Coolier - 新生・東方創想話

有閑少女隊その22 縁日やきそばで翔べ!

2021/11/25 12:50:23
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 いつもの神社ではなく、山裾の原っぱに集まっているいつもの三人。博麗霊夢、霧雨魔理沙、東風谷早苗、そして河城にとりが居る。

「それじゃ始めようか」

 にとりが開始を宣言する。
 魔理沙と早苗は少し離れた場所で佇む霊夢を見た。
 その霊夢はランドセルのような金属製の背嚢を背負っている。

「あのバックパックにはいくつもの火薬を調合したモノが仕込んであるんだ。その強力な爆発力を推進力に変える、その名も『みらくるろけっとぶーすたー』!」

「SF映画や特撮では割とよく見かけるアイテムですよね」

「ホント大丈夫なのかよ?」

「魔理沙心配しすぎだよ! 科学の力を信じて欲しいね!
 設計は万全、事前テストでは今のところ百パーセントの成功率だ。ただし、テスト回数については黙秘する!」

「おい、それって……」

「面白そうだから見ていましょうよ」

「早苗、お前なぁ、もし霊夢に何かあったら……ってあるわけないか」

「おーい、れいむー、点火のカウントダウン始めるんだけど……ちょっといいかな?」

「なによ」

 今回の実験に協力するにあたり、便利そうな調理器具をいくつか無償で作る約束をさせているが、それでも乗り気で参加しているわけではない霊夢が不機嫌に応える。

「その髪型どうにかなんないかな?」

 バックパック型ロケットを背負っている霊夢。
 長い黒髪を二つに分けて胸の前で一つの三つ編みにしている。
 にとりが大好きなくるくる厄神みたいだ。

「ねえ霊夢、その髪型、して欲しくないんだけど」

「うるさいわね、後ろに流したままだと焦げちゃうかもしれないでしょ? 髪は女の命なのよ」

「霊夢の髪が簡単に焦げるとは思えないがなー」

「そうですね。たった一本でも拘束用ワイヤーより強靭ですし、太陽の中心に放り込んでも燃えなさそうです」

「アンタたち、いい加減にしなさいよ」

「ねえ霊夢」

「なによ」

「髪の毛、分けてくれない? 是非研究したい!」

「アンタも真に受けるんじゃじゃないわよ」

 ―――†―――†―――†――― 

 ズドドドォ ブッシュー

 霊夢が真上にカッ飛んでいく。

「おおーこりゃ速いなー」

 空を飛ぶ程度の能力の制御を上回る推進力。
 素晴らしい速さで上昇し、やがて雲の中に突っ込んでいった。
 そして雲の中でピカっと光った。

「何か爆ぜたみたいだけど……」

 炎に包まれた塊が急降下してきて、結構大きな着弾音とともに落地した。土煙がすごいことになっている。

「おい、今の霊夢だよな? 大丈夫なのか?」

「これで変身していたら風雲ライ●ン丸なんですけどね」

 土煙が晴れていく中、ゆらりと立ち上がってくる影。
 煤まみれでボロボロの霊夢だった。
 
「まぁ、生きているよな。霊夢だし」

「うーん【ロケット変身】失敗ですかぁ。残念ですねぇ」

「あのさ、魔理沙」

「なんだよ」

「私しばらく留守にするから」

「は?」

「霊夢にゴメンねって言っておいてね。後はよろしくー」

「おい! にとり! ……ったく逃げ足の速い奴だな。
 早苗、これどうする? って早苗? ぅおーい!」

 既に点としか認識できないほど小さくなった風祝の後ろ姿。

「この状況! 私一人に押し付けるのかよーっ!」

 ―――†―――†―――†――― 

 毎度お馴染みの博麗神社。
 いつもの三人はいつものようにヒマを持て余している。

「もうじき夏祭りだなあ」

 魔理沙が誰にともなくつぶやく。

「夏祭りとなりますと神社やお寺が主催して地域の商工会などが後援してワッショイするのが普通ですね」

 早苗がノってきた。

「ウチはやんないわよ」

 バッサリ切り捨てたのは博麗神社の現責任者にして幻想郷の裁定者、博麗霊夢。
 先日の実験失敗のあと暫くは荒れに荒れていたが、お山の大天狗の屋敷の物置きに隠れていた河城にとりをド根性と執念で探し出し、お皿が割れかけるほど拳骨をくれてその後の魔理沙の必死の取りなしもあって何とか平常状態に戻っていた。
 ちなみに早苗はほとぼりが冷めるまで博麗神社に近づかなかった。ちゃっかりしている。霊夢案件でババを引かされるのはいつもでも魔理沙だった。
 そんなこんなで今に至る。

「ここは人間が来るにはちょい不便だからな」

「ロクにお金を持っていない妖怪やら妖精が集まっても儲けにならないわよ」

「お祭りは興行としての側面もありますけど、本来は神事なのに何だか身も蓋もありませんね」

「そう言う早苗のトコはやらないのか?」

「ウチも少々不便な場所ですからね。でも、神奈子様が色々と考えているみたいですので来年あたりには何かできると思いますよ」

「それじゃあ今年も命蓮寺のお祭りがメインになるのかな」

 魔理沙の言に商売敵の隆盛を面白く思わない二人の巫女の表情が少しだけ曇る。

「なあ二人とも、私の話に乗らないか?」

「悪事には加担しませんよ」

「儲からなきゃイヤよ」

「おい、私の提案でヒトに迷惑をかけたり損したことがあったか?」

「「 結構あるわ(あります) 」」

 最近はストッパー役の多い魔理沙だが、元々はトラブルメーカーで愉快犯なのだ。故に信用があまり無い。

「……んん、まあそれは脇に置いておいてもらいたいぜ。今回はガチガチに硬い鉄板案件だ」

「あんたが〝鉄板〟って言った案件は骨折り損の草臥れ儲け率が異様に高いじゃない」

 そうでないとお話として面白くないから……ゲフン。

「いや、これは命蓮寺の夏祭りに絡む話で、ナズーリンからの誘いなんだ」

「オーケー乗ってあげるわ」

「不本意ですが、仕方ありませんね」

 その名前が出た途端、態度が翻るダブル巫女。
 霊夢はナズーリンには絶対に近い信頼を置いているし、早苗も個人感情としては嫌悪なのだが、何度か窮地を救ってもらっているのでその能力には間違いがないと思っているからだ。

「命蓮寺の夏祭りに屋台を出すんだよ。客数は間違いないからキワモノを扱わなけりゃ確実に儲かるぜ」

 今や人里に確固とした地盤を築いた命蓮寺はイベントでの集客力は幻想郷有数であった。そして運営するための人材も豊富なのだ。

「確実に儲かる……なんてステキなワードかしら」

「余計なことをしたり欲をかかなければ、と但し書きが付きますけどね」

「なんで私の顔を見んのよ」

「これまで霊夢さんが噛んだ儲け話って、最初は順調なのに欲をかいて最後にはガッカリになるじゃないですか。忘れちゃっているんですか?」

「過ぎたことは忘れるようにしてんのよ」

「つまり上書き保存タイプですね」

「常に前を向いてなきゃね、ふふん」

「だから霊夢はダメなんだ」

「なんですって?」

「過去の失敗例を忘れちゃってるから、同じような失敗を何度もするんだぜ」

「ぬぐっ」

「失敗の傾向と対策を検分して次回に生かさなきゃダメですよねー」

「ぬぐぐぐっ」

 けちょんけちょんだが、思い当たる節が山盛りの霊夢は唸る事しかできない。
 アンタらもあんまし変わんないでしょ、と言えば過去の失敗事例が次々と上がってきそうなので黙っておくことにした。甚だ不本意だが。

「そんなワケで屋台を出そうと思うんだが、何が良いと思う?」

「金魚すくいはどうですかね」

「金魚なんかどっから仕入れるんだよ」

「そう言えば全くアテがありませんね」

「生き物は、ダメだぜ」

「うーん、実は私もダメだと思ってました」

 縁日の生き物、金魚、ミドリ亀、カラーひよこ、どれも悲しい結末がほとんどだ。魔理沙も早苗もそれを知っているから忌避したようだ。黙ったままの霊夢が何を思っているかは分からないが。

「やはり食べ物でしょうか?」

「そうだな」

「冷えモノですか? 焼きモノですか?」

「冷えって?」

「かき氷やアイスクリーム、お手軽なのは冷やしたキュウリとかトマト、スイカの切り売りですかね」

「道具が揃わないから氷菓子は無理だな。野菜や果物は元値が分かりやすいから高くは売れないしなあ」

「ならば焼きますか」

「そうだな。焼きモノは原価がわかりにくいしな」

「ふふふ、魔理沙さん、ちょっと悪い顔ですよ」

「越後屋、お前もな」

「たこ焼きやベビーカステラは型を用意するのが難しそうですね。そうすると……」

「焼きそば、だな。デカい鉄板あるし」

「ですよね! 縁日の定番中の定番、鉄板ですね」

「焼きそばは儲かるらしいからな」

「ふぁいー!」

「な、なんですか霊夢さん」

「おとなしくしていると思ったら〝儲かる〟に反応したな」

「焼きそばやるわよ! 焼きそば!」

「確かに材料費の割にそこそこの値段で売れますからチャンと仕度したらボロいと聞きますね」

「おま、ボロいって、品がないなあ」

「ボロそば売るわよ! ボロそば! ボロそばー!」

「欲望まる出しのネーミングですね」

「なんだか、すでに失敗しそうなノリになってるな」

 両の手を握り締め上下に振りながらワッショイワッショイと喧しい霊夢に冷たい視線を送る二人だった。

 ―――†―――†―――†――― 

「お二人は焼きそばを知っていますか?」

 お祭り霊夢がようやく落ちついたのを見計らって早苗が切り出した。

「なんだよ、改まって」

「やっこくした麺と肉野菜を一緒に炒めてソースで味付けしたシロモンでしょ?」

 霊夢が珍しく核心に近いところを突いてきた。

「焼きそばは中国の炒麺が元だと言われています」

「ちゃおめん?」

「チャーハンはご飯炒めだけど、麺を炒めてチャオメンってことか?」

「魔理沙さんピンポーンです。では、油の炒め物にはどんな調味料が合いますか?」

「なんだって良いじゃない」

「んー、やっぱり油モノには塩が基本かな?」

「またしても魔理沙さんピンポーンです」

 霊夢がケッと呟いた。何となく面白くないのだろう。

「つまり焼きそばは元々は塩焼きそばが主流だったようです、そして具沢山に肉や野菜が入っていたようですね」

「ソースじゃないのね」

「あれは大戦後、食材が不足していた時期に濃いソースを使うことで具の少なさをごまかすために使われ始めたとかなんとか言われています」

「確かに焼きそばってソースの味しか印象にないような」

「ですから私たちが出すなら原点にして頂点、女子力の高い塩焼きそばにするべきです」

「塩焼きそばの件(くだり)は分かったけど、女子力の高いってなんだよ?」

「ほとんどが美少女で構成される我らが屋台、普通の茶色い焼きそばでは世間が納得しませんからね」

「早苗、ちょっと良いかしら?」

「なんでしょう」

「ほとんどが美少女って、そうじゃないのが混じってるってこと?」

「…………えっと」

「ハッキリ言いなさいよ」

 勢いに乗ってうっかり本音を吐いてしまった早苗が青ざめる。
 霧雨魔理沙は万人が認める火の玉ストレートの剛速球美少女だし、東風谷早苗は気立ても良く元気一杯、やや高目の打ちごろな直球美少女だ。そして博麗霊夢は玄人受けと言うか、ニッチなニーズのある大リーグボール級の変則魔球少女である。えいやっ! と、ざっくり括れば美少女枠のはずだが本人も思うところがあるらしい。物申したい霊夢が半眼で早苗を睨んでいる。

「霊夢待てって。そんなことより女子力の高い塩焼きそばのことが大事だろ?」

 魔理沙が微笑みながら割って入ってきた。

「だって」

「焼きそばやるんだろ? 儲けるんだろ? 他所ごとは気にするなよ」

 美少女云々の際どいやり取りを一番の美少女があっさりと切って捨てる。見ようによっては嫌味かもしれないが、当人は芯から気にしていないのだ。これが魔理沙なのだ。

「むぅ、仕方ないわね」

「で、早苗、女子力のナントカは何なんだ?」

 救世主の魔法使いから振られ慌てる風祝。

「そ、それは茶色っぽくない焼きそばですよっ エキストラバージンオリーブオイルと、ちょっと高級な岩塩と鶏ガラスープの素、少しのニンニクをベースにした塩焼きそばです。具はベーコンと甘みのある新タマネギ、そして生のバジルを散らしてレモンの輪切りを添えるんです」

「ほとんど手に入らない材料じゃないか」

「それにべらぼうに高くつきそうね」

 確かに屋体で三~四百円で出したら元が取れそうにない構成だ。でも、すごく美味しんだけどな……

「却下だな」

「聞いて損したわよ」

 二人に全否定されてしまい、ぬぐぐっとなる早苗。

 屋台はともかく、一度作ってみて欲しいな【女子力の高い塩焼きそば】。パスタでやれって? 確かにそれでも良いんだけど、中華麺はまた違うんですよ。生中華麺は一度湯通しして表面の古い油を落としてくださいね。麺がほぐれて炒めやすくもなります。

「ならば茶色い焼きそばで良いって言うんですか!?」

「だからーお前はどうして普通のソース焼きそばじゃダメなんだよ?」

「一番儲けが出そうで良いじゃないの」

「だって、焼きそばは他にも屋台が出そうじゃないですか。カブったらどうするんですか? 個性を出すべきなんですよ!」

「カブる……確かにありうるなあ」

「そんなの簡単なことでしょ?」

「簡単ってどうするつもりだよ」

「焼きそばの屋台が出ていたら『誰の許しを得て店出してんの』て聞けば良いだけよ」

「おまっ」

「それはさすがに……」

 肩をいからせた霊夢がオウオウ言いながら、よその屋台に因縁をつけて困らせている絵がありありと浮かぶ。

「命蓮寺のお祭りでそれやったらマズイだろ」

「即行で出禁になりますよ」

 ―――†―――†―――†――― 

 魔理沙が『カブったらそん時はそん時だ、気合を入れて売れば良いんだ』と主張した。
 ナズーリンに迷惑をかけたくない霊夢は何となく納得し、Clash(カブリ)を恐れる早苗も渋々承諾した。何にかって? ソース焼きそばの制作販売にだ。

「具はキャベツと豚コマ、あと紅生姜と青海苔ですね」

「却って色々入ってない方が良いのよね、お金かかんないし」

「半熟の目玉焼きのせたら百円アップだな」

 半熟目玉をのせた焼きそばは間違いなく旨い。

「持ち帰りの玉子は怖いわね」

「どしてだ?」

「この時期(夏場)の玉子は傷みやすいのよ。いつ食べるかわからないモノに半熟でも玉子はダメよ」

「驚きです」

「なによ」

「霊夢さんが食品衛生に言及するなんて」

「ぶっとばすわよ」

 玉子を切らしたことのない博霊神社。なんだかんだと霊夢は玉子の扱いを理解している。
 白身はカリッと少し焦げるまでじっくりと焼き、黄身は半熟をやや超えてねっとりとろーり、塩コショウも良いが醤油タラリもイケる。霊夢の目玉焼きはかなりウマい。魔理沙は朝食の度にせがむほどの大好物でもある。
 それはともかく夏場のテイクアウト牛丼に生玉子は不可ですから、むべなるかなですな。あれ? 半熟はアリだったっけ。

「材料と道具を確認するぜー」

「はーい」

「焼きそばの麺、これがなきゃ話にならないぜ」

「それは私が里の製麺所に話を付けるわ」

「穏便にな」

「具はキャベツと豚コマ、トッピングに紅生姜と青海苔ですかね。私が仕入れます」

 人里の商店に顔の効く早苗がかって出る。

「油屋で油、ソースはオシャレ食材の店で買ってくるか」

「道具はどうですか?」

「肝心の鉄板はココにあるし……焼く時に使う金ゴテはお好み焼きに使ったアレでいいだろ」

「よそうのにトングがあったほうが良いですね」

「トング?」

「金バサミのことだぜ」

「よそうで思ったんだけど、何に盛り付けるの?」

「それはプラスチックのパッカン容器に……あー」

 幻想郷にそんなモノは入ってきていない。

「いちいち皿に盛るわけにはいかないぜ、どうする?」

 いきなり暗礁に乗り上げた【焼きそば丸】。

「経木を舟形にして使えば良いわ」

「キョーギってなんですか?」

「スギやヒノキを紙のように薄く削って食べ物を包むモンだ。元は帳面代わりに字を書いたりしたらしいがな」

「誰がそれを作るんですか?」

「カッパにやらせるわよ」

 此度のドタバタで貸しを作ったにとりに投げるようだ。

「ついでに割り箸も頼んでおいてくれよ」

「了解よ」

「あと道具は……麺を茹でる大鍋が欲しいな」

「長時間火を使うんですから燃料も十分にないとですよ」

「それもこれも全部カッパね」

「にとりさん達、気の毒……でもありませんか」

 河童達に同情しかけた早苗だが、これまでの諸々を思い返してやめたようだ。
 霊夢がにとりを強請ったり無理難題をふっかけるのは日常茶飯事だが、やられっぱなしは性に合わない機械屋河童も詐欺を働いて小金を巻き上げたり無謀な実験に付き合わせたりしているのだからトータルでドッコイなのだろう。

「さあ、美少女ソース焼きそば準備開始です!」

「おう!」

「美少女……まぁ良いわ」

 ―――†―――†―――†――― 

「おい、隣、命蓮寺の屋台だぜ」

 お祭り当日、河童たちと共に割り当てられた場所で準備をしていた中、魔理沙が気づく。

「鉄板よね」

「まずいですね」

 村紗水蜜が人型の妖怪たちに指示を出し、部材の設置をしている。その周りで幽谷響子がパタパタ走り回って細々と仕度をしている。 

「焼きモノは確定よね」

「焼きそばだったら……試合終了ですね」

 そこへ命蓮寺の本尊たる寅丸星がやってきた。
 ムラサや響子に追加の指示を出している。

「しかも寅丸が陣頭指揮かよ、ホンキでヤバイな」

 三人とも寅丸星の料理のクオリティは十二分に知っている。
 料理スキルで言えば相手はラスボス前の四天王四人目の最強クラス、こちらはようやくくさりがまを買ったところだ。瞬殺必至である。

「やあやあ、お三方、出店の労、感謝するよ」

 そんな中、陽気に声をかけてきたのはナズーリンだった。寅丸星の従者にして命蓮寺の影の参謀と謳われる油断のならないネズミ妖怪である。

「おい、ナズーリン、命蓮寺は焼きそば出すのか?」

「うん? ああ、キミたちは焼きそばだったね。その隣に同じ品目を出すなんて意地悪をするわけないだろう?」

「どうだか」

 早苗が疑わし気に呟いた。ナズーリンの能力は認めていても、これまでたくさんからかわれてきたので底意地は悪いと決めつけているのだ。

「焼きそばでないのなら何かしら?」

 霊夢が普段より少しだけお上品に尋ねる。

「ウチはホットドッグだよ」

「ほっと……なんだそりゃ?」

「なんと! ホットドッグですか!」

「知っているのか早苗!」

「あの、先に言っておきますが私、雷●じゃありませんからね」

「本来はホットドッグバンズだが、こちらで言うコッペパンにソーセージをはさんでトマトソースやマスタードで味付けをしたお手軽な軽食だね」

「そうなのね」

「へー、旨そうだな」

「むぐっ」

 余計なツッコミを入れたために良いところ(解説)をナズーリンに持って行かれてしまった早苗だった。

「今回ウチのホットドッグは五寸(15センチ強)、小ぶりのパンにした。他の食物屋台もあるからすこし物足りないくらいのボリウムに抑えたけど、細切れのキャベツの炒め物を敷いて、挟んではみ出るほどのソーセージを入れてある。かけるのはみじん切りにした赤茄子(トマト)とタマネギを炒め煮にした特製フレッシュトマトソースだ。十分に旨いのでマスタードは不要と判断した次第だ」

 ゴクリッ
 三人の喉が鳴った。

「約束しよう」

 不敵に口端をつり上げたナズーリンが少し間を取る。

「キミ達が今、想像している以上の美味しさだ」

 ゴクッ ゴクリッ

 このネズミ、プレゼンで煽ることに関しては抜群の才能を示す。今ここに現物があれば三人とも争って買い求めてしまうだろう。

「……う、うんっ お、落ち着け! 二人とも! まずは私たちの屋台の準備だろ!」

 いちはやく正気に戻った魔理沙が欲求耐性(特に食欲)の低いダブル巫女を叱咤する。

「そ、そうね」

「危うく悪魔の誘いに乗ってしまうところでした」

「おや、ヒドい言われようだね。まぁ、ウチの準備もこれからだから待ってもらうしかないがね」

「そうね、私たちも始めましょう」

「ホットドッグよりもたくさん売ってやりますよ」

「なに張り合ってんだよ。取り敢えず頑張ろうぜ」

「今日は食事をとるのも大変なほど盛況になりそうだから後でホットドッグを差し入れさせていただこうか」

「それは助かるわ」

「楽しみだぜ」

「ホントですか! でもワタシ、ホットドッグの早食い大会で優勝したことあるんですよ? 一つや二つで足りると思わないで欲しいですね!」

「ちょっと早苗、図々しいわよ」

「霊夢に言われちゃ終わりだぜ」

「よろしい了解だ、早苗殿には十個用意させよう。どうだね?」

「それ、嘘だったら本気でキライになりますよ!」

「ほう、今まではそれほど嫌われていなかったのかな?」

「え、いや、その……キライの度合いが上がるってことです!」

「では、これ以上嫌われぬよう気を付けるとしようかな? あははは」

 ヒラヒラと手を振りながら軽やかに去って行った。

「ふう、言い負かして退散させてやりましたよ。今回はワタシの圧勝ですね!」

 微妙なドヤ顔で額を拭う真似をする早苗に、これまた微妙に憐憫のこもった視線を浴びせる二人だった。

 ―――†―――†―――†――― 

 インスタント焼きそばはジャンクフードの代表格なので、カロリー摂取以外の栄養素については全く期待出来ない。しかも塩分はやや多め。これを主食にしていれば健全な生活は、ちと難しいかな。生の中華麺でも具がなければ大差はない。
 多目の野菜と少しの肉類(魚介類)を加えることでなんとかバランスの良い料理に昇格できる。それが嫌なら副菜や汁物で補うしかない。
 
「縁日に栄養を求めちゃいけないと思うなー」

「かき氷なんて水だしね」

「一年中縁日で食事していたら長生きできませんよね」

「お祭りだから楽しそうで旨そうでホントに口にしたら、ちょっとガッカリ。これが王道だぜ」

「そうよ、雰囲気込みのお値段なのよ」

「お買い求めの方々には多少のご利益を祈願してあげましょう。それがせめてものナンタラカンタラです」

 なにやら色々と吹っ切るために口に出して確認し合う根が善性な三人。

「ポジションチェックするぜ」

 綺麗な金髪を後ろで一つにまとめ、三角巾を被って長エプロンを纏った魔理沙が、袖をキャストオフし調理用に装いをチェンジした巫女二人に命令する。この場の指揮官はやっぱり魔理沙だった。
 赤と緑は細かい配慮や緊急時のトラブルにあまり向いていない。良く言えば大らかに育ったせいだが、少し悪く言えばチョイと抜けているお姫様気質だからだ。

「三人だとちょい手が足りなくなりそうだから色々兼務するぞ」

 準備に駆り出したカッパたちは既に帰している。

「けんむ?」

「一人が二役も三役もやるってことですよ」

「長いこと一緒だった戦友が実は女で恋におちかけたら本当はラスボスだったって言うアレみたいなヤツ?」

「何を想像してるか知らないけど少し違うと思うな。一人一人があれこれやらなきゃならないってことだ」

「面倒だけど仕方ないわね」

「まずは準備、まあ下拵えだ。肉とキャベツは私が刻むぜ、霊夢は大鍋の湯でどんどん麺の湯通しな。早苗はその麺をカッパにたくさん持ってこさせたボウルに十人前ずつ入れていくんだ」

「つまり十人前ずつ作っていくんですね?」

「麺、肉、キャベツがすぐ焼けるようにしておけば慌てないですむと思う」

「備えあれば嬉しいなってことね」

「そうだな」

「……えーとぉ」

「なによ」

「それ、少し違うような気がするんですが、思い出せないんです」

「常に備えておけば、結果、嬉しいことになるってことでしょ?」

「最終的にはそうなるということで間違っていないんですが…………何でしたっけね?」

「まあ、備えておけば心配しないで済むから良いだろ?」

「あー! それです、それっ! 心配がないって、嬉しいなではなく、うれ……うれがなしで? あれ? ……あー思い出せそうなのに!」

「知っているなら最後まで言えなきゃダメだぜ」

「大体アンタの故事ことわざや格言は肝心なところでポロポロこぼれて役に立たないんだから。まるで穴のあいたゴミ袋みたいよ」

「そ、それ、ヒドくないですか?」

「結局中途半端だな。多分、備えあれば売れ残らない、じゃないか?」

「ちゃんと準備して商売すれば売れ残りもなく損しないで嬉しいなってことね? きっとそれだわ」

「そんなとこだろ」

「うーん、近いようなハズレなような……何だかモヤモヤします」

「時間ないんだから茶々入れんじゃないわよ」

「むー、納得できません」

「続けるぞー。開店したら会計と品渡しは早苗な」

「構いませんけど調理はいいんですか?」

「計算も愛想もオマエが一番だからだ。お客が来ない時は経木にどんどんよそって準備しておいてくれよ」

「私は?」

「霊夢は、ひたすら麺を焼いてくれ。私が肉とキャベツを焼いて足していくからそれを混ぜ合わせてくれ」

「そして?」

「結構な力仕事だぜ、ソースは十人前用に小分けしておくからそれをジャーっとかけてさらに混ぜ混ぜ焼き焼きだ」

「私が一番大変じゃない?」

「焼きそば屋台の花形ポジションですね」

「霊夢じゃなきゃできないぜ」

「……そうかしら」

 説明しよう! 博麗霊夢の思考回路はビックリするほど単純な作りなのだ! 直近の事象の損得、好き嫌い、褒貶だけで簡単に気分が高下するわりと扱いやすいオツムなのだ! だが、ちょっと間違えて怒らせると幻想郷屈指の暴力の嵐が吹き荒れるのだ!

「頼むぜ、霊夢」

「よろしくお願いします」

「ふふん、しかたないわねぇ」

 このように、操縦を間違えなければ実に有用な高出力大型クレーン車みたいな娘さんなのだ!
 
 ―――†―――†―――†――― 

「何やっていたのよ。もう焼き始めるわよ」

「寅丸さんと喋ってましたね? サボっちゃダメですよ」

「サボっていた訳じゃないぜ。寅丸にコツを聞いていたんだ」 

「コツ? なんの?」

「焦がさないためのだ」

「小傘ない? 小傘ちゃんいませんよね?」

「アホ。焼きそばは焦げたらアウトだ。そうならないための心得を聞いてきたんだぜ」

 今回の作業で魔理沙は懸念事項があった。
 いつもの料理とは量が桁違いに多いのだ。二、三人前の焼きそばを作る手順を単純にスケールアップさせれば大丈夫とは思えなかった。何か見落としがあるよう気がしていたのだ。根っこはダブル巫女と同じ大雑把な魔理沙だが、ウイッチクラフトを嗜む彼女は作業工程(レシピ)に関しては妥協したくなかった。
 そこで隣にいる寅丸星に聞きに行ったのだ。純粋な好奇心・探究心を満たすためには妙なプライドや見栄を捨てられる魔理沙はこう言った状況では躊躇がなかった。

「その一!」

 人差し指を立てた魔理沙が少し声を張る。

「鉄板を熱くしてから焼き始めるんだ」

「予熱をきちんとするんですね?」

「そう、ひいた油から煙が上がるくらいにしてから焼き始めるんだ」

「りょーかいしたわ」

「その二!」

 中指を立てる魔理沙。

「麺が冷たいと焦げやすい、麺も温めておくぜ」

「しこたまお湯を沸かしてるのはそのためなのね」

「古い油が落ちて、麺もほぐれやすくなるから一石二鳥なんだ」

「一つのことをして、二つの利益を得るたとえで、元は一つの石で---」

「バカにしてんの? んなこたぁ分かってるわよ」

「その三!」

「まだあんの?」

「霊夢さん覚えきれますか?」

「いちいちうるせーわよ」

「これで最後だ。水分が足りなくなったら当然焦げる。水を足すことも必要だ。しかしここでも水じゃなくてお湯を足すんだ」

「極力温度差をなくすんですね?」

「そうだぜ」

「そんなに難しいことじゃないわね。任せておきなさい」

「霊夢さんが任せろって……」

「いい加減張り倒すわよ!」

「そんじゃ始めるか。しまっていこうぜ!」

「はい!」

「ばっちこい!」

 ―――†―――†―――†――― 

 麺と具を炒めまくりソースを振りかける霊夢。
 仕上がった焼きそばをよそって売りまくる早苗。
 二人が専念できるようサポート全般をする魔理沙。
【美少女ソース焼きそば屋台】は序盤からフル回転だった。

「こちら二人前です! 熱いから気を付けてくださいね」

「ちょっと焦げそうだわ! 魔理沙! お湯!」

「追加の具材、後ろに置いたから気をつけろよ!」

 いやはや目が回りそうな忙しさだが、料金箱がジャリンジャリンと景気の良い音を響かせるので三人ともやる気を維持していた。

 具材は豚コマとキャベツ、青海苔と紅ショウガが少々のいわゆるお祭りの焼きそばだが、お客の反応は悪くないようだ。

『思ったより美味しい』『量の割に安い』

 魔理沙の提案でちょっと上等なソース(さすがにリーペリン製とはいかないが)を使い、盛りを減らさず価格を三百円相当にしたことが大英断だったと言える。

「今のうちに交代で差入れをいただこうぜ。霊夢からな」

 本堂で何やらイベントが始まったらしく、少し客足が鈍ったところで魔理沙が声をかけた。

「ホットドッグ楽しみだったのよ」

「ひいふうみい……ちゃんと十個ありますね。よしよし」

「ホントに十個食べるのかよ?」

「余裕です」

「おーいしー!」

「早いな」

「ソーセージがパリッと肉汁がジョパー! 脂が甘いのよ! そして酢っぱ旨いソースが肉にもパンにも合うわー」

「ざっくりした感想ですが、美味しいことは分かります」

「さすが命蓮寺製だな。でも交換で持って行ったウチの焼きそばもイケてるみたいだぜ」

「そうなの?」

「ああ、ナズーリンが『イベント焼きそばでは秀逸だ』って言ってた」

「それ、ほめてるんでしょうか?」

 ―――†―――†―――†――― 

「売れ残りそうだぜ……」

 本日の現場指揮官が呟いた。

「なーんで二十人前も追加で焼くかなー、れーむぅ」

 最後の追加が余計だった。
 祭りがお開きになる直前、まだま売れる、まだ儲かると欲をかいた霊夢が魔理沙の隙をついて大量投入したのだ。

「在庫一掃できるんだから良いじゃない。あとは売るだけでしょ」

「その売る相手がもうほとんどいないのが問題なんですけどね」

 お客はほとんど帰路についている。

「カッパあ!」

「なんだよ霊夢、ワタシたち焼きそばかなり食べたよー」

「まだいけるでしょ」

「さすがにもう飽きた」

 そうだそうだと口を揃える十人ほどのカッパーズ。

「お隣はもう片付け始めてるぜ」

 命蓮寺のホットドッグは予想通り好評でほとんど残らなかったようだ。

「パンが少し残っているようですが……あ! そうだ! そうですよ!」

「なんだ大きな声出して」

「あのパンを譲ってもらって焼きそばパンにしましょう! 風味が変わりますからイケますよ!」

「焼きそばパン?」

「はい、ソース焼きそばをコッペパンに挟んだモノです」

「焼きそばは麺だろ? それをパンと一緒に食べるのか?」

「そうです」

「随分と頭の悪そうな食べ物ね」

「な、なんですとっ!」

 女学生だった頃の早苗の下校時のオヤツは総菜パンであり、焼きそばパンは大好物だった。そのソウルフードを全否定され、体中の血が沸騰するほど大激怒だ。

「まあ待てよ。うーん、少しソース味を濃いめにすれば面白いかもしれないぜ?」

「どーだか」

「そうと決まればパンを確保です!」

 コッペパンは簡単に譲ってもらえた。ソースを足してちょいとしょっぱめにした焼きそばをパンにはさむ。

「これが総菜パンの傑作、焼きそばパンです!」

「主食に主食って正気を疑うわね」

「いーから食べてみてください」

「はいはい」

「じゃあ私も」

 モグリ モグモグ

「……イケるな」

「なんだか悔しいわね」

「おいしそうだねー。ワタシらももらおうかな」

 焼きそばパンはカッパたちにも命蓮寺メンツにも好評で奇麗さっぱり完売したのだった。


 ―――†―――†―――†――― 

「ねえ、霊夢」

「なによ」

「また実験に付き合ってくれないかな?」

「アンタ……本気で言ってんの?」

「今度は大空はばたく紅の翼なんだ。空中でドッキングするんだよ」

「どっきんぐ?」

「そう、ドッキング」

「それはロマンですねえ」

「知っているのか、早苗!」

「それ、もう良いですから」

「予め空を飛んでいる霊夢に、後ろから紅の翼が追っかけてきてドッキングして、その瞬間、音速を超えるスーパーロボット……じゃなくてスーパー巫女の誕生だ! この広い空は誰のもの? キミのものだ!」

「ふーん、面白そうね。紅ってのが良いわね」

 この娘は学習能力が足りていない。かなり、決定的に。

「でしょー?」

「早苗、どした? 言いたいことがあるのか?」

 ブツブツ呟いている緑巫女に声をかける。

「ジェットスクラン●ーですか……その登場の前の三話にわたり空飛ぶ機械獣に苦戦を強いられたZ、視聴者は、Zが飛べたら……いや、飛ぶべきだ、飛ばなきゃならないんだ! と煽りに煽ったところで満を持してあの勇壮なテーマソングとともに射出されるジェットスクラン●ー! そしてドッキング! リアルタイムで視聴していた子供達の人生に大きな影響を与えたあのシーン! 新兵器の投入はかくあるべし! 模範解答はすでにあったのです! 以降、ロボット物でアレを超える新兵器登場シーンが出て来ないのは怠慢と言わざるを得ません!」

 拳を握りしめて強言するロボッ娘。

「ちょ、落ち着けよ」

「劇場版も良かったです。序盤、デビル●ンたる不●明が兜甲●に『オレならマジンガーを空から攻めるね』と不敵に言い放ち、当時飛行手段を持たなかった兜甲●が悔しそうにしているんです。でも、クライマックスではジェットスクラン●ーを手に入れたZがその翼でデーモン族を薙ぎ払いながらピンチに陥ったデビル●ンを助けるんです! 胸熱とはコレなんですよお!」

「熱量は伝わってきたけど、そのジェットスクラブって空中でドツキあいするんだろ? 飛んでる者同士っていかにも危なさそうだぜ?」

「ジェットの力で古い角質や皮脂汚れを落とすんじゃありませんよ! ドツくんじゃなくてドッキングです!」

「その紅の翼が霊夢にぶつかって大爆発すると思うな」

「魔理沙! なんてこと言うんだよ!」

 カッパのエンジニアが食って掛かる。

「ドッキングはロマンですよ!」

 ロボットロマンチストの援軍が叫ぶ。

 ---後日この実験が実施されるか否か。
 ---まあ、どうでも良いですな。



       閑な少女たちの話    了
 紅川寅丸です。生きています。季節外れの縁日ネタですがシリーズものなのでご容赦くださいね。
 紅楼夢にサークル参加します。【お-33,34】です。
 紅川の新刊はありませんが、相方(小龍)の新しい漫画や絵本がありますのでよろしかったら声をかけてくださいませ。
紅川寅丸
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