いつまでも、少女のままではいられない。
それに気がついたのはいつだっただろう、か。
阿求が倒れたと告げられた時、それに私は気がついた。
阿求が倒れる。それは私たちの約束が果たされる時のこと。私が少女でいることを止めること。二人でそう、決めたこと。
私は阿求の転生の儀には行かなかった。
行けなかった、約束があったから。
「阿求……」
空を見上げる。春の桜咲く人里を一筋の風が私の髪を攫っていく。それがどうしても阿求が私に触れてくれているように思えて。
私は阿求にとって良い親友でいることが出来たのだろうか。
そんなことを、私は今更ながら思うの。
~*~
「小鈴、あんた、私が死んだら、少女でいることをやめてくれる?」
「……阿求? それはどういう意味?」
きょとんして、私の特等席に座る阿求に問いかける。
「何故って、私達もそろそろいい歳じゃない?いつまででも子供のような真似事できないんじゃなくて?」
机の上にあった幻想郷縁起をパラパラと捲りながら阿求はそう言い切った。
「うっ、痛いところ突くよね。確かに私達もう二十五だけどさ」
出そうとしていた妖魔本を私は取るのをやめて、私の特等席、店番の椅子に座る阿求の元へ行く。
「だから言ってるじゃない、そろそろ夢を見ることなんて出来ないんじゃないって」
パタンと幻想郷縁起を閉じる阿求。はあ、とため息を着きながら私を見上げてくる。
「そんな所まで阿求言ってないけど?」
「“子供のような真似事”、特に妖魔本のことよ。あれはもう私たちの手に負えなくなったら、誰が退治してくれると言うの?」
「そりゃあ、霊夢さん……あっ、そうか」
妖怪退治のエキスパートの霊夢さんは次の新しい博麗の巫女を育てている最中だったんだっけ。
「そうよ。ついでに言うと魔理沙さんもいなくなった。この里を守れる人間なんて今はいないのよ。ねえ、小鈴?」
「……何、阿求?」
「あなたは今、大人? それとも子供?」
本当に、阿求は痛いところ突く。そんなの分かりきってるじゃない。
「私は今、子供よ。妖魔本に魅入られているただの子供」
にこりと阿求は笑う。
「そう、わかってるじゃない。ね、だからさ、私が死んだら子供、少女をやめて欲しいの」
「私が子供なのはわかったけどさ。なんで阿求が死んだら、ってことになるの?」
この話は長くなりそうだと思ったので、私は店番の机の横に置いている椅子を持ってきて阿求の前に座る。
「だって、私が言っても小鈴はやめてくれないでしょう?」
「そりゃ、そうだけど……」
もごもごと言い訳のような言葉が出そうになる。こういう所が私が子供たる所以なのだろう。そう自覚はしている。だって、自分の好きなことを他人の誰かに強制でやめされられる謂れなんて無いでしょうに。他人と言っても阿求は別だけどさ。
「ほら、やめない。やめられないが正しいんでしょうけど」
阿求は幻想郷縁起の表紙の文字をなぞっていた。
「そりゃあ、色々読めるようになってからとても楽しいし、今更やめられないよ」
「それが死ぬことになったとしても?」
「……それは分からないかな 」
死ぬことなんて子供な私には尚更分からない。自分が死ぬなんてそんなこと思っていないんだから。明日死ぬ、なんて言われても信じないで私は最後まで妖魔本に齧り付いているような未来が見えるような気がする。
「私はさ、三十歳まで生きられるか分からないでしょ?」
確かそれは前に阿求が自分で言っていたことだ。御阿礼の子はそう言う人ばかりだったということを。私はこくんと頷く。
「そこまで生きられないってことはさ、いつ死んでもおかしくないの。二十超えたら特に。尚更二十五まで生きられてるのに驚いてる」
そうだったのか。阿求が最近になって特に訪問してくるなって思ったらわざわざ私の顔を見に来てくれてるのかしら。
「小鈴、変なこと考えてるでしょ。まあいいわ……で、私のタイムリミットは長くてあと五年。その間にその妖魔本の癖を直してあげるわ」
「いやいやいや、阿求、そもそも私、少女をやめるなんて言ってないよ?」
本気の顔で阿求はそういうものだから驚いて否定する。提案は聞いたけれど、そんなこと私が聞くと思っているのかな?
「……それはそうね。でもさ、小鈴。賭けてみない?」
「賭ける? なにを?」
「私の命と、あんたの命」
「ほへっ!? いやいやいや、何言ってんの阿求!?」
本気で驚く。命を賭けるなんて何を言っているんだこの天才で大馬鹿者な親友は。
「静かにして。私が先に死んだら、小鈴は妖魔本を読むのをやめる。小鈴が先に死んだら、私は笑いながら紅茶を飲む。ほら簡単でしょう?」
「いやちょっと待ってよ、なんでそうなるわけ!? 私賭けに負けること確定してない?」
「私が先に死ぬって? 確かにさっき、いつ死ぬか分からないって言ったけど、それは小鈴も同じよ?」
声が詰まる。確かに妖魔本を触っているといつ何が起こるかわからない。昔みたいに専門の退治の必要なレベルのものは触らないようにはしているけれどそれでも危ない時がある。本当に危ない時は霊夢さんに教えてもらった付け焼き刃のなんちゃって巫女で退治しているけれど。それでもそのぐらいの妖魔本しか触らなくなった。大きなものを触ろうとすれば阿求に阻止されることが増えた。私を封印する勢いで阿求に詰め寄られて、おそるおそる渡してしまうことが増えたから。
「……小鈴、少女をやめるだけでいいの。大人になってくれれば。それだけで……」
阿求の指が幻想郷縁起の“幻想郷”に触れている。
「ねえ、阿求。一つだけ確認していい?」
「何?」
「私はあんたを信頼していい?」
阿求は綻ぶような笑顔で告げる。
「うん、信頼して。私もあんたを信頼してる」
そんな若き日の約束事の話。
~*~
私は賭けに負けた。
少女をやめる。ただそれだけ。
「あーあ、阿求、私、あんたに負けたよ。私の負け戦ってのはわかってたけどさ」
『稗田阿求』そう書かれた墓石を目の前に私は告げる。
親友が死んだのに気持ちが軽い。別に阿求が負担だったとかそういうわけじゃない。鮮やかに負けたことに対して私は気持ちが軽くなっている。
「しかもさあ阿求! あんた最後に言ったよね! 死ぬなら春がいいって! なんで達成してるのさ!」
本当に笑いたくなる。なんてことは無いのに空に舞うかのように私の声は吸い込まれていく。
あーあ、これから春は阿求の季節だね。私が一生忘れられない春になる。それでも私はこの春にさよならするのだ。
「阿求のばーか!」
私はまだ生きている。季節は止まることを知らない。
さあ、夏に向けて歩いていく。
どこかの歌詞で私は見た。
『彼女は自分の道を歩んでいる』
本当に阿求を指す言葉だよ。阿求は自分の道を歩みきってなお、私にお節介をかけていった。本当にお節介な親友、私の大切な親友。もう少し一緒にいる夢を見たかったよ。でもさ、阿求、あんたの幻想郷縁起、私が一緒に持って行っていい?
私のあんたが一緒に作った空想の幻想郷縁起、ずっと持ってるから。
それを答えてくれる人はもういないけど、阿求ならいいってきっと、言ってくれるだろうから。
「大丈夫」
私はあんたの約束を守るから。
***
里の中を私はゆっくりと歩いてく。賑やかな里はどうしても少しうるさく感じてしまう。
里の大きな十字路、人が沢山歩くこの場所は出会いも別れもあるんだろうか。ふと思う。阿求とこの道を歩いた時はどんな感じだったのだろうか。もう声も忘れてしまった。気がつけば私は約束を守ったまま歳を重ねている。
妖魔本は埃をかぶり、読むのは昔より増えた外来本。それか阿求と幼い頃に一緒に作った空想の幻想郷縁起。この過去に囚われた思いはなんて言うのだろう。
この空想の幻想郷縁起。阿求と私で2人で作った幻想郷縁起もどき。阿求が縁起の編纂を始める前にどんな妖怪がいたのか、想像で絵を描いて、想像で文章をつけた本。ただの稚拙な子供の絵本。でも私はこれが大事で、ずっとずっと持っている。阿求に言ったら笑われるかな。
阿求、私はさ、あんたのこと愛してた? それともただ、過去に引きずられているのかな。気がついたら私は涙がこぼれそうになる。ねえ、阿求、あんたが死ぬにはやっぱり早すぎたよ、本当はやっぱりまだ隣にいて欲しかった。
涙を抱えながら私は鈴奈庵まで小走りで急ぐ。この涙は誰にも見られたくない、私は少女をやめたのに。
「阿求……」
バタンと自分の部屋に戻った途端、私はズルズルとドアを背にしゃがみこむ。
もう誰も、阿求の話はしない。私を見る度に痛々しそうな顔をして、それが情けか。それが大人か。
「阿求、阿求……」
ねえ、私はあなたと一緒にもっと生きてみたかったよ。
溢れ出る心は私を抑えることが出来ない。あの時泣けなかった反動が来るかのように、私は気がつけば大泣きしていた。ひたすら心のままに私は泣き続ける。
何時でも阿求が隣にいるかのように思えてきて、私はそれに縋りつきたくなる。でも約束したんだ、私は少女をやめるって、大人になるって。
それでも、今だけは。一人で泣かせて欲しい。あんたのために、あんただけのために。私を縛り付けた愚かな親友のために。
「う、うぁぁぁ……阿求……阿求……」
未だ私の心の雲は晴れることは無い。覆われた雲は未だ分厚く、どうにもならない。私一人じゃ精々雨を降らすことしか出来ないのだ。
***
気がつけば、私は漂うかのように夢の世界に来ていた。
寝ている状態で夢の世界だと断定出来るほどここでの意識があるということが私は驚いている。大人になるって決めてから夢なんて見てこなかった。忙しい毎日にずっと仕事ばかりしていたように思う。空想の世界に入ることすら出来なくてはじめの方は本当にストレスになっていたように思う。
漂う姿勢をやめて私はゆっくりと空を飛ぶかのような体勢をとる。昔、少しだけ……いや嘘、夢見た空を飛ぶ体勢。そのままどこへ行くあてもなく私はふわふわと夢の世界に浮かんでいる。どこへ行くのだろう。でも行くあてなんてないし、起きるまでずっとこれでいいのかな。
「ああ、ここにいましたか……随分と奥の方まで迷い込んでいらっしゃる」
声がしてそっちに振り向くとどこかで見たことがある妖怪……?がいる。外の世界のサンタクロースのような帽子、白と黒のポンポンがたくさん着いている服……ええっと誰だっけ?
「えっと、あなたは?」
「私はドレミー・スイート。夢の支配者です。さあ、本居小鈴さん、あなたにお会いしたい人物がいらっしゃるようですよ。着いてらっしゃい」
どこか眠たそうな顔のドレミーさんは私を引っ張るかのように連れていく。
夢の世界のよく分からない地点を抜けて、ゴツゴツとした岩の洞窟を抜けると、そこには長い階段を携えた、知らない場所にいた。
「ここは……」
暗くて、ここからでは階段しか見えない。上に何かあるのだろうけれどそれすら見えなかった。
「冥界ですよ、小鈴さん。ここにあなたにお会いしたい人物がいらっしゃるんですよ」
冥界。ここが冥界。
「ほら、お行きなさい。ここからは飛ぶのではなく、自分の足で歩いていきなさい」
そうドレミーさんが言うと私は気がつくと階段の前に立っていた。
「面会が終わりましたら、私は迎えに来ます。それではまた後で」
そう言うとドレミーさんは雲のように消えてしまった。
私は長い階段を見て途方にくれる。だけれど歩き出さないの始まらないことは分かっているので、一つずつ登っていく。
コツ、コツ……
私のちっぽけな足でこんな階段を登りきることが出来るのだろうか。ううん、こうまでして私に会いたい人物なんて限られてる。あの子だと信じて、私は歩いていこうと思う。
一段、登る。二段、登る。そして私は気が付けば走っていた。
あの子なら私は、歩いてなんて行けない。早く私が会いたい。気持ちが焦って走り出す。
どのくらい走っていたのだろう。気がつけば頂上の門が見えてきている。私は早く! 早く! とさらにスピードを上げていく。何故かどんどん身体が軽くなっていくような感じがする。
門の前に誰かが立っている。
「あきゅ……!」
「止まりなさい」
あの子じゃなかった。少し前より大人びたように見える妖夢さんだった。
「久しぶりね小鈴さん。さあ、私が今度は案内役ですよ。ほら、そんなに落ち込まないで、息を整えて」
すう、はあ、すう、はあ……バチンと私は頬を叩く。……あれ?
「あれ、なんで私この服着て……」
昔よく着たオレンジ色の市松模様の着物を着て。鈴奈庵と書かれたエプロンを着て。どうして昔の店番の時の服を着ているの? 頭の鈴がチリンと鳴り響く。
「ほら、あなたを待っている人がいますよ。行きましょうか」
急かされるように妖夢さんに声をかけられて私は、そういえば冥界に来ていたんだった、と思い出す。
「はい!行きます!」
子供のように大きな声を出して私は妖夢さんの後ろについて歩いていく。初めての場所で興奮しているのか周りをキョロキョロと見渡してしまう。大きな、大きな、何もついていない大樹に、日本庭園の立派な庭に、立派な御屋敷。ここは一体どこなのだろう。冥界は確か西行寺幽々子さん、が受け持っていて……?うろ覚えだけれど確か妖夢さんは従者、だったかな。幻想郷縁起にそう書かれていたような、気がする。ごめん阿求、最近読んでなくて覚えてない。
御屋敷の玄関を妖夢さんが開けて、通される。
「お、お邪魔します……」
そうして部屋の奥まで通されて、襖を開ける前に私は止められた。
「では、あなたは覚悟が出来ていますね? あなたを待っている人とは会えるのはこの一回のチャンスだけですよ。それでもいいですか?」
真剣な表情で妖夢さんは聞いてくる。
「はい。それでいいです。だから早く会わせてください。お願いします」
妖夢さんに縋り付くようにお願いする。
「ほら、行きますよ。あなたが襖を開けてください」
そっと私の手を襖の引手に置かれる。早る思いで私はスパン! と勢いよく襖を開けてしまった。
目の前の客間に記憶のままの阿求の姿を見た。隣には西行寺幽々子さんが座っている。阿求の姿を見て私は泣きそうになる。
「ちょっと小鈴、あなたせっかちになってない?」
「阿求!」
何か言われたような気がしたけれど私は阿求に突っ込む。幽霊なのになんで触れられるとかそんなこと気にしてはいられなかった。
今、ここに阿求が存在することを感じていたかった。
「阿求……!どうして、どうして私より先に死んだのよ!どうして……うわあああん……」
言いたかったことはまず、それだけ。死んで欲しくなかった、生きてて欲しかった、私の隣にいて欲しかった。そんな子供みたいな感情ばかり浮かんでくる。
「ごめん、小鈴、ごめんね……私だって死にたくなかった、でもそういう約束だもの、私の命はいつか返さないといけないのよ……」
「そんなこと今、聞いてない! どうして阿求は阿求で居られなかったのよ! 御阿礼の子とか関係無しにどうして阿求は自分のままでいられなかったのよ……」
「聞いて、小鈴。私には使命があった。だから私じゃいられなかった。それだけなの。納得してなんて言わない。でも小鈴。あんたは綺麗になったよ。私と一緒にいた時よりうんと綺麗になった。今は子供の時の姿だけどあんたは私には囚われちゃいけないの」
「嘘よ! あんな賭けして、あんたのこと忘れられなくなって! 囚われるに決まってるじゃない……酷いよ阿求」
「本当にごめん。私はあんたに先になんか死んで欲しくなかった。先に死ぬのは私だってそう信じていたから。妖魔本を手放して欲しかった、あんたが綺麗な大人になって、誰かと結婚して、子供が生まれて、おばあちゃんになって、普通の生活をして欲しかった」
私は飛びついた阿求の胸の中で初めて阿求の本音を聞いた。
「……でも。私を忘れて欲しくなんかなかった。大切な大切な親友、忘れて……欲しくなかったの。ごめんね、酷い女で」
阿求が泣いている。嫌だ、そんな顔しないで……飛びついた体勢から私は一度離れてから、阿求の頭を抱きしめる。
「ねえ、阿求、私さ……あんたのこと忘れてなんかやらない。ずっと覚えてる。しわくちゃのおばあちゃんなったって誰かに語り継いでやるから」
「うん、うん……」
私たちは二人でしっかりと抱きしめ合う。ふっと力が抜けて、私はふらりと倒れかける。
「わっ、どうしたの」
「そろそろ時間ですね」
阿求の隣にずっと座っていた幽々子さんがそう言う。
「えっ、もう……もう少しだけ……」
ふらふらの身体で私はそう言うと幽々子さんに咎められる。
「あなたが起きる時間ですよ」
「う……」
「小鈴! 覚えていて! 私はあんたのこと愛してた! あんたはあんたの恋を見つけてよ!」
「あ、阿求……ありがとう……」
「小鈴。ありがとう。ずっと大好きだよ」
目に涙を溜めた阿求は満面の笑みでーー
私の意識はそこで、ブツンと途絶えてしまった。
***
「阿求!」
私は倒れていたところから飛び起きる。身体に上手く力が入らなくてへたりとまた倒れた。
阿求との会話、阿求の本音。まだ聞き足りないことはあったけれど、もう阿求と会えるなんてことはもう二度とやっては来ない。あの時間があっただけ奇跡なんだろう。それでも私はもう一度会いたいなって思う。会えたら最初に私も愛してた、って言いたいもの。
「ばーか。ばか阿求。私だって、愛してた。本当に遅いよ……」
阿求は阿求で、私は私。それぞれ別の人間で、生きている長さだって違う。
そんなこと当たり前だったのに気が付いていなかった。子供のままで永遠にずっと一緒にいられるものだって思ってた。
本当のばかは私だ!
ねえ、阿求。私はもう、大丈夫だよ。
あんたが、阿求が、私を私らしくしてくれる。私という一部になってくれる。ずっと一緒に私という人間にいてくれるでしょう?
朝日が昇って、明日が来てもそれは永遠だもの。
私はクスリ、と笑う。やっと大人になれそうで、阿求ごと私は生まれ変わることが出来そうで。
無くせないものはずっと側にいて。私が無くしてしまったことがあってもそれは私であるということに気がついた。
でも、少しだけお別れの涙だけは許して欲しいな。
「大丈夫だよ」
あなたと一緒に子供の頃に作った空想の幻想郷縁起が私のこれからの道を差している。
いつか道に迷ったとしても、あなたの幻想郷縁起とあなたの言葉で生きていける。
『彼女は自分の道を歩んでいる』
それは私だって。自分の人生を歩いている。
あんたに嘘つかないために私だって頑張って生きていく。私が私であるために。あんたが、あんたであるために。
阿求、私はあなたのことを信じてる。あなたに通じなくても、いつかその思いを忘れてしまっても。ずっと信じてる。
また、どこかで会おうね。
「阿求のばーか!」
私はそう、いつだってその言葉を笑顔で言ってしまうのだ。
それに気がついたのはいつだっただろう、か。
阿求が倒れたと告げられた時、それに私は気がついた。
阿求が倒れる。それは私たちの約束が果たされる時のこと。私が少女でいることを止めること。二人でそう、決めたこと。
私は阿求の転生の儀には行かなかった。
行けなかった、約束があったから。
「阿求……」
空を見上げる。春の桜咲く人里を一筋の風が私の髪を攫っていく。それがどうしても阿求が私に触れてくれているように思えて。
私は阿求にとって良い親友でいることが出来たのだろうか。
そんなことを、私は今更ながら思うの。
~*~
「小鈴、あんた、私が死んだら、少女でいることをやめてくれる?」
「……阿求? それはどういう意味?」
きょとんして、私の特等席に座る阿求に問いかける。
「何故って、私達もそろそろいい歳じゃない?いつまででも子供のような真似事できないんじゃなくて?」
机の上にあった幻想郷縁起をパラパラと捲りながら阿求はそう言い切った。
「うっ、痛いところ突くよね。確かに私達もう二十五だけどさ」
出そうとしていた妖魔本を私は取るのをやめて、私の特等席、店番の椅子に座る阿求の元へ行く。
「だから言ってるじゃない、そろそろ夢を見ることなんて出来ないんじゃないって」
パタンと幻想郷縁起を閉じる阿求。はあ、とため息を着きながら私を見上げてくる。
「そんな所まで阿求言ってないけど?」
「“子供のような真似事”、特に妖魔本のことよ。あれはもう私たちの手に負えなくなったら、誰が退治してくれると言うの?」
「そりゃあ、霊夢さん……あっ、そうか」
妖怪退治のエキスパートの霊夢さんは次の新しい博麗の巫女を育てている最中だったんだっけ。
「そうよ。ついでに言うと魔理沙さんもいなくなった。この里を守れる人間なんて今はいないのよ。ねえ、小鈴?」
「……何、阿求?」
「あなたは今、大人? それとも子供?」
本当に、阿求は痛いところ突く。そんなの分かりきってるじゃない。
「私は今、子供よ。妖魔本に魅入られているただの子供」
にこりと阿求は笑う。
「そう、わかってるじゃない。ね、だからさ、私が死んだら子供、少女をやめて欲しいの」
「私が子供なのはわかったけどさ。なんで阿求が死んだら、ってことになるの?」
この話は長くなりそうだと思ったので、私は店番の机の横に置いている椅子を持ってきて阿求の前に座る。
「だって、私が言っても小鈴はやめてくれないでしょう?」
「そりゃ、そうだけど……」
もごもごと言い訳のような言葉が出そうになる。こういう所が私が子供たる所以なのだろう。そう自覚はしている。だって、自分の好きなことを他人の誰かに強制でやめされられる謂れなんて無いでしょうに。他人と言っても阿求は別だけどさ。
「ほら、やめない。やめられないが正しいんでしょうけど」
阿求は幻想郷縁起の表紙の文字をなぞっていた。
「そりゃあ、色々読めるようになってからとても楽しいし、今更やめられないよ」
「それが死ぬことになったとしても?」
「……それは分からないかな 」
死ぬことなんて子供な私には尚更分からない。自分が死ぬなんてそんなこと思っていないんだから。明日死ぬ、なんて言われても信じないで私は最後まで妖魔本に齧り付いているような未来が見えるような気がする。
「私はさ、三十歳まで生きられるか分からないでしょ?」
確かそれは前に阿求が自分で言っていたことだ。御阿礼の子はそう言う人ばかりだったということを。私はこくんと頷く。
「そこまで生きられないってことはさ、いつ死んでもおかしくないの。二十超えたら特に。尚更二十五まで生きられてるのに驚いてる」
そうだったのか。阿求が最近になって特に訪問してくるなって思ったらわざわざ私の顔を見に来てくれてるのかしら。
「小鈴、変なこと考えてるでしょ。まあいいわ……で、私のタイムリミットは長くてあと五年。その間にその妖魔本の癖を直してあげるわ」
「いやいやいや、阿求、そもそも私、少女をやめるなんて言ってないよ?」
本気の顔で阿求はそういうものだから驚いて否定する。提案は聞いたけれど、そんなこと私が聞くと思っているのかな?
「……それはそうね。でもさ、小鈴。賭けてみない?」
「賭ける? なにを?」
「私の命と、あんたの命」
「ほへっ!? いやいやいや、何言ってんの阿求!?」
本気で驚く。命を賭けるなんて何を言っているんだこの天才で大馬鹿者な親友は。
「静かにして。私が先に死んだら、小鈴は妖魔本を読むのをやめる。小鈴が先に死んだら、私は笑いながら紅茶を飲む。ほら簡単でしょう?」
「いやちょっと待ってよ、なんでそうなるわけ!? 私賭けに負けること確定してない?」
「私が先に死ぬって? 確かにさっき、いつ死ぬか分からないって言ったけど、それは小鈴も同じよ?」
声が詰まる。確かに妖魔本を触っているといつ何が起こるかわからない。昔みたいに専門の退治の必要なレベルのものは触らないようにはしているけれどそれでも危ない時がある。本当に危ない時は霊夢さんに教えてもらった付け焼き刃のなんちゃって巫女で退治しているけれど。それでもそのぐらいの妖魔本しか触らなくなった。大きなものを触ろうとすれば阿求に阻止されることが増えた。私を封印する勢いで阿求に詰め寄られて、おそるおそる渡してしまうことが増えたから。
「……小鈴、少女をやめるだけでいいの。大人になってくれれば。それだけで……」
阿求の指が幻想郷縁起の“幻想郷”に触れている。
「ねえ、阿求。一つだけ確認していい?」
「何?」
「私はあんたを信頼していい?」
阿求は綻ぶような笑顔で告げる。
「うん、信頼して。私もあんたを信頼してる」
そんな若き日の約束事の話。
~*~
私は賭けに負けた。
少女をやめる。ただそれだけ。
「あーあ、阿求、私、あんたに負けたよ。私の負け戦ってのはわかってたけどさ」
『稗田阿求』そう書かれた墓石を目の前に私は告げる。
親友が死んだのに気持ちが軽い。別に阿求が負担だったとかそういうわけじゃない。鮮やかに負けたことに対して私は気持ちが軽くなっている。
「しかもさあ阿求! あんた最後に言ったよね! 死ぬなら春がいいって! なんで達成してるのさ!」
本当に笑いたくなる。なんてことは無いのに空に舞うかのように私の声は吸い込まれていく。
あーあ、これから春は阿求の季節だね。私が一生忘れられない春になる。それでも私はこの春にさよならするのだ。
「阿求のばーか!」
私はまだ生きている。季節は止まることを知らない。
さあ、夏に向けて歩いていく。
どこかの歌詞で私は見た。
『彼女は自分の道を歩んでいる』
本当に阿求を指す言葉だよ。阿求は自分の道を歩みきってなお、私にお節介をかけていった。本当にお節介な親友、私の大切な親友。もう少し一緒にいる夢を見たかったよ。でもさ、阿求、あんたの幻想郷縁起、私が一緒に持って行っていい?
私のあんたが一緒に作った空想の幻想郷縁起、ずっと持ってるから。
それを答えてくれる人はもういないけど、阿求ならいいってきっと、言ってくれるだろうから。
「大丈夫」
私はあんたの約束を守るから。
***
里の中を私はゆっくりと歩いてく。賑やかな里はどうしても少しうるさく感じてしまう。
里の大きな十字路、人が沢山歩くこの場所は出会いも別れもあるんだろうか。ふと思う。阿求とこの道を歩いた時はどんな感じだったのだろうか。もう声も忘れてしまった。気がつけば私は約束を守ったまま歳を重ねている。
妖魔本は埃をかぶり、読むのは昔より増えた外来本。それか阿求と幼い頃に一緒に作った空想の幻想郷縁起。この過去に囚われた思いはなんて言うのだろう。
この空想の幻想郷縁起。阿求と私で2人で作った幻想郷縁起もどき。阿求が縁起の編纂を始める前にどんな妖怪がいたのか、想像で絵を描いて、想像で文章をつけた本。ただの稚拙な子供の絵本。でも私はこれが大事で、ずっとずっと持っている。阿求に言ったら笑われるかな。
阿求、私はさ、あんたのこと愛してた? それともただ、過去に引きずられているのかな。気がついたら私は涙がこぼれそうになる。ねえ、阿求、あんたが死ぬにはやっぱり早すぎたよ、本当はやっぱりまだ隣にいて欲しかった。
涙を抱えながら私は鈴奈庵まで小走りで急ぐ。この涙は誰にも見られたくない、私は少女をやめたのに。
「阿求……」
バタンと自分の部屋に戻った途端、私はズルズルとドアを背にしゃがみこむ。
もう誰も、阿求の話はしない。私を見る度に痛々しそうな顔をして、それが情けか。それが大人か。
「阿求、阿求……」
ねえ、私はあなたと一緒にもっと生きてみたかったよ。
溢れ出る心は私を抑えることが出来ない。あの時泣けなかった反動が来るかのように、私は気がつけば大泣きしていた。ひたすら心のままに私は泣き続ける。
何時でも阿求が隣にいるかのように思えてきて、私はそれに縋りつきたくなる。でも約束したんだ、私は少女をやめるって、大人になるって。
それでも、今だけは。一人で泣かせて欲しい。あんたのために、あんただけのために。私を縛り付けた愚かな親友のために。
「う、うぁぁぁ……阿求……阿求……」
未だ私の心の雲は晴れることは無い。覆われた雲は未だ分厚く、どうにもならない。私一人じゃ精々雨を降らすことしか出来ないのだ。
***
気がつけば、私は漂うかのように夢の世界に来ていた。
寝ている状態で夢の世界だと断定出来るほどここでの意識があるということが私は驚いている。大人になるって決めてから夢なんて見てこなかった。忙しい毎日にずっと仕事ばかりしていたように思う。空想の世界に入ることすら出来なくてはじめの方は本当にストレスになっていたように思う。
漂う姿勢をやめて私はゆっくりと空を飛ぶかのような体勢をとる。昔、少しだけ……いや嘘、夢見た空を飛ぶ体勢。そのままどこへ行くあてもなく私はふわふわと夢の世界に浮かんでいる。どこへ行くのだろう。でも行くあてなんてないし、起きるまでずっとこれでいいのかな。
「ああ、ここにいましたか……随分と奥の方まで迷い込んでいらっしゃる」
声がしてそっちに振り向くとどこかで見たことがある妖怪……?がいる。外の世界のサンタクロースのような帽子、白と黒のポンポンがたくさん着いている服……ええっと誰だっけ?
「えっと、あなたは?」
「私はドレミー・スイート。夢の支配者です。さあ、本居小鈴さん、あなたにお会いしたい人物がいらっしゃるようですよ。着いてらっしゃい」
どこか眠たそうな顔のドレミーさんは私を引っ張るかのように連れていく。
夢の世界のよく分からない地点を抜けて、ゴツゴツとした岩の洞窟を抜けると、そこには長い階段を携えた、知らない場所にいた。
「ここは……」
暗くて、ここからでは階段しか見えない。上に何かあるのだろうけれどそれすら見えなかった。
「冥界ですよ、小鈴さん。ここにあなたにお会いしたい人物がいらっしゃるんですよ」
冥界。ここが冥界。
「ほら、お行きなさい。ここからは飛ぶのではなく、自分の足で歩いていきなさい」
そうドレミーさんが言うと私は気がつくと階段の前に立っていた。
「面会が終わりましたら、私は迎えに来ます。それではまた後で」
そう言うとドレミーさんは雲のように消えてしまった。
私は長い階段を見て途方にくれる。だけれど歩き出さないの始まらないことは分かっているので、一つずつ登っていく。
コツ、コツ……
私のちっぽけな足でこんな階段を登りきることが出来るのだろうか。ううん、こうまでして私に会いたい人物なんて限られてる。あの子だと信じて、私は歩いていこうと思う。
一段、登る。二段、登る。そして私は気が付けば走っていた。
あの子なら私は、歩いてなんて行けない。早く私が会いたい。気持ちが焦って走り出す。
どのくらい走っていたのだろう。気がつけば頂上の門が見えてきている。私は早く! 早く! とさらにスピードを上げていく。何故かどんどん身体が軽くなっていくような感じがする。
門の前に誰かが立っている。
「あきゅ……!」
「止まりなさい」
あの子じゃなかった。少し前より大人びたように見える妖夢さんだった。
「久しぶりね小鈴さん。さあ、私が今度は案内役ですよ。ほら、そんなに落ち込まないで、息を整えて」
すう、はあ、すう、はあ……バチンと私は頬を叩く。……あれ?
「あれ、なんで私この服着て……」
昔よく着たオレンジ色の市松模様の着物を着て。鈴奈庵と書かれたエプロンを着て。どうして昔の店番の時の服を着ているの? 頭の鈴がチリンと鳴り響く。
「ほら、あなたを待っている人がいますよ。行きましょうか」
急かされるように妖夢さんに声をかけられて私は、そういえば冥界に来ていたんだった、と思い出す。
「はい!行きます!」
子供のように大きな声を出して私は妖夢さんの後ろについて歩いていく。初めての場所で興奮しているのか周りをキョロキョロと見渡してしまう。大きな、大きな、何もついていない大樹に、日本庭園の立派な庭に、立派な御屋敷。ここは一体どこなのだろう。冥界は確か西行寺幽々子さん、が受け持っていて……?うろ覚えだけれど確か妖夢さんは従者、だったかな。幻想郷縁起にそう書かれていたような、気がする。ごめん阿求、最近読んでなくて覚えてない。
御屋敷の玄関を妖夢さんが開けて、通される。
「お、お邪魔します……」
そうして部屋の奥まで通されて、襖を開ける前に私は止められた。
「では、あなたは覚悟が出来ていますね? あなたを待っている人とは会えるのはこの一回のチャンスだけですよ。それでもいいですか?」
真剣な表情で妖夢さんは聞いてくる。
「はい。それでいいです。だから早く会わせてください。お願いします」
妖夢さんに縋り付くようにお願いする。
「ほら、行きますよ。あなたが襖を開けてください」
そっと私の手を襖の引手に置かれる。早る思いで私はスパン! と勢いよく襖を開けてしまった。
目の前の客間に記憶のままの阿求の姿を見た。隣には西行寺幽々子さんが座っている。阿求の姿を見て私は泣きそうになる。
「ちょっと小鈴、あなたせっかちになってない?」
「阿求!」
何か言われたような気がしたけれど私は阿求に突っ込む。幽霊なのになんで触れられるとかそんなこと気にしてはいられなかった。
今、ここに阿求が存在することを感じていたかった。
「阿求……!どうして、どうして私より先に死んだのよ!どうして……うわあああん……」
言いたかったことはまず、それだけ。死んで欲しくなかった、生きてて欲しかった、私の隣にいて欲しかった。そんな子供みたいな感情ばかり浮かんでくる。
「ごめん、小鈴、ごめんね……私だって死にたくなかった、でもそういう約束だもの、私の命はいつか返さないといけないのよ……」
「そんなこと今、聞いてない! どうして阿求は阿求で居られなかったのよ! 御阿礼の子とか関係無しにどうして阿求は自分のままでいられなかったのよ……」
「聞いて、小鈴。私には使命があった。だから私じゃいられなかった。それだけなの。納得してなんて言わない。でも小鈴。あんたは綺麗になったよ。私と一緒にいた時よりうんと綺麗になった。今は子供の時の姿だけどあんたは私には囚われちゃいけないの」
「嘘よ! あんな賭けして、あんたのこと忘れられなくなって! 囚われるに決まってるじゃない……酷いよ阿求」
「本当にごめん。私はあんたに先になんか死んで欲しくなかった。先に死ぬのは私だってそう信じていたから。妖魔本を手放して欲しかった、あんたが綺麗な大人になって、誰かと結婚して、子供が生まれて、おばあちゃんになって、普通の生活をして欲しかった」
私は飛びついた阿求の胸の中で初めて阿求の本音を聞いた。
「……でも。私を忘れて欲しくなんかなかった。大切な大切な親友、忘れて……欲しくなかったの。ごめんね、酷い女で」
阿求が泣いている。嫌だ、そんな顔しないで……飛びついた体勢から私は一度離れてから、阿求の頭を抱きしめる。
「ねえ、阿求、私さ……あんたのこと忘れてなんかやらない。ずっと覚えてる。しわくちゃのおばあちゃんなったって誰かに語り継いでやるから」
「うん、うん……」
私たちは二人でしっかりと抱きしめ合う。ふっと力が抜けて、私はふらりと倒れかける。
「わっ、どうしたの」
「そろそろ時間ですね」
阿求の隣にずっと座っていた幽々子さんがそう言う。
「えっ、もう……もう少しだけ……」
ふらふらの身体で私はそう言うと幽々子さんに咎められる。
「あなたが起きる時間ですよ」
「う……」
「小鈴! 覚えていて! 私はあんたのこと愛してた! あんたはあんたの恋を見つけてよ!」
「あ、阿求……ありがとう……」
「小鈴。ありがとう。ずっと大好きだよ」
目に涙を溜めた阿求は満面の笑みでーー
私の意識はそこで、ブツンと途絶えてしまった。
***
「阿求!」
私は倒れていたところから飛び起きる。身体に上手く力が入らなくてへたりとまた倒れた。
阿求との会話、阿求の本音。まだ聞き足りないことはあったけれど、もう阿求と会えるなんてことはもう二度とやっては来ない。あの時間があっただけ奇跡なんだろう。それでも私はもう一度会いたいなって思う。会えたら最初に私も愛してた、って言いたいもの。
「ばーか。ばか阿求。私だって、愛してた。本当に遅いよ……」
阿求は阿求で、私は私。それぞれ別の人間で、生きている長さだって違う。
そんなこと当たり前だったのに気が付いていなかった。子供のままで永遠にずっと一緒にいられるものだって思ってた。
本当のばかは私だ!
ねえ、阿求。私はもう、大丈夫だよ。
あんたが、阿求が、私を私らしくしてくれる。私という一部になってくれる。ずっと一緒に私という人間にいてくれるでしょう?
朝日が昇って、明日が来てもそれは永遠だもの。
私はクスリ、と笑う。やっと大人になれそうで、阿求ごと私は生まれ変わることが出来そうで。
無くせないものはずっと側にいて。私が無くしてしまったことがあってもそれは私であるということに気がついた。
でも、少しだけお別れの涙だけは許して欲しいな。
「大丈夫だよ」
あなたと一緒に子供の頃に作った空想の幻想郷縁起が私のこれからの道を差している。
いつか道に迷ったとしても、あなたの幻想郷縁起とあなたの言葉で生きていける。
『彼女は自分の道を歩んでいる』
それは私だって。自分の人生を歩いている。
あんたに嘘つかないために私だって頑張って生きていく。私が私であるために。あんたが、あんたであるために。
阿求、私はあなたのことを信じてる。あなたに通じなくても、いつかその思いを忘れてしまっても。ずっと信じてる。
また、どこかで会おうね。
「阿求のばーか!」
私はそう、いつだってその言葉を笑顔で言ってしまうのだ。
この2人らしさを感じました。
短い再開の時間で本音をぶつけ合うところもとてもよかったです。
先に死んだ方が勝ちだと双方が思っているところがよかったです
これもひとつの愛の形なのだと思いました