Coolier - 新生・東方創想話

ぱーふぇくと・うさじゃー

2020/06/21 08:49:59
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「あの娘を返しては下さいませんか?」
依姫のその一言に、同席していた輝夜は思わず息を呑む。
永琳は、依姫の真摯なその問いに、すぐには答えなかった。
皆の視線が一身に集まる中、永琳は、ゆっくりとお茶をひと啜りした後、
「だめよ。返せないわ。まだまだイジリ……こほんっ。もとい教えたりないもの」
そうニッコリと首を横に振ってみせたのだった。
「そ、そうよ。それに今は私の……永遠亭(ここ)のイナバ(ペット)なんですからね。あの娘は!」
永琳の答えに輝夜も勢い付いたようにそうまくし立てる。
「……だから。わ、私も許さないわよ。あの娘は、レイセンはお気に入りのイナバ(ペット)なんですからねっ」
さらに顔を赤くしながら身を前に乗り出し力説する輝夜を、
「はい、はい。姫様、落ち着いて」
と、苦笑交じりになだめつつ永琳は再び依姫らの方へ向き直った。
そんな姫と永琳の様子に、豊姫はしばし思案するそぶりを見せた後――
「じゃあ、こうしましょ~う」
ポンッと手を叩いて豊姫が提案した。
「今、月から付いてきている兎隊の娘達に鈴仙が勝ったら……」
「……永遠亭に残ることを 許すのですね?」
豊姫の提案を遮るように、永琳がすかさず口を挟んだ。
「それなら、いいわ。そう、これで決まりね」
「……あっ」
「姉君!?」
そのままシレッと決め付けてしまう永琳に豊姫は笑顔のまま固まる。
その隣で依姫が焦った顔で声を上げていた。
「誰か? イナバは居る?」
固まる綿月姉妹を尻目に、永琳は使えのイナバを呼びやると、忙しなくこれから出るケガ人を受け入れる準備を整えるよう指示をだした。
と、ここでようやく……
「えーと……どういうことなの? それって、鈴仙が勝つ方に豊姫たちも賭けようとしてたってコト?」
一人取り残されていた輝夜がキョトンと尋ねると、
「ええ、姫そういうことです」
永琳は澄ましたまま、そうシッカリと頷いてみせたのだった。
「え、え? でも、さっき慌ててイナバたちに救護体制を整えるよう命じてたわよね? あれって……」
「ええ、もちろん。あの娘に返り討ちに合った月の娘達を手当てする為ですわ」
困惑する輝夜に、永琳は迷う様子も無くそう答えて見せた。
「つまり、鈴仙が勝つってコト?」
「はい。姫様」
「数の上で圧倒的に不利でも?」
「はい。姫様」
「月の最新装備で武装した、精鋭揃いの月兎相手でも?」
「はい。姫様」
輝夜の問いかけに、永琳は「何を当然のコトを?」と言わんばかりの感じで迷いもせず頷く。
そして輝夜は視線を前に戻し、永琳の言葉が本当であることを確信した。
豊姫は笑顔でまま固まったままダラダラと冷や汗をたらし、その隣では依姫がしまったーという顔で臍を噛んでいたのだから。
「そんなにすごかったの!? 鈴仙が」
輝夜は再び横に目をやると、目を丸くしてそう叫んだ。
「はい。姫様、もちろんですとも。月で依姫に鍛えられ、地球人の月への侵攻時に一番の激戦区を生き残ったのがあの娘ですよ。さらに幻想郷(ここ)に来てからは私が教え、導き。さらにこの地の強敵とも渡り合ってきたあの娘が、今の平和ボケした月兎が束になっても勝てるわけがありませんわ」
永琳は、輝夜の問いかけに、本人が聞いたら涙して喜びそうな言葉でキッパリ、ハッキリ言い切った。
「……ですので、安心して私達は待っていればいいんです」
永琳はそう言って視線を前にやると、策士、策に溺れた二人の姫にもゆっくりと柔らかな笑顔をむけてみせるのだった。


         ◆


そして半刻もたたずして――
「な、なぜだ……」
永琳のその言葉は、
「月の…最新装備で武装した我々が……たった一人の脱走兵に……」
現実のモノとなったのであった。
月が昇る竹林をバックに、赤い目のへにょり耳の娘が一人立っているのを、月兎たちは敗北という名の土の味を噛み締めつつ見上げていた。
指一本、人差し指を構える格好で立ちながら、月兎の一個大隊を一人で壊滅させた鈴仙は特に感慨もなく足元に倒れ伏す元同胞たちを見つめていた。
ザッ
「ひっ」
鈴仙が一歩踏み出す。
それだけで月兎たちは恐怖の声を漏らした。
圧倒的だった。
圧倒的な実力差――強さだった。
月兎達の武器を装備を奪うまでもなく、一発の弾幕を撃つこともなく、格闘術と竹林の竹を利用したトラップだけで月兎達を次々に倒していった。
いや、そのトラップすらも殺傷を目的にしたものではなく、戦闘能力を奪うだけの程度の威力に手加減されていた。
……そう、手加減された上で惨敗したのだ。
圧倒的なハズの数と装備で挑んだ月兎達は――
恐怖に凍りついたまま動けないでいる月兎達の一人の下へ鈴仙は歩み寄った。
ゆっくりとそのまま身をかがめる。
(ト、トドメを刺される!?)
その月兎は一瞬、そう覚悟した……だが、襲ってくるハズの痛みも衝撃も何も無く、代わりに。
「雫?」
ポタリと頬に落ちてきたのは一粒の雫だった。
「え?」
顔を上げた月兎は唖然とした。
勝者であるハズのその者の赤い瞳には、いっぱいの涙が溜まっていたから。
そして鈴仙は呆然と自分のコトを見上げる月兎に手を差し伸べつつ消え入りそうな声でこう言った。
「ごめんなさい……ごめんなさいね」
そう、繰り返し、とても済まなさそうな顔で、悲しげな、辛そうな顔で自分が倒した月兎達のことを見つめていた。
(な、なぜ?)
――勝者のハズのアナタがそんな顔をするのですか? そう問いかけかけ、月兎は言葉にできなかった。
鈴仙の表情が例えようも無く悲痛なものだったから、あるいはその涙に溢れそうな澄んだ赤い瞳が綺麗すぎたからかも知れない。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
勝者のハズなのに謝り続け、敗者に手を差し伸べるその姿はどこか頭を下げているかのようにも見えた。
そしてこの瞬間、本当の意味で心の底から月兎達は敗北を悟ったのだった。


         ◆


「あの子はまだ吹っ切れてないのね……」
コトの顛末を見届けた永琳は、そう静かに呟いた。
「どういうことです?」
怪訝そうに尋ねる依姫に、永琳は静かにかぶりを振ると、
「自分だけ生きのびた……地上に落ち逃れてしまったコトへの悔悟よ」
そう呆れたように――痛ましそうに呟いた。
「もはや過去のコト……気に病む必要は無いですのに」
師匠の言葉に依姫は顔をしかめる。
「あのねー!? 今回の騒動であの子がどんだけ気を病んだか知ってて言ってるの!?」
切って捨てた依姫に、輝夜がけんもほろろに詰め寄る。
「月はあの子にとって“過去の傷”を思い出させるダケなのですね~」
そんな輝夜に答えたのは豊姫だった。
そして肩をすくめると、
「仕方ないですわね~。約束は約束ですし諦めますわ……今回は」
豊姫は、そう頷くのだった。
「今回って……まだ諦めてないの?」
……しかし豊姫の言葉に輝夜の目が半眼になる。
「ええ、いつかあの子が――笑顔で月の故郷に戻れる日を楽しみしていますわ~」
しかし豊姫は、そんな輝夜の視線を意にもせずそうニッコリと微笑み返したのだった。


         ◆


そして数日後、綿月姉妹と月の一行が帰る日が訪れた――
「ね~、ホントに一緒に帰らない~?」
あれだけ言っておいて豊姫は未練タラタラだった。
へにょり耳で困り顔の鈴仙を抱きしめ、顔をスリスリさせながら未練がましくそう繰り返す。
「さっさと帰れ……」
そんな豊姫の様子をてゐが迷惑そうにシッシと手を振る。
「姉者、そのくらいで……」
口には出さないがてゐと同意見な様子の輝夜と、『無言がむしろ怖い』永琳の笑顔に依姫が姉を引き離す。
そして依姫は姉を引き離しがてら、
「だがレイセン……待っているぞ」
そう不意に鈴仙に声を掛けたのだった。
一瞬、その場の空気が凍る。
だが、次の瞬間――
「いつか気軽に月に遊びに行けるといいわね」
言葉足らずな弟子の言葉を永琳が言葉継いだ。
「依姫様……」
一瞬、鈴仙の赤い瞳が潤む。
「ありがとうございます」
ペコリと頭を下げる鈴仙に、依姫は静かに頷いてみせた。
しかしそんな和やかな空気を横に、
「仕方ないわね~。代わりに、この子達の中から一匹もらって行こうかしら?」
「「ダメです!」」
子兎を笑顔で抱きしめたまま言う豊姫の言葉に鈴仙とてゐの声がハモった。


         ◆


今日も地上では、幻想郷では、一匹の月兎が元気に跳ねる。
厳しい師匠や詐欺兎に振り回され、一人の姫に愛られながら――そんな兎が一匹くらいいてもいいのかもと、豊姫は想うのだった。
東方儚月抄の後日談……という感じのお話です。
実は十年くらい前に書いて、書きかけてそのまま放っておいた作品です。
今さらながら投稿してみるコトにしましたw
いかがでしたでしょうか?
『実は強い! 有能な鈴仙!』というのが結構好きです♪ ではでは小目汚し失礼しました~
推摩一黙
[email protected]
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コメント



0.130簡易評価
1.100終身削除
月の都のお偉いさんと永遠亭が対決すると幻想郷が危なそうだけど悪者が1人も居なくてほのぼのする感じで良かった思います 普通に強いけどメンタルに少し脆いところのある鈴仙いいと思います
2.90奇声を発する程度の能力削除
雰囲気が良かったです
5.100ヘンプ削除
確かにぱーふぇくとですね。鈴仙は強いですね。とても面白かったです。
7.100南条削除
とても面白かったです
鈴仙が強くてかっこよかったです
永琳もカッコよかったです
8.100こしょ削除
個々のシーンがそれぞれ力あってよかったです
9.100モブ削除
鈴仙の強さという部分にもっと浸りたかったなあという気持ちを抱きました。面白かったです