Coolier - 新生・東方創想話

友情視察

2023/03/10 19:13:05
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***1***


 一部一部丁寧に積まれた力作の山が、臙脂色の風呂敷に包まれていく。紙の山頂で四つ結びの花をきゅっと固く咲かせながら、射命丸文は一息ついた。
 口角が上がる。今日は『文々。新聞』新号の発行日。今回も、自身の翼で飛び回り足で歩き回って得た"真実"が紙面を彩る。目玉となるのは博麗の巫女、霊夢の記事。いつもこちらを楽しませてくれるぐぅたら愛され巫女は、今回も目先の信仰を求めた大失敗で文の筆を弾ませてくれた。全く、異変解決で株を上げたと見たらこれですもの、しっかりして欲しいですね。危なっかしくてまだまだ目が離せません。そう、"危なっかしいから"目が離せないのです、ここ重要です。誰に見せる訳でもないのに、まるで言い聞かせるように繰り返し頷く。
 さて。これから、人間の里へこの新聞を届けに行かなければ。ボタンをきっちり留めたワイシャツに、紅葉色のネクタイを一巻き。ふむ。今日も見事な秋晴れですね。飛行日和な陽気に紅い目を和らげると、ハンガーにかかったジャケットに手を伸ばそうとして、

「おっはー」

 がらっと開け放たれた引き戸と共に、その手はぴたりと固まる。
 自他共に認めるはぐれ天狗である文は、住処も天狗の里から離れた地に構えている。だから、訪ねるにも"飛ばなければいけない"この家に来る者など、ほとんどいない。
 …そう、"ほとんど"。つまりそれは、片手で挙げられる程度の者は、こんな山の端っこまで足を運んで来るということ。そしてその中で、ノックもせずに呑気な挨拶を宣える不届き者は、一人だけ。
「あのね。私が今何してるか、見える?」
「もちろん」
 気だるげな文句をモノともせず、そいつはにかっと八重歯を見せる。二つに分けた栗色の髪を明るく弾ませながら、姫海棠はたては軽やかに門を跨いで来た。
「そもそも、昨日予定聞かれて話したわよね?」
「聞いた~。だから来たの」
 あぁそうですかそうですかやっぱりかこいつめ。じろり、睨みつける文の視線に向けて、はたては四角に作った両手をかざしてみせる。
「記者たる者、どうすれば良い記事を書けるようになるか、勉強を重ねるのは当たり前のことでしょ?今日はその一つ、"敵情視察"」
「堂々と来る奴がいますか。はい、回れ右」
「いつもそう言うけど、追い出したこと一回もないじゃん」
 喉に詰まる息。刹那、狙いすましたように聞こえる「ぱしゃり」。四角越しに見える得意げな顔が、文の焦燥をさらに膨らませていく。いけない。いけない。私は"射命丸文"だ。これくらいのことには動じない。
「…ふん、当たり前です」
 引きつりかけた口許を無理に捻じ曲げる。綺麗な窪みが出来るようネクタイを締め直し、背筋もしっかりと伸ばす。そう。動じない。動じない。余裕を見せろ、"射命丸文"。
「記事の書きぶりも信憑性も数段上手な私を手本にするのは、正しい行いですからね。先程のはただの礼儀、本当はここで多少の技を盗まれることくらい、何ということもありません。むしろ、これであなたの三流記事の内容が少しでも良くなるというなら、器の大きい私としては進んで包み込まねば」
「ねーねー。これ読んでも良い?」
「…」
 我が家かのようにごろごろ畳にくつろぐはたては、そんな文の様子など見てもいなかった。ぎろり、再び睨みつけてやれば、それすら見通したかのように、いたずらっぽく振り返って来て。無駄無駄全てお見通しなのよ――とでも言いたげね。ムカつく。
「…勝手になさい」
「さんきゅ」
 ため息と共にそう返せば、輝くばかりの微笑みが向けられる。それが何とも眩しくて、つい目を逸らしてしまう。逃げた視線が捉えるのは、さっきまで胸を弾ませていた秋晴れ。青々と居心地の良い空には、ちぎれた綿雲が一つ、行き先も定めず揺蕩っている。迷い、影となり、また明るくなって。表情をなんとか使い分けようとする雲を、傍で見つめている存在がいて。
 …あぁ、本当。今日は穏やかな飛行日和ね。
 ぱらり、ぱらり、紙をめくる音が耳をくすぐり出す。さっきよりも満たされている心を誤魔化すようにため息をつきながら、文は厨(くりや)へと歩を進めた。


***2***


「わぁ。良い香りだね、このお茶」
 湯気に触れたはたては、そう言いながら栗色眼を丸くさせる。枯葉色の湯呑をまじまじ見つめる、好奇心を体全体から表出させた様子は、どちらかといえば小鳥のよう。そうね、雀とか。ぼんやり考えこむ文の横で、はたては糸底を片手で支えながら、くぃ、と一口傾ける。
「それ、阿求さんからいただいた茶葉で淹れたんです」
「阿求?御阿礼の?」
 紅葉があしらわれた自分用の湯呑を傾けながら、文は小さく頷く。
「はい。幻想郷縁起の件で稗田家へ行った時に、お土産、と持たせてくれまして。さすがは人里の名家、ここでも限られた土地でしか採れない良質な茶葉を取り寄せているみたいですね」
「ふーん」
 また一口。上質な布を折り畳んだかのように綺麗に膝が揃っている正座。百合の茎のようにしなやかに伸びた背筋。コイツと会う者たちは、その語り口からは想像出来ない品の良さに、皆揃って目を丸くさせる。まぁ、私は何百年も前に見慣れたけど。
「良いの?"敵"にこんなの出しちゃって」
「"敵"?はて、誰が私の"敵"と?」
 大仰に首を傾げてみせながら、空になった湯呑を受け取る。そのまま流れるように急須を傾ければ、ふわり、香りを纏った湯気が文の鼻をくすぐる。

「今のあなたは"客人"なのですから、それに沿ったお茶を出すのは当たり前のことです」

 温かに満たされた湯呑をはたてへと差し出す。ここに来たはたてはあくまで"客人"。こちらの新聞について学びに来ただけの"客人"なのですから。相応の礼儀をもって迎えなければ。そう言い聞かせるように小さく頷いている文を、はたては愉快そうに見ていた。
「それにしても、こう並べてみると、本当に博麗の巫女に関する記事多いわね」
 とん、とん、と広げていた記事を指しながら、はたては呟く。視線の先には、これから鈴奈庵に持っていく予定の記事。当代のお気楽巫女が調子に乗っている現場がカメラで明瞭に捉えられている。
「まぁ、彼女がそれだけ"ネタとして"魅力的、ということです」
 そう言いながら、文の視線もまた写真へと向かう。巫女としての畏怖など微塵も想像させない、平穏を満喫している年相応の少女。今をひたすらに楽しみはしゃぎまわるその立ち姿は、今日もこちらを飽きさせない。
 この元気を怒りに変換させながら、こちらを追いかける姿が浮かぶ。文句言われるのは筋違いですね、私は事実を報道してるだけなんですから。けど、きっと貴方はこれで懲りることはないでしょう?さてさて、次はどんなことをやってくるのでしょうか――
「ね、文」
 こちらを呼ぶ声に、意識が引き戻される。声の方に顔を向ければ、はたてが面白そうに口許を歪めながらこちらに近付いて来るのが見える。
「"待ち受け"って知ってる?」
「"待ち受け"?」
「そ。私のこのカメラね、開いたら特定の写真が決まって見えるように設定されてるの」
 愛用している二つ折りのカメラを開けながら、はたては栗色の瞳に妖しい光を宿らせる。
「さて。今私は何を"待ち受け"にしているでしょう?」
「ハァ?なんで私がそんなこと考えないといけないのですか。大体、今私は準備をしていると」
「良いから良いから。ちょっと見てみなよ」
 眉を歪めながらも、言われるままに文は開けられたカメラを覗きこむ。一体どうして、はたてはいきなりこんなことを聞いて来たのか――その疑問は、"待ち受け"に映っていた画像を認識した刹那、粉々になって弾け飛んだ。
 そこにいたのは、間違いなく文だった。紅葉色のネクタイを締めたワイシャツの上からジャケットを羽織り、キャスケット帽を被った"社会派ルポライター"モードの自分だ。けれど、その文は決して"射命丸文"ではなかった。

 だって、こんなの自分な訳がない。こんなに柔らかく微笑みながら暖かく何かを見つめている自分なんて。

「は…」
 かろうじて声を出す。何故か動揺してる。動揺するな。こんな表情自分が見せる訳ないのだから。
「は、はは…そうですかそうですか」
 くり返し頷きながら、威嚇するようにはたてを睨む。そうだ。きっとそうだ。そういうことに違いない。
「あなた、とうとう写真を"弄る"ようになってしまったのですか。視線を引くために真実を捻じ曲げるとは、まったく記者の風上にも置けませんね」
「残念。何も弄ってないんだなーこれが。紛れもなく、文が、それも私が見てる前で見せてくれた表情だよ」
「…馬鹿仰い。いつ私がそんな表情をしたというのですか」
 けれど、唸るような反論にもはたては全く動じない。自信たっぷりな態度に、取り繕った余裕が早くもひび割れていく。…まさか、本当にあんな顔していたのか。そんな訳ない。ここで引っかかるのは向こうの思う壺だ。
「何時か、文が巫女を連れて私の"アジト"まで来てくれたことあったでしょ」
 そういえばそんな話もありましたね。あの時は霊夢がいきなり襲いかかって来たり、その様子を念写したはたてにしてやられたり、はい、はい、忘れる訳ありませんとも!
 まあ、結果的にそれが霊夢が巻き込まれている事件を知れるきっかけになったから……その、悪かったことばかりではないけれど。
「あの時さ、怨霊を怖がってたのか、巫女、私たちの話聞いてもなかなか煮え切らなかったじゃん」
 そう。そう。霊夢ってば、選択肢はもう一つしかないって分かってるのに、こういう時こその"博麗の巫女"なのに、ずっと躊躇ってて。もう、本当、しっかりしなさい、なんて、見てて気が気ではなくて。
 けど、最後は自分が立ち向かうと決めて。敵との決着をつけるために、勇ましく飛び出していって。
 そう来なくっちゃ、なんて、こっちまで誇らしくなったっけ。
「面白かったなぁ。文ってば、私そっちのけでずーっと巫女の反応見つめててさ」
 …は?…ちょっと、あれ?そん、な……あれ?
 体の底から急速に熱が昇って来るのが分かる。呼吸がうまく出来なくなる。

 あの時――霊夢が怨霊と戦う、て決意を固めた時。
 私、一体どんな顔してたんだろう?

「まさか」
「気付いた?」
 にっこり八重歯を見せて来るはたて。そこにあるのは、健気な子供を微笑ましく見つめるような、優しい表情。その事実に、文の顔は、山の粧いに負けず紅潮していく。
 なんで、いつもみたいに、いたずらっぽく揶揄う視線をこちらに向けないのか。そうしてくれれば、まだ疑うことも出来たのに。あんな顔で見られたら、もう認めざるを得ない。

 これは紛れもなく、文の"真実"を映し出した写真だ。

「消しなさい」
 気が付けば、二つ折りのカメラに手が伸びていた。お気に入りのストラップに指がかかるすれすれのところで、なんとかはたては横に身を躱す。目的地を失った文の手は、そのままバランスを失って体ごと畳へと倒れ込む。
「ちょっとぉ、お茶こぼれちゃうじゃん」
「消しなさい」
 はたての文句など構わず、文は低い地声で威圧する。すっかり真っ赤になった顔からぎらり瞬く妖眼は、猛禽そのもの。ゆらり、体を起こすと拳を畳につけ、いつでも獲物に飛び掛かれるよう体勢を整える。
「なんで消さないといけないの。こっちにとっては大切な写真なんだけど」
「消しなさい!これはこの世に存在してはいけない写真です!!」
 不満げに眉をひそめるはたてに、文は吼える。これは。この写真だけは、存在してはいけない。
 これが残るくらいなら、霊夢に襲われた時の『花果子念報』を手づから配り回っても良い。自分が被写体になってしまったあの記事が恥ずかしいだとか、そんなものは構ってられない。
 自らの暖かな微笑みが意識を去来する。羽毛のように安らかな感情が胸に湧き上がりそうになり、慌てて首を横に振る。駄目。それだけは、認めてはいけない――

「分かった。良いよ?」

 …は?
 そうして顔を上げた文が見たのは、さっきまで胸に抱いていたカメラをあっさりと差し出すはたての手だった。
「…」
「どしたの?早く消しなよ」
 消せる訳ないだろう。カメラをじっと見つめたまま、ぐるぐる頭を回らせる。
 さっきはたてはあの写真を"大切な写真"と言った。それはそうだ。はたてからすれば、こんな文を弄れる絶好のネタ、安易に手放す訳にはいかない。
 …それ以前に、デタラメばかり書くと言っても、はたてはれっきとした記者だ。彼女にとって、この二つ折りのカメラは、大切な相棒なはず。いくら気の置けない仲だからと言って、商売敵である文に、商売道具を無防備に差し出すなんて絶対にあり得ないのだ。
 栗色の瞳を睨む。けれど、結局何も読み取ることが出来ない。何を考えているんだ。
 いくら念写で自在に写真を撮れるからと言って…
 …"自在に"?
「まさか」
「気付いた?」
 また八重歯を見せて来る。今度はいつものような、いたずらっぽく楽しんでいるような笑み。
「念写はね、私がその場面を念じればいつ、どこでも撮れるようになってるの。だから、今この場で"待ち受け"消したところで、私の記憶が続く限り、何枚でも同じものを撮ることが出来るって訳」
「う…」
 畳についていた拳から力が抜ける。地を蹴ろうと伸びていた足が、そのままへたりこむ。
 その宣告はつまり、もうあの顔を"忘れる"ことが、文には許されないことを指していた。
「そう睨まなくても、誰かに見せたりはしないから」
「…本当でしょうね」
「椛以外」
「あれに見せたらその日があなた方の命日と心得なさい」
「きゃースクープスクープ。悪名高い『文々。新聞』記者が本紙記者を脅してくる~」
 大仰に騒ぎ立てるはたてを他所に、文は小さくため息をついた。
 やっとのことで、熱くなっていた体が落ち着いていく。畳の目を一つ、また一つ追いながら、思考に耽る。
 …本当は、写真がこのままはたての"待ち受け"にされても良い。あの生意気な白狼天狗に話されたところで、気にしたりはしない。自分の至らなさが招いた"恥"だ。むしろこれを飲み込む度量こそ今は大事だろう。
「けどさ。もっと素直になっても良いんじゃない?」
 ぱちり、またカメラを開く音。文が顔を上げれば、視線に気づいたはたてが、また優しい顔を文に向ける。
 ちょうど日が差した方向にいることもあって、その仕草は、少し眩しい。

「良い顔してるじゃん」

 再び"待ち受け"が見せられる。
 柔らかい視線。穏やかに包み込むような微笑みには、どこか懐かしさすら覚える。たとえるならそう、巣立ちの後まで子供を慈しむ母鴉が向けるような。
 本当、自分の中で、一番良い顔してる。こんな顔が出来るんだって、ほっとしている自分がいる。けど、
「…駄目よ」
 だからこそ、文はこの写真を消したかった。この顔を忘れたかった。

「"射命丸文"は、こんな顔を見せたら駄目なの」

 その表情は、ずっと積み上げて来た"射命丸文"を、全て崩してしまいかねないものだったから。
 "射命丸文"は、妖怪の中でも実力ある"天狗"。だからこそ、実力に見合った振る舞いをする必要がある。
 "天狗"たる者、他者を導くものでなければならない。けれど慈しみは見せず、常に威圧するように振る舞うべし。
 "天狗"たる者、決して鍛錬や葛藤を他者に見せてはいけない。誰が相手でも、常に余裕あるように振る舞うべし。
 改めて言い聞かせるように、築き上げた自己を再び頭に叩きこんでいく。
 もう、こんな顔なんか見せたらいけない。これからは一層、立ち振る舞いを律さないといけない。目指すべき"天狗"に、一歩でも近づくために――
「ひゃ!?」
 肩に置かれた手の感触に、上ずった声が出る。振り返ってみれば、いつの間にか背後にまで回り込んでいたはたての姿。さっきまで視界にいたのに、不意を突かれ思考が追いついていない文に構わず、彼女は乱暴に肩を揉みほぐし始める。
「うわぁ、めっちゃ凝ってる。これは悪いものがたまってますね~」
「いだだだだ、痛い痛い!」
 外の止まり木でうとうと微睡んでいた小鳥たちが、大声に驚きばさばさ飛び立っていく。
「ちょ、馬鹿、早く離しなさい!!」
「はいはいっと」
 弄り倒して来るはたてを涙ぐんだ目で睨みながら、自由になった肩をゆっくりとさする。…硬い。肩が凝っているというのは、事実らしい。
 ぶんぶん首を横に振る。…多分、ここしばらく記事を書くために机に向き合い続けて来たからだろう。きっとそうだ。
「文」
「…なに」

「めんどくさい」

 満面の笑みで告げられた言霊が、ぐさり、胸を貫く。動揺が顔に現れそうになって、慌てて視線を逸らす。
 また、あの"待ち受け"が意識を通り過ぎる。あの写真の"射命丸文"は、こちらにまで手を差し伸べている。声をかけてくれている。本当はとっくに気付いている。けれど。

「…うるさい」

 迷い続ける今の文には、溢れ出しそうな言葉に無理矢理蓋を押し込むことしか出来なかった。


***3***


 回り出すレコードへ、ゆるり、針が置かれていく。金色に咲く大輪のラッパから、重いチェロの旋律が薫り出す。
 書棚に囲まれたほの暗い空間に溶け込んでいく音を耳にしながら、貸本屋"鈴奈庵"の娘、本居小鈴は今日も妖魔本を繙いていた。
 この日の小鈴はご機嫌だった。今は秋。それも清々しい程の秋晴れがここ何日か続いている。つまりそれは、読書には最適な時期である、ということ。事実、ちょっと読みたくなったからお勧めの本を教えて、という注文がここ数日で急増し、店番でなければ音楽に合わせ踊り始めたい気分だったのだ。
 楮の和紙をめくる音に合わせ、鼻歌で三重奏。今読み解いているのは、かつて天狗が手すさびで書き残したという、山の生を題材とした小説。他の人間には決して捉えることの出来ない未知の天狗文字が、己の眼を通してさざ波のように読み解かれていく。一文字、一文字が浮き上がっては人外の思考が見えていく感覚は、彼女の興奮を何よりもくすぐる。さて、この続きはどうなっているのか――
 そうして紙の左端に指をかけたその時。暖簾が揺れたことを示す光が、小鈴の目に入った。
「あ。いらっしゃいませー」
 白菊があしらわれた栞を本に挟み、小鈴は顔を上げる。
 くぐってきたのは、一人の女性だった。紫の髪留めで二つに分けた栗色の髪に、羊毛色の帽子を被っている。大きな木の釦(ぼたん)を紐で通して留めた外套に、紫と黒の市松模様が彩られたスカート。ひざ丈よりもさらに高い黒い靴下を、厚底の革靴が包む。幻想郷でも未だ限られたところでしか見ない西欧風のお洒落が、小鈴の目を惹く。
 きっと、年は小鈴と同じか、少し上くらい。だったらどこかで知り合っていると思うけど…こんな人、まわりにいたっけ…?ぼんやり小鈴が立ち尽くす中、その女性は、書棚には目もくれず、かつ、かつ、木床を鳴らしながら、小鈴へと歩み寄っていく。

「ふーん…」

 机越しに身を乗り出して、まじまじと小鈴の顔を見つめてくる。帽子で隠れていた目が視界いっぱいに映る。手入れされた髪と同じ栗色の瞳は、どこでも見れそうな普通の瞳。けれど、足を堅く踏みしめていないと吸い込まれてしまいそうな、微かに妖しい空気が残る眼。やはり見覚えがないはずなのに、何故だかその眼に小鈴は既視感を抱いている。
「あの、お客様?」
「ん?」
「ど、どこかでお会いしましたでしょうか…?」
「…あー、そうだった」
 とりあえず聞いてみると、その女性は小さく頷きながら、顔を離す。刹那、小さな浮遊感に小鈴は足をふらつかせる。
「ごめんごめん。んーん、あなたは私とは初対面よ」
「…"あなたは"?」
「へー。ちゃんとそこに気付けるんだ」
 にやり、八重歯を見せて笑いかける。何ということのない顔なのに、背中に氷が伝っていくのが分かる。もう小鈴も今や慣れ親しんできた悪寒に、期待と不安が膨らんでいくのが分かる。
「それにしても、なるほど。なかなか良い店ね」
 小鈴に背を向けた女性は、かつ、かつ、書棚を回る。長い指が、何かを起こすように背表紙を撫でていく。
「妖気に満ちている。それも溢れるばかりに」
 ぴくり、肩が動く。このお店に住まう妖気は、自身がたくさん集めて来た妖魔本に依るもの。とはいえ、妖魔本は繙かれることで妖気を漂わせるものが基本のため、書棚では本と共に眠っている場合がほとんどだ。
 だから、ここに来るお客さんも、ほとんど気にすることなく店を出入りする。けれどこの人は、店に入ってすぐ"溢れるばかりに"それを感じ取った。
 明瞭に見えて来た事実が、か細い喉をからからに乾かしていく。
「面白い」
 いつの間にか、女性はまた小鈴の目の前まで来ていた。彼女は菊花の栞が挟まれた天狗の本を一瞥すると、ますます気に入ったように唇を歪めてみせる。
「本当に、面白いわ」
 呼吸が荒くなる――この人、まさか、"この文字が読める"のか。本来意味を解せず、首を傾げるしかないはずの、この文字を。獲物に睨まれた栗鼠のように固まるしかない小鈴の顎を、ひやり、白い指が撫でた。

「"何か"が起こりそうな場所ね?」

 レコードのチェロがガンガンと耳に響く。木漏れ日の差す穏やかな旋律で小鈴を楽しませていた音楽は、逢魔が時、迷い人に牙を剥き始めた山の狂奏曲へ姿を変えている。栗色の瞳は妖気を隠そうともせず、光を揺らめかしながらこちらを誘う。頬を伝い叱咤する冷汗も、すっかり絡めとられた小鈴の体には何も通じなくて。冷たい指の快感に招かれるまま、体が女性へと傾き始めて――

「――はいそこまで」

 聞き覚えのある声が、パチン、シャボン玉のように小鈴の幻夢を弾いていく。
 自らを絡め取っていた指がするりと離れ、支えを失った小鈴の体は、バランスを崩してそのまま椅子に受け止められる。

「ついて来ても良いと譲歩しましたが、取引先にちょっかいかけて良いとは言ってません」

 再び、チェロが暖かな陽光を奏でだすのが聞こえる。ぼんやりした意識のままになんとか顔を上げると、もう一人、背丈が同じくらいの人影が、女性の肩をつかんでいるのが見えた。
 枯葉色を基調としたジャケットにキュロット。ワイシャツにきっちり締められた紅葉色のネクタイ。茜色の目をたたえた整った顔立ちに、キャスケット帽。いつもここに新聞を置いてくれるお得意様――"社会派ルポライターあや"が、そこにいた。
「良いじゃーん。どうせ文もこんな胡散臭い雰囲気でこの子に接近したんでしょー?」
「人聞きが悪い。私は初めから紳士的に彼女に接しました」
 さっきの女性は頬を膨らませながら"あや"に抗議する。こうして見ると、やはりほんの年上の女の子にしか見えない。"あや"が口を尖らせながらいなす光景も含め、昔馴染みとの想い出が重なるというか。
 口が固まったまま、ぱちぱち瞬きするしかない小鈴の前に、ずぃ、と"あや"が歩み出る。
「どうも、小鈴さん。いつもお世話になっております」
「あ、あやさん…こちらこそ、いつもありがとうございます」
 満面の営業スマイルと共に"あや"は紫色の風呂敷を差し出す。あ、良かった、いつもの"あや"さんだ…どうにかいつもの調子をつかんだ小鈴は、曖昧に頷きながら、受け取った風呂敷をほどき始める。
 ほどいた中身は、"あや"が発行する『文々。新聞』。一面を飾るのは、小鈴も良く知る紅白の巫女さんの写真。うん。いつもの"あや"さんだ。
「この通り、お届けします。よろしくお願いしますね」
「分かりました。えーと…」
 確認した新聞を一旦傍に寄せながら、小鈴は視線を横に向ける。その先には、さっきの女性。
 待ってました、とばかりに彼女は"あや"が声を出すより先にその前に進み出た。

「初めまして、本居小鈴さん?いつも文がお世話になってます」

 羊毛色の帽子を手に取った恭しいお辞儀と共に、名刺が差し出される。軽い口調からは連想出来ないような洗練された所作に、小鈴はまた目をぱちぱちさせてから、受け取った文字を読む。
「"安楽椅子記者 はたて"さん…」
 横向きに印刷された文字をまじまじ反復させる。"記者"の文字列。"あや"とも対等に話す間柄。それらを頭で整理し、一つの仮説を浮かべる。
「つまりお二方は」
「そ。私は文と"同類"てコト。ヨロシク」
 さっきの丁寧のお辞儀からけろり、"はたて"は"あや"の肩に腕を回す。"あや"は何か言いたげに眉を寄せながらも、引き剥がすことなく息をつく。
「は、はぁ。よろしくお願いします」
 まだ戸惑いが取れていない頭を曖昧に下げて返事をする。"同類"。それは"記者"としての仲間、という意味ではないことを小鈴は知っている。
 ちら、と"あや"の方を見る。"社会派ルポライターあや"。一見普通の(?)人間にしか見えない彼女の正体は、山に暮らす天狗、"射命丸文"。その"同類"ということは、ここにいる"安楽椅子記者 はたて"の正体もまた、文と同じく天狗、ということ。
 へー…なんだろう。ちょっと不思議な感じ。
 同じ天狗といっても、こんなに性格が真逆なんだ。お話や物語ではなじみのある内容でも、いざ間近にすると驚きでいっぱいになる。本当、こういうところも、つくづく人間と変わらない、というか…
「あの」
「ん?」
「この"安楽椅子記者"というのは、どういう…」
「お。気になる?」
 よくぞ聞いてくれたとばかりにずぃ、と歩み寄るはたて。あ。こういうところはそっくりなんだ。そんな引き気味の小鈴に満足げな笑みを浮かべながら、はたては二つ折りの機械を懐から取り出す。
「これ。私のカメラ。今画面にはここの様子が映ってる。分かるね?」
 ぱちり、と機械を開きこちらに画面を見せて来る。その手つきや声音は、寺子屋時代に往来で見に行った手品師を連想させる。画面に映る鈴奈庵の本棚と文の姿に、小鈴もこくこくと頷く。その様子を認めたはたては、妖しく笑うと、半歩だけ小鈴から下がって。
「むー…」
 二つ折りのカメラをこちらへ向けながら、目をつむる。
 何?何が始まるの?
 その難しそうな表情に、小鈴の胸の鼓動は再び速まる。
 待てども待てどもシャッター音が鳴らない沈黙が、緊張を誘う。
 もしかして、ただ写真撮るだけ―――ではないの、かな。ない、よね、多分。
 ま、まさか、アレに写真撮られたら、本当に"魂"抜かれるとか…あるいは、私の未来が映し出されちゃう、とか。
 …さ、さすがにそんな訳ないか。ないない、あははー。
 ちら、ちら、文に視線を向けてみる。大丈夫。もしこの人が危ないことしてるなら文さんが止めてくれる、はず。うん、うん、きっと大丈夫――

 ――ぱちり。
 
 待っていたはずのシャッター音に、思わず肩を跳ね上げる。息を吸う音にすら鋭敏になって、耳を塞ぎたくなる衝動に駆られる。なんとか己を落ち着こうと唾を飲み込みながら、大きく見開いた目ではたての口もとを凝視して――

「今、人間の魔法使いは人形使いにこき使われてるわね…そうね、室礼を見るに、人形劇が近いのかしら。すっかり着せ替え人形にされてるわ」

「へ…?」
 自分とは全く関係のないことを告げられ、呆気にとられる小鈴。
「そ、そんなこと分かるんですか?」
「分かるよ。だってここに映ってるんだもん」
 得意げな顔を隠すことなく、はたてはカメラを差し出して来る。動くようになった体をのろのろと起こしながら、小鈴は見せられた画面を覗きこむ。
 お洒落な部屋。テーブルの上には、裁縫で使う針や糸、さらに舞台の作りものがそこかしこに並べられている。真ん中には、小鈴にも見覚えのある少女が立っている。くせっ毛の金髪、片側だけ結ばれた三つ編み、勝気そうな目。確かに白黒の魔法使い、霧雨魔理沙だ。けれど、今の彼女は、白黒の姿ではない。まわりに浮かぶ小さな人形たちのなされるままに藤色のドレスを身に纏い、もう一人、端に映っている綺麗な女性――アリス先生(あの人の作る人形劇に憧れがあるので、小鈴は彼女をこっそりこう呼んでいる)に抗議の視線を送っている。
 …え?これ、魔理沙さん?え、ちょっと何これ、すごく可愛い…いつも勝気なのに、こう見ると背丈も相まってお人形さんにしか見えない、というか…
「これ、今撮った写真なんですよね?」
「もちろん」
「けど、はたてさんは今間違いなくここにいて…へ…?」
「そう。私は間違いなくここにいる。ちなみに、ほら」
 また、ぱちりという電子音。いたずらっぽく目を歪めながら、再び画面をこちらに見せる。そこに映っているのは、何が起こっているか全く分からず、目を回している自分の姿が映っている。
「こうして、普通の写真撮ることも出来るわよ?」
「わっ!?ちょ、ちょっと、こんな、恥ずかしい…」
「そーう?可愛いと思うけどなー?」
 今にも真っ赤に火を噴きそうな小鈴の顔を、つんつんと弄るはたて。顛末を見つめていた文は諸々言いたいことをぐっとお腹の底で押し殺しつつ、一歩だけ前に進み出る。
「それがこの子の能力なんです」
 なんとか消してもらおうとする小鈴の手を躱しながら、はたては満足げに頷く。
「そ。気になることとかあれば、こうしてカメラに向けて念じることで現場写真として撮ってくれるの。こうして集めた写真をつなぎ合わせて、家から出ることなく記事を書くことが出来るって訳」
「はぇー…」
 荒い息をつきながら、小鈴は感嘆の声をあげる。"安楽椅子記者"という文学的な響きもあってか、その目にはどこか羨望の眼差しが瞬いている。当然、その様子は文にもはっきり伝わってしまう訳で。

「まぁ、そういう方法で作った記事だから、現実味が全くないんですけどね。本当かどうか分かったもんじゃない」

 はん、と嘲笑いつつ口を尖らせる文に、小鈴は目を丸くさせる。彼女の中で、射命丸文という天狗は常に大人びている年長者らしい振る舞いをする存在だった故に、何というかこう…そう、子供っぽく拗ねる姿というのは、どこか珍しい表情だった。
「ねー、小鈴さん」
 再び、はたての方へ向き直る。気のせいだろうか、さらに悪戯っぽさが表情に濃く出ているように見える。
「あ…はい?なんでしょう」

「もし良かったらさ、私の新聞も時々ここに置かせてくれない?」

「…は?」
 小鈴より先に素っ頓狂な声をあげたのは文だった。さっきまでの距離取る"素振り"はどこへやら、目にも留まらぬ速さではたてのもとへ詰め寄って来る。
「ちょっと、何を勝手なこと」
「ここは本屋なんだし、新聞複数並べるくらい何もおかしいことないでしょー?」
 ぐ、と抗議を詰まらせる文の隙を逃さず、はたてはさらに文の懐へ潜りこむ言葉をかける。
「むしろ、どっちの記事が優れてるか分かりやすく競い合える機会になるんじゃない?自分の記事に絶対の自信があるなら、まさか断るなんてことはないわよねー?」
 赤い瞳が落ち着かずにあちらこちらを往く。迷ってる迷ってる。プライドに従うべきか独占欲を取るか、天秤にかけてる。愉快そうに文の反応を煽るはたての傍らで、小鈴は固唾を飲みながら二人の会話を見つめる。…すごい。あの文が手玉に取られてる。
「…はん、良いでしょう」
 かちん、と秤が傾く音。選択を決めた文の瞳には、好戦的な光が宿っていた。
「精々、ご自分の新聞だけ積まれっぱなしの光景にべそをかかないことですね?」
「ひひ、さすが。そう来なくっちゃ」
 対等な背丈で向かい合う二人に、小鈴はただ感嘆の息を洩らす。
 …なんというか。とにかく画になる光景である。差し込む陽光がちょうど二人を隔てているのが、なんとも浪漫を引き立てている、というか。
 やっぱり、妖怪といっても、こういうところは人間と変わらなかったりするのかな。異変解決を専門とする二人の人間を想起しながら、小鈴は眼前の景色をぼんやり見つめる。…ぼんやり、靄がかって、光が強くなったように見えて。不意に思い浮かぶは、自分よりも知識も思慮も前を行く、花飾りの親友の姿。
 …良いな。いや、彼女との仲に、何かしこりがある、という訳ではないんだけど。本来身分違いともいえる彼女と仲良く出来ているのは、それだけで奇跡ともいうべきなんだろうけど。

 …私も、いつかアイツと肩を並べられる――せめて、追いかけられるような存在になれたら良いな、なんて。

「小鈴ー?ちょっと来てくれるー?」

 と、奥の方から、小鈴を呼ぶ声がする。お母さんの声。
「?はーい」
 ちら、と文に目配せをすると、文は片目だけを閉じて、しばらく店内を見てくれる意志を示す。小鈴は文の厚意に小さく頭を下げると、両親がいる書庫へと向かう。お話というのは、アガサクリスQの新作が増刷出来たため、本棚に並べて欲しい、とのことだった。あぁ、そういえば読書の秋、この本だけでも借りるのを待ってる人が多くて、なんとかならないかって声が出てたんだっけ。
 並べるための本を受け取ったところで、今店に誰か来ているのか、と聞かれる。何かを話している声だけは、書庫まで聞こえていたらしい。
「…あぁ、ちょうどここに新聞置いてくれてる記者さんがご友人といらしてて…」
「!」
 そこからのお母さんの行動は早かった。本棚に並べるのはこっちがやるとばかりに小鈴が抱えていた本を瞬時に取り上げると、そのまま手早く居間で会計の帳簿をつけているお父さんを呼ぶ。知らせを聞いたお父さんも仰々しく廊下を出ると、まるで火事でも起こったかのようにそのまま買いものへと駆けていく。
 すっかり空気を抱えるだけになった腕を、だらりと下げる。自分を置いてどたばた話を走らせようとする両親に、小さくため息をつく。
 …はぁ。もう。またこれなんだから。
「…あのぅ」
 店頭では、文とはたてが、本棚を指しながら何かを話し込んでいた。躊躇いがちな様子に疑問を抱いたのか、怪訝そうにこちらを振り返る二人に、小鈴は申し訳なさそうに愛想笑いを浮かべる。

「文さんとはたてさん、この後お時間空いてますか…?」


***4***


「そうなんですよー、もーお父さんもお母さんも大げさなんですよー」

 ぐつぐつ、景気良く鍋が煮える音。真っ白に立つ湯気の底では、白菜に葱、木綿豆腐、しらたき、そして牛肉が整然と並べられながら出汁を全身に浴びている。もうそろそろ食べられそう、そろそろ良いか、その頃合いを確かめるように、時折文が取り箸で具材に触れる。
 ここは、鈴奈庵の奥、即ち本居家の居室。来客用に準備された一室で、三人がすき焼きを囲む。
「私は別に大丈夫だって、何も気にしていないって何回も言ってるんですけどね」
 話をまとめると、どうも小鈴の両親は、娘が本にのめり込み過ぎるあまり友達が少ないのを気にしているらしい。だから、小鈴と私事でも仲良くしてそうな同年代(に、見える)の子を見かけると、過剰にもてなそうとする癖があるとか。このすき焼きだって、文たちのためにわざわざ急いで買い揃えてくれたものだった。
 ちなみにお邪魔になると気を使ったのもあり、現在店番はご両親が代わってくれている。
「あー分かる分かる。小鈴の言っていること、本当に分かるよ」
 小鈴と向かい合うはたては、うんうんと神妙に腕を組む。もともと他人の懐に入りこむことは得意な彼女は、小鈴ともすっかり意気投合していた。
「私にもさ、いつもお節介かけてくる知り合いがいてさー。家でゆっくりしてるところに来ては、"たまには外に出なさい"とか」
「あー。そちらもたいへんですねぇ」
 ぴくり。取り箸を持っていた文の指が止まる。
「こっちとしては別に取材のために外出る必要もない訳だしー、家にいる方がずっと気楽なんだけどねー」
「分かります分かります。私も少し前までは、本を読み耽っていた時に何回同じこと言われたか…」
 文は相槌を打ち合う二人を薄目で一瞥すると、再び取り箸の手を動かしだす。呑水を器用に片手に取りながら、そつのない所作で具材を箸で盛り付けていく。
「ねー?まして私なんて"こういう存在"なんだから、ちょっと外に出ないくらいどうってことないのにさー。"このままだとあなた体壊すわよ"なんてお説教してきて」
「そうなんですよね。こっちのこと考えてくれるのはありがたいんですけど」
「そーそー。まずは自分のことちゃんと考えなさいって話よねー」
「…はい。出来ましたよ」
 おたまで出汁が取り分ける仕草と共に、ふわり、湯気が膨らむ。味噌の香りがたちまち部屋に広がり、三人の食欲をそそる。
「どうぞ」
「さんきゅー」
 「文の作る鍋料理、おいしいんだよねー」と弾んだ声を出しながら、はたては自分の呑水を受け取る。が、入っている中身を見て、再び文の方を見た。
「…ねぇ、文」
「何です?」
 ジト目で睨みつけるはたて。文は、そんな視線なんて気にする様子もなく、今度は小鈴の呑水に具材を取り分け始める。
「これから食べるのって、すき焼きだったわよね?」
「何を今さら。ほら、鍋にお肉がぐつぐつ浸かっているでしょう?」
「そうだよねそうだよね?じゃあさ、」
 ずぃ、と呑水を文に向ける。
「なんで器に野菜しか盛り付けられてないのー」
 ほかほか湯気を立てるその中身には、白菜、葱、春菊と、とにかく青物が山々と盛り付けられている。主役たる肉は、そこにはない。文は一旦取り箸の手を止めると、ここで初めてはたての方を向いた。
「貴方、普段引きこもりの上に食生活も乱れているでしょう?そんなことでは、いくら私たちが"そういう存在"だとしても、本当に体を壊してしまいますよ?」
 はたてに向けていたのは、満面の笑顔だった。慈愛すらこもっているように見える、これ以上ないくらい素敵な微笑み。けれど、横から見ていた小鈴も本能的に悟る―――あの眼、笑っていない。
「幸い、本日はたくさん野菜を準備してくださったようですからね。たーんとおあがりなさい?」
「おーぼーだー!いじめだー!」
 はたてが元気良く抗議する傍らで、小鈴はだんだんと血の気が引いていくのを感じていた。
 …まさか。まさか、そんな…あれ、その、あー。

 さっきまで能天気にはたてさんと笑っていた"お節介"さんって、もしかして…

「はい、小鈴さん?」
「はいっ!?」
 座布団ごと飛び上がってしまう勢いで背筋を伸ばす。湯気のベールでさらに美しさを増した文の笑顔が、にっこり、こちらに向けられている。
「貴方の分ですよ?」
「は、はは…ありがとうございます」
 曖昧に笑いながら、小鈴は自分の呑水を受け取る。ほっかほかの葱や豆腐、白菜、といった淡色を主体とした具材に、鶏卵と赤味噌の融合した濃い色味がじわりとしみこんでいる。
 わー、文さん盛り付けも上手だなぁー、流石だなー。
 …そしてやっぱり、私の呑水にも、お肉の姿は見えない。
「その…」
「はい?」
 躊躇いがちに顔を上げれば、にっこり、首を傾げる文が視界に入る。
「ごめんなさい」
「ふーん?何か謝らないといけないようなことをしたと?」
「そ、その、」
 目を逸らし、けれどまた見つめ、また逸らし、を繰り返す。
 あ、あははー、改めて見ると、文さん、とっても綺麗だなー。赤い目もキリっとしててかっこいいし、まつ毛も長いし、すごく羨ましい。ほ、ほら、そんな顔で見つめられたら、こんな反応になるのも、仕方ない、というか。
 …はい。ごめんなさい。文さんを指してるとは知らず、笑ってしまい申し訳ありませんでした。
「あ~スクープスクープ~天狗さまが人間に大人げないことしてる~」
「あなたはさっきから声が大きい」
 ぴしゃり、茶々を入れるはたてを嗜めながら文は仮面を引っこめると、取り箸を潜らせ小鈴の方へもう一つ具材を補ってあげる。改めて目線を下げると、本来の主役たる牛肉が、淡色を基調とした呑水にそっとかけられているのが見えた。
「…ご両親のお気持ち、私には何となく分かります」
「は、はぁ」
「"はぁ"ではありません。小鈴さん、いつもご自分がいかに危なっかしいことをしていらっしゃるか、自覚はあります?」
「う」
 切れ長の目で厳しく射すくめられ、また目を逸らしてしまう。実際、文と出会ってからだけで見ても、自分がどれだけのことに巻き込まれたか、両手だけでは収まらない。ふっと行方不明になり、いつの間にか発見され、あちこち駆け回っていたのだろうくたびれた様子のお父さんやお母さんに迎えられたことだって、一回や二回ではない。
「こういう付き合いを迷惑などと思いませんから、何かあればいつでも話してください」
 そして、そうして迎えてくれるのは、お父さんやお母さんだけではない。いつの間にか、そういう方がまわりに集まっていることに、もう小鈴も気付いている。

「"取引先が使えなくなってしまっては"こちらが困りますからね」

 そして、この方も、そのうちの一人だ。
 こんなよそよそしい名目ばかり言って。本当は、誰よりもまわりに声をかけて、駆けずり回って、頭を下げてくれて。
「…ありがとう、ございます」
 きっとこの方は、誰よりも一回手をつかむと決めたら、どんなことがあっても突き放したりはしない方だ。
 視線を横にずらすと、はたてが文をにやにや見ているのが分かる。けど、揶揄いまじりの栗色の目には、柔和な光が宿っている。そういえば、はたては、こういう文の姿も、きっとたくさん見て来ているんだ。
 …はたてさんに聞けば、文さんのこと、もっともっと知れるのかな。
「なんですか」
「んー?別に?」
 目ざとい文のしかめ面をひらりと躱しながら、はたては手を合わせる。その様子を見た小鈴も慌てて「いただきます」と手を合わせた。
 溶き卵に浸かって艶やかに光る肉を早速一口。味噌出汁と卵の味が初めに入りこんだのも束の間、咀嚼することで肉汁のうまみがじわりと小鈴の口に包み込んでいく。…何、これ。とてもおいしい。まだまだ鍋は始まったばかりだというのは、分かっている。けれど、今広がっている味が喉を通り過ぎるのがどうしても惜しくなって、何回も、何回も噛みしめていく。どれだけ時間が経ったか、飲み込んだ小鈴の胸に届いたのは、形容出来ない安堵と満足感だった。
「どう?」
 その表情を見届けていたはたては、にかっと小鈴に笑いかけて来る。
「文が作ったすき焼き、美味しいでしょ?」
「…なんで、あなたが誇らしげなのですか?」
 そんなはたてにため息をつきながら、文は片目を小鈴を捉える。「まだまだあるから、遠慮せず言いなさい」と語っているのだろうか。喉を通った温もりが身体中にしみこんでいくのに気付きながら、小鈴は唇を緩ませていた。

「はい。とっても、美味しいです」

 …たまには、こういうのも良いかもしれない。
 お父さんとお母さんには、後でちゃんとお礼を言っておこう。


***5***


 秋神様はもう休む時期だと無情に宣告するかのように、雪げの雲が空一面を覆っている。
 冷たい風が木板を小さく鳴らすあばら家の一室で、犬走椛は、針の如く真っ直ぐ伸びた背筋で将棋盤を見つめていた。
 盤の向こうには、紅色の座布団だけ。駒を差し合う者はそこにはいない。けれど、相手は確かにこの座布団に座っている――そう考えながら、椛は向き合っている。傍らに丸められた手紙を通して、どの駒を動かすか考え続けるこちらを、ほくそ笑みながら見ていることだろう。
 ふぅ、と一息つく。鳥の子紙に整然と記されている内容が正しいなら、差す駒を一手でも誤ると、こちらは敗北する。次の手、また次の手――自分が詰ませる先まで、道筋を辿らなければいけない。
 鬼灯色の眼が、整然と並ぶ駒を捉える。さて、この盤面、どう動かすべきか――
「――それでね、すき焼き食べた後、小鈴も連れて人形使いの人形劇取材することになったの」
「はぁ」
「そしたら、文のやつ、人形使いから集まってる子供たち世話するようにお願いされてさー」
「はぁ」
「同じくこき使われてた人間の魔法使いと一緒に、子供たちにもみくちゃにされてたの。もう取材どころじゃなくなっててさ。あれ、見てて面白かったなー」
「はぁ」
「む」
 横で寝転がっていた天狗が、そっけない椛の返事に頬を膨らませる。
「ちょっとー、ちゃんと聞いてるの?」
「はい。ばっちり聞き流してました」
 ふん、と鼻息を立てながら、話し続けていた相手――姫海棠はたてに返事をする。
 将棋以外娯楽など置いていない椛の家に、何故かこの鴉天狗はごろごろ寝転がりながらとりとめもない話を聞かせてくれる。口下手で会話もロクに進まない自分に話して、何が楽しいのだろう――とは常々疑問だけれど、何だかんだ悪い気はしない。気が付けば、そこそこ程度には気を使わない会話が出来る間柄になっていた。
 とにかくムカつく旧知の鴉天狗――射命丸文より、余程良い意味で。
「あの方が外でどうしてるのかなど、私には関係ありませんので」
 だから、はたてが文の話などしていても、いっさい気にしたりしない。聞きたくもない。
 こちらにいらない厄介事を持って来ないのなら、あの馬鹿鴉がどこで何しようと勝手だ。
 ま、欲を言うなら、何か痛い目にでも遭った話を聞いたら「ざまぁみろ」とでも笑ってやりたかったんだけど。
「ふーん」
 そっぽを向いていた椛の耳元で、呟かれる声。ぐるり振り返れば、いつの間にか、はたてがこちらに吐息がかかるくらいまでの距離まで、こちらににじり寄っているのが見える。
「…なんですか」
 栗色の瞳に、狼狽している椛が映る。体内へするりと入りこむような視線が、喉を徐々に乾かしていく。引き剥がすべきか誤魔化すべきか、刹那の迷いをつき、はたては人差し指を立てた。
「耳が垂れてる」
「ちょ」
 頭上を指していた指は、続けて椛の正面へ。
「眼光が柔らかい」
「あの」
「極めつけはこれ」
 そして、真っ直ぐ椛の前にある将棋盤へ。
「その将棋盤、私が話し始めてから一手も駒が進んでないぞ?」
 どうだ、とばかりにこちらへにかっと笑いかけて来る。自分の口許がへの字に曲がるのが分かる。
「…勘弁してくださいよ」
「あはは、ちょっとくらい素直になれば良いのに。そういうとこ、ほんと文にそっくり」
「やめてください」
 体を走る悪寒に、鳥肌の立った肩をさする。「ごめんごめん」と、とにかく愉快そうに謝るはたてを睨みつける。
 本当に、そういうのじゃない。アイツがどこで何してようが、こっちの知ったことではない。
 だから、外でこちらが思っていた以上に慕われているんだ、なんて、安心したりなんかしていない。
 決してめげずに取材に駆け回っているんだ、なんて、誇らしくなんか思っていない。
 …そして、何より。はたてが訪れる度に、どんな文の話が聞けるか、楽しみになんてしていない。
「…はたてさんとしてはどうだったんですか」
 邪念をなけなしの嘆息で払いつつ、椛は再び将棋盤に向き合う。
「んー?」
「あの方への"敵情視察"として同行なさっていたのでしょう?」
 ぱちり、ぱちり、黄楊で出来た駒が小気味良く室内に響き始める。
「その結果、はたてさんから見てあの方はどうだったか、聞いてるのです」
 別に他意はない。"聞いていた"ことが見抜かれた以上、せめて会話くらいは続けなければ、そういう義理のようなものだ。ぱちりぱちりぱちり、絶間なく駒を動かし続ける。
 聞かれたはたては、二つ折りのカメラを顎に当て、「んー…」と考え込む素振りを見せる。
「そうだねー…ま、はっきり言うんだけど」
 駒を差す乾いた響きに、小さな呼吸が滑らかに入り込む。些細な音も聞き逃すまいとでも言うように、白狼自慢の耳がはっきりと立つ。

「文は新聞記者としては駄目駄目ね」

 ぴたり、駒にかけていた手が止まる。
「取材対象との距離が近すぎ。個人としての感情が強いものだから、ちょっとしたことで揺らいだりするのが記事に現れてる。万年筆持つ前に体が動きすぎなの。最近のはもはや"手紙"よね。私たちは一体何を見せつけられているんだか、そういうのは一対一でやりなさいっての」
「は、はぁ」
 聞いていないフリも忘れ、はたての顔を呆然と見つめてしまっている。千里先も見通す鬼灯色の瞳も、面食らったままぱちぱち瞬きさせるしかない。
 はたての言っていることは事実だ。全くもってその通りだと思う。けれど、どちらかといえば文を評価している印象を持っていたはたてから、こんなにすらすら批判の矢が射かけられるとは考えてなくて。
「それでいて、本人は相手と適切に距離を取ってるって本気で言い張ってるの。自分はあくまで傍観者なんだ、客観的に"真実"を見てるんだー、なんて。アイツはさ、ありのままの"真実"を書きたいって高説唱えてるくせに、"真実"との向き合い方が未だつかめてないの」
 けれど、瞬きをくり返して、目が慣れて来たことで、ふと気が付く。
 違う。この批判はきっと、"矢"ではない。そんな他者を傷付け射抜くような言霊じゃない。
「あれじゃあきっと、幻想郷最強の新聞までの道のりは、まだまだ彼方ね。何度躓いても、諦め悪く這いつくばって、立ち上がってさ。本当、どこまで遠回りするんだか」
 雲の隙間から微かに差し込んで来る"光"のような。凩吹き荒び、寒さに震えていた生に、温もりを分け与えるような。一筋、二筋と雲を破った光は徐々に地面を照らし出し、引き籠るしかなかった己に、再び前を走るよう促していく。
「けどさ」
 胸で大切そうに握りしめていたカメラを、ぱちりと開く。

「そんな文だから、私は"対抗新聞同士(ダブルスポイラー)"組んでるんだよね、きっと」

 この時椛は、思わずはたてに見とれてしまっていた。
 多分、あのカメラには何か写真が表示されているのだろう。おそらくは、アイツが映っている写真。
 けれど、何が映っていれば、あんな顔が出来るのだろう。あんな嬉しそうで、穏やかで――何より、誇らしげな表情が。
 ちょっと――本当に、ちょっとだけ、気になる。
「私ははたてさんを応援してますよ」
 気が付けば、こんな言葉が口を突いて出る。意外そうにこちらを向くはたての視線に、今度は正面から向き合う。
「珍しいね、椛がそういうこと言うの」
「以前、巫女による文さんへの襲撃記事、拝読しました」
 取り立てて記事を読む性格ではなかった椛だけれど、あの『花果子念報』の記事は、ずっと引き出しの中に大切に保管してある。
「整然と並び立てられた中身のある考証。そして、失態を突かれたあの方が顔をこれを読んで真っ赤にさせてると想像すると、それはもう愉快でたまりませんでしたね」
 あの記事が出た直後だっただろうか。哨戒のために視線を巡らせると、文が勢い良く飛んでいくのが見えた。行き先は博麗神社。いつものネタを求める時のムカつく表情は決して見せず、ただ己がすべきことは何か、はっきりと見定めていて。
 この時、何となく気付いていた。あの馬鹿が前に進み続けるためには、この方がきっと必要なんだろうなって。

「あの生意気な鼻っ柱、これからもどんどんへし折ってあげてください」

 熱のこもった声援。そういえば、こんなに弾んだ声、最近出していたっけな。そんな照れくささのこもった表情も、はたては笑うことなく糧とする。

「もちろん。任せときなさい」

 高らかな宣言と共に、はたては手を振りながら椛の家を飛び出す。黒翼を広げながら取材に出かけていく彼女を、椛は小窓を隔てて見届ける。さっきまで空一面を塞いでいた雲はいつの間にか祓われていたようで、千里眼でも届かない彼方まで見通すことが出来る。あぁ、だから部屋が明るくなったのか、と今さらながらに目を丸くさせた。
「…おし」
 一息ついて、再び将棋盤に鬼灯色の瞳を向ける。あの会話で頭が整理されたのか、どの駒を動かせば良いのか、今は道筋がはっきりと見える。

 ――ぱちり。ぱちっ。ぱちり。

 入り込んだ風に転がされ、鳥の子紙の端が手の甲をくすぐる。ふ、と紅色の座布団を見据えれば、手紙の主が再び幻視される。ああ、そうだ。盤と向き合う時のお前は、決してこっちを嘲笑ったりなどしてなかった。
 …ずっと、盤の上だけを、真っ直ぐ見つめていたな。

 ――ぱちり。ぱちっ。ぱちり。

 …よし。今日も勝った。

 吐息と共に姿勢を崩す。へたりと垂れた耳に、かぁ、という鳴き声が届く。赤眼をたたえた大きな鴉が、小窓の縁に止まっていた。
「あぁ、ちょうど良いところに」
 傍らに置いていた手紙の端に流麗な一筆を補う。今やすっかり馴染んでいる賢い鴉は、その動きだけで意図を悟り、ばさ、ばさと、椛の前まで羽ばたいて来る。

「"もっと腕を磨かないと、置いていくぞ?"と、あの馬鹿にお伝えください」

 肢に手紙を括りつけながらそうお願いすると、赤眼の鴉はかぁ、と頼もしく返事をして飛び立つ。翡翠にも紫水晶にもきらめく翼に捉えられ、椛はつい小窓から身を乗り出す。
 激しく踊り舞う北風。立ち止まることしか出来ない木々は、老鳥が羽根を散らすように虚しく紅葉を手放している。赤、黄色、茶色、色も形も全く異なる葉っぱが、凩に無情に翻弄されていく。
 けれど――乱れる白髪に目を塞ぐことなく、ただ一点を椛は見つめ続ける。

 赤眼の鴉は、手紙を振り落とす不安など露程も見せぬまま、目指す場所に向け、誇らしげに羽ばたき続けていた。
最高の好敵手に、幸多からんことを
UTABITO
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コメント



0.200簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
2.100Kオス削除
あやはたが中心に置かれていながら、さまざまな登場人物たちの感情や関係性が幾重にも積み重ねられていて、各人物の人格の立体感を感じられる作品でした!
主役の文とはたては地の分や会話文から長い付き合いを感じさせるともに一種のじゃれあいを見せてくれて和みます。彼女らの一対一の関係だけでなく、他キャラクターの視点を加えることで多面的な魅力が出ていると感じました。
ラストの(きっと)三天狗のシーンは特に好きです。はたてと椛の会話だけでなく、テレ将棋とでも言いますか、そうした見せ方でキャラの距離感と雰囲気を出す発想が面白かったですし描写も綺麗でした。
まさに秋晴れのような爽やかで深いダブルスポイラーだったかと思います。執筆お疲れさまでした!
3.100のくた削除
三人の食事シーンでのやりとりがとても良かったです
4.100夏後冬前削除
あやとはたての距離感が抜群で、キャラクターの魅力をしっかり絞って狙いすまして書かれた感じがあり、二人がとても魅力的に描かれているように思いました。とても面白かったです。
5.100Actadust削除
登場人物同士の関係性が土台としてちゃんとあって、その中でどの関係性、どのキャラからどのキャラへの矢印を見せたいのかが伝わってきて「そういうのもあるのか!」と楽しみながら読んでました。はたての持ってる面倒くさい感情好き。
6.100南条削除
面白かったです
言葉の端々に文のプライドが垣間見えていて読んでいて楽しかったです
範馬勇次郎みたいにニヤニヤしながら読んでました
8.100めそふ削除
各キャラが抱える感情の行き先というのが結構バラバラで複雑なんですけど、そこをはたてが潤滑油というか良い具合に関係性をはっきりさせていたし、話のメリハリもつけていたのですごく面白かったなと思いました。
9.100東ノ目削除
はたてが性格も相まって各キャラにグイグイと行く感じなのですが、そんなはたてが「取材対象との距離が近すぎ」と文を評するのが、言動の面でも内面でも文はたの対比が強く出ていて凄く刺さりました
12.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。文とはたてのライバルのような友人のような、とかく一言では表せないような関係性を示しつつ、その二人の交友関係との距離感の差やそれに対する捉え方が丁寧に描かれているように感じました。最後のほうのはたての文に対する評価や感情を椛に告げるシーンでにやにやしてしまいました。