Coolier - 新生・東方創想話

魂魄妖忌の華麗なる一日

2019/12/06 00:00:03
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 わしは魂魄妖忌。西行寺家のお嬢様警護役を務めている一介の剣士である。

 わしの使命は西行寺家のお嬢様である、幽々子様の身を守るべく日夜、白玉楼の警護を務める傍ら、庭の手入れをすることだ。

 そう、わしは警護役であると同時に庭師でもある。

 自分で言うのもおこがましいが、わしの手にかかれば、例え見るも無残に荒れた庭もたちどころに立派な名庭に生まれ変わる事が出来る。さあ、とくと見るがよい。これぞ匠の技というものを――

「妖忌! 何をしているの。早く食器を片づけてちょうだい」
「あぁ、これは幽々子様! はいはい只今!」

 ……うむ、失礼した。では気を取り直して今回は、皆にわしの多忙な一日……もとい、見事な仕事ぶりをお見せしようと思う。では、いざ参ろうぞ。

 ◆

 わしの朝は早い。それこそまだ日付が変わらないうちに起きることもある。
 それほどまで早い時間に起きてわしがする事。それは庭の手入れである。
 皆がまだ寝静まっている時間帯に、誰にも邪魔をされず一人庭の手入れにいそしむのだ。植木達と会話をしながらな。

 更に時には、鼻歌なんかを歌って植木達に聞かせてやることもある。音楽を聞かせると木が喜ぶと聞いたことがあるのでな。

 それにしても、庭の手入れをしているときは、何より心が和むものだ。この時、わしは自分が庭師であるということを再認識する事ができる。

 ともかく一日の始まりは、この心安らぐ庭の手入れから始まるのだ。

 ◆


「あら、妖忌。相変わらず早起きね……」
「おぉ、幽々子様。おはようございます」

 さて、幽々子様がお目覚めになられたら、次は朝御飯の準備をしなければならない。

 何故、護衛役兼庭師のわしが、幽々子様の料理まで作らねばらないのか。それには深い理由がある。

 今まで並みいる料理の鉄人達が彼女の胃袋を満足させようと立ち向かったが、誰一人として勝てる者はいなかった。

 その結果、皆夜逃げしてしまい、仕方なく、わしが料理を作らねばならぬ事態になってしまったのだ。

 とは言っても自慢ではないが、わしは料理に関してはほぼ素人だ。
 それこそはじめのうちは、幽々子様を満足させるような料理は到底作ることは出来なかった。しかし、ある時、わしはある事実に気づいたのだ。
 
 そう、幽々子様は味ではなく量で料理を決めていると言う事実に。

 例え、どんなに絶品であろうと、幽々子様は自分の胃袋が満たされるほどの量でなければ満足してくれないのだ。

 逆に言えば、正直、味は誉めた物ではないような代物でも、量さえあれば幽々子様は満足してくれるという事だ。だが、単に味より量と言っても、ちょっとやそっとの量では幽々子様に満足してはもらえぬ。

 わしは、大量の料理を拵える事に、全身全霊を込めなければならない。まさに物量作戦である。

 そう、料理とは、すなわち戦なのだ。

「妖忌、お腹すいたわ~。ご飯まだなの?」
「幽々子様。お待たせいたしました! 本日の朝ごはんは『座敷いっぱい卵焼き』でございますぞ」
「わ~い!」

 この料理は文字通り、館の座敷いっぱいになるほどの量の卵焼きである。
 低出費かつ、てっとり早く幽々子様の腹を満たすために、わしが苦心の末に考え出した渾身の一品だ。

 味にもばりえーしょんをつけ、塩味、胡椒味など基本は勿論のこと、紫蘇味や梅干し味、果ては苺味や緑茶味など様々な味付けを試みてみた。
 その結果、毎日同じ卵焼きとは言えど、その日ごとに別な味で楽しむことができるようになった。これぞまさに卵焼き革命。

 幽々子様も大満足の様子で、片っぱしからその卵焼きを平らげていく。その見事な食いっぷりを見ているだけで、いつもわしは腹が膨れてしまうのだ。
 結果、わし自身の食費も浮く。それに卵も、もらい物なので経費は発生しない。なんと経済的なことか。
 
 いつか、この『座敷いっぱい卵焼き』を幻想郷中に伝播させたいものだ。きっと大流行間違いなしだろう。


 ◆


 朝御飯が終わると、幽々子様は庭を散歩なされる。わしは常に傍に寄り添いお伴する。そして、幽々子様と暫しの語らいを楽しむのだ。わしが育てた庭を歩きながらな。
 
「ねえ、妖忌」
「なんでございましょうかな? 幽々子様」
「……タピオカって美味しいのかしら」
「たぴおか……ですか?」
「ええ」
「成程、たぴおか、たぴおかたぴおか――」
「そう、美味しいのかしら?」
「……それはもちろん美味しいものでございますぞ」
「もちのろんなの?」
「ええ、何て言ったって、たぴのおかと言うくらいですからな。たぴのおかと言ったら、不味いわけがありませんでしょう」
「そう、よくわかったわ。流石、妖忌は何でも知ってるのね」
「そんな、勿体ないお言葉でございます」

 うむ、今朝も、実に有意義な語らいに興じることができたものだ。しかし、たぴおかとは何なのであろうか。今度調べてみるか。

 ◆

 さて、食後の語らいも無事に済み、次にわしがする事。それは家の掃除である。
 
 幽々子様は食後の散歩の後は暫しお眠りになられる。その間に掃除を終わらせねばならないのだ。

 というわけで、箒とちり取りを装備し、ただちに屋敷内の掃除にとりかかる。

 思えば昔のわしは勢いだけで掃除をしていたものだ。我ながら実に未熟なものだった。しかし、今のわしは違う。勢いに技術を兼ね備え、更にチリ一つも見逃さぬ眼力と、無尽蔵の体力。言わば掃除における心・技・体・の境地というものを会得した。

 さあ、とくと見るがいい。
 このまろやかで味わいのある美しき箒さばきを! この見る者を圧倒する華麗で優雅な雑巾がけを!

 わしの手にかかれば例え広いこの白玉楼と言えど、たちどころに白亜の宮殿のごとく浄き空間となる。
 
 そう、庭だけでなく、白玉楼そのものも、わしが育てたのだ。

 ◆

「妖忌、おはよう」
「おや、幽々子様。お目覚めになられてましたか」
「お腹が空いたわ」
「ふむ、わかりました。しばしお待ちくだされ」

 幽々子様の二言目には「お腹が空いた」という言葉がつく。これはもう挨拶のようなものだと認識しておるが、それでもやはり、お腹が空いたと言われたら、何か食べさせてやらねばいかんと思うのはわしの甘さか。しかし、まだ夕刻には少し早い。言ってしまえばおやつの時間帯だ。

 どうやら、こんな事もあろうかと、先日の買いだしで仕入れていた茶菓子の出番が早速来たようだ。
 では、早速幽々子様とまったりと頂くとしようか。

「わーい。美味しいわー!」

 幽々子様は実においしそうに茶菓子を召し上がられている。わざわざ里から仕入れてきた甲斐があったというものだ。

 幽々子様は常々物を食べる時は実に幸せそうな顔をしておられる。その姿に思わずわしの顔もほころんでしまうものだ。言わば、孫をあやす祖父のようなものか。

 思えば、かつては鬼の妖忌と呼ばれたわしも、最近はすっかり丸くなったものだと実感するようになった。

 護衛一筋だった頃のわしは、常に近寄りがたい気を放っていたように思う。それは幽々子様とて同じだったであろう。自分で言うのもなんだが本当、頭の固い奴であったものだ。

 庭師を兼任する事になる頃からわしは変わったのかもしれん。そして、それに伴い、幽々子様の接し方も変わった。
 
 時が経てば人は丸くなる。それは半人半霊のわしとて例外ではなかったという事か。……ああ、緑茶が美味いのう。

「どうしたの? 妖忌ったら難しそうな顔をして」
「ああ、いえ。何でもありません」
「……そう言えば、二代目さんの様子はどうなのかしら?」

 流石、幽々子様である。どうやら、わしが考えている事はお見通しであられたようだ。

「ああ。まだまだダメです。どうやら当分の間は世代交代はなさそうですな」
「……そう。それじゃ妖忌にはまだまだ頑張ってもらわなくちゃならないわね」

 そう言いながらちゃっかりとわしの分の茶菓子も召し上がられる幽々子様であった。流石、抜け目がない。

 実際の所、奴の修行自体はもう最終段階まで来ている。来月からでもここへ連れて来てもよいだろう。とは言え、まだまだ未熟な点は相当にある。

 いや、ほとんど何一つ身についてないといった方が正しいかもしれぬ。だが、それを克服するには経験する事が何よりも手っ取り早い。

 決して指導するのが面倒になったわけはないぞ? 断じて。
 幸い、奴は熱意もあり努力家だ。きっとすぐに上達するだろう。
 
 努力の方向さえ間違わなければの話だが……。
 
 そうなれば、わしもいよいよお払い箱か。
 これからは、どこか知らぬ地でひっそりと一人で晴耕雨読の日々でも送るとしようか。はたまた月の世界へ移住して、かぐや姫と記念撮影でもしようか。

 夢は果てしないものだ。

「……妖忌がいなくなるのは寂しいわね」
「……何事も世代交代は世の常です。自分は既に古い存在。新しき風を取り入れなければこの白玉楼は取り残されてしまいますでしょう。それに往々にして別れは突然やってくるもの。しかし、別れは始まりでもあります」
「……そうね。でもやっと妖忌の事が好きになってきたのに名残惜しいわ」
「そんな。この老いぼれには勿体なさ過ぎるお言葉。是非、今際の際まで心中に留めさせて頂きます」
「もう、妖忌ったら大げさねぇ」

 む、気がつけば茶菓子がすべてなくなっている。どうやら楽しい語らいの時間は終わりのようだ。

 ◆

 次は晩ご飯の用意である。今日は鍋にしよう。こう言ってしまうものもなんだが鍋というものは例え料理の腕が良くなかろうといくらでもごまかしが利く料理なのだ。
 
 その上、比較的調理も楽だし、色々な食材を取り入れることが出来るので栄養面でも申し分ない。更にその食材も簡単に用意出来るもので、お手軽ながらしっかりと食べる事が出来る。実に素晴らしい。今風の言葉で言えば「ぱぁーぺき」というものなのである。

 当の幽々子様も、鍋料理は食べてて飽きが来ないと大層お気に入りの様子だ。もっとも幽々子様は、料理の好き嫌いと言うものはほとんどないのだが、それでもとりわけ鍋料理においては、例え夏の暑い日でも喜ぶほど気に入っておられるのだ。

 もちろん、庭いっぱいになるほどの特注の大鍋で作る必要があるが。
 この日も幽々子様は大鍋で作った寄せ鍋を、まるで吸い込むようにあっと言う間に平らげてしまわれた。

 夕餉が済めば次は風呂と相場は決まっている。わしが前もって沸かしておいた湯船に幽々子様は、とぷんと浸かられた。わしは外で薪をくべながら湯加減の調節をする。

「幽々子様、お湯加減はいかがでしょうかな?」
「ええ、最高。流石妖忌ね!」

 幽々子様はいかにも上機嫌そうに鼻歌交じりで返答された。どうやら今宵も幽々子様好みの絶妙な湯加減の調節に成功したようだ。これも一朝一夕で会得できるものではない。
 詳しくは言わぬが、長年の研究と経験の賜物だ。

 幽々子様が風呂を終えそうな頃には、わしは幽々子様の寝室へと向かう。無論、布団の準備だ。布団はほぼ毎日天日干ししてある。干すと干さないとでは、やはりふかふか度が違う。わしだってどうせ寝るならふかふかの布団がいいからのう。

 うむ。今宵の布団も思わず頬ずりしたくなるくらいふかふかである。きっと幽々子様も良い夢を見られるに違いない。果たして今宵はどんな食べ物の夢を見られるのか。

 寝床の準備が終わり、ようやくわしの一日は終了する。

 うむ、今日も素晴らしい一日だった。この達成感は何度味わっても心地の良いものだ。
 はて、何か忘れている気がするが……。まあよいか。

 ◆

 間もなくこの達成感も味わえなくなるのは寂しいものだが、世代交代は世の常。

 是非、妖夢の奴もこのわしの境地までたどり着いてほしいものだ。

 もちろん、自分のやり方を押しつけるつもりはない。それは時代錯誤の偏屈がやること。

 奴にも奴なりのやり方というのがあるはず。しかし、従者たるもののその根幹はいつの時代だろうと不変だ。
 
 果たして奴はそれに気づいてくれるだろうか。

 ……信じるしかあるまい。奴は曲がりなりにも我が孫、少なからずわしの血を引いているのだからな。

 さて、気がつけば、もう月も大分昇っているようだ。それではわしもこの辺で暫し床に入るとしよう。




 ……む?

 抜かった! 何か忘れていると思ったら、自分の布団を取り込むのを忘れてしまっていたではないか!

 仕方ない。今日は冷え布団で寝ることにしよう。

 まったく。どうやら、わしもまだまだ修行が足りぬようだな……なぁ? 妖夢よ
「……お言葉ですが、お師匠様。それは修行不足ではなく、どちらかというと痴呆というもので……あ、いえ、嘘です! 何でもありませんっ! 何でもありませんってばぁー!? いやぁあああああっ!!」
バームクーヘン
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コメント



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1.90奇声を発する程度の能力削除
良い一日のお話しでした
5.100終身削除
白玉楼での妖忌のお勤め風景から伝わってくる内面が予想以上に茶目っ気あり天然ボケありで面白かったです 童話に出てきそうな屋敷卵焼きとかこしらえるやらタピのおか談義で盛り上がるやらでちょっと可愛い感じもあって癒されました