Coolier - 新生・東方創想話

アイボリー・フューチャータイム

2022/01/13 00:33:16
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 年の瀬も近い博麗神社。神社の素敵な巫女さんであるところの博麗霊夢が大掃除に勤しんでいると、脳天気な声が境内に響いた。
「こんにちはー!」
「なんて格好してるのよあんた」
 守矢神社の風祝である東風谷早苗が、びっくりするほど厚着をして立っていたのだ。面倒な来客が呆れるような格好をしていて、霊夢は大きくため息をついた。
「ウチの神社は寒いんですよう。こっちは比較的暖かいですけど寒いです・・・・・・」
「こっちに来てどれだけ経つのよ。ああもう、見てるだけで暑苦しい」
 コートと毛糸の帽子とマフラーを剥ぎ取れば、漸くいつもの早苗になった。それでも手袋をしているし、足下はごっついブーツを履いている。寒い寒いと震える早苗を母屋に引っ張ると、はたきを握らせた。
「えっとこれは?」
「大掃除の最中に来たって事はウチを手伝ってくれるって事よね。じゃあ干してる布団叩きは任せたから」
「ええー!?」
 早苗の上着を綺麗に畳んで縁側に置くと、霊夢は床の掃除にかかる。畳に濡らした古新聞を敷き、それを剥がして乾拭きする。そうして母屋の掃除をしていると、早苗から声がかかった。
「霊夢さーん、寒いので上着を返してくださいー!」
「毛玉が着いてるからそれ落としてからね」
「そんなの自分の家でしますよー! 寒いですー!」
「動いてりゃそのうち暖かくなるわよ。ほら手を動かす」
「えーん!」
 早苗の泣き言など知ったことではない。まだまだ掃除するところは残っているのだ。あうんは納屋を任せており、萃香や妖精達はまるで役に立たないので期待していない。こういう日に限って華仙も魔理沙も誰も来ないのだ。いつもは呼んでもないのに来るくせにと、文句をこぼしながら霊夢は掃除を続けた。

「はあーっ、寒かったー!」
「お疲れ様。あんたの上着の毛玉も落としといたわよ」
「ありがとうございます・・・・・・って、霊夢さんは何を?」
「服の仕分け。来てない古すぎるのは捨てるし、着物とかは虫干しするから分けてるの」
「へえ~・・・・・・ん?」
 積まれた服の山の中に、明らかに一つ光沢を放つ服がある。何だろうと手を伸ばしかけると、霊夢に止められた。
「触っちゃ駄目」
「ええー? 良いじゃないですか」
「下手な扱い出来ないのよ。白無垢だから」
「ああー成る程白無垢ですか・・・・・・白無垢ぅ!?」
 耳元で大声で叫ばれ、思わず耳を塞ぐ。仕舞い込もうとして、早苗に手を握りしめられた。
「結婚するんですか!」
「しない。虫干し用」
「着てみて良いですか!」
「はっ倒すわよ。こういうのは家に伝わるものだからあんたが着るものじゃないの」
「結婚と聞いて!」
「呼んでないわよ文屋!」
 どこから話を聞きつけたのか、射命丸文が勢いよく現れた。が、白無垢に目をやるとがっかりと肩を落とす。
「なあんだ、いつもの白無垢じゃないですか」
「いつものって、文さんは知ってるんですか?」
「そりゃあもう。定期的に干してるので、それで月の巡りが分かります」
「そんなハイペースで?」
「絹だからね。ちゃんと保たせるのは大変なのよ」
「はー、成る程。そうだ霊夢さん、振り袖って持ってませんか?」
「無いわね」
「無いんですか!?」
「霊夢さんのお着替え事情って面白くないんですよねえ。基本いつもの服しかないですし、着替えを撮ろうにも陰陽玉がどこからか飛んできますし」
 それは文が悪いのではないか、と早苗は内心で思ったが口には出さなかった。そして自分の着替えにも気を配ろうと固く誓い、霊夢に問いかける。
「じゃあ霊夢さん。私振り袖着て初詣に来ますから白無垢でお出迎えしてください」
「バカじゃないの? と言うかあんたの神社だって忙しいじゃないの」
「どうせみんな初詣なんてそこそこに宴会でバカ騒ぎするので大丈夫です」
「悔しいけど否定出来ないですねそれ・・・・・・」
 文も同意している辺り、本当にその辺は大丈夫なようだ。かといって、本当に白無垢で出迎えるのはアホらしい。なので
「どうあっても白無垢は着ないわよ。それこそ結婚でもしない限りは」
「つまりは私が霊夢さんと結婚すれば白無垢を!?」
「いやいやそこは私が」
「何であんた達が立候補するのよ。いやだから着ないからね?」
「霊夢さんの白無垢みたい人ー! はーい!」
「はーい!」
『はーい!』
「どっから湧いたあんた達!」
いつの間にか神社には、萃香に光の三妖精にクラウンピースと魔理沙と華仙が来ていた。しかも全員霊夢の白無垢姿を見る気満々である。
「着付けなら私が出来ますよ?」
「いや華仙、なんであんたまで・・・・・・」
「はい霊夢の白無垢見ーたーいー!」
『見ーたーいー! 見ーたーいー!』
「あああああもう! うっさい! 全員帰れ!」
 霊夢の怒りの咆哮にもまるで動じず、見たいコールは収まらない。特大のため息をついてうなだれると、霊夢はぼそっと呟いた。
「・・・・・・着るわよ」
「えっ?」
「着るって言ってんの!」
 その場で思わず全員拍手喝采。博麗霊夢陥落の瞬間であった。
「その代わり! 全員今日と正月当日賽銭入れて行きなさい」
 一転してブーイングの嵐。それを気にもとめず霊夢は続ける。
「良いのよ、嫌なら入れなくて。その代わり私は白無垢を着ないだけ。簡単な話じゃない?」
 素晴らしい笑顔で霊夢は告げる。一同はうめき声を上げるが、諦めたように賽銭箱に向かった。それを見た霊夢は引き気味に声を上げる。
「えっ、そんなに私の白無垢見たいの・・・・・・?」
『見たい!』
 異口同音に力強く告げられ、もう観念するしかなかった。ちゃりん、ちゃりんと博麗神社らしからぬ沢山の小銭の音が鳴り響いていたが、どうにも霊夢は喜べずにはいられなかったのだった。

「ホントに、着ないといけないのかしら」
 全員帰った後の博麗神社にて、霊夢は一人白無垢を前に複雑な気持ちでいた。勢いでああ言ってしまった手前着ないといけないのだが、どうにも気が進まない。
「こんなもの・・・・・・」
 自分で持っておくのも面倒で一度処分をしかけたのだが、八雲紫と森近霖之助から大層怒られたことがあるのだ。確かに絹の管理が大変なのは分かるが、それを捨てるなんてとんでもないと、たっぷりお説教を食らったのである。あの温厚な霖之助でさえ呆れて説教をしていたのだから、相当なことなのだろう。しかしやっぱり霊夢は目の前の白無垢に興味や関心が湧かないのであった。
「相手なんていないし、そもそも結婚とかわかんないし」
 はあ、と一人ため息をつく。ぼんやりしていると、高麗野あうんが戻ってきた。
「ただいまー! 納屋の掃除疲れましたー!」
「おかえり。お風呂沸かしとくから手洗って服洗濯に出しちゃいなさいな」
「はーい! あれ、霊夢さんそれは?」
「ああ、気にしなくて良いのよ」
 戸棚に振り袖を仕舞いこむと、あうんに静かに笑いかける。
「ええほんとに。気にしなくて良いの」

「と言うわけで振り袖を着たいのですけどどこに仕舞いましたっけ!」
「三段目の引き出し左奥。ちゃんと管理してるから綺麗なはずだよ」
「流石ですありがとうございます神奈子様!」
 所変わって守矢神社。博麗神社より帰還した早苗は早速振り袖を出そうとしていたが、洩矢諏訪子に止められた。
「待ちなよ早苗。あんたが振り袖着るのは良いんだけどさ、着いてきてる奴の説明をしておくれよ」
「着いてきている奴?」
 振り返れば魔理沙がいる。よっ、と手を上げられて、早苗は訝しんだ。
「魔理沙さん。ウチに何か用ですか?」
「いや、私も振り袖着ようと思ってな」
「魔理沙さんも!? 良いですね、私も魔理沙さんの振り袖見たい!」
「食いついてくれてるところ悪いんだが、私は振り袖を持って無くてな」
 それを聞いて早苗はああ、と頷いた。魔理沙は家を出ているので、そう言った高価なものは持ち合わせていないのだろう。実家にあったとしてもサイズが合わないかも知れない。しかしそれで何故守矢神社に来たのか。納得はしたものの首をかしげた。
「だから振り袖余ってたら借りていこうと思って」
「諏訪子」
「あいよ、珍しく気が合うね」
 神奈子がオンバシラを構え、諏訪子がどす黒いオーラを放つ。剣呑な様子に先に魔理沙の方が白旗を揚げた。
「うん、すまん。でも他に私に合う着物がありそうな所が思いつかなくてな」
「阿求さんところはちょっとちっちゃいですし・・・・・・幽々子さんや輝夜さんのところはちょっと大きいですかね・・・・・・」
「特に幽々子の所はな。胸が合わん」
「ああ確かに・・・・・・私より大きいですから」
「お前も巨乳だって事忘れてたぜ。もげちまえ」
「チチをもげとかなっつかしい!」
 やいのやいの言っていると、オンバシラを片付けて戻ってきた神奈子がぼそっと呟いた。
「合うやつがないなら作っちまえば良いじゃないか」
「あー・・・・・・アリスか? 確かに年末暇してるみたいだし、あいつの着る分も作らせれば文句言いながらも作ってくれるだろ」
「そうと決まれば即行動ですね! ちょっと行ってきます!」
「もう遅いから明日にしなさい」
 神奈子に首根っこを掴まれ、早苗は渋々従った。結局明日アリスの家前に待ち合わせすることにして、魔理沙は帰っていった。
 そして翌日。アリスの家を訪れた二人は、早速事情をアリスに話し、依頼を投げる。魔理沙の予想通り文句を言いながらも引き受けてくれたが、作るに当たっていくつか条件を出された。
「二着作るとなるとそれなりに手間がかかるから、私並みに裁縫の出来るのを一人連れてくること。それと私は着物に詳しくないからそれなりに知識のあるのをもう一人。後布の手配が居るわね。それもあんた達で用意しなさい。それが出来れば作ってあげる」
「と言われましたけど、どうしましょう」
「着物は幽々子か輝夜に聞けば良いだろ。裁縫は・・・・・・咲夜を借りるか。布は里で買うが早いけど私達には余る買い物だ。スポンサーを付けるが早いぜ」
 途方に暮れる早苗に対し、魔理沙は逡巡すると早口で意見を述べる。そして魔理沙は箒に跨がり、早苗に告げた。
「私は紅魔館に行ってくるからお前は永遠亭と白玉楼を頼むぜ」
「何で私が二ヶ所なんですかー!」
「紅魔館に忍び込む手間と咲夜を借りる手間を考えればそうでもしないと釣り合わないぜ。じゃっ!」
「忍び込む必要は無いんじゃ・・・・・・ああ、行っちゃった」
 空の彼方にすっ飛んでいく魔理沙を見送りながら、肩を落として永遠亭に向かうことにした。白玉楼は上にあるため、どこからでもいける。だったら竹林が面倒な永遠亭から終わらせるべきと判断したのだ。バカ正直に歩けば間違いなく迷うため、空から永遠亭の敷地に降り立つと、丁度輝夜が縁側でお茶をしていた。
「あら、鳥が一匹」
「誰が鳥ですか。いやお庭に降りてきてしまったのはすいませんと言うほかないのですが」
「じゃあナメクジと呼んだ方が良いかしら」
「・・・・・・鳥でお願いします。それよりも今回は輝夜さんに頼みたいことがあってきたのですが」
「へえ、なあに? 何か面白いことでもするのかしら」
 これまでのいきさつを話すと、なんとも楽しげに輝夜は瞳を輝かせていた。これは食いついてくれたなと、内心で早苗はガッツポーズする。
「良いわね、あの巫女の白無垢姿なんて。中々見れるものじゃないじゃない」
「それに当たって私達も振り袖で対抗しようと思ったのですが」
「魔理沙の分の振り袖がないと。良いわ、イナバ」
「へいへい姫様お呼びで」
「里に行っていくつか絹の反物を買ってきなさいな。お代は届いたときに私が払うわ」
「了解でーす。後でお駄賃は貰いますよ」
「思う存分モフモフしてあげるわ。いってらっしゃい」
 どこからともなく現れた因幡てゐがあっという間に出て行ってしまい、早苗がぽかんとしていると輝夜が続ける。
「それで着物についてなんだけど、正直私は鑑定は出来るけど作るのは出来ないのよね。ほら、着物って貰うものだったから」
「流石お姫様・・・・・・」
「一応お手伝いはするけど、あんまり期待しない方が良いわ」
「いえ、ありがとうございます! 一気に前進ですよ!」
「良い暇つぶしにもなるしね。じゃあ私は永琳に話をしておくから、白玉楼に行ってきなさいな」
「ありがとうございます・・・・・・では失礼しますね」
 その場から浮き上がり、永遠亭を後にする。ひたすら上に向かって飛んでいけば幽冥結界があり、そこを越えれば白玉楼だ。そこから長い階段を登っていくと、道中で庭師の魂魄妖夢に出くわした。
「おや、早苗さん。斬られに来たんですか」
「物騒なことに言わないでくださいよ。幽々子さんにお会いしたくてきたんです」
「幽々子様ですか? さっきまでお部屋で休まれてましたが・・・・・・起きてるかなあ」
 妖夢と共に階段を登って玄関に辿り着くと、廊下をのろのろ歩いている幽々子に出くわした。小腹が空いたのか、手にはおやつを持っている。
「あら妖夢、お茶お願い」
「お昼ご飯食べたばっかりじゃないですか。太りますよ」
「亡霊は太らないのよ。それで、ナメクジさんはどんなご用?」
「だからナメクジって言わないでください。流行ってるんですか?」
「そんな雰囲気がしたのよ。で、どうかしたの?」
 これは骨が折れそうだな、と思いつつ、通された部屋で事情を説明した。最初は興味なさげだった幽々子だが、永遠亭が絡んできたと知るなり態度が一変する。いつになく真剣な眼をすると、妖夢を呼び出した。
「妖夢」
「何なりと」
「紙と筆を持ってきて。手紙を書くから永遠亭に届けてね」
 果たし状でも書くのかと言わんばかりのプレッシャーに、早苗は冷や汗を流す。しばらくして手紙を書き終えると、封筒に入れて封をする。それを妖夢に渡すとすぐに妖夢は出て行った。するとさっきまでのプレッシャーはどこへやら、幽々子は早苗に近づくとこそこそと耳打ちする。
「早苗ちゃん、お願いがあるんだけど」
「は、はい」
「妖夢もね、振り袖持ってるのよ。でもあの子ああいう子だから中々着なさいと言っても着ないでしょう? だから鈴仙ちゃんの分も作って貰って外堀を埋めようと思って」
 それを聞いて思わずずっこけかけた。あんな鬼気迫る表情でそんなことを書いていたのか。その演技力に舌を巻いていると
「永遠亭が絡んでるって聞いたときにひらめいたのよ。あの子鈴仙ちゃんと仲が良いでしょ? 友達がおしゃれしてくるなら自分もってなるんじゃないかしら」
「どうでしょう。妖夢さんの控えめ精神は筋金入りですから。そのくせ変なところでずけずけ言うから、距離感不思議なんですよね」
「あら、妖夢ったらそんなこと言えるようになってたのね。お赤飯炊いて貰わないと」
 そこは自分で炊くんじゃないんですね、と内心でツッコミを入れつつ早苗は続ける。
「だからもう少し強硬手段に出てもいいと思います。ストレートに着てってお願いするとか」
「うーん、あんまり強引な手は使いたくないのだけれど・・・・・・」
「後幽々子さんが見たいって言うのが大事だと思いますよ」
「私が?」
「はい。可愛い服を着るのって勿論自分が着たいって気持ちもあるんですけど、誰かに見て貰いたいって気持ちも大事だと思うんです。妖夢さんにとって一番身近な人って幽々子さんですから、そこから攻めるのがいいと思います」
「なるほど。良い作戦ね、使わせて貰うわ」
「それでお手伝いの件なのですが・・・・・・」
 話をまとめると、白玉楼を出る。幽冥結界から降りていくと、傷まみれになった魔理沙に出くわした。
「魔理沙さん。手酷くやられてますね」
「フランの機嫌が悪くてな。まあ咲夜の協力は取り付けたぜ。そっちはどうだ?」
「輝夜さんも幽々子さんも協力してくれます。布の手配もばっちりです」
「おっし、これで後は・・・・・・」
「何を企んでいるんですかー?」
 唐突に文が会話に割り込んできた。半ば面食らいながらも、魔理沙がぼやく。
「文屋か。別に、私の振り袖を作るだけだぜ」
「私も着ます」
「えっ」
「私も振り袖を着ます!」
 唐突な文の発言に今度こそ面食らった。早苗は文の振り袖と聞いてテンションを上げるが、魔理沙は肩をすくめた。
「おいおい、お前が振り袖とか年を考えろって話だぜ」
「ぶっ飛ばすわよ? 生憎と私も未婚の身だからね、振り袖着れるのよ?」
「文さん文さん、敬語乱れてますよ」
「オホン・・・・・・まあそういうわけで、私の分も用意しましょう」
「持ってるんですか?」
「ありますよー。当日をお楽しみに! じゃっ!」
 言うだけ言ってあっという間に去って行ってしまった。呆然と見送りながら、早苗が口を開く。
「しかし魔理沙さんの一着の予定だったのに随分大がかりな話になっちゃいましたね」
「ああまさかアリスの分抜かしても二着も作ることになるとは」
「あれ、私鈴仙さんの話しましたっけ?」
「あー? 何で鈴仙なんだ、咲夜だろ」
「あれ?」
「ん?」
 どうにも話がかみ合わないのでお互いの現状を話すと、咲夜は協力する代わりに自分の振り袖も用意すると言い出したらしい。つまり合計で四着仕立てることになったのだ。
「アリスに同情するぜ。私が手伝っても邪魔だから何もしないが」
「私もお裁縫は苦手ですからね・・・・・・どうしましょうか」
「どうせそのまま神社で宴会なんだ、飯の材料とか集めとけ」
「魔理沙さんは?」
「踏ん切りがついてないだろうからハッパかけてくる」
 早苗が誰をと聞き返す間もなく、魔理沙は空の彼方に飛んでいく。結局取り残された早苗は、しょんぼりしながら守矢神社へと帰っていくのだった。

「よう霊夢、いるか」
「こんな時間に出歩く必要ないわよ。何しに来たのよ」
「香霖の所からかっぱらってきた」
「上がってきなさい。泊まるの?」
「そうさせてもらうぜ」
 かなり不機嫌に出迎えられたが、香霖堂からかっぱらってきた吟醸を見せれば霊夢は態度を変えて魔理沙を迎え入れた。並んで食事を作り、炬燵で鍋を囲んだところで魔理沙が気がついた。
「あうんは?」
「早くご飯食べて寝ちゃったわ。今日はたまたま私が遅かっただけ」
「そうか」
 それだけで、魔理沙は特に何も聞かなかった。何故遅かったかなんて、大体察しがついていたからだ。
「白無垢だけどな、嫌なら嫌で良いんだぜ。私が謝っとくから」
「別に白無垢の事なんて一言も」
「顔に書いてあるぜ。何年付き合いがあると思ってるんだ」
「・・・・・・だって、あれは」
「知ってるぜ。お前のお袋さんのだからな」
 その言葉に霊夢は顔をしかめる。霊夢とその母が不仲なのは魔理沙含むごく一部のみが知ることだが、その理由については魔理沙もよく知らない。ただ話題がそっちに行くと明らかに不機嫌になるので、そこが地雷なのは知っていた。
「まあ、何だ。私も似たような立場だからな」
「魔理沙は私と違うじゃない。自分の意志で出て行って、自分の力で生きてるじゃない」
「お前も一緒だぜ。まあ面倒な呪いなのは間違いないがな」
 ぐいと酒を呷ると、ぼんやりと天井を眺める。霊夢がおかわりを注ぐと、氷がカランと音を立てた。
「何で魔理沙は」
「あん?」
「魔理沙は何で、私の白無垢を見たいの?」
 思い詰めた問いに、酔いで緩みかけた思考が醒めていく。酒をもう一口呷って、魔理沙は答えた。
「・・・・・・これは酔っ払った魔理沙さんの戯れ言だぜ。勿論あの場のノリもあったが、本当はお前の白無垢姿を独り占めしたかったんだ」
「だったら個人的に頼んだら良いじゃない」
「そうは言っても、お前は絶対に着ないだろう? だったらああした方が良いと思ったんだ。まあ他の人の眼に触れるのは仕方ないが、お前の白無垢を見るって目的は果たせるからな」
「どうして? どうしてそこまでして・・・・・・」
「だって霊夢の白無垢なんて絶対綺麗じゃないか。最高のお嫁さんじゃないか。私が男ならほっとかないぜ」
 その発言に霊夢の思考はフリーズし、一瞬で沸騰する。炬燵も鍋もいらないくらい熱くなってしまい、思わず手元の酒をひっくり返した。
「あっ・・・・・・」
「あーもう、何やってんだ。布巾取ってくる」
 魔理沙が立ち上がって霊夢の横を通った瞬間、魔理沙の耳も真っ赤なのに気がついた。台所に向かう魔理沙の背中に、思わず声をかける。
「魔理沙あんた・・・・・・」
「酔っ払いの戯れ言! 忘れるなよ!」
 そう言ってぱたぱたと奥へ行ってしまった。それからまた恥ずかしくなってしまい、炬燵布団に顔を埋める。結局その晩は変な空気になってしまい、魔理沙と一言も会話出来ぬまま夜が更けていった。

 そして、迎えた大晦日の日。早くに来て賽銭を入れた華仙の手によって霊夢の着付けが行われていた。
「頭まではしなくて良いわよ。めんどくさいし、天香香背男命討伐があるからね。初日の出までには戻さないと」
「分かってるわよ。にしても、こうしていると本当に結婚するみたいね」
「まだ先よ。相手だって居やしないのに」
「貰ってくれる人なんて居るのかしら」
「さあね。先の事なんて分からないわ」
 角隠しを着け、帯を締めれば完成だ。陰陽玉の刺繍が施され、白に朱の入った打掛の裾を引きずるのがいやなので少し浮いて移動すると、表には既に人が集まっていた。よく見れば先日居なかった面子も居る。大方文辺りから話を聞いてきたのだろう。
「じゃ、華仙。先行ってて」
「そう言ってると本当に結婚式みたいよ?」
「だーから違うって言ってるでしょ、もう・・・・・・」
 華仙は先に表に回ると、一人本殿に向かう。その途中で、振り袖姿の魔理沙に出会った。
「よう。綺麗だろこれ」
「魔理沙」
 結局あれから一言も会話していない。なので、魔理沙から話しかけられるとは思っていなかった。返事を返せずにいると、先に魔理沙から白無垢の感想があった。
「それが博麗印の白無垢か。うん、やっぱ綺麗だ」
「えっと、その・・・・・・」
「どうしたんだよ、お前らしくもない。ホントに嫁入り前みたいだぜ」
「あんたのせいよ!」
 思わず大声を張り上げる。面食らう魔理沙に構うことなく、霊夢は勢いのまま続ける。
「あんたがあんなこと言ったから! あんな思わせぶりなこと言うから! 私は着る気のなかった白無垢着てるのよ!」
「お、おい落ち着けって」
「これが落ち着いていられるもんか! 私は、私は・・・・・・」
「だーから話を聞けって!」
 泣き出しかねない霊夢を宥めると、ゆっくり魔理沙は話し始める。
「いいか霊夢、あの時はすまん。酔っ払いの戯れ言ってのは嘘だ。あれ本心」
「だったら・・・・・・」
「続きがあるから。だからさ、私はすっごく嬉しいんだぜ。だってあの霊夢が白無垢姿なんだから。加えてここは私と二人だ。独り占めも出来た。なあ霊夢、お前は白無垢どうだ?」
「・・・・・・きついし違和感あるし今すぐ脱ぎたいけど」
「おいおいおい」
「でも、魔理沙が見てくれるなら、悪くない」
「そいつは上々だ。さ、他の皆が待ってるぜ」
「うん」
 霊夢の手を取って立たせると、二人で本殿へ向かう。待ちわびている面々の前に立つと歓声と共にブーイングが起こった。
「霊夢きれい!」
「魔理沙ずるい!」
「霊夢の隣なんて完全に新郎の位置じゃん!」
「へへ、悪いな。霊夢の隣は私の席だからな」
「調子に乗らない」
 頭を小突かれるが、魔理沙は悪びれる様子もない。全く、と一言漏らすと集まった面々に霊夢は告げる。
「ほら、これでいいんでしょ! さっさと賽銭入れなさい!」
「はーい」
 ちゃりんちゃりんと賽銭箱から小気味のいい音が響く。霊夢が上機嫌でいると、誰かが階段を登ってきた。
「やあ。こうして見ると本当に結婚式のようだね」
「霖之助さん。珍しいわね」
「出向くつもりはなかったんだけどね。もうじきアリスも来るよ」
「どういう事?」
「私から説明するわよ」
 霖之助と話しているとアリスがやってきた。その手には何やら紙袋が握られている。
「はい、あんたの服」
「頼んでないけど」
「私が頼んだんだぜ」
「大分苦労したわ」
 紙袋から取り出してみると、巫女服のようだった。しかしいつもの真っ赤で腋の出ている服ではなく、ごく一般的な巫女服のようである。しかし巫女服にしては明らかに枚数がある。一体どういう事かとアリスに視線をやると
「振り袖兼巫女服をってことでね。アイディアが丁度湧いてきたから満足したわ」
「丁度いいや霊夢、それで神事をやれよ」
「ぼくも興味あるな。新しい巫女服はどんなものか気になるし」
「まあ巫女服みたいだし問題ないでしょ。じゃあちょっと着替えて・・・・・・」
「ちょっと霊夢さん! 私達の振り袖はノータッチですか!?」
 早苗の抗議を聞いて、ようやく霊夢は一部の面々が振り袖を着ていることに気がついた。早苗と咲夜と鈴仙と文、それに冥界主従に何故か妖精達も振り袖を着ている。他にも何人か、振り袖姿が眼に入った。
「あんた達どこから振り袖なんて調達したのよ」
「私だ」
「またあんたか」
 早苗の背後から現れたのは摩多羅隠岐奈だった。ここのところ立て続けに問題を起こしており、霊夢から大分危険視されている。
「今度は何の悪巧みよ」
「悪巧みとは失礼な。妖精達が自分たちも振り袖が欲しいと言っていたから貸してあげただけよ」
「あっそ。まあ今日はそういうことにしておくわ」
 そう言って霊夢は振り袖を抱えて母屋に向かう。その後ろをぞろぞろと他の面々が着いてくるので、華仙以外は針を投げて退散させた。白無垢を脱ぐと新しい巫女服に袖を通し、着替えると神事に向かう。白衣と真っ白の袴に赤の大きなリボン調の帯がとても目を引く。見せ袖は刺繍入りの金色をしており、豪華さが垣間見える。しかし全体に赤の刺繍も入っているため印象としては普段の紅白巫女だ。いざ神事に向かえば、全員神妙な面持ちで霊夢を待っていた。それから神事を行い、無事に天香香背男命討伐を済ませて一息つくと、まばらに拍手が起こった。呆然としながら、一部の面々がぼやく。
『ちゃんと巫女してる・・・・・・』
「あんた私を何だと思ってるのよ。天下の博麗神社の巫女さんなのよ」
「だってどっちかというと」
「妖怪キラー」
「退治してやろうかしら?」
 針とお祓い棒を構える姿に恐れを成したか、全員それ以上は何も言わなかった。そんな空気を破るように、魔理沙が霊夢にくっつきながら叫んだ。
「じゃっ、宴会だな! おーい、準備しようぜー!」
「振り袖で準備するんですか!?」
「たすき掛け教えてあげますよ。そうすれば邪魔にならないので」
「エプロン貸してあげるわ。いくつか持ってきたから」
「お二人とも準備良すぎでは・・・・・・?」
 咲夜や妖夢達従者組達が台所へ向かう。霊夢も続こうとすると魔理沙に止められた。
「霊夢はお休みだぜ。なんせ主役だからな」
「別に気にしなくて良いんだけど」
「そう言うなって。魔理沙さんも腕を振るってやるからな」
「待って、魔理沙」
 袖をまくりながら魔理沙も台所に向かう。が、霊夢が魔理沙を呼び止めた。
「何だぜ?」
「ええと、その・・・・・・白無垢。あんたに見て貰えて良かった」
「そうかそうか、それは」
 朝日が昇る。浮かべた満面の笑顔が、初日の出に照らされた。
「最高のお年玉だな。今年もよろしく頼むぜ」
「うん、今年もよろしく。魔理沙」
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コメント



0.150簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
4.90名前が無い程度の能力削除
ただただよい
5.100名前が無い程度の能力削除
わちゃわちゃ具合がいいですねーにやにやできました
7.70夏後冬前削除
いろんなキャラがわちゃわちゃ出てきて読んでて楽しかったです
8.100南条削除
面白かったです
みんなして霊夢にスパチャしてると思ったら最後は魔理沙が持って行ってるところがよかったです
レイマリをありがとう
9.100Actadust削除
賑やかでいいですねぇ。霊夢の周りが賑やかで、誰もが白無垢を求めているからこそ、魔理沙の特別が光ってます。レイマリは素晴らしい。