢は居ないし、光の三妖精に追いかけ回されていたずらされるしで散々だった。はあ、なんか嫌になったらとりあえず寝るか……なんて思う。乗ってきた箒を玄関横に置いて私は二階へと上がっていく。
ガチャリとドアを開くと、ベッドが不自然に盛り上がっていた。
…………? なんで誰か寝てるんだ?頭が追いつかなくてはてなマークが浮かぶ。
そーっと私は掛け布団をめくる。そこには紅白が眠っていた。
「……霊夢? いやなんでこんなところで寝てるんだ??」
布団の中の霊夢がもぞもぞと動いた。
「ううん……誰……」
「いや誰って家主の私しか居ないけどな……」
私のベッドで寝てることに驚き、誰と言われて驚き。
「おい、霊夢起きろ……」
ゆさゆさと霊夢を揺する。うううんと言いながら霊夢は目を開けた。
「……おはよう?」
「おう、おはよう」
眠そうな顔でベッドの中で体を起こす霊夢。そのまま座っている。
「霊夢どうしたんだ?私のベッドで寝て……」
「久しぶりに来たら魔理沙いなかったから、寝てもいいかなって」
どういう繋がり? 来てそのまま寝るってどういうことだ……まあいいか、霊夢の中でなにかあるみたいだし。
「隣座るぞ」
そう言って私もベッドの上に座る。
「懐かしいわね」
「どうした?」
霊夢は天窓を見ているらしい。薄暗くなった空を見ながら話を続ける。
「ここにお泊まりして、星の話をした時のこと。魔理沙嬉しそうに星の話するから私も嬉しくて」
私もあの時は熱くなってしまったように思う。星の光の話、星座の話、それに基づく神話の話……たくさんの話をしたように思う。
気がついたら霊夢はすやすや寝ていて。私は苦笑しながら一緒に隣で寝た覚えがある。
「……そうだな。薄暗くなってきたらランプ付けるぞ」
そう言ってベッドの隣に置かれた机の上のランプを付ける。ぽわと机の上が明るくなる。
「明るいわね」
「霊夢は寝るの早いもんな」
あまりランプとか付けずに暗くなったら寝る生活みたいなものだしな。基本的に博麗神社に泊まるとなればそうなるし。
「……ん?」
霊夢はなにかに気がついたのか、立ち上がって机の上に手を伸ばす。
『あいらぶゆー』と書かれた紙に……って、それは!
「何見てるんだ!?」
思わず奪い取りそうになって霊夢はひょいと避ける。
「なんであいらぶゆー? 英語じゃないの?」
「いや確かに英語だけど……って違う!」
恥ずかしくなって私は顔を伏せる。
「なんであいらぶゆーってだけで伏せるのよ?」
不思議そうな声を出す霊夢。
「いや。なんでもない」
なんでもないんだ……きっと。あいらぶゆーって連呼する霊夢に耐えきれなくなったとかそういう訳じゃない。
「というより霊夢……あいらぶゆーって意味分かってるのか?」
「さあ? 英語ってことはわかるけど意味は知らないわね」
ホッと私は心の中で安堵する。こんなの分かる人にはわかるんだから書き殴らなければ良かった。生憎伝わって欲しい人には伝わらないんだから皮肉な話だ。
何思ってるんだ私。
「なーに、百面相してるのよ」
「あいた!」
ピン!とデコピンされる。地味に痛くしたのかヒリヒリと少し痛む。
「ふふ、魔理沙面白いわね。あんたの百面相面白いわ」
「勝手にそんなこと言わないでくれよ。人の百面相見て笑うのはお前だけだぞ」
「あら、魔理沙も人の事言えないじゃない、私がタンスの角に足ぶつけた時も笑ってたくせに」
「そんな前の事を掘り返さなくてもいいじゃないか!」
一週間前に、霊夢がタンスの角に足をぶつけて大笑いした記憶が蘇る。そんなに前でもなかったな。まあいいや。
「笑ったから帰るね」
「笑ったからって……」
そう言って霊夢は手に持った紙を机の上に置いて、部屋のドアの前に立つ。
「ああ、そうそう。魔理沙、『I love you.』よ、フフッ」
そう言ってバタンとドアが閉まった。
………………は?
「お、おい!ちょっと待てよ霊夢!?」
私は慌てて霊夢の後を追う。玄関を飛び出すと、霊夢は満月の空の下で笑っていた。
「ほら、追いついてみなさいよ!」
「言ったな!? 今言ったこと吐かせてやる!」
「ははは! 魔理沙、顔真っ赤! 可愛いわね!」
そうして私たちの追いかけっこが始まった。
「くそっ、霊夢、愛してる!あいらぶゆー!」
「はは、聞こえない、もっとはっきり言って!」
私は恥ずかしかったけど吹っ切れて愛を伝える。霊夢はそれを笑って逃げている。
はぁはぁと言って博麗神社まで来たけれど、霊夢は中に入って行った。私もそれを追いかけていて入る。待ち構えていた霊夢に捕まって私は正面から抱きしめられる。
「魔理沙、私も愛してる」
「くそっ、意味を知ってたなら早く言ってくれよ! 恥ずかしいじゃないか!」
「ふふ、魔理沙反応可愛かったよ。赤くなる顔が愛おしかった」
もう恥ずかしくて私の顔をさらに赤くなる。中に浮いていた腕を霊夢の体に預ける。
「……私も愛してる……」
「ふふ、やっと言ってくれた」
そう言って笑う霊夢。うう恥ずかしい……
***
『I love you.』
なんて簡単な言葉だったんだろうか。
私は後になってそう思うのだ。
愛してる、はきちんと伝えるべきだということを。
甘い霊マリでよきでした。(当たり前のように家主のベッドに横になる仲なの好き)
よかったです
まるで猫の目のようにコロコロと変わる魔理沙と、一見動じてないように見える霊夢の心境が、瑞々しいタッチで描かれています。
最後の文もいいですね。
例え相手に通じなくとも、こちらの気持ちは伝えたい。
ごちそうさまでした。次作も楽しみにしています。
きちんと伝えるべき。幻想郷じゃ比較して脆く寿命も長くない人間同士だからこそなおさらですね
霊夢絶対わかってるだろ、と思ったらわかってて良き
あまりにもまっすぐすぎてまぶしかったです
i'm lovin' it