「うぉおおい! あぁわぃ! うわぁああおぉ! アウ! アウッ!アウゥッ! アリッスゥウ!」
「……何よ魔理沙」
「なんだ。新年早々テンション低いぞ!? もっと元気よく行こうぜ!?」
「……いや、その変な叫び声にどう反応して良いかわからなかったのよ」
「なんだ。そうか。それなら安心したぜ!」
「で何よ?」
「腹減ったぜ!」
「はぁ? 何食べたいの?」
「とうもころし!」
「は……?」
「とうもろこし!」
「いや、言い直さなくて良いから。……とうもろこし?」
「そうだ! アツアツの焼きもろこしが食べたいんだぜ!」
「……よりによってこの時期に?」
知ってのとおり幻想郷は今は冬。知ってのとおりとうもろこしの旬は夏。今の季節にそんなものあるわけがない。
「お前は何を言ってるんだ!? 今の時期だからだろ!? 寒いからこそアツアツのとうもろこしをガブリンチョ! と、噛みつきカーニバルしたいんだ!」
「いや、そうは言うけどさ。今はふy」
「うぉおおおおおああおおおおお!! わたしはぁあ! とうもろこしが、たべたいんだぅぁああああああああ!」
「やっかましい! わかったから少し黙らっしゃいっ!」
「だぐはっ!? ナイスパンチだぜぇ。アリス……ぐふっ」
『来たれ!もろこし大明神!』
◇
まったくアイツは何を考えているんだ。こんな季節にとうもろこしなんてあるわけないだろ! 頭ん中とうもろこし畑なんじゃないかあのボケェ! と、心の中で毒づきながらアリスは、やけくそ気味に、何だか得体のしれない怪しい魔方陣をチョークで床に書き殴っている。
魔理沙はアリス渾身のダッシュストレート(←タメ→+A)を右脇腹付近に食らって絶賛KO中。つかの間の安らぎの時間である。
「えーと……これでいいのかしらね。それじゃ……コホン」
アリスは怪しい魔法書を見ながら咳払いをすると、仰々しく呪文を唱えた。
「エロイムエッサイム! エロイムエッサイム! 我は求め訴えたり! 出でよ! もろこし大明神!」
床の魔方陣から煙が噴き上がり、光とともに誰かが現れる。
ボワンという怪しい効果音とともに現れたのは、安楽椅子みたいなのにふんぞり返って頭にとうもろこしの形の帽子をかぶった、なんかどこかで見たことある奴。
「誰だ。私を召喚した愚か者は……?」
「あんたは、摩多羅隠岐奈!?」
「いや、違うぞ! わた……ワガハイはもろこし大明神じゃよ!」
「口調変えてもダメよ! あんたは摩多羅隠岐奈でしょ!?」
「……ふっ。バレてしまったら仕方がない。そうだ。われこそは摩多羅隠岐奈。またの名をもろこし大明神。そう、私はとうもろこしの神でもあるのだよ! ふっはっはっは!」
隠岐奈もとい、もろこし大明神は椅子にふんぞり返って高笑いをあげる。
「そうなのね! わかったわ!」
「物わかりが良くて結構! ……んで、私に何の用なの?」
「なんかいきなりフランクね?」
「まあ、いいじゃない別に。いちいち仰々しくしゃべるのも疲れるし」
それもそうかと(色々気にしてもめんどくさいので)納得したアリスは彼女にワケを話す。
「ほうほう。なーるほどね。このクソ寒い中、とうもろこしを食べたいと抜かすトンチキヤローにとうもろこしを食べさせるために、私を呼んだということか」
「そういうことよ」
「ようし。わかった。では、これをやつに食わせるがいい」
隠岐奈は掌にバフンと、茹でたとうもろこしを召喚する。と、そのときだ。
「……ん? クンクンクン。お、なんかいいにおいがするぞ?」
「あ、バカが起きたわ」
とうもろこしのにおいにつられて起きた魔理沙は、すぐにとうもろこしに気づく。
「おお!? これは、どこからどう見ても、まごうこと無きとうもろこし! もしかしなくても私のために用意してくれたんだな! それじゃ満を持していっただきさまー!」
魔理沙は有無を言わさず、隠岐奈のとうもろこしにかぶりつく。
「うぉーーー!! う、うめぇーーー!! これだ! この味だ!
この味を私は求めていたんだぁー!! うまいぞぉおお!!」
魔理沙はあっという間にとうもろこしを平らげた。
「ふっはっはっはっは! なかなか良い食べっぷりじゃないか! 霧雨魔理沙!」
「……誰だお前?」
「私はもろこし大明神!」
「何!? モロ出し大明神だと!?」
「もろこしだっ! そんな破廉恥な神、いてたまるか!」
「なんかどこかに居そー」と思いながらアリスは、のりせんべいをばりばり食って二人のやりとりを傍観している。
「いいか。良く聞け! 私はもろこし大明神! その名もとうもろこしの神だ!」
「なにぃ!? とうもろこしの神!? なんでこんなところに、とうもろこしの神が!?」
「ふはははは! このクソ寒い中、とうもろこしを食べたいと抜かすトンチキヤローにとうもろこしを食べさせるために、そこの彼女が召喚したんだよ」
「なに!? そうだったのか! アリス、ありがとうもろこし!」
「あ、いえいえ。どういたしまして……? ねえ、魔理沙」
「何だ?」
「あんた気づいてないの?」
「何が?」
「あの変なやつ」
「もろこし大明神だろ?」
「いや。……あれ、摩多羅隠岐奈よ?」
「なに……?」
魔理沙は隠岐奈をじっと見て「あぁ!?」と、何かに気づいたように声を上げるとアリスに告げる。
「いや、どう見てもあれはもろこし大明神だろ?」
「あんた今、何に対して『あぁ!?』って言ったのよ!?」
そのとき、隠岐奈がゴホッゴホッゴホッ!と何度もワザとらしく咳払いをする。どうやら話を聞いて欲しいらしい。どうやら、かまってちゃんの神でもあるようだ。
「……さて、霧雨魔理沙よ」
「なんだ。モロッコ大魔神」
「大魔神ではない。大明神だ!」
「モロッコはいいのかよ!」
アリスの突っ込みに構わず隠岐奈、もといモロッコ大明神は話を続ける。
「貴様が今食べたとうもろこしは実はタダのとうもろこしではない」
「何!? 金取んのか!? この秘神ボタクーリめ!」
「そういう意味のタダではないっ! 普通のとうもろこしじゃないって意味だよ!」
「なにぃ!?」
「ためしに手を掲げてみろ!」
「こうか?」
魔理沙が、右手をとうもろこしの幹のようにまっすぐ掲げると、掌にとうもろこしがぽんっと現れる。
「うぉおおお!? 手からとうもろこしが!?」
「ふっはっはっは! 欲しいときにいつでもとうもろこしが手に入るぞ! これで今日からお前ももろこし人間だ!」
「もろこし人間!?」
魔理沙は興奮気味に手を掲げまくる。すると楽しい仲間がポポポポーンってな具合に、大量のとうもろこしで部屋がいっぱいに。
「ウォオオオーッ!! これはすごいぞー!?」
魔理沙は興奮気味にアリスに言いはなつ。
「よーし! アリス! 準備しろっ! 今すぐだっ!」
「準備って何のよ!?」
「決まってんだろ! もろこし祭りだよ!」
「ハァ!?」
◇◇
コーンスープ、コーンポタージュ、ポップコーン、トルティーヤ、カラーコーン、コーンフレーク、タコス、コーンスターチ、ケサディーヤ、焼きとうもろこし、とうもろこしのピザ、とうもろこしご飯、とうもろこしのサラダ、とうもろこしのパスタ、もろこし村、とうもろこしを何かで炒めたやつ。
あれから二人は、ありとあらゆるとうもろこし料理を数日間楽しんだ。
「ふー。食った食った食ったぜ!!」
「はー……。こんなにとうもろこし食べたの初めてだわ」
「私もだ! とても満足みが高いぞ! 余は満足じゃ!」
「そりゃ、ようござんした。で、ところで魔理沙」
「なんだ? アリス」
「私、そろそろとうもろこし以外の料理も食べたいんだけど……」
「そういやそうだな。よし、じゃあ今夜はキノコ料理にしようか」
というわけで二人は、晩飯にキノコのスープを食べた。ところが!
「うっげぇえええ!! 不味い! 不味いぞ!? アリスなんだこれは!? 前みたいに砂糖と味噌間違えてないか!?」
「ええ!? そんなはずは……」
アリスは慌ててスープを飲むが、まあ普通に美味かった。
「何言ってんの。ちゃんと美味しいわよ?」
「ウソだ、ウソだ! そんなの信じないぞ!? まるでドロヘドロとへドラをミキシングビルドしたような味だぞ!?」
「……あんた、もしかしてとうもろこし以外不味くなっちゃったんじゃないの?」
「な!?」
慌てて魔理沙は、手を掲げてとうもろこしを召喚するとかぶりつく。
「うぉおおお!! 美味い! 美味いぞぉお!? って、ヤバいぞぉお!? 本当にとうもろこし以外美味しくなくなっちまったのか、私の舌は!?」
「あんな、怪しい奴の怪しいとうもろこしなんか食うからよ。あースープうまうま」
「だ、だって、とうもろこしたべたかったんだよぉー。うわぁああああん!」
魔理沙が泣き出すと、その涙がとうもろこしの粒になって、みるみると部屋中埋め尽くしていく。彼女は全身とうもろこし人間なのである。
「ちょっと!? やめてよ! 家中とうもろこしだらけになっちゃうでしょ!?」
「知るか! こうなりゃヤケだ! ヤケサディーヤだ!」
魔理沙はとうもろこしを召喚すると、思いっきりぶん投げる。
「とうもろこしなんか大キライだぁああっ!!」
腹いせにブン投げたとうもろこしは、ブーメランのように魔理沙の元に帰ってきて、彼女の顔面にコーンと直撃する。とうもろこしだけに。
「うわぁあああ!? とうもろこしの逆襲だぁあ!? とうもころしだぁああ!?」
「なにやってんのよ……ったく」
アリスはため息をつくと、魔法でもろこし大明神を無理矢理召喚した。
「おいおい、誰だ。こんな時間に私を召喚し……って、なんだ。またオマエ達かい。今度はどうしたのよ?」
「アレなんとかしなさいよ!」
アリスが指さした先には、全身とうもろこしまみれになって暴れている魔理沙というか、もはや怪奇とうもろこし女の姿が。
「あー、あれはいかんなー。身も心も悪のとうもろこしに乗っ取られかけている」
「なんですって! よくわかんないけど、それは大変だわ! あんたがなんとかしてよ!」
「えー? だってアイツとうもろこし食べたがってたし……」
「こうなったのは、あんたが変なとうもろこし食べさせたのが原因でしょ!?」
「いや、勝手に食ったのはあっち……」
「四の五の言わないで何とかしなさいよっ!」
アリスの剣幕に思わず気圧された隠岐奈は「チッ。しかたねーなぁ」とぼやきながらバフンっと何かを召喚する。
「アァン……? なんだよ。ココは?」
召喚されたのは、饕餮ゆうま(←変換で出ない)だった。
「おい、ゆうま。仕事だ!」
「アァ!? テメェ、誰に向かって指図してやがる!?」
「いいから、あのとうもろこしを全部吸収しろ!」
「ちっ……。あとでメシおごれよ!?」
彼女がズォオオオオッ!と、大きく息を吸い込み始めると、家中のとうもろこし成分をあっという間に吸い込んでしまう。
「よーし、よくやったぞ。さすがだな」
「オイ! そんじゃ約束通り、メシ食い行くぞ! 神戸牛のシャトーブリアンな! グレード最高級のヤツ」
「なにぃ!? せめてザギンでシースーに……」
「うるせェ!!! 行こう!!!」
ゆうまに引っ張られ、隠岐奈は夜のしじまへと消えていった。
「……やれやれ、いったいなんだったの」
アリスが呆れ気味にキノコスープを飲んでいると、魔理沙が目を覚ます。
「ん……? 私は何を……」
「あ、起きた?」
「おお、アリス。私はいったい何を……」
どうやら今までの記憶が無いようなので、アリスは適当に吹き込むことにした。
「良く聞きなさい! あんたはとうもろこしの悪魔ガブリコーンに乗っ取られてたのよ!」
「とうもろこしの悪魔ガブリコーンだと!?」
「大変だったんだからね! 全身とうもろこしのお化けみたいになっちゃって、しまいにゃ家がとうもろこしになっちゃって!」
「そ、それはおそろしいんだぜ!」
「これに懲りたらもう、こんな季節にとうもろこし食べたいなんてムチャクチャ言わないことね!」
「ああ、わかった! 神に誓う!」
「よし! じゃあ、このきのこスープ飲みなさい!」
「ああ! いっただきまーすぜ!」
美味しそうにキノコスープを飲む魔理沙を見て、アリスはようやく安堵のため息をつくのだった。
◇◇◇
数日後
「うぉおおおおおおおい! ウォワアアリィイイスゥウウウッ!」
「何よ?」
「アレだ! ビワが食べたいぜ!!」
「ビワ……? あれって旬は春じゃ……」
「うぉおおおおおおおお! びわがぁああたべたぁあああああぐわぁああ!」
「五月蠅い! もう仕方ないわね。ったく!」
この前の誓いはどこへやら。またまた、わがまま言い出した魔理沙にアリスは、渋々魔方陣を描く。
「なんたらかんたらなんたらかんたら、出でよ! ロクワットガーディアン(びわの守り神の意)!」
するとボワンという怪しい効果音とともに現れたのは、安楽椅子みたいなのにふんぞり返って頭に琵琶の形の帽子をかぶった、なんか数日前に見たばっかの奴。
「ふははは! オマエ達、また会ったな。そう、私は琵琶の神でもある……」
「そっちのビワじゃないっつーのっ!」
「ぬわぁああーーっ!?」
アリス渾身のダッシュストレートが、隠岐奈に炸裂し、森中にボロオオオオーンと琵琶の音色が響き渡ったのだった。
「……何よ魔理沙」
「なんだ。新年早々テンション低いぞ!? もっと元気よく行こうぜ!?」
「……いや、その変な叫び声にどう反応して良いかわからなかったのよ」
「なんだ。そうか。それなら安心したぜ!」
「で何よ?」
「腹減ったぜ!」
「はぁ? 何食べたいの?」
「とうもころし!」
「は……?」
「とうもろこし!」
「いや、言い直さなくて良いから。……とうもろこし?」
「そうだ! アツアツの焼きもろこしが食べたいんだぜ!」
「……よりによってこの時期に?」
知ってのとおり幻想郷は今は冬。知ってのとおりとうもろこしの旬は夏。今の季節にそんなものあるわけがない。
「お前は何を言ってるんだ!? 今の時期だからだろ!? 寒いからこそアツアツのとうもろこしをガブリンチョ! と、噛みつきカーニバルしたいんだ!」
「いや、そうは言うけどさ。今はふy」
「うぉおおおおおああおおおおお!! わたしはぁあ! とうもろこしが、たべたいんだぅぁああああああああ!」
「やっかましい! わかったから少し黙らっしゃいっ!」
「だぐはっ!? ナイスパンチだぜぇ。アリス……ぐふっ」
『来たれ!もろこし大明神!』
◇
まったくアイツは何を考えているんだ。こんな季節にとうもろこしなんてあるわけないだろ! 頭ん中とうもろこし畑なんじゃないかあのボケェ! と、心の中で毒づきながらアリスは、やけくそ気味に、何だか得体のしれない怪しい魔方陣をチョークで床に書き殴っている。
魔理沙はアリス渾身のダッシュストレート(←タメ→+A)を右脇腹付近に食らって絶賛KO中。つかの間の安らぎの時間である。
「えーと……これでいいのかしらね。それじゃ……コホン」
アリスは怪しい魔法書を見ながら咳払いをすると、仰々しく呪文を唱えた。
「エロイムエッサイム! エロイムエッサイム! 我は求め訴えたり! 出でよ! もろこし大明神!」
床の魔方陣から煙が噴き上がり、光とともに誰かが現れる。
ボワンという怪しい効果音とともに現れたのは、安楽椅子みたいなのにふんぞり返って頭にとうもろこしの形の帽子をかぶった、なんかどこかで見たことある奴。
「誰だ。私を召喚した愚か者は……?」
「あんたは、摩多羅隠岐奈!?」
「いや、違うぞ! わた……ワガハイはもろこし大明神じゃよ!」
「口調変えてもダメよ! あんたは摩多羅隠岐奈でしょ!?」
「……ふっ。バレてしまったら仕方がない。そうだ。われこそは摩多羅隠岐奈。またの名をもろこし大明神。そう、私はとうもろこしの神でもあるのだよ! ふっはっはっは!」
隠岐奈もとい、もろこし大明神は椅子にふんぞり返って高笑いをあげる。
「そうなのね! わかったわ!」
「物わかりが良くて結構! ……んで、私に何の用なの?」
「なんかいきなりフランクね?」
「まあ、いいじゃない別に。いちいち仰々しくしゃべるのも疲れるし」
それもそうかと(色々気にしてもめんどくさいので)納得したアリスは彼女にワケを話す。
「ほうほう。なーるほどね。このクソ寒い中、とうもろこしを食べたいと抜かすトンチキヤローにとうもろこしを食べさせるために、私を呼んだということか」
「そういうことよ」
「ようし。わかった。では、これをやつに食わせるがいい」
隠岐奈は掌にバフンと、茹でたとうもろこしを召喚する。と、そのときだ。
「……ん? クンクンクン。お、なんかいいにおいがするぞ?」
「あ、バカが起きたわ」
とうもろこしのにおいにつられて起きた魔理沙は、すぐにとうもろこしに気づく。
「おお!? これは、どこからどう見ても、まごうこと無きとうもろこし! もしかしなくても私のために用意してくれたんだな! それじゃ満を持していっただきさまー!」
魔理沙は有無を言わさず、隠岐奈のとうもろこしにかぶりつく。
「うぉーーー!! う、うめぇーーー!! これだ! この味だ!
この味を私は求めていたんだぁー!! うまいぞぉおお!!」
魔理沙はあっという間にとうもろこしを平らげた。
「ふっはっはっはっは! なかなか良い食べっぷりじゃないか! 霧雨魔理沙!」
「……誰だお前?」
「私はもろこし大明神!」
「何!? モロ出し大明神だと!?」
「もろこしだっ! そんな破廉恥な神、いてたまるか!」
「なんかどこかに居そー」と思いながらアリスは、のりせんべいをばりばり食って二人のやりとりを傍観している。
「いいか。良く聞け! 私はもろこし大明神! その名もとうもろこしの神だ!」
「なにぃ!? とうもろこしの神!? なんでこんなところに、とうもろこしの神が!?」
「ふはははは! このクソ寒い中、とうもろこしを食べたいと抜かすトンチキヤローにとうもろこしを食べさせるために、そこの彼女が召喚したんだよ」
「なに!? そうだったのか! アリス、ありがとうもろこし!」
「あ、いえいえ。どういたしまして……? ねえ、魔理沙」
「何だ?」
「あんた気づいてないの?」
「何が?」
「あの変なやつ」
「もろこし大明神だろ?」
「いや。……あれ、摩多羅隠岐奈よ?」
「なに……?」
魔理沙は隠岐奈をじっと見て「あぁ!?」と、何かに気づいたように声を上げるとアリスに告げる。
「いや、どう見てもあれはもろこし大明神だろ?」
「あんた今、何に対して『あぁ!?』って言ったのよ!?」
そのとき、隠岐奈がゴホッゴホッゴホッ!と何度もワザとらしく咳払いをする。どうやら話を聞いて欲しいらしい。どうやら、かまってちゃんの神でもあるようだ。
「……さて、霧雨魔理沙よ」
「なんだ。モロッコ大魔神」
「大魔神ではない。大明神だ!」
「モロッコはいいのかよ!」
アリスの突っ込みに構わず隠岐奈、もといモロッコ大明神は話を続ける。
「貴様が今食べたとうもろこしは実はタダのとうもろこしではない」
「何!? 金取んのか!? この秘神ボタクーリめ!」
「そういう意味のタダではないっ! 普通のとうもろこしじゃないって意味だよ!」
「なにぃ!?」
「ためしに手を掲げてみろ!」
「こうか?」
魔理沙が、右手をとうもろこしの幹のようにまっすぐ掲げると、掌にとうもろこしがぽんっと現れる。
「うぉおおお!? 手からとうもろこしが!?」
「ふっはっはっは! 欲しいときにいつでもとうもろこしが手に入るぞ! これで今日からお前ももろこし人間だ!」
「もろこし人間!?」
魔理沙は興奮気味に手を掲げまくる。すると楽しい仲間がポポポポーンってな具合に、大量のとうもろこしで部屋がいっぱいに。
「ウォオオオーッ!! これはすごいぞー!?」
魔理沙は興奮気味にアリスに言いはなつ。
「よーし! アリス! 準備しろっ! 今すぐだっ!」
「準備って何のよ!?」
「決まってんだろ! もろこし祭りだよ!」
「ハァ!?」
◇◇
コーンスープ、コーンポタージュ、ポップコーン、トルティーヤ、カラーコーン、コーンフレーク、タコス、コーンスターチ、ケサディーヤ、焼きとうもろこし、とうもろこしのピザ、とうもろこしご飯、とうもろこしのサラダ、とうもろこしのパスタ、もろこし村、とうもろこしを何かで炒めたやつ。
あれから二人は、ありとあらゆるとうもろこし料理を数日間楽しんだ。
「ふー。食った食った食ったぜ!!」
「はー……。こんなにとうもろこし食べたの初めてだわ」
「私もだ! とても満足みが高いぞ! 余は満足じゃ!」
「そりゃ、ようござんした。で、ところで魔理沙」
「なんだ? アリス」
「私、そろそろとうもろこし以外の料理も食べたいんだけど……」
「そういやそうだな。よし、じゃあ今夜はキノコ料理にしようか」
というわけで二人は、晩飯にキノコのスープを食べた。ところが!
「うっげぇえええ!! 不味い! 不味いぞ!? アリスなんだこれは!? 前みたいに砂糖と味噌間違えてないか!?」
「ええ!? そんなはずは……」
アリスは慌ててスープを飲むが、まあ普通に美味かった。
「何言ってんの。ちゃんと美味しいわよ?」
「ウソだ、ウソだ! そんなの信じないぞ!? まるでドロヘドロとへドラをミキシングビルドしたような味だぞ!?」
「……あんた、もしかしてとうもろこし以外不味くなっちゃったんじゃないの?」
「な!?」
慌てて魔理沙は、手を掲げてとうもろこしを召喚するとかぶりつく。
「うぉおおお!! 美味い! 美味いぞぉお!? って、ヤバいぞぉお!? 本当にとうもろこし以外美味しくなくなっちまったのか、私の舌は!?」
「あんな、怪しい奴の怪しいとうもろこしなんか食うからよ。あースープうまうま」
「だ、だって、とうもろこしたべたかったんだよぉー。うわぁああああん!」
魔理沙が泣き出すと、その涙がとうもろこしの粒になって、みるみると部屋中埋め尽くしていく。彼女は全身とうもろこし人間なのである。
「ちょっと!? やめてよ! 家中とうもろこしだらけになっちゃうでしょ!?」
「知るか! こうなりゃヤケだ! ヤケサディーヤだ!」
魔理沙はとうもろこしを召喚すると、思いっきりぶん投げる。
「とうもろこしなんか大キライだぁああっ!!」
腹いせにブン投げたとうもろこしは、ブーメランのように魔理沙の元に帰ってきて、彼女の顔面にコーンと直撃する。とうもろこしだけに。
「うわぁあああ!? とうもろこしの逆襲だぁあ!? とうもころしだぁああ!?」
「なにやってんのよ……ったく」
アリスはため息をつくと、魔法でもろこし大明神を無理矢理召喚した。
「おいおい、誰だ。こんな時間に私を召喚し……って、なんだ。またオマエ達かい。今度はどうしたのよ?」
「アレなんとかしなさいよ!」
アリスが指さした先には、全身とうもろこしまみれになって暴れている魔理沙というか、もはや怪奇とうもろこし女の姿が。
「あー、あれはいかんなー。身も心も悪のとうもろこしに乗っ取られかけている」
「なんですって! よくわかんないけど、それは大変だわ! あんたがなんとかしてよ!」
「えー? だってアイツとうもろこし食べたがってたし……」
「こうなったのは、あんたが変なとうもろこし食べさせたのが原因でしょ!?」
「いや、勝手に食ったのはあっち……」
「四の五の言わないで何とかしなさいよっ!」
アリスの剣幕に思わず気圧された隠岐奈は「チッ。しかたねーなぁ」とぼやきながらバフンっと何かを召喚する。
「アァン……? なんだよ。ココは?」
召喚されたのは、饕餮ゆうま(←変換で出ない)だった。
「おい、ゆうま。仕事だ!」
「アァ!? テメェ、誰に向かって指図してやがる!?」
「いいから、あのとうもろこしを全部吸収しろ!」
「ちっ……。あとでメシおごれよ!?」
彼女がズォオオオオッ!と、大きく息を吸い込み始めると、家中のとうもろこし成分をあっという間に吸い込んでしまう。
「よーし、よくやったぞ。さすがだな」
「オイ! そんじゃ約束通り、メシ食い行くぞ! 神戸牛のシャトーブリアンな! グレード最高級のヤツ」
「なにぃ!? せめてザギンでシースーに……」
「うるせェ!!! 行こう!!!」
ゆうまに引っ張られ、隠岐奈は夜のしじまへと消えていった。
「……やれやれ、いったいなんだったの」
アリスが呆れ気味にキノコスープを飲んでいると、魔理沙が目を覚ます。
「ん……? 私は何を……」
「あ、起きた?」
「おお、アリス。私はいったい何を……」
どうやら今までの記憶が無いようなので、アリスは適当に吹き込むことにした。
「良く聞きなさい! あんたはとうもろこしの悪魔ガブリコーンに乗っ取られてたのよ!」
「とうもろこしの悪魔ガブリコーンだと!?」
「大変だったんだからね! 全身とうもろこしのお化けみたいになっちゃって、しまいにゃ家がとうもろこしになっちゃって!」
「そ、それはおそろしいんだぜ!」
「これに懲りたらもう、こんな季節にとうもろこし食べたいなんてムチャクチャ言わないことね!」
「ああ、わかった! 神に誓う!」
「よし! じゃあ、このきのこスープ飲みなさい!」
「ああ! いっただきまーすぜ!」
美味しそうにキノコスープを飲む魔理沙を見て、アリスはようやく安堵のため息をつくのだった。
◇◇◇
数日後
「うぉおおおおおおおい! ウォワアアリィイイスゥウウウッ!」
「何よ?」
「アレだ! ビワが食べたいぜ!!」
「ビワ……? あれって旬は春じゃ……」
「うぉおおおおおおおお! びわがぁああたべたぁあああああぐわぁああ!」
「五月蠅い! もう仕方ないわね。ったく!」
この前の誓いはどこへやら。またまた、わがまま言い出した魔理沙にアリスは、渋々魔方陣を描く。
「なんたらかんたらなんたらかんたら、出でよ! ロクワットガーディアン(びわの守り神の意)!」
するとボワンという怪しい効果音とともに現れたのは、安楽椅子みたいなのにふんぞり返って頭に琵琶の形の帽子をかぶった、なんか数日前に見たばっかの奴。
「ふははは! オマエ達、また会ったな。そう、私は琵琶の神でもある……」
「そっちのビワじゃないっつーのっ!」
「ぬわぁああーーっ!?」
アリス渾身のダッシュストレートが、隠岐奈に炸裂し、森中にボロオオオオーンと琵琶の音色が響き渡ったのだった。