Coolier - 新生・東方創想話

博麗神社で微笑む八雲紫の深層

2023/08/14 18:44:45
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「ああ……もうダメだわ……」
 霊夢は珍しく口から弱音を吐き出した。
「まあまあ、まだウチの神社の負けが決まったわけじゃないじゃないか。というか、巫女がそんなうじうじしてたら信仰なんて集まらないと思わないか?」
 魔理沙は慰めるように机の上に突っ伏す霊夢の頭をぽんぽんと叩きながらそういった。
「決まったも同然よ!今回の夏祭り対決は勝てると思ったのにぃ……」
霊夢は足や腕をバタバタと振りながら暴れたかと思えば、またすぐに倒れて静かになった。
「うーん、まあその言い分も分からんでもないが……。」
 魔理沙が床に投げてある今日の号外の記事を拾いあげる。そこには、『博麗守矢夏祭り対決』と一面に大きく書かれてあった。
博麗守矢夏祭り対決とは、一日目は守矢神社、二日目は博麗神社で祭りを開催し、どちらの方が参加者が多かったかで競う対決のことだ。
 そして、今日守矢神社で開催された夏祭りに霊夢と魔理沙が偵察に行ったところ、見たことの無い人数の参加者が参拝に来ており、撃沈して帰ってきた……。
これが、本日のダイジェストである。
「って感じですかねー。」
「どこから現われた烏天狗。」
魔理沙がジト目で目を向けた先には、障子を開けて居間に入ってくる射命丸文の姿があった。
「いやぁ、今日の守矢神社の盛況具合、凄かったですねぇ。祭りの間人里を訪れてみてもガラッと誰もいませんでした。」
「何よアンタ。私の傷口を弄るつもり?退治するわよ。」
霊夢はキッと涙ぐんだ目で文のことを睨む。
「もう、ピリピリしてますね。私は新聞のネタを集めに来ただけだっていうのに。霊夢さんはいつもこうなんだから。……まあ大丈夫ですよ。だって霊夢さんには心強い妖怪やら鬼やら妖精やらがいるじゃないですか。」
「なんで人間が入ってないのよ!」
「そりゃだって霊夢さん人間からの信仰ほとんど皆無……痛っ!」
霊夢が手元にあったティッシュケースで文のことを殴りつけた。
「次はティッシュケースじゃ済まないわよ」
「痛いー!だって事実じゃないですかぁ……。じゃあ逆に、霊夢さんは博麗神社に人間からのちゃんとした信仰があると思ってるんですか?」
ぷくっと頬を膨らませながら文がそう問いかける。
「ギクッ!」
肩を震わせた。その後、
「まあ、アンタのとこの発行部数には負けてないけどね。」
と、ニヤッと笑う。
「どんぐりの背比べもいいところだぜ……。」
かたや、隣では大きなため息を吐かれていた。
「いいわ。いいわよ。そんなに言うなら、みんなが食いつくような、祭りに展示できるネタを探して来てやるわ。アンタは新聞のネタを集めにきたんでしょ?『博麗神社、秘密の展示品 展示』とでも書いておきなさい!」
「あっ、おい!今から行くのか!?もうそろそろ日をまたぐぞ!それにお前祭りの時に酒入って……!」
さっきまでの気だるさは何処へいったのか、ズンズンと境内の方へ進む霊夢の裾をつかもうと、魔理沙は手を伸ばす。
が、掴めたものは空気だけだった。「あちゃあ……」
こうなったらもう霊夢はとめられない。
だったら追いかけても無駄なことだ。
祭りで回った酔いを覚ますように、冷たい麦茶を口付ける。
「え、え。霊夢さんはいいんですか?……って、もう無理か。じゃあ、魔理沙さんもさようなら。明日は頑張ってくださいね!」
そういうと、大袈裟に翼を広げて文は飛び立って行った。
バサバサと何枚か羽が舞い落ちる。
「なんで巫女でもない私が頑張れとか言われるんだよ……」


「博麗の名にかけて、絶対探してやるんだから!!」
ムシムシと暑い夜風に当たっても、酔いは覚めなかったが、気持ちはどんどん高まっていった。
ぎゅっと拳を握りしめる。
「とりあえず、どこに行こうかしら。」
目的は明確に定まっているのに、行く場所なんで全然決めずに飛び出してしまった。
けど、あんなことを2人に言っておいて、今更戻るのもなぁ……。
「って……ん?あれは……何かしら……」
黒や紫の混ざったような色の禍々しいものが、空高くに渦巻いているのが見えた。
ここは博麗神社の裏の森だし、大方全貌を把握していると思っていたんだけど……。
冥界の入口ではないだろうし。
「これはまさか異変……?」
頭の中でピッと一筋の予想が浮かぶ。
しかし、その予想は頭の中の大部分を占めるほど大きなものだった。「まぁ、異変だったとしたら異変解決の専門家として人里に名誉が知れ渡るだろうし、違ってもお祭りのネタが手に入るかもしれないし。どっちに転んでもメリットだわ!」
スピードをあげてその渦の方へ向かう。
これは……結界、かしら。
もしかしてこれ紫の結界だったりして。
顔が引き攣る。
それも入ってみれば分かることよね。
懐からすっとお祓い棒を取り出す。私なら大丈夫。
ぎゅっとお祓い棒を抱きしめ、渦の中に入っていった。
「っ……これは……」
結界に入ったとき特有の、視界がぐるぐると回り出す感覚に襲われる。
そこにちらつくのは、青い炎と幻想郷の美しい川や泉とは正反対の、荒々しい水が暴れるように飛び散る景色だった。
ただならない。
その言葉が1番似合うな、なんて呑気な考えが頭をよぎる。
ここまできてようやく、「酔った状態で異変解決は流石にまずいかもしれない」と顔を曇らせたのだった。
段々と視界が元に戻ってくる。
「え……」
視界が開けた瞬間、青い炎が目の前に飛んできた。お祓い棒を全力で振り、身体全体でそれを回避する。
「やばっ……!」
緊急回避したせいか、ぐらっと体勢がもたつく。
まるで弾幕のような青い炎と水柱。
けど、弾幕じゃない。
つまり……

「抜け道が……ない!!!」

博麗の巫女の悲鳴が、どこまでの結界の中を響き続けた。



「れーいーむーさーん、おはようございます!お祭りの準備はどうですかー?」
「見れば分かるだろ!お前!手伝え!」
魔理沙さんがひーひーと言いながらせっせと祭りの準備をしていた。
他には高麗野あうんと今日屋台を出す予定の河童や妖怪、妖精だけだった。
「あれ、とうの霊夢さんはどこに行ったんですか?」
「帰ってきてないんだよ!昨日ネタを探しに行くとか言って、そのままずっと!というか手伝え!」
「霊夢さんがお祭りで逃げ出すとは思えないのだけれど、どうやら本当にいないみたいなの。」
近くにいた三妖精が付け足すようにそう言った。
「うーん、そうなんですね。けど、当日にもなって帰ってこないなんて、何かあったんでしょうか。」
「あいつがネタ探しくらいでどうにかなるくらいヤワじゃないってお前も知ってるだろ!1回退治されたんだから!というか手伝え!」
霊夢さんがいないんじゃしかたない。探してくるしかないみたいね。人里のみんなもとうとう博麗守矢の決着だー!って、楽しみにしていたみたいだし。
「じゃあ、私森の方で霊夢さんのこと探してきますね。」
「ちょっ、早苗!ちょっと待てー!って、うわぁっ」
後ろからガタガタガタっと激しく木の板が崩れる音がした。


「うーん、森の方に来てみたはいいけど、本当にどこに行ったのか分からないのよね。まさか地下までは行っていないでしょうけど。」
草がふわふわと足をくすぐる。
「くすぐったい……っ」
足元を手で払いながら道を歩く。
虫もいるし、山に住んでるからっていって、この感覚は慣れないのよね……。
「あら……?これは守矢の巫女じゃない。」
「ふぇ……?あ、ああ!紫さんじゃないですか!」
ずっと下を向きながら歩いていたから、すぐに上を向くと首が痛くなる。
「ふふ、そんなに驚かなくてもいいじゃない。」
柔らかな髪を揺らしながらクスクスと笑う。
紫さんはさしていたいつもの傘をとじて、私に問いかける。
「あなた、妖怪の山の方に住んでいたはずよね。どうしてこんなところにいるの?」
「え、ええと、霊夢さんを探していたんです
。」
「……霊夢を?」
「はい、今日博麗神社でお祭りがあるってあるっていうのに、霊夢さんがいなくなったみたいで……」
白い薄手の手袋をつけた手を顎に当てて紫さんが考える素振りを見せる。
「私が探しておくわ。どうせ今頃いつもの博麗神社のメンバーが慌てて準備をしている頃でしょう?あなたも手伝って来てあげなさい。」
「は、はぁ……。分かりました!じゃあ、紫さんもお気をつけて!霊夢さんは祭りのネタ探しに行ったらしいので、面白そうな所にいる可能性が高いです!」
博麗神社の方に向かって走りながら、その情報だけは伝えた。
「まぁ、慌ただしいこと。ふふっ」


「いるかしら」
私は真っ直ぐと華扇の家へ向かった。
コンコン、と扉をノックする。
すると家の中から少し物音が聞こえてくる。
「いるみたいね。」
そういうと、中からガチャッと扉が開く。
「何かしら。珍しい訪問者ね。」
華扇は驚いたように、私を見るなり、周りをキョロキョロと見回す。
「周りには誰もいないわ。そうだったわね、あなたは私と関わっている所を見られると不都合……だったわね。」
そういうと、バツが悪そうに華扇は私から目線を逸らした。
「ふふ、いいのよ。けど、良ければ話したいことがあるの。いいかしら?」
もう一度傘を閉じて、首を少し傾ける。
「いいけれど……本当に珍しいわね。立ち話もアレだし、中に入る?ちょうど今お茶が入ったところだから。」
「あら、嬉しいわ。」
華扇に促されるように、家の中にお邪魔することになった。


「……なるほど。霊夢の失踪ね。」
華扇が紅茶を1口啜る。
「ふぅん……え!?!?ケホッケホッ」
紅茶のカップとお皿が激しく音を立てる。
「あらあら、大丈夫?」
「ぎ、逆になんであなたは落ち着いてるのよ!幻想郷の一大事よ!しかも昨日の夜からなんて!それに今日は博麗神社で夏祭りの当日じゃない!」
勢いよくむせながら捲し立てる華扇を見て、少し控えめに微笑む。
「ふふ。今私が霊夢を探しているところなの。あなたにはその手掛かりを聞こうと思って。何か『そっち』で動きはない?」
紅茶のカップを置いて、華扇の目を真っ直ぐと見据える。
「そっちって……。私はどっちにもついた覚えは無いのだけれど。」
「まぁ、今はいいじゃないの。分かるでしょ?」
華扇はまた喉の調子が戻ってきたのか、いつも通り話し始めた。
「まあ、そうだけど……。私が知っている情報を知りたいのね。最近聞いた話だと、地獄の方で少し動きがあるみたいね。」
「ほう……。地獄で?」
「ええ。まず、私の聞いた情報源が小町だから信用していいと思うわ。どういう動きかっていうと、またあの邪仙を捕らえに来たようね。また水鬼鬼神長が出向くらしいわ。」
「なるほど……。なぜ今更……?」
「分からないわ。けど、その水鬼がなにやら前回とは違った方法で、きているみたいね。」
また紅茶に口付ける。
「というのは……?」
「前回は水柱に閉じ込めるという形で実行しようとして失敗したから、今度は結界に閉じ込めるタイプにしたらしいわ。今は準備段階らいしけど。」
「なるほどね。確かに、彼女の壁を通り抜ける力をもってしても、結界は通り抜けれないかもね。」
「ええ。恐らく結界は無理ね。だって壁じゃないもの。」
華扇が椅子から立ち上がる。
「このままご飯でも食べたいところだけど、時間がないわ。あなたも顔には出さないだけで、今すぐここから出たくてたまらないんでしょ?」
「ふふっ、貴女にはかなわないわね。」
「貴女に言われると皮肉にしか聞こえないわ。」
華扇は動物達を呼んで、私の見送りに着いてくるように伝えた。
「ああ、いいのよ。すぐにおいとまさせていただくから。」
「ふふ、うずうずしてるの?本当に顔に出ないのね。怖いくらいだわ。」
そっと右手の包帯に触れたあと、「じゃあ、地獄のやつらのツテを使って、また新しく情報を仕入れておくから探しに行ってきなさい。」
と続けた。
「ええ、そうさせてもらうわ。」


華扇の家を出たあと、いや、あの話を聞いた時から嫌な予感が私の頭の中をぐるぐると巡っていた。
まさか。あの子……
「水鬼の結界の中に……?」
水鬼の力となってくれば、私だって太刀打ち出来るか……。いや、それも大きな問題となってくるが、その後だ。霊夢を助けるためには少なからず私自身か式神自身が水鬼の結界の中に入る必要がある。そうすれば私は地獄の計画の邪魔をする事になりかねない。そんなことになれば地獄からは必ず、挙句の果てには邪仙を捕らえるのを邪魔した罪で天人からも敵対視されるかもしれない。
もしそうなれば……
「天地VS地上……」
それは、絶対に避けなければ。
というか、霊夢が仮にもう水鬼の結界の中に入って暴れているなら既に宣戦布告になりかねない。
「大分まずいところまで来ているわね……」
とにかく、その水鬼の結界の中に侵入しないと……!
スキマを展開させ、幻想郷上空を様々な角度から見回す。
「あった……!」
黒や紫に染まった結界が激しく渦巻いていた。
ここは……博麗神社の裏の森の上空みたいね。
そのままスキマを潜り、結界の前まで移動する。
「ふぅ……。ふふ、全く、手のかかる子だわ。」
すっと指先から結界に触れる。
見た目の禍々しさと比べ、驚くほどすんなりとその結界は私の指を受け入れた。
多分、内部はどうなっているか……。賭けね。
指先から手首へと、ズブズブと中に手を突っ込んでいく。
「中は異常な熱気……冷気は無し……目立った弾幕なども無し……と見ていいわね。当たりだわ。」
軽く手の感覚を頼りに中の状況を探ってみたが、特に問題は無さそうだ。
どうやら運が良かったらしい。
それが分かると今度は体から結界の中に体を滑らせる。
「これは……」
ぐるぐると回る視界が元に戻って来る頃、目に映ったのは、様々な場所がそこら中に散りばめられたようなところだった。
あるところは民家が数軒たっていたり、あるところは不自然に抉られた山が。ある所には木の板がバキバキに割れた神社が。あるところは激しく荒れ狂う水柱が。共通点といえば、こんな混沌とした場所には似つかわしくないほど澄んだ青空、そして地面に薄く張られた美しい水だった。しかもそれらは少しずつ移動しており、ここもあと5分くらいたてば水柱にやられてしまいそうだ。
「本当に運が良かったみたいね……。」
すぐにこの場を移動して、暫くは落ち着いていそうに見える、壊れた神社のようなものかげの下に隠れた。
「ここで能力を使って移動するのは水鬼に見つかるリスクを高めそうね。って……」
風に舞うように、赤色の布の切れ端が飛んできた。
手でそれを掴んで、その布切れを確認する。
「これって……!」
間違いない。霊夢の装束の……!!
これが、霊夢がこの結界に侵入した事の決定打となった。
「もうそろそろ、ゆっくりもしていられないようね。」
なるべく使いたくは無かったが、いくつもの小さなスキマを自分の周りに展開させ、そこから水鬼の結界内の様子を見る。
小さいスキマだから中の様子が見にくいが、仕方ない。
「水柱ゾーンには無し……ここの周りもなさそうね……」
霊夢の姿が見当たらなかったスキマはどんどん閉じていく。
「ここは……っ!」
山でもなく森でもなく、果てしなく何も無い、薄く水が張られているだけの場所。
━━━━━そこに、彼女の装束が見えた。
「霊夢……!!」
他のスキマは全て閉じ、霊夢の装束の見えるスキマのみを残す。
彼女自身は見えないが、装束が酷くボロボロで、一部がはだけ落ちていた。
それに……動いていない。
「まずい……。ここからそれなりに距離があるわね」
走っていたら間に合わない。
リスク
その言葉が頭に浮かぶ。しかしそんなことを考えている暇はない。
「彼女を助けないと…………!」
その場に傘を投げ捨て、私が入れるだけの大きなスキマを展開する。
と、世界が突然ぐにゃっと曲がり始めた。
「気づかれたか……っ!」
周りの水柱の動きがいっそう激しくなる。
作ったスキマの中に体を入れ、霊夢の近くに移動する。
だが、ぐにゃぐにゃと動く地面にさらわれるように、どんどん霊夢は私の元から離れていった。
「霊夢っ……!」
スキマをくぐって見えた霊夢は、目を閉じていて、装束だけでなく彼女自身もボロボロになっていた。
「きゃっ!」
霊夢に気を取られていて気づかなかったが、後ろから木が丸ごと飛んできていた。
ビリッとスカートの裾や服が裂ける音がする。体からも赤く血が流れていた。
能力を使ったら相手に私の場所を知らせるようなもの……!
けど、霊夢が……!!
「能力が使えないなんて……。まるで人間にでもなった気分だわ……」
血が出ている腕は構わず、霊夢の元に走る。
後ろから水柱も迫ってきていた。
「霊夢!霊夢!!」
やろうと思えば、私だけならすぐに結界から抜け出すことは可能だろう。けど、霊夢。あなたには生きてもらわないといけないの。
「人間の貴女と過ごせる時間なんて元々短いんだから……。もう貴女とお酒が飲めないなんて、…………寂しいじゃない。」
今まで寿命で別れてきた何人もの人間の顔が浮かんでは消えていく。
その中でも、霊夢は私と対等レベルの力を持った人間で、特別な人だった。
そんな貴女がこんな形でいなくなるなんて。
私は嫌よ。
「霊夢!!!」
霊夢が流されていく方向にあったのは激しく暴れ狂う青い炎の渦だった。
「起きて!霊夢!!!!」
段々と水かさが増してきた水を足で蹴飛ばしながら全力で走る。そして、彼女に手を伸ばした時……
「ゆ、かり……」
霊夢は、私へと手を伸ばした。
「!霊夢っ!!」
手を伸ばした霊夢の手を掴み、そのまま力いっぱい腕を引いて抱きとめる。
間一髪、炎への衝突は避けられたみたいだ。
だが、私の腕体を掠めたのか、身体中から血が滲み出ていた。
周りを見ると、いつ飛ばされたのか分からないが、私の帽子がいつの間にか水柱の勢いに巻き込まれて、布クズと化している。
霊夢はまた気を失っているようで、反応がない。それに、呼吸も浅かった。
すぐにスキマを展開させ、さっき入ってきた水鬼の結界自体の入口へと繋ぐ。
「間に合って……!!!」
霊夢を庇うように抱きかかえながら、そのスキマのなかに飛び込んだ。



「霊夢さん、本当に帰ってきませんね。」
周りには屋台がそこらに並んでいた。
「ああ。もう祭りが始まる時間だぜ。本当に何かあったんじゃないか?」
さっきからチラチラと時計を確認していた魔理沙さんも、そろそろ本気で心配し始めたみたいだ。
「そういえば、華扇さまもいらっしゃいませんし……」
キョロキョロと辺りを見回しても、華扇さますら見当たらない。
「おいおい、もう対決どころの話じゃ無くなってきたぜ。」
魔理沙さんは額に手を当てて天を仰いでいる。
「ううん、けど、本当にどこに行ったんでしょう……?って、わあぁああ!!」
「お、どうしたんだ!?」
そこには、ボロボロになった紫さんが霊夢さんを抱きかかえている姿があった。
草はポタポタと紫さんから落ちる血で赤く染まっていた。
「え、ゆ、紫さん!?」
「霊夢!!」
2人で走って彼女たちの元に駆け寄る。
「な、何があったんだ!?霊夢は生きてるのか!?」
魔理沙さんが激しく動揺した声で紫さんに問い詰める。
「ケホッ……ええ、生きているわ。ちょっと……霊夢を任せるわ。」
紫さんが私に霊夢さんを手渡してくる。
「え、え、紫さんも永琳さんの所に行った方が……」
霊夢もそうだが、何故か紫も水に濡れていて、身体中血と水と泥まみれだった。
「何を言ってるの。私は妖怪よ。こんな傷すぐに治るわ。とにかく、霊夢を……」
「お、おいおい!お前もボロボロじゃないか!」
魔理沙さんの肩に紫さんが倒れ込む。
「ちょっと……無茶しすぎたみたいね。ふふ。後で事情は話すわ。早苗……霊夢を永遠亭まで連れていきなさい……あと……これを……」
紫さんが霊夢さんの服の懐の辺りに触れると同時に、小さな声で、そう命令された。
「あっ!はい!!」
走りやすいように霊夢さんを抱えなおし、永遠亭へと飛んで向かった。



「霊夢は無事か!?」
永遠亭の病室に、魔理沙が駆け込んでくる。
「みんなには夏祭りは延期だと伝えてきた!」
「ちょ、静かにして下さい!」
なかなかに興奮状態の魔理沙を鎮めようと、早苗はとりあえず傍にあった椅子に座らせる。
すると、後ろから永琳も病室に入ってきた。
「彼女は無事よ。薬を投与して寝かせているから、もうしばらくすれば目が覚めるでしょう。」
「これは追加の薬。」と、永琳は水とともに霊夢の口に白い粉を入れた。
「ん……っ」
霊夢がそれに反応するように少し声を出す。
「霊夢!起きたか!?」
また大声になった魔理沙は椅子から立ち上がり、霊夢の元に駆け寄った。
ピクピクと動く瞼がゆっくりと持ち上がる。
「ん……いま……なんじ……」
「霊夢っ!!!」
ガバッと魔理沙が霊夢に抱きつく。
「わ!え、ちょっ、え!?」
まだ寝起きなのに一気に目が覚めたのか、霊夢は大きな声をあげる。
「どうやら起きたみたいね。」
そういいながら、永琳がカルテにメモを記入する。
「ちょっとあなたどきなさい。……特に体に異常なし……神経の麻痺なども見られない……。霊夢は元に戻ったみたいね。あとは少しづつ傷を治していけば、数日後には元通りになるでしょう。」
「本当か!?」
「なんでアンタが私より驚いてるのよ。というか、なんで私こんなところに……」
霊夢はまだ混乱した様子で魔理沙に問いかけた。
「霊夢さん、昨日からお祭りのネタ探しに行ってたみたいじゃないですか。後から聞いたんですけど、どうやら水鬼っていう鬼の結界に侵入して危険だったところをゆか……むぐっ」
まだ話している途中で魔理沙が早苗の口を抑える。
「ど、どうしたんですか魔理沙さん。」
そのまま腕をぐっとひかれ、耳元で魔理沙さんが囁いた。
「紫がこのことを霊夢には言わないで欲しいんだと。」
「な、なんでですか?」
「命を救った相手として、とじゃなくて、紫としてこれからも霊夢と酒が飲みたいんだとかなんとか。」
「なんですか、それ。霊夢さんがそんなもの意識するとは到底……。」
とは言ったものの、流石にこう言われれば喋る訳にもいかない。
霊夢の方に向き直り、
「あ、あー、さっきの話しはどうでもいいんですけどー、とにかく霊夢さんが酔った勢いで森に突っ込んだみたいで、それを妖精たちが見つけて運んでくれたらしいんですよー」
わざとらしい話の切り替えをしたが、どうだ……?と早苗が魔理沙の方を横目で見ると、うんうん、と頷いていた。
成功のようだ。
「そうだったの……。確かに昨日は酔っていたし……。って!祭りは!?決着はどうなったの!?」
「まあ落ち着け。私が今日の祭りは延期だって妖怪やら妖精やらに伝えておいたから。」
「あ、あぁ……そうだったの。迷惑かけたわね。」
霊夢たちが会話を重ねているところに水を差すように、永琳が「もうあなたたちは帰りなさい。霊夢はもうすこし安静にさせておくから」と告げた。
霊夢は帰っていく2人の後ろ姿を眺めながら、眠っている間に見た、黄色く長い髪のことを思い出していた。



ドンチャ、ドンチャ、と楽器の音が聞こえてくる。博麗神社の鳥居には、『博麗神社夏祭り 鬼のツメ展示』と記された紙が大きく貼られてあった。
どうやら、永琳の元に運ばれる時、霊夢の懐から鬼のツメらしきものが出てきたんだとか。
祭りの飲み場が少し騒がしい。
そこには━━━━━━━━━━━━
「霊夢ぅ、一緒に飲みましょうよー♡」
「さてはアンタもう酒回ってるわね」
頬をヒクヒクと引き攣らせながら、霊夢が紫のことを突っぱねていた。
まだ霊夢は手に包帯を巻いており、突っぱねる力はとてもよわよわしかった。
「いいじゃない。まだ瓶2本しか飲んでないわ〜」
ぷくっと頬を膨らませる紫の手に握られていたのは、『鬼ごろし』と書かれた瓶だった。
「もー!なんで私が妖怪と飲まなきゃいけな……!あっ魔理沙いるじゃない!助けてまりさぁ……!」
魔理沙は私の方に振り向いたが、「たまには飲んでやればいいんじゃないかー?」と大声で叫んでどっか行った。
「あっ!薄情者ー!!」
魔理沙の隣にいた早苗も、うんうんと頷いてどっか行った。
「な、なんで今日はみんな紫の味方なのよーー!!!」


博麗の巫女の声が神社の境内にこだまする。
だが、その隣で紫は満足そうな微笑みを浮かべるのだった。
こんにちは、レアです!
まずはこのお話を見つけて下さって、ありがとうございます。えー、前作の投稿日から早……1年!?時の流れは早いものですね……。前作を見てくださった方は、「お……?」と思われたかもしれませんね。いつもはほのぼのとしたストーリーを投稿していたのですが、今回始めて、すこし激しめな部分のあるストーリーを描かせていただきました。けど、このお話を書こう!と決めてから投稿までに2日しかかからず。それも「ゆか霊夢を描きたい……!」という強い思いからなのでしょう笑
では、最後までご覧下さり、ありがとうございました!
レアちゃわんむし
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最後のだだ甘なゆかれいむが良かったです。
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助けに入る紫が勇敢でよかったです
9.90ローファル削除
いいゆかれいむでした。
面白かったです。