Coolier - 新生・東方創想話

霊夢と魔理沙がお茶をするまでのお話

2019/08/01 21:43:57
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 人里と呼ばれる集落は、幻想郷において、とても重要な役割を果たしている。今日もこの一帯は激しく賑わうこともなく、また過疎化している訳でもなく、近郊を保っていた。
「すみません!」
 水色の髪をした少女が八百屋に声を掛けた。黄緑色の髪をした少女も、奥を伺っている。奥から中年の女性が出てくる。
「あら、久しぶりねチルノちゃん。」
「スイカください!」
「あら、丸々一つかい? 二人で食べるのには少し大きすぎないかい?」
 女性が怪訝そうな顔をすると、黄緑色の髪をした少女が補足する。
「寺子屋の皆で食べるんですけど、私達じゃんけんに負けちゃって……」
「あら、罰ゲームってことかい? そういうことなら、心配はいらないね」
 にこやかな顔をして、チルノにスイカを渡す。受け取りながら、チルノは頬を膨らませた。
「大ちゃんがあの時、一緒にグーを出そうなんて言わなかったら、勝てたかもしれないのに」
「ち、チルノちゃん? グーを出そうって言ったのはチルノちゃんだよ?」
「あ、あたいの計算ではパーフェクト勝利だったんだよ!」
 言い争いとまでは言えない戯れを、女性は楽しそうに眺めていた。すると視界の端に何かが映る。山の方だ。よく見ると奥の方から煙が上がっている。
「あらやだ、火事かしら?」
「火事? 雷も鳴ってないのに?」
 チルノは不思議そうな顔を浮かべているが、大ちゃんこと、大妖精は何かに気づいたような表情をしていた。
「あっちって、博麗神社の方ですよね?」
「ん? あぁ……確かにそうだね」
 女性は頷く。すると、チルノも何かを察したのか、手を叩いて頷いた。
「きっとあの二人だよ!」
「そうだね。あの二人は仲がいいし、元気だから」
「よくわからないけど、山火事ではないんだね?」
 女性が確かめるかのように聞くと、二人は顔を見合わせながら、同時に頷いた。


   ***


 空に浮かんだ弾幕が急降下してくる。赤い巫女は、それを最低限の動きでさばききる。目の前にはレーザーが迫っていた。遠心力で体の軸を逸らして、直撃を免れる。
「嘘だろ!? 今のを避けるのかよ!」
 金髪の少女が声を荒げる。今のは確実に仕留めたと思っていた。いや、間合いは完璧だったはずだ。しかし、目の前の相手はそれを顔色を変えずに避けきった。自分は何もミスをしていない。完璧なはずだった。
「もうちょっとタイミングが速かったら当たってたかもね。詰めが甘いのよ、魔理沙は」
「畜生! 霊夢だって、少しくらい手加減してくれたっていいじゃないか!」
「ごめんなさいね。私、手を抜くのが本当に苦手なの」
 確かにこの巫女、霊夢は手加減が出来ない人間だ。挙句、強い。これまでいくつもの異変を解決してきたが、彼女は手心を加えず、真っ正面から相手を下してきた。魔女、半人半霊、妖怪、神……。その実力は折り紙つきで、とにかく人間離れしていることは確かだ。魔理沙は敗北感を誤魔化すように歯を出して笑う。
「知ってるか? 世の中笑ってる奴が一番強いんだぜ」
「ふーん。で、つまり何が言いたい訳?」
「仏頂面なお前に負けるはずがない!」
「いきなり失礼な奴ね」
 ため息を吐きながら、霊夢は言う。
「とりあえず、まずは私がコテンパンにしてやるぜ!」
 箒にまたがり、空中へと上がる。霊夢もそれに合わせるようにして、空中に浮いた。
 魔理沙がいきなり仕掛ける。
「魔符『スターダストレヴァリエ』!」
 星型の弾幕が空中に散らばり、霊夢を狙う。
 魔理沙の作戦はこうだ。スターダストレヴァイエで霊夢の気を引き、「儀符『オーレリーズサン』」で、自身の体の付近に弾幕を周回させる。弾幕の間合いを読まれるのを前提として霊夢の方へと突撃、彼女が攻撃を加える前に至近距離で隠し持った八卦炉から繰り出される「恋符『マスタースパーク』」を直撃させてフィニッシュ。まさに完璧だ。
 霊夢は魔理沙のスペルカードを避けている途中だ。作戦通りに、魔理沙は次のスペルカードを放つ。
「儀符『オーレリーズサン』!」
 弾幕が魔理沙の体の付近を回り続ける。そのまま霊夢へと突撃した。霊夢はこれを避けるか、隙を見て飛び出してくるしかない。魔理沙の読み通り、霊夢は隙を見てこちらへと接近してきた。これも作戦通りだ。
 魔理沙は隠し持っていた八卦炉を取り出した。
「恋符! マスター……」
 霊夢は笑みを浮かべていた。この状態で何故笑っていられるのか。ここで魔理沙はあることに気づいた。霊夢がさっきまで持っていたお祓い棒を持っていないことに。
 すると、不意に目の前にお祓い棒が降ってきた。途端のことでびっくりする魔理沙。集中力が途切れ、スペルカードを中断。その瞬間を、霊夢は見逃さない。
「しまっ……!?」
「妖器『無慈悲なお祓い棒』」
 お祓い棒が巨大化し、魔理沙に襲い掛かる。直撃し、地面へと落下した。
「痛たた……畜生! 負けた!」
 霊夢は魔理沙の作戦を見抜いた上で、お祓い棒を魔理沙の目の前にくるように計算して空中へと投げたのだ。そんなことを、どうやって見抜けばいいというのだ。
「世の中笑ってる人が一番強いんでしょ? 約束のお団子、きっちり奢ってもらうからね」
「今回は絶対勝てると思っていたのにぃ……!」
 必勝パターンには入っていたはずだった。対応できる霊夢がおかしいのだ。二度目にはなるが。
 涼しい顔をしながら、霊夢は着地する。魔理沙には目もくれず。神社の縁側の方へと向かっていった。
「そういえば、何で弾幕ごっこなんかしてたんだっけ? 運動しすぎて忘れちゃったわ」
 縁側に座ると、置いてあるせんべいを頬張りながら魔理沙に問い掛けた。魔理沙も縁側の方へと歩いて行く。
「最近異変がなくて暇だったから、私から弾幕ごっこを持ちかけたんだよ。それをお前はダシにして、どっちが人里の団子を奢るかを決めるって言いだしたんだろうが」
「あぁ、そうだったわね」
「団子のことはちゃっかり覚えてるあたり腹立つんだよな……」
 魔理沙は霊夢の隣に腰かけ、彼女を見た。華奢な体つきだ。女の自分でも、霊夢が美人だということがわかる。こんな少女が異変を解決しているのかと思うと、少し不思議な気持ちになる。
「才能があるお前が、ちょっと羨ましいぜ」
 ぽろっと出てしまった言葉。まずいことをしたと思い、魔理沙は自分の手で口を塞ぐ。恐る恐る霊夢の方を見る。怒っているかと思っていたが、霊夢は涼しげな顔をしていた。
「私にも、ない才能くらいあるわよ」
「どんな?」
 ついつい聞いてしまう。
「努力の才能よ。私努力しても、うまくいった試しがないのよ」
 涼しい顔で言うが、内心は複雑かもしれない。その証拠に、いつもなら綺麗に開いている目が、少し瞼で隠れていた。
「そこはあんたが羨ましいわ、魔理沙」
「私がか?」
「えぇ。努力出来るって素晴らしいことよ。そうでなくても、あんたは人間味に溢れている。だから友達が多いのよ」
「それは霊夢も同じだろ」
「え? どういうところが?」
「例えば、美味しいものを食べる時。そういう時って、すぐ顔に出るよな」
 お互いの顔を見て、笑い合う。いい友達だよな、とお互い思った。
「さて、人里に行ってお茶にしましょうか。お団子も奢って貰わないといけないし」
「お前がめついな……」
 少女たちは人里へと、飛び立った。
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コメント



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少し嫉妬している部分もあるんだろうけどお互いに認め合っていてストレートに思いの丈をぶつけ合えるような関係が若々しくてよかったと思います やり取りの切り返しも上手くて見てて爽快でした