Coolier - 新生・東方創想話

おにぎり合戦

2022/11/11 21:28:54
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 宴会の日に、早苗が会場の博麗神社へおにぎりを沢山持ってきた。
 諏訪子と神奈子を含めて三人がかりで担いだ沢山の重箱に所狭しと並べられたおにぎりはかなりの迫力である。
「どうしたの、これ」
 霊夢が尋ねると、早苗は豊かな胸を張って言う。
「こちらでは珍しいものが手に入ったので、差し入れにおにぎりを作ってみました」
「珍しいもの。もしかして、外の食材とか?」
 早苗の「こちらでは」との言葉で気付いた霊夢。
「時々ランダムで繋がるみたいで、気が付くとうちの倉庫にあるんですよね、いろんなものが」
 じろっと霊夢が睨む先には顔を背ける諏訪子神奈子が。
「あんた達のことだから紫とは話つけてるんだろうけど、あんまり堂々とやるようならこっちにも考えがあるわよ?」
 ニヤリ、と神奈子が笑う。
「なーに、〝紅い〟お屋敷ほど頻繁にはしないさ」
「因みに、考えって何さ?」
 諏訪子が尋ねると今度は霊夢がニヤリと笑う。
「全てを食らい尽くす」
「怖えよ、本気で」
「お、なんだ、これ……マヨネーズの味がする」
 魔理沙が早速おにぎりに齧り付いていた。
 マヨネーズは幻想郷にもある。外の世界と比較するならば高価だが河童達に大人気で、人里からの重要な輸出品でもある。河城にとりはこれを盟友印のマヨネーズ、略してメユマヨと呼んでは、犬走椛に「言いづらい」と却下されている。
「……魚? おい、これ、海の魚だろ」
 魔法使い故の鋭敏な感覚で魔理沙は食材の正体に近づいていた。
 食べたことがある。これは、紅魔館で食べたことがある。たしか、パンに挟んでいた。サンドイッチの具だった。
「これ、ツナだぜ!」
 幻想郷では珍しい、海由来の食材だった。
「ふふふふ」
 早苗が更に胸を張る。
「そうです魔理沙さん。科学と夢と情熱と日本の頭脳が生み出した奇跡、ミラクルライスボールこと、ツナマヨおにぎりですよ、皆さん!」
 ツナ缶が大量に倉庫に現れたのだと早苗は語る。
「ツナマヨ?」と魔理沙。
「おにぎり」と霊夢。
 おにぎりは当然知っているし、マヨネーズだって幻想郷にも高価だが存在する。マヨネーズぶっかけご飯は美味しいと霊夢も知っている。おかずが無くても美味しく食べられると知っている。
 紅魔館からパーティに出した余りをもらってお持ち帰りしたポテトサラダ、一緒にもらった小さな容器に入ったマヨネーズを炊きたてご飯につけて食べていたら紫に見られた。紫は泣いた。とかそういう話は今は関係ない。
 貧乏というわけではない、マヨネーズが美味しいのが悪いのだと、紫に呼ばれて食材持参で急いで駆けつけた藍の作ったご飯を食べながら霊夢は熱弁したのだが、それも今は関係ない。
 橙がとても生暖かい目で見ていたが、それも関係ない。
「確かにねこまんまは美味しいですよね」って、見た目は少し似ているかも知れないけどあんたの藍特製ねこまんまは異常に豪華な具と出汁の利いた汁がふんだんにかけられたどこか設定を間違えたハイパーねこまんまでしょうが。と霊夢は言いたいのを堪えたがそれも関係ない。
「んぐ、確かに美味しいわ、今度紫に頼んでウチにもツナ缶持ってきてもらいましょうね」
「はい、お作りしますね」
 幽々子が妖夢に言うとレミリアも
「なるほど、ツナがおにぎりにも合うとは知らなかったな。今度うちでもこれ作らせよう。咲夜、仕入れは任せる」
「承知しました」
 従者組が無茶振りされているようだが、実際の所それぞれの家の事情を考えればさほどの無茶振りではない。
 紅魔館、白玉楼、双方ともその気になればたまのツナ缶ぐらいは入手できる。
 二組の視点が仕入れ先……紫にむけられた。
「……あのね、いきなり言われてもこっちだって困るわよ」
 と、首を傾げる紫。
「ところで十六夜咲夜、貴女、おにぎり作れないの?」
 ムッとする顔の咲夜。
「それは私に対する侮辱でしょうか?」
「いいえ、今、幽々子は妖夢に作れと言ったけれど、レミリアは貴女に作れではなく仕入れろと言ったでしょう?」
「ああ、そういうことですか。その手のものは私より美鈴の方が巧いものですから」
「あら、そうなの」
 ここでレミリアが口を挟んだ。
「野外BBQとかおにぎりなど、なんというか、アウトドアっぽいものは美鈴が作ったほうが美味しいのよ、不思議なことに」
「面白いわね」
「得手不得手は誰にでもあるということね」
「それは仕方ありませんわ」
 紫の口調は笑っていた。
「だけど、凝った料理ならいざ知らず、おにぎりならこちらも負けてませんわ」
「あの狐か」
「いいえ、霊夢よ」
「霊夢?」
 紫、レミリア、咲夜、三人の視線を感じた霊夢が首を傾げる。その両手にはおにぎりが。
「なに? おにぎりならまだ重箱にあるわよ」
「霊夢、貴女、それより美味しいおにぎり作れるでしょう」
 ばくり、と霊夢は左手のおにぎりを口の中に放り込む。
「嫌よ、面倒くさい」
 作れないとは言わないことに横から噛みつく者がいた。守矢一家である。
「ほぉ、面倒くさいと」
「つまり、作れないわけじゃないと」
「あ、あの、神奈子様、諏訪子様、どうして霊夢さんをそんなに睨んで……」
「これは、博麗神社から守矢神社への挑戦状と言うことでいいのかな」
「そういうことなら、対等な勝負といこうじゃないか」
 霊夢の瞳が何故か輝いた。
「え、ツナ缶とマヨネーズくれるの?」
 違う! と霊夢に指をむける神奈子。その手には酒徳利が握られている。
 要は、酔っていた。
「ウチの早苗と、どっちのおにぎりが美味しいか、勝負と行こうじゃないか!」
「だからツナ缶とマヨネーズをくれるのね」
 違う! と再度のシャウト。
「白おにぎりで勝負だ!」
「嫌よ、面倒くさい」
「神奈子様、私もよくわかりません」
 風祝の突然の裏切りにわなわなと震える神奈子。
「うん。霊夢と早苗でそれぞれおにぎりを作って、どっちが美味しいか勝負しよう」
 諏訪子の言葉にやはり首を振る霊夢。
「だから、なんでそんなことを」
「勝ったほうにはお米一ヶ月分」
 紫が断言した。
「私から贈らせていただきますわ」
「待て、八雲紫」
 神奈子の鋭い目が紫を捉える。
「確認したいことがある」
 皆まで言うなと紫は笑い、手元の扇子を開いた。
「無論、守矢が勝てば三人の一ヶ月分です」
「乗った!」
 神奈子と諏訪子の同時の叫びに早苗が悲鳴を上げる。
「神奈子様、諏訪子様!?」
 乗り気の神二柱と妖怪一匹の姿に早苗は救いを求めて霊夢を見た。
「ふんっふんっお米! ふんっふんっ一ヶ月!」
 霊夢はシャドーボクシングの要領でエアおにぎりを作っていた。勝つ気満々である。
 早苗には、覚悟を固める道しか残されてはいなかったのだ。
 
 博麗VS守矢のおにぎり合戦の報は、射命丸文の号外によって直ちに幻想郷各地に知らされた。
 そして定められるルール!
 それぞれ代表としておにぎりを握るのは霊夢と早苗。
 おにぎりを握るサポートは一人、ご飯を炊くサポートは更にもう一人までを認める。
 つまり、三人までのチームを組めるのだ。ただし、サポートはそれぞれの神社関係者に限る。
 霊夢側の助っ人は高麗野あうんと伊吹萃香、ともに神社在住であるため認められる。
 早苗側は当然のように洩矢諏訪子、八坂神奈子である。
 もちろん、互いに特殊能力の使用は認められない。純粋に飯を炊き、おにぎりを握る。
 具は無し。あくまで白おにぎり一本の勝負である。海苔すらないのだ。焼きおにぎりなど言語道断である。
 里の広場に二軒の屋台を出し、皆に選んでもらう。沢山選ばれた方が勝ちという、わかりやすい勝負方法であった。
 ちなみに、号外が配られた直後から秘密裏に賭が始まっていた。
「霊夢に賭けるわ。いいわね、パチェ、フラン」
「わちきは早苗に賭けるよ」
「ここは手堅く霊夢さんですかねぇ」
「だったらこっちは早苗に賭けるわよ」
「てゐ、貴女はどっちに賭けるの、私も同じ所に賭けるわ」
「いや、私胴元だから」
「あんたかー!」
「紫苑と反対側に賭けるぞ!」
「姉さんにそんなお金があるとでも?」
「ですよねー」
 全然秘密になってないのが問題だった。
 そして当日がやってくる。
 最初に与えられた材料は同じ、公平を期すために道具も同じ。純粋に技量だけの勝負である。
 審判として立つのは上白沢慧音。
「ただいまより、おにぎり合戦を開始する!」
 始まった合戦。とはいえ、特に大きな動きはない。互いに米を炊き、炊いたご飯でおにぎりを作る。人々がどちらかを選んで並ぶ。非常にシンプルであり、逆に言えばどちらかが圧倒的に有利ということはない。
 今も両陣営の前に並ぶ人の数にほとんど差は無い。このまま行けば最も可能性が高いのは引き分けだろう。
 だが……
「……天秤を傾ければいいんだぜ」
 魔理沙がふらりと姿を見せた。
 神奈子と諏訪子が渋い顔になる。
 それもそうだろう、霧雨魔理沙、どう考えても霊夢の味方である。何をする気かは知らないが、いや、恐らく確実に何らかの妨害工作をしてくるに違いない。
 しかし、この場には自分たち、そして紫、慧音もいるのだ。あからさまな妨害工作はすなわち反則負けである。
「なんだって?」
 早苗の隣で懸命におにぎりを握っていた諏訪子が呟いた。
 諏訪子の耳は捉えていたのだ、魔理沙の呟きを。
 魔理沙の「すまないな、霊夢」という呟きを!
「霊夢!」
 魔理沙は叫ぶ。
「お前、さっき試合前にどこ行ってた」
 人々の注目が集まる。
「厠に行って、手洗ったか?」
「は?」
 決まった。
 神奈子は確信した。
 魔理沙は暗に言っているのだ。
 博麗霊夢は厠に行った後、手を洗わずにおにぎりを握っていると!
 これが致命的と言わずしてなんというか。
 何故魔理沙が守矢の味方に付いたかはわからない。
 しかし、しかしだ。
 これで守矢の勝利は決まった。
 その時、

 博麗側の列が伸びた。
「なんでだーーーーーーっ!!!!」
 もう、どう見ても列が伸びていた。魔理沙の叫びの後から。
 霊夢は真っ赤になっていた。
 神奈子は幻想郷の未来を本気で心配した。
 萃香は笑っていた。
 紫は頭痛を発していた。
 しかし、それでも諏訪子は勝負を捨てていなかった。
 旧き土着神は叫ぶ! おにぎりを握りながら!
 祟り神の頂点は叫ぶ!
「ごめん、早苗! 私も厠の後、手洗うの忘れてた!!」

 守矢側の列も伸びた。
 諏訪子はケロケロ笑っていた。
 神奈子は笑うしかなかった。
 萃香はお腹を押さえて痙攣しながら笑っていた。
 紫は泣いた。
 
 早苗も泣いた。
「何……やってるんですか……皆さん」
 情けなくて、泣いた。
 ぽとり、と落ちた涙がおひつに入る。

 守矢の列が更に伸びた。もうとことん伸びた。
 紫は号泣していた。見学していた阿求は倒れて運ばれた。




 その翌日……
「お米、欲しかったな……」
 縁側で茶を啜りながらぽつりと呟く霊夢の目に、黒い何かが飛んでくるのが見える。
「……あいつ、よく来れるわね」
 立ち上がり構えた霊夢の前に、魔理沙から差し出されるかりんとう饅頭。
「とりあえず、これ、詫びの印」
 お土産であった。
 お土産があれば、しかも甘い物、更にかりんとう饅頭なら話は別である。
「悪かった」
 あっさりと謝る魔理沙を、饅頭を頬張りながら睨みつける霊夢。
「なんだったのよ、あれ」
「いや、最初は逆だったんだ」
 博麗側の有利になるように事を運ぶつもりだったと。
「じゃあ、なんで」
「うん」
 魔理沙は縁側に座ると、微妙に視線を外して霊夢を見ている。
「なんていうか、うん。あそこで改めて周りを見ていたら」
「なによ」
「霊夢のおにぎり、他の奴に喰われるの嫌だなと思って」
 そこで魔理沙は口を閉じた。
 霊夢は無言で縁側を後にする。
「あ……」
 がくんと肩を落とす魔理沙。
 帰ることもできずにそのままいると、霊夢が再び姿を見せた。
「炊きたてじゃないけど」
 差し出されるおにぎり。
「魔理沙の馬鹿、あんなことしなくても、あんたの分ぐらいいつでも作ってあげるわよ」
 霊夢の頬は紅かった。

 博麗霊夢のおにぎりを一番美味しく食べられるのは、霧雨魔理沙なのだ。


「ちゃんと今日は手洗ったから」
「え?」
のくた
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みんなどういう気持ちで列に並んだたんだろう
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