Coolier - 新生・東方創想話

覚り妖怪博麗神社に現る

2023/01/13 20:31:30
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 ティーカップの割れた音が響いた。
 古明地さとりがお気に入りのティーカップを落としたのは、これが生涯四度目である。
 一度目は、無分別だった獣時代の火焔猫燐に突然にゃんにゃんとじゃれつかれたとき。
 二度目は、無分別だった獣時代の霊烏路空に突然くわぁくわぁとじゃれつかれたとき。
 三度目は、分別ある最愛の妹古明地こいしに突然ちゅっちゅっと抱きつかれたとき。(その後の詳細は特に秘す)
 四度目のティーカップ落としの理由はまさに衝撃だった。
「もう一度言ってくださいますか」
 いきなりスキマから現れた侵入者に苦情を言うことすら忘れ、さとりは尋ねた。
 心を読まずに尋ねたのは慌てたからではない。
 数少ない読心ジャミング能力の持ち主である侵入者、八雲紫は言った。
「覚り妖怪が発見されましたわ。もちろん、貴女でも妹さんでもない方が」
 両横に侍っていたお燐とお空が息を吞む音が聞こえる。
 さとりは妹のこいしと自分しか覚り妖怪を知らない。強いて言えば幼い頃に住んでいた故郷にいた同胞達だが、故郷はすでに消滅している。
 それからの長い年月、同胞は二人きりしかいなかった。
 探さなかったわけではない。地霊殿の主になってからも、様々の伝手を頼って探してはいた。
 決して見つからなかった同胞。今では諦めにも近い心境に落ち着いているはずだった。
 それが何故、今になって。
「幻想郷に来たばかりで、今は博麗神社にいるのだけれど」
 念のため、確認してほしいと紫はいう。
「種族を偽っているかも知れないと言うことですか」
「私達は覚り妖怪を貴女と妹さんしか知らないものですから。誤魔化されていたとしても判断基準がありませんわ」
「それはそうですね。わかりました、すぐに向かい、いえ、スキマを通るんですね」
「ええ。そうしてもらうわ」
「わかりました。お空はこいしにこのことを伝えて。まだ部屋にいるはずよ。お燐はついてきて」

 ☆ ☆ ☆

 早苗の持ってきた歴史の教科書(「ルナティック日本史」と表紙に書かれている)を霊夢は読んでいた。
 外の世界と幻想郷の違いを早苗にきちんと教えてほししいと神奈子に頼まれ、まず大まかに早苗側の知識を知っておこうとしたのだ。
 これも博麗の巫女の務めである。教科書と一緒に持ってきた米と野菜に釣られたわけではない。
「あ、これ、萃香の言ってた……そうか、やっぱり長い間生きてるのねぇ、鬼」
 ところどころに聞き覚えのある名前や出来事が出てくることに感心しながら読んでいると、おかしな揺らぎを感じる。間違いなく結界の揺らぎだ。
 そして突然発生する気配。
 何も無いところに突然現れた気配ならば霊夢にも覚えはある。
 古明地こいし。何が気に入ったのか最近はちょくちょく姿を見せて、たまに神社の蔵に入り込んでいる。本人に言わせれば「何か面白いモノがあるかと思って」らしいが、油断も隙もない。
 魔理沙と違って何も無断持ち出しはしていないようだが、蔵の中身が増えている気配がある。それはそれで困る。
 外に出ると、一人の男がそこにいた。どう見てもこいしではない。
 ということは気配を無意識下に隠していたわけではなく、本当に突然現れたのか。
 ならば、さほど慌てることではないな、と霊夢は考える。
 先ほどの揺らぎの感覚から考えて、何かの拍子で外界との結界が緩んだのだろう。稀ではあるが、外界からの迷い人が唐突に神社境内に現れることもある。
 外来人としては幸運である。なにしろ、即座に博麗の巫女の保護を受けることができるのだから。
 ところが、この外来人は違った。いや、「人」ですらなかった。
 薄紫色の貫頭衣に身を包んだ男は、戸惑った様子でキョロキョロと辺りを窺っている。
「あまりウロウロして境内から出たら責任持てませんよ」
 中にいるなら護る。というか、博麗神社境内で人間を襲う妖怪などいない。ただし、境内から一歩出れば自由なご歓談ご飲食空間である。実際には眼の届く範囲で昼間から襲われたのならば、さすがの霊夢も救いの手を差し伸べるが。
 男は首を傾げると、貫頭衣の首元を左手で広げた。
 謎の行動にこちらも首を傾げる霊夢は次の瞬間に見た。
 男の貫頭衣の中には大きな目玉が見えている。間違いなく、覚り妖怪のサードアイである。
 しかし当然、目の前の男は霊夢の知る覚り妖怪ではない。
「覚り妖怪なの?」
 呼びかけのためか、男の動きが一瞬鈍った隙に霊夢は咄嗟に警戒態勢を取った。
 闘いの構えではあるが、相手が本当に覚り妖怪であれば霊夢のこの行動があくまで正当防衛目的の警戒だということはわかるはずである。
 すると、男はすぐに両手を挙げた。
「……こちらから……危害を……加えるつもり……はない」
 つっかえつっかえ、男は言う。
「すまない……普通の人間と……話すのは……久しぶりで緊張……している」
「やっぱりあんた、覚り妖怪なの?」
「……そうだ」
「あの二人以外にもいたのね、覚り妖怪。今まで外の世界にいたの? それなら、人間と話すのが久しぶりってのも変な話じゃない」
「隠里にいた。それからすまない。貴女の心を少し読ませてもらった」
「まあ、仕方ないわよ。覚り妖怪に心読むなってのも無理があるでしょ。鬼に禁酒しろって言うようなものよね」
 ところで、名前くらい言いなさいよ。と霊夢が言うと、
「こ……コーネリアス」
「またえらくハイカラな名前ね」
「由緒正しい名前だがね」
 ところで、と今度は男が言う。
「貴女の心を少し読んでわかったが、私はこの時代の人間ではないようだ」
「は?」
「貴女がさっきまで読んでいた本の記憶が心に少し残っていた。おそらくここは、私のいた時代よりかなりの未来だろう」
「は?」
「時間旅行とでも言うか」
 よし、早苗を呼ぼう。と霊夢は思った。訳のわからないことは守矢に限る。
 しかしそこにやって来たのは紫だった。
「ちょっと霊夢、変な結界の捻れ方してない? 何か起こってる?」
「あ、多分これ」
 霊夢が指さした先には覚り妖怪。
「どうも。私は覚り妖怪のコーネリアスと言うものだ」
 一瞬、紫は口を閉じる。
 そして二秒後。
「なにそのローマな名前」
 とりあえず落ち着こうと、霊夢は三人分の茶を用意することにした。
 コーネリアスはこの状態なら心は読めないから安心して欲しいと言って、貫頭衣の中にサードアイをきちんとしまい込んだまま、お茶を飲んでいる。
 紫はコーネリアスにいくつかの質問をすると、彼が時を超えてやって来たという話にはかなりの信憑性があると言いはじめた。
 紫の知る限りの覚り妖怪の歴史を、コーネリアスは全て言い当てた。それも、現代ではごく一部を除いては秘匿されているはずの部分、当時に本人がいないと知らないのではないかと思える部分まで。さらに、途中でやって来た藍によると、結界には時間の乱れらしき歪みがはっきりと確認されたというのだ。
「各地から排斥された覚り妖怪たちが暮らしていた集落が一時期あったわ。コーネリアスさんはその頃の時代から来たということになるわね。霊夢、私はちょっと地霊殿に行ってくるから。藍と一緒にその人とお茶でも飲んで待っていて」
 遠回しに見張れと言われていると霊夢は理解した。
「仕方ないわね。わかった」
 紫はスキマの中へ入っていった。
「地霊殿、とは?」
 コーネリアスの問いに霊夢は素直に答えた。
「さっき言った覚り妖怪が住んでいる所よ。というか、もうあの子達しかいないと思われていたわ」
「あの子、達?」
「二人いるわ。姉妹が」
「そうか、我々の末裔なのか」
「直接の知り合いかもね。あいつらの歳は知らないけれど」
「ならば話は早いのだがな」
「だといいけど……あ、そうだ、藍。ちょうどいいから何か美味しいおやつ作って。材料そっち持ちで」
 藍は苦笑した。
「そう言われると思って、準備している」
「さすが、紫の世話に長けているだけあるわ」
 藍が持参したかりんとう饅頭を美味しく食べていると、スキマが再び開いた。
 紫を先頭に、さとりがお燐とともに姿を見せる。
 さとりの姿を認めた瞬間、コーネリアスは弾かれたように立ち上がった。そして、噛みつかんばかりの表情でさとりを指差す。
「き、き、君は!」
 紫と藍は咄嗟にさとりを護るように構えた。お燐は人化するとさとりを背中に庇う体勢となる。
「あんた、突然なんのつもり」
 即座に饅頭を背後にキープして構える霊夢の声に被せるように、
「そ、その恰好はなんだっ!! 破廉恥な!!」
「はい?」
 さとりは首を傾げ、コーネリアスは顔を真っ赤にしていた。
「年頃の娘ともあろうものがなんという破廉恥な恰好をしているのだ! すぐに隠したまえ!」
「はい?」
 さとりは首を傾げたままである。
「そのサードアイを早く隠せと言っている!」
「はい?」
「君も女の子なら少しは恥じらいを覚えたまえ!」
「はい?」
 紫、藍、霊夢、お燐の疑惑の目。
「……いえ、何のことだか私にはさっぱり」
 紫はコーネリアスを見た。そして、さとりを見た。
「もしかして、元々覚り妖怪というのはサードアイを隠しているのが当たり前だったかしら」
「当たり前だ!」
 コーネリアスは叫ぶ。
「サードアイを白昼堂々と開陳するなど、露出狂以外の何物でもないっ!」
「はぁああっ?!」
 さとりも叫ぶ。なんという濡れ衣か。
 サードアイを見せるのが露出狂とはどういうことか。
「いいか、サードアイとはいわば我ら覚り妖怪のシークレットゾーン! 相手の心を読むためにチラリと出すならまだしも、常時露出するとはどういうことだ!」
「どういうことってどういうことですか!」
 さとりは反論する。無理難題を言われているのかと心を読もうとするが、何故か男の心が読めない。もしかすると、覚り妖怪としての力の差かも知れない。それとも慌てているからか。いや、それはそれとして露出狂呼ばわりには怒りを覚える。
「そんな話初耳です!」
「さとり、言いづらいけど、この人が正しいかも知れないわよ」
 霊夢が男の味方になったことにさとりは更に猛る。
「どういう意味ですか!」
「だってこの人、大昔から来たのよ。下手すると貴女が生まれる前」
「大昔? それがなんですか」
「その頃の覚り妖怪の常識かも知れないってこと」
 愕然としたのはコーネリアスである。
「なんだと、まさか、現代の覚り妖怪はそんな破廉恥露出狂になってしまったというのか」
「やめて下さいその言い方」
「……サードアイの露出など、すっぽんぽんで町を歩くようなものだぞ」
「そんなにっ!?」
「え、さとり様がすっぽんぽん!?」
「おい猫」
 お燐、霊夢、紫、藍の熱視線がさとりのサードアイに集中した。
 思わずサードアイを両手で隠すさとり。
「あ、隠した」
「自覚あったの?」
「……まさか貴女、本当に露出の気が」
「これが地霊殿の主の本性か。昔、人間を惑わせていた頃を思い出すな」
「違います! そんなじろじろ見られたら隠したくなるでしょう!」
「大丈夫です、あたいとお空はさとり様がヘンタ……露出狂でもついていきます。なんならご一緒します! あ、でも、あたいたちは動物の姿で」
「それご一緒違う! いえ、それ以前に露出狂じゃありません!!」
 お燐が苦悩のポーズになる。
「くっ……くっ……わ、わかりました。こうなったら地霊殿ペット二巨頭の意地です。あたいとお空も人間形態でお付き合いします! お空は事後承諾で!」
「だから露出から離れなさいっ!」
「こう見えてもプロポーションにはちょっと自信あります!」
「猫、話を聞け」
 確かに、お燐のスタイルは悪くない。お空に至っては地底ナンバーワンかも知れない。(唯一対抗しうる星熊勇儀は腹筋が割れているので一部の層では大好評だが一般人気はあまりないと分析するさとり)
「え、脱げばいいの?」
 さとりが地底ナイスバディ列伝を考えている隙に、後から飛んできて到着したばかりのお空が燐に説得されていた。
「やめなさい」
「うにゅ。恥ずかしいけど、さとり様のためなら」
「やめなさい。お燐どころか貴女まで脱いだら騒ぎが変な意味で大きくなるから」
「そうなんですか?」
「……貴女たち自分の体型を考えてみなさい。体型というか、一部の大きさというか」
「はぁ」
「すっぽんぽんぽろん、と、すっぽんぽんばるん、じゃないの。妬ましいパル」
「さとり様、語尾が変です」
 お燐のツッコミを無視して霊夢が真顔で尋ねた。
「つまり、そういう貴女はすっぽんぽんぺたん?」
「誰がぺたんですか誰が」
 だがそれがいい。
「誰ですか今の」
 なんでそういうクリティカルを出すんだ、この非道巫女は。ダイスロールでゾロ目でも出たのか。さとりの眼差しは殺気を帯びる。
 しかし、そのさとりを助ける声が。
「そんなことないよ、お姉ちゃん」
 お空と一緒に飛んできたこいしである。
「確かに私はすっぽんぽんぺたん。だけどお姉ちゃんはすっぽんぽんぽつん、だよ。ぽつん。ぺたんですらないよ」
 こいしは助けなかった。誰も悪くなかった。それは妹の素直さが生んだ悲劇だった。
「ぽ、ぽつん。すっぽんぽんぽつん……」
 だがそれが……いや、さすがにぽつんは……
「誰か知りませんけど擁護するなら最後までしてくださいっ!」
 大騒ぎである。
「あの、紫様」
 藍が当惑気に口を開いた。
「結界の歪みが自然に修復されていくようなのですが」
「ええ。時間の歪みは自然の法則からは許されざるもの。間もなく自動的に修復されるでしょうね」
「お気付きになっていたのですか」
「予想はしていたわ。確認が取れたのは貴方の観察と演算のおかげよ、藍」
「過分のお言葉です。しかし……」
 紫が指を一本立てる。
「貴女の言うとおりよ。だけど今は、口に出さないで」
 ならば何故さとりを呼ぶ必要があったのか。と藍は尋ねようとしていた。
 コーネリアスが何者であろうと、時間の歪みによって現れたのが事実ならば歪みの解消と共に元へと帰っていくのだ。わざわざ手間をかけて覚り妖怪であることを確認する必要などない。
 いや、もしかすると紫には最初からコーネリアスの正体がわかっていたのではないだろうか。だとすると……
「古明地さとり」
 膝をついて悄気ていたさとりは紫の言葉に顔を上げた。
「この方は遙か昔、覚り妖怪の集落がまだあった頃から来た覚り妖怪よ」
「……嘘ではないのですね」
 さとりは霊夢の心からその事実とコーネリアスの告げた場所を確認していた。
「恐らくそこが、私とこいしの生まれた場所です。ほとんど覚えてはいませんけれど」
「そうか。我らの末裔なのだな、君たちが」
「おじさんは昔の覚り妖怪なんだ」
 こいしがふわふわと近づくと、コーネリアスは笑ってその頭を撫でた。
「ああ、そういうことになる」
 さとりがふと気付くと、頭をコーネリアスに向けていた。
「あら?」
 自分でも気付かない、無意識の行動だった。
 こいしを見ると首を振っている。こいしが何かしたわけでもない。これは本当に自分の無意識の行動だったのだろう。
 コーネリアスが自分の頭を撫でる手を、さとりは嫌だとは思わなかった。
「もう少ししたら、私は元の世界に戻ることになる」
「えー、こっちにいればいいのに」
「こいし、無理を言っては駄目よ」
「ぶー」
「ありがとう、こいし。元気でな。さとりも、姉妹仲良くな」
「え? はい」
「あ、そうだ」
 こいしが手をポンと叩くと一枚のメダルを取りだした。
「おじさん、これ、あげる」
「こいし、それは」
 さとりが驚いていた。
「なんだい、このメダルは」
「私が生まれたときからずっと持ってたメダルだってお姉ちゃんが言ってた」
「大事なものではないのかね」
 博麗神社の蔵にさっきまで放り込んでいたメダルだ。
 蔵には大事なモノがあるから近づくなと霊夢に言われて、それでは自分の大事なものも入れておけば近づいていいのだと、こいしは解釈した。そのためのメダルである。
「いいの? こいし」
「うん、なんだか、おじさんにあげなきゃいけないような気がする」
「もし元の時間に戻って君の家族に出会えたら、このメダルを渡すよ」
「お願いね」
「約束する」
 コーネリアスがもう一度、今度は先ほどに比べてゆっくりとこいしの頭を撫でる。
 こいしは気持ちよさそうに目を閉じていた。
 そろそろ時間だろう、と藍が言いかけたとき、
「こら、お空なんでそこで脱いでるの!」
 お凛の声にさとりとこいしは振り向くと、急いでその場へと向かった。このままでは本当にすっぽんぽんばるんが博麗神社に降臨してしまうと慌てる霊夢も向かう。
「だって、さとり様もこいし様もお燐もスッポンポンって」
「違うぅうっ!」
「お空、やめなさい!」
「うわぁぁ、ぼつんとばるんのスッポンファイトだ」
「こいしぃいっ!」
「あんたら境内で馬鹿するんじゃないっ!」
 騒ぐ五人をコーネリアスと紫は優しい目で眺めていた。
「楽しそうね、皆」
 主の脳天気な言葉に藍は反論しようとして、気付いた。
 紫の視線はコーネリアスに向けられている。
「そう思いませんこと? コーネリアスさん?」
「ええ。あんなに楽しそうな覚り妖怪を見るのは本当に久しぶりです」
 それに、と言葉は続く。
「あんなに友達がいるなんて」
「これが、幻想郷ですわ」
「これが……」
「貴方も、望むならこの世界で生きていくことができますわ」
 紫がさとり達を呼びに行く前、霊夢を含めて三人でコーネリアスの話を聞いた。
 全国各地より石もて追われた覚り妖怪が寄り添い合ってできた集落に、コーネリアスは住んでいた。
 大凶作と天変地異が重なったある年、普段から集落を目の敵にしていた周囲の人間達がそれらの不幸を全て覚り妖怪の仕業と決めつけ襲ってきた。
「私の知る限り、それが覚り妖怪が歴史の表に名を残した最後よ」と紫は言う。
 立ち向かおうとしたコーネリアスだが、複数の術士による結界に封じられ、同時に大地が揺れたと思ったら博麗神社にいる自分に気付いた。
「恐らく、大規模な余震の力と結界の力が作用したのでしょうね。もともとその地には時に関係した地脈が通っていたのかも知れないわ」
「しかし、歪みの自然修復作用はあと数分で」
 藍の言葉に頷く紫。
「ですが望むなら、歪みにスキマを空けて貴方だけを残すこともできます」
 自らの死の待つ世界に無理に戻る必要はない。
「どちらを、選びますの?」
 紫が尋ねると、さとり達の騒ぎと決別するようにコーネリアスは一歩退いた。
「どちらを選んだとしても、幻想郷は全てを受け入れますわ」
「……残酷な世界だ」
 微笑む紫に覚り妖怪は尋ねた。
「いつから、気付いていました?」
 かつて諸国を放浪していた頃に貴方を見かけたことがある、と紫は言う。
 流石にサードアイを隠している理由には気付かなかったが、と笑いながら。
 ああ、と覚り妖怪は頷いた。
「ならば話は早い。私は幼い娘と身重の妻を助けに行くところだったんですよ。戻って助けなきゃならない」
 何かに気付いて叫びかけた藍を静止する紫。
「野暮よ、藍」
 そして紫は静かに頭を下げた。
 一人の男の勇気を称えて。
 覚り妖怪は笑っていた。涙を流して笑っていた。
「安心しました。二人は生きのびるとわかりました」
「貴方が助けたのですわ」
「この時代に来られて良かった」
 メダルが引き寄せたのかも知れない、とは言わない。
 メタルを渡す、すなわち娘は助けられる、とは言わない。
 理屈など要らない、と覚り妖怪は思った。
「二人にはこんな世界が、仲間が待っているとわかった。私にはそれだけで充分です」
 一人の過去から来た覚り妖怪が、歪みの修復によって再び元の時代に戻った。
 皆にはその説明だけでいい、と紫は思った。
 知っているのは藍と自分、そしてうっかりおかしな偽名を口走った覚り妖怪だけ。
「ええ」
 残り数分、彼は成長した娘の姿を目に焼き付けるのだろう。
 紫はもう一度、そして藍も同じく、深く頭を下げた。


「だけど、サードアイを堂々と出していることを心配したとは言え、露出狂なんて酷いこと言いますのね」
「いや、それはマジだから。なんなの、あの子ら」
「え」
のくた
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コメント



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2.100ローファル削除
面白かったです。
救いのあるいいお話でした。
真っ先に饅頭を守る霊夢に笑いました。
3.90東ノ目削除
これは良いお父さん
4.70竹者削除
よかったです
5.100名前が無い程度の能力削除
コーネリアス、味のあるいいさとり妖怪だった
7.100南条削除
面白かったです
いじられているさとりがだいぶ困っていてかわいらしかったです
8.80夏後冬前削除
サトリ妖怪周りのアイディアが独特で面白かったです。裸ネタ押しはもうちょい弱くても良かったかな。楽しめました。