Coolier - 新生・東方創想話

うどん屋

2022/07/22 02:21:36
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 人を無条件に信用できる人間と、なかなか信用できない人間。どちらがより優れているのだろうか。ある者は二元論では語れないというだろうが、白黒つけたくなるのが人間という生き物である。私は後者だ。いくら笑顔で手を差し伸べてきたとて、直ぐには信用できないのが私の性分なのだ。
 
 失敗した。今行っている研究に多大な予算を割いた私は今日の夕餉に困る有様だった。どうぞ笑ってくれ。家の周りを暫し探索したのだが、こんな日に限って茸一つ生えていない。仕方なく私は、人里で日銭を稼ぐあてを探すことにした。しかし、困ったことに日雇いで数時間の仕事などまるで皆無だった。途方に暮れ、もう何もかもどうでもよくなって人里を徘徊していた。
「あら、魔理沙じゃないの。珍しいわね、こんなところで会うなんて」
 随分と都合よく人ごみの中から博麗の巫女がやってきた。持っている大幣を見る限り、仕事帰りのようだ。
「よう。お仕事お疲れさん」
「随分と浮かない顔してるわ。どうしたの」
「やっぱりお前にはばれるか。ばれたのなら仕方ない、夕飯奢ってくれないか。昨日から何も食べてないんだ」
「魔理沙が私に頼るだなんて今日は雪が降るのかしら。まあいいわ。それだけ切羽詰まってるんでしょ」
「恩に着る。持つべきものは友だな」
「また都合のいいことを。何が食べたいの」
「そうだな。今日は幾分冷える。何か温まるものが食べたい」
「じゃあそこのうどん屋なんてどうかしら。優しいおばあちゃんが旦那さんの後を引き継いでやってるの。安くて美味しいわよ」
「いいなそこ、食べてみたい。というか正直どこでもいいから空腹を満たしたい。もう限界だぜ」
 私の胃袋はプルトニウム臨界点寸前だった。
「正直ね。じゃあ食べに行きましょうか」
 こうしてヨハネにでも手を差し伸べられた私は、素直に手を握ることにしたのだった。

 その店はさっきいた茶屋の一本先の通りにあった。店内はこじんまりとした雰囲気でそれほど広くない。しかし、腰を据えて食事をとるには丁度よい居心地のよさがあった。
「あらま霊夢ちゃん。いらっしゃい。お連れさんはいつも話してる魔法使いちゃんかい?」
「そうよ。もうぺこぺこらしいからあれ、頼むわ」
「あいよ。私の懐を潤してくれるお客はいつでも歓迎さ」
 愛想と血色のよい、このお婆さんが店主のようだ。
「ちょいと待っておくれよ」
 暫しの沈黙と、麺を茹でる音だけが僅かに反響する。私は心持ち小さい声で霊夢に話しかける。
「ここの店主とは長いのか」
 とうの先ほどからだが、人と喋るのが久しすぎて、うまく言の葉が出てこない。
「かれこれ五年ほどの付き合いかしら。そうね.....今のあなたみたいな気分のときによく訪れるわ」
  そうだ。いつもこの鋭利な巫女にはすべてお見通しなのだ。私は幼き自分の過ちを思い出しひとり苦笑した。

「おまたせ。伸びないうちにお召し上がり」
「ありがとう」
「「いただきます」」
 これぞ黄泉の国といったような黄金色のスウプに純白の幅広麺が。湯気が立ち昇っているのだ。そのうどんを一口食べた。
 瞬間、私は霊夢の掌底を食らったかのようだった。容易に噛み切れる上、腰に富んだ麺、鰹だろうか――深くくさみのないスウプ。油分はまるでないはずなのに、なぜこんなに丸い味がするんだろう。それだけこの女将のうどんは美味しかった。
「ね」
 もはや彼女との間に会話は不要だった。私は一心不乱に女将のうどんを啜った......また女将のつけてくれた酒が旨いのなんの。しじみの旨味を集ギュッと集めて香草をそっと添えたような。加えて喉越しもよい。スウプを飲み終える頃には、私の胃袋は大満足だった。
「そういえば、 最近魔法の森の瘴気が強くなったと聞いたけど。大丈夫なの?」
 霊夢が珍しく人の心配をしている。いや、させてるのか。どうにも気後れしてしまう。
「問題ない。私をだれだと思ってるんだ。対策済みさ」
「そう。よかった」
 沈黙が訪れる。決して気不味い雰囲気ではない。心地の良い沈黙だ。

「なぁ。里でお前があの男と結婚するんじゃないかとか言われてるが、本当のところどうなんだ」
「そんな訳ないじゃない。私は巫女よ。少なくともあと……五年はどうこうする気はないわ」
「啖呵切った割には弱気だな。やっぱりいい人でもいるんじゃないのか」
「おっさんみたいなこと言わないでくれない。気持ち悪い。」
「はは。悪かったな」
――少女晩酌中

「なあ霊夢、私は生きてていいと思うか。生まれてこの方、あまたの人を裏切った。その善意をコケにしてきた。でもここ数年で霧雨魔理沙は善人に転向したらしいんだ。それにあの頃何を追い求めていたのか分からない」
「そんなこと、私が知るわけないでしょう?だいいち魔理沙が居ないと、咲夜と早苗と薫子しかまともに話せる人間が居ないじゃない。そんなのはごめんよ」
 霊夢のいつも赤い頬はもっと赤くて。ただの少女に見えた。このときばかりは彼女が自分に近いところまで堕ちた気がして、嬉しかった。
「ご馳走。また来るぜ」
「はい、まいど」
 
 帰る頃には二人とも足元覚束なくて。生温い風が薫って、夏だなぁと思った。
先日、振られた友人と男二人で夏祭りの花火を見て飲みました。
語るべくもなき小市民
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コメント



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2.90東ノ目削除
少しセンチメンタルな二人が印象的でした
3.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
4.100名前が無い程度の能力削除
うどんおいしいですよね
5.80めそふ削除
魔理沙の心中の吐露以外は好きです。ぶっちゃけ後書きも好きです。
6.90Actadust削除
センチメンタルに迷う魔理沙とぶっきらぼうに答える霊夢の関係が良かったです。
7.100南条削除
面白かったです
困窮して弱々しくなってる魔理沙がかわいらしかったです
あとうどんが食べたくなりました