Coolier - 新生・東方創想話

時よ、恋にとどめて 上

2022/04/24 21:00:00
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「なぁ、こーりん」

「なんだい魔理沙」

「私たちさ、昔っから一緒だったよな」

「ああ」

〜恥ずかしいし長いので中略〜

「それでさ、その...伝えたい事がさ、あるんだ...」

「うん?」

「わ、わっ...私...と.......」

「ふむ」

「つ、つ、つきあってくださいっ」

「あー...ごめん」

「え?」

「いや、そういう風に見た事なかったし...うん。」

「......え?」



 外の世界では、科学が世の理だという。幻想郷も河童どものせい(おかげというとでも?冗談じゃない!)でだいぶ、近代化?とやらが進んでいるらしい。
電気とかいう新しい光が導入されたので夜も明るいし、火はかまどがいらないし、水は取っ手をひねるだけだ。
おまけにテレビゲームなる新しい遊戯が人里で大流行し、私たちの本職こと異変解決(要するに決闘だ)の人気もなんだか廃れてきた。
そう考えると、自分の魔法というものがますますチンケに思えてくる。

 そして一番ムカつくのが、恋愛関係はちっとも発展しないってことだ。むしろ後退した。
なーにが「つきあってください」だ。くそっ、河童連中め。こういうことだけ私の代わりにやってくれりゃ良いんだよ。

 人里を歩く私を物珍しそうに子供達が見てくる。...小学生か。先頭に先生がいるしな。
まあ、目立つのも無理はない。人里...というか街を行き交う人間どもはみんな洋服を着てる。
でも、いーじゃんか。魔女服だって。洋服ではあるだろ。
すれ違うと、彼らの話が聞こえてくる。

「帽子だー」
てめーの先生も帽子かぶってるだろうが。

「箒だー」
まあ...こればっかりは仕方ない。

「せんせー、あの人魔女のコスプレしてるよー」

「本職だ!」

振り返って叫ぶと、ビビり散らかしてる子供らより先に教師と目があった。

「すみません、って魔理沙...久しぶりだな」
先生...慧音がこちらを見てくる。
その「今気付きました」というような言い方をやめろ。てめーの生徒も私の話してただろーが。最初から気づいてたんだろ。無視したんだろ。
なんて、流石に小学生の前では言えなかった。だってほら、ダサいじゃんか。魔女はクールなのがお決まりなんだから。

「......」
なんも言えなかったよ。言えるかよ。ああ、相手も黙り込んじまった。

「にらめっこだーー!」
ちげーよ、と怒鳴るのはやめた。子供相手に何度も怒鳴るのもかわいそうだ。
良いだろう。やってやるよ、にらめっこ。私苦手なんだけどな。

 久しぶりに会ったけど、懐かしいって感じがあまりしない。
言葉以上にロングだったスカートはタイトに変わって、タイツが見えている。
上はシャツの上に紺のスーツ。前の下着が見えるんじゃないかってくらい胸元が開いた服はどこにやったんだろう。

「なあ。」
ふっと声をかけられて、私は顔を見つめ直す。
そこでやっと気付いた。そうか、私の負けだ。

「......なんだよ。」

「後でお茶しないか?」


 待ち合わせの茶屋...もとい「カフェ」に来た。近代文化ってのはなんでもカタカナにしたがるらしい。
適当に二人席を見繕って座るが、誰も一向に注文を聞きにこない。
仕方ないので、ひたすら箒の邪魔にならない置き方を考えていた。


五十に迫る失敗の後、ついに完璧に箒を椅子に立てかけたころ、あいつはやってきた。
「やあ。待ったか?」
慧音が席を引いて荷物を置くと、私の箒がずり落ちる。鹿威しみたいな音がした。
非難の目線を教師に向けると、「帰りの会に時間が掛かってしまってな」と見当違いの謝罪をしてきた。
時間なんていいんだ。まだ日が沈むまでにはしばらくかかるだろうし、そんなものいくらでもある。

「まあ、何も頼まないのも何だ、ついてきてくれ。私が奢るよ。」
現金なんぞ今はほとんど持っていない。せっかくなのでお言葉に甘えるとする

さっきの生徒達みたいに慧音の背中について行くと、人の列の最後尾についた。
「なるほど、行って頼まないといけないのか。便利になってるのか不便になったのか分からないな」

「まあ、一理あるかもしれない。」

しばし無言。もっとも、列が意外と早く進んだので、命に関わる程の退屈はしなかった。

ついに勘定台が見えてきた。
「あそこで注文するんだな?」

「そうだ。カウンターと言うんだぞ」

「ああ、決闘でよくされてたやつのことか?」

「それはcounter attack(反撃)だろう?私が言ったのはcounter(売り台)のことだよ」

「ややこしいな。文明開化の副作用か」

「違いないな」

話もちょうど終わって、店員が注文を訊いてくる。

「私はエスプレッソアフォガートとニューヨークチーズケーキで。魔理沙は..」
呪文かなんかかよ。魔法使いは私なのに。

ーー抹茶と羊羹。...なに?...無い?冗談だろ?本当にここは日本かよ。

「えーと、じゃあ抹茶ティーラテとチョコレートフルケーキでお願いします。」
慧音、代わりに注文してくれるのはありがたいんだが、変なもの出てこないだろうな?

とりあえず席に逃げ帰ってきた。目の前には寺子屋...じゃなくて小学校教師がニコニコしている。

「それにしても、かなり久しぶりだな」

「まあな。当分引き篭もってたからさ」

「それじゃあ、どうして出てきたんだ?」

「...何となくだ」

「嘘だな」

「嘘じゃあないさ」
絶対言われると分かってたから、すぐに答えられた。

「目線が右にいってるぞ。嘘を想像する時は右脳が活発になるから右に視線がいくのさ。」

「そうかよ。科学にはうんざりだ。」

「これは心理学だよ、魔理沙。よかったら個人指導でもしようか?」
...ホントにうんざりだよ、ちくしょう。ああ、喉が乾いた。


「知るかよ。私はパワーが全てなんだから。...そう言えば、慧音もずいぶん変わったな。」

「私か? そうかな...。まあ、服は大分変わったのは確かだよ。前までのだと駄目だと言われてしまってさ...」
はは、と小さく笑った彼女にちょっとだけイライラした。あれだ。事が自分の思い通りに行かなかった時の苛立ちだ。

注文が運ばれてきた。慧音は白い泡のかかった珈琲と黄色いケーキだ。
私の方は...抹茶?とりあえず緑の液体だ。あと黒いケーキ。多分チョコレートだろう。そんくらい分かるよ。馬鹿にすんな。

「それが問題なんだよ。みんな一緒なんてつまんないじゃんか。新しければいいってもんでもないと思うんだけどな」

「新しい、という訳ではないんだよ、魔理沙。そうして、いい悪いと決めるのも簡単ではないんだ。私が言いたいことがわかるか?」

「...てめーの考えてる事が分かった試しなんて一度もねーよ、難しすぎるんだ」

「幻想郷に来るのは、外の世界で忘れられ、廃れた物や事だ。だが、それは必ずしも一方通行とは限らない。思い出されれば...」

「...つまり、何か?外の世界では自由が大事にされていますから、こっちはお古の技術で我慢しろってことか?」

「昔は昔、今は今だ。これでも、私は”元”歴史の教員だぞ?こういった経験は人一倍しているつもりだ」

今すぐその台詞の“元”とかいうのを取り除いて欲しかった。

寂しいような、諭すような顔をして足を組む慧音。でも、タイトスカートのせいで上手くできていない。
すぐに足を戻して、彼女はコーヒーに口をつけた。

鼻をすすりそうになったので、私も緑色の液体にストローをブッ刺して力任せに吸い上げる。
口に入ってきた液体は甘くて、ちょっと渋くて、私の目頭よりは冷えていた。

「.........失恋した。」

「...すまん、もう一度言ってくれ」

「......ハートブレイクだよ」

ああ、なるほど、と頷かれた。英語の勉強、ちょっとだけやってみようかな。

うーむ...なんて考え込み始めたので、ケーキに手をつける。

思ったほどは甘くない。俗に言うオトナの味だ。

「imagine...」
コーヒーの泡が付いた口が開かれる。
よく聞こえなかったが、多分「相手は誰?」とかじゃないだろう。

「ん?」

「imagine yourself. (本当の自分を心描け)」

イメチェン...?
それがイメージチェンジの略なのは知ってはいるが、どう言うことだろう。ユアセルフは私の事だよな。服を変えろってことか?それとも髪型?

自分の魔女服を見直す。黒い。あと白い。...喪服みたいだ。

「お前の言う通りかもな、見直してみるよ」

「それでいい。今は辛いかもしれんが、いずれ良くなるよ。時間ならたっぷりあるだろう?」
慧音のカップはすでに空だった。ケーキもおそらく全て腹の中に入った様だ。 ほら、タルト生地の破片が頬に付いている。
私もチョコレートケーキの残りを丸ごと口に運び(そこまで大きい訳でもないから余裕だ)、透明なカップを手に取り、中の液体を胃に直行させた。

「本当に少しだが、まあ、世話になったよ。またな。」
店の床に寝そべったままだった箒を手に取り、私は別れの挨拶を始める。

「ああ。......正直、話してくれると思ってなかったから、来てくれて嬉しかったよ。」

「そうかい、よかったな」

「また来るといい。次は授業の見学でもさせてやろう」

「英語はもう勘弁だよ......じゃあな」

「ああ」
私は帽子の片端を指先で摘んでクイッと下げた。

後ろでは多分慧音が手を振ってるだろう。でも振り返りはしない。私は片手を軽く肩の上で振った。
だってほら、魔女はクールってのがお決まりだから。

空がじんわりと赤くなっていくのが分かった。影が長くなってきて、帽子の中がことさら黒に覆われていた。
その布地に夜空が映った気がして、頬が濡れる前に私はまた歩き出した。
いかがだったでしょうか。ちょっとセンチメンタルで、乙女チックな魔理ちゃんを意識して書いてみました。気に入っていただけたら幸いです。
ながさめ
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コメント



0.140簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
東方のキャラクターや、世界観を借りてるって事を忘れてるなってなりました。
5.90名前が無い程度の能力削除
失恋からどう立ち直っていくのか、良かったです。
6.50名前が無い程度の能力削除
キャラのイメージをもう少し大切にしましょう
7.100南条削除
面白かったです
みんなこうして変わっていくんだなと思いました
8.70名前が無い程度の能力削除
後編に期待してます。
9.無評価夏後冬前削除
乙女でセンチメンタルってよりかはロックでハードボイルドな感じがあったなって思いましたけど僕はそこが好きでした。たぶん僕らが知ってる幻想郷よりもずっと時間の経った幻想郷を描いてると思うので、その辺が判るところくらいまではまとめて出してほしかったなって、そこがちょっと惜しかったなって思いました。
点数は完結したら入れますので続き頑張ってください。