「霊夢さん、折り入って相談があります。」
と、凄く真剣味を帯びた表情で少女__魂魄妖夢は私に相談を持ちかけてきた。
「面倒くさい。」
「そ、そこをなんとか...」
幻想郷の中じゃまともな方とは言え、相談事とかどうせ碌な事では無い。博麗の巫女はカウンセリングでは無いんだよ。
「なんで私が相談事なんか引き受けなきゃいけないのよ...そんなの私より賢い幽々子とか紫で良いじゃない。」
「幽々子様はハッキリと言ってくれないので困るんです。紫様は胡散臭いですし。」
まぁ、ぶっちゃけ妖夢の言いたい事は分かる。幽々子はいつもふわふわしていて的確な事を言わないし、紫が胡散臭いのは言わずもがなだ。私だって紫に相談事はごめんだろう。
「 ...魔理沙とかはど」
「なんで霊夢さんより親しく無い魔理沙に相談しなきゃいけないんですか。」
食い気味に反応した。あちゃあ、やっぱり地雷だったか...
最近、妖夢は魔理沙の事をあまり好ましく思っていない。
無理も無い。魔理沙は『死ぬまで借りてるだけ』と称して色んな人の所有物を盗むクセがあるのだ。その上魔理沙は私に次いで弾幕ごっこが強いから、大半の人妖は魔理沙の侵攻を止められず、所有物を盗まれてしまう。あまりに周りが可哀想な話だが、なんやかんやで魔理沙は周りから恨まれつつ好かれている。恐らく魔理沙の快活でストイック(それでいて捻くれ者)な性格が人妖を惹きつけるのだろう。特に理由も無く人妖に好かれる私とは違う。魔理沙は理由があって人妖に好かれている。
そんな魔理沙が何故好き嫌いが無さそうな妖夢が嫌っているのかと言うと、簡単に言えば最近、魔理沙は白玉楼にも盗みに入るようになったのだ。
それだけなら最早魔理沙の恒例行事だし、妖夢もそこまで怒りはしないのだが。
以前魔理沙が盗みに入った時、白玉楼の、特に妖夢が大事にしていた『妖刀ムラサマ』を盗んで行ったのだ。
これには流石の妖夢も慌てて魔理沙を追いかけて、弾幕ごっこをしかけた。
弾幕ごっこをしている最中は良かったのだが、妖夢が魔理沙に近づき、一撃が決まりそうになった瞬間、魔理沙は咄嗟に盗んだ『妖刀ムラサマ』で防ごうとしてしまったのだ。
......お世辞を抜きにして、妖夢の刀の切れ味は恐ろしいほど鋭い。春節異変の時は周りにあった石灯籠や大木を片っ端から刀で切断していたのを今でも覚えている。(後で紫に聞いたが、刀で大きな石や大木を一太刀で切断するのは普通は出来ないらしい。)
そんな刀を昔の妖刀が受けたらどうなるだろう。
妖刀は、真っ二つに割れてしまったのだ。
魔理沙は酷く真っ青な顔をしていたらしいし、妖夢は逆に怒りで顔が真っ赤になっていたらしい。
後で魔理沙に聞いた話だが、あの時の妖夢の事を魔理沙は一言、「アイツもあんなに恐ろしい表情になる時があるんだな」って言ってた。
妖夢は、基本的に誰に対しても「さん」付けで話す。そんな妖夢がその事件の後から魔理沙だけは呼び捨てで話すのだ。どれほど恨んでいるか容易に想像出来る。
あぁ、話が逸れた...
「大体人の物を盗むとかふざけた事考えてるからあんな捻くれた性格になるんですよ...」
妖夢はさっきからぶつぶつ魔理沙に対する文句を言いまくっている。
この地雷を踏んでしまった償いくらいはするできだろうか?
「......はぁ。まぁ、良いわよ。聞いてあげる。」
その瞬間、妖夢は顔をパァッと明るくして
「良いんですか!霊夢さん!」
なんて言ってくれるもんだからこちらもついつい嬉しくなってしまう。
❇︎
「で?相談して欲しい事って?」
実際妖夢が私に相談したい事ってなんだろう。別に妖夢とはそれなりには親しいが、決して親密な訳では無い。やっぱり私じゃ役不足な気がするけど。
しかし、妖夢が話した内容はあまりに想定外だった。
「私って、そんなに馬鹿なんでしょうか?」
「...は?」
急にどした!?そう言う話!?あー、まぁそれじゃあ私でも足りるわ。
まぁ、これは心苦しいが、本人のためを思って正直に言おう。
「うん、馬鹿」
「グサッッ!!」
どうやら私の言葉の刃は妖夢の心にクリーンヒットしたらしい。
「でも、どうして急にそんな事聞いてきたのよ。誰かに言われたの?」
「う、うぅ...実は、この前咲夜さんにそう言われてしまって...」
あぁ,,,咲夜なら言いそうだ。アイツはどんな事もバッサリと言うタイプだしね。
「まぁ、咲夜なら言いそうね...でも実際の所、自分でも少し思ってんじゃないの?」
「うっ!」
無理は無い。なんていうか、妖夢は修行と従者の仕事に追われている。
例えば私や咲夜は生まれ持った天性である程度戦闘も出来るし、その分勉学に時間を回す事もできる。
魔理沙は強くなる為の魔法の研究が勉学に繋がっている。
早苗は外の世界出身で、よく分かんないけどリケジョ?だから頭が良いらしい。
鈴仙は月の都の超科学で育った兎だから、ああやって見えて結構賢い。
要するに、妖夢は私たちの周りの中で擁護しようもなく1番馬鹿に入ってしまうのだ。
「うん、まぁほら、妖夢はその分強いから」
「私より強い人がなんか言ってらぁ斬り捨てんぞコラァ」
本日2回目の地雷踏み抜き。歪な笑顔で今にも刀を鞘から抜き出しそうな妖夢がマジで怖い。
「ほら、妖夢は仮に馬鹿でも真面目なのが取り柄だと思うのよ。私達って地味にみんな不真面目な所あるからさ、」
これは事実である。時々、私も妖夢の真面目な所が羨ましくなる事もある。結局人は自分に持たない物をなんでも持ちたがるのだ。
「フォローしてるつもりなんでしょうけど、この前霊夢さん宴会の時、『あんたのその真面目すぎる性格直した方が良いんじゃないのぉ?』って言ってたの覚えてますからね。」
オイなんて事言ってんだ過去の私よ。
今すぐ自分の顔を殴りたくなる衝動を抑えながら、次の手を考える。......無い。
とりあえず誤魔化そう。
「方法は幾つかあると思うわ。」
「どういう方法ですか?」
「どうにか時間をとって勉学に励めば...」
「やだなぁ、それが出来たら苦労してませんよ霊夢さん。」
そりゃそうか。
「じゃあもうお馬鹿キャラで貫き通しなさい。大丈夫よ。読者の皆様はそんな妖夢も好きでいてくれると思うわ。」
「霊夢さんメタ発言はやめて下さい後お馬鹿キャラはなんか嫌です。」
慌てた様子で妖夢に拒否されてしまった。
「そもそも霊夢さんってなんで変な所物知りなんですか?」
「あ〜?そりゃ私だって勉学に励んでる時があるからよ。」
「え、霊夢さんって絶対に修行とか努力をしないナマケモノだと思ってた」
「私のことバカにしてんのかコラ」
コイツ...急に来た思ったら人のことナマケモノ呼ばわりしやがって...
あ、ここで1つ名案を思いついた。
「そうだ。だったら寺子屋に行くのはどうかしら。」
「寺子屋...ですか?」
「そ。色んな学問を学ぶ所よ。朝昼は幼い子供や幼い見た目の妖が学びに行ってるけど、夜は中高年の人を対象に授業を行ってるから妖夢でも行けると思うわよ。幽々子もそういう理由ならあっさり外出を許してくれるんじゃないかしら。」
「な、なるほど...!」
後日、妖夢は寺子屋の夜の部に出席する事になった。
「お、あなたが今日初めて授業を受ける魂魄か?」
「あ、はい!魂魄妖夢と申します。よろしくお願いします。上白沢...先生?」
「あはは、慧音先生で良いぞ。その方が呼ばれる方としても嬉しい。」
「分かりました。」
❇︎
私は初めて寺子屋の授業を受けたのだけど、慧音先生の教え方は非常に分かりやすかった。
言葉もハキハキしていて聞き取りやすい。...難点を挙げるとすれば説明が非常にマジメ腐っていて、眠くなってしまう生徒が大半、って事だろうか。
私は普段からこう言うのには慣れているので、問題無く授業を受けれた。 普段は聞き流しているだけ?うるさいですね。ぶった斬りますよ?
慧音先生の授業の種類はたくさんあり、私はその中でも歴史の授業を受ける事にした。
この幻想郷が作られてから、今までの歴史には様々な出来事があったらしい。
結界が作られた理由、どうやって結界を作ったか、結界生成当初に起きた人類の侵攻、第一次月面戦争、博麗の巫女が誕生した理由、御阿礼の子が転生する原理などなど。名前しか知らないような出来事や、名前すら聞いたことの無い過去の出来事の詳細に私は凄く興味を持った。
元から慧音先生はワーハクタクと言う妖怪らしく、歴史に対しての知識は膨大なものだった。今日の授業で聞いた話も、極一部に過ぎないらしい。凄い知識量。
そして今度、今まで学んだ歴史の授業のテストがあるのだ。
私は余った時間で少しでも勉強した。稽古の時間も少ーしだけ、減らして勉学に励んだ。
いや、ホント少しだけですよ?
「よし、お前たち、ちゃん勉強してきたな?じゃあ今からテスト用紙を配るぞ。」
そしてテスト当日になった。大丈夫、勉強した事は覚えてるはず。
これで私はおバカキャラを卒業するんだ!
という私の熱い野望を胸に、テストに取り組む。
ふむふむ、えーと「幻想郷は今から約何年前に発足されたか?」確か、文化は外の世界で言う明治大正時代なんだけど、作られたのは平安時代だから...約1200年前?え、そんな前からあったんだ、やっぱり何度聞いてもビックリ。
基本は覚えていれば分かる問題だったので、高い点数は取れたと思う!
テスト返却の日が来た。
あわよくば満点を取って幽々子様に褒めてもらうんだ!なんて煩悩は決して持って無い。冷静に、冷静に...ふふ、落ち着け妖夢よ。ダメだ全然落ち着かない。
はやる気持ちを抑えながら、自分の名前が呼ばれるのを待つ。
「次、魂魄妖夢。」
「はい!」
「魂魄。」
「...はい?」
「お前、純粋すぎるぞ...0点だ...」
「...ふぇ?」
❇︎
「あはははっ!」
「わ、笑わないでくださいよ霊夢さん...!」
あの後、私は物凄いショックを抱えたまま、霊夢さんのところへ行った。笑われて更に深い傷がついたけど。
「ごめんごめん。でもね、妖夢。あんたが0点だったのは、あんたがバカって訳じゃ無いのよ。」
「な、何言ってるんですか...!0点ってそう言う事じゃ無いですか...!」
あーあ。あんなに頑張ったのに。嫌になってきちゃう。
「だから違うんだって。私がテストした時にもいたわ。0点の子。でもそれってバカじゃないの。純粋なだけ。言葉をそのまま受け止めちゃうのよね。」
純粋...?
「えぇ。慧音はね、授業はストイックなんだけど、テストでは捻くれた問題を沢山出す事で有名なのよ。妖夢は言葉通りに捉えちゃったから全部間違えちゃっただけ。考えは合ってるの。」
「そ、そうなんですか...?」
にわかにまだ信じれてない気持ちで霊夢さんに問いかける。
「うん。例えば、この『幻想郷は今から約何年前に発足されたか?』って問題。これね、答えるのは幻想郷が作られた時の事じゃ無いのよ。」
え?どう言う事?
「発足って言い方がしっくりくるのは、〇〇案とかじやない?つまり、幻想郷案が発足されたのはいつか?それは紫がその計画を考えた瞬間よ。これは幻想郷が作られた100年前だから、答えは1300年前 よ。」
な、なんですとぉ...!
とんだ意地悪問題だ。こんなの解ける人いるんだろうか。
「妖夢は頑張ってたと思うわよ。でもアンタは純粋すぎるから、慧音のテストで高得点を取るのは無理でしょうねぇ。まぁ授業の内容が頭に入ってるなら、たまには知識自慢出来るんじゃない?」
「たまには...ですか...」
私が残念そうな顔をしていると、霊夢さんが話を付け加えてくれた。
「いい?妖夢。無理する必要は無いと思うの。別にバカだったとしてもそれはそれで別に良い所があるわ。あんたは真面目で純粋な所が良い所よ。やっぱり。宴会であー言っちゃったらしいけど、気にする必要なんてないわ。私が言ってる事も所詮は何も知らない他人の意見でしか無いんだから。そんなのに振り回されてちゃダメよ。」
なるほど、確かに私は周りの人の意見や言葉に振り回されていたかもしれない。
ある日には暫く仙人だと思い込んでいた時があったし。
考えすぎもダメ...か。
そうしよう。前よりかは賢くなったなとは思うし、これ以上無理に頑張る必要は無い。
あれ?でも待てよ?私は1つ気になった事を聞く。
「あれ、霊夢さん。」
「ん?何よ。」
「私って、物事をそのまま受け止める純粋な性格が長所なのに、周りに振り回されるなよっていうのは、矛盾してるんじゃないんですか?」
私がそう聞くと、霊夢さんは凄い渋い顔をして、
「......確かにそうかもしれないわね。」
と言った。
と、凄く真剣味を帯びた表情で少女__魂魄妖夢は私に相談を持ちかけてきた。
「面倒くさい。」
「そ、そこをなんとか...」
幻想郷の中じゃまともな方とは言え、相談事とかどうせ碌な事では無い。博麗の巫女はカウンセリングでは無いんだよ。
「なんで私が相談事なんか引き受けなきゃいけないのよ...そんなの私より賢い幽々子とか紫で良いじゃない。」
「幽々子様はハッキリと言ってくれないので困るんです。紫様は胡散臭いですし。」
まぁ、ぶっちゃけ妖夢の言いたい事は分かる。幽々子はいつもふわふわしていて的確な事を言わないし、紫が胡散臭いのは言わずもがなだ。私だって紫に相談事はごめんだろう。
「 ...魔理沙とかはど」
「なんで霊夢さんより親しく無い魔理沙に相談しなきゃいけないんですか。」
食い気味に反応した。あちゃあ、やっぱり地雷だったか...
最近、妖夢は魔理沙の事をあまり好ましく思っていない。
無理も無い。魔理沙は『死ぬまで借りてるだけ』と称して色んな人の所有物を盗むクセがあるのだ。その上魔理沙は私に次いで弾幕ごっこが強いから、大半の人妖は魔理沙の侵攻を止められず、所有物を盗まれてしまう。あまりに周りが可哀想な話だが、なんやかんやで魔理沙は周りから恨まれつつ好かれている。恐らく魔理沙の快活でストイック(それでいて捻くれ者)な性格が人妖を惹きつけるのだろう。特に理由も無く人妖に好かれる私とは違う。魔理沙は理由があって人妖に好かれている。
そんな魔理沙が何故好き嫌いが無さそうな妖夢が嫌っているのかと言うと、簡単に言えば最近、魔理沙は白玉楼にも盗みに入るようになったのだ。
それだけなら最早魔理沙の恒例行事だし、妖夢もそこまで怒りはしないのだが。
以前魔理沙が盗みに入った時、白玉楼の、特に妖夢が大事にしていた『妖刀ムラサマ』を盗んで行ったのだ。
これには流石の妖夢も慌てて魔理沙を追いかけて、弾幕ごっこをしかけた。
弾幕ごっこをしている最中は良かったのだが、妖夢が魔理沙に近づき、一撃が決まりそうになった瞬間、魔理沙は咄嗟に盗んだ『妖刀ムラサマ』で防ごうとしてしまったのだ。
......お世辞を抜きにして、妖夢の刀の切れ味は恐ろしいほど鋭い。春節異変の時は周りにあった石灯籠や大木を片っ端から刀で切断していたのを今でも覚えている。(後で紫に聞いたが、刀で大きな石や大木を一太刀で切断するのは普通は出来ないらしい。)
そんな刀を昔の妖刀が受けたらどうなるだろう。
妖刀は、真っ二つに割れてしまったのだ。
魔理沙は酷く真っ青な顔をしていたらしいし、妖夢は逆に怒りで顔が真っ赤になっていたらしい。
後で魔理沙に聞いた話だが、あの時の妖夢の事を魔理沙は一言、「アイツもあんなに恐ろしい表情になる時があるんだな」って言ってた。
妖夢は、基本的に誰に対しても「さん」付けで話す。そんな妖夢がその事件の後から魔理沙だけは呼び捨てで話すのだ。どれほど恨んでいるか容易に想像出来る。
あぁ、話が逸れた...
「大体人の物を盗むとかふざけた事考えてるからあんな捻くれた性格になるんですよ...」
妖夢はさっきからぶつぶつ魔理沙に対する文句を言いまくっている。
この地雷を踏んでしまった償いくらいはするできだろうか?
「......はぁ。まぁ、良いわよ。聞いてあげる。」
その瞬間、妖夢は顔をパァッと明るくして
「良いんですか!霊夢さん!」
なんて言ってくれるもんだからこちらもついつい嬉しくなってしまう。
❇︎
「で?相談して欲しい事って?」
実際妖夢が私に相談したい事ってなんだろう。別に妖夢とはそれなりには親しいが、決して親密な訳では無い。やっぱり私じゃ役不足な気がするけど。
しかし、妖夢が話した内容はあまりに想定外だった。
「私って、そんなに馬鹿なんでしょうか?」
「...は?」
急にどした!?そう言う話!?あー、まぁそれじゃあ私でも足りるわ。
まぁ、これは心苦しいが、本人のためを思って正直に言おう。
「うん、馬鹿」
「グサッッ!!」
どうやら私の言葉の刃は妖夢の心にクリーンヒットしたらしい。
「でも、どうして急にそんな事聞いてきたのよ。誰かに言われたの?」
「う、うぅ...実は、この前咲夜さんにそう言われてしまって...」
あぁ,,,咲夜なら言いそうだ。アイツはどんな事もバッサリと言うタイプだしね。
「まぁ、咲夜なら言いそうね...でも実際の所、自分でも少し思ってんじゃないの?」
「うっ!」
無理は無い。なんていうか、妖夢は修行と従者の仕事に追われている。
例えば私や咲夜は生まれ持った天性である程度戦闘も出来るし、その分勉学に時間を回す事もできる。
魔理沙は強くなる為の魔法の研究が勉学に繋がっている。
早苗は外の世界出身で、よく分かんないけどリケジョ?だから頭が良いらしい。
鈴仙は月の都の超科学で育った兎だから、ああやって見えて結構賢い。
要するに、妖夢は私たちの周りの中で擁護しようもなく1番馬鹿に入ってしまうのだ。
「うん、まぁほら、妖夢はその分強いから」
「私より強い人がなんか言ってらぁ斬り捨てんぞコラァ」
本日2回目の地雷踏み抜き。歪な笑顔で今にも刀を鞘から抜き出しそうな妖夢がマジで怖い。
「ほら、妖夢は仮に馬鹿でも真面目なのが取り柄だと思うのよ。私達って地味にみんな不真面目な所あるからさ、」
これは事実である。時々、私も妖夢の真面目な所が羨ましくなる事もある。結局人は自分に持たない物をなんでも持ちたがるのだ。
「フォローしてるつもりなんでしょうけど、この前霊夢さん宴会の時、『あんたのその真面目すぎる性格直した方が良いんじゃないのぉ?』って言ってたの覚えてますからね。」
オイなんて事言ってんだ過去の私よ。
今すぐ自分の顔を殴りたくなる衝動を抑えながら、次の手を考える。......無い。
とりあえず誤魔化そう。
「方法は幾つかあると思うわ。」
「どういう方法ですか?」
「どうにか時間をとって勉学に励めば...」
「やだなぁ、それが出来たら苦労してませんよ霊夢さん。」
そりゃそうか。
「じゃあもうお馬鹿キャラで貫き通しなさい。大丈夫よ。読者の皆様はそんな妖夢も好きでいてくれると思うわ。」
「霊夢さんメタ発言はやめて下さい後お馬鹿キャラはなんか嫌です。」
慌てた様子で妖夢に拒否されてしまった。
「そもそも霊夢さんってなんで変な所物知りなんですか?」
「あ〜?そりゃ私だって勉学に励んでる時があるからよ。」
「え、霊夢さんって絶対に修行とか努力をしないナマケモノだと思ってた」
「私のことバカにしてんのかコラ」
コイツ...急に来た思ったら人のことナマケモノ呼ばわりしやがって...
あ、ここで1つ名案を思いついた。
「そうだ。だったら寺子屋に行くのはどうかしら。」
「寺子屋...ですか?」
「そ。色んな学問を学ぶ所よ。朝昼は幼い子供や幼い見た目の妖が学びに行ってるけど、夜は中高年の人を対象に授業を行ってるから妖夢でも行けると思うわよ。幽々子もそういう理由ならあっさり外出を許してくれるんじゃないかしら。」
「な、なるほど...!」
後日、妖夢は寺子屋の夜の部に出席する事になった。
「お、あなたが今日初めて授業を受ける魂魄か?」
「あ、はい!魂魄妖夢と申します。よろしくお願いします。上白沢...先生?」
「あはは、慧音先生で良いぞ。その方が呼ばれる方としても嬉しい。」
「分かりました。」
❇︎
私は初めて寺子屋の授業を受けたのだけど、慧音先生の教え方は非常に分かりやすかった。
言葉もハキハキしていて聞き取りやすい。...難点を挙げるとすれば説明が非常にマジメ腐っていて、眠くなってしまう生徒が大半、って事だろうか。
私は普段からこう言うのには慣れているので、問題無く授業を受けれた。 普段は聞き流しているだけ?うるさいですね。ぶった斬りますよ?
慧音先生の授業の種類はたくさんあり、私はその中でも歴史の授業を受ける事にした。
この幻想郷が作られてから、今までの歴史には様々な出来事があったらしい。
結界が作られた理由、どうやって結界を作ったか、結界生成当初に起きた人類の侵攻、第一次月面戦争、博麗の巫女が誕生した理由、御阿礼の子が転生する原理などなど。名前しか知らないような出来事や、名前すら聞いたことの無い過去の出来事の詳細に私は凄く興味を持った。
元から慧音先生はワーハクタクと言う妖怪らしく、歴史に対しての知識は膨大なものだった。今日の授業で聞いた話も、極一部に過ぎないらしい。凄い知識量。
そして今度、今まで学んだ歴史の授業のテストがあるのだ。
私は余った時間で少しでも勉強した。稽古の時間も少ーしだけ、減らして勉学に励んだ。
いや、ホント少しだけですよ?
「よし、お前たち、ちゃん勉強してきたな?じゃあ今からテスト用紙を配るぞ。」
そしてテスト当日になった。大丈夫、勉強した事は覚えてるはず。
これで私はおバカキャラを卒業するんだ!
という私の熱い野望を胸に、テストに取り組む。
ふむふむ、えーと「幻想郷は今から約何年前に発足されたか?」確か、文化は外の世界で言う明治大正時代なんだけど、作られたのは平安時代だから...約1200年前?え、そんな前からあったんだ、やっぱり何度聞いてもビックリ。
基本は覚えていれば分かる問題だったので、高い点数は取れたと思う!
テスト返却の日が来た。
あわよくば満点を取って幽々子様に褒めてもらうんだ!なんて煩悩は決して持って無い。冷静に、冷静に...ふふ、落ち着け妖夢よ。ダメだ全然落ち着かない。
はやる気持ちを抑えながら、自分の名前が呼ばれるのを待つ。
「次、魂魄妖夢。」
「はい!」
「魂魄。」
「...はい?」
「お前、純粋すぎるぞ...0点だ...」
「...ふぇ?」
❇︎
「あはははっ!」
「わ、笑わないでくださいよ霊夢さん...!」
あの後、私は物凄いショックを抱えたまま、霊夢さんのところへ行った。笑われて更に深い傷がついたけど。
「ごめんごめん。でもね、妖夢。あんたが0点だったのは、あんたがバカって訳じゃ無いのよ。」
「な、何言ってるんですか...!0点ってそう言う事じゃ無いですか...!」
あーあ。あんなに頑張ったのに。嫌になってきちゃう。
「だから違うんだって。私がテストした時にもいたわ。0点の子。でもそれってバカじゃないの。純粋なだけ。言葉をそのまま受け止めちゃうのよね。」
純粋...?
「えぇ。慧音はね、授業はストイックなんだけど、テストでは捻くれた問題を沢山出す事で有名なのよ。妖夢は言葉通りに捉えちゃったから全部間違えちゃっただけ。考えは合ってるの。」
「そ、そうなんですか...?」
にわかにまだ信じれてない気持ちで霊夢さんに問いかける。
「うん。例えば、この『幻想郷は今から約何年前に発足されたか?』って問題。これね、答えるのは幻想郷が作られた時の事じゃ無いのよ。」
え?どう言う事?
「発足って言い方がしっくりくるのは、〇〇案とかじやない?つまり、幻想郷案が発足されたのはいつか?それは紫がその計画を考えた瞬間よ。これは幻想郷が作られた100年前だから、答えは1300年前 よ。」
な、なんですとぉ...!
とんだ意地悪問題だ。こんなの解ける人いるんだろうか。
「妖夢は頑張ってたと思うわよ。でもアンタは純粋すぎるから、慧音のテストで高得点を取るのは無理でしょうねぇ。まぁ授業の内容が頭に入ってるなら、たまには知識自慢出来るんじゃない?」
「たまには...ですか...」
私が残念そうな顔をしていると、霊夢さんが話を付け加えてくれた。
「いい?妖夢。無理する必要は無いと思うの。別にバカだったとしてもそれはそれで別に良い所があるわ。あんたは真面目で純粋な所が良い所よ。やっぱり。宴会であー言っちゃったらしいけど、気にする必要なんてないわ。私が言ってる事も所詮は何も知らない他人の意見でしか無いんだから。そんなのに振り回されてちゃダメよ。」
なるほど、確かに私は周りの人の意見や言葉に振り回されていたかもしれない。
ある日には暫く仙人だと思い込んでいた時があったし。
考えすぎもダメ...か。
そうしよう。前よりかは賢くなったなとは思うし、これ以上無理に頑張る必要は無い。
あれ?でも待てよ?私は1つ気になった事を聞く。
「あれ、霊夢さん。」
「ん?何よ。」
「私って、物事をそのまま受け止める純粋な性格が長所なのに、周りに振り回されるなよっていうのは、矛盾してるんじゃないんですか?」
私がそう聞くと、霊夢さんは凄い渋い顔をして、
「......確かにそうかもしれないわね。」
と言った。
自分の言葉選びが下手くそでした。気分を悪くされた様でしたらごめんなさい。
今回の作品は前回までと比べても読みやすくなっているように感じましたし、クスッとなる場面も多くて面白かったです。
これからも応援しています。
結局最初から最後までまじめだった妖夢がかわいらしかったです
とはいえ全体としては漠然とした「妖夢は馬鹿である」というのを具体的に言語化していくというストーリーを、ともすれば誹謗中傷になりかねないところをキャラを不必要に下げることなく丁寧に書いていて読んでてほっこりとしました。
「カギカッコ文章」
無印文章
↑ここ