こいしちゃんとの出会いはですね。
えーと、羽田空港の近くにライブ会場があるじゃないですか、あそこに行ったんですよ。ツーデイズのチケが全部取れたんで、空港近くのホテルとって泊まりがけで。
で、一日目が終わって一晩明けて、昼間は暇なんで浅草観光でも行くかって雷門の周りをウロウロしたんですけどね。さすがに連休中だから観光客、というか外国人多いですねぇ、うぜぇのなんの。
あ、いや、言いたいことはこの後で。
雷門前の通り、隅田川方向の角にハンバーガー屋あるじゃないですか。その前の交差点で信号待ちしてたら、背中がふわぁって、誰かが服引っ張ってるみたいで。
もしかしたら背負ってるデイバックの中身狙う泥棒かも。
でも振り向いても、手の届く位置には誰もいないんですよね。
おかしいな、気のせいかなって。
でもね、違うんですよ、俺、わかっちゃったんですよ。
ははぁ、これは何かいるぞって。なんか変なのがいるぞって。
それでもう一度、今度は背中に気ぃつけながら前見てたら、また、ふわぁって。
パッと振り向いたら女の子がビックリした顔でこっち見てるの。
「あら、なんでわかったの?」
それがなんというか、可愛い女の子で。あ、いや、俺、そういうのじゃないですよ、なんていうの、オタクとかそんなのじゃなくて。
でもまぁ、可愛い子なんでこっちもビックリして。
なにしてんの? って聞いたら
「私、こいしって言うの」って自己紹介ですよ。人の話聞いてないのかって。
まあとりあえずこいしちゃん。
こいしちゃんは他の人からは見えないって言うんですよ、なんか、たまたま俺にだけ見えてるって。試しに色々やってみたら本当に見えてないの。見えてないどころか、こいしちゃんに触られても殴られても気付いてないの。笑えたよ、あれは。凄いよね。なんか、さとりとかいう妖怪だけど今は違うとかよくわからないこと言われたけれど。
ゲンソーキョー? って所に住んでて、本当はケッカイがあるんだけど、こいしちゃんのことが無意識の影響でケッカイからも見えなくなるときがあるから、その隙に出てくるんだって。
話が面白いしさ、いろんな悪戯できるんですよ。なにしろ誰も気付かないって言うから。
そうそう、一週間ぐらいかな、いろんなところでいろんな悪戯しましたよ。
……え、あ、いや、そんなに悪いことしてないですよ。そんなには。えーと、俺知らない。
……あ、はい。食い逃げとかはしました……しましたけど、ほら、食い逃げで誰も死んでないですよね? そりゃあね、まあ、物も盗ったけど、ほら、人殺しとかは俺はしてないし、そんな無茶苦茶悪いことはしてないですよ、俺。
いやいやいや、こいしちゃんが勝手にしたことは俺関係ないでしょ。なんでそんなことまで俺のせいになってるかなぁ。だって、俺がやったんじゃないし。
ねえ、こいしちゃん。
うん、そこにいますよ。ほら、今カーテン動かしてる。
いや、風じゃなくて。
ほら、先生の背中触って。え、気のせい?
うーん、なんでわかってくれないかなぁ。
合理的とか常識って言われてもさぁ。俺しっかり見えてるし。
ねえ、こいしちゃん? あれ、どこ行くの? お土産もできたから家に帰るって? また来てよ、この人たちにきちんと説明しないと俺、ヤバいかも。うん、証拠見せなきゃ。
来てよ、本当に、頼むよ、こいしちゃん。
あ、待って。ちょっと、先生、離して。こいしちゃんが行っちゃうから約束だけでも。
待てよ。おい。なんだよ。嘘じゃねえよっ! こいしちゃんがいたんだよっ! 考えなくても見りゃわかるだろ、そこにいるんだから。
おい、待てよ、なんだよそれ。注射器だろ、知ってるぞ。隠してあるだろ。こいしちゃんが教えてくれたんだよ、お前らクスリ隠してるって。俺は飲まねえぞ、コラ、離せ、離せよっ!
やめ……! クスリは、注射は、やめ……
今回で「合理に抗え こいしちゃん!」は最終回です。応援ありがとうございました。
次回からは新連載「薬理に逆らえ こいしちゃん!」が始まります。ご期待ください
えーと、羽田空港の近くにライブ会場があるじゃないですか、あそこに行ったんですよ。ツーデイズのチケが全部取れたんで、空港近くのホテルとって泊まりがけで。
で、一日目が終わって一晩明けて、昼間は暇なんで浅草観光でも行くかって雷門の周りをウロウロしたんですけどね。さすがに連休中だから観光客、というか外国人多いですねぇ、うぜぇのなんの。
あ、いや、言いたいことはこの後で。
雷門前の通り、隅田川方向の角にハンバーガー屋あるじゃないですか。その前の交差点で信号待ちしてたら、背中がふわぁって、誰かが服引っ張ってるみたいで。
もしかしたら背負ってるデイバックの中身狙う泥棒かも。
でも振り向いても、手の届く位置には誰もいないんですよね。
おかしいな、気のせいかなって。
でもね、違うんですよ、俺、わかっちゃったんですよ。
ははぁ、これは何かいるぞって。なんか変なのがいるぞって。
それでもう一度、今度は背中に気ぃつけながら前見てたら、また、ふわぁって。
パッと振り向いたら女の子がビックリした顔でこっち見てるの。
「あら、なんでわかったの?」
それがなんというか、可愛い女の子で。あ、いや、俺、そういうのじゃないですよ、なんていうの、オタクとかそんなのじゃなくて。
でもまぁ、可愛い子なんでこっちもビックリして。
なにしてんの? って聞いたら
「私、こいしって言うの」って自己紹介ですよ。人の話聞いてないのかって。
まあとりあえずこいしちゃん。
こいしちゃんは他の人からは見えないって言うんですよ、なんか、たまたま俺にだけ見えてるって。試しに色々やってみたら本当に見えてないの。見えてないどころか、こいしちゃんに触られても殴られても気付いてないの。笑えたよ、あれは。凄いよね。なんか、さとりとかいう妖怪だけど今は違うとかよくわからないこと言われたけれど。
ゲンソーキョー? って所に住んでて、本当はケッカイがあるんだけど、こいしちゃんのことが無意識の影響でケッカイからも見えなくなるときがあるから、その隙に出てくるんだって。
話が面白いしさ、いろんな悪戯できるんですよ。なにしろ誰も気付かないって言うから。
そうそう、一週間ぐらいかな、いろんなところでいろんな悪戯しましたよ。
……え、あ、いや、そんなに悪いことしてないですよ。そんなには。えーと、俺知らない。
……あ、はい。食い逃げとかはしました……しましたけど、ほら、食い逃げで誰も死んでないですよね? そりゃあね、まあ、物も盗ったけど、ほら、人殺しとかは俺はしてないし、そんな無茶苦茶悪いことはしてないですよ、俺。
いやいやいや、こいしちゃんが勝手にしたことは俺関係ないでしょ。なんでそんなことまで俺のせいになってるかなぁ。だって、俺がやったんじゃないし。
ねえ、こいしちゃん。
うん、そこにいますよ。ほら、今カーテン動かしてる。
いや、風じゃなくて。
ほら、先生の背中触って。え、気のせい?
うーん、なんでわかってくれないかなぁ。
合理的とか常識って言われてもさぁ。俺しっかり見えてるし。
ねえ、こいしちゃん? あれ、どこ行くの? お土産もできたから家に帰るって? また来てよ、この人たちにきちんと説明しないと俺、ヤバいかも。うん、証拠見せなきゃ。
来てよ、本当に、頼むよ、こいしちゃん。
あ、待って。ちょっと、先生、離して。こいしちゃんが行っちゃうから約束だけでも。
待てよ。おい。なんだよ。嘘じゃねえよっ! こいしちゃんがいたんだよっ! 考えなくても見りゃわかるだろ、そこにいるんだから。
おい、待てよ、なんだよそれ。注射器だろ、知ってるぞ。隠してあるだろ。こいしちゃんが教えてくれたんだよ、お前らクスリ隠してるって。俺は飲まねえぞ、コラ、離せ、離せよっ!
やめ……! クスリは、注射は、やめ……
今回で「合理に抗え こいしちゃん!」は最終回です。応援ありがとうございました。
次回からは新連載「薬理に逆らえ こいしちゃん!」が始まります。ご期待ください
影響と被害を与えるだけ与えて不条理に去っていくところがまさに妖怪でした