「うーん」
「どうしたの、チルノちゃん?」
「いやあ、さ、なーんか面白いことないかなってね。あの椅子ヤローをコテンパンにしたっきり、何も起きないからさー」
「うふふ、チルノちゃんって、誰かと勝負するのが好きだもんねえ」
摩多羅隠岐奈という秘神が起こした妖精石桜化異変を、チルノを筆頭とする妖精たち自らが解決した。
あの時の興奮がチルノにはまだ残っているのかもしれない。
「まったく、あたいのパワフルなボディがなまっちゃうわよ!ねえ大ちゃん!」
「あはは...」
霧の湖の周辺を、こうして二人で散歩する日々が続いた。
あの異変から何ヶ月たっただろうか。
「...ねえ...チルノちゃん...?」
「ど、どうしたのよ、急に立ち止まっちゃって...」
「チルノちゃんは、このままじゃあ...嫌...かな..?」
「え...」
「私はずっとこのままでいいかな、って。確かに毎日同じようなことばかりでちょっぴり退屈かもしれないけど、サニーちゃん達がいて、リリーちゃんがいて、ラルバちゃんがいて、ピースちゃんがいて、大妖精の仲間もできたし・・・」
「...」
「そして何より傍にチルノちゃ
「ス、ストーップ!!!いきなり真面目な話をしてあたいを困らせようなんて、流石大ちゃんね!あ、あ、あたいはそんな手には乗らないわ!」
明らかに動揺しながらもエッヘンと無い胸を張るチルノ。
これだけ長く付き合っていても、時々大妖精が発する正直な気持ちに対して誤魔化そうとしてしまうチルノだった。
「チルノちゃん誰も聞いてないからそんな恥ずかしがらなくても
「恥ずかしがってない!!!」
チルノがちょっぴり怒り気味になってきたのでさすがに悪いことをしたなと思う大妖精。
だが今日はこれで終わりではなかった。
大妖精には本当に伝えたいことがあった。
「ごめんね?チルノちゃん。でもね、私、時々思うことがあるの。」
「な、なによ」
「もしチルノちゃんが悪いやつに操られたりでもしたら、誰がチルノちゃんを助けてあげられるのかな、って・・・」
「へ?」
頭が真っ白になった。あたいが、操られる...?
「...今までもチルノちゃんは色んな妖怪と戦って、その度にもっと強くなって、もっとカッコよくなって、もっと頼もしくなって・・・」
うつむく大妖精にさすがのチルノも口を開けたまま言葉を発せずにいた。
自分が操られる、そんなこと今まで考えたこともなかった。
「でも本当はいつも怖かったの...チルノちゃんが万が一悪いやつに負けて...」
いつの間にか握りこぶしを作ってしまっているのが分かった。
今にでも言ってやりたいことがあるのに、上手く言葉にできない。
「私はチルノちゃんみたいに強くないから、こういう考え方しかできないんだと思う...でもさいきょうのチルノちゃんならきっとこれからも大丈夫なのかな...こんなこと急に言ってごめん...ね...?」
「...大ちゃん」
「チルノ...ちゃん...?」
もどかしさの正体が分かった。あたいはまたもや天才的なことを思いついてしまったのだ。
それは...
「だったら大ちゃんが強くなればいいじゃん!よぉし!これから特訓よ!!!」
「え?」
私が..?
「え、え」
強くなる...!?
「ええ!?」
チルノは大妖精の肩を叩く。さっきまで見せていた表情とうって代わり満面の笑みで大妖精に語りかける。
「そんな驚くことじゃないわよ。だってもしあたいが操られてちゃったりしたら、助けてくれるのなんて、それは...そんなことできるのは...大ちゃんに決まってるじゃない...!」
またチルノちゃんが突拍子もないことを言い始めた、最初はそう思った。
でも違う、チルノちゃんは私をそういう存在として見てくれているんだ...
嬉しさのあまり涙が出そうになったけど、今は堪らえよう。
「チルノちゃん、いつもありがとうね...」
「だからあ〜、急にそういうこと言わないでってばぁ。で、でも、大ちゃんが笑ってくれて、あ、あたいも、よかったっていうか...」
チルノちゃんをもっと困らせることを勢いで言ってしまおうかと思ったけど、やっぱりやめた。いつかふさわしい時がやってくるまで、この言葉は取っておくんだ。
「と、とりあえず特訓よ!力を確認するためにまずは改めて自己紹介からね!」
「え?自己紹介!?今更しても...」
「あたいは氷の妖精、チルノ。持ってる力は氷を操る程度の能力。さあ、次は大ちゃんの番よ」
聞く耳ももたず唐突に自己紹介し始めたチルノに、彼女も応えざるを得なかった。
「...私は、自分の名前を知らない。もしかしたら名前なんてないのかもしれない、何の妖精かもわからない、でも持ってる力だけはわかるの...
それは...
『霧を泳ぐ程度の能力』
「くぅ〜!」
チルノは大噴火寸前のように何かを堪えていた。
「チルノちゃん?」
「やっぱりずるい!大ちゃんだけずる過ぎるよ!!!」
ずるい...?
「霧を泳ぐ、なんてカッコ良すぎるわよ!昔から思ってたけどあたいの能力と交換してほしいぐらいだわ」
「私の能力が...かっこいい...?」
「あ~あ。あたいも言ってみたいなあ。『霧を泳ぐ』くぅぅカッコイイ!!!」
傍から見たら馬鹿にしてるように思えるがそこはチルノだ、本当にカッコイイと言ってるんだろう。
「かっこいい...私が...」
「そうよそうよ、だから大ちゃんはもっと堂々としてって...」
ポタッ ポタッ
「大ちゃん...?」
「...」
「な、何で泣いてるのよ...」
「チルノちゃん、私、本当はね...もっとチルノちゃんと一緒に戦いたいの...チルノちゃんが見てる景色を、私も見たいの...」
「大...ちゃん...」
「今までも私の能力でいたずらもたくさんやってきた。紅い霧が出た時も、チルノちゃんと一緒に人間にいたずらできて楽しかった」
「...」
「チルノちゃんは少しずつ強くなって、いつの間にか妖怪とも遊びの域を超えて付き合えるようになった。私も何とか付いていきたいと思った。でも...」
「私ね?もう諦めちゃったの。だって...こんなへんてこな能力で!どうやってチルノちゃんの隣にいられるのって!!!何で私だけこんな訳の分からない能力なんだって!!!」
背中をさすってあげる、それしかできなかった。
体が大きく震えている。大ちゃんはこんな悲しみを背負っていたのに、あたいは・・・
「だから...だからね...?チルノちゃんが私の能力をかっこいいって言ってくれて、本当に嬉しくて...嬉しっくて...堪らなくて...」
「大ちゃんっ」
あたいの声は聞こえてないかもしれない。でも...
「大ちゃん、聞いてくれる?いや、そのまま泣いてたっていい。でもあたいからも言いたいんだ。あたい、ずっと大ちゃんの隣にいてもいいかな?前にも後ろにもいかない。ずうっと隣」
隣...
「大ちゃんがいつも傍にいてくれて、あたい、本当に嬉しくて、楽しくて、あったかくて...でも、それなのにひとりでさいきょうにむかっていって...」
励ますつもりが、こっちまで涙が溢れてしまっていた。
「大ちゃんと出会う前のようなひとりぼっちに、自分からまたなろうとしてたなんて...あたいったら...本当にばかね...」
チルノちゃん...
「だから、さ...あたいがどっかいっちゃわないように、隣で...手を握っててくれる...?」
「...私に...できる...かな...」
「できるわ...あたい"たち"ならきっとさいきょうだもの...」
私には名前もない
どこで生まれたかも分からない
何の妖精かも分からない
ずっと霧の中を彷徨うように、自分が何者なのか、問い続けてきた
でも、もうそんなことはどうでもいい
「おはよう、大ちゃん!」
ひんやりとした手が、温もりを与えてくれる。
「大ちゃん今日は、霧をだせるようになろう!」
「え、ぇえええ!!!!」
私は、幸せな妖精です。
「どうしたの、チルノちゃん?」
「いやあ、さ、なーんか面白いことないかなってね。あの椅子ヤローをコテンパンにしたっきり、何も起きないからさー」
「うふふ、チルノちゃんって、誰かと勝負するのが好きだもんねえ」
摩多羅隠岐奈という秘神が起こした妖精石桜化異変を、チルノを筆頭とする妖精たち自らが解決した。
あの時の興奮がチルノにはまだ残っているのかもしれない。
「まったく、あたいのパワフルなボディがなまっちゃうわよ!ねえ大ちゃん!」
「あはは...」
霧の湖の周辺を、こうして二人で散歩する日々が続いた。
あの異変から何ヶ月たっただろうか。
「...ねえ...チルノちゃん...?」
「ど、どうしたのよ、急に立ち止まっちゃって...」
「チルノちゃんは、このままじゃあ...嫌...かな..?」
「え...」
「私はずっとこのままでいいかな、って。確かに毎日同じようなことばかりでちょっぴり退屈かもしれないけど、サニーちゃん達がいて、リリーちゃんがいて、ラルバちゃんがいて、ピースちゃんがいて、大妖精の仲間もできたし・・・」
「...」
「そして何より傍にチルノちゃ
「ス、ストーップ!!!いきなり真面目な話をしてあたいを困らせようなんて、流石大ちゃんね!あ、あ、あたいはそんな手には乗らないわ!」
明らかに動揺しながらもエッヘンと無い胸を張るチルノ。
これだけ長く付き合っていても、時々大妖精が発する正直な気持ちに対して誤魔化そうとしてしまうチルノだった。
「チルノちゃん誰も聞いてないからそんな恥ずかしがらなくても
「恥ずかしがってない!!!」
チルノがちょっぴり怒り気味になってきたのでさすがに悪いことをしたなと思う大妖精。
だが今日はこれで終わりではなかった。
大妖精には本当に伝えたいことがあった。
「ごめんね?チルノちゃん。でもね、私、時々思うことがあるの。」
「な、なによ」
「もしチルノちゃんが悪いやつに操られたりでもしたら、誰がチルノちゃんを助けてあげられるのかな、って・・・」
「へ?」
頭が真っ白になった。あたいが、操られる...?
「...今までもチルノちゃんは色んな妖怪と戦って、その度にもっと強くなって、もっとカッコよくなって、もっと頼もしくなって・・・」
うつむく大妖精にさすがのチルノも口を開けたまま言葉を発せずにいた。
自分が操られる、そんなこと今まで考えたこともなかった。
「でも本当はいつも怖かったの...チルノちゃんが万が一悪いやつに負けて...」
いつの間にか握りこぶしを作ってしまっているのが分かった。
今にでも言ってやりたいことがあるのに、上手く言葉にできない。
「私はチルノちゃんみたいに強くないから、こういう考え方しかできないんだと思う...でもさいきょうのチルノちゃんならきっとこれからも大丈夫なのかな...こんなこと急に言ってごめん...ね...?」
「...大ちゃん」
「チルノ...ちゃん...?」
もどかしさの正体が分かった。あたいはまたもや天才的なことを思いついてしまったのだ。
それは...
「だったら大ちゃんが強くなればいいじゃん!よぉし!これから特訓よ!!!」
「え?」
私が..?
「え、え」
強くなる...!?
「ええ!?」
チルノは大妖精の肩を叩く。さっきまで見せていた表情とうって代わり満面の笑みで大妖精に語りかける。
「そんな驚くことじゃないわよ。だってもしあたいが操られてちゃったりしたら、助けてくれるのなんて、それは...そんなことできるのは...大ちゃんに決まってるじゃない...!」
またチルノちゃんが突拍子もないことを言い始めた、最初はそう思った。
でも違う、チルノちゃんは私をそういう存在として見てくれているんだ...
嬉しさのあまり涙が出そうになったけど、今は堪らえよう。
「チルノちゃん、いつもありがとうね...」
「だからあ〜、急にそういうこと言わないでってばぁ。で、でも、大ちゃんが笑ってくれて、あ、あたいも、よかったっていうか...」
チルノちゃんをもっと困らせることを勢いで言ってしまおうかと思ったけど、やっぱりやめた。いつかふさわしい時がやってくるまで、この言葉は取っておくんだ。
「と、とりあえず特訓よ!力を確認するためにまずは改めて自己紹介からね!」
「え?自己紹介!?今更しても...」
「あたいは氷の妖精、チルノ。持ってる力は氷を操る程度の能力。さあ、次は大ちゃんの番よ」
聞く耳ももたず唐突に自己紹介し始めたチルノに、彼女も応えざるを得なかった。
「...私は、自分の名前を知らない。もしかしたら名前なんてないのかもしれない、何の妖精かもわからない、でも持ってる力だけはわかるの...
それは...
『霧を泳ぐ程度の能力』
「くぅ〜!」
チルノは大噴火寸前のように何かを堪えていた。
「チルノちゃん?」
「やっぱりずるい!大ちゃんだけずる過ぎるよ!!!」
ずるい...?
「霧を泳ぐ、なんてカッコ良すぎるわよ!昔から思ってたけどあたいの能力と交換してほしいぐらいだわ」
「私の能力が...かっこいい...?」
「あ~あ。あたいも言ってみたいなあ。『霧を泳ぐ』くぅぅカッコイイ!!!」
傍から見たら馬鹿にしてるように思えるがそこはチルノだ、本当にカッコイイと言ってるんだろう。
「かっこいい...私が...」
「そうよそうよ、だから大ちゃんはもっと堂々としてって...」
ポタッ ポタッ
「大ちゃん...?」
「...」
「な、何で泣いてるのよ...」
「チルノちゃん、私、本当はね...もっとチルノちゃんと一緒に戦いたいの...チルノちゃんが見てる景色を、私も見たいの...」
「大...ちゃん...」
「今までも私の能力でいたずらもたくさんやってきた。紅い霧が出た時も、チルノちゃんと一緒に人間にいたずらできて楽しかった」
「...」
「チルノちゃんは少しずつ強くなって、いつの間にか妖怪とも遊びの域を超えて付き合えるようになった。私も何とか付いていきたいと思った。でも...」
「私ね?もう諦めちゃったの。だって...こんなへんてこな能力で!どうやってチルノちゃんの隣にいられるのって!!!何で私だけこんな訳の分からない能力なんだって!!!」
背中をさすってあげる、それしかできなかった。
体が大きく震えている。大ちゃんはこんな悲しみを背負っていたのに、あたいは・・・
「だから...だからね...?チルノちゃんが私の能力をかっこいいって言ってくれて、本当に嬉しくて...嬉しっくて...堪らなくて...」
「大ちゃんっ」
あたいの声は聞こえてないかもしれない。でも...
「大ちゃん、聞いてくれる?いや、そのまま泣いてたっていい。でもあたいからも言いたいんだ。あたい、ずっと大ちゃんの隣にいてもいいかな?前にも後ろにもいかない。ずうっと隣」
隣...
「大ちゃんがいつも傍にいてくれて、あたい、本当に嬉しくて、楽しくて、あったかくて...でも、それなのにひとりでさいきょうにむかっていって...」
励ますつもりが、こっちまで涙が溢れてしまっていた。
「大ちゃんと出会う前のようなひとりぼっちに、自分からまたなろうとしてたなんて...あたいったら...本当にばかね...」
チルノちゃん...
「だから、さ...あたいがどっかいっちゃわないように、隣で...手を握っててくれる...?」
「...私に...できる...かな...」
「できるわ...あたい"たち"ならきっとさいきょうだもの...」
私には名前もない
どこで生まれたかも分からない
何の妖精かも分からない
ずっと霧の中を彷徨うように、自分が何者なのか、問い続けてきた
でも、もうそんなことはどうでもいい
「おはよう、大ちゃん!」
ひんやりとした手が、温もりを与えてくれる。
「大ちゃん今日は、霧をだせるようになろう!」
「え、ぇえええ!!!!」
私は、幸せな妖精です。