新年。こんな日はなかなか人間を驚かすことが出来ない。ハレの日だとか言って家から出てこないものだから。
神社に集まる人を驚かすに限る。私は紫──茄子色なんかとか言われる傘、本体を持って博麗神社に行こうとしたら霧雨魔理沙に弾幕ごっこでぼこぼこにされた。
「ひーん、なんで倒されないといけないの!」
「むしゃくしゃしたからな。すまんな小傘!」
それだけを言い放って魔理沙はどこかに飛んで行った。
くそぉ、腹立つ。私が弱いからと言ってそこまでぼこぼこにしなくていいだろう。博麗神社に行っても巫女にぼこされるだけだろうからもう行くのは止めた。
暇になったので空を飛んでいたら妖怪の山付近に飛んできていたらしい。年があける前に完成した、ろーぷうぇい?だとかにたくさんの人間が乗っては降りているのを見た。
そういえば早苗がとても嬉しそうに話していたのを思い出す。ろーぷうぇいは信仰のためにとても役立つって。それが神社にお参りしてもらえるって本当に喜んでいた。私はそれがよく分からなかった。ただ早苗が嬉しそうなのが私も嬉しかったことを覚えてた。
……守矢神社に行こうかな。早苗は忙しいかもしれないけれど顔を見せるだけでいいか。
私はそんな気まぐれなことを思って守矢神社に向かって飛んだ。
***
守矢神社上空。そこから見えるのはたくさんの人間だった。お参りするために、そんなにぎゅうぎゅうになって楽しいのかな。妖怪が来たら沢山食べられそうだけど。やっぱり人間に道具として使われるのは良いけれど、人間の習慣は分からない。数字が増えただけなのに何を祝うというのか。人間からすれば野暮なことを思いつつゆっくりと境内に降りていく。人間に気が付かれないように木の中、草かげに音がならないように降りた。
その隙間から本殿方向を覗き込むとわいわいと人間の声が聞こえる。子供が走って転けていたり、熱心にお参りをする人がいたり。
早苗の姿を探していると本殿の近くで熱心にお守りを売っていた。それを買おうとしている人間は並んでいる。しかもたくさん。それをじいっと見つめているとお喋りをしているみたいで時々楽しそうに早苗は笑顔になったりしている。少し気に食わなかった。私にも笑顔は見せてくれるけれども、そんな顔じゃなかった。もやもやしたような気分で私はそれをぶち壊してやろうかと思った。なら、やることは一つ。あの中に飛び込んでいけばいい。それを思えば私は飛び込んでいた。
「う〜ら~めしや!」
草かげから飛び出して空を飛んで人間たちを驚かせる。ドッと驚いたのか、倒れる人がいた。それから連鎖的に逃げる人がいて驚きの心が入ってくる。むしろ食べきれないほどに。調子に乗ってさらに驚かそうとしたら、早苗にお札を投げられた。おでこに引っ付いて離れないし、痛い。
「いててててて!?」
「小傘さん? 何してくれてるんですか……」
痛みに悶えながら声のする方を見るとお祓い棒をトントンと手に当てながら早苗は怒りの表情で歩いてきていた。周りの人間は早苗を避けて、歩いてくるところだけ綺麗に割れていた。
怖い。人間ってあんな顔できるの。初めて知った。
「なにか言い残すことはありますか?」
そんな優しいことしてくれるの。
「美味しかった!」
笑顔で本音を叫んだと同時に私の意識は消えた。
***
ハッと目を覚ますと知らない天井……では無いけれど天井が見えた。確か、早苗にやられたはず。ぼーっとそんなことを思い出しながら天井を見ていると声が聞こえた。
「何ずっと上を見てるんですか。起きてください」
「……早苗酷くない? あんな人間の前で殴り飛ばさなくても」
「見せしめですよ、見せしめ。人が沢山いるところであんなことをするからです。邪悪な、から傘お化けは退治しないと」
酷いなあ。死んでないだけ良いけれど。
起き上がって私は座る。机の近くに寝ていたのか。ここは社務所かな。時々お邪魔させてもらうから見覚えはあった。早苗は台所の方に行ったのかそちらから水を流す音が聞こえていた。
お腹いっぱいにはなったけど、さてどうしよう。今から鍛治工場に帰っても特にやることもないか。この時期は仕事なんて一切貰えないし。ああ、そういえば。
「襲った私が聞くのは野暮だけどお参りの方は大丈夫なの?」
「それは終わりましたよ。気がついていないんですか。既に日は暮れてます」
言われて外を見ると真っ暗になっていた。あれ、余程倒れていたのか。早苗はお茶が乗ったお盆を台所から持ってきていた。
「今回ばかりはきつく叩きました。人間にとって新年は大切なものなんですから。それを妖怪に壊されたとなっては神奈子様と諏訪子様に顔が立ちません。反省してくださいよ」
「それを妖怪のわきちに言うか!」
わざとらしく大袈裟に言ってみる。実際のところ付喪神、私は人間の心を食べないと餓死するわけで。反省も何もそれが生きがいのようなものなのだから仕様がない。
「いや、キャラを作られても……また殴れば戻りますか?」
「わわわ! やめてやめて!」
また殴られたら痛い。気を失うのでやめて欲しい。
早苗はお茶を私の前の机に置いた。
「まあ、少しぐらい飲んでいってください」
「……そういえば神様たちは?」
私が起きてから一切出てこないものだから聞いてしまう。いつもなら早苗と話し始めるとどちらか絶対に出てくるものだから。
「神奈子様と諏訪子様は大天狗様の宴会にお呼ばれしたのでいませんよ」
「あ、そうなんだ……」
なんだろう少し安心している私がいた。出してくれたお茶をゆっくりと飲む。話すことがないのか、部屋が静かになった。ギスギスしたような無言ではなく、どこかゆっくりのような、落ち着いた無言だった。
どのぐらい経ったのだろうか。五分かもしれないし十分かもしれない。無言になっていたら早苗が話してきた。
「あの、小傘さん。新年なのでこれを持って帰ってくれますか」
そう言って立ち上がって台所から持ってきたのは何かの飾りのついた矢だった。どこかで見たことあるような。
「……これの鏃を作ってこればいいのかな?」
「なんでそうなるんですか」
「矢だから。鏃がないから殺傷能力無さそうだし」
はあ、と大きくため息をつく早苗。そんなに呆れることかな。
「これは破魔矢って言う縁起物なんです。不幸や、災いといった魔を破って幸せに過ごせるようにとか、これから一年の幸運を射止められるようにとか言った願いがあるものなんです。むしろ殺してどうするんです」
ああ、破魔矢か。それを私に渡してどうなる。
「むしろそれで破られるのは妖怪なんだけど……退魔される方なんだけど……」
「いいから。持って帰って飾ってください」
ぐいぐいと押し付けられるように持たされた。強引だな。持つと少しピリッと痛みを感じる。顔を歪めたのに気がついた早苗は言う。
「あら、お札外し忘れてましたか」
「これって全部お札あるの……?」
通りで痛いわけ。私が持つ破魔矢を早苗はとってお札を剥がしていた。
「貰っていってください。小傘さんが幸運を射止められるといいですね」
「ほんと、それって皮肉?」
「さあ。自分で考えてください」
私は夜の暗い神社からぽいとおい出された。なんか少し早苗の顔が赤くなっていたのは見間違いだったのだろうか。破魔矢を持って私は鍛治工場に向かって飛んだ。
***
帰ってそこまで広くない部屋の机に破魔矢を置く。それを見ながら私は一人呟いてしまっていた。
「お前さんはずるいな。使ってくれる人間が近くにいて」
妖怪に破魔矢を渡す早苗がよく分からないけれど、私はこの破魔矢がとても羨ましかった。人間に求められて新年だとか正月だとかで貰われて使われて、ちゃんと供養されるのが。道具として本当に羨ましい。
「あーあ、でもまあ……よろしく……」
破魔矢に、道具として挨拶を。早苗は……またお礼を言おう……うとうとと、寒い部屋の中で眠ってしまっていた。
###
「小傘さんのバーカ」
そんな遠回りの想いは伝わらずに。
神社に集まる人を驚かすに限る。私は紫──茄子色なんかとか言われる傘、本体を持って博麗神社に行こうとしたら霧雨魔理沙に弾幕ごっこでぼこぼこにされた。
「ひーん、なんで倒されないといけないの!」
「むしゃくしゃしたからな。すまんな小傘!」
それだけを言い放って魔理沙はどこかに飛んで行った。
くそぉ、腹立つ。私が弱いからと言ってそこまでぼこぼこにしなくていいだろう。博麗神社に行っても巫女にぼこされるだけだろうからもう行くのは止めた。
暇になったので空を飛んでいたら妖怪の山付近に飛んできていたらしい。年があける前に完成した、ろーぷうぇい?だとかにたくさんの人間が乗っては降りているのを見た。
そういえば早苗がとても嬉しそうに話していたのを思い出す。ろーぷうぇいは信仰のためにとても役立つって。それが神社にお参りしてもらえるって本当に喜んでいた。私はそれがよく分からなかった。ただ早苗が嬉しそうなのが私も嬉しかったことを覚えてた。
……守矢神社に行こうかな。早苗は忙しいかもしれないけれど顔を見せるだけでいいか。
私はそんな気まぐれなことを思って守矢神社に向かって飛んだ。
***
守矢神社上空。そこから見えるのはたくさんの人間だった。お参りするために、そんなにぎゅうぎゅうになって楽しいのかな。妖怪が来たら沢山食べられそうだけど。やっぱり人間に道具として使われるのは良いけれど、人間の習慣は分からない。数字が増えただけなのに何を祝うというのか。人間からすれば野暮なことを思いつつゆっくりと境内に降りていく。人間に気が付かれないように木の中、草かげに音がならないように降りた。
その隙間から本殿方向を覗き込むとわいわいと人間の声が聞こえる。子供が走って転けていたり、熱心にお参りをする人がいたり。
早苗の姿を探していると本殿の近くで熱心にお守りを売っていた。それを買おうとしている人間は並んでいる。しかもたくさん。それをじいっと見つめているとお喋りをしているみたいで時々楽しそうに早苗は笑顔になったりしている。少し気に食わなかった。私にも笑顔は見せてくれるけれども、そんな顔じゃなかった。もやもやしたような気分で私はそれをぶち壊してやろうかと思った。なら、やることは一つ。あの中に飛び込んでいけばいい。それを思えば私は飛び込んでいた。
「う〜ら~めしや!」
草かげから飛び出して空を飛んで人間たちを驚かせる。ドッと驚いたのか、倒れる人がいた。それから連鎖的に逃げる人がいて驚きの心が入ってくる。むしろ食べきれないほどに。調子に乗ってさらに驚かそうとしたら、早苗にお札を投げられた。おでこに引っ付いて離れないし、痛い。
「いててててて!?」
「小傘さん? 何してくれてるんですか……」
痛みに悶えながら声のする方を見るとお祓い棒をトントンと手に当てながら早苗は怒りの表情で歩いてきていた。周りの人間は早苗を避けて、歩いてくるところだけ綺麗に割れていた。
怖い。人間ってあんな顔できるの。初めて知った。
「なにか言い残すことはありますか?」
そんな優しいことしてくれるの。
「美味しかった!」
笑顔で本音を叫んだと同時に私の意識は消えた。
***
ハッと目を覚ますと知らない天井……では無いけれど天井が見えた。確か、早苗にやられたはず。ぼーっとそんなことを思い出しながら天井を見ていると声が聞こえた。
「何ずっと上を見てるんですか。起きてください」
「……早苗酷くない? あんな人間の前で殴り飛ばさなくても」
「見せしめですよ、見せしめ。人が沢山いるところであんなことをするからです。邪悪な、から傘お化けは退治しないと」
酷いなあ。死んでないだけ良いけれど。
起き上がって私は座る。机の近くに寝ていたのか。ここは社務所かな。時々お邪魔させてもらうから見覚えはあった。早苗は台所の方に行ったのかそちらから水を流す音が聞こえていた。
お腹いっぱいにはなったけど、さてどうしよう。今から鍛治工場に帰っても特にやることもないか。この時期は仕事なんて一切貰えないし。ああ、そういえば。
「襲った私が聞くのは野暮だけどお参りの方は大丈夫なの?」
「それは終わりましたよ。気がついていないんですか。既に日は暮れてます」
言われて外を見ると真っ暗になっていた。あれ、余程倒れていたのか。早苗はお茶が乗ったお盆を台所から持ってきていた。
「今回ばかりはきつく叩きました。人間にとって新年は大切なものなんですから。それを妖怪に壊されたとなっては神奈子様と諏訪子様に顔が立ちません。反省してくださいよ」
「それを妖怪のわきちに言うか!」
わざとらしく大袈裟に言ってみる。実際のところ付喪神、私は人間の心を食べないと餓死するわけで。反省も何もそれが生きがいのようなものなのだから仕様がない。
「いや、キャラを作られても……また殴れば戻りますか?」
「わわわ! やめてやめて!」
また殴られたら痛い。気を失うのでやめて欲しい。
早苗はお茶を私の前の机に置いた。
「まあ、少しぐらい飲んでいってください」
「……そういえば神様たちは?」
私が起きてから一切出てこないものだから聞いてしまう。いつもなら早苗と話し始めるとどちらか絶対に出てくるものだから。
「神奈子様と諏訪子様は大天狗様の宴会にお呼ばれしたのでいませんよ」
「あ、そうなんだ……」
なんだろう少し安心している私がいた。出してくれたお茶をゆっくりと飲む。話すことがないのか、部屋が静かになった。ギスギスしたような無言ではなく、どこかゆっくりのような、落ち着いた無言だった。
どのぐらい経ったのだろうか。五分かもしれないし十分かもしれない。無言になっていたら早苗が話してきた。
「あの、小傘さん。新年なのでこれを持って帰ってくれますか」
そう言って立ち上がって台所から持ってきたのは何かの飾りのついた矢だった。どこかで見たことあるような。
「……これの鏃を作ってこればいいのかな?」
「なんでそうなるんですか」
「矢だから。鏃がないから殺傷能力無さそうだし」
はあ、と大きくため息をつく早苗。そんなに呆れることかな。
「これは破魔矢って言う縁起物なんです。不幸や、災いといった魔を破って幸せに過ごせるようにとか、これから一年の幸運を射止められるようにとか言った願いがあるものなんです。むしろ殺してどうするんです」
ああ、破魔矢か。それを私に渡してどうなる。
「むしろそれで破られるのは妖怪なんだけど……退魔される方なんだけど……」
「いいから。持って帰って飾ってください」
ぐいぐいと押し付けられるように持たされた。強引だな。持つと少しピリッと痛みを感じる。顔を歪めたのに気がついた早苗は言う。
「あら、お札外し忘れてましたか」
「これって全部お札あるの……?」
通りで痛いわけ。私が持つ破魔矢を早苗はとってお札を剥がしていた。
「貰っていってください。小傘さんが幸運を射止められるといいですね」
「ほんと、それって皮肉?」
「さあ。自分で考えてください」
私は夜の暗い神社からぽいとおい出された。なんか少し早苗の顔が赤くなっていたのは見間違いだったのだろうか。破魔矢を持って私は鍛治工場に向かって飛んだ。
***
帰ってそこまで広くない部屋の机に破魔矢を置く。それを見ながら私は一人呟いてしまっていた。
「お前さんはずるいな。使ってくれる人間が近くにいて」
妖怪に破魔矢を渡す早苗がよく分からないけれど、私はこの破魔矢がとても羨ましかった。人間に求められて新年だとか正月だとかで貰われて使われて、ちゃんと供養されるのが。道具として本当に羨ましい。
「あーあ、でもまあ……よろしく……」
破魔矢に、道具として挨拶を。早苗は……またお礼を言おう……うとうとと、寒い部屋の中で眠ってしまっていた。
###
「小傘さんのバーカ」
そんな遠回りの想いは伝わらずに。
新年らしい柔らかな空気のこがさなに癒されました。
お互い大切には思っているんだろうけど遠回りに、不器用になってしまうのが何というかとてもこの2人らしいというか・・・素晴らしいこがさなで大満足です
二人のやり取りがかわいい
スイートバイオレンス
こがさなめでたい!
正月にふさわしい作品だと思いました。
なんだかんだで気を許しあっているふたりの関係がよかったです