巫女をやめるのなんて、意外に簡単な事だ。
まず一つは、死んでしまう事。これは手っ取り早い。人間だろうと妖怪だろうと、死ねば何もできなくなる。ましてや所詮生きて死ぬ人間に過ぎない私は、死んだら巫女の役目から解放されるだろう。
二つ目は、子を授かる事。これは言うが易し行うは難し、けれど現実的な方法だ。婚約し跡継ぎを設ければ、巫女としての力はその子供に受け継がれる。
後はのんびり縁側で子供の活躍でも見ながらお茶を啜り、老いて死ぬなりの悠々自適な余生が待っているだろう。
三つ目としては、自ら任を放棄する事。簡単ではないけど、例を挙げるとして。結界を維持する巫女がいなくなれば、連れ戻すか代わりを立てなければならない。それを決めるのが妖怪──最たるところはもちろん紫だ──である以上、当代の巫女である私を連れ戻すのが最適解だが、万が一にも代役が選ばれたら晴れて私は自由の身であろう。
もちろん、その後の妖怪跋扈する楽園で独り無力な人間が生きられる保証は無いだろうが。
巫女の仕事は、決して楽しいものではない。選ばれたが最後、それ以外の道は用意されていない、一種の呪いだ。
悪行を為す妖怪の退治や、調和を乱す異変の解決──それが博麗の巫女の役目。肩書きは立派だろう。事実、幻想郷では欠かせない立場に収まっている。
しかし、力無き人々から見る私の存在は、果たして英雄だろうか?それとも理解できない化け物だろうか?
そして……それでもなお万能ではない以上、助けられなかった命からしたら、私はどれだけ力のある無力な存在であろうか。
知り合い達は私を、妖怪退治や賽銭集めが趣味のぐうたら巫女だと思っている事だろう。間違ってはいない。でも私の本質は、それが全てじゃない。私とてこの世に生きる一人の人間だ。辛いものは辛いし、悲しいものは悲しい。
巫女をやめたいと思った事なんて、今に思い立った事ではなかった。
死ぬか、後任を作るか、逃げ出すか──選択肢はある。巫女の立場で唯一決められる道だ。今ここで命を絶つか、外来人とでも所帯を持つか、掃除のふりをする箒すら放り捨てて飛び出せば良い。それだけで私の世界は自由になる。
それでも。
それでも私が今の今まで、巫女で居続けた理由は──
「よう、今日も暇そうにしてるな、霊夢」
不意に投げ掛けられた、いつもの声。もう長い事聞いてきたその声に後ろ向きのまま少し微笑むも、見せてはなるものかと表情を隠しつつ、もう長い事見てきたその声の主の顔に向き合った。
「巫女が暇なのは良い事よ。平和な証拠だわ」
「暇だー!って態度に出てる巫女は、決して平和に浸ってる器じゃないぜ。ここは私の持ってきた話をしてやろう」
「あら、儲け話?それなら新茶くらいは奮発してあげるわよ」
「ついでに茶菓子が怖い。報復は、怖いくらい上手い話の片棒を担がせてやるよ」
言葉遊びに興じながら、神社に共連れで向かう。変わりない、いつもの日常。これからまた一日が過ぎ、たまに異変が起きたりしての毎日が繰り返されるだろう。
それでも、私が巫女であり続けるのは……魔法使いであり続ける彼女が傍に来てくれるから──
まず一つは、死んでしまう事。これは手っ取り早い。人間だろうと妖怪だろうと、死ねば何もできなくなる。ましてや所詮生きて死ぬ人間に過ぎない私は、死んだら巫女の役目から解放されるだろう。
二つ目は、子を授かる事。これは言うが易し行うは難し、けれど現実的な方法だ。婚約し跡継ぎを設ければ、巫女としての力はその子供に受け継がれる。
後はのんびり縁側で子供の活躍でも見ながらお茶を啜り、老いて死ぬなりの悠々自適な余生が待っているだろう。
三つ目としては、自ら任を放棄する事。簡単ではないけど、例を挙げるとして。結界を維持する巫女がいなくなれば、連れ戻すか代わりを立てなければならない。それを決めるのが妖怪──最たるところはもちろん紫だ──である以上、当代の巫女である私を連れ戻すのが最適解だが、万が一にも代役が選ばれたら晴れて私は自由の身であろう。
もちろん、その後の妖怪跋扈する楽園で独り無力な人間が生きられる保証は無いだろうが。
巫女の仕事は、決して楽しいものではない。選ばれたが最後、それ以外の道は用意されていない、一種の呪いだ。
悪行を為す妖怪の退治や、調和を乱す異変の解決──それが博麗の巫女の役目。肩書きは立派だろう。事実、幻想郷では欠かせない立場に収まっている。
しかし、力無き人々から見る私の存在は、果たして英雄だろうか?それとも理解できない化け物だろうか?
そして……それでもなお万能ではない以上、助けられなかった命からしたら、私はどれだけ力のある無力な存在であろうか。
知り合い達は私を、妖怪退治や賽銭集めが趣味のぐうたら巫女だと思っている事だろう。間違ってはいない。でも私の本質は、それが全てじゃない。私とてこの世に生きる一人の人間だ。辛いものは辛いし、悲しいものは悲しい。
巫女をやめたいと思った事なんて、今に思い立った事ではなかった。
死ぬか、後任を作るか、逃げ出すか──選択肢はある。巫女の立場で唯一決められる道だ。今ここで命を絶つか、外来人とでも所帯を持つか、掃除のふりをする箒すら放り捨てて飛び出せば良い。それだけで私の世界は自由になる。
それでも。
それでも私が今の今まで、巫女で居続けた理由は──
「よう、今日も暇そうにしてるな、霊夢」
不意に投げ掛けられた、いつもの声。もう長い事聞いてきたその声に後ろ向きのまま少し微笑むも、見せてはなるものかと表情を隠しつつ、もう長い事見てきたその声の主の顔に向き合った。
「巫女が暇なのは良い事よ。平和な証拠だわ」
「暇だー!って態度に出てる巫女は、決して平和に浸ってる器じゃないぜ。ここは私の持ってきた話をしてやろう」
「あら、儲け話?それなら新茶くらいは奮発してあげるわよ」
「ついでに茶菓子が怖い。報復は、怖いくらい上手い話の片棒を担がせてやるよ」
言葉遊びに興じながら、神社に共連れで向かう。変わりない、いつもの日常。これからまた一日が過ぎ、たまに異変が起きたりしての毎日が繰り返されるだろう。
それでも、私が巫女であり続けるのは……魔法使いであり続ける彼女が傍に来てくれるから──
辛くても心の支えがあるっていいですね
レイマリをありがとう