逢魔色に染まっていく空の下、活気を増していく人の営み。
例えば道の端からもう一方までを繋ぐ紐に提灯を垂らしたり、浅い水を揺蕩う金魚に餌をやったり、砂糖の袋をどっかと地面に置いたりと。
これから祭りが始まる事は容易に察せた。そして、それを暗がりの奥から覗いてる私は一体何をしてるのだろう。
「そも、何やってたかなぁ」
不明瞭な、それこそ酒にでも酔ったかのように記憶が定かじゃない。今の今までの記憶が無くなって、気づいたら此処にいた感じだ。
「祭りか」
どうも懐かしい感じがする。ずらりと道作るように露店が並び、その裏っ側で酒を飲む大人達の姿は変におかしい。
「こりゃ、混じれって神様が言ってんだな」
祭りに集まる衆々を突っ切るように、鬼がねり歩く。それは何とも痛快だろう。
だがそれを実行する前に、見つかってしまったのだ。
「ね、そんなとこで何してるの?」
話しかけてきたのは、まだまだ幼い男子だ。紅くなった頬からして、祭りが楽しみなんだろう。締めた帯には、何のつもりかおもちゃの剣が差さっていた。
「灯りのかげは、危ないよ。こっち来よう?」
どうやら、私の角が見えていないようだ。
「な、なんで手を握って」
「そりゃ、お前とはぐれないようにな」
牙を曝すようにわざとらしく笑うと、ぷいっと顔をそむけやがった。そのくせ手だけはぎゅっと握り返してきて。
「男の子だろ?ちゃんと案内してくれよ」
何も答えないまま、ずんずん進む童。一応、明るい方向に向かってるらしい。
「ハハハ、鬼のお客さんか。こりゃいい」
参道の始まり辺り、酒を飲んでるのを隠そうともしない店主から送られた言葉。
いやいや、肝が座りすぎじゃないか?仮にも鬼が目の前に現れたというのに。
「坊主、しっかり案内してやりな。主賓なんだからよ」
「わかってるよ」
頭を撫でる手を嫌そうに振り払いながら、参道を進もうとする童。
主賓?私が?なんだかよく解らん。
参道を歩き終えて、当然だが着いたのは神社だ。境内の真ん中、神社の真ん前には大きな櫓が組まれている。
「おーい、鬼さんが着いたぞォー!」
櫓の上で太鼓を叩いていた若造が、私と童の姿を見るなり声を張り上げた。それに呼応して、みんなが俄に騒ぎだす。
「鬼さんのためだァ!やる気出せよ前らァ!」
若衆共は羽織を脱ぎ、汗を垂らしながら太鼓やら竹やらを叩く。喧騒が皆にも伝わって、櫓の周りが馬鹿みたいにうるさくなる。でも、嫌じゃない。
「あ」
唐突に視界が切り替わり、あれは夢だったのだと気づいた。それと同時に、あれが過去の記憶だったことも。
「そっか、そんな事もあったよな」
寝っ転がったまま、屋根の裏を見上げる。
目ン玉が滲んできて、うまく像が結べなくなってきた。視界が歪になって、しゃくりあげる声が止められなくなって。
どれくらいすすり泣いてたか解らない。ちょっとだけ声が収まって、溜まった涙を腕で拭こうとして。
「はい」
ぼふ、とタオルが顔にのっけられた。タオルをどかしたら、霊夢が私の顔を覗きこんでいた。
「鬼は泣かないんでしょ。しゃんとしなさい」
「...うん」
ごしごし、と乱雑に顔を拭った。涙はもう止まった。
「...霊夢」
「何?」
「慰めてくれよぅ」
「はぁ?なんでよ」
縁側に座ってる霊夢の腹に顔をうずめるように、ぎゅっと抱きつく。
「もぅ、ほんと」
背中にぽんと当てられた手は温かくて、また泣いちゃいそうだった。
例えば道の端からもう一方までを繋ぐ紐に提灯を垂らしたり、浅い水を揺蕩う金魚に餌をやったり、砂糖の袋をどっかと地面に置いたりと。
これから祭りが始まる事は容易に察せた。そして、それを暗がりの奥から覗いてる私は一体何をしてるのだろう。
「そも、何やってたかなぁ」
不明瞭な、それこそ酒にでも酔ったかのように記憶が定かじゃない。今の今までの記憶が無くなって、気づいたら此処にいた感じだ。
「祭りか」
どうも懐かしい感じがする。ずらりと道作るように露店が並び、その裏っ側で酒を飲む大人達の姿は変におかしい。
「こりゃ、混じれって神様が言ってんだな」
祭りに集まる衆々を突っ切るように、鬼がねり歩く。それは何とも痛快だろう。
だがそれを実行する前に、見つかってしまったのだ。
「ね、そんなとこで何してるの?」
話しかけてきたのは、まだまだ幼い男子だ。紅くなった頬からして、祭りが楽しみなんだろう。締めた帯には、何のつもりかおもちゃの剣が差さっていた。
「灯りのかげは、危ないよ。こっち来よう?」
どうやら、私の角が見えていないようだ。
「な、なんで手を握って」
「そりゃ、お前とはぐれないようにな」
牙を曝すようにわざとらしく笑うと、ぷいっと顔をそむけやがった。そのくせ手だけはぎゅっと握り返してきて。
「男の子だろ?ちゃんと案内してくれよ」
何も答えないまま、ずんずん進む童。一応、明るい方向に向かってるらしい。
「ハハハ、鬼のお客さんか。こりゃいい」
参道の始まり辺り、酒を飲んでるのを隠そうともしない店主から送られた言葉。
いやいや、肝が座りすぎじゃないか?仮にも鬼が目の前に現れたというのに。
「坊主、しっかり案内してやりな。主賓なんだからよ」
「わかってるよ」
頭を撫でる手を嫌そうに振り払いながら、参道を進もうとする童。
主賓?私が?なんだかよく解らん。
参道を歩き終えて、当然だが着いたのは神社だ。境内の真ん中、神社の真ん前には大きな櫓が組まれている。
「おーい、鬼さんが着いたぞォー!」
櫓の上で太鼓を叩いていた若造が、私と童の姿を見るなり声を張り上げた。それに呼応して、みんなが俄に騒ぎだす。
「鬼さんのためだァ!やる気出せよ前らァ!」
若衆共は羽織を脱ぎ、汗を垂らしながら太鼓やら竹やらを叩く。喧騒が皆にも伝わって、櫓の周りが馬鹿みたいにうるさくなる。でも、嫌じゃない。
「あ」
唐突に視界が切り替わり、あれは夢だったのだと気づいた。それと同時に、あれが過去の記憶だったことも。
「そっか、そんな事もあったよな」
寝っ転がったまま、屋根の裏を見上げる。
目ン玉が滲んできて、うまく像が結べなくなってきた。視界が歪になって、しゃくりあげる声が止められなくなって。
どれくらいすすり泣いてたか解らない。ちょっとだけ声が収まって、溜まった涙を腕で拭こうとして。
「はい」
ぼふ、とタオルが顔にのっけられた。タオルをどかしたら、霊夢が私の顔を覗きこんでいた。
「鬼は泣かないんでしょ。しゃんとしなさい」
「...うん」
ごしごし、と乱雑に顔を拭った。涙はもう止まった。
「...霊夢」
「何?」
「慰めてくれよぅ」
「はぁ?なんでよ」
縁側に座ってる霊夢の腹に顔をうずめるように、ぎゅっと抱きつく。
「もぅ、ほんと」
背中にぽんと当てられた手は温かくて、また泣いちゃいそうだった。
昔の記憶に想いを馳せながら、それがもう手に入る事がないと分かっていながらもどうしようもなく悲しくなる萃香の姿に胸を打たれました。
泡に消える夢物語と覚めてから理解したからこそ、夢現の対比が余計に悲しくなってしまいます。良かったです。
よかったです