Coolier - 新生・東方創想話

首を長くしてその日を待つ

2021/03/19 13:23:20
最終更新
サイズ
11.81KB
ページ数
1
閲覧数
527
評価数
7/11
POINT
890
Rate
15.25

分類タグ

1

「お前も草の根妖怪ネットワークに入らないか?」
「入らない」
 押しが足りないのかもしれないと思って、精一杯高圧的に勧誘してみたのだけど、にべもなく断られた。がっくりきた。ただ私が慣れないことをして恥をかいただけだ。
「なんでよー。入ろうよー。楽しいよー」
「面倒くさい」
 蛮奇は戸に寄り掛かって腕と脚を組み、尊大な態度を崩さない。なんでそんなに偉そうなんだ。
「めんどくないよー。気が向いた時にちょろっと会合に参加するだけでいいからさ」
 食い下がってみたが、もはや目も合わせてくれない。悲しい。泣いちゃうぞ。
 不意に冷たい風が吹き荒れて、戸がぎしぎしと音を立てた。耳を隠しているフードが外れないように手で押さえる。
 蛮奇の家は、人間の里の中でも人通りの少ない区域に建っているが、かと言って油断はできない。人間は怖いものだ。
 ちなみに蛮奇は赤い着物に黒い半纏を羽織って、マフラーで首を隠している。知っていなければ人間と区別はつかないだろう。もっとも、そうでなければ人里で暮らすことなどできないのだが。
 その蛮奇をよく見ると、平然とした顔をしつつも身体は寒さに震えていた。強がっているのか、はたまた頭と身体で感じる温度が違うのか。
 寒さで弱っているところに追い討ちを仕掛けるつもりで、勧誘を再開する。
「蛮奇だってさ、人里で一人で暮らしてると、里の外の情報とか入ってこなくて不便でしょ?草の根ネットに加入すれば幻想郷各地から色んな情報が回ってくるよ。便利だよー」
 今度は具体的なメリットを提示してみた。どうだ。乗ってこい。
「別に不便じゃないし。むしろ情報多いと疲れそう」
「うえぇぇぇ」
 返り討ちにあった。もうこれで何回勧誘に失敗しただろう。そろそろ靡いてくれてもいいんじゃないか。お情けでいいから。私の心を労ってくれ。
 心が折れたので戸口にへたり込んでめそめそしていると、蛮奇が隣に座ってきた。今更なんだよう。
「影狼は何でそこまで、私をそのネットワークに入れたがるわけ」
 蛮奇はこっちを見ずに、正面を向いたまま話しかけてきた。なんでよ。こっち見てよ。
「仲間は一人でも多い方がいいじゃない」
 私は答えた。群れで生きる狼の本能なのかもしれないし、ただの私個人の気質なのかもしれない。とにかく私は仲間が欲しかった。
「あと、なんか、なんだろ。放っておけないんだよね、蛮奇のこと」
 自分でも理屈は説明はできないが、私の狼としての嗅覚が確信していた。蛮奇は一匹狼とは違う。一人にしておいてはいけないのだ。
 蛮奇は少し困ったように眉を寄せた、気がする。マフラーで隠れて、表情が見えづらい。心の壁を具現化しているかのようだ。
 だが私は知っている。心に壁を作るのは、心が弱い証拠なのだ。本に書いてあった。
「私達は弱いんだから、一人でいちゃ駄目だよ。集まっていれば死ににくいよ」
 一人でいると、死にやすい。それは、私がこれまで生きてきて得た、数少ない経験則の一つだ。
 一人でいるよりも、つながりを持っていた方が、身を守るための情報や、いざという時の逃げ場所を得ることができる。
 強い妖怪なら、本人が何もせずとも、その力に惹かれた存在が集まってくる。放っておいても様々なつながりができていく。
 人間は弱すぎて、一人では生きることもままならない。そのため、家族や村といった、つながりを保つための仕組みが発達している。
 私達はそのどちらとも違う。一人で生きていくことができる程度には強いが、他者を惹き寄せる程の強さはない。一人で生きて、一人で消えるだけの存在だ。そうならないためには、自ら行動しなければならない。同じような立場の仲間を見つけて、寄り集まるしかないのだ。
「集まれば死ににくい、っていうのは、分かる」
 蛮奇は遠くを見ながら言った。
「でも、私は里の外に興味無い」
 蛮奇の視線の先を追うと、そこには人間の家族の姿があった。
 もしかしたら、蛮奇に必要な仲間は、私達ではなくて、人間達なのかもしれない。そんなことを思ったら、喉の奥から何かが込み上げてきた。それは遠吠えの形になって、外へ出ようとする。
「あおーーーん」
 怒られた。

2

「うらめしやー」
「表はユダ」
 夕暮れ時、空から人間の里を眺めていたら、見知った赤い髪が路地裏を歩いているのを見かけた。近寄って脅かしてみたけれど特に驚く様子もなく、いつもの返事が淡々と返ってきた。
 裏切り者なのに表なところが気に入っている、と以前言っていたが、結局ユダとは何なのか、私は未だに分かっていない。
「また不審者ごっこしてたの」
 マフラーを風にはためかせながら、呆れたように声をかけてくる。
「ベビーシッター!ベビーシッターです!」
 不審者ごっことはなんたる言い草。そのごっこ遊びは多分めっちゃ楽しいから今度やろうね。
「誰がやるか馬鹿」
 一蹴された。なんでじゃい。言い出しっぺのくせに。
「蛮奇ちゃんが手伝ってくれたら、きっと沢山の人間を驚かせられるのになー」
 一見普通の人間にしか見えないが、この赤蛮奇という妖怪は、私の知る中で最も人を驚かせることに長けている。この私でさえ、初めてその技を目にした時は失神してしまったくらいだ。今でもたまに夢に見る。
「今時首が伸びるくらいじゃ誰も驚かないわよ」
 蛮奇ちゃんはしれっと看過できない意見を口にした。
「いやいや、いやいやいやいやいや」
 私は首を横に振る。振りすぎてろくろ首になるくらいに振る。何を言っているんだこの子は。そんな訳があるか。
「蛮奇ちゃんはどうしてそう自分に自信が無いの」
「身の程を知ってるだけよ」
 蛮奇ちゃんはため息をついた。なんだ。私何か変なこと言ったか。
「ろくろ首も唐傘お化けも、存在が庶民的すぎるのよ。"大して怖くない"ってイメージが、既に付いてしまっているの。だから私達は、頑張ったって大した成果は出せない」
「ぬぬぬ」
 なんだか分かったようなことを言っている。気に入らない。反論したい。
 頑張っても結果が出ないことがやる前から分かっているなんて、あんまりじゃないか。そんなの私は認めない。認めてたまるか。
「鍛治仕事は上手くいってるもん」
「それ本業じゃないでしょうが」
「ぬぬぬぬぬ」
 それはそうだ。そうだけど。だからって。
「べ、ベビーシッターだって、こう、子供達には人気あるんだよ!」
 何でか分かんないけど!あんまり納得いってないけど!成果は出てます!
「それ、あんた無害認定されてるのよ」
「ぬががががが」
 悔しすぎて変な声が出た。
「そもそもあんたが人里で大っぴらに活動できているのも、あんたが怖くないからでしょ」
「うぎーーーーーっ」
 思わず地団駄を踏んだ。
「頑張れば、頑張れば何とかなるよ!諦めたら試合終了だよ!」
「そう、じゃあ頑張れ。私はやらない」
「もおーっ」
 涙が出てきた。なんで分かってくれないんだ。蛮奇ちゃんには才能があるんだ。なんでそれを無駄にするんだ。
「きっと私達は、親しまれすぎたのよ。もう二度と、人間の脅威にはなり得ないくらいに」
 そう言って、蛮奇ちゃんは笑った。なんだか、とても清々しい表情で。
 沈みかけの太陽が影を作って、蛮奇ちゃんを覆い隠していく。まるで蛮奇ちゃんを遠くへ連れ去って行ってしまうみたいで、私は思わず手を伸ばした。
 足元にあった石につまづいて、前のめりに倒れた。蛮奇ちゃんを巻き込んで盛大に転んだ。
 めっちゃ怒られた。

3

「よう、生首妖怪」
「そう言うあんたは生意気人間」
 人間の里の甘味処で妖怪を見つけた。
 それ自体は珍しいことではない。狸や狐は言うまでもなく、それ以外でもある程度の力を持つ妖怪であれば、人間に化けることは難しくない。
 そして、それを見抜くことも、また難しいことではない。外見年齢と服装や口調の不調和や、ふとした時に見せる仕草など、よく注視すれば見破る材料はいくつもある。
 だが、そいつは顔を知っていなければ確実に見抜けなかった。それほどまでに、何一つ違和感無く、人間の中に溶け込んでいた。
「こうして目の前で見ていても、人間にしか見えないぜ」
「それはどうも」
 そいつは悠然と茶を啜った。こっちを見もしない。その余裕綽々な態度が気に入らないな、と思った。
「お前って首が離れていても飲み物を飲めるのか?ちょっとやってみてくれよ」
「ふざけんな」
 怒った。やったぜ。
「なんでわざわざ正体を晒さなきゃいけないのよ」
「私からしてみれば、なんでわざわざ妖怪が人里に居るんだ、って話だぜ。何か企んでるんじゃないだろうな」
 悪巧みなら私も大好物だから、聞かせてもらいたい。もちろん内容次第では退治するが。
「私、人里に住んでいるの」
 目を見張った。茶を飲んで平静を取り戻す。
「マジか。そんな妖怪居るのか」
「私も、私以外だと白沢くらいしか知らないわね」
 それはそうだろう。そんなほいほい妖怪が住み着いていたら人間の里とは呼べない。
「なんでわざわざ」
「便利だし、楽だから」
 そいつはことも無げに言うが、私にはそうは思えなかった。
「楽?窮屈だろ、本当の自分を隠して生きるなんて」
 かつて、人里で暮らしていた頃の私がそうだったように。自分を否定しながら生きるようなものだ。精神に多大な負担が掛かる。人間でさえそうなのだから、妖怪なら尚更だろう。
「誰だって大なり小なり何かを我慢して生きているものでしょう。人間だろうと妖怪だろうと、里だろうと山だろうと」
 まさかこんな木端妖怪に説教される日が来るとは思わなかった。私もヤキが回ったか。
「だからって、私は我慢なんてしたくはないな」
 他のみんながやっているから、なんて理由で自分を押し殺すことは、私にはできなかった。だから里を離れたのだ。
「あんたは人間に向いてないわね」
 そいつは簡潔に私を評価した。自分の眉間に皺が寄るのが分かった。それは確かにそうかもしれないが、だからって妖怪に言われると腹が立つな。
「お前は妖怪に向いてないぜ」
 言葉を返すと、そいつは初めて私の方を見て、自嘲気味に笑った。
 仲良くなれそうだな、と思った。
「そう言えばあんた」
「なんだ」
「霧雨店の娘だったのね。気付かなかったわ。人間の成長は早いわね」
 飲んでいた茶が苦虫に変化した。全身をくまなく虫唾が疾走する。目の前のやつは何食わぬ顔で呑気に茶を啜っている。
「お前、何を知ってる」
「私も人里暮らしが長いからね、色々知っているのよ。あんたは特に目立っていたしね」
 絶句する。こんなところにとんだ伏兵が居やがったものだ。
 里の人間は、私と実家の話題に触れてくることはまずない。何故なら、"そういうことになっている"からだ。
 人間はみんな空気を読むのに必死だ。そこら中に転がっている地雷を踏まないように、誰も彼もが躍起になって忍び足をしている。
 そんな空気が嫌だったのも里を抜けた理由の一つだが、その空気に助けられているのも事実だ。
 そして、そんな空気の中で、好き好んでタブーに触れようとするのは、余程の変人か、人外だ。
「…撤回するぜ。お前はやっぱり妖怪だ」
「そう」
 そして私は、未だにしがらみに囚われている、普通の人間だ。

4

 同じ質問は、もう何度もされている。なぜ人里で暮らすのか。朝から晩まで人間のフリをして生きるのは苦痛ではないのか、と。
 理由はいくつかある。一つはそもそも私が人間に紛れて暮らす種族の妖怪だということ。つまり、私にとって人間に紛れることは大した苦ではないのだ。
 もう一つは、大妖怪やその庇護を受けている妖怪ならともかく、私のような逸れ者にとっては、むしろ人里の方が生きやすいということだ。
 里の外は無法地帯だ。大妖怪達の気分次第で、いつどんな災難に見舞われるか分かったものではない。
 人里は幻想郷の中でも特殊な場所だ。ある意味では聖域と言ってもいい。吸血鬼だろうと天狗だろうと、人里にはおいそれと手出しすることができない。
 大妖怪達の気紛れに振り回されながら暮らすよりは、人里でひっそりと暮らすほうが私の性に合っている。
「と、私は思うわ」
「要するに大妖怪共が怖いんだな、臆病者め」
 正邪は憎まれ口を叩きながら肉を頬張っている。いい食べっぷりだ。余程腹が減っていたらしい。
「その肉は誰の金で食べられるんだったかしら」
「あー?私は食わせてくれなんて一言も頼んだ覚えはないぞ。恩着せがましいやつだな」
 性格の悪いやつは大好きだ、などと言ってケケケと笑う。やれやれだ。
 まあ、こいつがそういう奴だということは重々承知の上で牛鍋屋に連れて来たのだ。殊更腹を立てることもない。私も肉を口に運ぶ。美味い。
「牛肉は硬くて食べづらいな。豚の方が美味い」
 妙な不満を口にしながら食べている。本音なのか、天邪鬼なのか。判別が難しいところだ。
「顎が貧弱なんじゃないの」
「死ね」
 シンプルに罵倒してきた。本音だったらしい。
 もしかして、牛肉食べるの初めてなのだろうか。こいつの普段の食生活が心配になった。いや私も牛肉なんてたまにしか食べないが。
「牛肉も満足に味わえないほど弱っちいくせに、よく賢者に喧嘩売る気になったわね」
「強い弱いは関係ねぇよ。私はただ反逆するだけだ」
 めっちゃ噛みながら喋っている。頑張れ頑張れ。
「もし反逆に成功したら?」
「適当なやつに権力を渡してまたひっくり返す。当然だろ」
 腑に落ちた。天邪鬼というのは、そういう妖怪なんだろう。
 羨ましいな、と思った。
 私には周りとぶつかる程の信念も欲求も無い。
 人間とも妖怪とも中途半端に距離を置き、身の程を弁えてふらふらしているだけ。
 生きやすさはあるけれど、それ以外何も無い暮らしだ。
「オマエは妖怪らしくないんだよ」
「そうね」
 そんなこと、自分が一番知っている。
「だからこそ、あの時は楽しかったわ」
「あの時?」
「打ち出の小槌の時」
 突如現れた魔力に影響されて、衝動のまま暴れてしまった、あの時。
 自分の中にもこんなに妖怪らしい衝動があったのか、と感激したものだ。
 心が踊った。
「またやってよ、ああいうの」
 正邪は少しの間、何かを考える素振りを見せたが、結局は首を横に振った。
「やなこった」
 そう言うだろうと思った。
 まあいい。私が口を出すまでもなく、いつかまた、こいつは何かをしでかすだろう。
 それはとんでもなく大きいことかもしれないし、ほんのちっぽけなことかもしれない。どちらでも構わない。私はその日を楽しみに待つ。
 そして、できれば混ぜてもらいたいと、そう願うのだ。
雷鼓「お前もバンドを組まないか?」
蛮奇「組まない」
雷鼓「見れば解る。その格好、ビジュアル系バンドだな?」
蛮奇「私は喋るのが嫌いだから話しかけるな」
阿上坂奈
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.200簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
面白く楽しめました
3.100夏後冬前削除
短い描写でスパッとキャラクターを切り抜いた感じがとても楽しかったです
4.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです
5.100Actadust削除
やり取りが軽快で、流れるように読めてとても気持ち良かったです。蛮奇のひねくれた感情が正邪としっくりあっているのもいいですね。面白かったです。
6.100マジカル☆さくやちゃんスター(左)削除
一人一人のキャラクターにしっかりクセをつけて地の文会話文がテンポよく出てくるから頭の中で想像しやすかったです おもしろかた
8.100名前が無い程度の能力削除
頑なに里に住む蛮奇と、その周りの人妖の関係が興味深かったです
9.100南条削除
面白かったです
赤蛮奇を取り巻く妖怪たちが素敵でした