Coolier - 新生・東方創想話

リトル・ブース

2022/11/17 23:48:39
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 ある晴れた日の昼中。
 夏も本番と言わんばかりに神社の外では蝉が鳴いている。
 
 突き抜けるように澄んだ青空からは陽光が容赦なく降り注ぎ、縁側の一部分を白く光らせている。
 思わず顔をしかめたくなる暑さだ。

「忘れ物ない?」

「大丈夫!」

 しかしこんな日でも元気なのは目の前の小さな同居人、少名針妙丸だった。
 彼女は暑さなんて平気だと言わんばかりにせかせかと出かける用意をしている。
 床にはいつもの唐草模様の風呂敷包みと小さな水筒があった。
  
 行先は魔法の森の魔女、アリスの家。
 針妙丸がここで暮らし始めて間もない頃、神社にやって来たアリスと裁縫のことで話が弾み、
今では時々遊びに行くようになっている。
 
 最初私は針妙丸を一人で外出させるのには反対だった。
 今の彼女は小槌の魔力を使った代償として身体が元の大きさよりさらに小さくなっている。
 妖怪どころか小動物相手にも命を取られかねないのは勿論、上空で強風に煽られればどこに飛ばされるか分からない。 

 それに魔法の森には常人には到底耐えられないであろう瘴気が常に漂っている。
 護符を持たせればなんとか耐えられるかもしれないが当然絶対の保証はない。
 私がそのことを話すと、アリスはなんでもないことのように「ちゃんと私が送り迎えしてあげるわよ」と言ってのけた。
 
 元々魔法使いというのは他人との関わりにあまり興味がないと言われている。
 アリスもその例に漏れず、研究に没頭すると何日も家に籠りっぱなし、ということも珍しくない。
 そんな彼女がそこまでするとは、余程針妙丸を気に入ったのだろうか。

 まあ、確かに小動物のようで可愛らしいとは思う。 
 またいかに異変の首謀者とはいえ、実際は天邪鬼がついた嘘を信じ込んでいただけだったという事情もある。
 しばらく針妙丸を神社で保護することに決めたのもそういった理由からだ。

 そんなことを考えていると境内に人の気配がした。
 壁の時計の針は午前十時を指している。

 必ず約束の時間丁度に訪れるのがいかにも几帳面なアリスらしい。
 私は荷物を抱えようとしている針妙丸に声をかけた。

「来たみたいよ」

「あ、はーい」
 
 針妙丸は返事とともに風呂敷包みを背負ってゆっくりと歩いていく。
 包みは彼女の背丈に対して結構な大きさだ。
 
 以前初めてアリスの家に出かけた日、荷物を背負った彼女の歩き方が
なんともぎこちなかったので出口まで持ってあげようかと提案したけど、
「自分で持てるから大丈夫」と言って針妙丸は首を縦に振らなかった。
 
 気のせいかその時の彼女はどこか慌てた様子だった。
 多分他人に触って欲しくない物があるのだろうと、特に深くは考えなかった。















 いつものように簡単に挨拶を交わすと、アリスは針妙丸を駕籠に似た木製の小さな箱に乗せた。
 そしてそれを前後に二人ずつ、四人の人形達が支える。
 なんでも最初は手で抱えようとしたけどそうすると人形を操る指がほとんど塞がってしまうのでわざわざこの籠を作ったらしい。 

 針妙丸も最初は遠慮していたけど、今の体のサイズで上空を飛行することがどれほど危険かを
分かっているからか最近は素直に好意に甘えているようだ。

「なんかこうして見てると本当にお姫様みたいね」

 私の言葉を聞いた針妙丸が慌てたようにこちらを振り向いて言う。

「みたいじゃなくて本当にお姫、あっ」

 しかしいきなり体を動かした拍子に背負った風呂敷包みが籠の中の壁にぶつかってよろけてしまう。
 お姫様、か。
 
 確かに綺麗な着物を着て籠に乗せてもらう姿だけならそれらしい、それだけなら。
 思わず笑みが吐息になって漏れてしまう。

 すると針妙丸は恥ずかしそうに荷物を籠の中に下ろしてそわそわし始める。
 こうして見ていると普段以上にただの子供にしか見えない。
 それを見たアリスが口元に手で隠しながら言った。
 
「ふふ。じゃあ行きましょうか、お姫様」

「も、もう」

 くすくすと可笑しそうに笑うアリスが手を上げると籠とそれを支える人形達が飛行を始める。
 針妙丸の恥ずかしそうな呟きが漏れるも、気にした様子はない。
 それからこちらに視線を向け、一言。 

「じゃ、夕方には帰ってくるわね」

「はいはい、行ってらっしゃい」
 
 アリス達の後姿はゆっくりと小さくなり、やがて見えなくなった。
 さて、境内の掃除でもしようか。






























 何度も遊びに来たのですっかり間取りを覚えてしまったアリス邸。
 魔法の森の奥深くにあるこの家で、私はお菓子をご馳走になっている。

 テーブルの上にはアリスが出してくれたクッキーと紅茶があり、その横には私が作ったコースター、ハンカチ等の小物がある。
 アリスがそれを一つずつ見つめた後、口を開いた。

「相変わらずどれも綺麗ね、縫い目も完璧だわ」

「えへへ、ありがとう」

 アリスはいつも私の作品を褒めてくれる。
 趣味で作っているだけの物だけど彼女のような人形師、いわば物作りを生業としている人に自分の腕を認めてもらえるのはやっぱり嬉しかった。
 でも、今日はそれだけではないようだった。

「ねえ、もしよかったら今度人里で出すお店に貴女も一緒に来ない?」

 アリスの言うお店が何かはすぐに頭に浮かんだ。
 先日霊夢と一緒に人里を訪れた時、集会場の近くで人形を連れた金髪の魔法使いがシートの上で何かを売っているところを見たからだ。
 その時は面識がなかったし、遠目に見ただけだからどんな物を売っているのかはよく分からなかった。

「もしかして集会場の近くでやってたお店のこと?」

「そうよ、たまに小物を売りに行ってるの」

 アリスはそう言いながら窓際を指した。
 そこには可愛らしくデフォルメされた犬や猫などの動物のぬいぐるみが均一な感覚で行儀よく並べられていた。

「いつもそんなに売れるわけじゃないけど、私も色々と買いたいものがあるからね」

 アリスはそこで一度言葉を切ると再び視線を私に戻して続けた。

「貴女の作品はお店に出しても売れそうなぐらい出来がよかったから、もし興味があるならと思って。
勿論思い入れもあるだろうし、気が進んだらでいいからね」

 自分の作品を誰かに買ってもらうというのは今までに考えたことがなかった。
 アリスと一緒に小物を並べて売る自分の姿を想像してみる。
 
 きっと沢山の人間が来る。
 仮にお店にはあまり人が来なくても、催し物がある度に人が集まる集会場の近くなら遠目からでもいろんな人に見られるのは間違いない。
 
 アリスのことは信用出来るし、変な人間が来てもきっと大丈夫だとは思う。
 だけど、もしも誰も買ってくれなかったらどうしよう。
 アリスのだけが売れて、私のは一つも買ってもらえなかったら。
 
 悲しい、そんなの嫌だ。
 不安が顔に出てしまっていたのか、アリスが少し焦った様子で言った。

「私の作品も売れるかどうかはまちまちだし、話し相手が欲しいっていうのもあるのよ。
勿論付き合ってもらうからには茶店で何か買ってあげるわ」

 茶店。
 その言葉を聞いた時、とある風景が頭に浮かんでくる。
 それはお団子やお茶のことじゃない。
 
 以前一度だけ霊夢と人里に顔を出した時、彼女が財布からお金を出して八百屋や雑貨屋で買い物をしているところを何回も見た。
 アリスも同じように、茶店でお金を払ってお菓子かなにかを買ってくれると言っているのだろう。
 でも、私はどうだろう。
 
 輝針城異変から約二週間、私は博麗神社で居候として暮らしている。
 霊夢からは住居の提供だけでなく、ご飯も出してもらっている。
 私はそれについてありがたいく思う気持ちと同時に申し訳なく思う気持ちもあった。 
 
 でも食事の席でお礼を言うと霊夢はいつも、
「あんたが食べてる分なんかほんのちょっとなんだから、気にしないでさっさと食べなさい」
と言うだけで気にするようなそぶりは全く見せなかった。

 小槌の魔力はほとんど持ち逃げされてしまったし、回収しようにも今の大きさの私一人ではどうしようもない。
 でも、かと言っていつまでも周りに面倒をかけるわけにはいかない。
 
 小さいから物が持てない。
 小さいから遠くに行けない。
 小さいから誰かに守ってもらわなければならない。
 
 どれも、事実なのかもしれない。
 でも、小人はそんな種族じゃない。
 ただ目の前の困難に膝を折り、諦め現状に甘んじているだけなんて、嫌だ。

 私にもなにか、なにか出来るはず。
 天邪鬼に下剋上を持ちかけられた時だって、確かに思ったんだ。
 きっと出来る、と。
 
 異変を起こした時の私は自信満々だった、今思えば上手くいく具体的な根拠なんて一つもなかったのに。
 だけど私には仲間がいた、その仲間はもう私のことなんて見ていないことは分かっているけど。
 自分を信じてくれる、必要としてくれる味方がいた、その事実だけでなんでもやり遂げられる、そんな風に思えた。
 
 もし、私の作品を買ってくれる人がいたら。 
 私を大事にしてくれる人に恩返しができる。

 黙りこくっていた私を見て心配したのか、アリスが気遣わしげな表情を浮かべているのに気付く。
 私は言った。

「……じゃあ私も一緒に行ってもいい?」

「大丈夫? 本当に無理はしなくていいのよ」

 不安な気持ちがまだ顔に残っていたのか、アリスの表情はあまり変わらない。
 私は精一杯笑顔を作って言った。

「ううん。ちょっとどきどきしてるけど、私もお店っていうのやってみたいな、って思って」

 アリスは一応納得した、と言った様子で言った。

「ありがと、じゃあよろしくね」

「うん!」

元気に言えた、と思う。















 それから私とアリスは三日後に人里で開くお店のことについて話し合った。
 当日は神社から直接人里に向かうこと。
 実際に売り物を持ってくるかどうかはその日までに決めてくれればいい、とのことだった。
 
 当日の段取りがまとまったところで窓の外を見ると丁度陽が傾き始めたところだった。
 私は来た時と同じように籠に乗せてもらいアリスに神社まで送ってもらった。
 境内に降り立ったところで振り返って彼女の人形達に頭を下げる。

「ありがとう」

 すると彼女達も頬を緩め、ぺこりとお辞儀をした。
 アリスが操っていると分かっていても、まるで本当に生きているような気がする。
 
 作品を褒めてもらった時に私がそう言うと、アリスは人形を操る手を止めずに
「まだまだ、完全な自立には程遠いわよ」と軽い溜息とともに答えた。

 でもその口調とは裏腹に、手元の動きはなんだか楽しそうに見えた。
 自分の作品を褒められて嬉しいのは、きっとみんな同じなんだろうな。
 
 アリスが人形達を連れて帰って行く姿を見送ったところで、背後に気配を感じて振り返る。
 霊夢が縁側の方から歩いて来る。

「あら、アリスはもう帰ったのね」

「うん、ただいま」

 私がそう答えると霊夢は悪戯っぽい笑みとともに言った。

「おかえり、たくさん遊んでもらった?」

「もー、子供扱いしないでよっ」

「ふふ、はいはい」

 霊夢が踵を返して土間に向かおうとしたので私も小走りで追いかける。
 三日後のことについて、私は聞きたいことがあった。
 














 夕食を済ませてテーブルを拭き終えたところで霊夢がお茶を持ってくる。
 私は一口飲んでから今日のことを話した。
 お店について行くことについての説明を終えても、霊夢はごく短い相槌を打つだけだった。
 
 といっても彼女は誰のどんな話に対しても大体こんな感じだ。 
 私は思い切って聞いてみる。

「霊夢は私の作品って売れると思う?」

 予想していなかった質問だったのか、霊夢は一瞬きょとんとした表情を見せる。
 でもその直後に返ってきた返事はある意味予想通りだった。

「それはやってみないと分からないんじゃない?」

「……やっぱりそうだよね」

 霊夢はテーブルに肘を乗せながら言った。

「そんなに深く考えなくてもいいんじゃない?」

「え?」

「もし売れなくても、またあんたの宝箱に戻るだけでしょ」

「……うん」

 自分でも煮え切らない返事になってしまっている自覚はある。
 でも、上手く言いたいことを言葉に出来ない。
 
「もしかして、欲しい物でもあるの?」

「え、ええと……」

 上手く答えられずしどろもどろになってしまった。
 私に欲しい物があるのとはちょっと違うけど、目的のためにお金が必要なのは間違いない。
 
 でも、もし売れなかったら。
 そう思うと今ここで口に出すのが怖い。

「ま、無理には聞かないけど」

 気付いた時には霊夢はお茶を飲み干し立ち上がっていた。
 彼女は基本的に相手の事情に深入りをしない。
 
 相手が初対面の人妖であっても、付き合いの長い友人で会っても。
 それが今はありがたかった。

























 それから三日間、少しでもいい物を作ろうと私は創作に本気で取り組んだ。
 これまではただ作りたい物を作るだけだったけど、それじゃだめだ。
 お客さんが買ってくれる物を作らないと。 
 
 でも、針を動かすペースが一向に上がらない。
 何度もデザインを下書きしては消し、実際に縫っては解いての繰り返し。
 
 こんなのじゃ売れないかもしれない、もっと目立つデザインじゃないとだめなんじゃないか。
 私は自分の作品が詰まった小箱を引っ張り出し、手に取って中身を一つずつ見比べた。

 藍色の生地に桜色の糸で花の模様を塗ったコースター。
 薄い桃色の生地に赤色の糸でデフォルメされた小鳥の姿を描いたハンカチ。

 アリスはどれも素敵な作品だと褒めてくれた。
 でも、彼女の沢山の可愛らしいぬいぐるみに比べたら明らかに地味だ。
 これじゃだめだ、もっといいのを作らないと。

 そうこうしているうちに、人里に出かける日は明日に迫っていた。
 陽も完全に沈んでいる。
 
 結局、新しい作品は一つも作れなかった。
 押し寄せてくる不安が暗雲のように私の心に広がる。
 疲れ果てて手にした針と糸をテーブルに投げだした、その時だった。

「針妙丸」

 声がした方を振り返る。
 居間の入り口に霊夢が立っていた。 
 
 私が返事をする前に話し始める。  
 それははいつも以上に砕けた口調だった。

「別に売れなくてもいいじゃない、遊びに行くと思って行って来たらいいのよ」

 気遣いの言葉、それは分かってる。
 私は辛うじて頷き返すのが精一杯だった。
 
 それでも視線は未練がましく手放した針と糸に向いてしまう。
 霊夢が短く息を吐きながら言う。
 今度は少し呆れたような言い方だった。
 
「あんたは体も小さいんだし、無理しない方がいいわよ」

 小さい。
 いつもは全く気にならない言葉。
 
 でも、疲れ切った今はそれがなぜか全く違った意味の言葉に聞こえてしまう。
 自分が小さいことぐらい分かってる、分かってるのに。
 
「大丈夫だから!」

 しまったと思った時には遅かった。
 反射的に張り上げた声はすぐに宙に霧散し、真夏の夜にも関わらず部屋が急激に冷えたように感じる。
 
 恐る恐る顔を上げると霊夢は困惑して一歩引いていた。
 思えば、ここで暮らし始めて大声を出したのは初めてかもしれない。

「……ごめん!」

 私は一言を、しかし相手の目を見ることは出来ないままその場に残した。
 返事を聞くこともせず、テーブルの道具を袋に乱暴に詰め、逃げるように自分の家がある和室に向かって走る。
 
 畳の上を縁側の方に向かって駆けていくとすぐ前に自分の家が見えてくる。
 中には虫篭と揶揄する人妖もいるけど、正真正銘、私の家。
 霊夢が後を追ってくる様子はない。
 
 そのままドアを乱暴に開け、中に飛び込むと持っていた袋を隅に下ろしそのまま布団の上に体を放り出した。
 ごめん、霊夢。














 翌日。
 霊夢は妖怪退治の仕事で既に外出していた。
 居間に残されていたのはいつものように夕方までには戻る、と一言書かれた書置きと神社を留守にする時用に戸口に貼っていく数枚の護符。
 
 炊事場に入ると自分用に小さく握ってくれたおにぎりが三つお皿に乗っていた。
 昨日のことなど全く気にしていないかのようだったけど、それがかえって怖かった。

 食事と護符の貼り付けを済ませ、荷物を縁側に運び出したところでアリスが先日より多い、十人近い数の人形とともにやってきた。
 私がいつも乗せてもらっている駕籠のような箱とは別に、袋が四つ積まれた大きな箱があり、それぞれを人形達が協力して支えている。

「おはよう、霊夢は今日はいないのね」

「うん、お仕事」

 なんとかいつも通りの自分でいようと試みる。
 でも、いつも通りってなんなんだろう。
 そういようとすればするほど、身体がまるで自分のものじゃないかのようにぎこちなくなっていく気がする。
 
 幸い、アリスが特になにかを気にしている様子はない。
 とにかく、今は目の前のことに集中しないと。 
 
「じゃ、もう行きましょうか。並べるのにも時間がかかるからね」

「うん、ええと……よろしくお願いします」

 私がそう言って頭を下げると、アリスは嬉しそうに微笑んだ。

「こちらこそ、よろしくね」
























 霊夢以外の人妖と初めて訪れる人里。
 一度訪れただけなので地理はほとんど覚えていない。
 
 はぐれないようにアリスの後をついていく。
 入り口から十分ほど歩いたところで私が形を覚えている数少ない建物、集会場が見えてくる。
 前を歩くアリスが少し手前の広場を指して言った。

「あの広場をいつも借りてるのよ」

 そこは無人の空き地で土地の隅に材木がいくらか積まれている以外には何もなかった。
 確かにこの場所なら露店を開くのに十分なスペースだ。

 それから私達は開店の準備を始めた。
 シートを広げ、手分けをして自分達の売り物、作品を並べていく。
 
 手を動かし始めると先程まで強く感じていた緊張感はどこかにいっていた。
 粗方並べ終えたところで手を止め、広場から一歩出たところから全体を見渡す。
 横に長いシートの幅は大体四メートルほどで、そのうち四分の一ほどのスペースを私が使っている。

 隣のアリスのスペースを見やると私のスペースに隣接した位置から順にぬいぐるみ、
小物類、洋服の順に彼女の作品が並んでいた。
 
 目の前の私のスペースに並んでいるのは私が作ったハンカチ、コースター、ミサンガ等。
 アリスの作品に比べたらどうしても見劣りしているように感じる。
 
 気づけば既に遠くから私達の方を見ている人がいた。 
 まだお客さんが来たわけでもないのに、動悸が徐々に激しくなってくる。
 
 売れなかったらどうしようという不安は消えない。
それに、昨日は心配してくれた霊夢に冷たい言い方をしてしまったことも私の心中に影を落としている。

 でも、今は目の前のことに集中しないと。
 あらためて自分に気合を入れたそのときだった。
 アリスが腰を屈めて私の顔を覗き込んでいた。

「緊張してる?」

「……うん。沢山の人に見られるの、恥ずかしいね」

「貴女はこういうの初めてだものね」

 そう言うとアリスは私のすぐ隣、お互いの身体が触れるのではないかという距離に腰を下ろした。

「なにかあったら私がなんとかするから安心なさい、ね?」

 その言葉は私の心持ちを幾分か軽くしてくれた。















 お店を開いてから三十分ほど経っただろうか。
 往来を行き交う人々は遠目からこちらを見ながら通り過ぎていくだけで店の前で足を止める人はいない。

 アリスが一緒じゃなかったら見られることの恥ずかしさに耐えられなかったかもしれない。
 当の彼女は特に気にした様子もなく、いつもの調子だ。

「ねえ、針妙丸」

「なあに?」

「作品が売れても売れなくても、今日は後で茶店に行こうと思うんだけど何が食べたいかしら?」

「うーん……」

 考えていなかったことを不意に尋ねられて言葉に詰まってしまった。
 嬉しい申し出だけど、今の私が欲しいのは自分の作品が売れるという事実だ。
 
「どうしたの? もしかして、具合でも悪いの?」

 私は慌てて胸の前で手を振って否定した。

「ううん、そんなんじゃないよ」

「それならいいけど、なんだか深刻な顔してたから」

 態度に出さないようにと思っていても、アリスにはお見通しのようだ。
 これから長い時間一緒にいるわけだし、ずっとお世話にもなっている。
 ここは素直に言うことにした。

「あのね、アリス」

「うん?」

「私は神社で暮らすようになってからずっと霊夢にお世話になってるんだけど、
まだ一円のお金も払ったことがないの」

 アリスは意外そうな表情を浮かべながら言った。

「霊夢はそういうこと気にしてないわよ。もし本当にお金に困っていたら貴女を神社に置こうともしないだろうし」

「……うん、確かに霊夢は私を居候させることについて何も言ってない」

 私は一度言葉を切り、一呼吸置いてから続けた。

「でも、私が食べさせてもらってるご飯のお金は霊夢が神事や妖怪退治で稼いだものだから」

 アリスは小さく頷き、一言だけ相槌を打った。

「それは、そうね」

「だから、私も霊夢になにかしてあげられないかな、と思って」

「恩返し、というわけね」

「……うん、でもそれだけじゃないの」
 
 その時だった。
 
「あっ、アリスお姉ちゃん!」

 寺子屋の帰りかなにかだろうか、茶色の手提げ袋を持った女の子が二人、アリスに駆け寄って来た。  
 どうやらこのお店に来たことがあるようだ。
 アリスが愛想よく返事をする。

「ええ、アリスお姉さんよ」

「ねえねえ、今度はいつ人形劇やるの?」

「上海ちゃん抱っこしてもいい?」

 アリスは矢継ぎ早に話しかけてくる子供達に微笑を浮かべながら応対する。
 いつも連れている人形達の中でも必ず彼女のすぐ傍にいる特別な人形、
上海人形はふわりと宙に浮かぶと子供達に視線を合わせ、ぺこりとお辞儀をした。

「上海ちゃんこんにちは」

 二人の女の子のうち活発そうなポニーテールの子が挨拶すると、彼女も抑揚のない声ながらはっきりと答えた。

「シャンハーイ」

 その返事に喜んだ彼女は上海人形を抱き上げその絹のような柔らかい金髪に頬を寄せる。
 
「えへへ、やわらかーい」

 上海人形も心なしか喜んでいるように見える。
 もう一人のちょっと内気そうなショートヘアの子は羨ましそうにその光景を眺めていたけど、不意にアリスの隣にいた私と目が合った。
 
 そのまま視線を逸らさずにまじまじと見つめられ、私が思わずお椀を被り直すふりをして誤魔化そうとした、次の瞬間。
 彼女はアリスに問いかける。

「ねえ、この子は新しいお人形さん?」

 私は驚いて思わず言葉になっていない声を出してしまう。
 声色が若干裏返った。
 
「えっ」

 アリスは不意を突かれたようにぷっと吹き出しながら言った。

「ふふ、その子は違うわよ。そうねえ……私のお友達、かな」

 上海人形を抱いている少女も私に気づいたようだ。
 気のせいか、彼女に向けていたのと同じ目をしているように見える。

 子供の背丈でも至近距離から見下ろされるのはやっぱりちょっと怖い。
 そんなことを思っていると彼女はさらに一歩近づいて言った。

「かわいい! お名前なんて言うの?」

「えっと、少名針妙丸だよ」

 私が答えると今度はもう一人のショートヘアの子も身を乗り出して言った。

「おうちはどこ? アリスお姉ちゃんと一緒に住んでるの?」
 
「どうして体が小さいの?」

「寺子屋には来ないの?」

 唐突に始まった質問攻めに私は返答に詰まってしまう。
 しかも彼女達は答えるまでその場を動かないと言わんばかりにこちらをじっと凝視してくる。

 どうしよう、小人って素直に言えばいいのかな。
 でもこのくらいの年の子供に種族のことを説明して分かってもらえる気はしない。
 
 私が窮していると、またしてもアリスが助け舟を出してくれた。
 腰を屈めて子供達に目線を合わせると、ゆっくりと言い聞かせるような口調で言った。

「この子はちょっと色々あって、体が小さくなっているの。
でもそれ以外は私達と何も変わらないわよ」

 アリスはそれから私のスペースの作品を指で示しながら続けた。

「そのハンカチやコースターは、その子が作ったのよ」

 二人の少女はびっくりした顔で私のスペースに近づくと並べられた作品を手に取って眺め始める。
 先程上海人形を抱っこしていた活発な子は薄い桃色のハンカチを握っている。
 
 「これ、針妙丸ちゃんが作ったの?」

 「う、うん」
 
 先日アリスにも褒めてもらった密かな自信作だ。
 彼女の反応が気になって思わず息が止まりそうになる。

「ねえねえ、これいくら?」

 スペースの端に置いていた価格表を掲げながら答えると、彼女は布袋から硬貨を二枚取り出して渡してくれた。
 心の中でアリスに感謝しながら、初めて自分の作品が売れた事実を噛みしめる。
 
 同時に、彼女が買ったハンカチに目がいく。
 すると私の視線に気づいたのかただの偶然か、彼女は嬉しさを頬に浮かべて言った。

「えへへ、大事にするからね!」

 その言葉を聞いた時、気づいた。
 彼女が硬貨を出した、自分の作品が売れた瞬間以上に、今の私はとても温かな気持ちになっている。
 上手く言葉に出来ないけど、きっと物を売るっていうのはただ売り物とお金を交換するだけのことじゃないんだ。















 その後は少しずつお客さんが増え始め、陽が傾き始めた頃には私が持ってきた二十個の作品のうち九個が売れた。
 アリスの方は持ってきた作品のほとんど、特にぬいぐるみはあっという間に完売した。
 私は露店を片付ける手は止めずに言った。 

「やっぱりすごいね、アリスのぬいぐるみ。お姉さんやお母さんに大人気だもん」

 するとアリスは微笑を口角に浮かべて私の後ろの飴の入った布袋を指して言った。

「あら、貴女だって子供達やお爺ちゃんお婆ちゃんに可愛がってもらったじゃない」 

 女の子の二人組が帰った後、最初に売れたハンカチの次に自信があった藍色の桜模様のコースターを優しそうなお婆ちゃんが買ってくれた。 
 アリスが指差した飴の袋はその時にもらった物だ。
 
 完全に子供扱いされているのは複雑だけど、好意を向けられて悪い気はしなかった。
 私はゆっくりと、密かに心配していたことを吐露した。

「小人は奇異の目で見られるかなと思ってたんだけど、みんなほとんど気にしなかったね」

「幻想郷にはいろんな種族が住んでるし、人里の人間もある程度は慣れっこなのよ」

 あの天邪鬼が言ったほど極端に見下されてはいなかったにしろ、
小人は弱い種族なだけに他の大多数の生き物から常に命を脅かされている。
 
 小人族の誇りを忘れるな、といつも自分に言い聞かせているつもりでも、
実際にこうして馴染みのない土地に降り立つと胸が塞がるような不安を拭い去ることは出来なかった。
 
 それでも今日を無事に乗り切ることが出来た。
 それは間違いなく、私を気にかけてくれる人のおかげなんだ。
 私はお椀を脱いで頭を下げた。

「アリスのおかげだよ、ありがとう」

「こちらこそ、貴女と二人だといつもより楽しいわ。ありがとうね」

 














 それから私はアリスの案内で和菓子屋に足を運び、霊夢にあげるためのお饅頭を選んだ。
 財布の中身が心配だったけど、今日得られた分のお金で十分足りたのでほっとした。
 お店を出ると、既に陽は沈みかけている。  

「今から茶店に寄ると完全に夜になるわね、また今度にしましょうか」

「うん、今日は本当にありがとう」 

「ふふ、どういたしまして。じゃあ帰りましょうか」

 アリスの操る人形達が籠を支えながら私の傍に静止した。
 一人一人と視線を交わしてから私はお辞儀をして言った。 
 
「ありがとう」

 すると彼女達もにっこり笑って身振り手振りで応えてくれた。
 籠に乗り込むと、アリスの合図とともに少しずつ地上が遠ざかり、建物が小さくなっていく。
 
 来るときは考え事に夢中で全く気が付かなかったけど、
目の前には雲一つない夕焼け空が広がっていた。
 
 今日は朝目を覚ました時から長い一日になる予感がしていた。
 でも過ぎてみると、あっという間だった。

 自分の作品にお金を出してくれる人がいるのか。
 アリスのだけが売れて、私のは誰も買ってくれない、なんてことにならないか。
 
 人里の人達に小人はどんな風に思われているのか。
 まさに心配事だらけだった。
 
 でも、人里の人達は私を差別したりしなかった。
 私の作品を気に入って買ってくれた子もいた。

 私の作品を評価した上でお店に誘ってくれただけでなく、
知らない人と話すことに慣れていない私を何度も助けてくれたアリスには感謝しかない。

 霊夢だけじゃない、私はいろんな人に守られている。
 これから少しずつ、もらったものを返していきたいな。

 でもその前に、霊夢には昨日のことを謝らなくちゃ。
 私がそんなことを考えていると、私が乗っている籠のすぐ隣を飛行しているアリスが覗き込みながら話しかけてきた。

「そういえば思い出したんだけど」

「なあに?」

 まさか何か忘れ物でもしたかな、と嫌な予感がする。
 私が今日の露店の片付けの流れを追想し始めたところで、アリスが言った。

「今日、お店の準備をしてる時に言ってたわよね。霊夢に恩返しをするのにお金が必要だから、って」

「……うん」

 アリスは確認するように頷いて続けた。

「でもそれ以外にもまだ理由がある、って言ってたわよね。無理に言わなくてもいいけど、ちょっと気になったから」

 そういえばあの時はお客さんが来て話が中断したんだった。
 まだ誰にも言ったことがないけど、ここまで私を大事にしてくれる人になら言ってもいいかもしれない。
 私は籠の窓から顔を出して言った。

「その、私って小さいよね」

「え? それはまあ、そうね」

 一瞬困惑の表情を浮かべつつも、アリスは続きを促した。

「でも、小さいからってなんでも周りの好意に甘えてるんじゃだめだと思ったの」

 今まさにその周りの、アリスの好意で送迎してもらっていることは取り敢えず置いておく。
 彼女は黙って聞いている。

「私達小人族は、確かに他のみんなより生活してて不便なことが多いし、出来ないことも沢山あるのは分かってる。
でも、挑戦することをせずに周りに甘えてばかりじゃずっと成長出来ないままだし、なんだか怖くなってきてしまって」

 アリスは今度は深く頷いて一言だけ相槌を打った。

「うん」

「だから、アリスが私の作品を褒めてくれて、それにお店にも誘ってくれた時は嬉しかったの。
あれが私が、異変の後で初めて周りの人から認められたことだったから」

 私が一息に喋り終えたところで、アリスが言った。

「実際に、貴女の作る小物は魅力的だったからよ。今日買って行ったお客さんも、きっとみんな大事にしてくれるわよ」

「……うん、本当は売れるのかどうか不安で、でも売れる物を作らなきゃって思ってるうちに気が重くなってしまって」

「緊張してたものね」

「うん、それで夜遅くまで作ってて霊夢が心配してくれたんだけど」

 昨日の夜のことを思い出して胸が痛む。
 アリスは私の言葉の途切れだけで何かを察したように言った。

「喧嘩でもした?」

「喧嘩……まではいかないけど、いつもは気にならないのに『あんたは体が小さいんだし』って
言われたことについかっとなって……」

 アリスはただ黙って頷いている。

「私を下に見て言ってるんじゃないことぐらい分かってたのに……」

 丁度、神社の赤い鳥居が見えてきた。
 沈みかけた夕陽に照らされたそれは強く輝いている。
 高度を下げながらアリスが呟くように言った。

「一緒に暮らしていたらちょっとした衝突ぐらいよくあることよ、
それに霊夢はいつまでも後に引きずるタイプじゃないから素直に謝ればきっと大丈夫よ」

「うん……」

 これまで霊夢と喧嘩らしい喧嘩をしたことがないだけに不安は大きい。
 でも、このままの気持ちでいるのはもっと嫌だ。
 
 会話がひと段落したところで籠は地面に着いた。
 境内に降り立って本殿の方を見る。
 
 朝出かける前に何か所かに貼った護符が全部剝がしてあるということは、霊夢は帰ってきている。
 まだ気付いていないのかな。
 アリスも神社の本殿の方を向いて言った。

「もう帰ってきてるみたいね。じゃ、私も帰るわ」

「うん、今日は本当にありがとう」

 私が頭を下げながらお礼を言うとアリスと、彼女の操る人形達もぺこりとお辞儀をした。
 
「こちらこそ、今日は楽しかったわ。是非また一緒に出店しましょう」

「うん!」

 その言葉を最後にアリスと別れた私はお饅頭の入った袋と作品の入った小箱を抱え、土間に向かって歩き始める。
 袋が重いけど、そのままでは取っ手を持てない私のために店主のお婆ちゃんが好意で袋全体を丸めてくれたのだ。
 あと少し、待っててね、霊夢。















「ただいま」

 土間で靴を脱ぎながら抱えていた荷物を下ろす。
 人の動いている気配がしないけど、霊夢はどこにいるんだろう。
 
 そんなことを思いながら居間に足を踏み入れると霊夢が仰向けで眠っていた。
 静かな寝息が聞こえてくる。
 
 傍にお祓い棒や水筒が置かれたままになっているところを見ると、
依頼を済ませてから帰ってきてそのまま寝ているようだ。

 疲れて寝ているところを起こすのは忍びないけど、このままここで寝ていたら風邪をひくかもしれない。
 少し考えた後、私は霊夢を起こすことにした。
 耳元に近づいた、その時だった。

「ん……針妙丸?」

 霊夢が不意に目を開けて起き上がったのだ。
 私はびっくりしてその場に尻餅をついてしまった。
 見上げながら取り敢えず挨拶をする。

「あ、ええと……ただいま」

「おかえり……ってもうすっかり夕方じゃない、いつの間にか寝ちゃってたわ」

 服の皺を伸ばしながらどこか気怠そうに炊事場の方に行こうとする霊夢。
 部屋の時計を見ると時刻は丁度午後五時。
 きっと帰ってきてから何も食べていないに違いない。

 晩御飯にはならないだろうけど。
 そう思いながらも、私は考えるより先に霊夢を呼び止めていた。

「待って、霊夢」

「ん?」

 振り向いた霊夢に傍に置いていた饅頭の袋を両手に抱えて差し出す。
 実際は身長差のせいで掲げた、と言った方が正しいかもしれない。

「霊夢、これ……」

 霊夢が腰を屈めて袋を受け取る。
 どうやら袋を見ただけで中身に気づいたようだ。

「アリスのお土産?」
 
 本当はもっと色々考えてから言うつもりだったけど、動き出した私の口は止まらなかった。
 
「ううん、それは……私が作品を売ったお金で買ったの。霊夢にはいつもお世話になってるから」

 それを聞いた途端、霊夢は驚きの表情を浮かべた。
 突然目の前に妖怪が現れても顔色一つ変えない彼女がこんな顔をするのは珍しい。

「あんた……」

 続く言葉がない霊夢の返答を待たずに私は頭を下げた。

「霊夢、いつもありがとう。それから昨日はごめんなさい、せっかく心配してくれたのに冷たい言い方しちゃって……」

 私が頭を上げた時。

「……針妙丸」

「……なあに?」

「……ありがと、今日は夕飯これでもいい? あんたも一緒に食べましょ」

「うん!」

 霊夢の声が震えていたような気がするけど、多分気のせいだと思う。















 外はすっかり真っ暗になり、障子の間から入ってくる隙間風が心地良い。
 私達は霊夢が淹れてくれた緑茶と一緒に買ってきたお饅頭を食べている。
 一息ついたところで霊夢が言った。

「昨日はその、私もちょっと構い過ぎたかなって」

 私は口に入れた餡子を飲み込んでから慌てて言った。

「そんなことないよ、私が悪いんだから気にしないで」

「でも、あんたがあんなに大声出すなんて初めてだったから私の言ったことが気に障ったかと思ったのよ」

 なんでもない、大丈夫、と言おうとしたところでアリスの言葉が脳裏を過る。
 一緒に暮らしている以上衝突するぐらいよくあること、か。
 確かに言いたいことをずっと言わずにいる方が、かえって霊夢に失礼なのかもしれない。

「……あのね、霊夢」

 私は一呼吸おいてから少しずつ胸の内を明かした。
 いつもお世話になってる霊夢に恩返しがしたかったこと。
 
 小人は他の種族より出来ることが少ない、弱い種族だけど新しいことにはどんどん挑戦してみたいと思っていたこと。
 一通り聞き終えた霊夢は頷いた。
 
「……だからあの時も、荷物を自分で運びたがったのね」

「うん、でも霊夢の気持ちは嬉しいの。本当だよ」

 霊夢が湯吞に口を付けてから言った。

「あんたがそういう嘘をつかないのはなんとなく分かってるわよ。
それで、売れる物を作りたくてあんなに必死になってたのね」

「うん……せっかく霊夢が心配してくれたのに、冷たい言い方してごめんね」

「そうねえ……私も結構ショックだったかも」

 霊夢の言葉に一瞬背筋が冷える。
 恐る恐る顔を上げて視線を合わせると、彼女は悪戯を見つかった子供のように笑っていた。

「ふふ、冗談よ。でもそうね」

 霊夢はトレードマークの赤いリボンを解いてテーブルに置いた。
 今日一日霊夢と一緒に仕事を共にしたそれは皺があるだけでなく一部分がほつれていた。

「私も小物屋さんにお願いしていいかしら、このリボン」
 
「うん、任せて!」

 最高の出来に仕上げて見せる。
 頬張った饅頭を飲み込みながら私は心に強く誓った。
 
 今日一日だけで、いろんな人が私に優しさをくれた。
 最初から最後まで、一日私の面倒を見てくれたアリス。
 
 私の作品を買ってくれた沢山のお客さん。
 お店で親切にしてくれた店主のお婆ちゃん。
 
 そして、目の前の、いつも言葉以上に私を大事にしてくれる人。
 霊夢。
 
 これからみんなに少しずつ、お返しをしていきたいな。















 小人は受けた恩を、決して忘れないから。
しばらく書けない時間が続きましたが七作目、久しぶりの投稿になります、ローファルです。
前作を読んで下さった方、評価やコメントを下さる方、本当にありがとうございます。

今回は鈴奈庵のおまけ4コマで針妙丸が霊夢にお揃いの着物を仕立てるシーンから
彼女の違った形の恩返しのお話を針妙丸、アリス、霊夢の三人で書いてみました。

相変わらずの駄文ですが少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
ここまで読了頂き、ありがとうございました。
ローファル
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コメント



0.簡易評価なし
1.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
2.80福哭傀のクロ削除
長さとストーリーの割にちょっと場面転換が多すぎて振り回される印象と
説明が長くてちょっとくどく感じました。
話自体は凄くシンプルな構造だから
もうちょっと簡潔にした上で作者さんの色を見てみたくありました。
読んでる途中で鈴奈庵の4コマに絡めてくるのかと思ったけどそんなことはなかった。
優しいお話楽しませていただきました。
3.90東ノ目削除
真っ当に善人な針妙丸も良いですね
4.100名前が無い程度の能力削除
優しさに溢れていて良かったです