Coolier - 新生・東方創想話

ほら、私はまたお前に

2020/03/12 22:59:10
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 そう、私はお前のその色に惚れたんだ──

 懐かしい、夢を見た。私の原点の夢。
 桜が満開になっていた時で。春告精が大きな声で喜ぶ声を聞きながら香霖に手を引かれて、博麗神社に行った夢を。ざぁあと大きな風が吹く中で私は物珍しくきょろきょろと周りを見ていた。その当時の私にとってはとてつもなく大きな鳥居をくぐって、手を引かれたまま本殿の前まで行って。香霖に言われるがままにお参りをして。私の好奇心は収まらずに、お参りが終わったと同時に動こうとして止められて。離せと叫んでいたら赤い服を着た女の子がやって来て。

「……あなたはだあれ?」

 そう告げられると同時にざぁあと大きな風が吹いた。満開の桜が私たちを覆う。まるで空から降り注ぐ雨のように、私たちを包み込んだ。
 私はその時、息を飲んでいたと思う。

──その景色が美しすぎて。

 私の前にいるこの子は誰だろう、あの子に話しかけたいと思っても小さな子供ながらに声が出なかったのだ。

 神社に降り注ぐ桜は勢いを増していく。虹の出る空のように、目の前にある光景が私にとってどこか遠いものであって。

 私の前に、桜が、桜色が、埋め尽くされていく。たった一つ、紅色が薄い色の中で輝いていて。

 ……私はそこで目が覚めた。

 ~*~*~

 そんな夢を見た朝。私は神社に行くのがはばかられたのでふらふらと空を飛んでいく。里に行くにもあまり寄りたくもない。紅魔館にも特に行く理由もないのである。
 私の行くあてもないので空を漂うしかないのだ。

 どうしようかな。幻想郷中を飛んでもやることが無い。魔法を覚えようにもまた家に籠らないといけない。最近したばっかなので、やりたいとも思わない。やっぱり、神社に行こうかな。懐かしい、懐かしい夢を見た後、会いに行くのも恥ずかしいのだけれど。そんなことは霊夢にとっては関係ないんだろうけれど。気がついたら私の体は神社に向かっていた。

「おおい、霊夢!いるか!」
 神社に着いて降りるも誰もいない。桜のつぼみがたくさん付き始めている。梅はちらほらと散りきっているのが見えた。
 買い物にでも出かけているのだろうか。あうんまでいないので他の神仏を見に行ったりしているんだろうか。閑散とした神社はどことなく懐かしい。霊夢と二人でお茶を飲んだりしている時間を思い出す。まだ紅霧異変が起こる前、妖怪だろうと人間だろうと誰も来ない日を思い出した。紫も本当に来なかったので、二人で静かな神社でずっと何も言わずにただそこにいるだけだった。不愉快じゃなかったし、ずっとこうしたいと思ってもいた。異変はたくさんの出会いを私にもたらしたけれど、いつも変わらない紅色は私の前にずっといた。私も、きっと霊夢も変わっている。それでも隣に、いいや……追いかけられているのかな、と思う。そんなことに霊夢は目も向けないのだろうし、向けられても困る。努力は隠すものだ。それを見せずに私は勝ちたい。あの霊夢に勝ちたいのだ。振り向いてもらわなくていい、ただ私はお前の顔を、所作を、その存在を見ていたいだけなのだ……

「何を考えているんだ……はぁ、とりあえず座ろう」
 気がついたら長々と考え込んでしまっていた。それが馬鹿らしくなって、私は社務所の縁側に座る。ぽかぽかと暖かい春の陽気は私に眠りをへと誘った。

 ~*~*~

 そうしてまた、夢を見る。

 神社が桜に埋もれて、私が紅色のあの子に見惚れてから少し経った時のこと。実家で住み込みで働いている香霖の部屋に突撃していた。香霖は呆れたように怒っていたと思う。私はそれを無視してやんちゃをしていた。霧雨店のお嬢様だろうがそんなものは関係ないとばかりに遊んでいたように思う。それをお父様に見つかれば叱咤はされたけれど。

「魔理沙、用事がないのなら部屋に帰ってくれないか。また怒られてしまうよ」
「こーりんに聞きたいことがあるの」
 困ったような顔をした香霖に部屋から追い出される前に本題を告げる。
「僕にかい? 答えられることならだが……」
 少し驚いたかのような顔はどこか新鮮だった。私は直球に聞いていく。
「神社に行った時のあの紅色の女の子は誰?」
 あの子は誰なのか。それが私の頭の中でずっと回っている。
「ああ……博麗の巫女の事かい」
「は……はく……?」
「博麗の巫女。守護者だよ。あの子個人の名前は知らないけどね。恐らくあの子が次代の巫女なんだろうさ」
「みこ?」
「巫女というのはね、神に仕える女性の事さ。幻想郷にとって大切な……」
 香霖のいつもの長話が始まってから私は抜け出したと思う。だって長い話なんか聞いていたくなかったから。私はあの子にもう一度会うということだけを思って、家の監視の目を潜り抜けて里から飛び出した。

 今考えれば子供一人で妖怪が出なかったのは運が良かったのだろう。必死に走る私はそんなことに気が付かなかったけれど。
 香霖に手を引かれて行った道を思い出して走っていく。お父様に見つかる前に、あの子に会わないといけない。もう一度、私は、あの子に……
 無我夢中に走って、あの大きな鳥居が見えた。

 もう少し……もう少し……!

 私は階段を駆け上がる。着物の裾が足にもつれて転んでしまう。膝を怪我してしまった。それでも必死になって上を向いて走る。あの紅色を見たい……

 どんどん近づく鳥居を私は息を切らしながら走って潜り抜けた。

 はあはあと大きく息を吸いながら私は見た。桜色の中にただ一つある紅色に目を奪われていた。それを見るために私は。

「あれ……この前に来てた」

 箒を持って私の方を見て話しかけてくれた。嬉しくて、なぜか報われたような気がして、私は訳が分からなくなって……

 ~*~*~

「……りさ、魔理沙! 起きなさいよ」

 大声で起きて、私は回らない頭で体を起こす。あれ、桜に埋もれる霊夢は……?

「なんで縁側で寝てるのよ。ぶっ倒れてるかと思ったじゃない」
 きょろきょろと周りを見ると霊夢が私の前に立っていた。足元には鞄が置いてあって。さっきまでの桜は嘘かのように神社に無くて。
「あれ、私寝てたのか。ううん、頭が回らない……」
「寝てることも忘れてるのかしら。おばあちゃんになったの?」
「なってない。まだ若いぜ」
 ふん、と私は言葉を返す。頭が回るようになってきたので状況整理をする。私はここで寝てたのか。そしてまた夢を見ていたと。しかもまた懐かしい夢を見て……何故だろうか。こんなに思い出されるかのように見るのは。
 考えながら霊夢の方を見ると買ってきたものを入れている鞄を台所の方に持って行っていた。

 ……どうしてまた懐かしいものを見ていたんだろうか。恥ずかしいし、どうにもならないし。私が霊夢に惚れているのは今更だし。ふふ、どうしてかな。好きなのになんでこんなにむず痒いんだろうか。人を好きになるってのはこんなに痒いものだったろうか。人を嫌いになるのもあっという間だし、好きになるのもすぐだった。霊夢には一目惚れをしたけれど。この恋が届くまで私は諦めてなんかやらない。

「魔理沙ー? あんたお茶いる?」

「いる!」
ソメイヨシノの花言葉を調べてみてください。

読んでいただきありがとうございました。
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コメント



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1.100サク_ウマ削除
美しくて、甘酸っぱくて、素晴らしいですね。
魔理沙は報われるといいなと思います。お見事でした。
2.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
3.100名前が無い程度の能力削除
やっぱりレイマリですわ
4.100終身削除
情景の描き方が綺麗でそれで感情の機微が書かれている情報以上にずっと引き立ってくるダブルパンチですね…
近いようで遠い、遠いようで近い憧れがなんだか等身大で率直な感触でいいですね
5.90名前が無い程度の能力削除
いやーレイマリ良かったです!
6.100名前が無い程度の能力削除
色で表現できるのがおもしろいですね
7.100南条削除
とても面白かったです
色づくような情景とドキドキが伝わってくるような魔理沙の内面がきれいに書かれていて素敵でした
レイマリにありがとう
8.80名前が無い程度の能力削除
ゆったりとした空気と切ない感情が好き。楽しませていただきました。