「……今日は珍しく、天気が悪いわね」
縁側から外の様子を覗う霊夢。
梅雨はとっくに終わっていたと思ったが、まだ続いていたようだ。
「掃除はやめて、部屋の中で大人しくしてた方が良さそうね」
雨戸を閉めようと手を掛けた、その時だった。
「うわあああああ!」
どこからか、叫び声が聞こえた。
何事かと思い、その場から慌てて外へ飛び出す。
「どこから声がするの?」
辺りを見渡すが、人影らしきものはない。次第に声も大きくなり、こちらに近づいてくるようにも聞こえる。
「まさか……上?!」
顔を上げると、霊夢の頭上目掛けて落下してくる少女が、視界に入った。
まずい、と思い地面に衝突する前に、空を飛び両手で少女をキャッチし救出する。
「大丈夫? ケガとかしてない?」
「は、はい……」
目を回していたが、特に外傷は無い様子。
「なら良かったわ……ん?」
霊夢の腕に、一粒の雨が落ちる。
「やっぱり降って来たわね、とりあえずうちに連れて行くからね」
雨の勢いが強くなる前に、家の中へと少女を保護する。
二、三分しないうちに、雨は勢いを増した。
「ギリギリ間に合ったみたいね……さてと、色々聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」
正座をする少女の前まで行き、同じ体制で腰を下ろす。
少女は、出された温かいお茶を一口飲む。
「先ほどは……助けていただき、ありがとうございます」
丁寧に頭を下げ、礼を申す。
「私は、次原菜香(つぎはらなこう)と申します」
「博麗霊夢よ、よろしくね。それで、どうして空から落ちて来たの?」
「……実は、旅をしていまして……」
「旅?」
「はい……私は自身の、次元を越える程度の能力、を利用して旅をしているんです」
「へー、そう」
またとんでもない能力を持った子が来たな、と思う霊夢。
「ですが、次元を越える際にちょっとした座標のズレが、生じるんです」
「なるほど、それで空高くから落ちたのね」
「それは違います」
「? どういうこと?」
「前にいた場所には、山が存在していたんです。しかし、次元の先には山が存在しなかったのです」
「ちょっと待って、別の世界だとここに山があるのよね? 私の神社はどうなってるの?」
「別世界……パラレルワールドと言っても、全てが同じとは限らないんです。場所は違えど、博麗神社自体は存在していましたよ」
「よかったわ……てっきり潰れたのかと思った」
霊夢と次原が雑談をしていると、ガラララ、玄関のドアが勢いよく開く音がした。
それに驚いたのか、次原は霊夢の背後に身を隠す。
「誰かいるの?」
襖越しに声をかける。姿が見えないが、足音らしきものがこちらへと近づいてくる。
そして次の瞬間、襖がゆっくりと開いた。
「れーいーむう!」
「いやあああああ!」
寄声をあげる次原。
霊夢の前には濡れた少女の姿があった。
「だ、誰かいるのか?」
「あとで説明するから! とりあえず服を着替えてきなさいよ、魔理沙!」
――少女着替え中……。
「悪いな霊夢、お風呂まで貸してもらって」
「良いのよ。冷えたままじゃ風邪ひくでしょ?」
「助かるぜ……ところで、さっきから霊夢の隣にいるその子は?」
「……」
身体を震わせ、霊夢の袖を握る次原。
「幽霊……ですか?」
「違うわよ。あれはキノコを喰らう妖怪よ」
「誰が妖怪だって?」
「ごめんごめん」
「……ところで、さっきから隣にいるのは?」
「あー、実はこの子――」
「もしかして、霊夢の隠し子か?」
「そんなわけないでしょ……説明すると長いんだけど――」
「――なるほど、そういうことか……次元を越える……」
目を閉じ、しばらく考え込む魔理沙。目を開いたかと思えば、その瞳をを輝かせていた。
「なあなあ、他の世界の私はどうしているんだ?」
何かのスイッチが入った魔理沙。次原の近くまで寄る。
「……あまり変わらないです」
多少怯えてはいるが、問いに答える次原。
「はあ。別の世界の私も大変よね……こんな魔理沙と一緒だと」
「おいちょっと待て、聞き捨てならないぞ」
「何よ? 当り前のことを言っただけじゃない?」
「こっちだってな、わざわざ霊夢に合わせてやっているんだぞ? 感謝して欲しいぜ」
「感謝ですってえ? あんた、いつも遅れて来て、最後の方だけしか手を貸さないじゃない!」
「仕方ないだろ? 他の妖怪やらの退治で時間を取られてるんだから」
「そんなの一撃で倒してきなさいよ!」
「はあ? 喧嘩売ってんのか?」
「何よ、そっちがその気なら買ってあげても良いわよ?」
言い争うを始める霊夢と魔理沙。
その様子を、ただ見ているしかない次原。しかし、その場の空気を変えたのは次原でもあった。
「やっぱり、お二人は仲が良いですね」
クスッと笑う次原。
「私と魔理沙が?」
「嘘だろ?」
「嘘じゃないですよ。住む世界が違えど、お二人は変わらず仲良しさんです!」
「……まあ、言われなくても分かってたけどな」
「魔理沙……照れてるの? 可愛いところあるじゃない」
にやけ顔で魔理沙を茶化す霊夢。
「べ、べべ別に! 照れてないからな!」
頬を赤くする魔理沙。
それを見てゲラゲラ笑う霊夢と、クスクス笑う次原。
「で、要件は何?」
急に冷静さを取り戻る霊夢。
「ああ、そうだった。霊夢……一晩留めてくれ!」
「うん無理、帰って頂戴」
満面の笑みで断る。
「この雨の中、戻れって言うのか? 冗談じゃないぜ。外も暗くなって、か弱い魔理沙ちゃんを危険に晒そうっていうのか?」
「か弱い? そもそも、理由何なのよ?」
「……家を追い出された」
魔理沙の話によれば、一緒に暮らしている玄鳴封倫と揉め事になり、暴れ出したので外に避難。しかし雨が降って来たことにより、霊夢の家に助けを求めたという事だ。
「頼む! 優しい巫女さん、一晩だけでいいから留めてください!」
「……分かったわよ。一晩だけよ? この部屋で寝てね!」
「サンキューなっ!」
ニシシと笑う魔理沙。
「あなたは私の部屋で、一緒に寝ましょうね」
「うん、ありがとうございます」
「ちょ、私だけ仲間外れかよ?」
魔理沙の言葉に足を止め、顔を振り向かせる。
「魔理沙、あんたは寝相も悪いし、すぐに部屋を汚くさせるんだから。茶の間で寝て頂戴」
そういうと、襖を勢いよく閉め、魔理沙を隔離させた。
「……なんで知ってるんだよ」
ポカンとする魔理沙。そのあと夕食は一緒に済ませ、就寝時にはまた隔離された。
◇◇◇
翌日……霊夢と次原は魔理沙を起こしに、茶の間へと向かった。
「魔理沙ー、起きてる?」
襖を開けると、部屋の隅でうつ伏せ状態で寝ている魔理沙を発見した。
「すごい寝相ね……別にして正解だったわ」
「……あの」
「ん? どうしたの?」
「私も寝相が酷くて……ご迷惑をかけたんじゃないかと……」
なんて良い子なの、と思う霊夢。
「全然大丈夫だったわよ。時々、寝返りする程度だから、寝相が悪いわけじゃないわ」
次原の頭を優しく撫でる霊夢。
まるで幼いころの自分を見ているかのようだった。あの頃は一人で寝るのが怖かったから、一緒に寝てもらって……翌朝には寝相が悪いと怒られたわね。
「さあ、顔を洗って来なさい。その間に魔理沙を起こすから」
「はい」
てくてくと歩く次原。
「さてと、魔理沙を起こすには……ちょっと刺激が必要なのよね」
魔理沙にお札を張ると、何かを唱え始める霊夢。次の瞬間、魔理沙の身体に電流が流れた。
「うああああ!」
悲鳴をあげる魔理沙。
「おはよう。お目覚めはどうかしら?」
「最悪だぜ! 普通に起こしてくれよ!」
「はいはい、今から朝食作るから顔洗って来てね」
「さらっと話を流すなよ……全く」
うーん、と背伸びをして顔を洗いに行く魔理沙。
「おっ菜香。おはようだぜ」
「は、はい。おはようございます」
さっきの悲鳴、魔理沙さんですよね……大丈夫なんでしょうか……。
結局聞くことは出来ず、通り過ぎてしまう次原。茶の間に戻ると、霊夢が朝食の準備をしていた。
「あのっ私も手伝います!」
「ああ、良いのよ。そこまで気を使わなくても」
「で、でも……」
「……それじゃあ、お魚を焼いてもらえるかしら?」
「! はい!」
満面の笑みで答える次原。場所を変わり、踏み台を置く。
「あら、その踏み台どこから見つけてきたの?」
「洗面所の隅の方に置いてあったので……もしかして、使ってはダメなものでしたか!?」
「いや別にいいんだけど……なんか懐かしく感じてね」
次原が使用している踏み台……霊夢がまだ幼いころに使用していたものだった。
まともに、料理ができるようになったのは……一人で料理をするようになってからのこと。
「おっ良い匂いがするなあ。魚か?」
「ええそうよ。もう少しで出来るから、座って待てて」
「わかったのぜえ……なんか二人を見てると、まるで姉妹だな」
「私にも、あなたみたいな妹がいたら良かったわ」
「……私、全然いい子ではありませんから……」
「そんなこと無いわよ。どっかの魔法使いとは大違いよ?」
「なんでこっちを見て話すんだ?」
今日の天気は、快晴である。
◇◇◇
霊夢たちは朝食を済ませた後、次原に幻想郷を案内することになった。
「なあ、パラレルワールドから来たんだったら、別に案内することもないんじゃないか?」
「いえ……パラレルワールドと言っても全てが同じとは限らないんです」
「実際、前に居た世界だと、博麗神社は別の場所にあるみたいなのよ」
「へーそっか」
薄い反応をする魔理沙。
考え事か興味が無いのか、空を眺めながら歩く。
「よそ見してると、危ないわよ」
「……今日は雲一つないんだな」
嵐の前の静けさとでも言うのだろうか、魔理沙は妙な風を感じていた。
「梅雨も明けたんじゃないかしら?」
「そうだな」
霊夢たちが初めに訪れた場所は――、
「ここが紅魔館ね。吸血鬼の屋敷よ」
「あの、門の前で眠っている方は……?」
「これでも、屋敷の門番なんだぜ? 笑っちゃうよな、アハハ」
美鈴に近づく魔理沙。
「あ、それ以上近づくと――」
「え? 何か言ったか……!」
「せいや!」
美鈴の一撃が、魔理沙の顔面ギリギリを横切る。
「だから言ったのに……」
「あのっ寝ているんです……よね?」
「そうよ。だからあれは無意識なのよ。ほんっと、恐ろしいわ」
美鈴の攻撃をひたすら避けまくる魔理沙。一瞬の隙もないため、逃げようにも逃げられない状況。
「おい霊夢! 助けてくれよ!」
「忠告を聞かないのが悪いんでしょ? さあ、次に行きましょう」
「ちょ、ちょっと!」
魔理沙を置いて、次の場所に足を運ぶ霊夢と次原。
妖怪の森、白玉楼と進み、次に向かった場所は……地底。
「なんか薄暗いですね……」
「大丈夫よ。妖怪とか半霊とかはいるけど、幽霊はいない……のかしら?」
随分曖昧な解答をする霊夢。
「さあ着いたわ、ここが地霊殿ね。まあぶっちゃけ紅魔館と変わりは無いから」
「そうなんですか?」
「ええ、ただ主がちょっとだけ、厄介なのよね」
「凄くお強いんですか?」
「うーん、強くはないけど、心を読んでくるのよ」
霊夢と次原は、屋敷の前で話が弾む。
「何か御用でしょうか?」
背後から声をかけられる。
「! 丁度良い所に」
「?」
「あれが家主の古明地さとり」
「あれって言わないでください……ところで、そちらの方は? 幻想郷では見ない方ですね」
「は、はい! えっと、その……」
「……大丈夫ですよ。別に私は怖い存在ではないですから」
「え?!」
「ほらね? すぐに心を読むのよ」
「本当だ……凄い」
不思議な感覚に浸る次原。
楽しいひと時を過ごす二人、まるで本当の姉妹の様だ。何事も無い日常が続けばいいのに……そう、普通の日常が。
「――! 危ない!」
「うわっ」
何かを感じ、とっさに次原を抱きかかえ空を飛ぶ。
次の瞬間、次原が居た場所に弾幕が飛んで来た。もしも気づくのが遅ければ、もろに食らっていたであろう。
「何か来るわ……しかも多くの気配を感じるわ」
「……まさか」
「? どうかしたの?」
「い、いえ。なんでもないです……」
「……」
次原の様を見たさとりは、何かを悟った。
「何か見えるわ、あれは……」
「おーい霊夢!」
「魔理沙!? それと……何よあれ」
魔理沙の背後には、夥しい数の生命体が一緒にこちらへと向かってくるではないか。
「あんた、何連れて来てるのよ!」
「話は後だ! 片づけるのを手伝ってくれ!」
「仕方ないわね……さとり、この子を預かって頂戴」
霊夢は地上に降り、次原をさとりに預ける。
「ちゃんと合わせなさいよ?」
「もちろんだぜ!」
ざっと数えても、百体はいるであろう生命体との戦いが始まった。
◇◇◇
相手の攻撃は、基本的に弾幕のみ。作戦的はこうだ。接近戦になる前に撃ち落とす。
霊夢が弾幕を放しながら、敵の懐に侵入。それをカバーするように、魔理沙が援護射撃をする。
「妖怪じゃなさそうね……でも」
ただ撃ち落とすだけではなく、相手の生態も確認する。しかし妙なことに、その姿は妖怪と言うより人間に近い。
「だとしても、おかしいわ。知性を感じられない……それに、これは鉄で出来た塊」
人間の体にして、おかしな点がいくつか見つかる。だが、妖怪でもなければ人間でもない。
しばらくもすれば、敵は一掃されていた。
「終わったみたいね」
「そうだな」
完全に動かなくなった生命体に、全員が近づく。
「魔理沙、どう思う?」
「どうって……あっ! あれに似てないか?」
「あれって?」
「前に一度、にとりに見せてもらったロボットだ」
「……言われてみれば、似てるかもだけど……これは人間の皮膚よ?」
謎の生命体に頭を抱える魔理沙と霊夢。しかし、解決の糸口は以外にも近くにあった。
「それなら、この子が知っているそうですよ」
「えっ」
「さっき、心を読みました。どうやら彼らは、この子を狙って来たようですね」
「……」
「後は、自分の口で話してください」
次原は大きく深呼吸をすると、盛大にむせる。一息ついてから、話を始める。
「私は、旅人なんかではありません。逃亡者なんです」
◇◇◇
私の生まれた故郷は、自然が豊かで、争い事の無い平和な村でした。
しかし、それは表の顔に過ぎませんでした。裏では日々争い、醜いことばかり。
物心がつく頃には、私も挫折し人の道を踏み外しました。
ですが、そんな自分に嫌気がさし、なんとか元の自分に戻ることが出来たのです。それからは、争い事があると止めに入り、裏の存在しない世界を作るため、仲間と活動を始めました。
最初は効果がほとんどありませんでした。けれど、積み重ねるうちに、効果が上がり徐々に平和な村を取り戻し始めました。
平和な日常が、これから先……未来へと受け継がれると、そう思っていました。あの日までは。
「菜香、起きなさい!」
夜中、母に起こされました。
「どうしたの? そんなに慌てて……」
「今すぐ、ここら逃げるのよ! 早く来て!」
ただ事ではないと、感じました。母に連れられ、外に出るとそこには――、
「なに、これ……」
自然豊かだった村は、辺り一面が火の海に変わり果てていた。
建物は崩壊し、草木は萌え、辺りには夥しい数の――が転がっている状態。
私は足が竦み、その場から一歩も動けませんでした。
「お父さんは?」
ふと、父の事が頭をよぎったのです。
「……」
母は何も答えず、ただ私を見つめるだけ。
「……嘘」
もう、何も考えられない。頭が真っ白になった瞬間だった。
悲鳴と叫び声、助けを求めるが、誰も彼を見る事すらしなかった。
「菜香、菜香! しっかりしなさい!」
母が私にビンタをしようとしたのだろう。母はいきなり、私の体にぐったりと倒れた。
「おかあ、さん?」
背中には刃物の様なものが、母に刺さっていた。
「嫌だよ。嫌だよ、お母さん!」
「……」
「ねえ、お母さん! 私を一人にしないで!」
「……菜香」
「お母さん!?」
「あなたは……少し、変わった子だったわ」
母は最後の力を振り絞り、話を始めました。
「痛みを感じても……悲しい時も……寂しい時も」
「何言ってるの?」
「絶対に……泣くことはなかったわ」
「分からないよ……お母さん」
「だからね……辛い時、悲しい時……嬉しい時……」
「なに……?」
「最後くらい……泣こうよ、菜香」
母はその言葉を最後に、完全に動かなくなった。
「やめてよ……お母さん」
母を抱く私の前に、誰かが近づいてくる音がした。
「だれ」
「実に素晴らしい。感動したよ」
その人物は私に拍手をしていました。
「やめて……やめてよ!」
私は母に刺さっていた刃物を取り、霧に浮かぶ影を目掛けて、投げた。
「物騒だね? 物騒だな? あぶねえよ?」
「近づかないで」
「何々? 恨みでもあるの? 妬んでいるの?」
「……」
「答えてよ、ここはそういう村だったんでしょ?」
「……」
「何とか言えよ!」
「!」
その人物が大声あげると、私は後ろに引き寄せられました。
「チッ! 能力に目覚めたか……それとも……クハハ!」
◇◇◇
「それ以来、私はこの能力を使い、あいつの追ってから逃げているんです」
「マジかよ……」
「このサイボーグは、村を襲った時に見かけました。あいつは人間をサイボーグ……機械と人間を融合させているんです」
「じゃあ、このサイボーグは生きているの?」
「分かりません……」
「生きてます」
声を名乗り上げたのは、さとりだった。
「どういうこと?」
「この機械には心があります。つまり、半分は生きている人間と言う事です」
「でも、元に戻す方法なんて……なあ霊夢?」
「……」
「霊夢?」
「居るじゃない、頼りになる大魔法使いがっ」
◇◇◇
場所は変わって、紅魔館……。
「あのね、魔法にも出来ることと出来ないことがあるのよっ!」
「そうだぜ霊夢」
「魔理沙、あんたはこっち側でしょ」
「はあ、とりあえずやれることはやってみるけど……」
ため息意をつきながらも、依頼を引き受けるパチェリー。
「あら? その子が噂の、運命に逆らたって言う子かしら?」
霊夢たちのもとに現れたのは、紅魔館の主、レミリアだった。
「レミリア……と咲夜ね」
「ご無沙汰しております」
軽くお辞儀をする咲夜。
「お祭り以来かしら? 霊夢?」
「あー、そうだったかしら?」
気まずい様子の霊夢。それもそのはず、以前起きた異変の黒幕は隣にいる魔理沙。結界を張ったのも、霊夢の知り合いでもある。
「霊夢、あなたに一つだけ助言よ」
「助言?」
「あの子は――のよ」
そう言うと、レミリアはその場を去ってしまった。
◇◇◇
「もう行っちゃうのね」
「はい、これ以上ご迷惑をおかけするわけには、いきませんので」
次原の表情は切なく、申し訳ない気持ちであふれかえっていた。
自分が追われている立場のせいで、関わる人を犠牲にはできない。居場所もバレてしまった以上、もうこの世界には居られないのだ。それが次原の出した決断。
「もう会えないと思うと、寂しくなるぜ……」
「短い時間でしたが、とても楽しかったです。私の中の、空白だった時間を埋められた感じがしました」
「菜香……。ずっと居ても良いのよ? 何かあれば、私たちがあなたを守るわ」
「いいえ。その気持ちだけで、とても嬉しいですっ」
涙を浮かばせ、笑って答えた。
「他の世界でも、私を頼って頂戴。必ず、あなたの力になるから」
「霊夢じゃなくて、魔理沙ちゃんを頼ってもいいんだぜ? 霊夢より話が通じるからな」
「あら? 魔理沙の方が鈍いと思うんだけどー?」
「私を馬鹿にしてるのか? 喧嘩なら買ってやっても良いんだぜ?」
最後の最後まで、締まらない霊夢と魔理沙。
そんな二人を見て、笑いだす次原。
「ごめんなさい。最初にあった時のことを思い出してしまってっ」
「そういえば、あの時も喧嘩してたな」
「魔理沙が照れを見せた時は、可愛かったわね」
「ちょ、なんで毎回私を茶化すだ、お前は!」
「面白ければ良いじゃない」
これが、博麗霊夢と霧雨魔理沙。誰よりも強く、誰よりも強い絆で結ばれている二人……。本当に、最強の二人、なんですね。
「では、そろそろ行きますね」
次原は次元の歪みを出現させる。
「元気でなっ!」
「体には気をつけるのよ」
「はい、ありがとうございます」
深くお辞儀をすると、彼女は次元の狭間へと姿を消してしまった。
「本当に行ったみたいだな」
「ええ、そうね……さてと。掃除でもしようかしら」
霊夢は大きく背伸びをする。
「私はウチに戻って、封倫の様子を見てくるとするか」
「あんたね、いい加減謝罪って言う言葉を――」
「よいっしょー!」
話をしている最中、誰かの声と共に、霊夢の背中へとダイブした者がいた。
その反動で、前に倒れる霊夢。
「おいおい、大丈夫か?」
「いてて……全く誰よ! いきなり飛びかかって来て……」
「――初めまして!」
霊夢と魔理沙が声の主の姿を、完全に目視すると、驚きの光景があった。
「ああ、今どきますね……」
「なあ……霊夢?」
「言わなくても分かってるわよ」
口調は違えど、特徴的な赤い瞳に、青髪のショートヘアー。
「これも運命なのかしら?」
ふと、レミリアが言っていた言葉を思い出す。
「では、自己紹介を……私は、次原菜香と申します! 次元を旅する……いわゆる、ディメンショントラベラーです!」
To Be Continued?
縁側から外の様子を覗う霊夢。
梅雨はとっくに終わっていたと思ったが、まだ続いていたようだ。
「掃除はやめて、部屋の中で大人しくしてた方が良さそうね」
雨戸を閉めようと手を掛けた、その時だった。
「うわあああああ!」
どこからか、叫び声が聞こえた。
何事かと思い、その場から慌てて外へ飛び出す。
「どこから声がするの?」
辺りを見渡すが、人影らしきものはない。次第に声も大きくなり、こちらに近づいてくるようにも聞こえる。
「まさか……上?!」
顔を上げると、霊夢の頭上目掛けて落下してくる少女が、視界に入った。
まずい、と思い地面に衝突する前に、空を飛び両手で少女をキャッチし救出する。
「大丈夫? ケガとかしてない?」
「は、はい……」
目を回していたが、特に外傷は無い様子。
「なら良かったわ……ん?」
霊夢の腕に、一粒の雨が落ちる。
「やっぱり降って来たわね、とりあえずうちに連れて行くからね」
雨の勢いが強くなる前に、家の中へと少女を保護する。
二、三分しないうちに、雨は勢いを増した。
「ギリギリ間に合ったみたいね……さてと、色々聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」
正座をする少女の前まで行き、同じ体制で腰を下ろす。
少女は、出された温かいお茶を一口飲む。
「先ほどは……助けていただき、ありがとうございます」
丁寧に頭を下げ、礼を申す。
「私は、次原菜香(つぎはらなこう)と申します」
「博麗霊夢よ、よろしくね。それで、どうして空から落ちて来たの?」
「……実は、旅をしていまして……」
「旅?」
「はい……私は自身の、次元を越える程度の能力、を利用して旅をしているんです」
「へー、そう」
またとんでもない能力を持った子が来たな、と思う霊夢。
「ですが、次元を越える際にちょっとした座標のズレが、生じるんです」
「なるほど、それで空高くから落ちたのね」
「それは違います」
「? どういうこと?」
「前にいた場所には、山が存在していたんです。しかし、次元の先には山が存在しなかったのです」
「ちょっと待って、別の世界だとここに山があるのよね? 私の神社はどうなってるの?」
「別世界……パラレルワールドと言っても、全てが同じとは限らないんです。場所は違えど、博麗神社自体は存在していましたよ」
「よかったわ……てっきり潰れたのかと思った」
霊夢と次原が雑談をしていると、ガラララ、玄関のドアが勢いよく開く音がした。
それに驚いたのか、次原は霊夢の背後に身を隠す。
「誰かいるの?」
襖越しに声をかける。姿が見えないが、足音らしきものがこちらへと近づいてくる。
そして次の瞬間、襖がゆっくりと開いた。
「れーいーむう!」
「いやあああああ!」
寄声をあげる次原。
霊夢の前には濡れた少女の姿があった。
「だ、誰かいるのか?」
「あとで説明するから! とりあえず服を着替えてきなさいよ、魔理沙!」
――少女着替え中……。
「悪いな霊夢、お風呂まで貸してもらって」
「良いのよ。冷えたままじゃ風邪ひくでしょ?」
「助かるぜ……ところで、さっきから霊夢の隣にいるその子は?」
「……」
身体を震わせ、霊夢の袖を握る次原。
「幽霊……ですか?」
「違うわよ。あれはキノコを喰らう妖怪よ」
「誰が妖怪だって?」
「ごめんごめん」
「……ところで、さっきから隣にいるのは?」
「あー、実はこの子――」
「もしかして、霊夢の隠し子か?」
「そんなわけないでしょ……説明すると長いんだけど――」
「――なるほど、そういうことか……次元を越える……」
目を閉じ、しばらく考え込む魔理沙。目を開いたかと思えば、その瞳をを輝かせていた。
「なあなあ、他の世界の私はどうしているんだ?」
何かのスイッチが入った魔理沙。次原の近くまで寄る。
「……あまり変わらないです」
多少怯えてはいるが、問いに答える次原。
「はあ。別の世界の私も大変よね……こんな魔理沙と一緒だと」
「おいちょっと待て、聞き捨てならないぞ」
「何よ? 当り前のことを言っただけじゃない?」
「こっちだってな、わざわざ霊夢に合わせてやっているんだぞ? 感謝して欲しいぜ」
「感謝ですってえ? あんた、いつも遅れて来て、最後の方だけしか手を貸さないじゃない!」
「仕方ないだろ? 他の妖怪やらの退治で時間を取られてるんだから」
「そんなの一撃で倒してきなさいよ!」
「はあ? 喧嘩売ってんのか?」
「何よ、そっちがその気なら買ってあげても良いわよ?」
言い争うを始める霊夢と魔理沙。
その様子を、ただ見ているしかない次原。しかし、その場の空気を変えたのは次原でもあった。
「やっぱり、お二人は仲が良いですね」
クスッと笑う次原。
「私と魔理沙が?」
「嘘だろ?」
「嘘じゃないですよ。住む世界が違えど、お二人は変わらず仲良しさんです!」
「……まあ、言われなくても分かってたけどな」
「魔理沙……照れてるの? 可愛いところあるじゃない」
にやけ顔で魔理沙を茶化す霊夢。
「べ、べべ別に! 照れてないからな!」
頬を赤くする魔理沙。
それを見てゲラゲラ笑う霊夢と、クスクス笑う次原。
「で、要件は何?」
急に冷静さを取り戻る霊夢。
「ああ、そうだった。霊夢……一晩留めてくれ!」
「うん無理、帰って頂戴」
満面の笑みで断る。
「この雨の中、戻れって言うのか? 冗談じゃないぜ。外も暗くなって、か弱い魔理沙ちゃんを危険に晒そうっていうのか?」
「か弱い? そもそも、理由何なのよ?」
「……家を追い出された」
魔理沙の話によれば、一緒に暮らしている玄鳴封倫と揉め事になり、暴れ出したので外に避難。しかし雨が降って来たことにより、霊夢の家に助けを求めたという事だ。
「頼む! 優しい巫女さん、一晩だけでいいから留めてください!」
「……分かったわよ。一晩だけよ? この部屋で寝てね!」
「サンキューなっ!」
ニシシと笑う魔理沙。
「あなたは私の部屋で、一緒に寝ましょうね」
「うん、ありがとうございます」
「ちょ、私だけ仲間外れかよ?」
魔理沙の言葉に足を止め、顔を振り向かせる。
「魔理沙、あんたは寝相も悪いし、すぐに部屋を汚くさせるんだから。茶の間で寝て頂戴」
そういうと、襖を勢いよく閉め、魔理沙を隔離させた。
「……なんで知ってるんだよ」
ポカンとする魔理沙。そのあと夕食は一緒に済ませ、就寝時にはまた隔離された。
◇◇◇
翌日……霊夢と次原は魔理沙を起こしに、茶の間へと向かった。
「魔理沙ー、起きてる?」
襖を開けると、部屋の隅でうつ伏せ状態で寝ている魔理沙を発見した。
「すごい寝相ね……別にして正解だったわ」
「……あの」
「ん? どうしたの?」
「私も寝相が酷くて……ご迷惑をかけたんじゃないかと……」
なんて良い子なの、と思う霊夢。
「全然大丈夫だったわよ。時々、寝返りする程度だから、寝相が悪いわけじゃないわ」
次原の頭を優しく撫でる霊夢。
まるで幼いころの自分を見ているかのようだった。あの頃は一人で寝るのが怖かったから、一緒に寝てもらって……翌朝には寝相が悪いと怒られたわね。
「さあ、顔を洗って来なさい。その間に魔理沙を起こすから」
「はい」
てくてくと歩く次原。
「さてと、魔理沙を起こすには……ちょっと刺激が必要なのよね」
魔理沙にお札を張ると、何かを唱え始める霊夢。次の瞬間、魔理沙の身体に電流が流れた。
「うああああ!」
悲鳴をあげる魔理沙。
「おはよう。お目覚めはどうかしら?」
「最悪だぜ! 普通に起こしてくれよ!」
「はいはい、今から朝食作るから顔洗って来てね」
「さらっと話を流すなよ……全く」
うーん、と背伸びをして顔を洗いに行く魔理沙。
「おっ菜香。おはようだぜ」
「は、はい。おはようございます」
さっきの悲鳴、魔理沙さんですよね……大丈夫なんでしょうか……。
結局聞くことは出来ず、通り過ぎてしまう次原。茶の間に戻ると、霊夢が朝食の準備をしていた。
「あのっ私も手伝います!」
「ああ、良いのよ。そこまで気を使わなくても」
「で、でも……」
「……それじゃあ、お魚を焼いてもらえるかしら?」
「! はい!」
満面の笑みで答える次原。場所を変わり、踏み台を置く。
「あら、その踏み台どこから見つけてきたの?」
「洗面所の隅の方に置いてあったので……もしかして、使ってはダメなものでしたか!?」
「いや別にいいんだけど……なんか懐かしく感じてね」
次原が使用している踏み台……霊夢がまだ幼いころに使用していたものだった。
まともに、料理ができるようになったのは……一人で料理をするようになってからのこと。
「おっ良い匂いがするなあ。魚か?」
「ええそうよ。もう少しで出来るから、座って待てて」
「わかったのぜえ……なんか二人を見てると、まるで姉妹だな」
「私にも、あなたみたいな妹がいたら良かったわ」
「……私、全然いい子ではありませんから……」
「そんなこと無いわよ。どっかの魔法使いとは大違いよ?」
「なんでこっちを見て話すんだ?」
今日の天気は、快晴である。
◇◇◇
霊夢たちは朝食を済ませた後、次原に幻想郷を案内することになった。
「なあ、パラレルワールドから来たんだったら、別に案内することもないんじゃないか?」
「いえ……パラレルワールドと言っても全てが同じとは限らないんです」
「実際、前に居た世界だと、博麗神社は別の場所にあるみたいなのよ」
「へーそっか」
薄い反応をする魔理沙。
考え事か興味が無いのか、空を眺めながら歩く。
「よそ見してると、危ないわよ」
「……今日は雲一つないんだな」
嵐の前の静けさとでも言うのだろうか、魔理沙は妙な風を感じていた。
「梅雨も明けたんじゃないかしら?」
「そうだな」
霊夢たちが初めに訪れた場所は――、
「ここが紅魔館ね。吸血鬼の屋敷よ」
「あの、門の前で眠っている方は……?」
「これでも、屋敷の門番なんだぜ? 笑っちゃうよな、アハハ」
美鈴に近づく魔理沙。
「あ、それ以上近づくと――」
「え? 何か言ったか……!」
「せいや!」
美鈴の一撃が、魔理沙の顔面ギリギリを横切る。
「だから言ったのに……」
「あのっ寝ているんです……よね?」
「そうよ。だからあれは無意識なのよ。ほんっと、恐ろしいわ」
美鈴の攻撃をひたすら避けまくる魔理沙。一瞬の隙もないため、逃げようにも逃げられない状況。
「おい霊夢! 助けてくれよ!」
「忠告を聞かないのが悪いんでしょ? さあ、次に行きましょう」
「ちょ、ちょっと!」
魔理沙を置いて、次の場所に足を運ぶ霊夢と次原。
妖怪の森、白玉楼と進み、次に向かった場所は……地底。
「なんか薄暗いですね……」
「大丈夫よ。妖怪とか半霊とかはいるけど、幽霊はいない……のかしら?」
随分曖昧な解答をする霊夢。
「さあ着いたわ、ここが地霊殿ね。まあぶっちゃけ紅魔館と変わりは無いから」
「そうなんですか?」
「ええ、ただ主がちょっとだけ、厄介なのよね」
「凄くお強いんですか?」
「うーん、強くはないけど、心を読んでくるのよ」
霊夢と次原は、屋敷の前で話が弾む。
「何か御用でしょうか?」
背後から声をかけられる。
「! 丁度良い所に」
「?」
「あれが家主の古明地さとり」
「あれって言わないでください……ところで、そちらの方は? 幻想郷では見ない方ですね」
「は、はい! えっと、その……」
「……大丈夫ですよ。別に私は怖い存在ではないですから」
「え?!」
「ほらね? すぐに心を読むのよ」
「本当だ……凄い」
不思議な感覚に浸る次原。
楽しいひと時を過ごす二人、まるで本当の姉妹の様だ。何事も無い日常が続けばいいのに……そう、普通の日常が。
「――! 危ない!」
「うわっ」
何かを感じ、とっさに次原を抱きかかえ空を飛ぶ。
次の瞬間、次原が居た場所に弾幕が飛んで来た。もしも気づくのが遅ければ、もろに食らっていたであろう。
「何か来るわ……しかも多くの気配を感じるわ」
「……まさか」
「? どうかしたの?」
「い、いえ。なんでもないです……」
「……」
次原の様を見たさとりは、何かを悟った。
「何か見えるわ、あれは……」
「おーい霊夢!」
「魔理沙!? それと……何よあれ」
魔理沙の背後には、夥しい数の生命体が一緒にこちらへと向かってくるではないか。
「あんた、何連れて来てるのよ!」
「話は後だ! 片づけるのを手伝ってくれ!」
「仕方ないわね……さとり、この子を預かって頂戴」
霊夢は地上に降り、次原をさとりに預ける。
「ちゃんと合わせなさいよ?」
「もちろんだぜ!」
ざっと数えても、百体はいるであろう生命体との戦いが始まった。
◇◇◇
相手の攻撃は、基本的に弾幕のみ。作戦的はこうだ。接近戦になる前に撃ち落とす。
霊夢が弾幕を放しながら、敵の懐に侵入。それをカバーするように、魔理沙が援護射撃をする。
「妖怪じゃなさそうね……でも」
ただ撃ち落とすだけではなく、相手の生態も確認する。しかし妙なことに、その姿は妖怪と言うより人間に近い。
「だとしても、おかしいわ。知性を感じられない……それに、これは鉄で出来た塊」
人間の体にして、おかしな点がいくつか見つかる。だが、妖怪でもなければ人間でもない。
しばらくもすれば、敵は一掃されていた。
「終わったみたいね」
「そうだな」
完全に動かなくなった生命体に、全員が近づく。
「魔理沙、どう思う?」
「どうって……あっ! あれに似てないか?」
「あれって?」
「前に一度、にとりに見せてもらったロボットだ」
「……言われてみれば、似てるかもだけど……これは人間の皮膚よ?」
謎の生命体に頭を抱える魔理沙と霊夢。しかし、解決の糸口は以外にも近くにあった。
「それなら、この子が知っているそうですよ」
「えっ」
「さっき、心を読みました。どうやら彼らは、この子を狙って来たようですね」
「……」
「後は、自分の口で話してください」
次原は大きく深呼吸をすると、盛大にむせる。一息ついてから、話を始める。
「私は、旅人なんかではありません。逃亡者なんです」
◇◇◇
私の生まれた故郷は、自然が豊かで、争い事の無い平和な村でした。
しかし、それは表の顔に過ぎませんでした。裏では日々争い、醜いことばかり。
物心がつく頃には、私も挫折し人の道を踏み外しました。
ですが、そんな自分に嫌気がさし、なんとか元の自分に戻ることが出来たのです。それからは、争い事があると止めに入り、裏の存在しない世界を作るため、仲間と活動を始めました。
最初は効果がほとんどありませんでした。けれど、積み重ねるうちに、効果が上がり徐々に平和な村を取り戻し始めました。
平和な日常が、これから先……未来へと受け継がれると、そう思っていました。あの日までは。
「菜香、起きなさい!」
夜中、母に起こされました。
「どうしたの? そんなに慌てて……」
「今すぐ、ここら逃げるのよ! 早く来て!」
ただ事ではないと、感じました。母に連れられ、外に出るとそこには――、
「なに、これ……」
自然豊かだった村は、辺り一面が火の海に変わり果てていた。
建物は崩壊し、草木は萌え、辺りには夥しい数の――が転がっている状態。
私は足が竦み、その場から一歩も動けませんでした。
「お父さんは?」
ふと、父の事が頭をよぎったのです。
「……」
母は何も答えず、ただ私を見つめるだけ。
「……嘘」
もう、何も考えられない。頭が真っ白になった瞬間だった。
悲鳴と叫び声、助けを求めるが、誰も彼を見る事すらしなかった。
「菜香、菜香! しっかりしなさい!」
母が私にビンタをしようとしたのだろう。母はいきなり、私の体にぐったりと倒れた。
「おかあ、さん?」
背中には刃物の様なものが、母に刺さっていた。
「嫌だよ。嫌だよ、お母さん!」
「……」
「ねえ、お母さん! 私を一人にしないで!」
「……菜香」
「お母さん!?」
「あなたは……少し、変わった子だったわ」
母は最後の力を振り絞り、話を始めました。
「痛みを感じても……悲しい時も……寂しい時も」
「何言ってるの?」
「絶対に……泣くことはなかったわ」
「分からないよ……お母さん」
「だからね……辛い時、悲しい時……嬉しい時……」
「なに……?」
「最後くらい……泣こうよ、菜香」
母はその言葉を最後に、完全に動かなくなった。
「やめてよ……お母さん」
母を抱く私の前に、誰かが近づいてくる音がした。
「だれ」
「実に素晴らしい。感動したよ」
その人物は私に拍手をしていました。
「やめて……やめてよ!」
私は母に刺さっていた刃物を取り、霧に浮かぶ影を目掛けて、投げた。
「物騒だね? 物騒だな? あぶねえよ?」
「近づかないで」
「何々? 恨みでもあるの? 妬んでいるの?」
「……」
「答えてよ、ここはそういう村だったんでしょ?」
「……」
「何とか言えよ!」
「!」
その人物が大声あげると、私は後ろに引き寄せられました。
「チッ! 能力に目覚めたか……それとも……クハハ!」
◇◇◇
「それ以来、私はこの能力を使い、あいつの追ってから逃げているんです」
「マジかよ……」
「このサイボーグは、村を襲った時に見かけました。あいつは人間をサイボーグ……機械と人間を融合させているんです」
「じゃあ、このサイボーグは生きているの?」
「分かりません……」
「生きてます」
声を名乗り上げたのは、さとりだった。
「どういうこと?」
「この機械には心があります。つまり、半分は生きている人間と言う事です」
「でも、元に戻す方法なんて……なあ霊夢?」
「……」
「霊夢?」
「居るじゃない、頼りになる大魔法使いがっ」
◇◇◇
場所は変わって、紅魔館……。
「あのね、魔法にも出来ることと出来ないことがあるのよっ!」
「そうだぜ霊夢」
「魔理沙、あんたはこっち側でしょ」
「はあ、とりあえずやれることはやってみるけど……」
ため息意をつきながらも、依頼を引き受けるパチェリー。
「あら? その子が噂の、運命に逆らたって言う子かしら?」
霊夢たちのもとに現れたのは、紅魔館の主、レミリアだった。
「レミリア……と咲夜ね」
「ご無沙汰しております」
軽くお辞儀をする咲夜。
「お祭り以来かしら? 霊夢?」
「あー、そうだったかしら?」
気まずい様子の霊夢。それもそのはず、以前起きた異変の黒幕は隣にいる魔理沙。結界を張ったのも、霊夢の知り合いでもある。
「霊夢、あなたに一つだけ助言よ」
「助言?」
「あの子は――のよ」
そう言うと、レミリアはその場を去ってしまった。
◇◇◇
「もう行っちゃうのね」
「はい、これ以上ご迷惑をおかけするわけには、いきませんので」
次原の表情は切なく、申し訳ない気持ちであふれかえっていた。
自分が追われている立場のせいで、関わる人を犠牲にはできない。居場所もバレてしまった以上、もうこの世界には居られないのだ。それが次原の出した決断。
「もう会えないと思うと、寂しくなるぜ……」
「短い時間でしたが、とても楽しかったです。私の中の、空白だった時間を埋められた感じがしました」
「菜香……。ずっと居ても良いのよ? 何かあれば、私たちがあなたを守るわ」
「いいえ。その気持ちだけで、とても嬉しいですっ」
涙を浮かばせ、笑って答えた。
「他の世界でも、私を頼って頂戴。必ず、あなたの力になるから」
「霊夢じゃなくて、魔理沙ちゃんを頼ってもいいんだぜ? 霊夢より話が通じるからな」
「あら? 魔理沙の方が鈍いと思うんだけどー?」
「私を馬鹿にしてるのか? 喧嘩なら買ってやっても良いんだぜ?」
最後の最後まで、締まらない霊夢と魔理沙。
そんな二人を見て、笑いだす次原。
「ごめんなさい。最初にあった時のことを思い出してしまってっ」
「そういえば、あの時も喧嘩してたな」
「魔理沙が照れを見せた時は、可愛かったわね」
「ちょ、なんで毎回私を茶化すだ、お前は!」
「面白ければ良いじゃない」
これが、博麗霊夢と霧雨魔理沙。誰よりも強く、誰よりも強い絆で結ばれている二人……。本当に、最強の二人、なんですね。
「では、そろそろ行きますね」
次原は次元の歪みを出現させる。
「元気でなっ!」
「体には気をつけるのよ」
「はい、ありがとうございます」
深くお辞儀をすると、彼女は次元の狭間へと姿を消してしまった。
「本当に行ったみたいだな」
「ええ、そうね……さてと。掃除でもしようかしら」
霊夢は大きく背伸びをする。
「私はウチに戻って、封倫の様子を見てくるとするか」
「あんたね、いい加減謝罪って言う言葉を――」
「よいっしょー!」
話をしている最中、誰かの声と共に、霊夢の背中へとダイブした者がいた。
その反動で、前に倒れる霊夢。
「おいおい、大丈夫か?」
「いてて……全く誰よ! いきなり飛びかかって来て……」
「――初めまして!」
霊夢と魔理沙が声の主の姿を、完全に目視すると、驚きの光景があった。
「ああ、今どきますね……」
「なあ……霊夢?」
「言わなくても分かってるわよ」
口調は違えど、特徴的な赤い瞳に、青髪のショートヘアー。
「これも運命なのかしら?」
ふと、レミリアが言っていた言葉を思い出す。
「では、自己紹介を……私は、次原菜香と申します! 次元を旅する……いわゆる、ディメンショントラベラーです!」
To Be Continued?
ドタバタコメディからのシリアスへ移っていく流れが素晴らしかったです