早朝というにはまだ早い時間に目が覚めてしまったらしかった。
障子の外に下りた夜の帳はいまだ深く、見慣れた博麗神社寝所の天井もまだ暗い。何故こんな時間に目が覚めたのか、霧雨魔理沙には分からなかった。用足しの気配ではないし、そもそも昨夜は年越しの蕎麦を食べたくらいで酒は珍しく飲んでいない。強いて思い当たりを挙げるならば今夜は少しいつもよりも寒さを感じることくらいだが、それも魔理沙の体感では激しく寒いというものでもなかった。
隣に同衾する博麗霊夢は、幸いにもこちらの目覚めに気づいた様子は無く、未だ夢の住人と戯れているらしかった。それは魔理沙にとって喜ばしいことであった。霊夢は勘が鋭く気配を読むに長け、それは寝ても覚めても相変わらない彼女の特性であるように魔理沙は感じていた。酒をたらふく飲んで床に就き、途中に用足しの気配を感じて目覚めた晩などにふと隣を向いた際、それまで閉じていた双眸がゆっくりと開いて「トイレね、魔理沙?」と優しく気遣われることは珍しいことではなかった。いくら霊夢が妖神無双無敵の博麗の巫女であるとはいえ、身体は自分と同じ年端も行かぬ少女と変わらないのであるのだから、こうして自分に合わせて睡眠を一時中断させてしまうのが決して良いことのように思えようはずもなく、中途で目覚める自分を気遣われる嬉しさを差し引いても魔理沙は身じろぎ一つで彼女を起こしてしまう申し訳なさを心苦しく覚えずにはいられなかった。
目覚めた魔理沙はしばらくの間、ぼんやりと天井を眺めていた。魔理沙が神社を訪れたのは前年の大晦日で、時の予測が外れていなければ今は新年の元日となっているはずだった。こうして年越しに霊夢と過ごすのは毎年の通例となっていた。今回も例年と同じように夕方に魔理沙が神社を訪れ、共に食事の用意をし、年越しなのに相変わらずな二人だけの時間を過ごし、そして夜も更けた時刻に共に床に就いたのだ。改めて振り返っても、年の節目ということ以外はまるでいつもと変わらない霊夢との日常であり、結局魔理沙は今こうして目覚めたのはそういう偶然だったのだろうと結論付けるに至っていた。そして最後に再び眠りに落ちる前に霊夢の様子をちらと見やった時、閉じられていたはずの双眸と偶然にも目が合ったのだった。
「寝付けなかったの?」
そう問いかける口調は優しく、穏やかだった。魔理沙は小さく首を振って、答えた。
「さっきまで寝てたんだけど、ふと目が覚めたんだ」
「そう。よかった」
「霊夢は、ちゃんと?」
「うん。私も、偶然」
「偶然」
優しい顔の霊夢を、魔理沙は見つめていた。安らいだ笑みを霊夢は浮かべていた。きっと自分も同じ表情をしているんだろうなと、魔理沙は思った。
心に幸福が満たされる感覚というのは、きっとこういう感じのことなんだろう。大事にしたいと、強く思う。
「魔理沙」
「うん?」
「新年、明けましておめでとう」
小さく会釈する霊夢に、魔理沙は同じ行動で返した。
「明けましておめでとう、霊夢」
良いお年を、と互いに言い合って床に就いたのはたった数時間前のことだ。その数時間で時世の挨拶が変わり、こうしてその言葉を交わし合うのは魔理沙にとって妙に不思議な心地のすることだった。多分それは、いつもならもっと時間の空いた後で、朝日が昇って明るくなった時刻に交わされる挨拶だからだろうと魔理沙は思った。少なくともこんな時間に目覚めることなく、普通に朝に目覚めて普通に同じ言葉を交わし合ったなら決して感じ得なかったであろう感覚であることには違いなかった。そう考えるとこの感覚もまた、偶然によって霊夢と生み出すことの出来た貴重な記憶になるのだろうと魔理沙は思えた。
「ねぇ、魔理沙」
呼びかける霊夢の吐く息が、わずかに白く曇っていた。
「寒くない?」
「うん。少し、寒いかな。……こっちに来る?」
「うん」
霊夢は頷くと、胸元にうずめるように魔理沙の下に身を寄せた。魔理沙もまたそんな霊夢を受け止めるように、霊夢の身体を抱き留め、両手を背中に回して包み込んでいた。
「あったかい……」
霊夢の口から、安堵の言葉が零れた。その気持ちは魔理沙も同じだった。霊夢を抱きしめた時から、説明のいらない安心と安堵が魔理沙の胸中を満たしていた。霊夢と同じ気持ちを共有できていることが、魔理沙には嬉しかった。身体だけでなく心も温まっていくのを、魔理沙は感じていた。
やがて胸元の息遣いが、ゆっくりと深く、長いものになっていった。この霊夢の安堵の時が何事も無くいつまでも続くことを、魔理沙は祈った。
「おやすみ、魔理沙。また、明日」
裏【http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_p/98/1577818458】
障子の外に下りた夜の帳はいまだ深く、見慣れた博麗神社寝所の天井もまだ暗い。何故こんな時間に目が覚めたのか、霧雨魔理沙には分からなかった。用足しの気配ではないし、そもそも昨夜は年越しの蕎麦を食べたくらいで酒は珍しく飲んでいない。強いて思い当たりを挙げるならば今夜は少しいつもよりも寒さを感じることくらいだが、それも魔理沙の体感では激しく寒いというものでもなかった。
隣に同衾する博麗霊夢は、幸いにもこちらの目覚めに気づいた様子は無く、未だ夢の住人と戯れているらしかった。それは魔理沙にとって喜ばしいことであった。霊夢は勘が鋭く気配を読むに長け、それは寝ても覚めても相変わらない彼女の特性であるように魔理沙は感じていた。酒をたらふく飲んで床に就き、途中に用足しの気配を感じて目覚めた晩などにふと隣を向いた際、それまで閉じていた双眸がゆっくりと開いて「トイレね、魔理沙?」と優しく気遣われることは珍しいことではなかった。いくら霊夢が妖神無双無敵の博麗の巫女であるとはいえ、身体は自分と同じ年端も行かぬ少女と変わらないのであるのだから、こうして自分に合わせて睡眠を一時中断させてしまうのが決して良いことのように思えようはずもなく、中途で目覚める自分を気遣われる嬉しさを差し引いても魔理沙は身じろぎ一つで彼女を起こしてしまう申し訳なさを心苦しく覚えずにはいられなかった。
目覚めた魔理沙はしばらくの間、ぼんやりと天井を眺めていた。魔理沙が神社を訪れたのは前年の大晦日で、時の予測が外れていなければ今は新年の元日となっているはずだった。こうして年越しに霊夢と過ごすのは毎年の通例となっていた。今回も例年と同じように夕方に魔理沙が神社を訪れ、共に食事の用意をし、年越しなのに相変わらずな二人だけの時間を過ごし、そして夜も更けた時刻に共に床に就いたのだ。改めて振り返っても、年の節目ということ以外はまるでいつもと変わらない霊夢との日常であり、結局魔理沙は今こうして目覚めたのはそういう偶然だったのだろうと結論付けるに至っていた。そして最後に再び眠りに落ちる前に霊夢の様子をちらと見やった時、閉じられていたはずの双眸と偶然にも目が合ったのだった。
「寝付けなかったの?」
そう問いかける口調は優しく、穏やかだった。魔理沙は小さく首を振って、答えた。
「さっきまで寝てたんだけど、ふと目が覚めたんだ」
「そう。よかった」
「霊夢は、ちゃんと?」
「うん。私も、偶然」
「偶然」
優しい顔の霊夢を、魔理沙は見つめていた。安らいだ笑みを霊夢は浮かべていた。きっと自分も同じ表情をしているんだろうなと、魔理沙は思った。
心に幸福が満たされる感覚というのは、きっとこういう感じのことなんだろう。大事にしたいと、強く思う。
「魔理沙」
「うん?」
「新年、明けましておめでとう」
小さく会釈する霊夢に、魔理沙は同じ行動で返した。
「明けましておめでとう、霊夢」
良いお年を、と互いに言い合って床に就いたのはたった数時間前のことだ。その数時間で時世の挨拶が変わり、こうしてその言葉を交わし合うのは魔理沙にとって妙に不思議な心地のすることだった。多分それは、いつもならもっと時間の空いた後で、朝日が昇って明るくなった時刻に交わされる挨拶だからだろうと魔理沙は思った。少なくともこんな時間に目覚めることなく、普通に朝に目覚めて普通に同じ言葉を交わし合ったなら決して感じ得なかったであろう感覚であることには違いなかった。そう考えるとこの感覚もまた、偶然によって霊夢と生み出すことの出来た貴重な記憶になるのだろうと魔理沙は思えた。
「ねぇ、魔理沙」
呼びかける霊夢の吐く息が、わずかに白く曇っていた。
「寒くない?」
「うん。少し、寒いかな。……こっちに来る?」
「うん」
霊夢は頷くと、胸元にうずめるように魔理沙の下に身を寄せた。魔理沙もまたそんな霊夢を受け止めるように、霊夢の身体を抱き留め、両手を背中に回して包み込んでいた。
「あったかい……」
霊夢の口から、安堵の言葉が零れた。その気持ちは魔理沙も同じだった。霊夢を抱きしめた時から、説明のいらない安心と安堵が魔理沙の胸中を満たしていた。霊夢と同じ気持ちを共有できていることが、魔理沙には嬉しかった。身体だけでなく心も温まっていくのを、魔理沙は感じていた。
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