Coolier - 新生・東方創想話

昨晩の食事に関する説明と内容、および友人の反応について

2021/10/25 01:23:47
最終更新
サイズ
11.08KB
ページ数
1
閲覧数
2061
評価数
12/16
POINT
1380
Rate
16.53

分類タグ

 人を驚かすというのは我らお化け系妖怪の本能にして本質であるからして、それが行えなくなるというのは生死に直結した一大事であるのですよ!いいですか!
 って、言ったらなんていったと思いますか!

「ほーん」

 思わずぶーたれましたよ。

「全っ然申し訳なさそうにしないんだねえ、マジで」

 場所はね。天狗の里の外れのお茶屋さんです。(#^ω^)ピキピキと怒りながらも優しくわかりやすく丁寧に説明をしたはずだったのに、相手は鼻の頭を指でコリコリ掻いてすっとぼけやがったのでございます。
 まあ、いつもながら図太い図太いなこの現人神はとぶつくさ言いながら、私は、唐傘お化けの多々良小傘はアッついお茶をずずずとすすったのでありました。ああ、すっぱと晴れた秋の空がきれいだなって。

 はい。

 とりあえずですね。私が常に帯同している唐傘。これが本体だとか分身だとかいろいろ憶測もありますが、喫緊の問題としてこの子がぼっキリと折れてしまったのでございます。いつも私がつかんでいる柄の部分が、ボキりと。
 折れた原因なんてそんな大層なもんじゃあないです。守矢神社の早苗さんが弾幕ごっこ中に大幣で殴り掛かってきたのを受け止めただけなんですから。受け止めた私も悪いんでしょうね。きっとね。
 妖怪が使っている道具なんで、まあ、放っておけば治るわけです。そのうち復活するんです。早ければ一晩寝りゃ治ってます。でもね、でもですね。今回は殴られた相手が悪かった。仮にも神職の早苗さんが、めちゃくちゃ神通力込めて殴ったんですもの。なんかちょっとした妖怪なら一撃で浄化されかねない霊力を込めてね。私吹っ飛びましたよ。湖まで吹っ飛びましたよ。ええ、守矢さんちが山に引っ越してきたときに一緒に持ってきた湖まで。ホールインワンでびしょ濡れですよ。
私ね、当然怒りましたよ。何するのって猛抗議ですよ。でもね。あの巫女、すました顔してなんて言ったと思います?

「死ななかったか」

酷いと思いません?友達に、おもっきり殴り掛かって死ななかったかとか。それなりにね、付き合いだって長いんですこっちは。私付喪神ですし。人間だってだぁい好きなんですよ?だからあの子の初めての妖怪退治の時から付き合ってあげてますもん。仲だっていいんですよ。稗田さんちの本に私が守矢神社に入り浸ってるって書かれるくらいには公認で仲いいんですよ。それを、木っ端妖怪なら一撃必殺の霊力で吹き飛ばすとか、わたしびっくりしてびっくりして。
 

 話が長い?

 あ、いえいえ、失礼しました。どこまで話しましたか。不遜な早苗の話と、殴られた話と、傘が折れた話。
 殴られた話ばっかりしないでほしいな?あ、すいません。いえ、ちょっとショックだったので。
 とりあえずですね、早苗に殴られたんでいつもの傘が折れたんです。はい。なので、私は今宵、一人きりでお邪魔しているのです。
 あの傘がトレードマークでありますし、一心同体なわけですので、傘が無い今日の私は半人前なんですよ。それでもね、並みの妖怪とは違うのです。わたし。ただの付喪神ならこんなことできませんよきっと。
 さっきも言いましたね、本体か、分身かいろいろ憶測があると。まあ、私の正体は先ほども申した通り付喪神ですので、生まれまでさかのぼれば当然傘なわけです。

 かさがぁ、っと、すいませんちょっとムセましたね。んっ。傘が、私みたいなお化けになるにはどんな出来事が必要だと思いますか。
 長く使われる?そうです。それは第一条件ですね。我ら付喪神が付喪神たるゆえんはやはり古道具であること。長く長く使われて汚れも匂いも人間の感情も、存分に吸い上げ染み込み塗りこまれてようやく完成する道具の最終形態なのです。
 でもね、傘って壊れやすいんですよ。ちょっと風が吹けばめくれるし、何かにぶつかっただけで骨が折れるし、ちゃんと乾かさないとカビます。陶器のお皿や鉄瓶なんかとはわけが違うんですね。唐傘はばっちり植物性素材、普通に考えればエコですよエコ。‥‥エコ?捨てても平気って意味です。たしか。

 そーんな、壊れやすい傘がお化けになるには何が必要か!私が問うているのはそこなのです。冒頭の暴力的早でずむ巫女のような乱暴な人間の魔手を逃れ、壊れず長年使われるというためには何が必要か。

 わかりませんか?

 単刀直入に申しましょう。愛です。愛。
 ‥‥信じられないって顔をしましたね。
 好きなだけならだめなんです。‥‥魚好きですか?ええ。お魚。好き?おいしいですもんね。お宅の金魚愛してますか?かわいい?愛してるかも?ですね。ならお世話しますね。その違いです。

 そんな私を愛してくれた方がいらっしゃったのですよ。ええ。道具時代の私ですから、こんな美少女が付いていたりしてない私です。
 自分で言うのかって顔しましたね。正直で結構。

 とにかく。とーにーかーく。こんな茄子色の古びた傘を大事に大事に愛して使ってくれた方がいらっしゃったんです。だから、私は長く壊れずに使われ続け、ついには付喪神となることができたのですよ。

 また話がそれた?あ、それは申し訳なく。

 えー、傘が折れた話、早苗に殴られた話、私が付喪神になった要因は愛、というお話。
 いいから本題に入れ?なんで今日ここに来た?

 あ、そうですね、そうですね。ちょっと、ゆっくり話すのも久しぶりで楽しかったもので、つい。
 
 今日はですねお食事をしに来たのですよ。
 なに、ここは食堂じゃない。
 ええ。存じております。
 冒頭申しましたね。人を驚かすというのは我らお化け系妖怪の本能にして本質であるからして、それが行えなくなるというのは生死に直結した一大事であるのですと。
 つまりはですね、あなたを驚かしてお腹を満たそうと今夜お邪魔したわけなのです。

 おーどーろーけー。

 ‥‥こんなので驚いてくれるなんてさすがに私も思っちゃいませんよ。今のは挨拶代わりという奴です。
 さて、驚かすというのは予想もしなかった出来事が起こるからこそできることでありまして、通常こんなゆっくりお話ししているときに驚かすなんてことはね、普通しないんですよ。

 あ、警戒し始めましたね。なかなか用心深い。
 いま、あなたとこうしてお喋りしているところで、あなたが驚くネタを仕込まなければならない。そうしたときに、今の私というのは大変無防備で準備が足りていない。
 視覚的にびっくりする一つ目の傘はないし、ひやりと感覚的に刺激する大きな舌もないわけです。目の前でこうやって話している以上、突然大声をあげて聴覚的に驚かせることもできない。
 私にとってはこの状況は大層久しぶりなわけです。道具に頼らず身一つで驚かし、相手の心を味わえるか。傘も折られて妖怪的には怪我もしていますしね。俗にいう“りはびり”という状況なわけですね。

 もう無駄だから帰ったほうが良い?
 
 いやいや、もうちょっとお付き合いくださいよ。障子閉めないで。
 この状況から、わーっと悲鳴を上げるくらいに驚かせる方法です。貴女ならどうしますか?
 いうなればですね、隣に座っている仲のいいお友達とおしゃべりしている最中に、突然どーん!と驚かす方法です。

 何か思いつきますでしょうか。

 目を突く!‥‥早苗みたいなこと言いますね。近頃の人間は物騒です。そんなの、お友達が怪我しますよ。だいたい、それがいいですね!って私が言った瞬間、私があなたの目を突くかもしれませんよ。‥‥ハッとした顔しないでください。あなたもちょっと迂闊ですね。

 他にはないですか?
 突然怖い顔をする。ふむ。一つ目になる。ほう。確かに私はお化けであるからして、姿かたちというのはある程度変えられます。
 でもね、そんな基本中の基本、するならさっさとしているのですよ。何年お化けやってきたと思っているんですか。

 ちょっと、夜風も冷たくなってきましたしね、お邪魔してもイイですか?
 下駄は脱ぎます。とうぜん。窓の外に浮かんでいるのもなかなか大変で。
 あ、どうもどうも。可愛いお部屋ですね。

 さて。正座というのは気持ちが引き締まりますね。お話の続きとまいりましょう。
 というか、あなたもなかなか胆力がありますね。夜中にお化けとおしゃべりするどころか部屋に入れてしまって。今ね、私とあなたは勝負しているわけです。私が驚かそうとしていた方法を言い当てて驚かせを失敗させないと、私はあなたを驚かしてしまうのですよ。
 ‥‥今頃気が付いたんですか?え?言われなかった?迂闊にもほどがありますよ。

 うふふ。ああ、なんだかいい顔になってきましたね。警戒し始めたのはいいのにあっさり私を家に入れた迂闊さを悔いていますね。非常によろしい。妖怪的においしい。
 さて、私があなたを驚かす方法、どうやろうとしていると思いますか。
 そんな難しい話じゃないです。手がかりだって、もう喋ってますよ。
 ‥‥おお、必死に考えていらっしゃる。
 手がかりなんて嘘、とは言いません。ウソかもしれないといって惑わせるのもありですね。
 混乱させないで?私お化けですもん。人間だぁいすきなお化けです。うふふ。

 私に驚かせられたらあなたはどうなってしまうでしょうか。
 とりあえず悲鳴をあげますね。そしたらご両親も起きますね。隣近所の方々もあなたの悲鳴を聞いて起きるかもしれません。そしたら、そうですねえ。多分怒られますねえ。滅茶苦茶怒られますねえ。だって、こうやって夜中に遅くまで起きててお化けとおしゃべりした挙句に家の中に入れちゃったんですよ。人喰い妖怪だったらどうするんでしょうね。

 ん?
 あ、ちょっと青ざめましたね。何に気が付きました?
 人喰い妖怪。
 んー、まあ、たとえ話ですから。基本的にね。私付喪神ですし。

 ‥‥さて、どうでしょう。思いつきません?
 緊張してますね。大丈夫、私は手ぶらです。種も仕掛けもないです。お供も居ませんから。
 じゃあね、今日した話を整理しましょう。
 早苗がさでずむな話。早苗に殴られた話。いつも持ってる傘が折れちゃった話。私が付喪神になるには愛が必要だったという話。好きと愛との違いのお話。

 ん?
 人間が好きか?
 ええ、好きですよ。
 人間だぁいすき。

 あら、なんでそれで青ざめるんです。
 後ろに下がらないで。もっと近くでお話ししましょう。
 
 私人間好きですよ。ええ。あなたがお魚好きなように。


 オイシイ人間だぁい好きですよ。


 なんで逃げるんです?
 だめです。大きな声出したら、ご両親に気付かれてしまいます。
 うふふ。
 はい捕まえた。

 
 あなたも迂闊ですねえ。
 好きと愛の話で気が付くべきでしたねえ。
 なんなら、もっと前の早苗が私を消し飛ばそうとした話で気が付くべきでしたねえ。
 守矢の巫女さんは私を危険視していたのですよ。殺そうとしていたのですから。
 
 私が本体か唐傘が本体か、一説にはね、私は疑似餌だっていう方もいらっしゃいます。
 かわいい女の子の姿で、人間を油断させるための。

 おいしそう。
 ああ、震えてますねえ。さでずむというのもなかなか愉快です。
 
 さてさて、どこから頂きましょう。
 お耳かな。
 お鼻かな。
 それとも柔らかいほっぺかな。
 つるつるのお目めかな。

 お顔食べたら、体は持っていきますね。
 傘の柄、折れちゃったんで、新しい柄になってもらいましょう。
 なに、心配いりませんよ。

 私とずっと一緒ですから。
 愛してあげますよ。

 じゃ、
 いっただっきまぁぁぁぁーーす‥‥



「ってぇ驚かし方をしてきたの」
「‥‥勝手に私を登場人物にしないでください」
「傘なしで驚かすのも久々だったからなぁ。上手くいったー」

 昨晩のお食事の話を自慢したら早苗は露骨に嫌そうな顔をした。
 折られただの乱暴者だの言ってきたしね。そこはごめんなさい。

「自分を別の妖怪に偽るのはお化けとしてどうなんです」
「別に偽っちゃいませんよ。“わちき”の顔見せて、唐傘お化けというのを前面に出したからこその人喰い妖怪とのギャップがどでかく生まれたんだから」
「‥‥女の子は?」
「耳たぶをハムっ、と咥えたら気絶しちゃった」
「‥‥妖怪の食事だし、今回は人命も奪われてませんし、だいたいその女の子も迂闊なんでとやかく言いませんけど。あんまり派手にやるようなら退治するからね」
「へーい」
「軽い」
「りはびりだもん。りはびり」
「やりすぎは承知しないから」

 なんか眉間に皺を寄せつつ、ため口な早苗。言っとくけどね、あたしは早苗よりずーっと年上なんだからね。
 ふん、と鼻から息を吐いたら、早苗がじっとこっちを見ていた。

「なに?」
「いえね。今はともかく、昔はどうだったのかなと」
「ん?」

 ずびし、と刃物みたいな大幣が私の首に突き付けられた。おもわず唾をのんでゴクリと喉が鳴る。
 早苗の目が、蛇みたいになってた。

「唐傘の柄にされた、かわいそうな人間はいたのかしら、ってね」
「‥‥今の早苗も、人間食べたことありそうな目をしてるよ」

 おどけてみた。早苗は笑わなかった。

「切り離してほしいなら、いつでもやってあげるから」
「やめてー」
「‥‥ま、別にいいけど」

 早苗の目が元に戻る。大幣を傍らに置いて、お茶をずずっと啜った。
 ふうー、と長い息が出た。
 こわいこわい。早苗のご先祖は祟り神だっていうけど、すごいね、遺伝ってのは。
 とりあえず、これだけは聞いてみる。

「早苗は人間好き?」
「好きですよ」
「私と同じだね」

 早苗は何も言わずにお茶を啜った。
 爽やかな秋晴れの午後だった。


口が達者で底知れない小傘さんも好きです。
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.200簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
面白く良かったです
3.100名前が無い程度の能力削除
二転三転して煙に巻きながらも最後にもしやという恐れを残す言い回しが良かった
小傘の女の子部分は昔食べられた人間の子なのかもしれない…みたいな

5.100名前が無い程度の能力削除
心地良い妖怪然とした物語に、段々と薄ら寒くなってくる語り口が奇妙に合致していて良い読み心地でした。良かったです。
6.100ヘンプ削除
面白かった!小傘の意外性が見れてとても良かったです!驚かすのがとてもお上手!
7.100南条削除
面白かったです
新たな道を模索する小傘が新鮮でよかったです
これは怖い
8.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。口が達者な小傘もいいものですね。
9.100名前が無い程度の能力削除
だめだめ小傘もいいけどこういうのも好きですね
10.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
ギャグから入ってシリアスな流れに持って行き、ある程度予想できるオチが通過した後にもうひと捻り背筋が寒い展開が用意されていて、良い構成だと思いました。
こがさな助かりました。有難う御座います。
12.100名前が無い程度の能力削除
その辺の妖怪なら一撃で浄化される攻撃を折れた傘が治りづらい程度の状態で済んだという描写や、昔は驚きを頂くだけでなくもしかしたら人間自体も…と思わせる記述から分かる恐怖性や持ちうる力も込みでの多々良小傘という妖怪が持つ底知れなさをひしひしと感じさせてとても良かったです
第三者から見ても守矢神社へ入り浸ってると思われてる小傘ちゃんや思いきりタメ口で小傘ちゃんと喋る早苗さんから感じる関係性の長さが心地良いこがさなをありがとうございます
13.100めそふ削除
とても面白かったです。
斬新な語り口調、落語でも聞いてるのかなってくらい話をするのが上手い小傘にびっくりしました。最初はギャグ風味なのかなと思いきや、段々相手を不安にしていく手法が素晴らしくこちらとしてもまさかな…なんて思ってしまう程です。結局小傘ちゃんは小傘ちゃんで脅かした程度で安心したのですけど、こんな有能な脅かし方する小傘ちゃんも最高にいいななんて思いました。
14.100サク_ウマ削除
良かったです
16.90ラレ削除
小傘ちゃんかわいかった