「勝負をしましょうか、魔理沙」
ふと思い出したかのように、霊夢はぽんっと手を叩いた。
「あん、どんな?」
「そうね。化(ば)かす勝負かな」
「そんなのは、」と魔理沙はふわぁとあくびをする。「狐と狸にでもやらせとけよ」
「まぁまぁ、どうせ暇なんでしょ」
「どんな勝負だよ?」
「やるの?」
「まぁ、暇だしなぁ。内容による」
「乗ったわね」
「もったいぶらずに言えよ」
「お化粧勝負」
霊夢は笑った。
◇
——私の鼻って、何だかぺちゃってるよな。
鏡にうつる自分と向き合うのは、なかなかにキツいものがある。
「なぁ、霊夢」
「なに」
背後では霊夢が化粧箱を覗き込んで、筆やら白い粉やら小皿やらを床に散らかしていた。
「お前、化粧なんてするのか?」
「えっ、しないわよ」
「じゃあ、その箱はなんだ?」
「紫に押しつけられたのよ」と霊夢は目の前に道具を並べていく。「これでちゃんと修行しなさいって」
「修行?」
化粧なんてチャラついたのと修行というのがどうも繋がらない。
「降魔、降霊、憑依術。ほら、魔理沙も前の異変で動物霊を憑依したでしょ。月に行った時も神さまをお迎えしたじゃない。その修行よ」
「はぁ? 化粧が?」
「もともと化粧ってのは呪術儀式のひとつでね。戦化粧って聞いたことがあるでしょ。体中をしましまに塗って、虎みたいにね、獰猛な動物になりきって戦うの。あれも立派な憑依術の一つ」
「へ〜」
「って、紫がどや顔で言っていたわよ」
なんだそれ。
「ちょうど昨日ね。こうやって私も鏡の前に座らされて、紫に化粧をされたの。その後に、自分でも練習しなさい、って」
「それで私が練習台か? それじゃあ意味ないだろ」
「これは遊びよ。勝負で冗談なの。興味はあるでしょ、化粧に」
「ねぇよ」
あったとしても、ちょっとだけだ。
「……で、私に何を憑依させるつもりだ」
「ん。可愛い女の子よ」
霊夢は水を張った小皿に白粉を入れ、指でとき混ぜている。
「はぁ?」
ミルク色に濡れたその指を私の額にちょんとつけ、そこから顔に馴染ませるように薄くのばしていった。
「おいおい、いったい誰を私に憑依させるつもりだ」
「だから、可愛い女の子よ」
「だから、誰だよ」
「あんたを可愛くすれば、私の勝ち。そういう勝負なの」
鏡ごしの霊夢の表情は真剣で、すごく綺麗だった。化粧されている自分の顔なんかより、霊夢ばかりに目が引き寄せられてしまう。
霊夢は塗った白粉水を紙で吸い取り、そのふきこぼしを毛先のやわらかい筆で払っていく。最後に紅(べに)をつけた筆を頬と目元に薄くぬると、ふぅ、と額をぬぐった。
「よし」
霊夢は私の肩をばんと叩く。
「私の圧勝ね!」
ふと思い出したかのように、霊夢はぽんっと手を叩いた。
「あん、どんな?」
「そうね。化(ば)かす勝負かな」
「そんなのは、」と魔理沙はふわぁとあくびをする。「狐と狸にでもやらせとけよ」
「まぁまぁ、どうせ暇なんでしょ」
「どんな勝負だよ?」
「やるの?」
「まぁ、暇だしなぁ。内容による」
「乗ったわね」
「もったいぶらずに言えよ」
「お化粧勝負」
霊夢は笑った。
◇
——私の鼻って、何だかぺちゃってるよな。
鏡にうつる自分と向き合うのは、なかなかにキツいものがある。
「なぁ、霊夢」
「なに」
背後では霊夢が化粧箱を覗き込んで、筆やら白い粉やら小皿やらを床に散らかしていた。
「お前、化粧なんてするのか?」
「えっ、しないわよ」
「じゃあ、その箱はなんだ?」
「紫に押しつけられたのよ」と霊夢は目の前に道具を並べていく。「これでちゃんと修行しなさいって」
「修行?」
化粧なんてチャラついたのと修行というのがどうも繋がらない。
「降魔、降霊、憑依術。ほら、魔理沙も前の異変で動物霊を憑依したでしょ。月に行った時も神さまをお迎えしたじゃない。その修行よ」
「はぁ? 化粧が?」
「もともと化粧ってのは呪術儀式のひとつでね。戦化粧って聞いたことがあるでしょ。体中をしましまに塗って、虎みたいにね、獰猛な動物になりきって戦うの。あれも立派な憑依術の一つ」
「へ〜」
「って、紫がどや顔で言っていたわよ」
なんだそれ。
「ちょうど昨日ね。こうやって私も鏡の前に座らされて、紫に化粧をされたの。その後に、自分でも練習しなさい、って」
「それで私が練習台か? それじゃあ意味ないだろ」
「これは遊びよ。勝負で冗談なの。興味はあるでしょ、化粧に」
「ねぇよ」
あったとしても、ちょっとだけだ。
「……で、私に何を憑依させるつもりだ」
「ん。可愛い女の子よ」
霊夢は水を張った小皿に白粉を入れ、指でとき混ぜている。
「はぁ?」
ミルク色に濡れたその指を私の額にちょんとつけ、そこから顔に馴染ませるように薄くのばしていった。
「おいおい、いったい誰を私に憑依させるつもりだ」
「だから、可愛い女の子よ」
「だから、誰だよ」
「あんたを可愛くすれば、私の勝ち。そういう勝負なの」
鏡ごしの霊夢の表情は真剣で、すごく綺麗だった。化粧されている自分の顔なんかより、霊夢ばかりに目が引き寄せられてしまう。
霊夢は塗った白粉水を紙で吸い取り、そのふきこぼしを毛先のやわらかい筆で払っていく。最後に紅(べに)をつけた筆を頬と目元に薄くぬると、ふぅ、と額をぬぐった。
「よし」
霊夢は私の肩をばんと叩く。
「私の圧勝ね!」
かわいいは作れる!
読みやすくかつオチの霊夢が可愛らしくて面白かったです。