「舞桜」
この作品は東方projectの二次創作です。
「今年もこの季節がやって来ましたか。」
桜の花びら舞う春の日。博麗神社の境。春の訪れと、新たなる季節の始まりを祝って、神社に酒などが奉納された。毎年奉納されるこれらのものは、霊夢が奉納の舞をしてから消費するのがルールなのだ。
「さてと、今年もお世話になるわね。」
物置から黒いラジカセと一枚のディスクを取り出した。ラジカセに電池とディスクをセットし、スイッチを入れると、どこか雅やかな音楽が流れ始める。
「壊れてはいないようね。」
ラジカセを持って境内に戻る。
「よぅ、霊夢。」
空中に扉が開いた。
「あら、隠岐奈。ちょうど呼ぼうと思っていたところよ。」
「ならちょうど良かったな。要件は毎年恒例のあれだろう?」
「えぇ。」
「よし。じゃあ始めようか。紫を呼んでくる。」
「お願いね。」
この儀式は、博麗神社に祀られる神々を相手にする儀式の為、隠岐奈と紫も参加するのがルールとなっている。
しばらく待つと、扉とスキマが開く。
「おはよう、霊夢。」
「おはよう、紫。冬眠明けかしら?」
「いえ、少し前に明けたわ。でも、この儀式を見届けないと、冬眠が明けた気がしないのは事実ね。」
紫は直前まで冬眠している。冬眠明けの初仕事が、この儀式への参加というわけだ。
「用意はいいわね?」
「えぇ。」 「あぁ。」
奉納された酒樽、米俵。里の人々の春の訪れの祝い。賽銭箱の前に、積み上げ、真正面に立つ。
「す~・・・」
息を吸い、吐く。目を閉じ、見開く。ラジカセのスイッチを入れる。
「始まったわね。」
笛の音が鳴り、音楽が奏でられ始める。
滑らかなに腕を上げ、横に流していく。手に持った鈴がシャンシャンと音を立てていく。
瞬間、その場は途端に神聖さを増した。霊夢の目も普段とは異なり、キリっとしながらもどこか色気を感じるようなもの。舞を奉納する巫女としては文句なしであろう。
◇◇◇◇
「おいーす・・・」
「「!?」」
普段であればこのタイミングで人が来ることはあまりない。もちろん、周りに結界などを張っているわけでもないので、人妖がこの場に来るのは可能。しかし、来客等により、霊夢の意識が逸れてしまうなどということがあれば、その舞に意味は無くなってしまう。今の彼女は、博麗神社の巫女として、舞を奉納するということに集中しなければならない。
「貴女・・・」
石段から聞こえた声の正体は、魔理沙だった。
「えっと・・・来ない方が良かったか?」
「いや、来ない方が良かったと言えばその通りなんだが・・・まぁいい。」
気が逸れたりしてはならないが、霊夢は後ろから誰かが見ているというだけでは動揺したりすることは無い。
「霊夢は何をしてるんだ?こんなことをしているのは初めて見るんだが。」
「毎年春の恒例行事よ。毎年春になると、里の人から酒樽とか米俵とかが奉納されるの。でも、そういったものは、まずは博麗神社に祀られる神々にお供えをするのがルール。その時に、今年一年、幻想郷の安寧を願って舞一緒に奉納しているの。霊夢は、博麗神社の巫女だから、その舞をしているのよ。」
「ほーん・・・ずいぶんな雰囲気だったと思えば、そんな理由があったんだな。」
「あぁ、だから本来は他の者たちがこの場に来ることが無いように結界でも張っておくべきだったのかもしれないが、悲しいかな、あまりこの神社には客も来ない。だから今回も誰か来るとは思っていなかったのだよ。」
「にしてもさ、そんなに神聖な儀式だってのに、その舞の音楽があの安っぽそうなラジカセで流しているのはいいのか?それこそ、ちゃんと誰か演奏できる奴を呼んだ方がいいんじゃないかと思うんだが。」
「確かにそれはごもっともね。でも魔理沙。貴女は贈り物をするとき、包み紙や中身よりも意識していることがあるでしょう?」
「・・・霊夢がしっかりと心を込めて舞っているという事実の方が何よりも大切ってことなんだな。」
「えぇ。」
そんな話をしている間に、舞はもうすぐ終わりを迎える。霊夢は、気を逸らすことなく、舞い続けていた。
後ろで見ている三人も静かにその様子を見守っている。
◇◇◇◇
「お疲れ様、霊夢」
音楽と霊夢の動きが終わった。紫と隠岐奈が拍手をしながら近づく。
「ありがとう。今日は魔理沙もいたのね。」
「あ、あぁ。途中から見せてもらったぜ。」
「どうだった?アンタは見るの初めてだったでしょう?」
「あぁ、すごかったぜ。普段のお前からは想像できないほどにはな。」
「もう、言ってくれるじゃない。」
先ほどの凛々しさは少し消え、年頃の女子らしく頬を膨らませる。
「でもそれだけお前がこの舞と真剣に向き合ってるってことはよく分かった。だからその・・・ありがとな。」
「「・・・」」
思わぬ感謝の文言に、三人は目を合わせた。
「・・・そうね、私からも、今年もありがとう、霊夢。」
「え、紫まで!?」
クスっと微笑んで、霊夢の頭を撫でた。
「そうだな。お前はこういったことには手を抜かず、全力で取り組んでくれる。神社に奉納されている神々もさぞお喜びだろう。感謝しているぞ、霊夢。」
隠岐奈も霊夢の肩をポンポンと叩く。
「・・・もう。」
霊夢は顔を赤らめ、目を逸らした。
「まぁ・・・私だってこの場所は大切だから。それを支える神々がいるっていうのなら、彼らのために応えるのは当然の役目でしょう?」
四人の間に、風が流れ、桜の花びらが舞っていく。
「さ、奉納も終わったことだし、宴会といきましょ?どうやら、この場にいるのは、私たち四人だけじゃないみたいだしね。」
「「!?」」
霊夢の一声に、萃香やあうん、華扇などが建物の裏から出てきた。
「あら、こんなにいたのね。」
「えぇ。私が舞っているのに気づいてから、そそくさと隠れちゃって。」
「まぁ・・・なんというか。あまり邪魔したくなかったのよ。あの霊夢がちゃんと巫女としての役目を全うしているのだから。」
華扇も霊夢の頭を撫でながら言った。周りのメンバーも頷いている。
「何、みんなして言ってくれるじゃない?」
「それが嫌なら普段から修行にも取り組むことだな。あんたの想いが本物でも、それを実現させるだけの力がないとどうしようもないだろう?」
今度は萃香が霊夢の頭に飛び乗った。
「あ、アンタまで!?」
全員の間に笑いが起きた。
「まぁ、何はともあれ、そこの酒を開けようか。どうやら、もう我慢できない様子の奴がここにいるからな。」
隠岐奈が奉納品を指さすと、酒樽を下ろそうと格闘している魔理沙がいた。彼女はこちらに気付くと、
「いや・・・いい酒なんだろ?」
と少し恥ずかしそうに笑った。
「そうね、始めましょうか。萃香、あうんは盃を取って来て他は酒とおつまみの用意をお願いね。」
「「はーい。」」 「分かった。」
霊夢はラジカセとディスクを物置に置いた。
「今年も世話になったわね。ありがとう。」
ラジカセとディスクの入ったケースを撫でる。
「さて、行きますか。」
遠くから霊夢を呼ぶ声が聞こえる。用意が出来たようだ。
戻ると、ブルーシートが敷かれており、全員が盃を持っている。
「では、春の訪れと、霊夢の奉納に感謝を込めて・・・」
「「かんぱーい。」」
紫の音頭に盃をぶつけ合う。
うららかな春の日。博麗神社は桜に包まれる。
神々が応えるように、再び風が吹き、霊夢の盃に花びらを一枚落とした。
この作品は東方projectの二次創作です。
「今年もこの季節がやって来ましたか。」
桜の花びら舞う春の日。博麗神社の境。春の訪れと、新たなる季節の始まりを祝って、神社に酒などが奉納された。毎年奉納されるこれらのものは、霊夢が奉納の舞をしてから消費するのがルールなのだ。
「さてと、今年もお世話になるわね。」
物置から黒いラジカセと一枚のディスクを取り出した。ラジカセに電池とディスクをセットし、スイッチを入れると、どこか雅やかな音楽が流れ始める。
「壊れてはいないようね。」
ラジカセを持って境内に戻る。
「よぅ、霊夢。」
空中に扉が開いた。
「あら、隠岐奈。ちょうど呼ぼうと思っていたところよ。」
「ならちょうど良かったな。要件は毎年恒例のあれだろう?」
「えぇ。」
「よし。じゃあ始めようか。紫を呼んでくる。」
「お願いね。」
この儀式は、博麗神社に祀られる神々を相手にする儀式の為、隠岐奈と紫も参加するのがルールとなっている。
しばらく待つと、扉とスキマが開く。
「おはよう、霊夢。」
「おはよう、紫。冬眠明けかしら?」
「いえ、少し前に明けたわ。でも、この儀式を見届けないと、冬眠が明けた気がしないのは事実ね。」
紫は直前まで冬眠している。冬眠明けの初仕事が、この儀式への参加というわけだ。
「用意はいいわね?」
「えぇ。」 「あぁ。」
奉納された酒樽、米俵。里の人々の春の訪れの祝い。賽銭箱の前に、積み上げ、真正面に立つ。
「す~・・・」
息を吸い、吐く。目を閉じ、見開く。ラジカセのスイッチを入れる。
「始まったわね。」
笛の音が鳴り、音楽が奏でられ始める。
滑らかなに腕を上げ、横に流していく。手に持った鈴がシャンシャンと音を立てていく。
瞬間、その場は途端に神聖さを増した。霊夢の目も普段とは異なり、キリっとしながらもどこか色気を感じるようなもの。舞を奉納する巫女としては文句なしであろう。
◇◇◇◇
「おいーす・・・」
「「!?」」
普段であればこのタイミングで人が来ることはあまりない。もちろん、周りに結界などを張っているわけでもないので、人妖がこの場に来るのは可能。しかし、来客等により、霊夢の意識が逸れてしまうなどということがあれば、その舞に意味は無くなってしまう。今の彼女は、博麗神社の巫女として、舞を奉納するということに集中しなければならない。
「貴女・・・」
石段から聞こえた声の正体は、魔理沙だった。
「えっと・・・来ない方が良かったか?」
「いや、来ない方が良かったと言えばその通りなんだが・・・まぁいい。」
気が逸れたりしてはならないが、霊夢は後ろから誰かが見ているというだけでは動揺したりすることは無い。
「霊夢は何をしてるんだ?こんなことをしているのは初めて見るんだが。」
「毎年春の恒例行事よ。毎年春になると、里の人から酒樽とか米俵とかが奉納されるの。でも、そういったものは、まずは博麗神社に祀られる神々にお供えをするのがルール。その時に、今年一年、幻想郷の安寧を願って舞一緒に奉納しているの。霊夢は、博麗神社の巫女だから、その舞をしているのよ。」
「ほーん・・・ずいぶんな雰囲気だったと思えば、そんな理由があったんだな。」
「あぁ、だから本来は他の者たちがこの場に来ることが無いように結界でも張っておくべきだったのかもしれないが、悲しいかな、あまりこの神社には客も来ない。だから今回も誰か来るとは思っていなかったのだよ。」
「にしてもさ、そんなに神聖な儀式だってのに、その舞の音楽があの安っぽそうなラジカセで流しているのはいいのか?それこそ、ちゃんと誰か演奏できる奴を呼んだ方がいいんじゃないかと思うんだが。」
「確かにそれはごもっともね。でも魔理沙。貴女は贈り物をするとき、包み紙や中身よりも意識していることがあるでしょう?」
「・・・霊夢がしっかりと心を込めて舞っているという事実の方が何よりも大切ってことなんだな。」
「えぇ。」
そんな話をしている間に、舞はもうすぐ終わりを迎える。霊夢は、気を逸らすことなく、舞い続けていた。
後ろで見ている三人も静かにその様子を見守っている。
◇◇◇◇
「お疲れ様、霊夢」
音楽と霊夢の動きが終わった。紫と隠岐奈が拍手をしながら近づく。
「ありがとう。今日は魔理沙もいたのね。」
「あ、あぁ。途中から見せてもらったぜ。」
「どうだった?アンタは見るの初めてだったでしょう?」
「あぁ、すごかったぜ。普段のお前からは想像できないほどにはな。」
「もう、言ってくれるじゃない。」
先ほどの凛々しさは少し消え、年頃の女子らしく頬を膨らませる。
「でもそれだけお前がこの舞と真剣に向き合ってるってことはよく分かった。だからその・・・ありがとな。」
「「・・・」」
思わぬ感謝の文言に、三人は目を合わせた。
「・・・そうね、私からも、今年もありがとう、霊夢。」
「え、紫まで!?」
クスっと微笑んで、霊夢の頭を撫でた。
「そうだな。お前はこういったことには手を抜かず、全力で取り組んでくれる。神社に奉納されている神々もさぞお喜びだろう。感謝しているぞ、霊夢。」
隠岐奈も霊夢の肩をポンポンと叩く。
「・・・もう。」
霊夢は顔を赤らめ、目を逸らした。
「まぁ・・・私だってこの場所は大切だから。それを支える神々がいるっていうのなら、彼らのために応えるのは当然の役目でしょう?」
四人の間に、風が流れ、桜の花びらが舞っていく。
「さ、奉納も終わったことだし、宴会といきましょ?どうやら、この場にいるのは、私たち四人だけじゃないみたいだしね。」
「「!?」」
霊夢の一声に、萃香やあうん、華扇などが建物の裏から出てきた。
「あら、こんなにいたのね。」
「えぇ。私が舞っているのに気づいてから、そそくさと隠れちゃって。」
「まぁ・・・なんというか。あまり邪魔したくなかったのよ。あの霊夢がちゃんと巫女としての役目を全うしているのだから。」
華扇も霊夢の頭を撫でながら言った。周りのメンバーも頷いている。
「何、みんなして言ってくれるじゃない?」
「それが嫌なら普段から修行にも取り組むことだな。あんたの想いが本物でも、それを実現させるだけの力がないとどうしようもないだろう?」
今度は萃香が霊夢の頭に飛び乗った。
「あ、アンタまで!?」
全員の間に笑いが起きた。
「まぁ、何はともあれ、そこの酒を開けようか。どうやら、もう我慢できない様子の奴がここにいるからな。」
隠岐奈が奉納品を指さすと、酒樽を下ろそうと格闘している魔理沙がいた。彼女はこちらに気付くと、
「いや・・・いい酒なんだろ?」
と少し恥ずかしそうに笑った。
「そうね、始めましょうか。萃香、あうんは盃を取って来て他は酒とおつまみの用意をお願いね。」
「「はーい。」」 「分かった。」
霊夢はラジカセとディスクを物置に置いた。
「今年も世話になったわね。ありがとう。」
ラジカセとディスクの入ったケースを撫でる。
「さて、行きますか。」
遠くから霊夢を呼ぶ声が聞こえる。用意が出来たようだ。
戻ると、ブルーシートが敷かれており、全員が盃を持っている。
「では、春の訪れと、霊夢の奉納に感謝を込めて・・・」
「「かんぱーい。」」
紫の音頭に盃をぶつけ合う。
うららかな春の日。博麗神社は桜に包まれる。
神々が応えるように、再び風が吹き、霊夢の盃に花びらを一枚落とした。
一つの季節の節目のようなものを感じられました
素直にお礼を言う魔理沙もそれに照れる霊夢もかわいかったです。