桜が咲いている時間は思ったよりも短い。
騒いでは酩酊している間はいつまでもこの時間が続くような気がしている。桜の花が5輪確認されるよりも前に、桜の木の下で誰かが酒を呑んでいるからだろうか。桜が満開になる頃には、前後不覚の毎日に口元が緩くなる。「まりさ」どうして花が咲いているだけなのに、皆うれしくて仕方ないのだろう。「まありぃ……」私だって、騒いで酔って寝て、この時期はほとんど記憶を失くしている。「まりさぁ」記憶が失くなるまで呑むって、それ、呑む意味あるのか?
「ねえってば、魔理沙ぁ」
「ああもうお前は黙ってろよ霊夢!」
「ふふっなんなの? キレちゃって」
膝の上で霊夢が寝返りを打つ。霊夢は手を伸ばし、両手で私の顔を包み込むと力づくで引っ張った。「ああああ痛いいたいっ!やめろっ」必死で抵抗するが、こいつの馬鹿力には勝てそうになかった。両手を床について耐え、すっ転ぶ。床に投げ出された私に、霊夢はひしと抱きつくとゆるゆると笑ったのだった。私はため息にならない息をつき、諦めてそっと霊夢の腰に手を置いた。
昨夜、ほとんど散った桜の下で酒を呑んだ。宴会というほどのものではなかった。人数も少なくなって、口数も少ない静かな夜だった。私は黙って霊夢を見た。霊夢も、私を見た。瞼を伏せた、湖のような目は、どうしてかそれ以上にものを伝えてきた。霊夢はさっと目を逸らし、酒を呑んだ。私も散った桜に視線を移し、酒を呑んだ。呑んだ、呑んだ……。
気が付くと朝だった。
目を覚ますと、ふにゃふにゃした霊夢が私に纏わりついていた。昨日、なにかあったのか。酒を呑みすぎたことは覚えているが、酒が美味かったかは覚えていない。霊夢の目のことは覚えているが、正直それは夢だったんじゃないかと言われればそうかもしれないとしか言えない。何を話したか、覚えていない。誰がいたかも覚えていない。何かあったかもしれないが、覚えていない。
「……霊夢、昨日、なにか、したか?」
「なにかって、なんのこと」
「というか、まだ酔ってるか?」
「酒は抜けたわ」
なにを聞けば私の気持ちは落ち着くのだろうか。私の首元に顔を埋めた霊夢はそれ以上動こうとはしなかった。人肌のあたたかさと、霊夢の呼吸。腰に置いていた手をそっと背中に移動させ、さらに上まで滑らせた。黒い髪の毛を撫でつけ、首元をくすぐる。「まっ……」霊夢が小さく声を吐いた。無視して指先で首筋をなぞった。
「まっ、てよ魔理沙……」
「霊夢、なんで顔、見せてくれないんだ?」
黒い髪に隠れていた耳が現れる。外側から真っ赤になったそれは、私を見上げた顔まで続いていた。ふたつの目が私を見る。「あ……」昨夜見た、湖のような目が甦る。目は口ほどにものを言う。霊夢は私の顔に手を添え、何度も滑らせた。私は黙ってそれに耐えた。
「……顔、見られたくなかったの」
成程、目を覚ました後の霊夢の行動にも合点が行く回答だった。つまり、昨日、霊夢に、私たちになにもなかった。いや、何もなかった。なかったという事実があって、ただ目を見つめただけだった。「わかるでしょう? 魔理沙なら」
私は黙ったまま霊夢を見つめた。
霊夢も私を見つめた。
「ほら、昨日は、何もなかった」
騒いでは酩酊している間はいつまでもこの時間が続くような気がしている。桜の花が5輪確認されるよりも前に、桜の木の下で誰かが酒を呑んでいるからだろうか。桜が満開になる頃には、前後不覚の毎日に口元が緩くなる。「まりさ」どうして花が咲いているだけなのに、皆うれしくて仕方ないのだろう。「まありぃ……」私だって、騒いで酔って寝て、この時期はほとんど記憶を失くしている。「まりさぁ」記憶が失くなるまで呑むって、それ、呑む意味あるのか?
「ねえってば、魔理沙ぁ」
「ああもうお前は黙ってろよ霊夢!」
「ふふっなんなの? キレちゃって」
膝の上で霊夢が寝返りを打つ。霊夢は手を伸ばし、両手で私の顔を包み込むと力づくで引っ張った。「ああああ痛いいたいっ!やめろっ」必死で抵抗するが、こいつの馬鹿力には勝てそうになかった。両手を床について耐え、すっ転ぶ。床に投げ出された私に、霊夢はひしと抱きつくとゆるゆると笑ったのだった。私はため息にならない息をつき、諦めてそっと霊夢の腰に手を置いた。
昨夜、ほとんど散った桜の下で酒を呑んだ。宴会というほどのものではなかった。人数も少なくなって、口数も少ない静かな夜だった。私は黙って霊夢を見た。霊夢も、私を見た。瞼を伏せた、湖のような目は、どうしてかそれ以上にものを伝えてきた。霊夢はさっと目を逸らし、酒を呑んだ。私も散った桜に視線を移し、酒を呑んだ。呑んだ、呑んだ……。
気が付くと朝だった。
目を覚ますと、ふにゃふにゃした霊夢が私に纏わりついていた。昨日、なにかあったのか。酒を呑みすぎたことは覚えているが、酒が美味かったかは覚えていない。霊夢の目のことは覚えているが、正直それは夢だったんじゃないかと言われればそうかもしれないとしか言えない。何を話したか、覚えていない。誰がいたかも覚えていない。何かあったかもしれないが、覚えていない。
「……霊夢、昨日、なにか、したか?」
「なにかって、なんのこと」
「というか、まだ酔ってるか?」
「酒は抜けたわ」
なにを聞けば私の気持ちは落ち着くのだろうか。私の首元に顔を埋めた霊夢はそれ以上動こうとはしなかった。人肌のあたたかさと、霊夢の呼吸。腰に置いていた手をそっと背中に移動させ、さらに上まで滑らせた。黒い髪の毛を撫でつけ、首元をくすぐる。「まっ……」霊夢が小さく声を吐いた。無視して指先で首筋をなぞった。
「まっ、てよ魔理沙……」
「霊夢、なんで顔、見せてくれないんだ?」
黒い髪に隠れていた耳が現れる。外側から真っ赤になったそれは、私を見上げた顔まで続いていた。ふたつの目が私を見る。「あ……」昨夜見た、湖のような目が甦る。目は口ほどにものを言う。霊夢は私の顔に手を添え、何度も滑らせた。私は黙ってそれに耐えた。
「……顔、見られたくなかったの」
成程、目を覚ました後の霊夢の行動にも合点が行く回答だった。つまり、昨日、霊夢に、私たちになにもなかった。いや、何もなかった。なかったという事実があって、ただ目を見つめただけだった。「わかるでしょう? 魔理沙なら」
私は黙ったまま霊夢を見つめた。
霊夢も私を見つめた。
「ほら、昨日は、何もなかった」
ゆうべはおたのしみでしたね