Coolier - 新生・東方創想話

番外編2 Q.お酒に合う物は何ですか? A.知るか

2024/11/16 20:24:30
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幻想郷ではこんな噂が寺子屋で噂されていた。それは子供達が作った迷信かもしれないし、はたまた実話かもしれない。真相は定かではないが、その存在は噂され続けた。

満月の夜、鈴蘭が木霊する丑三つ時

とある丘の上に冥王が現れるだろう

冥王は人付き合いについてならどんな願いでも一つだけ叶えてくれる

だがその時に注意すべき事がある

月の影で顔はよく見えないが顔を見たら最後、

腰に刺した刀で切り刻まれる

こんな噂は大人でも信じている者もおり、「冥王を見た」「冥王に頼み事をしたが断られた」等、殆どがガセネタである。しかし冥王は確実に存在する。今日も子供達は寺子屋で思っていた。



あの一件以来、特に変わった事は無かった。俺は相変わらず組長を務め、仲間達のために今日も業を背負う。きらびやかに光るメトロポリスの中にスナイパーを持って指示を受ける。どうやら二十三階建てのビルの一室にターゲットがいるようで、俺は迷いなく引き金を引く。弾はガラスを貫通し、ターゲットの胸部に命中したのを確認した。その後は窓は血の噴水で包まれ、俺は廃ビルを後にする。クズの血は見るに堪えないし。それに立つ鳥跡を濁さずってやつだ。
そしてそれは幻想郷でも変わらない。特別な日にクライアント(依頼者)から呼び出され、ターゲットに向けて銃口を向ける。例え相手が人間だろうが実態を持つ者だろうが引き金を引く重さは変わることは無い。
「すまんな。先に謝っとくぜ」
俺は人盛りがある中で堂々と引き金を引いた。
「大当たり〜〜〜!!!これで全部だ兄ちゃん。流石の腕前だねぇ」
「わーい!お菓子だー!!」
今、俺は人里の屋台で射的をやっているところだ。一等がお菓子一週間分と言う子供達にとっては大金を手に入れると言っても過言では無い。俺は持ち前のエイム力で全て撃ち抜き、見事三十一人分のお菓子を手に入れる事が出来た。子供達は口々にお礼を言い、楽しそうに去っていった。中には何処ぞの⑨もいたような気もしたが、まあ良しとしよう。違う違うそうじゃない。俺はポケットから宴会の招待状を取り出す。開催場所は守矢神社で間違いないが、一つ問題があった。それはどんな顔して行けばいいか分からないということだ。俺からすれば、デートでどの服着ていこうかと同じぐらい悩んでいる。一応行くつもりはある。そう、行くつもりはある。だがあと一歩が踏み出せず、無縁塚でうろちょろしていた。



いつの間にか外は暗くなり、宴会の時間が迫っていた。俺は迷いに迷った挙句、まだ神社の前でちじこまってる。そこに通りかかった尤魔に声をかけられるが、悩みを打ち明けると尤魔は大笑いをして背中をバンバン叩いてきた。
「ハッハッハ!お前にもそんな一面が存在するとは驚きだなあァw!まあこうゆう時は何食わぬ顔で笑顔しとけばいいんだよ。幻想郷の連中は平和ボケしてる奴が多いからな」
「いやダメだろ。俺はここの住民殺してるんだぞ。普通に笑顔は引かれるて」
「よし、ならぶっつけ本番が一番だ!」
怖気ついた俺にお構いなく尤魔は扉を開け、俺のフード部分を掴み引きずる。俺はようやく投げ出されたかと思ったが、そこはもう宴会の会場だった。よりによって神様二人の前に投げ出されたようで、今日ほど尤魔を恨んだ日はなかった。
「よ、よう。い忙しそうで何よりだな」
冷や汗ダラダラの作り笑いで誤魔化すも、流石の神様に見破られたようで、神奈子が口を開いた。
「あら、そんな頑なに挨拶しなくてもいいのに。私達が異変を起こした時は、私含め皆が普通に笑っていたわよ。だからそんな緊張しなくて大丈夫よ」
「そーだぞ。笑顔が一番だぞ」
ここに来て俺は懐の暖かさとごく普通の当たり前のことを再度学ぶことになった。
それからは普通の笑顔で各地域に住んでいる妖怪達に謝罪しに行った。作り笑いになってないか不安でいっぱいだったが、全員が笑顔で返してくれたので、おそらくきっちり出来ていたのだろう。全員が外に用意されたテーブルに着くと、司会を務めていた人物に驚きを隠せなかった。
「皆さん今宵はお集まりいただき、誠にありがとうございます。司会はこの私、吉弔八千慧が務めます」
「八千慧様ー!かっこいいよー!」
後ろの席で美天と鬼傑組の連中が拍手喝采している。八千慧に関してはこうゆう事あるんだと思い、傍にあったジンジャーエールを流し込む。てゆうかよくよく見ると、美天はオリジナルのうちわで日本一のハチマキをつけており、部下達も同様かそれ以上の格好をしていた。
「ああゆうのいいとは思うけど、実際にはやりたくないッスね」
「ええ、これは流石に貴方に同感よ。ちやり」
良かった。まともな奴がいた。隣の席では俺を含め、三人は引いていた。オタクといえば別に差別はしないが、あれはオタクの域を越した俺の知らない何かだ。何故ペンライトを持って応援しているのか、何故急に辺りの灯火を消すのか、とても嫌な予感がする。
「それではまずは歌でも歌って貰いましょうか。まずはそこの鶏から」
「えっ!?私ですか!?」
可哀想な事に久侘歌が第一犠牲者となり、ド緊張の中で歌わされた。本人は最初から断っていたが、逆らう気力を無くされては元も子もない。この後破壊吸血鬼、⑨、三妖精、脳筋馬、トリッピー、無意識少女の順で歌ったが、全員が俺の知らない曲を歌っていた。こいしに関してはヘビメタだったのでちょっと何言ってるか分からない。(サンドウィッチマン富澤)こいしはが歌い終わると、八千慧は俺を指さし死刑台と言っても相応しい場所に登る。
「いいぞー!ぶちかませー!!」
「感動系でも何でもいいぞー!」
俺が宴会が嫌いな理由その一、『カラオケだと無理やり歌わされる』だ。酒が回った妖怪達は歌え歌えと手拍子でやってくるので歌わない訳には行かない。とりあえず、オードリー若林さんと南海キャンディーズ山里さんを題材にした『たりないふたり』を歌ってみたが、思いのほか案外ウケた。



宴会の料理は中々美味で、中央の広間では妖精達が大縄跳びをしているがそれを見て食べるのもまたいい。少し甘く、口に入れた瞬間じゃがいもが崩れる肉じゃが。しょうゆと塩で下ごしらえされた熱々の肉。外はサクッ、中はふんわりした古代魚フライ。どれも何度もおかわりしたくなるような味わいでご飯を二杯もおかわりしてしまった。腹も膨れ、向こうをチラリと見ると、皿がピラミッド並に連なっている席が二つある。一瞬驚いたものの、だいたいの検討はつく。妖夢は主人のため出来たての料理を持っていき、幽々子は目にも止まらぬスピードで完食していっている。その姿は筋肉ダルマもびっくりピンクの悪魔そっくりだ。もう一つの席には尤魔が座っており、こちらも負けじとバリボリ食べている。こいつらに味わうという文化はないと言うツッコミはさておき、俺は近くにあった柿ピーに手を伸ばす。
その時、二人の鬼に挟み撃ちされ盃を持たされる。
「今日はハレの日だ。未成年が酒を飲んだところで大丈夫だろ」
「ほーら、私がついでやるからさー」
「おいおい、アルハラアルハラ。」
宴会が嫌いな理由その二、『酒を強要される』酒が弱い人間に酒を飲ませ、アルコールハラスメントで亡くなった人もいるらしい。そのことを知っているかはさておき、この二人は非常に諦めが悪い。俺はそそくさに断ろうとするが、盃との距離は縮まるばかりである。いよいよ酒を飲んだら帰ってくれるのかと思い、渋々盃に口をつける。
「おい、嫌がってるだろ。未成年に酒飲ますんじゃないよ」
「ちぇー、いいとこだったのに」
「何だ、同じ仲間の匂いがするからって抜け駆けか?」
「ちげーよ私はこいつに話があるだけだ」
そう言うと妹紅は俺のフード部分を掴み、神社の裏側に連れていく。



「それで、話とは何だ?」
突然連れてこられ飲酒を勧める鬼から逃げれたのはいいが、妹紅が何かを話したいかは分からない。すると妹紅は煙草を咥えて俺に近付いてくる。
「ほい、ひゃはほのひはほひはっはんは(訳:煙草の火が欲しかったんだ)」
俺は仕方なく手に炎を纏い、妹紅の煙草に火をつける。最も灰炎だと煙草どころか神社を焼き尽くすことになるので、普通の炎を使用した。自分でやれと言いかけたが、妹紅の手が脂ギッシュだったので言わないでおいた。妹紅は一服がてら俺に話しかけてくる。
「私は知っているぞ。お前は私の能力吸って不老不死になったんだろ。念の為言っておくが、皆死んでも泣きついて来るなよ。まあ、世話ぐらいはしてやるからさ」
「随分先のことを話すんだな。安心しろ。泣きつくことは無いし、世話してもらうほど俺は弱くは無い」
正直この話をされた時には心底びっくりしていた。何千年も生きていたせいか、他者に情を寄せるとは思っていなかったからだ。いや、それはただの偏見だ。本当は……凄く嬉しかったから。向こうに居続けても、畜生界でも他人に心配される事はほとんどなかった。生まれて初めて心配された気がして、気付いていたら俺の頬に涙がつたり、宴会の光を反射していた。
「どうした?泣いてんのか?」
「いや、なんでもない。煙草のヤニが目に入った」
俺は見苦しい言い訳をし、宴会会場に戻る。



会場に戻るなり、酔った霊夢が俺にアームロックを仕掛けてくる。俺はジタバタし何事かと離れようとしたが、もう席に連れてこられてしまった。その後、魔理沙、妖夢も来たが、二人ともかなり酔っていて当たりが強くなっていた。魔理沙はテーブルの上で酒をラッパ飲みし、瓶を俺目掛けてぶつけてくる。
「あ”あ”あ”あ”!こんな所に落ち武者がいるぞぉ!この霧雨魔理沙様がマスタースパークでぶっ飛ばしてやる!!」
えっ、嘘だろ?Σ(゚д゚;)ぶん投げられた瓶取っただけなのに?戸惑う俺を置いてけぼりにするように魔理沙は八卦炉を懐から取り出す。しかも乱闘騒ぎが起きているのに、止めるどころか観客は喝采を浴びせていた。
「いいぞぉ〜!魔理沙〜!」
「やっちまえ〜!!!」
「ええ…(困惑)」
助けを求めようと慧ノ子に視線をぶつけるが、「ごめん、魔理沙ってそんな奴だから」とウインク付きで返された。しょうがない。あんまり勧めないが、あれを使う。
俺は黒い雷を大量に放出し、魔理沙を含め神社外の妖精や天狗を気絶させた。これは兎達を気絶させるために使った物と同じであり、通常の黒い雷とは少し違う。簡単に言うならひとつなぎの大秘宝に出てくる覇王色の覇気みたいな物だ。だがこれには大きなデメリットが存在し、原作同様一定以上強くないと雷に耐えきれず気絶してしまう。俺もなるべく使いたくなかったが、傷つけずに済ますには丁度いいだろう。ちなみにこの後、天狗達があんな行動に出るとは思ってもいなかった。



覇気で宴会がザワついたが、しばらくすればまた元通りのバカ騒ぎになっていた。相変わらず俺は少し食べては周りを繰り返し、それは尤魔達も変わりは無い。尤魔はつまようじを取って満足し、八千慧は堂々と能力を使って、古明地姉妹のペット達にアルハラしている。さて驪駒はどこだと探そうとしたが向こうから寄ってき、俺の肩に手を伸ばす。
「なあ、本当にこっち側に入る気はないか?もちろんお前の配下ごと来ても歓迎するぞ。仕事方針も全部意のままだ」
「諦めろ。叶わぬ夢はとっととその空き瓶にでも詰めとけ」
「まあ、敵対してなきゃ吉弔の次ぐらい欲しいのにな」
このグイグイ来る驪駒は何かあればすぐ勧誘だとか言い出す。例に漏れず尤魔と八千慧も同等だ。だがあの二人よりもこっちは積極的であり、今もなお唐揚げを放り入れた頬をつんつんしてくる。
ん?ちょっと待て、何だあのワンコロと隻腕の熊は。気が付いた俺だったがもう遅い。頸牙組どころか鬼傑組、剛欲同盟の連中まで来ていた。しかもそいつらは二人きりの姿を見ると、汚い歓声を発する。
「ウォォォ!!!組長が抜けがけしてるぞーーー!!!」
「濡れ場だ!濡れ場だ!ヒューヒュー!!」
「新たな恋が芽生えるぞーーーー!!!」
この馬鹿どものせいで尤魔は飲んでいたビールを吹き、八千慧は絶対首が痛くなる位の速度で振り向いた。それだけでなく、風の予報士こと射命丸までカメラを回している。品のない動物がぞろぞろと俺達を囲み、焦りだした埴輪兵を食い止めていた。唯一の頼みの綱残夢さんはもう帰ったらしく、助けを呼ぼうにも大歓声で聞こえない。今日はよく災難に合う日だなと思うが、射命丸のマシンガンクエスチョンが耳を集中砲火する。
「お二人の経緯はどんな感じでしたか!?やっぱり少女漫画みたいに角でごっつんこですかね!?!?」
「いや、俺と驪駒は決してそういう関係じゃ……」
「大陽、キスでもするか。」
いよいよこいつは行動だけでなく脳みそまでイカれたか。いや、元々イカれてるか。当然俺は嫌がるが、驪駒は両手を肩に乗せ、酒臭い顔面を近づける。
あと一コンマ遅かったらキスしていただろう。俺は驪駒の持っていた空き瓶を奪い、驪駒の頭にフルスイングをぶちかましてやった。
「おぉーーとぉーー!!もう婚約破棄かーーー!!!」
「つまらねえぞーー!!もっと抱き合えーーー!」
「空気読めよー、つまんないの。」
ブーブー野次を飛ばすお前らに言っておく。この酒臭い馬とキスするぐらいならリスキルされた方がマシだ。驪駒は怯み体制を崩すが、今ので頭は沸点に到達したらしい。頭から小さなたんこぶがひょっこりし、破片が飛んで顔を傷つけていたる。多分だが頭よりも顔をやられた方にキレているかもしれない。女の武器は顔だって聞いたことがあるし。(八雲紫談)
「貴様……、親しき仲にも礼儀ありだぞ…!」
「お前とダチになった覚えは無いし、無理やりキスしようとしたお前が悪い。するんだったら地面がお似合いだぜ。馬刺しさん。」
顔から血管が浮き出ている驪駒はお得意のキックをお見舞いしようとしたが、そこに尤魔が割って入った。流石尤魔、俺が荒っぽい事は嫌いとよく分かっている。最も俺はやる時は本気で殺しかかるが。とはいえ空き瓶フルスイングはやりすぎだと言われ、軽ーくスプーンで〆られた。



宴会も終盤に近づき、俺以外の全員が風呂に入ってくると言い、一時解散となった。そして動物霊達も酔いつぶれた仲間を背負い、どこかへ行ってしまった。神社に一人残された俺は能力を使い、暇を潰していた。水のボールでドリブルしたり、竹で作られた割り箸を少し燃やし、プラモデルを作ったり、あるいは雷を使い、覇気を磨いてたりしていた。一通り満足したので、鈴の前で座り込む。
「で、なんの用だ。今頃来たって酒は殆どないぞ」
「あら、酷いわね。私が酒目当てで来たとでも?」
「…もしかして例の件のことか?もしそうなら返事はNOだ」
「もーいいじゃない。本当ケチんぼなんだから」
俺は断り続けるが、紫が背中をポコポコ叩いてきた。あっそうそう、例の件っていうのはちょっとしたアルバイトのことだ。内容としては紫が作った空間に人間を放り込むので器を測って欲しいという、実質何処ぞのスケルトンと同じ職業になるということらしい。しかもその間は感覚を開けて幻想郷に来ないと行けないし、これでは人目に付く危険がある。要は幻想郷の治安維持と、回廊で審判の両立をしなくてはいけない。
「それならこっちにも策があるわ!ほら、契約書を見なさい。」
紫が取り出したのは平和協定の契約書で、あちこち俺が結んでいた物の一つだ。だがコピーした物とは違い、うっすらと何か書いている。とりあえず虫眼鏡を引っ張り出し、契約書を見てみる。
[なお、三日間まで結論が出なかった場合、強制的にやって貰います♡]
うん、何やってんだお前。恐らく後付けされたであろうボールペンにはハッキリと書いてある。反論する前に、後付けしちゃダメっていうルールはないわと言われ、紫はそのままスキマでどこかに行ってしまった。
俺は周りを見渡し誰もいないのを確認し、舌打ちをする。
「あのオホーツクBBA、やりやがったな。」
その時紫が目の前に現れ、俺の首根っこを絞める。
「な・ん・か・言・っ・た?♡怒」
「ヴィェ、マリモ!!」(訳:いえ、何も)
どこから見ていたかは知らないが、紫は手を離し今度こそどこかに行ってしまった。



風呂から戻り、再び辺りが騒がしくなる。皆がヒャッハーしている間に俺はタイミングを見計らい、近場の温泉へ移動する。実はここまで来るのに何度も持ち去られ、酒を飲む相手をしてやっていた。ここでは語らないが酔った霊夢が飲み会でよくあるっちゃよくある行為を平然としていたので、見るに堪えなかった俺は絶好のタイミングと感じ、露天風呂の扉を開く。脱衣所で服を脱ぎ包帯を解いて風呂場へ向かうと、そこは湯けむりで包まれた楽園だった。幽玄に照らされた夜景、湯けむりを遊ばす風、桶に入ったジュースとグラス、湯けむりを反射する漆の板材、どれをとっても最高の二文字に限る。ジュースは酒が飲めない俺を気遣った誰かさんが交換してくれたんだろう。俺は微笑みながらも桶に湯を入れ思いっきり背中にかけy……
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
痛い。めちゃくちゃ痛い。なぜこんなに悶絶しているかと言うと、俺は熱湯にめっぽう弱い。そう、いわゆるサメ肌と言うやつだ。38℃までならギリギリ我慢できるが、40℃以上は慣れるまで時間がかかる。しかも風呂上がりに痒くなったりするので畜生界ではだいたい37℃ぐらいで済ませていた。おいおい、たかが熱湯で大騒ぎしすぎだと思ったやつ、後で職員室に来なさい。むしろ地獄はこれからだ。俺は覚悟を決め傷口がむき出しになった己の体に熱湯を浴びせる。
何度か熱湯と格闘しては泣き叫び、ようやく慣れたところで湯船に浸かった。実はサメ肌にとって一番きついのはボディソープだ。創造してほしい、傷まみれの体に塩水をぶっかけられる気持ちを。だがこうして終わってみれば、このためにやったといっても過言ではない。桶に入ったジュースをグラスに注ぎ、ワイン感覚で飲む。すると後ろの茂みから機械音がなり、俺のひとときを邪魔した。
「二秒以内に出てこい。命がいりませんって言うなら待機しとけ。」
「あやや、こうも簡単になってしまうとは。どうも清く正しい射命丸でーす!」
茂みから出てきたのは射命丸で、ポリポリと頭をかいている。良くも悪くもジャーナリスト魂は認めるが、盗撮は立派な犯罪だ。とりあえず脱衣所とは別にある客室に誘導し、その場で正座させた。最も、男のエチケットはちゃんと持ち合わせているので、ちゃんと腰にタオルを巻いて。



風呂上がりの俺は射命丸を机に座らせ手短な説教をした後、せめてもの慈悲で取材ぐらいはしてやった。本心を言うと土下座どころか焼き土下座しそうな勢いだったので、仕方なく応じたっと言った感じだ。
「そうだな、畜生界での暮らしについて語ろうかな?外部に漏らさない事は必須条件だが、大天狗の手土産ぐらいにはなるだろう」
「ぜひとも教えてほしいです。あ、後ヤクザ三人組との関係も( ^ᵕ^)」
「……捏造したらマジでぶっ殺すからな。」
しばらく俺は畜生界での出来事を語った。尤魔に拾われ手当り次第組織を潰していったこと、実はそれは良心の塊を持った組織だったこと、ヨシタカとマムシん、ブラウンに出会ったこと、驪駒は太子の前では緊張して上手く喋れないので人参を食って気合い入れてること。
おしゃべりが過ぎたのか、時計は十一時半を示していた。本当はもう少し話したいが、宴会がシラけそうなのでおいとますることにした。
「いや〜これはかなりの特ダネですよ〜!『丸見え!!畜生界の現状』とか『組長の恋愛事情、解禁!!』とかも良いですねぇ〜!!」
「自己紹介文の清く正しいはどこいったんだこの盗撮天狗が。それにあれは驪駒が酔った勢いでやったことだ。」
「本当ですかねー、それに私は盗撮ではなく潜入調査でバレないように撮っていただけですよ。」
「それを盗撮って言うんだよ!!」
鋭いツッコミを意にも返さず、出ていく射命丸に続き俺は扉を締めた。ちなみにこの後俺が能力を使い、カメラ内の写真を抹消してやった。やられたらやり返す、倍返しってことだ。



「で、その時早苗のテストがギリギリ赤点回避したわけ。豊臣秀吉と二次関数間違えた時は終わったと思ったよ。」
「ちょっと諏訪子様!何秘密暴露してるんですか!」
「そうそう。その後の理科がもうグダグダで見てられなくて……、本当に焦ったわ。」
「わァ…………ァ(泣)」
「あーあ、こいつ泣いちゃったよ」
ハハハと笑っている宴会場にたどり着き、再び残っているエビフライにかぶりつく。数十本食べたところで宴会はお開きとなり、俺は帰ろうとした。だがそれを神奈子が呼び止め、神奈子の手には少し古い自転車が用意されていた。
「これは…ただの自転車じゃなさそうだが」
「久々に百鬼夜行で帰らせろうと思ってね。本当は早苗に任せるつもりだったけど、こういうのは男手が適任だと思ったんだよ」
確かに少し漕ぐと、車輪から光が発生して自転車が宙に舞った。さあいざ行こうとしたが、酔いつぶれたやつはどうするという問題が発生した。流石に置いてけぼりは風邪を引きそうなので、自転車に荷台をつなぎ布で覆ってやる。八千慧は驪駒を抱えていくと言っていたが、宿敵に風を引かせるためだと言っていた。流石、頭脳系タイプの鬼傑組の組長らしい結論だ。
百鬼夜行は思っていたよりもガヤガヤと賑わっており、楽しそうな雰囲気を放っていた。先導して光の道を生成する身からすれば後ろが楽しいなら何よりだが、妖精に関しては千鳥足で落ちてしまったので心配だ。大分酔いが回っているので早めに終わらせたい。それに俺自身もエビフライと特製とんかつで胃もたれし始めている。紅魔館に着き眠っているフランを咲夜が抱えていると、突然後ろから寒気を感じた。いつものコートは防寒性、防暖性はバッチリなので寒さを感じることはほぼないはず。チルノはさっき湖付近で霊夢が落としたので居ない。じゃあ一体この寒さはなんなんだ?やだ怖い……(小並感)
怖がる俺だったが答えは案外すぐ見つかり、コートのフードを被って登場してきた。
「あ〜あったかい。こういう時は誰かあったかそうなやつにくっつくのが限るな」
「だからといって人をカイロ代わりにすんのもイカれてると思うが」
尤魔は後方から俺に抱きつき暖をとっていた。人間カイロで命を救った事例はあるが、綿菓子頭のガキまで救う気はない。振り払おうとしたが、美鈴が降りたのを機に出発したので諦めた。ただでさえ胃もたれで漕ぎづらいのに、抱きつかれては更に漕ぎにくい。尤魔が前のかごに乗ってE.T.みたいになってくれればいいが、離してくれそうになかった。最後に自転車を守矢神社に返す頃には尤魔は眠ってしまい、俺も帰路についてやった。畜生界に戻る前に尤魔の顔をチラリと見る。寝顔だけなら普通の子供みたいで可愛いが、俺達を欺くほどの力と権力を持っているので可愛いとはほど遠い。八千慧は途中下車し早く帰っているので、早く帰らないと剛欲同盟や俺の組のラボまで影響が出そうなのでとっとと帰ることにした。後で尤魔に愚痴られるのも嫌だしな。石油のところまでの直通ルートを発見したので、一気に飛び降りた。落ちる時は少し肌寒かったが、背中だけは暖かく感じられた。



翌日の畜生界の一角
「う………アァ……ァ…」
「大丈夫ですか?今湿布を貼ってあげますね」
現在俺は胃もたれと筋肉痛に苦しめられている。よく考えれば自転車4時間フルコースに尤魔を足せば、全身筋肉痛は間違いなかったはずだ。だがこんなことをいえば恥ずかしいが、尤魔の顔がやけに印象に残っていたので疲れを感じなかったのが原因だろう。ヨシタカとマムシんとブラウンには迷惑をかけるわけにはいかないので、久侘歌に看病してもらっている。
「ぐぅ………クソ……マジで覚えとけよ…尤魔……!」
「あ、今動いたら湿布が外れちゃいます!安静にs……」
ゴキっと音とともに俺の腰が曲がり、基地内では筋肉痛の組長の声が広がった。



霊長園ではとある作戦の成功に袿姫はニッコリしていた。丁度創作に取り掛かっていた袿姫に、報告に来た磨弓が疑問を持ったので、早速質問した。
「姫様、何か嬉しそうですが一体何をしたんですか?今回動物霊達や組長共とは何もしてないように見えましたが」
「良い質問ね磨弓ちゃん。実は宴会にエビフライを持っていったんだけど、あれは畜生界の油で揚げた畜生フライよ。四、五本食べれば胃もたれ間違いなしの極悪品だからさぞ苦しいでしょうね」
「あの、申し上げにくいのですが……あの組長共が胃もたれになったという報告が一つもありません。驪駒が風邪を引いたとは聞きましたが」
「……えっ?」
袿姫は手を止め、手に持っていた道具を落とした。キーッとかんしゃくを起こしているが、作戦は成功していることに気づくのはおよそ三日後である。
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SABAMESI
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