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「ん…」
光が顔に差し込むと共に、意識を覚醒させる。身体を動かせば、軽い衣擦れ。どうやら何かあたたかいものに包まれているらしい。金色の髪を手でかきあげながら、霧雨魔理沙はゆっくりと瞼を開いた。
「ここは……」
ふぁ、と大きな欠伸をして、魔理沙はまわりを見回す。こり、こり、こり、とどこかから鳴る低い音を耳にしながら、状況を把握しようと試みる。あれ、わたし、なにをしていたんだっけ……?
「―――あら。おはよう、魔理沙」
と、透明な高い声が魔理沙の耳に届く。瞼をこすりながら声のする方を見ると、そこには、銀髪のメイド服に身を包んだ少女が、ハンドルのついた小さな箱を手に持ちながら、こちらに向けて微笑みかけてきていた。
…あぁ。魔理沙は、この少女を知っている。
「…さく、や?」
まだ眠気の抜けきっていない、間の抜けた声でその少女の名前を声に出すと、少女―――十六夜咲夜は、くすくすと瀟洒に笑いながら、魔理沙の問いかけに頷いた。
「そう。ここは、私の部屋なの」
「さくやの、へや…?」
さくやのへや…ここが…はじめてきたな…
「あ…そうか…」
そうだ。おもいだした。わたしは、けさこうまかんのとしょかんに、まどうしょをよみにきていて、それで…
「すっかり、ねちまってたのか…」
「そうそう。図書館で、ぐっすりとね」
なんでも、咲夜はたまたま図書館を訪れた時に、図書館の主であるパチュリーに『あれ、なんとかしてくれない?気が散ってしかたがないの』とお願いされたらしい。それで、視線の先を見たら、本を読みながらすっかり寝てしまっている魔理沙を見かけた、と。
「ははは、そっかぁ…あいかわらず、ぱちゅりーはしんらつだなぁ」
「ふふ、そうね」
ちなみに、咲夜は聞いている。魔理沙が、ここ最近夜通し魔法の研究をしていて、ちゃんとした睡眠時間と食事をとっていなかったらしいことを。
咲夜は知っている。眉を寄せながら表向き迷惑そうに話していたパチュリーが、魔理沙を抱えて移動する瞬間、こちらを本越しに心配そうに見ていたのを。
……まぁったく。あの方も素直じゃないですね。
「そうでなくても、あなたをこの部屋に連れて来たでしょうけど。あのまま図書館で寝ていたら、体を壊してしまうわ」
「ん、そっか…ありがとな、さくや」
「どういたしまして」
あぁ、なんとか目が冴えてきた。せっかくあと少しであの魔導書を読み解けそうなところまで来ているんだから、出来れば今日中に読破したいんだけどな…
「あ、待って、魔理沙」
おぼつかない足取りでベッドからおりて図書館に戻ろうとする魔理沙を、咲夜が呼び止める。咲夜は、手に持っていた小さな箱――――コーヒーミルを手に持ちながら、にっこりと微笑んだ。
「せっかくなのだし、眠気覚ましのコーヒー、いかがかしら?」