Coolier - 新生・東方創想話

レミリアのなんでも質問コーナー:終

2025/09/15 23:50:10
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 ああ退屈。
 外は酷い雨だった。このフランドールを用心深く封じ込めるように、昨夜から降り続いている。外に出る気はなかったが、それでも気が重い。
 そんな時は大抵図書館で読書に耽るものだが、今のところ興味のある本は粗方読破していた。
 何もやることが浮かばない。私はどこへも行けず地下に篭りきり。ベッドの上で体育座りしたまま過ごしていた。
 ああ退屈。
 とはいってもこんなことは慣れっこだ。これからもこの虚しい時間は幾度となくやってくるのだろう。

「はぁ~~~あっ……!」

 上でふんぞり返っているであろうお姉様に向けて、私は特大のため息をついた。"今私はこんなに退屈しているのよ"、と。
 ま、どうせ聞こえるわけないけどね……——


 ——突然、扉の向こうから音楽が流れてきた。

「!?」

 例えるなら密室の中の少女が、亡き王女に送るセプテットを奏でているような、奇妙なメロディーが。

「な、なに……? この音楽は……!?」

 十数秒ほど音楽が流れるうちに、部屋の扉が開いた。

 そして、お姉様とパチュリーが入ってきた。

「いや~どうもどうもぉ、ねぇ~?」
「えぇ~、ねえ」

 しかもなんかブツブツ言いながら私のベッドの少し前まできた。
 私から見て左がお姉様、右がパチュリー。お互い手が届く絶妙な距離感を保ったまま並び立っている。
 そして、後から続いてきた、魔法で自律移動するキャスター付きの台が2人の間で停止する。その上にはハガキらしき紙の束が置かれていた。

 何が起こっているのか判らない。私が呆気にとられているうちに、お姉様が喋り出した。

「ええ~。最近どう? パチェ」

「最近どうって……別にどうもないわよ」

「どうもないことないでしょうよ。何かはあるでしょ生きてたら」

「…………あっ、魔理沙がね、本返しに来たのよ」

「えっ、あの盗っ人ジョージが?」

「ええ。"これからもよろしくな"って、今まで盗んだ本全部置いてったわ」

「あ~まあ年号も変わったからねぇ。断捨離でもしたくなったんじゃない?」

「いつの話よ。まあ、今更って感じよね」

「案外パチェとの縁も切りたかったのかも判らないわよ」

「余計腹立つわ……。返ってきた魔導書全部汚れてんのよ?」

「それはあれか、コーヒーとかで?」

「コーヒーもだし、ページが米粒で開けなかった時は、殺してやろうかと思ったわ」

「腹立つねー。私も思い出すわぁ。美鈴に漫画貸したらボロッボロになって返ってきたことあった」

「いや一緒にしないでよ魔導書と漫画を」

「いや一緒よあんなもん」

「いやどう考えても違うでしょ」

「いやいや一緒一緒。私に言わせればね、読み物なんか全部一緒」

「どういうことよ」

「あの~パチェはあれでしょ? 魔導書読むなりして魔法撃つでしょ?」

「まあ基本はね」

「私はほら、漫画読んでも魔法撃てるから」

「…………」

「もう最初のあらすじのところから撃てるからね?」

「その話長くなる?」

「ええそりゃまだあらすじだからね」

「1枚目のハガキ、『こないだ堺の新金岡駅で…

「あれ? ちょっとパチェ?」


【1枚目のハガキ】

『こないだ堺の新金岡駅付近でレミリアさんを見かけました。紅魔館の主であるレミリアさんが治安の悪い、ヤンキーと寺しか存在しない堺というど田舎でなにをしていたのか、非常に気になります』

「ああ、2週間前の話ね」

「貴方どこ行ってんの? 堺?」

「堺。まあ外の世界なんだけどね」

「まあ貴方が今更どこ行ったって驚かないわ」

「7年振りに行ったね~堺」

「あ、何回か行ってるのね?」

「ええ、ええ、めっちゃ行ってます」

「で、そん時は堺で何してたの?」

「あのときはあれだね、アフターファイブを満喫してたね」

「具体的に言いなさいよ」

「そんなことまで言わなきゃだめなの?」

「当たり前じゃない」

「あのねぇパチェ……。あんた、昨日の晩飯何食った?」

「はあ?」

「昨日の晩飯何食ったって!」

「関係ないでしょ?」

「いいから言え!!! 昨日の晩何食った!!!」

「食べてないわよ!」

「うわ、そうくるか」

「レミィは覚えてるの?」

「完っ全に忘れたわ」

「なんなのよ」

「いやね、つまりはそういうことなのよ。私は今まで何回も堺に行ってるし、それはもう色んなことを堺でやってきました。だからいちいち何があったかとか細かいことは覚えておりません!」

「そんなこと言ったらこのハガキもう終わりじゃないのよ! 色々やってるならそれを言いなさいよ」

「えっとあの~……友人にね、会いに行ってたのよ」

「へぇ」

「まあけっこう付き合い長い友達でね」

「人間なのよね?」

「いや、まあ人間というか、あれよ、市長よ市長、堺の」

「人間じゃない。なんでそこ濁すのよ」

「ええじゃあまあ人間でいいですけど」

「……で、その市長と何してたの?」

「…………これ言っていいのかな」

「別に構わないでしょ、言いなさいよ」

「いやこれ言ったらヤバいんじゃないかな……」

「大丈夫大丈夫誰も気にしないわよ」

「あ、ほんと?」

「ほんとほんと、さっさと言いなさい」

「引っ越し」

「は?」

「いやだから引っ越し」

「引ッ越し?」

「はい。まあ来月あたりに堺市に引っ越そうと思ってるからその話し合いをね?市長と色々…「ちょっと待って待って!!!」

「なによ」

「引っ越して!!! 私何も聞いてないわよ!? 引っ越し!!??」

「うわもうめっちゃ怒るじゃん……だから言わん方がいいと思ったのに……」

「そりゃ怒るわよ! 貴方勝手にそんな話進めて! なんでそんなことになってんの!?」

「パチェさァ? 私が気分屋なことくらい分かってるでしょ?」

「気分で引っ越し決めたの!?」

「イエスよ。なんだかんだ並べる理由はあっても、突き詰めたら結局はそういうもんみたいなとこあるじゃん? まあ強いて言うならあれよ、里心がついたというか?」

「里心、里心!?」

「まあある種ね? 昔はほら、あそこでヤンキー達とブイブイ言わしてたもんだから」

「ヤンキー!?」

「ええよ」

「日にも当たれないのに?」

「そりゃああんたヤンキーよ!? 深夜徘徊待ったなしなんだから! そこは全然大丈夫よ!!」

「そう……で、そのヤンキー達のいた地へ戻りたくなったと」

「まあそういうことねぇー。戻りたいし、久しぶりにメンバー集めて再結成したい気もしてたのよねぇ?」

「再結成って……そいつらもういい歳……というか死んでんじゃないの?」

「そいつらって言うなよ。私の大事なメンバーなのに」
「大事っt「今もメンバーうちにいるっちゅうの」

「は?」

「あっやば、言わないほうがよかったかな……今のちょっとナシ……」

「いやいやいやいや今更すぎ今更すぎよ。誰なのよ?」

「美鈴よ」

「美鈴!? あの子がヤンキー!?」

「元々堺じゃ有名だったのよ?『紅い眠り姫』って言われててね」

「全然強そうじゃないわね」

「寝起きがめちゃくちゃ悪いのよ。寝てるとこ起こしたら手が付けられないってんで、誰も起こさなかったから、結果的に『眠り姫』」

「なるほど……」

「まあ寝てるからバイクの運転もなにひとつしてくれないし、大抵アジトに置いてってたんだけど」

「ああそう」

「で、当時は赤髪団って言われてたねー」

「貴方赤髪と違うじゃない」

「ええ、だから私はずっとパシられてたよ」

「え? 貴方下っぱだったの? ボスじゃなくて?」

「そりゃそうよ、赤髪団よ? 赤髪じゃない私がどうして頭になれるのよ」

「じゃあ美鈴がボスだったってこと?」

「いや、パチェんとこの小悪魔よ」

「ええっ!?」

「当時はスカーレットデビルってあだ名だったわ」

「貴方の二つ名、小悪魔からの流用だったの? いやそれよりあの子が!?」

「めちゃめちゃ怖かったねえ当時。今でこそ落ち着いてらっしゃるけど」

「"おいミニデーモン!本買ってこい!"ってよくパシられてたね~、懐かしいわぁ」

「そこは本なのね」

「でも図書館は走るわ、コンビニの開けなくなってるタイプの漫画本無理やり覗くわ……小悪魔というか、小悪党だったね」

「ええ……なんか聞きたくなかったわ……」

「まあ昔話はさておき、本当は当時の赤髪団アジトがあったところに引越ししたかったんだけど、地域住民からメチャメチャバッシングされてね」

「あら」

「“この一等地になぜ紅魔館を建てる必要があるんだ"みたいなこと言われまくって、結局移設もその立地も諦めて、泣く泣く変更したのよね」

「そのものも諦めなさいよ。というか、堺のどこに引っ越すのよ? それなりの場所なんでしょうね?」

「寺」

「寺!?」

「寺」

「なんで!?」

「そこしかなかった。空いてるところ」

「貴方それでいいの!?」

「まあ、ちょうど住職もやってみたい気してたし? 金閣銀閣ならぬ、紅閣寺とか作っても面白そうでしょ」

「貴方ヤンキー再結成したがったり住職なろうとしたり、めちゃくちゃよ」

「良いじゃない別に。人生一度きりなんだから、やりたいことやらないと」

「いっぺんにやらなくてもいいでしょ」

「細かいこと言わないの。で、パチェはどうするの? 赤髪団入る? 髪染めればそれだけで上に立てるよ?」

「嫌よ」

「うーん、じゃあ一緒に出家する? メンバー全員丸坊主でキメてみるってのはどう?」

「そうなった時貴方達は赤髪団名乗れるの?」


【2枚目のハガキ】

『レミリア様はその知性にどれほどの自信がおありなのでしょうか?』

「自信もなにも、レミリア=知性、知性=レミリアみたいなとこあるからね?」

「ハッw」

「向こうからアプローチしてくるよね知性が、もはや」

「馬鹿じゃないの」

「ホントだって。訪ねてきたんだから」

「何が、誰がよ」

「そのなんだ? ホセメンドーサみたいな名前のインテリ集団の奴らがよ」

「……この際名前はいいわ。何しに来たのよそいつらは」

「そりゃもうウチに入れ入れと、スカウトというか……引き抜きよね」

「引き抜き……」

「確かにインテリっぽさはあって惹かれたね。"ご検討の程、どうか宜しくお願い致します!"って言いながらメガネクイッ! 会員証キラッ! だったからね?」

「頼む態度と違うでしょそれ」

「まあ断ったんだけども。あとは……名前にインテリジェンスと付け加えたらどうかと提案されたこともあったね」

「レミリア・スカーレット・インテリジェンス?」

「ノンノン。レミリア・"intelligence"・スカーレットね」

「どっちでもいいわよ」

「まあパチェとちょっと被るからそれも結局やめたんだけど」

「ああ、ノーレッジと?」

「こんなことならパチェにノーレッジって名前を与えなければ良かったわ」

「……は?」

「まあ別にレミリアインテリジェンスとパチュリーノーレッジで関連付けしても良かったんだけどさー」

「いやちょっと待ってよ、私の名前が何ですって?」

「…………」

「…………」

「パチェぇ……冷静に考えてさ、ノーレッジ(知識)ってナチュラルな姓名というより、コードネームというか、二つ名的だと思わない?」

「いや名前でしょ。私はパチュリー・ノーレッジよ?」

「フッw やっぱ覚えてないのね、まあそれならそれでいいですけどもw」

「いやムカつくわねなにそれ、ちょっとレミィ!!」


【3枚目のハガキ】

『溢れんばかりのカリスマでどんな相手も魅了してしまうという稀代の令嬢レミリアさんに質問です。レミリアさんは先日、氷精と地獄の女神の喧嘩を見かけたそうですね。その喧嘩は何が発端で、またどのように収束したのですか、教えてください』

「まあ~……喧嘩というか、ほぼほぼ一方的なもんだったけどね」

「どこで見かけたの?」

「すぐそこ、軒先」

「猫か」

「氷精と地獄の女神がたまたま鉢合わせて、まあなんか喋ってたわけよ」

「ええ」

「多分裸足同士通じるものがあったみたいで、最初はすっごい仲も良さそうだったのよ」

「裸足で……ええ」

「でもしばらくしてなんだったかな……"お前の体にひまわりが生えるのはおかしい"みたいな話になったのかな」

「うん」

「そしたら、"お前の服の方がおかしい"、みたいな流れになって」

「ああ、始まりそうな流れね」

「氷精が、"オ前ハperfectジャナーイ!"って言いながら、女神のあの頭のボールの鎖グンッ!って引っ張って女神首グキィ!ってなってたね」

「なんでカタコトなの? ていうかそっちがやられてんのね」

「あとはもう見るに耐えなかったわ。とにかく、"こっちのボールは勘弁してくれ"とだけ繰り返してたね女神が」

「ボールって言ってたの?」

「ボールって言ってた。"右のボールだけは!"って」

「……それでどうやって収束したの? あなたが仲裁したりしたわけ?」

「ええ ええ、バケツで水かけたら逃げてった」

「やっぱ猫じゃないの」


【4枚目のハガキ】

『部下には必ずマイナスイオンを浴びさせるというレミリアさんに質問です。マイナスイオンの主な効果はなんですか? またどこにいけばマイナスイオンを浴びることができるでしょうか』

「すっごいなんというか、お粥食べたくなるね」

「は?」

「胃に優し~い食べ物が欲しくなるのよ。湯豆腐とか、ひきわり納豆とか」

「それは何、マイナスイオンを浴びたらってこと?」

「ええ。まあこれは初期段階だけどね。こっからだんだん変わっていくわ」

「マイナスイオンを浴び続けたら?」

「そう。さらに美容健康を意識した生活に変わっていくのよ」

「それは食性以外も変わってくの?」

「ええ。まず身の回りからよね。赤色はほら、視覚的効果で血行良くするでしょ。だからこの屋敷も赤くなったし」

「…………」

「お肌に悪い日光にも、当たる気しなくなってくるし」

「…………」

「食に戻るけど、血液なんて栄養そのまんまみたいなところあるからね。だからマイナスイオンを極めた私は、血液が主食なの」

「……で、そのマイナスイオンはどこで浴びれるわけ?」

「ああこれは簡単。マイナスイオンを浴びた人の近くにいればいいの。出てるから」

「本元はどこなのよ……まあいいわ」

「強いて言えば私よね。もちろん私も他所からもらってきたものだけど。小さい頃、"あんたまた変なモノもらってきて!"ってお母様によく怒られたもんだわ」

「なんか嫌ね病気みたいで」

「ただ一つ気をつけてほしいのは、マイナスイオンを持ったものが二人……偶数人揃うと、プラスイオンに変わってしまうから」

「え、プラスイオンに変わったらどうなるの?」

「逆なの。油っこいもの食べたくなる」

「…………」

「前にうっかりプラスイオンになった時は、毎食油そばだったね」

「うん……」

「おやつは揚げバターで」

「うん」

「もう常時唇テッカテカ、当時のメンバー全員」

「うん……」

「まあそういうわけで、うちのメンバー数はもう絶対奇数って決まってんのよ」

「そんな理由で」

「ステージも七面でしょ? エクストラ含めて」

「?」

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