いつもの事だ。
この視線は。
「……あぁ、ハクレイかい」
「来た……来たよ……“怪物”が……」
「何しに来たんだ?お前に売るものは無いよ!出ていきな!」
八百屋の男が立ち上がり近くにあったちりとりを投げつける。
ガン!とレイムの頭に激しい音がし、ぶつかる。
左の額が切れてしまった様だ。たらりと血が出てくるが無表情で歩いていく。
私は“怪物”と呼ばれている。
人間の姿をしているが異能の力が使える。
人外のもの……妖達とやり合える。弾幕ごっこはヒトにとっては恐怖の対象でしか無いみたいだ。
博麗神社では博麗の巫女でも、里に行くだけで迫害の対処になるのだ。あっという間にボロボロ血塗れだ。
本当は里になんて行きたくない。
しかし博麗の巫女の業務の中に里の見回りがある。妖達の手からヒトを守らねばならない。
しかし、ヒトたちは理解が無いのだ。
私は“やらなければならない使命”だからこんなことをやっている。
博麗の巫女が大結界を維持し続けなければならない。
ふらふらする視線で周りを見渡す。
何もいないことを確認すると飛んで博麗神社に戻った。
境内の掃除をしよう。木の葉が落ちているはずだ。
箒を取りに行き掃除を始めようとした時。
耳鳴りが鳴った。
きぃぃん。
後ろに気配がする。
「なあ、お前どこ行くんだ?」
後ろから知らない声が聞こえた。私は後ろを振り返って言った。
「どこにも……どこにも行けやしないわ」
表情を動かさずに言った。前にいる人の顔が引き攣っている。
「なにいってるんだ……?」
「なんの事かしら?」
「お前、嘘つい……る……な………」
ああ、頭がガンガン揺らされている。声が聞こえない。
痛すぎて頭を抱え蹲ってしまう。
思わず目を閉じた。暗闇が広がる。
目を開けるといつもの神社の境内。
目の前には誰もいなかった。
「ああ……またか」
最近よく白昼夢を見る。
誰かよくわからない人が訪ねてくる夢。いつの間にか私に声をかけて来る人。金髪に魔女服。金の瞳が私を見据えてくる。
そんな人、私は知らないのに。
「境内の掃除……しなくちゃ……」
ひとりごとが境内に響く。
誰も参拝しにこない神社に一人、ハクレイレイムは閉じ込められている。
「ん?私何してたっけ」
ハッと目の前が鮮明になる。魔理沙はキョロキョロと辺りを見回した。
誰かの元に行こうとしたんだ。……誰だっけ?
博麗神社の境内の中に突っ立っている。
誰にも手入れがされていない中は木の葉だらけで建物もあと数年で壊れそうな雰囲気が漂っている。
今の博麗神社には巫女は居ない。先代の巫女が寿命でなくなってから跡継ぎがいなくて潰れた神社。狛犬まで逃げ出してしまった。
今や幻想郷にあとから入ってきた守矢神社が主な神社として台頭してしまっている。
そんな古い神社に行く理由などない。しかし足を運んでいるの事実だ。
……最近、勝手に博麗神社に足が向かってしまっていることがある。
ここには何も無いはずなのに、誰もいないのに、誰かがここにいるように思えて仕方ないのだ。いつの間にか意識がない状態で境内に突っ立っていることがあるのだ。
なぜ?ここに誰かがいるような気がするのだ。
私には関係が無いはずなのに。
持っていた箒をしっかり握って、博麗神社を後にする。
鳥居をくぐると何がゴウ、と後ろから風が吹き、帽子が風に煽られて飛んでいく。
後ろを振り返った鳥居の中に何かがいたような気がした。
霊夢が里で避けられているというままならない感じがよかったです
ゴツイ話でした