小鈴 「あなたですか? うちで働きたいとおっしゃるのは」
永琳 「はい、ぜひ、お願いします。ここで雇ってください」
小鈴 「困るんですよね。簡単に入れると思ってもらうと。
うちが小さな貸本屋だと思ってナメているんじゃないですか?」
永琳 「いえ、そんなことはありません」
小鈴 「わかりました。では、面接を始めます。履歴書は?」
永琳 「こちらです」
小鈴 「えーっと八意永琳さん。年齢は秘密。……こういうところは
ちゃんと書いた方がいいですよ」
永琳 「すいません」
小鈴 「えーと、それで、八意さん……」
永琳 「あの、よろしければ名前で呼んでいただけませんか?
あまり名字で呼ばれることに慣れていなくて」
小鈴 「わかりました。永琳さん。では、私のことも小鈴とお呼びください」
永琳 「はい、小鈴さんですね」
小鈴 「それで、今は何をしているんですか?」
永琳 「今は……無職です」
小鈴 「あーフラフラしているわけですね。何故、定職に就かないんですか?」
永琳 「何というか、自分探しと言いますか……」
小鈴 「自分探しねぇー。最近はそうやってかっこうつけている人がいますけど、
要は根性がないというだけの話なんじゃないですか?」
永琳 「申し訳ありません」
小鈴 「で、まあ学校は出ているわけですね」
永琳 「はい、まあ、一応」
小鈴 「でもね、永琳さん。ここでは学歴だけではやっていけませんよ。
学校や寺子屋に通っていなくてもできる人はできるし、それらに
通っていてもダメな人はダメですから。要は忍耐力の問題なんです」
永琳 「なるほど」
小鈴 「それで、えーっと過去にやってきたことは、
月に行って都を創設したと……月で都を創設ゥ!」
永琳 「はい、一応、創設しました」
小鈴 「ええっ! すごい人じゃないですか。というか月に都って
私、全然、話についていけないんですけど」
永琳 「地上には穢れというものがあって、それのせいで地上の生き物は寿命が
短くなってしまうんです。
でも、月には穢れがないのでそこに移り住めば寿命が
ものすごく長くなるんですよ」
小鈴 「なるほど。だから月に都を創ったわけですね。
もう、英雄じゃないですか」
永琳 「まあ、英雄というか賢人とか月の頭脳って呼ばれることがあって
そこそこの地位に就いていました」
小鈴 「何故、うちに来たんですか? いや、それよりどうしてそんなすごい
地位を捨てちゃったんですか?」
永琳 「これで穢れのない世界で生きていけるぞってみんなが喜んでくれたのを
見て、ああ、創ってよかったなと思ったんですけど、それと同時に
なんかちょっと違うなと思って……」
小鈴 「違くないよ! そんなでっかいことがしたいと思っている人が
たくさんいるんですよ。どうしてそのタイミングで違うなって
思っちゃうんですか?」
永琳 「そう言われましても……」
小鈴 「こんなことしている場合じゃありませんよ。
どうにかして戻れないんですか?
もし、あなたから言いづらいのであれば私が掛け合いますよ」
永琳 「誰かお知り合いの方が月にいるんですか?」
小鈴 「……」
永琳 「あの、小鈴さん?」
小鈴 「と、 とにかく一刻も早く戻った方がいいですよ」
永琳 「いえ、私に戻る気はありません。お願いします。ここで雇ってください」
小鈴 「止めた方がいいですよ。こんなの誰にでもできる仕事なんですから」
永琳 「待ってください。そんな言い方しないでください。私が生まれて初めて
やりたいと思った仕事なんですから」
小鈴 「そう言っていただけるのはありがたいですけど……。
え? ちょっと待って今の発言。貸本屋が人生で初めてやりたいと思った仕事なの?」
永琳 「はい!」
小鈴 「ということは、永琳さんは月の都を創るっていうときは
やりたいって思っていなかったってこと?
それなのに創れちゃったってこと?」
永琳 「まあ、生活するためには働かなくちゃいけなかったんで」
小鈴 「えぇ……何なんですかあなたは。今更かもしれませんが新天地で都の
創設なんて単なる食いぶちとしてやるような仕事じゃありませんよ」
永琳 「はぁ……」
小鈴 「こんなの夢1位じゃないですか。それをあなたは……
うわぁ、カネねぇ。そうだ新天地で都でも創設しようって、
何なんですかその感覚は」
永琳 「そうは言いますけど、もうとっくの昔のことですから。
それに、月の都創設の経験なんてここではきっと役に立ちません」
小鈴 「まあ……そうかもしれません……そうですよ。いくら月で都を
創設していても貸本屋じゃあ、そんな経験は役に立ちません。
調子にのらないでください!」
永琳 「はい! すいませんでした」
小鈴 「それで、月の都を創設した後は不老不死になって
地上で逃避行……不老不死ィ!
ふ、不老不死って煮ても焼いても死なないあの……」
永琳 「詳しく言うと蓬莱人って言うんですけど」
小鈴 「そんなのどっちでもいいよ。どのみちすごい人だもん。
でも、どうして蓬莱人とか、逃避行とか、
そんな風になっちゃったんですか?」
永琳 「あの、月にいたときに私が慕っている人がどうしても地上で暮らしたいと
言ったんです。でも、周りの人が許してくれなくて」
小鈴 「まあ、地上で暮らせば短命になるわけですから当然ですよね」
永琳 「それで、どうにかしてくれと頼まれまして。
気が進まなかったんですけど月では禁忌とされる蓬莱人になれる薬を
作ってその人に飲ませたんです」
小鈴 「あーもうあなたは不老不死の薬まで作れちゃうんですね」
永琳 「そのあと、その人は罰として地上に流刑されたんですけど、
すごく満足そうな顔をしていてそれを見ていたら
褒められたやり方じゃないけどうれしそうでなによりだなと思いつつ……
なんかちょっと違うなと」
小鈴 「違くない! 違くないんですよ。確かに禁忌を侵させることに
携わったのはよくないですけど、大切な人に幸せになってもらえるようなとをするのは、
素晴らしいことなんですよ。
それをあなたはなんで違うなって思っちゃうんですか?」
永琳 「何といいますか、求めてるものじゃないといいますか、
これじゃない感がありまして」
小鈴 「どういう感性をしているんですか、あなたは。
それにこんなの1位ですよ。ロマンチック1位。やろうと思っても
なかなかできるものじゃありませんよ」
永琳 「まあ、いいじゃないですか。昔の話なんですから」
小鈴 「そうかもしれないですけど……」
永琳 「それで、先ほど話した人の流刑の期間が終わりまして、その人を
迎えに行くことになったんです」
小鈴 「でも、その人は地上で暮らしたいんでしょ? ああ、わかりました。
地上に残すためにあなたが月を裏切ったということですね」
永琳 「いや、何といいますか結果的にはそうなったと言いますか……」
小鈴 「どうしたんですか? 歯切れが悪いじゃないですか」
永琳 「地上に行くまでは月に戻そうとしていたんです」
小鈴 「えっ? ああそうか。その人が地上に行ったときになんか違うなって
思っていたんですもんね」
永琳 「それで、その人を見つけて月に帰るぞってなったんですけど、
それと同時になんか違うなと思って」
小鈴 「え? 何? そんな理由で裏切り者になったの? 後ろめたさとか
そういうのじゃないんですか?」
永琳 「そうですね。まあ、向こうは自分のために月を裏切ってくれたと
思っているみたいなんですけど」
小鈴 「かわいそう! その人が不憫すぎますよ。
じゃあ、裏切り者として地上で生きていくことに関して
不安とかそういうものはなかったんですか?」
永琳 「まあ、地上に来た時に蓬莱の薬を飲んで寿命の問題は解決していたし、
なるようになるかなって」
小鈴 「山とか、谷とか関係なしですーごい人生をフラットに見ているんですね。
それで、幻想郷に来て医者と薬師を両立していたと……」
永琳 「はい」
小鈴 「永琳さん、聞いてください。おかげでこのぐらいじゃ
驚かなくなってきましたよ。でも、一応聞いておきます。
どうして辞めたんですか?」
永琳 「はい、人間、妖怪関わらず薬を処方したり、手術をしていたら
みんなから感謝されるようになって、ああいいことしてよかったなと
思ったのと同時に……やっぱなんか違うなって」
小鈴 「違うなと思っちゃうんですよね。もうしょうがないですもんね。
そう思っちゃったら辞めますもん。あなたは。
本当は違うんですよ。ど真ん中。医者も薬師も
それがピークなんですからね。
私だったらその充実感に満たされて一生その仕事をします。
それをあなたは辞めてしまう。でも、しょうがないですよね。
思っちゃうんだもん。なんか違うなって。それで?」
永琳 「今に至ります」
小鈴 「なるほど、才能ですね。才能の塊を超えてもう才能。
あなた自体が才能という概念そのものです」
永琳 「お願いします。私をここで雇ってください」
小鈴 「いやです。絶対」
永琳 「何でですか? 何をやっても続かない自分に嫌気がさしているんです」
小鈴 「そんな風に思う必要は全然ありませんよ」
永琳 「誇れる自分になりたいんです」
小鈴 「誇れ! この経歴で誇れなかったら誰が誇れるんですか」
永琳 「お願いします。私をここで雇ってください」
小鈴 「嫌ですよ。や~だ。不採用」
永琳 「どうしてですか? やっぱりフラフラしていた自分探しの期間が
長かったから……」
小鈴 「違うよ! 問題なし。逸材。100点。
ただ、あなたみたいな人に入られたら恐縮しちゃいますよ。
そんな人に入られたらビクビクして仕事になりませんよ」
永琳 「そんなんじゃ納得できません。小鈴さん、お願いします。
私をここで雇ってください」
小鈴 「いいですか永琳さん。大体、あなたはこんな
仕事をしちゃいけない人なんですよ。もっと大空に飛び立つべきです」
永琳 「私にとってはここが大空なんです」
小鈴 「違うよ。こんなところダメ人間の掃きだめだよ」
永琳 「そんなこと言わないでください」
小鈴 「言うよ。だってここ人里の貸本屋なのに妖魔本ばっかり置いてあって
普通の人間は読めないから誰も借りて行ってくれないもん。
おかげでうちは借金でかつかつ。もうほっといてくださいよ」
永琳 「お願いします。私を雇ってください」
小鈴 「やだ」
永琳 「お願いします」
小鈴 「や~だ」
永琳 「お願いします」
小鈴 「帰って」
永琳 「お願いします」
小鈴 「お願い。そっとしておいて」
永琳 「小鈴さん、お願いします。私をここで雇ってください」
小鈴 「やだ。帰れ、帰れ、帰れ、永琳帰れ」
永琳 「お願いします。小鈴さん。お願いします」
小鈴 「ちょっやめてください。足に縋りつかないでください。
やばい、なんかこの姿を見られたら殺されそうな気がする」
永琳 「小鈴さん、お願いします」
小鈴 「永琳さん、永琳さんやめてください。
なんで? なんでそんなに本を貸したいの?
全然わからないんですけど」
永琳 「お願いします。私をここで雇ってください
もう、ここで働くこと以外、考えられないんです」
小鈴 「……わかりました。あなたを採用します」
永琳 「本当ですか! ありがとうございます」
小鈴 「ええ、ただし、もう私が辞めます。さようなら!」
永琳 「小鈴さーん!
……やっと生きがいを見つけられたと思ったのに……」
永琳 「はい、ぜひ、お願いします。ここで雇ってください」
小鈴 「困るんですよね。簡単に入れると思ってもらうと。
うちが小さな貸本屋だと思ってナメているんじゃないですか?」
永琳 「いえ、そんなことはありません」
小鈴 「わかりました。では、面接を始めます。履歴書は?」
永琳 「こちらです」
小鈴 「えーっと八意永琳さん。年齢は秘密。……こういうところは
ちゃんと書いた方がいいですよ」
永琳 「すいません」
小鈴 「えーと、それで、八意さん……」
永琳 「あの、よろしければ名前で呼んでいただけませんか?
あまり名字で呼ばれることに慣れていなくて」
小鈴 「わかりました。永琳さん。では、私のことも小鈴とお呼びください」
永琳 「はい、小鈴さんですね」
小鈴 「それで、今は何をしているんですか?」
永琳 「今は……無職です」
小鈴 「あーフラフラしているわけですね。何故、定職に就かないんですか?」
永琳 「何というか、自分探しと言いますか……」
小鈴 「自分探しねぇー。最近はそうやってかっこうつけている人がいますけど、
要は根性がないというだけの話なんじゃないですか?」
永琳 「申し訳ありません」
小鈴 「で、まあ学校は出ているわけですね」
永琳 「はい、まあ、一応」
小鈴 「でもね、永琳さん。ここでは学歴だけではやっていけませんよ。
学校や寺子屋に通っていなくてもできる人はできるし、それらに
通っていてもダメな人はダメですから。要は忍耐力の問題なんです」
永琳 「なるほど」
小鈴 「それで、えーっと過去にやってきたことは、
月に行って都を創設したと……月で都を創設ゥ!」
永琳 「はい、一応、創設しました」
小鈴 「ええっ! すごい人じゃないですか。というか月に都って
私、全然、話についていけないんですけど」
永琳 「地上には穢れというものがあって、それのせいで地上の生き物は寿命が
短くなってしまうんです。
でも、月には穢れがないのでそこに移り住めば寿命が
ものすごく長くなるんですよ」
小鈴 「なるほど。だから月に都を創ったわけですね。
もう、英雄じゃないですか」
永琳 「まあ、英雄というか賢人とか月の頭脳って呼ばれることがあって
そこそこの地位に就いていました」
小鈴 「何故、うちに来たんですか? いや、それよりどうしてそんなすごい
地位を捨てちゃったんですか?」
永琳 「これで穢れのない世界で生きていけるぞってみんなが喜んでくれたのを
見て、ああ、創ってよかったなと思ったんですけど、それと同時に
なんかちょっと違うなと思って……」
小鈴 「違くないよ! そんなでっかいことがしたいと思っている人が
たくさんいるんですよ。どうしてそのタイミングで違うなって
思っちゃうんですか?」
永琳 「そう言われましても……」
小鈴 「こんなことしている場合じゃありませんよ。
どうにかして戻れないんですか?
もし、あなたから言いづらいのであれば私が掛け合いますよ」
永琳 「誰かお知り合いの方が月にいるんですか?」
小鈴 「……」
永琳 「あの、小鈴さん?」
小鈴 「と、 とにかく一刻も早く戻った方がいいですよ」
永琳 「いえ、私に戻る気はありません。お願いします。ここで雇ってください」
小鈴 「止めた方がいいですよ。こんなの誰にでもできる仕事なんですから」
永琳 「待ってください。そんな言い方しないでください。私が生まれて初めて
やりたいと思った仕事なんですから」
小鈴 「そう言っていただけるのはありがたいですけど……。
え? ちょっと待って今の発言。貸本屋が人生で初めてやりたいと思った仕事なの?」
永琳 「はい!」
小鈴 「ということは、永琳さんは月の都を創るっていうときは
やりたいって思っていなかったってこと?
それなのに創れちゃったってこと?」
永琳 「まあ、生活するためには働かなくちゃいけなかったんで」
小鈴 「えぇ……何なんですかあなたは。今更かもしれませんが新天地で都の
創設なんて単なる食いぶちとしてやるような仕事じゃありませんよ」
永琳 「はぁ……」
小鈴 「こんなの夢1位じゃないですか。それをあなたは……
うわぁ、カネねぇ。そうだ新天地で都でも創設しようって、
何なんですかその感覚は」
永琳 「そうは言いますけど、もうとっくの昔のことですから。
それに、月の都創設の経験なんてここではきっと役に立ちません」
小鈴 「まあ……そうかもしれません……そうですよ。いくら月で都を
創設していても貸本屋じゃあ、そんな経験は役に立ちません。
調子にのらないでください!」
永琳 「はい! すいませんでした」
小鈴 「それで、月の都を創設した後は不老不死になって
地上で逃避行……不老不死ィ!
ふ、不老不死って煮ても焼いても死なないあの……」
永琳 「詳しく言うと蓬莱人って言うんですけど」
小鈴 「そんなのどっちでもいいよ。どのみちすごい人だもん。
でも、どうして蓬莱人とか、逃避行とか、
そんな風になっちゃったんですか?」
永琳 「あの、月にいたときに私が慕っている人がどうしても地上で暮らしたいと
言ったんです。でも、周りの人が許してくれなくて」
小鈴 「まあ、地上で暮らせば短命になるわけですから当然ですよね」
永琳 「それで、どうにかしてくれと頼まれまして。
気が進まなかったんですけど月では禁忌とされる蓬莱人になれる薬を
作ってその人に飲ませたんです」
小鈴 「あーもうあなたは不老不死の薬まで作れちゃうんですね」
永琳 「そのあと、その人は罰として地上に流刑されたんですけど、
すごく満足そうな顔をしていてそれを見ていたら
褒められたやり方じゃないけどうれしそうでなによりだなと思いつつ……
なんかちょっと違うなと」
小鈴 「違くない! 違くないんですよ。確かに禁忌を侵させることに
携わったのはよくないですけど、大切な人に幸せになってもらえるようなとをするのは、
素晴らしいことなんですよ。
それをあなたはなんで違うなって思っちゃうんですか?」
永琳 「何といいますか、求めてるものじゃないといいますか、
これじゃない感がありまして」
小鈴 「どういう感性をしているんですか、あなたは。
それにこんなの1位ですよ。ロマンチック1位。やろうと思っても
なかなかできるものじゃありませんよ」
永琳 「まあ、いいじゃないですか。昔の話なんですから」
小鈴 「そうかもしれないですけど……」
永琳 「それで、先ほど話した人の流刑の期間が終わりまして、その人を
迎えに行くことになったんです」
小鈴 「でも、その人は地上で暮らしたいんでしょ? ああ、わかりました。
地上に残すためにあなたが月を裏切ったということですね」
永琳 「いや、何といいますか結果的にはそうなったと言いますか……」
小鈴 「どうしたんですか? 歯切れが悪いじゃないですか」
永琳 「地上に行くまでは月に戻そうとしていたんです」
小鈴 「えっ? ああそうか。その人が地上に行ったときになんか違うなって
思っていたんですもんね」
永琳 「それで、その人を見つけて月に帰るぞってなったんですけど、
それと同時になんか違うなと思って」
小鈴 「え? 何? そんな理由で裏切り者になったの? 後ろめたさとか
そういうのじゃないんですか?」
永琳 「そうですね。まあ、向こうは自分のために月を裏切ってくれたと
思っているみたいなんですけど」
小鈴 「かわいそう! その人が不憫すぎますよ。
じゃあ、裏切り者として地上で生きていくことに関して
不安とかそういうものはなかったんですか?」
永琳 「まあ、地上に来た時に蓬莱の薬を飲んで寿命の問題は解決していたし、
なるようになるかなって」
小鈴 「山とか、谷とか関係なしですーごい人生をフラットに見ているんですね。
それで、幻想郷に来て医者と薬師を両立していたと……」
永琳 「はい」
小鈴 「永琳さん、聞いてください。おかげでこのぐらいじゃ
驚かなくなってきましたよ。でも、一応聞いておきます。
どうして辞めたんですか?」
永琳 「はい、人間、妖怪関わらず薬を処方したり、手術をしていたら
みんなから感謝されるようになって、ああいいことしてよかったなと
思ったのと同時に……やっぱなんか違うなって」
小鈴 「違うなと思っちゃうんですよね。もうしょうがないですもんね。
そう思っちゃったら辞めますもん。あなたは。
本当は違うんですよ。ど真ん中。医者も薬師も
それがピークなんですからね。
私だったらその充実感に満たされて一生その仕事をします。
それをあなたは辞めてしまう。でも、しょうがないですよね。
思っちゃうんだもん。なんか違うなって。それで?」
永琳 「今に至ります」
小鈴 「なるほど、才能ですね。才能の塊を超えてもう才能。
あなた自体が才能という概念そのものです」
永琳 「お願いします。私をここで雇ってください」
小鈴 「いやです。絶対」
永琳 「何でですか? 何をやっても続かない自分に嫌気がさしているんです」
小鈴 「そんな風に思う必要は全然ありませんよ」
永琳 「誇れる自分になりたいんです」
小鈴 「誇れ! この経歴で誇れなかったら誰が誇れるんですか」
永琳 「お願いします。私をここで雇ってください」
小鈴 「嫌ですよ。や~だ。不採用」
永琳 「どうしてですか? やっぱりフラフラしていた自分探しの期間が
長かったから……」
小鈴 「違うよ! 問題なし。逸材。100点。
ただ、あなたみたいな人に入られたら恐縮しちゃいますよ。
そんな人に入られたらビクビクして仕事になりませんよ」
永琳 「そんなんじゃ納得できません。小鈴さん、お願いします。
私をここで雇ってください」
小鈴 「いいですか永琳さん。大体、あなたはこんな
仕事をしちゃいけない人なんですよ。もっと大空に飛び立つべきです」
永琳 「私にとってはここが大空なんです」
小鈴 「違うよ。こんなところダメ人間の掃きだめだよ」
永琳 「そんなこと言わないでください」
小鈴 「言うよ。だってここ人里の貸本屋なのに妖魔本ばっかり置いてあって
普通の人間は読めないから誰も借りて行ってくれないもん。
おかげでうちは借金でかつかつ。もうほっといてくださいよ」
永琳 「お願いします。私を雇ってください」
小鈴 「やだ」
永琳 「お願いします」
小鈴 「や~だ」
永琳 「お願いします」
小鈴 「帰って」
永琳 「お願いします」
小鈴 「お願い。そっとしておいて」
永琳 「小鈴さん、お願いします。私をここで雇ってください」
小鈴 「やだ。帰れ、帰れ、帰れ、永琳帰れ」
永琳 「お願いします。小鈴さん。お願いします」
小鈴 「ちょっやめてください。足に縋りつかないでください。
やばい、なんかこの姿を見られたら殺されそうな気がする」
永琳 「小鈴さん、お願いします」
小鈴 「永琳さん、永琳さんやめてください。
なんで? なんでそんなに本を貸したいの?
全然わからないんですけど」
永琳 「お願いします。私をここで雇ってください
もう、ここで働くこと以外、考えられないんです」
小鈴 「……わかりました。あなたを採用します」
永琳 「本当ですか! ありがとうございます」
小鈴 「ええ、ただし、もう私が辞めます。さようなら!」
永琳 「小鈴さーん!
……やっと生きがいを見つけられたと思ったのに……」