Coolier - 新生・東方創想話

お酒?いいえ、供物です

2021/10/08 23:41:25
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 神社はいつも通り。里からの参拝客はいない。一柱がおわします横で、狛犬と、神社の主たる私くらいね。魔理沙は私に就任21年のお祝いだと言って、土間で料理を作ってくれている。あうんが時折手伝ってるけど、今は私と一緒にここにいる。私はといえば、ちゃぶ台で魅須丸さんのアンケートを受けているところ。突然、障子が開く。誰も彼も、私の神社なのに私への敬意が足りないのよ、どんな無礼者が入ってきたのかしら、と思ったら
「華仙かい」
いつ現れても服装に一糸の乱れもなく、俗世とはかけ離れていそうな容姿には似つかわしくない、仙人には本来必要ないであろう欲の権化を手に携えて現れたのは、仙人の茨華仙。
「あ、華扇さんだ」
「これはこれは、茨木華扇君じゃないですか。相変わらず面白いことしてますね」
「えっと、魅須丸さん?」
今、魅須丸さんさらっと華仙の本名言ったよね。わけあって看過するわけにはいかないんだけど、魅須丸さんも、どうかしましたかと言わんばかりに、純粋そうな目で見つめてくる。今完全に板挟みなんですけどどうすれば良いの。頭が追いつかないし回らない中、
「霊夢、この方って魅須丸さんって言うの?」
と華仙が耳打ちしてきた。頭が回らないのでただうなづくしかなく、でも、私の反応を見て、華仙がやたら流暢に
「玉造部殿、お初にお目にかかります。仙人の茨華仙と申します。以後お見知りおきを」
と返す。魅須丸さんの純粋そうな目が困惑した目に変わるのを見て、遅まきながらやるべきことを理解したので、
「茨華仙がどんな御用で?」
と返す。
「魔理沙からちょっと依頼があったので」
「魔理沙さんなら今土間にいますよ。もう少しで手が空くと思いますから、ここでゆっくりされては?」
「ありがとう、そうさせてもらいます」
「あと、お荷物のお酒もお預かりします」
手に持っていた欲の権化をあうんに預けた華仙が、ちゃぶ台に座る。
「茨……華扇君、ですか」
「えぇ、茨華仙という仙人です」
「玉造部様、この方は、確かに華扇さんですし、仙人の茨華仙さんですよ」
ようやく魅須丸さんが納得してくれたようで、困惑した目がいつもの様子に戻った。

 突然、板戸が開く。土間につながる板戸だから、わざわざ見なくても誰が開けたかはすぐ分かる。
「あうん。悪いがちょっと運ぶの手伝ってくれ」
魔理沙がわざわざ割烹着を着て土間に、それも長い時間立っていたのだから、これから運ばれてくる料理に期待するなという方が酷というもの。
「分かりました。今行きますよ。あと、華扇さんとお酒も来ましたよ」
華仙の持ってきたお酒とともに狛犬が土間に吸い込まれ、私たちを遺して行く。いやまぁ、すぐに戻ってくるんだけど。
「はいお待たせ。思ったよりかかっちゃったな」
と言いつつ出てきたのはもちろん魔理沙。重そうに抱えているのは重箱?見た目からするに、咲夜が使ってるやつを借りてきたのかな。
「魔理沙さん、よくそんな量持てますね。普通何回かに分けますよ」
続いてあうんも戻ってきた。大きめのお盆の上には盃と土瓶とおちょこと、すだち?あうんの手で素早くちゃぶ台に並べられていく。
「あら私の分まで、わざわざごめんね。ただお酒持ってきただけなのに」
「いやいやそんなことはない。なんせ幻想郷きってのお酒の目利きにお酒を選んで持ってきてもらったんだ。それ相応のおもてなしをしないとな」
並べられたのはちょうど5人分だから、確かに華仙の分も入ってる。作る手間がとてつもなかっただろうことは容易に想像できるし、そりゃ華仙も申し訳無さそうにお礼を言うよね。
「えっと、魔理沙、重箱開けてもいいかしら」
「もちろんいいぜ!」
返事を聞き終えるより早く開いてしまった。美味しいこと間違い無しな料理を前にどうして待てよう。
「すご……」
思わず絶句してしまった。分かってはいても、魔理沙の本気の料理を目の当たりにするとただただ驚かされるばかり。ぱっと分かるだけでも、小松菜のおひたし、ナスのお酢?の餡かけ、お魚とパプリカの南蛮漬け、舞茸と焼ネギと木の芽、ウド?とフキの酢漬け。重箱の中に、お酒が進みそうなものがたくさん。
「作るの相当大変だったでしょう。お疲れ様」
「魔理沙さん、作っている最中のこだわりっぷり凄かったですもん。そりゃ出来上がりも素晴らしいものになろうというもんです」
みんなも口々に魔理沙を褒めてる。
「本当は懐石みたいに順番に少しずつ出したかったんだがな。それだと私が食べられないからな。だから重箱に詰めさせてもらった」
「土瓶に入ってるのは土瓶蒸しだ。山の最高級らしい松茸を使ったから、お好みですだちで味を変えてもよし、どう楽しんでも美味しいはず。香りが飛ぶ前に早めに召し上がれ」
魔理沙、ちょっと説明長いよ。
「食べてもいい?」
「もちろんだぜ!霊夢、就任21年おめでとう!」
「おめでとう!」
「ありがとう!それじゃ、いただきます!」

 華仙が持ってきたお酒は日本酒だった。華仙のお酒って、いつもは翌日まで記憶を無くしてそうな強さなんだけど、このお酒は人間の私でも潰れなさそうなくらい。
「それにしても、華仙の選んだこの日本酒、本当によく料理に合うわねぇ」
「本当そうだよなぁ。強すぎず弱すぎず、適度な辛さとほのかな甘みで、料理と交互に緩急がつく。お酒と料理の両方に舌が肥えてる華仙はさすがの目利きだなぁ」
「いや本当に、どんな半生を送ったら、華扇さんはこんなにお酒に詳しくなれるんだか。羨ましい限りですよ」
楽しいお食事は美味しいお酒から。萃香とかに用意させたらろくなことにならないから、お酒の目利きが上手いのは本当に素晴らしい。でも華仙は
「いやー、お酒を鑑賞する皆さんが一流だからこそ、お酒はその真価を遺憾なく発揮するのです」
と謙遜する。本当によく出来た仙人。出自が出自なら、とっくに天人になっていたんだろうな。そんなことをしみじみ思っていると、あうんが何かに気づいたらしい。
「そういえば玉造部様は、お酒に全く手をつけていらっしゃいませんね。全く減っていませんよ」
確かに魅須丸さんの盃を見てみると、他の人と違ってお代わりしていないのに最初に注がれた量のままだ。
「よく見ていますね、あうん君」
「私観察好きなんで」
確かにあうんは観察好きって自分で言ってたけど、てっきり数式とか文章のことかなと思い込んでた。人の様子を観察するのも好きなのね。
「明日の創造に支障が出ますから、お酒は飲みませんよ」
「随分お堅いですね。玉造部殿は生真面目な方と伺ってはおりましたが、これほどとは」
「華扇君、職人たるもの創造には万全の調子で臨まねばならんのです」
畜生界で出会った埴安神もそうだったけど、物作りの神には独特の信念があるのよね。私は適当な巫女だからなかなか理解しきれないけど。
「実験をする魔法使いの端くれとしてはとても耳が痛いんだが、それはそれとして魅須丸少し堅過ぎないか?」
「魔理沙君、君も魔法使いなら、本業に酔って臨んで事故を起こしたらいつもより悲惨なことになるのは分かりますね?」
「ずっと気を張り詰めたままではそれはそれで事故を起こすぞ。酔って休んで気を緩める日があっても良いと思うが」
「魔理沙君、君は人間だからいいが、玉造部であるところの私にとって、創造とは私の趣味でもあるが、私が存在して良い理由でもあるのですよ。だから、そう簡単に創造を止めるわけにもいきません」
「『そう簡単に』ってことは、しっかり段取りを踏めば、このお食事を何倍も楽しくさせてくれるこのお酒を飲むことも出来なくはないんだな。勿体無いぞ。お食事だけ楽しむのは」
魔理沙もちょっと酔いが回ってるのか、意固地になってる気がする。まぁでも、現人神でもなし、神様が下戸ってことはないだろうから。多少飲んでもらうくらいなら大丈夫かな。そう思っていると、魔理沙が私の肩に手を当て、耳に口を近づけてきた。そして
「巫女の霊夢から神様の魅須丸への供物という形にしてやれ。多分そうすれば魅須丸も正当な段取りを踏んで飲める、ってところだろう」
と囁いてきた。ちょっと魔理沙と魅須丸さんの知恵比べみたいになってきてるし、ここは魔理沙に肩入れしよう。そう思って、体を起こして、収納から、神事にも使える盃を取り出す。魅須丸さんの盃からお酒を移して、
「魅須丸さんへ、博麗の巫女より供物をお供え申し上げます」
と盃を差し出した。
「はぁ、魔理沙君、君は本当に頭が回りますね。頂き物ということであれば仕方がありません。供物なんていつ以来か分かりませんが」
魅須丸さん、仕方がありませんとか言いつつも、明らかに満更でもない表情。魔理沙は商家の生まれだけあって本音と建前の扱いには慣れてるのかなと思ったり。だからこういう提案ができる?
「供物ということなので、すぐにいただきますね」
そう言って魅須丸さんが供物を飲み干す。いくら適度な辛さとはいえ、盃を一気に飲み干すのはやはり人間ではなく神様のなせること。
「確かにお食事に合いますね。でも、あまり飲むと本当に明日に影響出るので程々にしておきます。仙人の華扇君も魔法使いの魔理沙君も、何より、博麗の巫女たる霊夢、お酒は飲んでも呑まれてはいけませんよ」



 翌日の魅須丸さんは普段からは考えられぬほど霊夢に甘え倒したそうな。めでたしめでたし?
今回は、創作料理の有名店「NARISAWA」が昨今のご時世の影響で始めた、家庭向けオードブルセットにインスピレーションを受けて書きました。作ってから時間が経っているにも関わらず引くほど美味しかったので、「COVID-19はただの風邪!」って宣言できるくらい我々が平穏を取り戻したら行ってみたいですね。予約取れるか分かりませんが。
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コメント



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4.90ガニメデ削除
するすると面白く読めました。玉造部の魅須丸が博麗神社に自然に馴染んでいて良いですね。神社のふとした一幕が垣間見えて、とても良かったと思います。
7.70夏後冬前削除
PC表記だと鬼のように見づらいですが、わりとすっきりした感じの文章で変に気取らない感じが好みでしたし料理美味しそうで良きでした
8.100南条削除
面白かったです
土瓶蒸しが食べたくなりました
9.90名前が無い程度の能力削除
生真面目な魅須丸がかわいらしかったです