Coolier - 新生・東方創想話

あなたのお傍に

2020/04/23 20:57:39
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 春、それは霊夢さんが喜ぶ季節。
 私が石像でずっと見て来たから分かるのです。先代巫女と一緒に桜が散るのをとても喜んでみていたのです。
 今は身体を得て、自由に動けるのがとても嬉しいです。霊夢さんのところに行けて、一緒に隣で見ることが出来るのが本当に嬉しいのです。


「霊夢さん、霊夢さん! 桜が咲いてますよ!」
 私はカランコロンと下駄を鳴らして走る。桜が咲き始めているのを早く伝えたくて。最近まで蕾だったのがやっと咲いて、一番に霊夢さんに見せたかった。
「どうしたの、あうん?」
 霊夢さんはお茶を飲むための準備をしていたんだろう、かまどの前でお湯を沸かしていた。私は早く見せたいと思う気持ちが先走って霊夢さんの服の裾を掴む。
「桜が咲いているんです! 早く見に行きましょう!」
 霊夢さんを急かすように私は服を引っ張った。
「ちょっと、どうしたのよあうん。今火を見てて……」
「そんなことどうでもいいんです! 早く行きましょうよ!」
 早く、早く!
「あうん、待ちなさいよ!」
 気がつくと霊夢さんを置いて走り出してしまった。一番に見て欲しい人に見てもらえることがとてもとても嬉しくて。
「霊夢さん、霊夢さん! こっちですよ!」
 カランと地面を蹴って空に浮く。霊夢さんは呆れたように私についてきてくれた。鳥居の近くまで飛んで、桜が咲くところに案内した。
「もう……そんなに焦らなくていいじゃない」
「ここに咲いていたんですよ!」
 木の先の方の桜のてっぺんあたりにちょこんと咲いていた。
「ふふ、まだまだこれからじゃない。あうんはせっかちね」
 霊夢さんはクスクスと楽しそうに笑った。それを見て私はさらに嬉しくなった。
「……あっ! お湯!」
 霊夢さんがいきなり叫ぶものだから私はびっくりして飛び上がってしまった。社務所に駆け込むように素早く飛んで行った。うわーっ!と大きな声が神社に響いた。なんか悪いことしちゃったかな。

 霊夢さんに怒られつつも隣で一緒にお茶を飲む。昔だったらそんなことも出来ずに魔理沙さんと二人で飲んでいるのを見ているだけだっただけれど。
「えへへ、嬉しいなあ」
「あうんは大袈裟ね。桜もこれからだし、春は宴会ばっかりよ」
 霊夢さんはため息をつく。宴会で人妖にもみくちゃにされるのが嫌なのかな。それでも楽しそうにしていたからどうなのだろうかな……?
「霊夢さんは宴会が嫌なんですか?」
「んー? 嫌じゃないわよ。みんなで騒ぐのは楽しいけれど後始末が嫌なのよ」
 ……ああ、山のように出る食器とゴミの処理が大変なのだろうな、と少しわかったような気がした。
 無言になって空を見ていると高い青から何がこちらに来るのがわかった。

「れーいーむー! 宴会やろうぜー!」
 魔理沙さんが流星のように突進してきて驚いてしまう。慣れっこだったはずなのに。新鮮すぎるのかな。
「何よ魔理沙……嫌って言っても他のやつにもう言ってるんでしょ?」
「ああ! 言ってる!」
 眩しいような笑顔で魔理沙さんは言った。霊夢さんは本当に呆れたように告げる。
「あんたねぇ……まあいいわよ。何人ぐらい呼んでいるのかしら?」
「いつもどうりだぞ?」
「あーはいはい、わかったわよ」
 何かを諦めたような声色で霊夢さんは頷いていた。色々と大変なのだろう。宴会が終わってからお手伝い出来ればいいな。


 夜、今日は満月とはいかない一歩手前の月。
 相も変わらず妖怪たちは騒いでいる。紅魔館の主に、白玉楼の主、八雲のトップに霊廟の主まで。ちなみに命蓮寺のメンバーはいなかった。それもそうだろうな。
 霊夢さんの顔をちらっと見るとお酒を飲みつつもどこか意識が飛んでいるように思った。
「れい……」
「霊夢、呑んでるかしら」
 話しかけようとしたところでレミリアさんが霊夢さんに話しかけていた。話しかけられなくて悔しい。
「何かしら。あんたはだいぶん呑んでいるわね……ハイペースに飲み過ぎよ?」
「大丈夫よ、倒れはしないから」
 ……それはどうなんだろう。レミリアさんは前の宴会で意識が無くなるまで呑んで美鈴さんに担がれていたような……言うだけ野暮なのでやめようかな。
「ぶっ倒れても知らないわよ。介錯はしてやらないんだから」
「分かってるわよ」
 話しかけられなくてぼーっとしていたら魔理沙さんが倒れた。少し向こうの輪の中でわーっ!と声が上がる。
「……あいつなにやってんの」
 霊夢さんが私に話しかけてきた。自ずとしっぽが動いてしまう。
「なんか魔理沙さん、幽々子さんと飲み比べするとかで一気飲みしたらしくて……」
 その煽りっぷりはとても凄まじいものだったけれど流石に危ないよね……
 私は立ち上がって魔理沙さんのところに行く。私にとって、背負うのは辛いけれどせめて肩を貸した。
「魔理沙さん、無理し過ぎですよ……」
 うんしょ、とゆっくりと社務所に向かって私は歩く。霊夢さんが魔理沙さんのもう片方を担いでくれた。
「あっ、霊夢さんありがとうございます」
「あうんだけに面倒見てもらう訳にもいかないもんね。ありがと、あうん」
「ふふ、霊夢さんのためにすることが楽しいんですから」
「もーまたそんなこと言って。あうんも楽しみなさいよ」
 霊夢さんは優しい笑顔で私に言ってくれた。とても嬉しい。魔理沙さんを社務所に寝転ばせてから毛布を掛ける。
「とりあえず魔理沙は寝かせておきましょうか。あ、ちょっと待っててね」
 霊夢さんはパタパタと走って料理やらが置いているところに言った。藍さんが料理を作っていて何かを話している。霊夢さんは藍さんからお盆と一升瓶を受け取ってこちらにやってきた。
「さっきからあんまり食べてなかったでしょう? 少しおつまみを貰ってきたわよ。お酒もせっかくだからね」
 きょとんとしてしまう。霊夢さんが持ってくるなんて。悪い意味じゃないのだけれど、今までそんなことは無かったから。
「え、霊夢さんは食べないんですか?」
「私はいくらでも食べたわよ」
 社務所の机に置かれたお盆からお皿を置いている。
「……それじゃあいただきます」
 霊夢さんは気分が良いかのように笑っている。野菜炒めに口をつけたところでまた本殿の前でドッと大きな笑い声が聞こえた。
 今度はレミリアさんが一気飲みをするらしい。面白半分に周りは囃し立てている。
「お酒強くないのに何やってんだか……」
 よいしょと、霊夢さんは立って止めに行った。もぐもぐと食べながら私は見ている。
 霊夢さんがレミリアさんの酒瓶を奪い取って止めている。べろべろに酔っているレミリアさんは怒ったのかいきなり槍が現れた。周りの酔っ払いたちはさらに囃し立てている。
 霊夢さんはひとつため息をついたのか肩が落ちる。懐から出した陰陽玉をぶん投げていた。レミリアさんにクリティカルヒットして倒れていた。
 お酒の惨状はいつもの事ながらすごいと思う。しかも桜が咲き始める春がみんなを余程陽気にさせるのだろうな、と。向こうの風景をどこか遠いようなものみたいに見る。私はこの中に入りたい訳じゃなくてこれを守りたい……と再確認する。
 お酒を飲まずに食事だけしていると机の上に置いてあった一升瓶が消えた。
「はあい、あうんは楽しく呑んでいるかしら?」
 紫さんがさっき消えた一升瓶を持って机から出てきた。
「飲んでないですけど食べてますよ。藍さんのお料理美味しいです」
「ふふ、そうでしょう。ちゃんと食べなさいな……それでレミリアは倒れたのね」
 霊夢さんが暴れた惨状を見つつ紫さんは言う。霊夢さんはどこからか出したお祓い棒を肩に担ぐようにこちらに戻ってきていた。レミリアさんが倒れたあとは咲夜さんと美鈴さんが近くに寄ったりしていた。さすがにレミリアさんは飲みすぎていたもんね……
「あー? なんで紫がいるのよ」
「あら、居てはいけないのかしら?」
「そこまで言ってないわよ」
 霊夢さんが戻ってきたと思ったら紫さんに話しかけている。次は唐揚げを口に入れる。よく味が出ていてとても美味しい。
「ほら、霊夢どうかしら……」
 持っている一升瓶を開けてそのまま霊夢さんの杯に注いでいる。
「飲むけどあんまり入れないでちょうだい。明日が大変なことになるから」
「明日のことなんて考えずに飲みなさいよ」
 呆れたような顔でなみなみと杯に注がれているのを霊夢さんは見ていた。
「紫入れすぎよ……まあいいわ」
 ぐっと一気に飲んだ霊夢さん。はわわ……大丈夫かな……
「霊夢さん大丈夫ですか?」
「あーこんなに煽ったの久しぶりだわ……」
 本当に飲み干して、空になった杯を机の上に置いている。
「ああ、そうだわ。あうんを私の式にしても良いかしら? いい子だし面白そうだしね」
 紫さんはどこかニヤリと笑いながら、私の肩を抱き寄せてそう言う。霊夢さんの表情は動いたのか分かりにくかったが眉がぴくりと寄った。
「いいのかしら〜、あうんは可愛いのに〜」
 肩を寄せられて温もりを感じている。私が何かを言うことは出来なかった。
 霊夢さんが動き出すと私の右肩を持って力強く引き寄せられた。紫さんの体から引き離されて、霊夢さんに抱き寄せられる。
「……だめよ。あうんは私の家族だもの。紫の式なんかさせない」
 えっ、ええ!? れ、霊夢さささん!
「へえ、いいじゃない。家族がいないって泣いていたあの子供はいないのね」
「紫ッ!」
 霊夢さんは図星だったのか声を張り上げた。家族。家族……そう言えば霊夢さんが小さい時、中々来ないけれども家族連れで参りに来た物好きな人たちがいた。霊夢さんは先代と対応して、家族は帰っていった。その後、ずうっと悲しくて霊夢さんは泣いていたのを覚えている。私の前で、そんな顔をしないでって。慰めてあげたかった、抱きしめてあげたかった……ただの石像にそんなことは出来なくて……すすり泣く霊夢さんを取り上げたのは先代だったな。家族じゃなくても一緒に過ごそうって言っていた。
 私は霊夢さんの頭を撫でる。やっと体を持てたのだから、出来なかったことを沢山したい。
「ちょっと、あうん、なに……」
 困ったような顔をして私の顔を見る霊夢さん。
「ふふ、なんでもないです」
 私はくすくすと笑った。霊夢さんは怪訝そうに私を見ていた。

 霊夢さん、霊夢さん……あなたが頑張ってきたこと、私は知っていますよ。あの時、私は何も出来なかったけれど、今は出来るんです。私の助けなんかいらないのかもしれないですけれど、それでもあなたのお隣にいさせてください。あなたを護らせてください。いつか夢見た、あなたのお傍にいさせてください。それが狛犬たる私の思いですから。

 そうして私たちは朝まで飲み倒した。私は少しだけ飲んで寝てしまったが、後から霊夢さんに聞くとそれはそれは地獄のような酒飲みだったという。
「……ふぁあ」
 日差しを浴びて目が覚め、あくびをしながら私は体を起こすととてつもないものを見た。死屍累々の宴会の参加者。いつ来ていたか分からない萃香さんと文さんがまだ飲んでいた。しかも色々散らばっている。神社の木が三、四本倒れていた。……何があったんだろうか。
「うーん……おはよあうん……ってはぁ……」
 あいさつをしたと思ったら霊夢さんは惨状を見て声が小さくなっていた。
「おはようございます!霊夢さん、これどうしますか……」
「そうねえ……とりあえず叩き起すわ」
霊夢さんは社務所の奥から針と御札と陰陽玉とお祓い棒と……異変の時の装備で出てきた。
「……霊夢さん、程々でお願いしますね」
「手加減出来たらね。起きろ!」
 霊夢さんの鬼神の如き顔で寝こけている妖怪達を叩き起し始めた。退魔が聞いているのがそこら中で悲鳴が上がる。霊夢さんを怒らせたくないなあ……とそんなことを思った。
「ううん……頭痛い……」
 声がしたので後ろを見ると魔理沙さんが目覚めていた。
「おはようございます。気分は大丈夫ですか?」
「ああ、最悪だぜ……」
 頭を抑えながら参道の方を見ている。私もまだ後ろを向く。霊夢さんが暴れているのを見る。
「うわぁ……霊夢本気でキレてるよ……」
「そりゃあ、この惨状なら怒りますって。魔理沙さん、動けるのでしたらお掃除手伝ってくださいよ」
「お、魔法使いさんを使うのか?」
「……霊夢さんに怒られたいなら勝手にしてください。私は知らないですから」
「殺生な! わかった手伝うよ。霊夢はあうんに弱いんだからそれはやめてくれ……私が殴られる」
 魔理沙さんはよいしょを起き上がって伸びをしてから、ゴミ拾いを始めている。
 私はふと桜を見る。これから咲く花を心待ちに私はタッと霊夢さんを止めに行った。

「霊夢さん! そろそろ止めましょ!」
「あっ、あうん避けて……」
「うわっ!?」
 ピチューン!
霊夢さんの陰陽玉に撃退された!

さてさて、もう現実は葉桜となってしまいましたが。
あうんと言えば春!春と言えば霊夢!いっその事二人を書くぞ!って感じでした。
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コメント



0.簡易評価なし
1.90奇声を発する程度の能力削除
良い雰囲気でした
2.100サク_ウマ削除
春でした
3.80夏後冬前削除
楽しげな春のひと時があうんの視線から描かれていて、より楽しさを増している感じが良かったです。
ちなみに介錯は、切腹した人の首を切る行為です。殺伐。
4.90名前が無い程度の能力削除
いまどきこれを読めることに感謝せなかん
5.90名前が無い程度の能力削除
暖かい話
最近何故か寒いからありがたや
6.100南条削除
面白かったです
大型犬のようにはしゃぐあうんちゃんがかわいらしかったです
宴会も楽しげで素晴らしかったです
7.90名前が無い程度の能力削除
世界がやさしい
こう言うのが心にいいんだよ こう言うのが
8.100終身削除
あうんは賑やかな宴会を座りながら少し間を置いてずっと見てきんだろうなと思うとくるものがあります 何でもないような幸せを噛みしめているあうんの素朴な感じがとても印象に残って良かったと思います 優しい空気に癒されます
9.90名前が無い程度の能力削除
あうんちゃんが滅茶苦茶可愛い、優しさが染み入ります
10.100ふさびし削除
あう霊いい...。日常のひと時の中でポロリと零れる本音が素敵でした。
11.100はるとんかち削除
尊い…