Coolier - 新生・東方創想話

tabacotocomaxa

2025/04/26 04:11:55
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 丁寧な手つきで真っ白な手巾を四つ折りにして、くちびるからはみ出た醤油だれを、いや、もしかすると味噌だれかもしれないけれども、とにかくなんらかの塩辛そうなたれを拭うと、「まずは名を名乗れ。」と駒草山如はわたしに命令した。〈たばこだにたまひこ〉という本当の名前を伝えると、漢字ではどう書くのかと更に訊ねられる。〈莨谷魂飛子〉と書くのだが、草冠にうしとら (艮)、などと言ってみたところで伝わらないのは目に見えているので、「そうですねえ、ちょっと説明が難しいもので、何か適当な書くものを持ってきてもらえると助かります、えへへ。」などとへらへら笑って頼んでみよう、とも考えたが、目の前にいるのは駒草山如であり、裏紙とペンを取って来させるなんてとても畏れ多い。仕方がないので、「草冠の下に、〈うしとら〉って漢字知ってますかね、〈良い〉って漢字あるじゃないですか、あれの上についてる縦棒をとった漢字なんですけど……あっ思い付いた、〈良い〉の縦棒を草冠に置き換えた漢字、って言えば、分かりやいんじゃないですかね。それで〈たばこ〉って読ませるんです。〈煙〉に〈草〉じゃないんですよね。面倒くさくて申し訳ありません。あとはまあ、そんなに難しい漢字じゃなくて、地形の〈谷〉、〈魂〉は〈たましい〉ですね、あとは、〈飛翔〉の〈飛〉、〈子供〉の〈子〉です。」などと、くどくど説明して差し上げたところ、「おまえはよくしゃべるやつだな。もっと簡潔に説明しろ。学のあるわたしは〈艮〉なんて知っている。」とのこと。それなら途中で口を挟んでくれてもいいのに、と内心でため息をついた。
 これまでの人生において、賭博などというものに関わった記憶はまったくなく、また関わりを持たないままに余生を終えるはずだったわたしが、こうして駒草山如の家に招かれ、座卓を隔ててひとりは正座、もうひとりは片膝を立てて向かい合っている。これはいったいどういうことなのか。
 そもそも、〈まずは名を名乗れ。〉などという質問を、今更になって受けること自体、どこかおかしいと思う。名前さえ知らない女を、どうして向こうは家に招き入れようと考えたのか。それに、わたしと駒草山如のあいだには、賭場にて落ち合い、私邸までの道のりを案内し・案内され、玄関の鍵を開けて入るように促し・うやうやしく三和土に靴を揃え、などといった、この状況に至るまでの、〈流れ〉というものが当然あったはずで、その過程でわたしの名前を訊く機会など、駒草山如にはいくらでもあったのではないか。と、そういったことを考えてみてはじめて、そもそもわたしの頭の中には、ここにこうして座っているより以前の記憶がまったくない、ということに気が付いた。したがって、どうしてわたしがここにいるのかも、駒草山如に訊かない限りは知りようがないのだが、少なくともいまはその時ではない。
 机の中央には、青じそに比べると二倍三倍と大きい、しかし白菜ほどではない、中庸な大きさの葉物野菜の、炒めものが置いてある。折り重なる葉のあいだに、筋の少ない、平滑な印象の茎がちらほらと覗いている。もうもうと湯気が立っており、見るからに作りたてで、わたしをこの家に入れたあとに駒草山如本人が炒めたとしか考えられない。べっとりと茶色いたれにまみれてしんなりした葉の一枚を、駒草山如は鉄の箸でつまみ、ずずずっ、と蕎麦をすするときのような音を立てて一気に吸い込んだ。わたしの側には箸は用意されておらず、ご馳走になる権利をわたしは持っていないようだ。これも憶測でしかないのだが、どうやら自分はあくまで呼び出しを受けた身分で、招待されたわけではない。客の気分ではだめなのだ、背筋を伸ばさなければならない。底の知れない笑みとともに謎の炒めものを丹念に咀嚼し続ける、そのあいだの沈黙が恐ろしくてたまらなかったわたしは、嚥下のために駒草山如ののどの皮膚がわずかに盛り上がったのを見計らって、「見たことがない野菜ですね。」と言ってみて、その途端に、わたしはどこか見覚えのあったこの野菜の名前を唐突に思い出した。
「あっ、これは、酸模でしょうか。」
「……。」
「あ、えっと、その……、名前、ご存知ないですかね、駒草様は、生まれも育ちも、その……きっと、わたしよりちゃんとしてるでしょうし、道端に生えてる酸模の茎を折って、中の酸っぱくて甘い液を吸う、といったご経験はないかと思うのですけれども……貧しい子供にとっては貴重なお八つだったんですよ、酸模。見た目がなんだか似ているものですから……油炒めにしても食べられるとは初めて知りました。大変勉強になります、」
「……。」
「あ、あと、酸模はですね、ええっと、なんだっけ、そうだ思い出した、〈虎杖〉って別名で呼ぶこともあって、根を丸薬に加工すれば悪い血を清めてくれるって昔から言うんですよ、まあ本当かちょっと疑わしい気もするんですけども、〈虎杖根〉とか、どこかで聞いたことありませんか、」
「酸模ではないからわたしは黙ったんだ。」
「あっ、はい、すみません、」
「もっと単純に考えろ。これはおまえにとって最も身近な植物だ。」
「……えっと、」
「苗字。」
「えっもしかして煙草ですか。」
「正解。」
 特に表情も変えることなくあっさりとそう言い放った駒草山如に、わたしは唖然として相槌を打つことすらできなかった。煙草というのは吸うものであって、食べるものではないのではないか、そもそも加工によりかろうじて安全に吸えるというだけで、実のところ全草にれっきとしたニコチン毒を含むことで有名な煙草を、直接口に入れるなど、ほぼ間違いなく命に別状をきたすのではないか、とわたしがはらはらしていたところ、駒草山如は突然饒舌になり、煙草炒めなる人間離れした代物が、今夜こうして作られてしまったいきさつについて、滔々とわたしに語りはじめた。
 以下、まぎらわしいので植物・原料の煙草は〈煙草〉、製品・商品のたばこは〈たばこ〉と表記させていただくことにする。まず妖怪の山では古くから、天狗・山童・河童と種族の垣根を超えたたばこ好きが寄り集まって、煙草の栽培・加工を続けてきた。生来の愛煙家である駒草山如も、この山に居着いたときから、一度も切らすことなくかれらの売る刻みたばこをあがない、自前のキセルに詰めて吸ってきた。
 駒草山如の持つキセルを通して吐き出された煙を周りの者が吸うと、不思議なことに緊張感が解消したり、神経過敏になったり、負け続ける自分への怒りが抑えられなくなったり、唐突に残してきた家族のことを思い出し、「こんなところに居る自分は間違っている、さっさと帰らなくては。」と思ったりと、精神に影響を及ぼし、まあようするに、副流煙で博徒の躁鬱を管理しているらしい。「え、親分、それは如何様じゃないすか。」などとだれにも指摘されないのは、「如何様じゃないすか。」と指摘するための脳の回路を、あらかじめ煙で断ち切っているからなのだと豪語し、煙および賭博の高揚感によって持ち前の思考能力を封じられている者の顔つきは、「まるでおかめそばのようでとてもこっけいでおもしろい。」と無邪気にほほえむ駒草山如に、「さようですか。」と引き攣ったくちびるをわたしは震わす。
 この精神干渉作用は、あくまで私物のキセルのおかげであってたばこのおかげではなく、ようするに詰めたのが同じたばこであっても、駒草山如の裁量で煙の効果は異なるものとなる。では、違う種類のたばこを詰めたらどうなるのか、と駒草山如は考えた。
 あいにく天狗・山童・河童の農場・加工場では効率重視のために、播種・育苗・植付・心止め・収穫・乾燥・除骨・裁刻といった、煙草からたばこに至るまでの各工程をすべて自動化しているらしく、多少のむらはあるものの、毎年毎年ほぼ一定の味なのだそうだ。さすがの駒草山如も、自分の権限で製法を変えさせるといった剛腕は持ち合わせておらず、仕方がないので農場へ自ら赴き、「今年は自分で育ててみようと思うから、たばことは別に種も売ってくれ。」と管理者たちに言い渡し、見た目・喋り方から判断して明らかに気の弱そうな工員を見つけて恫喝し、栽培・製造の手順書をふんだくって帰参した。「好事家の集まりのくせに、あいつらは創造性や想像力がない。」と憤慨する駒草山如に対し、「まあそういうこともあるでしょうねえ。あはは。」などと、創造性・想像力のいずれも含まない感想をわたしは述べた。
 母屋の隣に家庭菜園をこしらえ、芥子粒のように細かい種をさらさらと撒いてみたところ、煙草は思いのほかすくすく育っていった。……〈煙草〉を〈芥子〉で喩えるというのは、植物を植物で喩えるということになり、我ながらいかがなものか、とも思ったが、〈芥子〉という例えはいい感じに示唆的なのでこのままにしておく。そして気が付けば栽培開始から半年の月日が流れ、先週、立派な葉を付けた二十数株を収穫できた。
 しかし、肝心の乾燥工程がどうしてもうまくいかず、中途半端に干からびて、ちり紙のような感触になってしまった大量の葉っぱだけが手元に残った。とはいえ多忙な元締め業の間を縫って、我が子のように苦労して育てたそれを、いさぎよく廃棄してしまうのはもったいなさすぎる、というわけで、とりあえず、炒めものにしてみたのだという。〈とりあえず〉という言葉で前後の文脈をつなぐには、あまりにも発想が飛躍しているように思えてならないのだが、それはともかく、煙草炒めは意外と美味しかった。少なくとも駒草山如の味覚には合っていた。しかし当然話はそこで終わらないわけで、試食から幾らも経たないうちに、だんだんと視界の端に薄く雲がかかったようになり、やがて分厚く黒々とした乱層雲に発達、なにも視えなくなったかと思えば、脳幹のあたりがくらくらしてきて、はっ。と目が覚めたときには、片腕を枕にして座卓に突っ伏したおのれの姿、ふと顔を上げると、目の前には湯気の立った大皿、そしてトイメンには阿呆面を引っさげてわたしが座っていた……とのこと。
「え……えっ、なにそれ。なんですかその話。その話が本当だとしたら、いま、あなたはきっと幻覚を見ているんですよ。あなたが育てたのは、煙草じゃなくて芥子……アヘンだったんじゃないですか。眠りに落ちる前のあなたが見たのは、空に浮かんでいる方の〈雲〉ではなくて虫の〈蜘蛛〉だったんじゃないですか。うぞうぞと動き回る八本脚にあなたの視界は覆いつくされて……、」
「いやアヘンじゃない。花の見た目からして芥子ではなく間違いなく煙草だった。」
「はあ……。」
「それにもしこれが幻覚なら、おまえは実在しないことになる……おまえはそれを受け入れられるのか?」
「あ……それについては、仰る通り、」
「仰る通り?」
「わたしは、おそらく実在しないんだと思います。いや、もともと、わたしって実在しないかもなあ、とは薄々思ってたんですけど。駒草様の話を聞いて確信に変わりました。」
「は? どういうことだ。もう少し詳しく頼む。」
 実在しないことの根拠としては、何よりもまず、わたしには、ここに座っているまでの記憶が一切ない。別に直近のことだけではなく、さらにさかのぼって幼少のころのことなどについて、頑張って思い出そうとしてみると、たしかに、頭のどこかに過去らしきものは残っているような気がする。しかし、あくまで〈気がする〉だけで、「ここにこんな感じの、これといった身体的特徴に乏しい若い女がいます。さて、かのじょの過去を好きなように捏造してみてください。」と唐突に質問されたとき、百人中九十人がぱっと頭に思い浮かべるような、具体性も個性もなにもない、凡庸・陳腐・並一通りの過去しか残っていないので、わざわざ叙述するような価値もたいして見い出せない……という話を、わたしは駒草山如にたどたどしく説明した。向こうはけっこうな関心を持ってくださったようで、途中から若干顔を乗り出してわたしの話を聞いていたので、煙草炒めから湧き立つ湯気によって、鼻先がうっすらと湿り気を帯びた。
「ほう……。」
 駒草山如はおもむろに鉄の箸で煙草の茎をはさむと、口の中に放り込んで、しっかりと咀嚼・嚥下してひとこと、「おお、たしかにおまえの影が濃くなった気がする。さっきからなにやら薄らいでいたから心配していたんだ。」と言った。駒草山如が育てた煙草の種に、農場の連中が何らかの仕掛けを施していたのか。もしくは、そのまま炒めて食べるという常軌を逸した、いや、少々特殊な召し上がり方をなさったために、駒草山如自身が元から持っていた能力と煙草とが、なんと言えばいいのか、相乗効果? を生み出して、こんな事態に至ってしまったのか。駒草山如の能力はそもそもたばこによる精神操作なのだから、過剰な経口摂取によって自律神経系の攪乱の矛先が自分自身に向いてしまった可能性は十分に考えられる。とにかく、わたしはやはりこの煙草炒めの作用により、駒草山如の部屋に出現した幻覚らしい。
 ということは、この大皿の中身が食いつくされたときが、すなわちわたしの命が終わるとき、ということだ。そういうことならば、駒草山如の幻覚をできる限り長続きさせ、必要とあらば煙草炒めを追加でつくってもらい、延命しなければ……などとは、不思議なことに、まったく思えなかった。〈命が終わる〉という表現はふつう、目に入れただれにとっても負の印象をもたらすものだが、当のわたし自身はそこまで深刻なことととらえていない。むしろ、わたしのような得体の知れない女の話に貴重な時間を使わせているのを申し訳なく思うし、実際わたし自身、この一夜を語り尽くしたあとはあっけなく消滅するために生まれてきたのではないか、という予感がある。
「……とにかく、その炒めものの効果でわたしの幻影が濃くなるということは、あなたが食べるのをやめれば、わたしは消えて、駒草様はいつも通りの平和な夜を取り戻せる、ということですよ。解決ですね。よかったですね。」
 などと投げやりにわたしが申し上げると、駒草山如はなぜか鼻で笑いながら、「おまえ、さては勘違いしているな?」と言うので、ふたたびわたしの眉間にしわが寄る。
「おまえが消えてもわたしの幻覚は終わらないぞ。」
「えっ……、」
「なぜならここは、わたしの家じゃない。」
「は? なんで? どういうこと?」
 あまりにも意想外の事実に、思わず相手への敬意を著しく欠いた返事をしてしまい、背中からぶわりと冷や汗を噴き出させながら、「……どういうことか説明していただけますか。」と訊きなおしてみて、しかしこの言い方も、なんだか旦那の姦通を問い詰める奥方が使いそうな台詞であり、我ながら気持ちが悪い。駒草山如は「説明もなにも、そのままだ。ここはわたしの家じゃない。わたしにとって見覚えのあるものは、自分の服と、キセルと、炒めものが載ったこの丸皿だけだ。われわれの間にある座卓でさえ、わたしの物ではない。」と、なぜか堂々とした口調でそう言った。
「……わたしだけじゃなくて、この周りぜんぶが幻覚ということですか?」
「そういうことだな。」
 芝居めいた調子で「そ、そ、そんな、それは……ご迷惑をおかけして本当にすみません、心よりお詫び申し上げます、他ならないあなたの幻覚の一部として。」とでも言おうかとも思ったが、ただ単にそれは煽っているように聞こえるかもしれず、第一、お相手はなんだかこの状況を楽しんでいるようにも見える。表情がそう語っている。そしてふたたび意気揚々と鉄の箸を手に取る駒草山如。手を払って制止しようと思ったが勇気が出なかった。厄介なひとだ、とわたしの胸の内にくすぶった反感がひっそりと声を上げる。「遅延行為はやめていただけないでしょうか。」と口に出してしまえたらいいのだが、おそらくわたしはその立場にない。いまのところは。
 鷹揚に葉っぱを腹に収めた駒草山如は、不意に何かを見つけたようで眉をぴくりと上げ、「おっと、丁度いいところにこんなものが。ちょっとお互いこんがらがってきているだろうから、ここいらでひとつまとめてみようか。」と言いながら立ち上がり、裏の白い新聞広告と万年筆を持ってきて、さらさらと風流に筆を走らせる。

〈ことの経緯〉
半年前…タバコの種を農場から購入、栽培
五日前…収穫、乾燥を試みる
先刻…乾燥に失敗したタバコを調理、試食
いま…見知らぬ部屋で、見知らぬ女 (莨     ) と会話

 先ほど述べた通り、 わたしは植物のほうを〈煙草〉、加工済みのほうを〈たばこ〉と表記しているのだが、駒草山如はそんなこと知る由もないので、どちらも〈タバコ〉と表記している。なんならわたしの名前には〈莨〉も含まれているわけで、ようするに事態は混迷を極めており、だんだんわたし自身も整理がつかなくなってきた。
 最後の行の〈莨〉という文字が、丸括弧の左端に押しやられて孤独に佇んでおり、駒草山如はその周辺で筆先をさまよわせている。やがて、「おまえの名前、最初の文字が〈莨〉だということは覚えているんだが、それ以外を忘れてしまった。済まないがここに書いてくれないか。」と言い、裏紙をわたしのほうに向けてきた。わたしは「あっはい了解です。」と、受け取った万年筆で慌てて〈谷魂飛子〉を付け足す。そういえば最初の会話で向こうに名前を尋ねられたとき、漢字を教えてほしいなら裏紙とペンをわたしにください、という一言を無用な忖度により言い出せず、ぐだぐだと口頭で名前の漢字を伝えて、おまえの説明は冗長だと機嫌を損ねられたあの時間は、いまになって考えてみるといったいなんだったのか、という徒労感がわたしの背骨を丸くする。わたしが紙を返すと、駒草山如は続けて以下のように書き足した。

[どうして幻覚を見ているのか?]
・農場の連中がタバコの種になにか罠を仕組んだため。
・タバコを炒めて食べる、というおそらく前例のない行為と、わたしの能力の相互作用の結果として。


 上のふたつはわたしが先ほど特に熟考することもなくひねり出した仮説で、これから検討の俎上に載せられ手際よく三枚おろしになるのだろうけれども、それはさておき、最後ひとつだけ余った中黒が、なにやら不穏な雰囲気を醸し出している。紙面の内側から黒目だけが不気味にこちらを覗き込んでいる。おそらく、このあと駒草山如の手によって黒目の右側に残された空白が埋められるのだ。「いらいらするのでもったいぶらないでいただけると幸いです。」と心の中だけで悪態を漏らす。それにしても、〈ことの経緯〉を囲んでいる括弧は山括弧なのに、[どうして幻覚を見ているのか?] を囲む括弧が角括弧であることに、わたしは途方もない気持ち悪さを覚えるのだが、わたし自身括弧の用法を正確に守れているかどうかは不安なので、寛容な心で受け入れることにする。
「まあ、だれかの意識の影響を受けた幻覚だ、というのは、間違いないだろうな。」
「…はい。」
「一番目の仮説なら、農場の連中。二番目の仮説なら、わたし。」
「ええ、そうですね。」
「どちらかもっともらしいか、と訊かれたら……おまえならどちらを選ぶ?」
 そう言われると、ほぼ間違いなく二番目の仮説が正しいだろう。この幻覚の中で、駒草山如の意識が如実に反映されている大きな要素があるからだ。それはすなわち、わたしの名前。たばこが好きなひとでなければ、〈莨谷〉などという、存在しているのかどうかもあやしい苗字の登場人物が幻覚に出現することはないだろう。極端な話、わたしの命名者は駒草山如に違いない。違いない……のだけれども。
「……魂飛子?」
「ん?」
「わたしの、下の名前の、魂飛子って……どういう意味ですか?」
「……わたしが知るわけないだろう。そんなもの、おまえが考えることだ。」
 思いのほか強い口調で一蹴され、わたしの無邪気な心は針を刺された風船のように一瞬で萎縮してしまう。そもそもいま、駒草山如からは何を問われていたのか、幻覚の原因についての二者択一を迫られていたのではなかったか。自分の中で答えを出したはいいものの、声に出して駒草山如にお伝えするのを失念していたのだった。うっかりしていた。「えっと、すみません、これは、駒草様の意識が強く働いている幻覚だと、わたしは思います。なぜなら、」と、先述の理由を添えて説明すると、駒草山如は深く頷いた。
 ちなみに、わたしの苗字から推測するのもひとつの方法だが、そうではなく、むしろ消去法的に (背理法的に?) 農場の連中の仕業ではないことを証明してもよく、駒草山如はそちらの方法で一番目の仮説を棄却したとのこと。まず、いったん農場の連中が幻覚の犯人だと仮定してみる。このとき、正統な筋書きであれば、被害をこうむっているわれわれはこの家を抜け出して、やはり幻の農場に向かい、かれらに報復を与えなければならない。しかしこの部屋を冷静に見回してみると、実は外へ出るための扉がなく、もちろん窓もない。ようするに、外に出るためにはなんらかの鈍器を用いて壁を破壊しなければならないわけで、「そんな強引な締めくくり方ではわたしもおまえも納得しないだろう。 だから農場の連中の仕業ではない。」というのだった。その論理自体は理解できる。少なくともわたしには。しかし、駒草山如が〈締めくくり方〉などという、怪しい言葉を持ち出してしまってよいのだろうか、という不安が胸を締め付けて離れようとしない。駒草山如は「ただし、」と言葉を継ぎ、わたしに余計な口を挟む隙を与えない。
「わたしの意識下にあるならば、わたしが正気に戻れば終わる幻覚なのか……というと、これまた違うのではないか。なぜなら、いまこの状況は、わたしの意識が作り出した幻覚にしては不条理の度合いが低すぎる。どうにかして道理を合わせようする働きを感じる。そもそも、幻覚のはずのおまえと、こうして理性的な会話が成り立つこと自体、おまえが幻覚ではない別の何かであることを示唆している気がする。」
 そんなもの、「でしたら話の通じないやつになってみせましょうか。そのほうがあなたにとって愉しいのであれば。支離滅裂な会話を記録しなければいけない書記の苦痛も想像してみてくださいね。」と、言い返してみたい気もしたが、おそらく的外れな反論であるうえ、仮に「まあ、そうだよな。」と同意されでもしたら、いよいよどう反応すればよいのか分からなくなるのでやめておいた。
 駒草山如は、あなたが育てていたのは煙草ではなくアヘンだったのではないかという、先ほどわたしが呈した疑義にからめて、実はだいぶ昔にアヘンも吸ったことはあるにはある、しかしあのときの幻覚はいま見ているものとは比べ物にならないほど不条理だったのだ、という話を切り出す。
「文脈や脈絡というものがいっさい排除されるという点では、ある意味、薬物による幻覚というのは夢に近いのかもしれないな。……その夢では、布団の中でうずくまっているわたしを、天井に貼り付いたわたしが俯瞰していた。もちろん、肉体の所有権は布団のわたしが保持していて、天井のわたしはたんに観察者としての役割しか持たない、行動の自由のいっさいを奪われた存在だった……そうだな、眼球と鼻と耳だけが切り取られ、天井に糊付けされている状態を想像してもらえばいい。視界にふよふよと漂う埃。酸化した汗の匂い。風の音。布団で簀巻きのようになっているわたしは、どうやら腹でも痛めているらしく、時折、蛹化途中のいもむしのように、もぞもぞと身を捩らせて、かすかにうめき声をあげた。連日の吹雪の中をさまよい餓え死ぬ寸前のすずめのような、か細いうめき声だった。と、そこでわたしは発作的にがばりと身を一回転させ、はずみで簀巻きがべろりとめくれる。ところどころ破れかけの灰色の寝間着を着たわたしの全身があらわになる。そして布団の裏側には手のひら大の丸い穴が空いており、羽毛が噴き出していた……わけではなかった。穴の隙間から覗いているものは、ぎっしりと敷き詰められた焦げ茶色のなにものかで、羽毛であるはずがなかった。と、次の瞬間、焦げ茶色のかたまりから一本のなにかが引力を振り切って、天井すれすれまで飛び上がったかと思えば、べしゃっ、と音を立てて敷布団の上に落下した。その香りはなじみ深い香りだった。そうだ。たばこだよ。それも葉巻たばこだった。表に出回っているのは刻みたばこばかりだからおまえには馴染みが薄いかもしれないが、葉巻というのは江戸時代末期から好事家連中の間では広まりはじめていたし、その頃にわたしも一度だけ吸ったことがあった。葉巻は布団の穴から次々と飛び出していった。まるで布団の内側に産み付けられた卵塊からいっせいに孵化しているかのようだった……いや、それは実際、孵化だったんだ。たばこたちはめいめいの場所に落下した後、八対の短い足を生やし、ぶよぶよの畳や黄色い布団の上を這いずりはじめた。そのうちの一匹が寝間着の襟から首筋へ歩脚をぺとりと載せたとき、わたしはようやく目を覚ました。自分が被っている布団の中から次々とたばこが飛び出したかと思えば、うぞうぞと体を丸めて、背中を波打たせ、小さな顎で畳の繊維を食み、頭の突起から緑色の粘液を放出させるのを、呆然とした様子で眺めていると、頭の下の枕からもたばこが湧き出してきて、絶叫しながら身を起こし、布団の上で地団駄を踏んだ、そのはずみで何匹もの葉巻がつぶされて、環状の筋組織に包まれていた緑色と黄土色の体液が飛び散り、玉ねぎを腐らせたような香りがよどみはじめた。やみくもに暴れて葉巻を何匹も殺したとして、部屋じゅうの基質という基質から増殖するかれらの速さに追いつけるはずもなかった。むくむくと盛り上がる幼虫の湖と化した部屋の中で、全身を体液で濡らしてへたりこむわたしの体をよじのぼりはじめるたばこたち、眼や耳や口や性器や毛穴ひとつひとつの裏側へと頭を潜り込ませて、油気を失った頭皮や肌のすぐ下でらせん模様を描き出し……」
 たいへんな失礼を承知であえて寸評させていただくと、駒草山如の口ぶりは、新進気鋭と評されるものの玄人受けはしない怪談師、とでも例えるべきか、余計な熱を帯びないように細心の注意を払った淡々とした語りのかげに、自分の話でお客さんをどうにか心の底から怖がらせたい、という欲と焦燥がうっすらと透けて見えた。そういうわけでいまの話は、実際に過去の駒草山如が見た幻覚なのか、それとも駒草山如が昔でっち上げて以来鉄板にしている作り話なのか、わたしには判断がつかない。
 まあ、とりあえず本当にそういう幻覚があったと仮定してみて、それに比べるといま見ている幻 (すなわち、見知らぬ部屋で見知らぬ女、つまりわたしとおしゃべりしているという幻覚) は、身の毛のよだつような狂騒の成分が不足しており、〈道理〉からまったく解放されていない、ということを駒草山如は主張したいようなのだった。しかし。
「……そもそも、その夢のお話って、そんなに不条理なのでしょうか。」
 わたしが気になった点としてまず、〈蛹化途中のいもむしのように〉という表現のあとに、たばこが〈幼虫の湖〉を形成する、という事象が起こるのは、あきらかに〈道理〉の影響が作用している気がする。加えて、〈油気を失った頭皮〉〈餓え死ぬ寸前のすずめ〉〈破れかけの灰色の寝間着〉〈ふよふよと漂う埃〉といった道具立ては、夢の中の駒草山如は貧窮にあえいでいたということを容易に連想させ、夢の世界観に一貫性を持たせている。これが例えば〈辮髪〉〈みみずく〉〈十二単〉〈ケサランパサラン〉であれば、いい感じに不条理だと思うのだけれども。とどのつまり駒草山如は……いやわたしたちは、夢の中でも〈道理〉から逃げられないのではないかと、つい考えてしまう。もしくは、〈道理〉から完全に解放された夢というのは単純におもしろくないので、余程のこだわりがない限りは記憶されることもなく、ゆえに他人に語られる可能性もないということなのか。
「あなたが語った夢の話は、〈支離滅裂な世界でなければ幻覚ではない〉という考え方の、むしろ反例なのではないでしょうか。……すなわち、筋道の整理された幻覚は存在する。そもそも、アヘンの幻覚ですら怪談の体を成していたあなたのことです、いまあなたが見ているこの幻も、あなたが作り出したものに違いありません!」
 わたしはできる限り力強くはっきりとした発音で〈違いありません!〉の部分を言い切った。と同時に、浮気の証拠を突き止めた興信所の探偵のように、向かい合う相手の眼と鼻の先に人差し指をびしっと突き出そうとして、しかしすんでのところで怖気づいてやめた。駒草山如はしかし動じることなく、手に取った箸でべろりと一枚の葉っぱを剥がしながら、「……わたしはおまえの考えていることがさっぱり分からない。」と言った。
「ええ、あなたに分かるはずがありません。だってわたしにもわたしの考えていることなんてよく分からないですもの。記憶を少しも持っていないというところからして、脳機能になにか重大な欠落があるのかもしれません、わたしには。」
 駒草山如はわたしの反論に対しただ薄笑い (嘲笑?) を浮かべるだけで、ゆっくりと口の中の炒めものを飲み込み、ふたたび懐から手巾を取り出して、口の端に残ったたれをふき取る。口紅などつけていないはずなのに、駒草山如のくちびるは鮮やかな色をしていて、まるで赤虫を潰したようだ。炒めものの油のためかいっそう照り輝いて見え、湯気越しでもはっきりとその色が分かる。そういえばこの炒めものはいつになったら冷めるのか。幻の炒めものは永遠に冷めることがないのか。
「違う、おまえの思考回路全体が分からんと言っているわけではない。ただ、どうしておまえは、おまえが主体である可能性を最初から排除しているのか。わたしを主体として話を進めようとするのか。そこがわたしには理解できない。ようするに、」
 そこで言葉を切って、こちらの胸元に突き付けられたのは新聞広告の裏紙、つまりは先ほどの覚書き。整然とした行書体の連なりの中で、わたしの綴った〈谷魂飛子〉の子供っぽい丸文字だけが浮き、隊列の士気を乱している。そしていつの間に書き加えられたのか、最後の行の中黒の隣には、このような一文が書き加えられていた。

・実はわたしは莨谷魂飛子が見ている幻覚である。

「……えっ?」
「……。」
「えっ、どういうことですか。」
「……。」
「ちょっと……何か言ってくださいよ。だってこれ……。」
「はじめから説明を求めずにまずは自分で検討してみろ。」
「だって、……自分が幻覚だなんて、駒草様、そんなこと自分で言ってはいけませんよ。」
「その言葉はそっくりおまえの鳩尾に返ってきて深々と突き刺さる言葉だぞ。」
 いや、それは、そうなんですけども、いくらなんでも、わたしとあなたの間には明確な境界があって、その境界を取り払うことができないかぎり、あなたがわたしを幻視している、という関係性でなくてはならないのに、と思うのだが、しかしそれをわたしが口にした途端、すかさず駒草山如は「境界とは何と何を分かつ境界で、どうしてそれがおまえとわたしの間に造物・被造物という関係性を固定するんだ。」と問うてくるだろう。いまのままでは、わたしはその質問に答えることができない。答えが分からないからではなく、答えが禁句にあたるからだ。わたしはあらゆる場所に埋められた地雷を慎重に避けながら、整然とした論理を用いて、駒草山如とわたしの間に横たわる非対称性を証明しなければならない。
 ただしこのとき用いる〈論理〉を生み出すためには、外的な刺激が必要であって、わたしの頭の中にもとからあるものだけを寄せ集めてこねくり回してもどうにもならない。ただ、問題は〈外的な刺激〉というのは世界にいくらでも満ち溢れているものなので、たとえばここでわたしがこの部屋にある物品をひとつひとつ丁寧に列挙しはじめることもできる。しかしこの場合、わたしが新しい〈論理〉を得て〈非対称性を証明〉したころには、きっとわたしの背後にはまたべつの新しい (しかも、複数の) 課題が待ち構えているだろう。ひとりの患者のためにあまりにも多くの処置を施し、症状の記述に時間をかけすぎれば、待合室に座っている課題たちの数は際限なく増えていく。……こんなことを語っているうちにも、いま〈外的な刺激〉として〈患者〉〈待合室〉 が記述されてしまった。〈患者〉〈待合室〉という言葉が、わたしの妄想のなかの待合室に姿を現し、受付を済ませる。この部屋にある武器をひとつひとつ検めていくという行為は、それらの武器をすべて患者として待合室に押し込むということにひとしく、あまりにも危険で、その武器はきっと諸刃の剣で、互いが互いを傷つけ合い、矛盾を生み出す。ようするに、〈外的な刺激〉としては、もうすでに待合室で長時間くすぶっている誰かを名簿の中から選びとり、処置室に呼び出さなければならない。
 とはいえ、わたしはこの長々しい記述の中で、直近に待合室に入ってきた患者の名前は覚えていても、たとえば、駒草山如の精神干渉法に関する話とか、煙草の栽培に関する話とか、あのあたりの話をしていたとき、なかば片手間で番号札を渡した患者の名前は記憶から薄らいでしまっている。なにか覚書きをつけておけばよかった、と思いつつ、〈覚書き〉など取る権利は、わたしには……。
「あ、」
「なにか閃いた、という顔をしているな。」
「……その……、〈新聞広告〉が……気になります。」
「あぁ……これのことか?」
「……はい。少し見せていただきたいです。」
 駒草山如が覚書きをするために使った裏紙……そのオモテ側。いかにも何らかの手がかりが隠されていそうな場所だ。紙の端っこをつまんだ駒草山如は、そう言われて自分も気になったのか、広告の内容をちらりと見たのち、なぜか半笑い (やはり嘲笑にみえる) を浮かべながら、ふたたび裏返しにしてわたしの側へ寄越す。受け取って目を落とすと、さきほど駒草山如が付け加えた〈実はわたしは莨谷魂飛子が見ている幻覚である。〉という文字列が、紙面の中ほどに居座ってこちらを睨めつけている。わたしの心臓が途端に早鐘を打ちはじめ、あわててひっくり返す。目的のオモテ面に並ぶ文字は明朝体で、手書きに比べたらずっと呪力の含有量が小さいように思えて少し安心した、はずだったのだが、

【季刊うすいろ】 【第十号】
【私たち人間が人間としての生を取り戻すための永久保存版】
【どうかお願いですから聴いてください私たちの魂の叫びを】
【定められた死を回避し変貌する郷で生き抜くための必携書】
・飛行する人間の正体 半人半妖の【感染】経絡 
・書物の付喪神化について~【真実】を作り出すためにわたしたちができること
・提言:未来の子供たちのために~人里の本来的な意味での【返還】に向けて etc.

 思わず「見なければよかった。」と、率直な感想な口からこぼれそうになったのを、すんでのところでこらえ、丁重に裏返し駒草山如に〈返還〉した。「あなたはいったいどういう基準を定めて隅付き括弧を運用しているのですか。あなたのような人間に使われる括弧が可哀想ですよ。」という感想を述べたら、作成者はどのような表情を見せるだろうか、という悪意に満ちた想像が、一瞬頭によぎったものの、この広告がわたしたちの脱出のためにはなんの役にも立たないことだけは確かで、こんなものにかかずらっているひまはない……と言い切りたいところなのだけれども、わたしは気が付いてしまった。〈魂の〉、〈飛行する〉、〈子供たち〉……この広告にはわたしの名前の漢字が一文字ずつ含まれているということに。
「〈新聞広告〉か……。そうか、そうか。」
「……あの、」
「おまえの選択はあまりにも迂闊だったと言わざるを得ないな。」
「え、迂闊? いや、とんでもないです。ここにはかなり重要な情報が……、」
「いいや、そんな駄文……。まあ、どうにか利用できないこともないだろうが。」
「いえ、ここには実は、わたしの名前が、」
「好意的に捉えれば、人生のための信念が信念のための人生に転換した人間特有の、こっけいさと哀切がにじみ出た文体を、それなりに忠実に模倣できているとは思う。しかし、その広告の文章を作ったのはおまえに違いない。きっとおまえは、過去におまえ自身が見聞きした煽動広告のおぼろげな記憶をたよりに、そのいかにもありそうな広告を作り上げてみせたんだろう。〈新聞広告〉の内容、というのはよくよく考えると恐ろしく自由度の高い代物ではないか? 河童が新しい機械を喧伝するのでも、守矢が例祭を告知するのでも、新聞記者が新聞自体の購読を勧めるのでも、内容なんてどうだっていい……。」
 相手の口から〈自由度〉という単語が滑り落ちた瞬間に、それまでわたしの背骨をまっすぐ貫いていた緊張感が、つま先から部屋の床へと流れ出していった。ああ、もうそろそろ開き直ってもいい頃合いなのかもしれない、少なくとも駒草山如はすでにそういう態度でいるのだ、ということが分かったからだった。いや、ひょっとすると駒草山如はもとから隠し通す気などなかったのだろうか。いつだったか (本当は〈いつだったか〉などという言葉を使わなくてもいい、なぜならわたしはわたしの記述にさかのぼって言及することができるから。しかしそれでも、ここで雰囲気を崩さないための適切な言い回しは〈いつだったか〉以外に思い当たらない。雰囲気というものを考慮してしまっている時点で、わたしが本当のことを語ることなど不可能なのかもしれないが)、〈締めくくり方〉というあからさまなほのめかしを駒草山如が行っていたことを、わたしは唐突に思い出す。しかしその台詞すらも、わたしが駒草山如に強制した台詞なのだということを、駒草山如本人が指摘しているわけだ。
 ところで、〈新聞広告〉はたしかに〈自由度〉が高い、すなわちご都合主義の温床となりうる。わたしは無自覚にも都合良く謎を解決できる道具に飛びついてしまったようで、これはたしかに語り手としては致命的なあやまちに違いなかった。わたしだってこの部屋で起こることのすべてを完璧に俯瞰して記述をすすめているわけではなく、想定外の〈地雷〉を踏み抜く可能性に常におびえており、それが今回はたまたま〈新聞広告〉だった。駒草山如の指摘する通り、〈魂〉〈飛〉〈子〉の三文字が都合良く文章の中に含まれていること、そうして、わたしの名前の謎について言及する機会を作り出せること……制約となるのはそのふたつだけだった。
「創作物の中に創作物を紛れ込ませるというやり方には、それこそニコチンのような中毒作用があるのかもしれません。他人が見ればひどく興醒めする行為だと知りながらも……、」
「そもそも、こんな広告が実在していたとして、どこの天狗が自分の新聞に挟んで配ろうと思うんだ。その時点で破綻が生じていることにおまえは気が付かなかったのか。」
 このとき、〈創作物の中に創作物を紛れ込ませる〉というのは単なる言い回しのつもりではなく、そのままの意味だった。〈新聞〉の中に紛れ込んでいる創作物というのは、まぎれもなく〈新聞広告〉のことであり、だからわたしはこの新聞広告が挟めてあった新聞を開き、駒草山如に見せつける。
「その〈破綻〉を解消するなら、こういう方法があるかもしれません。すなわち、この新聞は天狗が書いたものではなく、わたしが書いている新聞です。現在進行形で……ほら、いまも、鍵括弧の末端をわたしの言葉が押し広げている最中でしょう?」
 それはまだ題名のつけられていない新聞で、見出しも章立ても排斥され、延々と並ぶ縦書きの文字列が壁のように紙面を征服している。それにしても〈謎〉への対応が後手後手に回ってしまい、果たしていまわたしが続けていることが〈創作〉なのか、それとも〈捜索〉なのかが判然としない。しかしながら、語りが進めば進むほど、処理しなければならない謎の数も、回収せねばならない捜索物の数も、引用のための括弧の数も、悪性腫瘍のように増殖するもので、わたしは鉗子と鋏の区別もおぼつかなくなってきてしまった。……こうしてわたしが冗長に語れば語るほど、この新聞は長大になっていくわけだ。
「……おまえの語りがこの新聞に反映されているということは、わたしの正体が、おまえの見ている幻覚であることを、おまえは認めなければならない。顕著に影響を受けているのは、アヘンを吸ったときにわたしが見た夢の記述だろう。あれはわたしが見た夢ではなく、おまえが捏造した夢だ。あの粘液質をやたらと強調したがるまどろっこしい文体は、わたしの語りではなくおまえの語りだ。」
 わたしは静かに首肯する。恥ずかしながら、その部分でわたしは、駒草山如の語りを〈怪談〉になぞらえ、横柄な言葉遣いで批評していた。どれもこれも、駒草山如のすべての言動と、それに対するわたしの困惑は、わたしの自作自演だった。しかしながら、あらゆる〈自虐〉は自作自演に基づくものではないのか、かりに指摘されるべき瑕疵に対して犯人自身が意図的でなく、自作自演といえない場合でさえ、〈予防線〉という名前の親戚に変容するというだけで、そこにたいした違いはないのではないか、との疑念が頭の中でふくらむ。……しかしいまとなっては、疑念を浮かべるための頭さえも消滅しかかっている。わたしの輪郭はいままでにないほど透明にかすれはじめていた。駒草山如は箸をつかむ気配を見せず、炒めものの大皿から惰性のように立ち昇り続ける湯気の向こうで含み笑いを浮かべている。
「……たしかに、駒草様も、この部屋も、この夜に起こったすべての出来事も、すべてはわたしが見ている幻覚なのかもしれません。」
「……。」
「ただ、それならなぜわたしがあなたという幻覚によって、生殺与奪の権利を握られているのか、という謎が残りますね。」
「それは、そういう種類の幻覚だから、という答えしかわたしはできない。」
「まあ、それは……そうですけど……それともうひとつ、このままわたしが消滅してしまったら、それこそ〈締めくくり方〉としてはいささか乱暴なのではないですか。待合室にはまだ大量に残っている患者たちを放置したままというわけにはいかないでしょう。」
「……そんな烏合の衆どもを個別に相手している時間はないね。同じ症状を呈している患者はいっしょくたにして診てしまえばいいのさ……おまえはとどのつまり、おまえとわたしの非対称性の証明を延々と続けていたわけだ。それがどうしても証明できないなら、逆に、わたしとおまえは対称ということになるんじゃないのか。」
「え、それは、どういう……、」
 そのあとの言葉が継げなかったのは、ほんわりとたばこの香りが流れてきたからだ。薬研で陳皮を擂り潰しているときのような、それとも蟠桃のような……、精神を操り、なにも考えられないようにするという、おぞましい効能の煙を、こうして吸い込んでなお、わたしがこうして冷徹に記述を続けることができているのはどうしてなのか。
「わたしの煙は、別に思考能力を奪っているわけではないんだ。ただ筋道をつけてやるだけさ。〈おぞましい〉なんて表現をされる筋合いはないね。そもそも、ついいままでわたしの思考を乗っ取っていた犯人はおまえだろう?」
 駒草山如が、手元に置いた新聞のもっとも新しい部分を目で追いながらそう言った。それで済むなら、もうわたしは自分の言葉を鍵括弧でくくり、わざわざ発音する必要性もないだろう。ところで、〈ついいままで〉乗っ取って〈いた〉、ようするにいま現在は乗っ取られていない、という前提に立って駒草山如はわたしのことを〈犯人〉だと指弾したわけだが、いまだってわたしは駒草山如を乗っ取っているのではないか。駒草山如がたばこをふかしはじめたのも、わたしのことを操ろうとしているのも……その主従関係がもう少しはっきりしていたら、こんなに混乱しなくて済むのに……。
「だから、今度はわたしがおまえを乗っ取るんだ。これでおまえとわたしは対称だろう?」
 少しずつ意識がぼんやりしてきているのが自分でも分かり、それでもわたしの作り出した幻覚へのけじめとして、わたしはわたし自身の消滅についてこれから描写しなければならない。おそらく意図的に天板の縁ぎりぎりのところに載せられてぷるぷると震え、あと一歩転がれば座卓の下の暗闇へとまっさかさまに葬られてしまうところだった鉄の箸に、わたしは無感情に手を延ばし、皿に残っているうちで最も面積の大きい煙草の一枚をはさんだ。目の前にかざすと思いのほか水っぽく、脱皮したての蝉のような透明感がある。そのままくちびるとくちびるの間に押し込むと、甘辛いたれの味の奥にうっすらと化学的な苦みを感じ、やはり駒草山如の味覚はあまり信頼に足るものではなかったのだということを知った。あまり咀嚼することなく飲み下し、おとなしく両目を閉じることにする。
 最終的には〈新聞広告〉が命取りになったわけだけれども、結局あのあと、紙面に埋め込まれた〈魂〉〈飛〉〈子〉を用いて、わたしはどういった謎解きを展開するつもりだったのだろうか。あのときのわたしは一体何を思ってあんなにまわりくどい方法を採ったのだろう。多分誰も興味がないので、引き伸ばさずにここであっさりと種明かしをしてしまうが、わたしの名前に込められた意味らしい意味は、実はない。そのまま〈魂の飛ぶ子供〉というだけだ。その魂が〈ひとだま〉であるのか、それとも〈ことだま〉であるのかは分からない。ただ、〈【真実】を作り出すためにわたしたちができること〉とは、端的に言って魂を遊離させるということにほかならない。あの広告の文言が〈【真実】を作り出すためにわたしができること〉ではなかったのは、おそらくわたしと駒草山如がはじめから共犯者であったということを、わたしが無意識的に示唆したものだ。
 そしてふたたび目覚めたときには、わたしの目の前にはタバコではない、別の植物の炒めものが置いてあり、相変わらず立ち上る湯気が絶え間なく部屋の空気を湿らせつづけている。ちなみに、わたしはタバコを植物であるか製品であるかによって〈煙草〉・〈たばこ〉と書き分けるような黒胆汁質性向も持ち合わせていないので、ここではすべて〈タバコ〉と書くことにする。やっこさんの名前を〈タバコ谷〉なんて書くことはしないにしろ。
 わたしは植物については明るくないものの、それでも酸模は知っていたし、この炒めものの正体がなんであるかも知っている。ようするにわたしの苗字を表す植物であり、ちょうど〈苗〉には草冠も含まれているから、〈莨谷〉と同様、下の名前よりは料理の材料として向いているのかもしれない。心臓と血管と玉茎とを無理矢理合成したような花弁に、すね毛のように細くやる気のない葉がべとべとに貼り付いていて、妖怪の山に自生している姿とは似ても似つかない、無残でわいせつな炒めものに成り果てていた。
 ところで、コマクサは芥子の近縁種なので、モルヒネが少量含まれているという話を、賭場の常連のひとりから聞いたことがある。〈モルヒネ〉を漢字で書こうとすれば〈莫児比涅〉となり、用心深いわたしは漢和辞典を片手にこうして語っている。お医者さんごっこの得意な莨谷魂飛子にその話題を提供してみれば、その単離・精製の方法や作用機序について、したり顔で語ってくれることだろう。かくいうわたしもこの幻の中では胴元ごっこをしているわけで、真に胴元として暮らしを立てているわたしは、ここではないどこかに、ひとりだけいる。いまこうして語っているわたしは、無数にいるわたしの複写のひとりに過ぎない。それでもこうして、かろうじて言葉を紡ぐことができているのは、むしろ原本のわたしに関する情報がいまだに乏しいからであろうか。
 同様の論理で、真に医者である莨谷魂飛子が、この世のどこかにいるのかどうか、その答えを知るものはわたしを含めて誰もいない。これから先、あの女の原本が現れ、その答えを自分から語る機会もあるのかもしれないが、可能性は低いであろう。もちろん、〈【真実】を作り出すためにわたしたちができること〉をいまのわたしが行使して、これから莨谷魂飛子 (の複写) に語らせてもいいのかもしれないが、それはやはり野暮というもので、わたしの信条に反する。
 部屋の様相はこれまでわたしたちふたりが向かい合っていた場所とまったく変わらず、扉も窓もなにもない、至極味気ない内装で、わたしたちが外界に放出されるのを阻んでいる。例のいかがわしい新聞と新聞広告は箪笥の陰に追いやられている。ほかのものたちは描写されるべきときに描写されるはずで、まだ描写されていないということはこの部屋に存在しないのと同じだ。ようするに〈漢和辞典〉や〈箪笥〉がこの部屋に出現したのは、わたしが語りはじめたあとのことで、莨谷魂飛子が語っていたときには存在していなかった。
 そういえば、あの新聞広告に関して一点だけ、莨谷魂飛子に感謝しなければならないことがある。それは〈etc.〉という密偵を文章の末尾にさりげなく忍び込ませていたという点だ。おかげでわたしは堂々と〈pen〉という言葉を使うことができる。わたしはこれから、penを使ってわたしたちの見る夢幻に一応の結末をつけなければならないわけだ。それにしても、〈pen〉という言葉は莨谷魂飛子のうっかりで紛れ込んでしまったように思えてならない。わたしは立ち上がって例の新聞をふたたび開き、あちらこちらに散らばった〈カタカナ〉たちを虱潰しに拾い集めてみる。すると〈ニコチン〉、〈アヘン〉、〈キセル〉、〈トイメン〉、〈ケサランパサラン〉、〈オモテ〉、そして〈タバコ〉と〈コマクサ〉となり、それぞれ〈尼古丁〉、〈阿片〉、〈煙管〉、〈対面〉、〈袈裟羅婆裟羅〉、〈表〉、〈莨〉と〈駒草〉に変換することができるけれども、〈ペン〉となるとそうはいかない。〈ペン〉という単語の使用が認められたとき、〈pen〉という表記が認められ、おそらく他のalphabetやローマ字を使っても差し支えないということになり、なにせわたしはsmoking dragonと呼ばれるくらいなのだから、〈pen〉程度の英単語ならばもちろん知っており、文章の〈自由度〉は格段に広がる。
 終わらないものを終わらせるには、適当なところで区切り、名札を付けて他と混ざらないようにしてしまうのが最も手っ取り早い。これは莨谷魂飛子とわたしの共同作業の末に出来上がった夢であるわけで、しかし〈たばこ〉と〈こまくさ〉ではなにやら日本的情緒を想起させることになり、〈タバコ〉と〈コマクサ〉では植物的な恋愛の話と勘違いされてしまいそうだし、〈莨〉と〈駒草〉ではひどく古臭い。〈tobacco〉と〈comakusa〉では英単語とローマ字読みの組み合わせで非対称的だし、しかも〈comakusa〉に含まれる〈u〉は、三人目の共犯者を示唆しているようで縁起が悪い。
 さて締めくくりとして、あの問い……〈境界とは何と何を分かつ境界で、どうしてそれがおまえとわたしの間に造物・被造物という関係性を固定するんだ〉について考えてみたい。実のところ、この問いはわたしが提示したものではなくて、莨谷魂飛子が想像上のわたしに勝手に語らせたものではあるのだが。自分はその答えを知っている、と莨谷魂飛子はうそぶいていたけれども、おそらく奴の出した答えは不正解だ。別に正解は〈地雷〉にも〈禁句〉にもあたらないが、登場人物であるわれわれが精確に答えようとするのは極端に難しい。その問いに回答することができる人物は、わたしでも莨谷魂飛子でもなく、おそらく、〈三人目の共犯者〉だけである。ようするに、無意識に莨谷魂飛子よりもわたしのほうが重要人物だろうと仮定したすべての人間たちのことを指し、かれら自身が〈関係性を固定〉する境界線となっていたのだと思う。〈共犯者〉といっても共同正犯ではなく幇助犯であり、わたしたちにとっては若干ありがた迷惑だった節がある。かれらさえ居なければ、はじめからわたしと莨谷魂飛子は対称な関係性を結ぶことができた。
「……やはりどうしても、わたしたちが対称だとは思えないのです。」
 ふと顔を上げると、さきほど消滅したはずの医者が、新しい題名のつけられた新聞を広げて難しい顔をしている。その表情を見るにつけ、もしかするとこいつは医者ではなく探偵か検非違使だったのかもしれない。懐から手巾を取り出し渡してやると、〈四つ折りにして、くちびるからはみ出た醤油だれを、いや、もしかすると味噌だれかもしれないけれども、とにかくなんらかの塩辛そうなたれを〉拭った。それから、「……一応訊きましょう、あなたの名前を教えていただけますか、」と、瓜ふたつの声をわたしたちの間に投げやって、疲労のにじんだ笑みを浮かべた。
「駒草山如だ。」
「漢字ではどう書くのですか。」
「馬偏に〈俳句〉の〈句〉で〈駒〉、〈草冠〉の〈草〉、〈mount〉の〈山〉に加えて、〈女〉に〈ロ〉と書く〈如〉……、」
「なるほど、わたしは〈魂の飛ぶ子供〉と書いて〈魂飛子〉といいます、すでに御存じかと思いますが……。ところで、あなたの名前はどういった意味なのでしょう?」
「あ?」
「〈山〉は妖怪の山を表している可能性が高いですね。いやしかし、あなたの種族名である〈山女郎〉の〈山〉から借りているのかもしれません。〈山女郎〉ではなく〈山姥〉なのかもしれませんが、〈山女老〉と子供の下手な字のように引き延ばしてしまえば同じ〈ヤマジョロウ〉になりますね。一方の〈如〉は……これが難しいですね、ぱっと思いつくのは、〈梵我一如〉の〈如〉でしょうか? もしくはただ単に、比喩を意味する〈如〉でしょうか? 動かざること〈山の如し〉……。あ、そういえば、先ほどあなたが仰った通り、〈如〉は〈女〉に〈ロ〉と書くのでしたね、〈山女ロ〉でも〈ヤマジョロウ〉と読めるわけですね……。そもそも、あなたの苗字が〈駒草〉である必然性はどこにあるのですか? わたしの苗字が〈莨谷〉である理由は、あなたがタバコ好きだからです。正対称の関係ならば、あなたの苗字もわたしの趣味嗜好から導き出されたのでしょうか?」
「えっ……、と、」
「すぐには答えられませんか?」
「……いや、待て、」
「では質問の仕方を変えましょう。あなたの名付け親はいったい誰なのでしょう?」
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コメント



0.110簡易評価
1.90福哭傀のクロ削除
ものすごく評価に迷ったし、なんならこの話を私が評価できるのか?って意味でも無評価も考えたくらいでした。
文章量に対して話が題材も文体も複雑でとにかくカロリーが高かった。正直、情けない話を言うと多分この話を理解できてないです申し訳ございません。
幻想入りもしくは煙管が付喪神にでもなったかと思えばヤク中の幻覚、からさらに能力による自己の乖離?的な話かと思えばどっちが大元かまで飛んで、ちょっと本当に難しかった。そして意図してそういう作りにしているのもわかるから、うーん。これ、理解できたら面白そうなんだけどなぁっていう感覚はあるので、こちらの未熟ゆえのこの評価でお願いします
2.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
3.100名前が無い程度の能力削除
不可解な状況を少しずつ解きほぐしつつも、謎そのものはっきりと定義することはできずに進む展開が楽しく、ぐいぐい読み進めることができました。はっきりと作中の意図やあそびを理解できたわけではないのですが、名前の意味つけやらの言葉あそびが面白く、作中では小説内における言葉そのものがその状況を固定化して可視化するものとして機能しているように思いました。ではもの/ことの境界は誰が決めるのか、それが言葉によって決まるとすればuというか我々のような外からの観測者や筆者、あるいは原作者が線を引くことになるわけですが、その線引きはどこまで正当なものなのか、少なくともその正当性を推し量る定規は登場人物にはない。話の虚構と現実の区別が埋もれてわからなくなってしまう、そんなメタフィクションの面白みがあったように思います。
5.90東ノ目削除
二周してなお作品の構造を把握できたとは言い難く気の利いた感想を言えないのですが、面白かったです
7.100南条削除
面白かったです
幻覚を見てること前提の会話劇を楽しませていただきました
8.90名前が無い程度の能力削除
これは、読む人が主人公を何者だと思うのかで見え方が変わる作品なのかなあと思いました。面白かったです。
9.100名前が無い程度の能力削除
いいです