ここは、“外”の世界から忘れられたモノたちが集う場所。
幻想の最後の果て。忘れられたモノたちが誰にも使われずに泣き出す所。モノたちの悲痛な声が響き渡る所……
そんな場所を私はカランコロンと歩いていた。とてもつまらない。空色の髪を揺らしながら、化け傘の私は誰も驚かすことは出来ずにこうやって無縁塚に立ち寄ることはしばしばある。
他のモノたちの悲痛なる声を聞いて落ち着かせるために。この声は前に早苗と来た時は聞こえないと言っていた。あの翠の髪をなびかせながら。逆光だった顔は笑っているようにも見えたし、泣いているようにも見えた。
人間には、付喪神以外の妖怪にはこの声は聞こえないんだろうな。
そんなことを思いながら幻想と化したモノたちは積み上げられている。私は憐れみしか向けることは出来ない。それが傲慢だとしても、私はそれをし続ける。
積み上げられたモノたちの隣で座る。少し疲れていたのかうとうとしてしまった。
ああ、わたしも忘れられるとこうなるんだろう……誰も見向きもされないまま朽ちていくのかな。夢に溺れた。
~*~*~
「小傘さーん? どこにいるんでしょう……」
小傘さんが神社に来なくなってから一週間経ちました。時々こういうことがあるから困る。くだらない話でもしようかと思ったら居ないのですもの。いつもこうして探し回ることになる。
博麗神社に行ってもいない。里に行っても見つからない。紅魔館……はありえないだろうけれども聞きに行く。確実にいないよね。
彼岸にも行ってみた。サボっている小町さんが迎えてくれたけれども死んでも付喪神は彼岸に来ないらしい。小町さん曰く、“妖怪に彼岸の居場所は無いのさ。忘れられれば消滅するだけ。その点外の忘れられた物はまだ幸せなんだろうよ”
……どういうことなのだろうか。私が分からずにいると小町さんは言葉を続ける。
“傘の付喪神なら無縁塚さ。私がサボ……見回りに行く時に時々見るよ”
サボりと言おうとしたな。しかし場所を教えてくれたのでお礼を言って彼岸から現世に向かった。
~*~*~
私は夢の微睡みから覚める。未来の夢だった。私が消える夢、早苗が死んでいつか誰にも見向きされなくて死ぬ……いいや消える夢。
ああ、夢は夢なのに。何を見ていたんだろうか。よっと、私は起き上がる。
あたりを見渡すと恨めしい声のモノたちは私に向けて感情を向けた。
“なぜお前は! 使われているのだ!”
“私は死にゆくだけです……”
“殺してやる。殺してやる……”
「……その恨みを誰かにぶつけるんじゃなくて持っていた持ち主にぶつけなよ。そしたらいつか付喪神になれるよ。おすすめはしないけどね」
恨みの気持ちは分かるが、私にはそのモノたちを壊すことでしか解放する術を知らない。壊してやってもいいのだけれど人間の恨みから私はこのモノたちが復讐出来ればいいな、とおもう。
ポツリ、ぽつりと雨が降り始める。私お得意の傘をさす。
気がつくと霧雨から豪雨に変わる。雨は好きだ。私の出番だから。
恨みの声は雨の音に紛れて消えた。
~*~*~
現世に戻ると雨が降っていた。しかもそれもキツイのが。
「ああ! もう! なんで晴れていたのに雨降ってるんですか!」
雨に濡れまいと高速で飛んだのが仇となった。さらに濡れる原因なのに頭が回っていなかった。
もう濡れたことに関しては考えないことにする。まずは小傘さんを探すことだけを考える。無縁塚。私はあまりそこには立ち寄らない。外に住んでいた時の物があるように思えて。懐かしいと思うことが嫌だったから。
十分もしないうちに無縁塚の上空に着く。あの独特の、傘を探す。
見つけた。あの傘、薄い茄子のような色の。急降下して私は話しかけた。
「小傘さん! どこに行ってたんですか!」
「……早苗? どうしたのそんなに慌てて」
ぽかんとしたような二色の瞳で私を見てきた。
「一週間どこに行ってたんですか! お話したかったのにいないんですから。いつも探し回ることになるんですよ」
「ああ、ごめんね? 時々一人になりたい時だってあるじゃない。そういう事。ていうか早苗、私の傘に入りなよ。もうずぶ濡れだけど少しでも濡れない方が良いでしょ?」
小傘さんはふわりと飛んで傘を差している。
「ありがとうございます。小傘さん、神社に来ませんか?」
「神様二人の相手はきついんだけどな。早苗がいるならいいかな」
にこにこと笑って答えてくれる。ザアザアと降っていた雨は徐々に強さを弱めている。
そんな雨の中一瞬だけ小傘さんは辺りを見回していた。
「どうしたんですか小傘さん」
「なんでもないよ。さ、行こう」
そんな何も無い様な顔で小傘さんは佇んでいた。
私は少しだけ、疑問に思ったけれども聞かないことにした。一人になりたい時だって誰にでもあるものだから。
~~~~~
「お前たちにはやらないよ。私の大切な人間を。」
幻想の最後の果て。忘れられたモノたちが誰にも使われずに泣き出す所。モノたちの悲痛な声が響き渡る所……
そんな場所を私はカランコロンと歩いていた。とてもつまらない。空色の髪を揺らしながら、化け傘の私は誰も驚かすことは出来ずにこうやって無縁塚に立ち寄ることはしばしばある。
他のモノたちの悲痛なる声を聞いて落ち着かせるために。この声は前に早苗と来た時は聞こえないと言っていた。あの翠の髪をなびかせながら。逆光だった顔は笑っているようにも見えたし、泣いているようにも見えた。
人間には、付喪神以外の妖怪にはこの声は聞こえないんだろうな。
そんなことを思いながら幻想と化したモノたちは積み上げられている。私は憐れみしか向けることは出来ない。それが傲慢だとしても、私はそれをし続ける。
積み上げられたモノたちの隣で座る。少し疲れていたのかうとうとしてしまった。
ああ、わたしも忘れられるとこうなるんだろう……誰も見向きもされないまま朽ちていくのかな。夢に溺れた。
~*~*~
「小傘さーん? どこにいるんでしょう……」
小傘さんが神社に来なくなってから一週間経ちました。時々こういうことがあるから困る。くだらない話でもしようかと思ったら居ないのですもの。いつもこうして探し回ることになる。
博麗神社に行ってもいない。里に行っても見つからない。紅魔館……はありえないだろうけれども聞きに行く。確実にいないよね。
彼岸にも行ってみた。サボっている小町さんが迎えてくれたけれども死んでも付喪神は彼岸に来ないらしい。小町さん曰く、“妖怪に彼岸の居場所は無いのさ。忘れられれば消滅するだけ。その点外の忘れられた物はまだ幸せなんだろうよ”
……どういうことなのだろうか。私が分からずにいると小町さんは言葉を続ける。
“傘の付喪神なら無縁塚さ。私がサボ……見回りに行く時に時々見るよ”
サボりと言おうとしたな。しかし場所を教えてくれたのでお礼を言って彼岸から現世に向かった。
~*~*~
私は夢の微睡みから覚める。未来の夢だった。私が消える夢、早苗が死んでいつか誰にも見向きされなくて死ぬ……いいや消える夢。
ああ、夢は夢なのに。何を見ていたんだろうか。よっと、私は起き上がる。
あたりを見渡すと恨めしい声のモノたちは私に向けて感情を向けた。
“なぜお前は! 使われているのだ!”
“私は死にゆくだけです……”
“殺してやる。殺してやる……”
「……その恨みを誰かにぶつけるんじゃなくて持っていた持ち主にぶつけなよ。そしたらいつか付喪神になれるよ。おすすめはしないけどね」
恨みの気持ちは分かるが、私にはそのモノたちを壊すことでしか解放する術を知らない。壊してやってもいいのだけれど人間の恨みから私はこのモノたちが復讐出来ればいいな、とおもう。
ポツリ、ぽつりと雨が降り始める。私お得意の傘をさす。
気がつくと霧雨から豪雨に変わる。雨は好きだ。私の出番だから。
恨みの声は雨の音に紛れて消えた。
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現世に戻ると雨が降っていた。しかもそれもキツイのが。
「ああ! もう! なんで晴れていたのに雨降ってるんですか!」
雨に濡れまいと高速で飛んだのが仇となった。さらに濡れる原因なのに頭が回っていなかった。
もう濡れたことに関しては考えないことにする。まずは小傘さんを探すことだけを考える。無縁塚。私はあまりそこには立ち寄らない。外に住んでいた時の物があるように思えて。懐かしいと思うことが嫌だったから。
十分もしないうちに無縁塚の上空に着く。あの独特の、傘を探す。
見つけた。あの傘、薄い茄子のような色の。急降下して私は話しかけた。
「小傘さん! どこに行ってたんですか!」
「……早苗? どうしたのそんなに慌てて」
ぽかんとしたような二色の瞳で私を見てきた。
「一週間どこに行ってたんですか! お話したかったのにいないんですから。いつも探し回ることになるんですよ」
「ああ、ごめんね? 時々一人になりたい時だってあるじゃない。そういう事。ていうか早苗、私の傘に入りなよ。もうずぶ濡れだけど少しでも濡れない方が良いでしょ?」
小傘さんはふわりと飛んで傘を差している。
「ありがとうございます。小傘さん、神社に来ませんか?」
「神様二人の相手はきついんだけどな。早苗がいるならいいかな」
にこにこと笑って答えてくれる。ザアザアと降っていた雨は徐々に強さを弱めている。
そんな雨の中一瞬だけ小傘さんは辺りを見回していた。
「どうしたんですか小傘さん」
「なんでもないよ。さ、行こう」
そんな何も無い様な顔で小傘さんは佇んでいた。
私は少しだけ、疑問に思ったけれども聞かないことにした。一人になりたい時だって誰にでもあるものだから。
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「お前たちにはやらないよ。私の大切な人間を。」
小傘には底抜けに明るいイメージしかなかったので
悲しみを帯びている小傘が新鮮でした
「逆光だった顔は笑っているようにも見えたし、泣いているようにも見えた」とても好きな言葉です。御馳走様でした