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東方現夢郷 第一章 幻想という名の夢と地獄の始まり 5

2022/11/10 20:38:32
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 それから五日経ち、松葉杖を使えばなんとか歩ける程度には治ったという事で退院(院?)する事になった。ただ右腕と右足が動かせないのと松葉杖を使うのが初めてなせいか上手くバランスが取れないので右側をアリスに支えてもらいながら歩く形になっている。
「それじゃあ、何かあったらすぐに来て頂戴。薬なら何でもあるから」
「それでも何もないのが最善だがな。まあ、何かあったら遠慮なく頼らせてもらう事にする」
「お大事にね」
 言いながら永琳は屋敷へ戻って行った。
「んじゃ行くか」
「本当に大丈夫? これなら人形達に乗せて運んだ方が速いわよ?」
「いいんだよ。リハビリは必要だからな。できる限り自分の足で歩きてぇんだ」
「無理はしないでね?悪化したら元も子もないんだから」
「分かってる。そもそもそんな無理するような状況にはならんだろ。博麗の巫女とやらに会ったとしても、あいつは人間なんだろ? 怪我人を襲うような真似はしないだろうからな」
 手負いの奴を襲うのは本物のクズだと俺は思う。戦時中でもない限り反撃も出来ない人間を殺そうと思う奴はサイコパスでもない限りそうそういないだろう。妖怪ともなれば人を襲う事で存在を保っているようなものだから例外と言えるが、人間には言葉がある。言葉があれば争わず平和的な解決ができる。それなのに人間は自分が正しいと思い込み、それにそぐわない連中を悪だと決めつけ排除しようとする。そして排除されそうになった連中の中に抗うために武器を用いる者が出る。それをきっかけに完全な対立の図ができ、周りを巻き込み人やネットを通じて伝播し国全体に広がっていく。小さいものならきのこたけのこ戦争、大きいものとなるとそれこそ国単位の戦争だって起きているかもしれない。ちなみにこれは持論なので友達が欲しかったり失いたくないという奴は真に受けず誰にも話さないことをお勧めする。
 少し進んだ先に誰かが立っていた。白く長い髪に白いワイシャツ? と赤いもんぺのようなズボンを穿いた少女だった。
「お、もう動けるようになったのか? 思ってたより早かったな」
「あなた、ずっとそこで待ってたの?」
「あそこにはできるだけ行きたくないからな。ところであんた、あの医者に何かされてないか?」
「あ? なんもされちゃいねぇよ。体に異常はねぇし。傷の治りが速いのは疑問だが、治るならどうでもいいしな」
「それ本当に大丈夫か? そもそもあの頭の傷が一週間足らずで治るはずがないと思うんだが……」
 言われてみれば確かにそうだ。重症となれば普通短くても数ヶ月はかかるだろう。俺は痛みに強いだけで怪我の治りが速い訳ではないはずなのだ。
「そりゃごもっともな意見で。だが治癒力が上がっただけなら何も問題はねぇだろ。蓬莱の薬を飲んだわけじゃねぇんだからな」
「あんた、蓬莱の薬の事知ってるのか?」
 気のせいか少女の顔が少し強張った気がした。
「まあ、有名な話だからな。だが蓬莱の薬なんて実在するのか? 話じゃどこかに捨てられたらしいし、そもそも作り方だって誰も知らねぇだろ? たとえ蓬莱の薬を飲んだ奴がいたとしてもそいつは現代まで生きてなきゃならねぇ。だが俺がいた世界にそんな奴はいなかった。それならただの御伽話なんじゃねぇのか?」
「いや、蓬莱の薬も蓬莱の薬を飲んだ奴も実在する」
 この少女は一体何を言っているんだ? 自分で言うのもあれだが厨二病の類でも発症してるのか?
「……その根拠は?」
「私が蓬莱人だからさ」
「…………は?」
 一瞬こいつが何を言っているのか分からなくて思考が止まった。体感約十秒。これはまだ俺の概念的思考が幻想郷に馴染んでいないからだろう。
「だから、私は蓬莱人なんだよ」
「いやそれは分かった。そうじゃなくてだな――」
「証拠を見せろって言いたいんだろ?」
 そう言うと、足元にあった尖った石を拾い上げ、止める間もなくいきなりそれを腕に突き立てた。
「おいちょっと待て。お前、何やってんだ?」
 正直これまでにないほど動揺しているのだが、なぜかそれが感情に出なかった。
「証拠を見せる方法がこれくらいしか思いつかなかったんでね」
 言いながら少女は腕に刺した石を引き抜く。その時少女の顔にほんの僅かだが苦悶の表情と痛みを押し殺すような小さなうめき声が聞こえた。だがそれは一瞬の事で、すぐにさっきと同じような涼しげな顔に戻った。
「俺は別にそこまでしろとは言ってねぇんだが……」
「どうせすぐ治るんだ。構わないだろ?」
 言っている内に腕の傷が不思議な色の炎と共に徐々に塞がってきている。
「確かに、お前が人間じゃねぇのは分かった」
「はは。人間じゃない、か……」
「ああすまん。蓬莱の薬を飲んでそうなったんだから人間なんだったな」
「いや、私はもう人間とは言えない存在だよ。死への恐怖も無いんだから」
「そういうもんか……。だが元人間なのは変わんねぇだろ」
「確かにそうだけど、それはもう昔の話さ。それに今の方が楽しいからね」
 不死身になると精神も強くなるのだろうか。少女は笑っているが、俺には笑顔で何かを隠しているような気がする。だが今それを聞くのは野暮というものだ。考えるだけに留めておくことにする。
「そういや名乗ってなかったな。俺は研真遼だ」
「藤原妹紅だ」
「…………」
「な、なんだよ」
「いや、案外可愛い名前してんだなーと思ってな」
「一体どこをどう考えたらそんな結論になるんだ……」
「ねぇ、そろそろ道案内をしてもらえないかしら」
 長すぎる立ち話にしびれを切らしたのかアリスが無理矢理話を切るように割り込んできた。
「ああ、そうだったな。すまない、こいつと話すのに夢中になってしまってね」
 そう言うと妹紅はポケットに手を突っ込み、整備されているようでされていない竹林の中を何の迷いもなく進んでいく。
「道案内がいるって事はここはそんだけ迷いやすい所って事か?」
「ええ、よほど運がよくない限り抜けられない程にね。だから妹紅が案内役をしているのよ」
「だからってどういう意味だ?」
「何百年もここに住んでいれば嫌でも道は覚えるからな。それが一役買ってるのさ」
「ああ、そういう……」
 こういう時不老不死は便利だなとは思うが、それ以上に死ねない事は辛くはないのだろうか。
「そういえばあんた男なんだな。顔を見るまで気づかなかったよ。なんせその髪の長さだからね」
 今まで触れられなかったが、そういえばそうだった。面倒で一年以上切っておらず、前髪も気になったら少し切る程度で今は左目を隠すように流して帽子で固定している。かなりダサいが今ではこうでないと落ち着かなくなってしまった。顔が見えないと男に見えないのも無理ないのだろう。ついでに身長も高くはないから余計に間違われるのかもしれない。
「悪かったな。オシャレだのなんだの、そーゆーのには興味ねぇんだよ」
「でも日常生活とか不便でしょ? 切った方がいいわよ」
「んなもん慣れりゃ気にならねぇよ。不便かどうかは個人の考え方次第だろ。髪型ぐらい好きにさせてくれ」
 正直少し不便だが、その不便を楽しめばいいだけの話だ。
「外の世界の人間にはあんたみたいなのもいるんだな」
「どういう意味だ? 俺以外にも外の世界から来た奴がいんのか?」
「ああ、宇佐見董子って言ってな。超能力とやらが使えるんだ」
「超能力か……。魔法に比べたら随分見劣りしそうなもんだが……」
 言いながらアリスの方に視線を移す。
「私は魔法使いと言っても人形を操ったりできるだけよ? もっと派手な魔法を使える魔法使いなら知っているけど、会う事はお勧めしないわ」
「俺ってそんなに悪人面してるか?」
「そうじゃなくて、魔力の事よ」
「魔力? そういや妖夢が悪質な霊力がどうとか言ってたな。あと博麗の巫女とやらにも嫌な魔力を感じるとか言われたが。結局悪質な霊力やら嫌な魔力ってのは何なんだ?」
 そもそも魔力と霊力は別物のはずだ。それとも解釈が違うだけで根本的には同じ物なのだろうか。魔力と霊力と妖気、それぞれの違いがまだよく分からない。
「基本的に相手を見極める方法は対象が放つ魔力や霊力の色と気質なの。けれどあなたから感じるのは真っ黒な何か。ただの人間からこんな気配は出ない。だから皆あなたを敵だと思ってしまうの。妹紅、あなたも見えているでしょう?」
「ああ、はっきりとね。アリスと剣士の子があんたを運んで来た時背筋が凍ったよ。正直今だって逃げ出したいくらいだ。あんたから感じるのは魔力でも霊力でも妖気でもない。もっとおぞましい何かだ」
「何か、ねぇ……。要はお前らから見たら俺は悪の帝王かラスボスに見えるって事か」
「そういう事。剣士の子はよくあんたに近づけたもんだ」
「確かにそうね。幽々子の命令とはいえあの子、あんなに攻撃的だったかしら?」
「ちょっといいか? その幽々子って奴は何者なんだ? 妖夢の奴も幽々子様がって言ってたが」
「妖夢が仕えている主よ。名前は西行寺幽々子。見た目も口調もおっとりしているけど、正直何を考えているか分からないから会話し辛いのよね」
「ほー、西行寺幽々子……」
 なんとなくだが俺が殺されかけた理由が分かってきた。妖夢は幽々子に悪魔が魔法の森にいるから斬ってこいと言われた、と言っていた。俺が幻想郷に引きずり込まれた後目を覚ましてから魔法の森に着くまで一時間もなかった。あの時点で俺が幻想郷にいる事を知っていたのはおそらく紫という奴と博麗の巫女とやらだけだ。
 紫という奴はどこかから俺を監視していて、俺が魔法の森に入った時に幽々子とやらに魔法の森に悪魔がいると伝えたのではないだろうか。大量の目があったあの空間。あれが転移のようなものだと考えるとあんな短時間で俺が魔法の森に入った事が妖夢に伝わったのも納得できる。これで紫とやらが俺を殺そうとしている事は理解できた。
 それでは何故紫とやらが俺を遠回しに殺そうとしているのか。その理由がアリスと妹紅の言う『何か』なのだろう。だがどうして俺を幻想郷に引きずり込む必要があったのだろうか。俺はただオカルトを探して歩き回っていただけだ。結界に囲われた場所があるという情報があるのなら、それを見つけて存在の証明をしようと思っただけなのだが、まさかそれが紫とやらの逆鱗にでも触れたのか? そうだとしたら何故俺を殺す必要があるのだろうか。それに殺すならあの転移のような能力で宇宙なり深海にでも放り出せば済む事なのに何故わざわざ幻想郷に引きずり込んだのだろうか。どれだけ考えても紫とやらが俺を殺そうとした理由どころか、その答えに至った過程すら予想できない。
「なあ遼、ちょっと聞きたい事があるんだが」
 ひたすらに考える作業は妹紅の声掛けによって中断された。
「何だ? まだ俺におかしい所があるのか?」
「いや、そうじゃないんだ。その鞄が気になってね。何が入っているのかと思って」
「大したもんは入ってねぇよ。ここじゃ使い道がなさそうなもんばっかだからな。せいぜい軽いサバイバル用品が入ってるくらいだし」
「登山でもしてたのか?」
「山は好きだが山で一泊するほどじゃねぇよ。前に色々あってな。なんかあった時のために常備してんだ」
 詳しい事は省くが前に一度山で遭難したことがあり、何もできないまま熊や猪に襲われるかもしれない恐怖を抱きながら眠れない夜を過ごしてから山の近くに行く時はサバイバルナイフにオイルライター、携帯用浄水器を持って行くようにしている。(銃刀法違反? そんなふざけた法律より自分の命の方が大事だ)
「外の世界はそんなに危険なのか……」
「いやこれに関しちゃ俺が不幸体質なだけだぞ?」
「不幸体質?」
「ああ。今まで数え切れんほど死にかけてる」
「それでも生きてるだけ儲けもんじゃないか」
「あのなあ、不幸ってのは生きてるうちに起こるから不幸なんだ。死んだらそれは不幸から逃れられたっていう幸運になるんだからな。何があっても生き残るってのが俺にとっての不幸なんだよ」
 毎年宝くじを買って三年連続で高額当選した奴と三回飛行機に乗ってその全てで事故に遭った奴には幸運と不幸以外で明らかに違う点がある。それは物理的に得られる物があるかどうかだ。宝くじが当たれば一夜にして大金持ちになり暮らしが裕福になる。それに対して事故に遭ったところで得られる物と言えば少しばかりの教訓と死への恐怖だけで、その後の人生は何一つとして変わる事はない。
「でも死にたいわけじゃないんだろう? それなら何があっても生き残るってのはある種の能力なんじゃないか?」
「能力ねぇ。それでも生き残れるだけじゃなく、戦う力も欲しいんだがな。また妖夢みてぇなのが殺しに来るかもしれねぇんだし」
「確かに否定はできないわね。紫が一枚噛んでいるとなるとこれだけじゃ済まないでしょうし」
「それは私も同意見だ。あいつは一度失敗しても二の手三の手を予め用意しておくような奴だからな。暫くはアリスから離れない方がいい。あいつは結界も無視できるからね」
「どこまでぶっ飛んだ能力なんだ……」
 空間転移ができる上に結界も無力化できる。さながらゲームのRTAをチート付きでやっているようなものだろうか。そう考えると俺を遠回しに殺そうとする理由がますます分からなくなってくる。
 何気なく周りに意識を向けるといつの間にか周りにあった竹が木に変わっていた。地面も竹林より多少しっかりしていて歩きやすい。遠くに人里らしきものも見えたのでここは魔法の森の近くなのだろうか。
「今更なんだけど、森に入った時に体の不調とかなかった? 頭痛とか吐き気とか」
「いや、特には無かったと思うが。何だ? 魔法の森ってヤバい所だったりすんのか?」
「息をしただけで体調不良を起こす人間にとっては最悪の場所よ」
「マジかよ……。言われてみりゃ軽く頭が痛かったような……」
 言っている間に少しずつ霧のようなものがかかってきた。
「普通はそんなんじゃ済まないんだけどね。どうしてかしら……」
「耐性でもあったんじゃないか?」
「あのねぇ。普通の人間はあなたみたいに死んで慣れるなんて事はできないのよ?」
「でもこれくらいしか思いつかないんだよ。こいつは人里にいるような普通の人間とは違うんだ。森の瘴気に耐性があったっておかしくないだろ」
「普通じゃないのは認めるが、俺は別に特別な存在じゃねぇぞ? 世界を救う力があるわけでもねぇんだからな」
「能力があるって時点で十分特別だよ。その上何があっても生き残るなんて神様から貰った特典みたいじゃないか。世界を救えなくとも誰かを守る事はできると思うよ」
「誰かを、ねぇ……」
 守れるとしても俺は人間なんざ守るつもりはない。それ以前に人間がほぼ最弱の種族と化しているこの世界で自分の身以外に守るものなどあるのだろうか。
「そうだ、自警団に入らないか? 友人に自警団の連中と知り合いの奴がいるんだ。博麗の巫女を説得できれば――」
「却下だ」
 妹紅が余りにもおかしなことを言い出すので無理矢理話を切った。
「……え?」
 よほど意外だったのか妹紅の歩みが止まる。
「そういや言ってなかったが俺は人間は嫌いなんだ。それにここは妖怪やら神が住まう土地なんだろ? それなら人間が妖怪に食われるのは当然の事じゃねぇか。食物連鎖の下位にいる以上共存でもしてねぇ限り食われる一方なんだからな。あんな連中守るくらいなら死んだ方がマシだっての」
 人間嫌いと言っても別に人間なんざ一人残らず滅んじまえとか考えている訳ではない。考え方が違うというだけで障害者だのと言って自分たちの考え方がさも当たり前で正しいと勝手に思い込んでいるような連中を守ったところで何のメリットもない上に、根も葉もない悪評と噂が流れる事が目に見えている。そんな連中野放しにしておくより滅んだ方がいいのではと考えているだけだ。
「確かに、ある意味合理的かもしれないわね」
 アリスが唐突に話に入ってきた。まあ横でこんな話を聞いていれば話に入りたくなるのも当然だ。
「常識的に考えてこれが普通じゃねぇのか?」
「それはあなたが究極的に幻想郷に向いた性格と考え方をしているだけ。普通の人間にそんな答えは出せないわ」
「そうなのか? 妹紅」
「ああ、少なくとも私が会った人間の中には楽しもうとするのはいたけど適応しようとする奴はいなかった。人里でもきっと同じだと思う」
 言いながら思い出したかのようにまた歩き始める。
「そうか……」
 俺のような考えの人間を世間では消極的と言うのだろうか。俺にとって慣れる事と適応する事は意味が違う。慣れは事件やトラブルをそういうものだと捉え見なかったことにする事で、適応はそれをどう受け流し穏便に終わらせることができるかだと俺は思っている。
「それならお前らはどう考えてんだ? ここがそういう場所だからで納得してんのか?」
「納得、と言うよりこれでいいのよ。ここは人ならざる者にとっての理想郷みたいなものだから。人間にとっては生きづらい所でも私たちにとってはここ以上に生きやすい所は無いの」
「そういう事か。なら俺にとっても生きやすいって事だな」
「どうしてそうなるの?」
「ここには馬鹿みてぇな法律やらルールで雁字搦めにされる事がねぇんだろ? それなりにルールがあるっつっても快適に暮らせる範囲内なら俺にとっても生きやすいって事だ」
 妖怪に食われる危険性があるとはいえここはオカルトの研究にもってこいの場所だ。妖怪に食われたとしても俺がその程度の人間だったという事だ。そもそもこの世界に未練など無いのだ。やりたいようにやって死ねるのなら本望だろう。
「人間にしては随分と妖怪寄りな考え方だな」
 何故かは分からないが妹紅が少し不満げな表情と声で言ってきた。どこが妖怪寄りなのかも分からないが。
「だから何だ。これが俺の考え方なんだよ。他に理由がいるか?」
「まあ、言いたいことは分かった。人間側にはつかないって事だな?」
「ああ、そういう事だ」
「まあ、あんたがそうしたいんならそれでいいんじゃないか? 後でどうなっても知らないが」
「その時はその時だ。どうなるか分からん未来の話なんざしたって意味ねぇだろ。未来が見えるなら話は別だが、俺にそんな能力ねぇしな」
「でも何かしらの力があるのは確かだ。アリスに魔法でも学んだらどうだ?」
「私は弟子なんてとるつもりは無いわよ」
 と言いつつも声が少し弾んで聞こえたのは気のせいだろうか。
「魔法って誰にでも使えるようなもんなのか?」
「ある程度の才能と技術があれば使えると思うけど、外来人にも使えるかは正直怪しいわね」
「俺には使える気がしねぇわ……」
 そういえば魔法はどういう原理で発動しているのだろうか。イメージで使うのか、それとももっと簡単で画期的な方法でもあるのだろうか。まあ、今そんなことを考えた所で答えなど出るはずもないのだが。
「ねぇ、あなたどこまで来るつもりなの? とっくに竹林は抜けたのに」
「護衛だよ。怪我人担いだままじゃ何かあった時戦えないだろ?」
「確かにそうね。助かるわ」
「この森って妖怪とか出るのか?」
 ふとした疑問が考えるより先に口に出る。
「時折ね。そこそこ強いから気を付けなさい」
「気を付ける、ね……。これからは極力外に出ねぇのが最善だな」
 こんな怪我で歩き回ろうとするほど俺も馬鹿ではない。それに瘴気が俺に効かないのも疑問だ。直ちに影響がないだけで長時間いたら危ないという可能性もある。今はアリスの家の中で大人しくしていた方がいいだろう。
「なあ遼。怪我が治った後はどうするつもりなんだ? ずっとアリスの家にいる訳じゃないんだろ?」
「さあな。少なくとも人里に住むつもりはねぇからな。ま、適当なとこ探すさ」
「人里の外にまともな建物なんてあったか? そんな事してたら必ず妖怪に襲われるよ」
「そこは問題ねぇんじゃねぇか? 俺の力がヤバいのはお前の反応見りゃ分かるし、俺がお前らみたいな強者からも危険視される存在だってのが分かったからな」
 今まで会って来た奴全員が俺を不審に思っているという事は、俺にそうさせる何かがあるという事だ。それも見た目的なものではなくオカルト的なものが。目に見えない故俺には分からないが、博麗の巫女が問答無用で敵視し妖怪の賢者が命を狙う程の力とは一体何なのだろうか。ただその力が妖怪を近づけない程の物なのは確かだ。そう考えれば少しは安全になる、はずなのだが……。
「でも紫や私達みたいなのが来たら元も子もないわよ?」
 本当にアリスは不思議な程俺の事を心配してくれる。
「そこはまあ、弁明でなんとかできれば、いいんだがな」
 俺に相手を納得させる話術がある訳ではないが、交渉材料はいくらかある。だがその程度でなんとかなるなら妖夢の時あんな事にはならなかった筈だ。要は俺には説得力と技術が無い事になる。こんなんでこの先やっていけるかは謎だが、現状俺が何の力も使えない事を知っているのはアリスに妹紅、信じているのは妖夢と鈴仙くらいだろう。そうなると何も知らない奴が確実に殺しに来る以上、嫌でも説得する事になる。今の内に交渉材料の出し方と話し方を考えておいた方がいいかもしれない。
「それで本当に人里の外を歩き回るつもりなのか?」
「どうせロクな事にならねぇんだ。これくらいの方が俺はやりやすいんだよ。いつ不幸が降ってくるか分かんねぇからな。それなりに柔軟性持っておかねぇと対応が遅れるんだ」
「不幸体質ってのは思ってたより複雑なんだな……」
「ま、ここじゃどう対応しても意味はねぇだろうがな。逃げても無駄。隠れる場所もねぇ。おまけに基本戦闘力は俺より圧倒的に上なんだろ? それじゃ人間である俺ごときがどんな対応したってその上を行くって事じゃねぇか」
「それ、あんたが助かる見込み無いんじゃないか?」
「だがそれで可能性がゼロになったわけじゃねぇ。せいぜい死ぬまで足掻いてやるさ」
 小数点がどれだけ多かろうとその先にゼロ以外の数字があるのなら足掻く価値はある。それこそオカルトに頼ったって構わない。ここはオカルトが溢れているのだから。
「やっぱりあんたは不思議な人間だよ。ここまで話してどんな性格なのか私には全く分からなかったんだから」
「いや、話した通りなんだが?」
「なんというかこう……一言じゃ言い表せないんだよ」
「人間全員普通そうじゃねぇか?」
「そうなんだけどさ、でも普通は大まかに分かるものだろう? おおらかだったり元気だったりミステリアスだったり。でもあんたの性格は私からしたら区分分けができないんだ」
「ああ、そういう事か」
 そういえば前にクラスの奴が意味が分からないと言っていたのを聞いた事があった。確かに学校では誰とも関わらず一人でオカルトクラブの活動をしていた。その上テストは毎回学年上位にいたのだ。クラスにいた奴らからしたら意味が分からないと言いたくなるのは分かるが、会って間もない妹紅にそんな事を言われるのは少し腑に落ちない。
「別に性格なんてどうでもいいだろ。俺は俺だ。俺からすりゃお前の性格もよく分かんねぇからな。俺の持ってる力が蓬莱人であるお前が逃げ出したくなる程って事は死ぬよりヤバい事になるって事だろ? 何でそんな力があるかもしれない俺を殺そうとしねぇ?」
 自身が蓬莱人である証拠を示すために自分の腕に石を突き刺すような奴だ。少なくとも臆病ではないのだろう。寧ろ自分から死地に飛び込んでいきそうな奴が自分を殺せるかもしれない存在を放置するどころか身を案じるような言動をするのは何故なのだろうか。
「あんたに敵意があるならまだしも、真に何もしていない人間を殺そうとは思えないよ。こりゃ博麗の巫女と剣士の子の件で疑心暗鬼になってるね?」
 ……思っていたよりずっと温厚で優しい奴だった。俺の精神状態を把握する余裕まである。少なくともその辺の人間より圧倒的に信用できる。このまま上手いこと行けば信頼も出来るかもしれない。
「そう、かもしれねぇ。なんかすまんな……」
「別にいいよ。いきなりこんな所に来て冷静でいられる方が難しいんだから」
 そう言って妹紅は笑う。確かにかなり考えすぎていた気がする。世の中そんなに消極的な奴ばかりではないのかもしれない。そう考えると少しばかり気が楽になった。
「そういや永遠亭で目が覚める前に夢だかよう分からねぇんだが四季映姫・ヤマザナドゥって奴に会ったんだが知ってるか?」
「勿論知ってるわよ。それ本当に夢だったの?」
「あー、確かここが三途の川だとか言ってたな。俺に幻想郷の事を説明するためだとかなんとかって」
「え、あの人ってそんな事する人だったかしら?」
「そもそも何で遼が三途の川にいる事を知ってたんだ? あいつにそんな能力無いだろ」
「確かにそうよね……。浄玻璃の鏡を使えばとも思ったけど、一度も会った事が無い人間は映らないはずだし」
「でもその鏡の効果が幻想郷にいる全ての人間の過去を映し出せるとするならいけるんじゃないか? 多分遼の放ってるものは力のある存在ならどこにいても察知できるだろうからそれを使って魂の位置を特定したとか」
 ……なんか俺には到底理解できないような会話が始まった。浄玻璃の鏡とか魂の位置とか何が何だかさっぱり分からない。学歴が違う人間と仲良くなるとこんな感じなのだろうか。初めて疎外感を感じた気がする。
「そこのお三方、少しお時間いただいてもよろしいですかね?」
 今度は上から知らない声。さっきから色々唐突過ぎて疲れてきた。もう上を見上げる気力もない。
「悪いけど今はあんたに構ってる場合じゃないのよ」
「そこの怪我人の介抱ですか? そんなものとよく関われますねぇ」
「これでも遼はその辺の妖怪とも戦えない普通の人間なのよ。分かったら早い所帰ってくれないかしら」
 アリスの声が少し威圧的になった。少なくとも友好的とは言えないような奴なのだろう。
「まあまあそう言わずお話だけでも聞かせてくださいよ。歩きながらでも構いませんから」
 高度を下げたらしくようやく視界に入ってきた。真っ黒いカラスのような羽、小さな赤い帽子。手にはかなり昔の物であろうカメラと手帳らしきものが握られている。声で分かってはいたがまたもや少女。服が現代チックなのが少し気になるが考えるまでもない、こいつは鴉天狗だ。
「なら一つ条件がある。こいつの事は記事にしないでくれるか?」
 何故だろう。妹紅が過保護に見えるのは気のせいだろうか。あと記事というのは何の事なのだろう。
「理由をお聞きしても?」
「遼が持っている力は途方もない。でもこいつはそれを全く行使できないんだよ。その辺の野良妖怪に手も足も出ない程に」
「それなら害は無いと書けばいいのでは?」
「あんたの記事を全部鵜呑みにするような馬鹿はいないよ。少なくとも興味本位で来る奴は出るだろう。それで勘違いでもされたら洒落にならない事になる。それよりかは危険視はされているが誰も来ない状態の方がよっぽど安全に暮らせるだろうからね」
 俺にとっては文句一つない的確な判断。だがここまで俺の身を案じるのは流石に人が良過ぎる。段々騙されている気がしてならなくなってきた。常人でもここまでされると詐欺を疑うだろう。しかし妹紅の性格と今までの言動を考えると俺を騙しているようには到底思えない。俺が疑り深すぎるだけなのだろう。
「そうですか……。分かりました、今回は記事にするのはやめておきましょう。ですがそこの方の話はお聞きしたいですねぇ」
 さっきから記事がなんだのと言っているがこいつは新聞記者でもやっているのだろうか。カメラに手帳といかにもと言ったものを持っているという事は、新聞記者ではなかったとしてもそれに準ずる事をしているのだろう。まるで現代の報道雑誌を作っている記者のようだ。
「だそうだ。どうする?」
「俺は別に構わねぇが、話せる事なんて特に無いぞ?」
「ならお名前は?」
「研真遼。で、あんたは?」
「これは失礼。私射命丸文と申します」
「あんた、鴉天狗でいいんだよな?」
「おや、私達の事をご存じで?」
「そりゃ有名な種族だからな。外の世界でも知らない奴の方が少ない程度には」
 俺ですら子供の頃から知っていた程だ。大人に聞けば間違いなく名前くらいは聞いた事があると返ってくるだろう。だが殆どの人間はただ名前を知っているだけでどういった存在なのかなで知っているのは極少数だろう。俺ですらあまり踏み込んだ話は出来ない。
「それは嬉しいですねぇ。ところであなたのその力、どういうものなんです?」
「それはこっちが聞きてぇよ。そもそも俺にそんな力がある事自体アリス達に言われて初めて知ったんだからな」
「そうなんですか。という事は人間には認知できない力という事でしょうか」
「恐らくそうなんだろう。人里が騒がしくなっていないところを見るに私達程度の力を持っていない人間には認知できないらしい」
 補足説明をするように妹紅が話す。
「そういう事ですか。まあそれはそうとして、本当に何の力も使えないんですか?」
 執拗に事実関係を問い質してくるのは現代の人間とあまり変わらないようだ。
「使えねぇ点に関しては事実だ。命賭けたっていい。ついでに言っとくと腕の切り傷以外は崖から落ちてできたもんだ。妖夢の奴に聞きゃ分かる筈だ」
 妖夢に斬られた部分は包帯で巻かれた所だけだがしっかり出ている。どこからどう見てもダサいが、極力腕は出したくないので着続けている。
「ふむふむ」
 見るとなにやら手帳に書き込んでいた。やはりこいつが記者なのは間違いないだろう。
「そういやあんたから見て俺はどう映ってんだ?」
 最初に言っていた『そんなもの』というのが矮小な人間と、と言う意味なのか得体のしれない存在と、なのかこいつが機嫌を損ねない内にはっきりさせておきたい。
「そうですねぇ…………近寄り難いと言いますか、脅威と感じずにはいられないと言いますか……。何分今まで感じたことのない部類の力なもので。私からはなんとも」
「要は意味が分からねぇって事か」
 これでこいつが敵なのかを調べようと思ったのだがうまい具合にぼかされてしまった。ただ味方をするつもりがないことが分かったのはいい収穫だ。
「何故私にそんな事聞くんです? そこのお二人に聞いた方が早いじゃないですか」
「二人からはもう答えもらってるからな。それに種族によって見え方が違うって可能性もあるだろ?」
 真意を隠すには丁度いい理由だろう。ただこいつは相当に頭の回転が速いらしい。既に何かに気付いているような顔をしている気がする。いや、あまり考えすぎない方がいいかもしれない。ただ単に俺の思考速度が遅いだけという可能性もあるのだから。
「研究者気質なんですねぇ。貴方のような外来人は初めて見ましたよ」
「そりゃどうも」
 褒めてるんだか上から目線なんだかよく分からない奴だ。確か鴉天狗は位が高い妖怪なんだったか。何故か話し方を合わせているようだが所々で違和感がある。
「そういや俺も聞きてぇことがあんだがいいか?」
「ええ、構いませんよ」
「八雲紫って奴が俺みてぇな人間を外の世界から引っ張ってきた事は以前にもあるのか?」
「……あの方はよく分からないですからねぇ。神隠しはしているかもしれませんがあなたのような力を持った人間を連れてきた事は無いと思いますよ?」
「神隠しはしてんのか……」
「あれでも人食い妖怪ですからね。名前が出たという事は何か関係があるんですか?」
「関係も何もあいつに引きずり込まれたからな。その上博麗の巫女に殺害予告された挙句妖夢の奴に斬り殺されるとこだったんだからな。俺が何したってんだ……」
 思わず文句が出てしまった。思い出しただけで腹が立つ。いくら不幸体質とはいえ流石にこれは理不尽が過ぎる。
「随分ご立腹のようですねぇ」
「そりゃ理不尽に殺されかけりゃ腹も立つだろ。人間ってのは理不尽を嫌う生き物だからな」
 いじめ、暴力、etc……。数えたらきりがない程の理不尽を学生の頃から強いりそれが当たり前で仕方のない事だと思わせる。そしてそれを少しでも外れれば不良、果ては障碍者扱いし何が何でも矯正しようとする。鉄は熱しなければ人間の力では形を変える事は出来ないというのに。そうやって人の個性を殺し間違った常識を植え付け間違った意味での世間一般で言うまっとうな人間を作り上げるのが学校という存在だ。
 教育機関とは言うなれば社会の歯車を作る工場だ。一定の規格の物だけが正規品とされ、それ以外は不良品として捨てられ他の何かに利用される事も無い。正規品は正規品でそれ以上でも以下でもない扱いを受け動かなくなるまでその場で回り続ける。錆びれば動かなくなり油を点したって動くのは一時的でそのうちまた動かなくなりすぐに新しい歯車と交換される。そんな社会が当たり前になっているこの世界はどう考えても狂ってる。それに働かないというだけで非難を浴びるのも相当に理不尽だ。働けるのに働かないのは確かに疑問だが、働くという選択肢がない人間だって少なからずいるはずなのだ。働かないというのは働くという選択肢を自ら捨てた者の事だ。理由は人それぞれあるだろう。顔に自信がないから人前に出られないとか、やりたい事だけやって生きていきたいとか、そもそも働く必要がないとか。かくいう俺も顔はいい方ではないし、今のところはまだ働く必要がないくらいに金はある。
「その言い方からすると以前にも同じような事が?」
「そりゃまあ、不幸体質ってのは常に理不尽に晒されてるようなもんだからな。慣れちゃいるが文句がねぇわけじゃねぇよ」
「我々も同じようなものですねぇ。何かあったら真っ先に疑われて、それで疑いが晴れても謝罪の一つないんですから酷いもんです」
「……俺より酷ぇじゃねぇか。人間ってのはどんな世界でも変わんねぇのな。だから人間は嫌いなんだ」
「おやおや、同族嫌悪ですか?」
「そんなんじゃねーよ。お前が言ってんのは悪が悪を憎むことだ。俺はその辺の人間とは考え方が違うんでな。あんな善意と偽善を間違えた連中と一緒にされるくらいなら死んだ方がマシだ」
 実際問題小さな親切大きなお世話と言う言葉があるように自分にとっては正しい事でも他人にとっては迷惑極まりない事もあるのだ。世の中正義のヒーロー気取りの奴が多過ぎるのかもしれない。
「死んだ方がマシ、ですか……。貴方は本当に不思議な人ですねぇ」
「俺にとっての常識はあんたの非常識、あんたにとっての常識は俺の非常識だ」
「ああ、成程。分かりやすい説明ありがとうございます」
 今のは前に観たドラマだったかで聞いたセリフをそのまま使ったもの(屁理屈のように聞こえるかもしれないが個人的にはかなり気に入っている)なのだが、こんなざっくりとした説明で一体何が分かったというのだろうか。本当に頭の回転が速いのか、ただ聞き流しているだけなのか。その真意すら今の俺には見抜く術も無い。と言ってもいつか見抜けるという訳でもないだろうが。
「おっと、そろそろ戻らないと上司に叱られてしまいますので私はこれで。いいお話が聞けました。また来ますね」
「私としては平穏を壊されたくないから来て欲しくはないのだけど」
 アリスは射命丸の事が気に入らないようだ。話す度に不機嫌になっている。
「いいじゃないですか、あなたのお話を聞きに来るわけじゃないんですから」
 そう言って何故か俺を見ながら一瞬微笑んだ気がした。どうやら射命丸にとって他人からの好感度などどうでもいいらしい。
「俺としては好きにしろと言いてぇが、今は家主様の意見を尊重する」
 所詮俺は居候の身だ。こういう事に関してとやかく言える立場ではない故これを決める権限は全てアリスにある。
「そうですか……残念ですねぇ。まあ、また会う事があるでしょうからその時は詳しくお話聞かせてくださいよ?」
「機会があれば、な」
「なければ私の方から行きますから大丈夫ですよ。では、私はこれで」
 そう言うと射命丸の身体から重力が無くなったかのようにふわりと浮き、そのま風に乗る木の葉のようにあっという間に見えなくなった。
「……なあ、妖怪ってのは皆あんな感じなんか?」
「まさか。天狗が妖怪の中では比較的まともな種族ってだけで、本来話が通じないのが殆どなんだから」
 俺の質問にようやく気が楽になったと言いたげな顔でアリスが答える。
「ならまともなのも少なからずいるって事か?」
「それでも多くはないけどね。着いたわ、ここよ」
 言われて前を見ると目の前に西洋風? の家が建っていてすぐ目の前の扉の前まで来ていた。
「護衛はここまでで大丈夫かな。それじゃ、何かあったら遠慮なく言ってくれよ? できる限り力になるからさ」
 そう言って妹紅はふわりと笑う。こいつ、心の底から善人なんだな……。片っ端から疑っていた俺が馬鹿みたいだ。怪我が治ったら早急に作れる料理作りまくって振る舞ってやろう。
「ああ、助かる」
 俺の言葉に満足したのか妹紅はもと来た道を戻って行く。それを俺は霧で姿が見えなくなるまで見送る。
「早く入らないと妖怪に襲われるわよ?」
 アリスが扉をあけながら心配してるんだぞと言いたげな顔で声をかける。
「すまんすまん、すぐ行く」
 言いながら扉をくぐる。無関係の奴を頼るような状況にはなってほしくはないなと願いつつ、そんな状況になる事はそう簡単には無いだろうと高をくくりながら――
遅れまして本当に申し訳ない……
もりさきこうや
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