【5枚目のハガキ】
『レミリアさんに質問です。私は弾幕ごっこが弱くてよく負けてしまいます。弾幕ごっこに勝つ秘訣などあったら教えてください』
「これはー同じ悩みを持つ人がごまんといるでしょうね」
「そうかもね。何かあるわけ? 勝利の秘訣ってやつは」
「まずひとつ言えるのは、避けないことね」
「は? は?」
「避けるってことは、それを危ないもの危険なものと認識しているわけでしょ? だから恐怖で緊張して動きが硬くなってミスするわけよ」
「んー……」
「例えば、人通りの多い道を歩いててもそうそうぶつかったりしないし避けることなんて意識しないでしょ? それを言っているのよ」
「ウンそれは向こうも当たらないようにしてるからぶつからないわけであって、弾幕は思い切り当たりにくるじゃないの」
「いやー私の言いたいことが伝わってないなぁ~~……」
「どういうことよ?」
「あくまで感覚の話よ! 道行く感じで、何気ない感じで! 気負いすぎるなよってこと! まあグレイズで、"あっすんませんッ"ってくらいの感覚でいかないと」
「そんなの極論よ。できたら苦労しないわ」
「じゃあ仕方ない教えましょう……"弾幕ごっこのさしすせそ"を」
「何よ弾幕ごっこのさしすせそて」
「料理のさしすせそあるでしょ? 砂糖とか塩とか。あれは弾幕ごっこにも当てはまるからね」
「初めて聞いたわそんなこと。じゃあお願いするわ」
「"さ"は最初に言った通り、"避けない"でしょ?」
「……うんまあわかったわ。次、"し"は?」
「え?」
「"し"は?」
「"しらんぷり"」
「……どういうこと?」
「弾幕なんか知らん気にしてません、っていうポーズを常に取っておくのが大事ってわけよ」
「"さ"と被ってるじゃない」
「それもあえてなのよ。やっぱ重ねていくと記憶に残りやすいから」
「……次、"す"は?」
「え?」
「"す"!! 一回で聞きなさいよ!」
「"スルーする"」
「だから被ってるって!」
「被りの何が悪いか! 物凄い大事だから三回重ねてるのよ!! それを感じ取りなさいよ!!!」
「3/5同じこと言ってんじゃない! なによそれ!」
「でもここからようやく変わっていくから! よぉーく聞いてて!?」
「はぁ……"せ"は?」
「"狭いところに隠れる"」
「もうやる気ないじゃない、弾幕ごっこ」
「いやこれ以上の防御はないでしょ!? あんな弾幕張られたらそりゃ隠れるのがベストよ!!」
「もういいわ。最後、"そ"」
「あぁ~これは~…………ついに来たかって感じね」
「うん」
「これはねぇ、ここまで挙げてきた四つの集大成というか……総仕上げ……画竜点睛とでもいったらいいのかしら?」
「うん」
「まああれよね、何事も終わり良ければすべて良しって言うじゃない? やれアイテム取り損ねたとか抱え落ちしたとか、そんなこといくらでも起こり得ます。でもね? それは将来的にh「もうそんなのいいから早く言いなさい!!」
「分かりました言いましょう!」
「ええ!」
「さけない! しらんぷり! スルーする! 狭いところに隠れる! ……」
「……」
「……"そこから撃つ"」
「ただの嫌な奴じゃない」
【6枚目のハガキ】
『かの三英傑に、日替わりで参謀を務めに行ったという三勤交代嬢レミリアさんに質問です。有名なホトトギスの句には、レミリアさんバージョンもあるそうですね。それはどのような句ですか?』
「そもそもこのホトトギスってどういう意味か判る?」
「どういう意味?」
「えーと、織田信長は自分に鳴かぬ鳥はいらん、殺して次の鳥を探すぞってことよね
で秀吉は、鳴かないのであれば策を弄し知略を巡らし、鳴かせてみせよう手に入れてみせようってこと
最後家康は何をするわけでもない、鳥がこちらに鳴いてくれるのをじっくり待とうじゃないかと。そういった各人の心構えというか、やり方を言ってるわけよね?」
「大体そんな感じかしらね」
「だからまあ、別にこの三人以外でも言えるわけよ。例えば霊夢だったら、"鳴くまで茶を飲もうホトトギス"だし。魔理沙なら、"鳴いたら撃つぜホトトギス"、だし……」
「思いつかないの?」
「思いつかないって何よ? ちゃんと考えてるわよ。……いや考えてるじゃない元々あるっての私の句は」
「じゃあ言いなさいよ」
「分かってるわ。えーーー………」
「…………」
「…………あのねえ、そうやって急かすような態度とられるとね、出るもんも出なくなるから」
「いや、知ってること言うだけでしょ? さっさと言ったらいいじゃない」
「ちょっとド忘れしたのよ! そうやって詰められるとこっちも辛い! 親友ならもっと優しくしてよ!?」
「分かったわよ……」
「…………えーとね……」
「…………」
「スーーーっ…………んんん…………」
「……大丈夫? このハガキ飛ばす?」
「あーもうすぐ思い出すから! 焦らないでパチェ!」
「はいはい」
「えーーー…………」
「…………」
「え~鳴かぬならー………………っ、"鳴かぬなら、どしたん? 話聞こか? ホトトギス"」
「…………」
「…………」
「…………」
「……あッ! ごめん間違えた! 本当は、"鳴かぬなら、本気で殺すわホトトギス"、ね?」
「…………」
「…………」
「…………」
「………………どしたん?」
「どうしたもこうしたもないわよ」
【7枚目のハガキ】
『少食キャラが忘れられつつあるレミリアさんに質問です。人間には四つの血液型がありますが、レミリアさんはその中でもB型の血液が好きだと聞きました。一体どんな味なのですか、また、他の血液型との違いを教えてください』
「これはなかなか説明に困るわね」
「そうなの?」
「やっぱり吸血鬼特有の味覚があるわけよ。それをどう説明したらいいか」
「まあなんとか分かりやすいようにお願い」
「そうね、Bが塩ラーメンだとしたら、Aは味噌ラーメンってとこかしら」
「何で麺類なのよ」
「あえて言うならよ? イメージね」
「それはなに、しょっぱいってこと?」
「あっさりしてるね。そこらへんが私好みなの」
「……他は?」
「Oはあれトムヤムクンとさも似たりって感じかな」
「統一しなさいよラーメンに」
「と、統一ってなによ!? 感じたままのことを言ってるんだから!」
「分かりにくいわよ! そもそもモノが違うじゃない!」
「だからイメージで言うとよ!? 他にも食感、喉越しとか実際に違うところたくさんあるんだから!」
「それを言いなさいよ!」
「Bはサラサラしてて飲みやすいの! ここがポイント! まあサラサラすぎてよくこぼしちゃうんだけど」
「ええ」
「それでO型がね? 味は良くても、特濃野菜ジュースみたいなざらざら感あって、私それが苦手なのよ。まあ、その分うま味がよく絡むって良さはあるんだけどね」
「絡むって何に?」
「麺に」
「……貴方麺の話してたの?」
「えっと、あの……つけ麺みたいにして食べたときはってこと。あっ、喉にも絡むけどね? オエッてやったらなんか出てくるもん。でも中にはそれが好きだって頼むやつもいるんだから世の中広いなーと……"おおー!"、と思ったんだけども……O型だけに」
「ふーん」
「……」
「……」
「……」
「(このまま続けられるの……?)」
「(これ〜……これちょっと違うかな……。パチェ変えてくれる……?)」
「はぁ………………そもそも、血液型に関わらず血の味って個人差あるんじゃないの?」
「おっ!!! いいところに気がつくねぇ! 流石パチェ!」
「お世辞はいいから。そこも教えてちょうだいよ」
「確かに血の成分濃度は個人差あって、それが味に影響するわ」
「うん。やっぱり結構違うもんなのね?」
「そ。成分が普通より濃い血は、まあそうねぇ、それがBだったなら……塩ラーメンに餃子一人前追加って感じかな?」
「…………いやっ、Bだったらというか、それはレミィの気持ちの話でしょ? どんな味かを訊いてるんだけど」
「ちょっと血中コレステロールが多かったなら、奮発して焼豚トッピングしてもいいし」
「してもいいってなによ? 貴方の匙加減じゃないでしょ? 味は?」
「鉄分多めな血だったなら、他の成分が薄くても半チャーハン頼むくらいは許されて然るべきだと私は思うわね」
「知らんわよ、勝手に頼みなさいよ。味は!!!」
「なんだったらラー油垂らしてもいいし」
「なんだったらって何よ!? 味は!!」
「でもそれがAだとしたらッ「だから今AとかBとか関係ないのよ!! 味を訊いてんのよ味を!!!」
「いやこれは絶対言いたいんだって!!!」
「なに!?」
「はぁはぁ……いい? もしAだったとしたらよ? 出てくるのは、確定で杏仁豆腐になるから」
「フッ、急に甘味が出てくるのね?」
「そういうこと。そこは気を付けてほしいの、切実に」
「私ゃ何をどう気をつけたらいいのよ……」
【8枚目のハガキ】
『咲夜の世界に入門したいのですが、どうやったら入門できますか』
「とにかく申請書は絶対要るよね」
「そんな書類なんかあるの?」
「もちろんあるわよ。あと事前に咲夜にアポも取らなきゃだし……」
「はぁ」
「それと印鑑、履歴書、個人を証明できる書類……」
「中々面倒なのね」
「それを咲夜のところに持っていって……そのあとは教習を受けないとだし」
「教習!?」
「週3……週4で通うことになるわ」
「どんな教習なのよ?」
「基本的には座学よ座学。それ修めたら技能教習で、咲夜が一緒に世界に入って教えてくれるの」
「あ、それは面白そうね」
「結構緊張するよ? 隣に咲夜座ってて、一挙手一投足見られるわけだから」
「へえ」
「これ、咲夜もちゃんと怒ってくるからね? ここで甘やかして事故でも起こされたら、連帯責任みたいなものだもの。それぐらい時間停止の世界は危険なのよ」
「……その技能教習は具体的にどんな動きをするの?」
「まず時間止める直前の安全確認からよね。もし拘束トラップとかを踏んでたりしたら、時間止めようがアウトだし」
「うんまあ"そういうトラップがあるかもしれない"って考えは大事よね」
「そしたらシートベルト締めて「待ちなさいよ」
「何よ?」
「何??? シートベルトって」
「シートベルト、いわば心のシートベルトよ! これから止まった世界の中を実際に動いていくんだから! きっちり締めなきゃダメでしょ!?」
「はあ」
「ちゃんとシートベルトがカチッて言うまで締めて! そしたら次はミラー確認よ!!」
「ミラー!?」
「バックミラーサイドミラーアンダーミラー! 全部!!」
「え、なにかに乗ってるの!? 自分の身ひとつなのよね!?」
「当たり前でしょ心のミラーよ! 死角はなくさないといけないでしょ!? 停止世界だからって油断は命取りなのよ!? 弾幕が避けようのない配置になってるかもしれないし、近くで停止したやつがたまたま才能で入門してくるかもしれないんだし! あらゆる可能性を想定するのがプロよ!」
「はぁ……わかったわ……それで、ミラーの次は?」
「キーを入れる」
「え、それは何のキー?」
「かっ、"気"を入れるの"キー"よ。これから動くぞーって気合いを」
「ムカつくわ」
「で! いよいよここから時間止めていくから! よーく聞いててね!?」
「ええ……」
「まずエンジンをかける!!」
「エンジン、心のエンジンね?」
「そう! ここでしっかり暖機運転させとかないと、四肢末端や内臓がついてこれず止まっちゃうから!」
「あーそれは大変ね。次は?」
「ただしマニュアルの場合はエンジン前にクラッチとブレーキを踏み込むのを忘れないこと!!」
「待って何!? マニュアル!?」
「時間停止にもオートマ限定とマニュアルがあんのよ! オートマは簡単だけど5秒だけ! マニュアルは自由自在!
真のプロはマニュアル一択よ! そんでギアをファーストにしたらサイドブレーキ外して時間との接続を完全に断つ!!」
「う、うん……!」
「この時絶ッ対呼吸はしない! 吸い込んだチリ埃が体内で停止してえらいことなるから!! で次に右足でアクセル踏んで、魂の回転数を上げる! ここをミスるとエンストして時が再び動き出すから注意よ!!」
「エンスト!?」
「ええ! そしてここからが一番難しいとこだから!! 左足をミリ単位で上げていきながら、半クラッチの位置を探る!
見つけたならあとはアクセル踏んで! ハンドル10時10分に握り直してハイ出発進行~ッ!!」
「それ完全に車じゃないのッ!!!」
「はぁ、はぁ……」
「はあぁ……ふぅ……」
「…………」
「ちなみに……その講習お金はかかるの?」
「かかるよ」
「いくらぐらい?」
「29万。合宿なら25万くらいで済むけどね」
「……」
「まあやっぱ狭き門なんだって」
「そりゃそうでしょうねえ。誰か合格者いたりする?」
「私が聞いたのだと、わかさぎ姫だったかな」
「何で受けたのよ。どうやって受かったのよ」
「合格発表の時はみんなに胴上げされてたね、もちろん水揚げされてから」
「あっそ」
「私は落ちた」
「あ、レミィ落ちたんだ?」
「仮免はとれたけど」
「……本免で落ちた?」
「うん、筆記で」
ーー
○
その後、あるハガキを読み終えたところで、二人の会話のペースはふっと途切れた。お姉様は満足したのか、手にまとめたハガキの束をパタパタと振っている。隣のパチュリーはやれやれと疲れた様子で首を振った後、軽く2回咳き込んだ。
どうやら、これでおしまいらしい。
「さてと……そろそろいきますか、引っ越しの話もまとめなきゃだし」
「まだ言ってるのそれ。ていうか私の名前のことだけどーー
ーー2人が話しながら踵を返すと、また奇妙な音楽が鳴り出す。
来た時と同じようにブツブツ何かを言い合いながら、二人は部屋を出て地上階へ上がっていった。
扉が閉まると、音楽もゆっくり消えていく。部屋にはまた元の静寂が戻ってきた。私は、一人になった部屋で、先程までのことを反芻していた。
一体なんだったんだろう。あのハガキはどこから来たの? というか、お姉様が堺に引っ越すなんて、初耳だった。でも、一番不思議だったのは――どうして、私の部屋で?
ただの気まぐれ? それとも、まさか退屈している私のために……? 考えすぎかもしれない。でも、胸の中に温かいものがじんわりと広がっていくのを感じる。
部屋は少し前と同じ退屈な空間。でも、私の心はさっきまでとは少しだけ違った。
もし次に来た時は、どんな話を聞かせてくるのだろう。そんなことを考えると、自然と口元が綻んだ。ベッドの上で、私は一人、静かに笑みをこぼした。
テンポよく進んでいく会話が楽しかったです
これで終わってしまうのが惜しい